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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 タイにおける大規模洪水の事後措置の拡充を求める

2012年9月3日
一般社団法人 日本経済団体連合会
日タイ貿易経済委員会

昨年秋にタイで発生した大規模洪水は、サプライチェーンの断絶などを通じて世界各地の企業に影響を与えた。わが国経済界としても、その洪水被害の日本経済に対する影響が甚大であったことから、生産拠点としてのタイの重要性を改めて認識する機会となった。多くの企業はすでに事業を再開しているが、洪水の再発に対する懸念が払拭できていないことから、企業のリスクに備えるコストの増大が問題となっている。

域内各国の企業誘致競争が加速する中、タイが引き続き生産拠点としての魅力ある地位を確保し、対内直接投資の一層の拡大を図っていくためには、タイ政府による洪水の再発防止策と万一の発生に備えたリスクファイナンス支援の拡充が不可欠である。こうした観点から、タイ政府に対し、以下の取り組みを求める。

1.治水対策とインフラ整備の着実な推進

抜本的な治水対策と、洪水の再発防止および発生時に備えたハード、ソフト両面のインフラの整備は、企業にとって安定的な事業環境を維持するために重要である。すでに多くの取り組みが進められているが、一部の工業団地内および周辺物流網の防水堤や排水設備、また、運河等の増設・拡張による下流までの排水機能の向上について、作業の遅れが指摘されており、対応の加速を求める。併せて、洪水発生時に企業が洪水および被害の正確な情報を迅速に入手できるよう、適切な災害時の情報提供体制の確立を求める。

2.自然大災害保険(CIP)の拡充

昨年の洪水による巨額の支払いや、その後の再発リスクを忌避する再保険市場の動き等から、民間保険会社が従来通りの洪水保険を継続することは困難となっており、短期的な措置として、政府による企業のリスクファイナンス支援が重要となっている。この点で、本年3月にタイ政府が発足させた自然大災害保険(CIP)は、民間が対応困難なリスクを政府が請け負う仕組みであり、高く評価する。今後、より多くの企業が活用できるよう、制度を改善することは、洪水被害の善後策としての効果を向上させ、ひいてはタイの投資環境向上にとっても有益である。
具体的には、以下が必要である。

(1) 迅速かつ柔軟な発動

洪水発生時に本保険制度が着実かつ迅速に発動することは、制度の根幹をなすものである。そのためにも発動条件の確認方法を明示すべきである。また、発動条件のひとつである50億バーツの被害総額を下回る災害に際しても支払いを認めるなど、柔軟な対応を求める。

(2) カバー率の引き上げ

洪水発生時に支払われる保険金額については、現在、火災保険の保険金額の30%から50%への引き上げが検討されている。企業が安心して事業を継続できるよう、財源の明確化を前提とした更なるカバー率の拡大(火災保険の保険金額の100%補償)を実現すべきである。
なお、保険金は、原則、再調達価格に基づいて支払われるべきである。

(3) 財源の明確化

保険財源となるタイ政府自然大災害保険基金(NCIF)では、500億バーツをタイ政府が賄い、このうち200億バーツを再保険契約に充てることで、総額3,000億バーツ程度とすることが想定されている。災害発生時の保険金支払いの予見性を高めることで企業の保険加入促進を図る観点から、
 (1) 再保険の契約先の企業ならびに額の現状
 (2) 3,000億バーツを超える被害が生じた場合の対応
について、明示すべきである。

(4) 保険料率の柔軟化

保険料率(現行1.25%)について、リスクの大きさに応じて引き下げるなど、柔軟な対応を求める。

(5) 約款の英文の公開

7月に作成されたCIPの約款について、英文での公開を求める。

以上

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