一般社団法人 日本経済団体連合会
【総合経済対策】
〔総合経済対策の閣議決定前に、マーケット関連指標が不安定な動きをみせたことへの評価や、同対策の策定に向けて、経済財政諮問会議等でどのような意見発信を行ったのかを問われ、〕最近のマーケットの動きには、今後の財政運営等に対する思惑が確かにあったと思われるが、この数日間は落ち着きをみせていると捉えている。今般の総合経済対策は、高市政権として、物価高対策を最優先とし、「危機管理投資」「成長投資」を迅速に推進するという強い意気込みを示すものと受け止めている。景気の下振れリスク回避や米国の関税措置対応、物価高対策の観点から、補正予算の迅速な成立と執行が望まれる。
同時に、高市総理の掲げておられる「責任ある積極財政」という考え方に基づき、中長期の観点から財政の持続可能性を確保し、市場の信認を維持することを重視している。市場を意識した財政健全化に向けた継続的な発信が重要である。この点について、今年度の国債発行額は、補正後でも昨年度を下回る見込みであることを考えると、配慮がなされたものと認識している。今後、経済財政諮問会議では、骨太方針の策定を見据えて、中長期での財政健全化に向けた目標設定のあり方についても議論が行われると思うが、私は、市場の信認の維持を基盤に置いて、意見を述べていきたい。
【税制改正】
〔年末に向けて本格化する税制改正の議論に向けて、期待する視点や、経団連として特に重視する改正項目について問われ、〕高市政権の掲げる「危機管理投資」「成長投資」の推進を通じて、「強い経済」を実現するという観点から議論が行われることを期待する。
租税特別措置の見直しに際し、文字通り「特別措置」であるためメリハリ付けが必要であるとともに、国際的な観点から競争力を有することのできる税制であることの双方が重要である。その上で、個別の措置について、申しあげる。研究開発税制は、経団連の提唱する「科学技術立国」を実現する上で不可欠であり、立地競争力、研究開発投資の促進、そして予見可能性の向上の観点から、諸外国に劣後しない制度とすべきである。また、設備投資に係る減税措置についても、今後の成長に向けて、予見可能性向上の観点から、税額控除や即時償却といった措置を講じることが重要である。さらに、賃上げ促進税制について、経団連は賃金引上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」に向けて取り組んでいる中、当該税制措置は、特に中小企業や赤字企業が賃金引上げに係る原資を安定的に確保する上で重要である。
【日中関係】
〔G20において、高市総理が中国側と接触がなかったことの評価や、今後の日中関係に関する政府への期待を問われ、〕日中関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の1つであり、経済・ビジネスの相互交流にとって、政治の安定は不可欠である。これまで日中首脳間では、「戦略的互恵関係」の包括的推進と、建設的かつ安定的な関係の構築という大きな方向性が確認されている。こうした大きな方向性の下、政府には、あらゆるレベル・分野で意思疎通をより一層強化し、双方の努力によって課題と懸案の解決に取り組むことを期待する。今後首脳間だけではなく、各層、各分野で交流が行われることを通じて、理解が醸成され、協力が行われるという二国間関係の構築が望まれる。
【外国為替市場】
〔高市政権発足後の日本円の為替相場に対する見方を問われ、〕足もとにかけての為替相場の動きは、今後の財政運営や、日本銀行や海外の中央銀行の金融政策に対するマーケットの思惑の表れと捉えている。為替は、円高、円安それぞれについて、経済全体、国民の生活に対して、プラス・マイナス両面での影響があると思われるが、為替の安定化が何より重要である。先週は一時1ドル=157円台に振れたが、総合経済対策の規模が「見える化」されたことで、為替相場は若干落ち着いてきていると考えている。中長期の財政健全化に対する市場の信認を維持すべく、継続的な発信が必要である。
〔政府による為替介入の是非について問われ、〕基本的には、為替相場は経済のファンダメンタルズで動くものであるが、現実には投機筋の動きによる短期的な変動もある。一般論から言えば、為替介入は、非常に短期間に急激な変動が起こった場合の、いわゆる「差し水」的な側面もあるが、今後の為替の推移を見極めながら、政府が適切に判断を行っていくものと考えている。いずれにしても、円安基調自体は、根本的に是正していかなければならない。政府には、市場の信認の維持とともに、わが国経済のファンダメンタルズのさらなる強化に資する政策を期待したい。換言すれば、潜在成長力をしっかりと引き上げるべく、「危機管理投資」「成長投資」を実現していくことが重要である。その上で、中長期での財政健全化の取組みを継続し、市場の信認を確保していくことが求められる。日本銀行には、2%程度の物価安定目標の持続的な実現に向けて、適切な金融政策を期待する。
【柏崎刈羽原子力発電所の再稼働】
〔柏崎刈羽原子力発電所に関し、花角新潟県知事が再稼働を容認したことへの所感を問われ、〕花角新潟県知事が再稼働を容認すると判断されたことを大いに歓迎する。今回の判断は、知事自ら、県民や地元・立地首長の方々の意見を丁寧にくみ取りながら、東京電力や政府に対して同発電所の安全性確保を追求するなど、長期にわたって丁寧に検討を重ねられてきた結果であり敬意を表する。また、首都圏の各産業、住民への電力供給に、大いに貢献されてきた新潟県の皆様にも感謝を申しあげたい。
国には、花角新潟県知事が「確認する」とされた通り、避難道路の整備といった防災対策を速やかに進める等、脱炭素電源である原子力の最大限の活用に向けて、前面に立って取り組んでいただきたい。併せて、東京電力には、原子力発電所の安全対策に万全を期すとともに、安全確保に向けた活動をより一層分かりやすく発信すること等を通じ、県民理解の醸成にさらに注力していただきたい。(12月2日から開始する)新潟県議会においても、知事の判断に至ったこれまでの経緯や議論を踏まえつつ、再稼働に向けた前向きな議論が行われることを期待する。
