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Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DE&I 新型インフルエンザ対策の早期確立を求める

2012年2月21日
(社)日本経済団体連合会

提言「新型インフルエンザ対策の早期確立を求める」【概要】

強毒性の鳥由来新型インフルエンザ(H5N1型、以下「新型インフルエンザ」)出現の脅威が指摘されて久しい。この新型インフルエンザはヒトが免疫を持たないため、一旦出現すると身体や生命に甚大な健康被害を与え、経済社会に大きな混乱をきたすことが危惧される。このため、わが国はもとより世界各国や国際機関において、医学的知見の集積や、発生・大流行(パンデミック)に備えた対策や体制整備が進められている。こうした状況下、経団連においても、過去2回提言を公表#1し、パンデミック時における社会機能維持の観点から、政府に万全の対策を講じるよう求めてきた。

今般、政府は、今次国会に新型インフルエンザ対策のための法律案を提出する予定である。同法案は、わが国の健康危機管理体制の構築に法的な基盤を与えるものであり、経済界としては、与野党挙げて一刻も早い法案の成立を期すよう望む。

他方、法令等でパンデミック時における社会機能の維持を事業者及び従業員に求める以上、その責務を履行しようとする者に対する防疫対策やセーフティネットを事前に整備しておく必要がある。そこで、実務上の課題として考慮すべき点を下記により提示する。

政府においては、パンデミック時における経済社会や国民生活の混乱を極力抑えるため、平時より予防や罹患対策の充実・強化や危機管理対策の構築に万全を尽くすべきである。経済界としても、平時はもとより有事の際、政府が発動する国民の生命・健康の保護、国民生活及び経済社会の安定確保のための対策には、全面的に支援・協力していく。

1.社会機能の維持に関わる事業者の明確化

政府の「新型インフルエンザ対策行動計画(2011年9月20日 新型インフルエンザ対策閣僚会議)」(以下「行動計画」)では、社会機能の維持に関わる事業者(以下「社会機能維持事業者」)を「医療関係者、公共サービス提供者、医薬品・食料品等の製造・販売事業者、運送事業者、報道関係者等」と定義している。他方、企業のサプライチェーンが広く国内外に及ぶ中、社会機能維持事業者に該当するか否かは、企業の事業継続計画(以下「BCP」)の根本を左右する大きな問題となる。

したがって、当該定義の解釈を巡り混乱が生じないよう、行動計画上、社会機能維持事業者については、可能な限り明確に定義する必要がある。

2.ワクチン接種等に関する環境整備

多くの企業は、新型インフルエンザワクチンの事前接種を前提にBCPを策定し、危機発生時における社会機能維持のための対策を講じている。他方、行動計画では、(1)新型インフルエンザの海外発生期以降、医療従事者や社会機能維持者に対し、原液保存中のプレパンデミックワクチン#2を製剤化して接種を開始すること、(2)国内感染期においては、全国民に対するパンデミックワクチン#3の確保・接種開始を定めている。

したがって、ワクチンにかかる、接種の優先順位、実施者、医療従事者の協力確保、備蓄、接種手順、費用負担等については、早期かつ明確に規定しておく必要がある。また、ワクチン接種により副反応等が生じた場合の補償については、新型インフルエンザを、予防接種法における一類疾病#4と同等に位置付け、国民に対するセーフティネットを万全なものとすべきである。

他方、2009年に起きた豚由来の新型インフルエンザ(H1N1型)の経験を踏まえると、現行の行動計画によるワクチン接種では、水際対策を如何に講じようともパンデミックの第一波に間に合わないことも懸念される。そこで、プレパンデミックワクチンの接種により、一定の免疫効果が期待できるとの指摘もあることから、現在WHOが防疫業務や医療の従事者等のみに推奨しているプレパンデミックワクチンの事前接種を、社会機能維持事業者に対しても拡げていく必要がある。

したがって、国主導のもと計画的に接種数・接種対象者を拡大し、プレパンデミックワクチンの有効性・安全性に関する知見の集積を図るべきである。これらを通じて、事前接種のリスクとベネフィットを比較考量した結果、早期事前接種が適切と判断される場合には、国主導のもと遅滞なく実施できるよう努めるべきである。

また、これらのワクチン接種の環境整備と併せ、国民の生命、健康への被害を最小限に抑えるためにも、発生・流行時における医療機関の診療体制の整備や抗インフルエンザ薬の処方・投与体制の整備の促進が望まれる。

3.パンデミック時における法令等の弾力運用等

行動計画によれば、パンデミック時には、全国的に、従業員本人の罹患や家族の罹患等により、従業員の最大40%程度が欠勤することが想定されている。かかる状況において、(1)医薬品、衛生用品、食料、燃料等の安定供給、(2)電気、水道、ガス、公共交通、運輸、金融・決済システム、報道、通信等のライフラインの継続確保、(3)医療サービスの着実な提供など、必要最低限の社会機能を維持するためには、企業活動を規定する各種法令等の弾力的な運用が不可欠である。

