Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  公正取引委員会審判制度の早期廃止を再び求める

2011年10月18日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

経済のグローバル化の進展に伴い、国境を越えた企業間の競争が激化し、各国競争当局は、制度間の国際的整合性の確保や、世界市場を視野に入れた競争政策の運用に努めている。そうした流れの中で、我が国独禁法も改正が重ねられ、課徴金制度の適用対象の拡大や算定率の引き上げによる課徴金額の増額等が行われたほか、課徴金減免制度の導入により公正取引委員会(以下、公取委とする。)による違反事実の探知も大幅に強化されている。しかし一方で、公正取引委員会の執行力強化に見合った適正手続を被調査者に保障するための法整備が一向に進んでいない。特に、公正取引委員会による審判制度の廃止については、経団連も「独占禁止法の抜本改正に向けた提言 -審査・不服申立ての国際的イコールフッティングの実現を-」(2007年11月20日)、「公正取引委員会による審判制度の廃止及び審査手続の適正化に向けて」(2009年10月20日)の提言等で繰り返し求めてきた。その結果、ようやく昨年3月に審判制度の廃止を主眼とする独禁法改正法案が国会に提出されたが、審議されないまま現在に至っている。

そこで、改めて、審判制度の廃止に係る改正法案を来る臨時国会において成立させるとともに、独占禁止法に関するデュープロセスの改善に速やかに着手することを求めたい。

2.審判制度の廃止

公取委は独禁法上違反の疑いが生じると、審査手続を経て排除措置命令等を出し、当事会社はその命令に不服があれば審判の申立てを行う。しかし、事務総局の審査に基づいて公取委が行政処分を下し、公取委の審判で自らが下した行政処分の適否の判断を下すという、国内にも世界にも例のない仕組みに対しては、その公平性・中立性について強い疑問が投げかけられてきた。

冒頭述べたように、政府は平成22年3月に、審判制度を廃止し公取委による行政処分に対する不服審理の場を裁判所に移すための独占禁止法改正法案を国会に提出したが、現在に至るまで国会において審議がなされないまま放置されてきた。同法案には、東京地裁に排除措置命令や課徴金納付命令などの行政処分取消訴訟を提起できるようにすることのほか、処分が下される前の手続についても、証拠の閲覧・謄写や当事者に対する説明等の充実など、従前以上に適正手続に配慮した改正も含まれている。独禁法運用の透明性向上の観点からも、早急に改正法案を審議・成立させ、新制度に移行することを求める。

3.審査手続の適正化

前述のように、課徴金制度の強化をはじめとする近年の独禁法改正による競争政策の執行力の強化により、公取委による審査の適正性を担保するための適正手続の改善がより一層求められているにもかかわらず、そのための見直し作業は大幅に遅れている。当事会社は、自己負罪拒否特権、立入り検査・供述聴取等の調査における弁護士立会や弁護士顧客秘匿特権など、海外では当然に認められているような被調査者の基本的な防御権が認められていない中で、取り調べを受けなくてはならないというのが現状である。現在、刑事手続における取調べの可視化が議論されていることを踏まえると、こうした審査のあり方は早急に見直しが図られるべきである。

現在国会に提出されている改正法案の附則では、「公正取引委員会が事件について必要な調査を行う手続について、我が国における他の行政手続との整合性を確保しつつ、事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点から検討を行い、この法律の公布後一年を目途に結論を得て、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする」ことが明記されている。審査手続の適正さの確保に向けた検討を早期に開始するためにも、上記改正法案の一刻も早い成立が必要不可欠であり、その成立後は、検討の場を早急に設けるべきである。さらに、中立性・公正性担保の観点から、公取委以外の場で検討を行うものとし、メンバー構成についても審査を受ける立場である産業界の声が十分に伝わるよう、配慮されるべきである。

以上