経団連としても、引き続き、DX(デジタルトランスフォーメーション)や、GX(グリーントランスフォーメーション)の推進が求められている中で、原子力の必要性が高まっていることを発信するとともに原子力の安全性について訴求していきたい。また、新潟経済界の交流・連携を進め、地域経済の振興に貢献したい。
〔9月の女川原子力発電所の視察に続き、12月1日に柏崎刈羽原子力発電所を視察するのは、東日本における原子力発電所の再稼働の遅れに対する問題意識を背景にしているのかを問われ、〕ご指摘の通りである。昨年11月には、柏崎刈羽原子力発電所の7号機を視察し、特に安全確保の状況を確認した。今回技術的な準備が整ったというタイミングを捉えて、6号機を視察予定である。視察を通じて、福島第一原子力発電所の教訓を踏まえたハード面の安全対策の状況を確認したい。加えて、発電所内のコミュニケーションの状況はもちろんのこと、緊急事態に対する所員の対応力といったソフト面の対応状況についても自分の目で確認させていただきたい。
【内部留保】
〔日本成長戦略会議では「企業貯蓄率」に対する指摘もみられた中、企業の内部留保の蓄積に対する見解を問われ、〕企業が長きにわたり投資を行わないことの背景として、内部留保の過度な蓄積が指摘されてきた。確かにデフレ下の約30年間は、コストカット志向で、賃金引上げよりも雇用維持に重点を置いた経営が行われてきたことは事実である。近日中に、コーポレートガバナンス改革に向けた提言を公表予定であるが、企業経営者の最大のミッションは、ヒト・モノ・カネといった資源をいかに配分していくかということである。資源配分先としては、設備投資、研究開発投資、人的投資、新規分野への投資もある。また、いわゆる配当の充実、自社株買いといった株主への還元、さらに、内部留保に対する配分もあろう。
企業は内部留保を過度に蓄積しているといわれているが、内部留保自体は、企業が直面するリスクのバッファーとして一定の意義がある。さまざまな面での社会貢献や寄附活動を含めたマルチステークホルダーに対する資源配分機能を、経営者自身が自律的に展開していくことが重要と考えている。内部留保自体は、海外と比較して、相対的に多いという事実はあるが、経団連としては、どのように投資に振り向けていくのかという点について、今後コーポレートガバナンス改革に関する提言等を通じて、呼びかけていきたい。
〔働き手に対する還元のあり方について問われ、〕賃金引上げや総合的な処遇改善は、「人への投資」と位置付けなければならない。これは、人件費をコストではなく、将来の生産性の改善・向上に向けた投資として捉え、働き手の働きがいの向上、働き手自身の成長促進・価値向上にも資する投資と位置付けることを意味する。こうした認識の下、今後「2026年版経労委報告」でも、賃金引上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」を目指すという経団連の決意を書き込み、「人への投資」の積極的な実施を企業に呼びかけていきたい。
【政労使の意見交換】
本日高市政権の下で初めて開催される政労使の意見交換への意気込みを問われ、〕テーマは「2026年春季労使交渉」である。経団連は社会的責務として、賃金引き上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」に向けた強い思いを持って取り組んでいく決意を表明したい。その際、特にベースアップ実施の検討を「賃金交渉のスタンダード」と位置付けることに焦点を当てて、今後呼びかけていく所存である。また、経営者のマインドセット自体を、設備投資、研究開発投資、そして人的投資の拡充という「投資推進型」へと変革することを述べた上で、特に人的投資として、賃金引上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」に向けて、経団連が先導役を果たすことを表明したい。
高市総理は就任以降、「継続的に賃上げできる環境を整えることこそが政府の役割」と繰り返し述べておられる。本日は、政府による環境整備への期待とともに、経団連としても当事者としてしっかりと取り組んでいくという決意を述べたい。
【日本生命出向者による不適切な手段での情報取得事案】
日本生命出向者による不適切な手段での情報取得事案に関する総括を問われ、〕顧客の皆様のみならず、社会、金融機関、そして経団連会長として会員企業にも多大なご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申しあげなければならない。問題の原因として、出向者を通じて金融機関との関係強化をミッションとする中で、情報収集の重要性についても期待したことが挙げられる。その期待が、結果として、担当者レベルでは、不適切な形での情報取得というバイアスを形成してしまった。これは決して担当者らの責任ではない。そうした出向者のミッションに対する期待が、不適切な情報取得につながる風土を醸成してしまったことに原因があると認識している。
〔当初は関係役員の処分の詳細を開示しなかったことへの見解を問われ、〕先日、開示に踏み切らなかったのは、当該事案が法律に抵触する危惧はなく、重大な刑事事案でもなく、かつ全社ガバナンスの根底からの再構築を要するものではないと判断したためである。しかし、当該事案が社会的に広く影響を及ぼしたことは事実であり、社会やステークホルダーの皆様からの声を踏まえ、早急に再検討した結果、本日担当役員の処分の詳細を開示するに至った。
〔当初、関係役員の処分の詳細を開示しないこととして挙げた理由に関して、市場の信認を得られているかを問われ、〕市場の信認という言葉が妥当か否かをこの場で即座に判断することはできないが、いずれにしても、社会の皆様から日本生命に対する信頼感が大きく毀損されたことは事実である。この点に対する反省、再発防止に向けての努力を行い、さらに全体的な信頼回復を果たしていかなければならないと考えている。こうした認識の下、当該事案を重く受け止めて、私の報酬の一部の自主返納を含めた関係役員の処分という選択肢を採るに至った。