したがって、平時より社会機能維持のためのシミュレーションを行い、弾力的な運用が必要となる法令等を事前にリストアップするとともに、当該リストを定期的に見直すことが求められる。その際、地方公共団体との連携を図りつつ、国・地方一体となった弾力運用が図れるよう努めるべきである。また、こうした取組みについては、民間事業者や各種団体の協働も欠かせないため、民間との連携・協力を確保する仕組みを事前に準備しておくことも必要である。

4.BCPの実効性確保

企業のサプライチェーンは国内外に及んでいることもあり、企業のBCPの発動にあたっては、自助たる個社のみの対応では解決しえない問題が多数生じることが想定される。また、サプライチェーンを構成する関係各社間あるいは業界団体等における共助での解決にも一定の限界がある。

したがって、BCP遂行上、公助が求められる課題については、関係機関間の密接な連携により、パンデミック時に官民が一体となって組織的に各種対策を推進できるよう、法的根拠の付与に加え、国・地方公共団体と業界団体・各企業の役割分担を具体的に決めておき、それを各々のBCPに反映させておくことが必要である。併せてBCPの策定に遅れが見られる中小企業の取組みを促すよう、国・地方公共団体の支援策や支援体制の整備を図るべきである。

また、終息宣言後の復旧についても、行動計画の中で政府の取組方針を示し、企業のBCPとの整合性をとり、効果的な活動を推進できるようにしておくべきである。さらに、新型インフルエンザの発生から終息宣言までの間が年単位で長期化する場合には、わが国の経済活動が低下し、国民生活に大きな影響を与えることも予想されるため、政府としても必要な対策を間断なく講じるよう努めるべきである。

5.政府の指揮命令系統等の一元化、適時適切な情報発信

国家の危機管理上、危機発生時における政府の初動体制や指揮命令系統の混乱があってはならない。新型インフルエンザが発生・流行した際には、国民の身体・生命に甚大な健康被害を及ぼす極めて重大な事態となることから、国民が冷静な対応をとれるよう、政府の危機管理体制を盤石なものとしておく必要がある。

したがって、政府の指揮命令系統や対応窓口を一元化しておくこと、同時に府省横断的な連携・協力体制がとれるよう、平時よりしっかりと準備しておくべきである。また、今回の法案や関連する政省令、行動計画、ガイドライン等で定められた事項が確実に遵守されるよう体制整備を図る必要がある。

新型インフルエンザ発生時において、人的被害や社会的なパニックを回避する上で、迅速かつ正確な情報提供が欠かせない。企業においても、正確な情報に基づき、従業員の安全確保対策や事業継続、事業縮小、あるいは操業回復等の判断を的確に行う必要がある。また、グローバルな事業を展開する企業においては、早期に発生当事国の状況把握と初期対応が求められる。

そこで政府は、各国政府やWHO等国際機関と遅滞なく感染情報等を共有した上で、危機発生時の対処方針、感染国・地域、感染症例数・死亡症例数といった感染状況、ウイルス特性、社会インフラの稼働状況、渡航・退避勧告等に関する情報を、国民、事業者、さらには国外の在留邦人に対し分かりやすく、迅速かつ一元的に公表する必要がある。また、政府の方針等を公表する際には、その判断基準や科学的根拠も併せて情報提供すべきである。

6.国外の在留邦人に対する適切な対処

海外において新型インフルエンザが発生・流行した場合に備え、発生当事国における邦人保護に万全を尽くすことが必要である。したがって、平時より、在外公館における抗インフルエンザ薬の備蓄や危機発生時における在留邦人への配布方法、迅速なワクチン接種体制等医療を含めた現地対策を講じておくとともに、その情報を対象者宛てに周知しておくべきである。また、在留邦人の感染当時国からの出国手段、迅速な検疫、医療提供体制、利用宿泊施設、子弟の就学先等の確保等に万全を尽くすべきである。

以上

  1. 「新型インフルエンザ対策に関する提言 ~国民の健康と安全確保に向けて実効ある対策を~」(2008年6月17日)
    「鳥由来の新型インフルエンザ対策の再開・強化を求める」(2009年11月17日)
  2. 新型インフルエンザが発生する前の段階で、鳥インフルエンザウイルスを基に製造されるワクチン。政府は、その有効性は不確かとしつつも、新型インフルエンザ発生後にパンデミックワクチン(後述)が供給されるまでの間は、国民の生命を守り、最低限の生活を維持する観点から、医業従事者や社会機能の維持に関わる者に対し、プレパンデミックワクチンの接種を行うことが重要であるとし、プレパンデミックワクチン原液の製造・備蓄(一部は製剤化)を進めるとしている。
  3. 新型インフルエンザの発生後に新型インフルエンザウイルスを基に製造されるワクチン。政府は全国民分のパンデミックワクチンをできるだけ短い期間で製造することができるよう研究開発を進めている。
  4. その発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病。具体的には、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎、麻しん、風しん、日本脳炎、破傷風、結核等が挙げられる。なお、インフルエンザは二類疾病(個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として予防接種を行う疾病)とされている。

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