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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 日メコン地域協力に関する提言 ~メコン広域経済圏の形成に向けて~

2012年10月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

日メコン地域協力に関する提言(概要)

世界経済の先行きが依然不透明な中、アジア地域は相対的に高い経済成長を維持している。わが国にとっては、アジアにおける成長の基盤づくりと民生の向上に貢献し、アジア諸国の成長とわが国の成長の好循環を形成していくことが、成長戦略上重要となっている。

そうした中、2015年に予定されるASEANの経済統合やミャンマーにおける民主化の進展、さらには中国等での労働コストの高騰等を受け、メコン地域がもつ優位性に俄かに関心が高まっている。メコン地域は、優良な労働力の供給地であるとともに将来性のある消費市場を有する。また、天然資源にも恵まれることから、成長の潜在力が高く、中国とインドに隣接するという地政学上の重要性も高い。

こうした好条件を背景として、すでにタイとベトナムは産業集積や工業化を進め、わが国企業の生産拠点となっている。今後は、インフラ整備等を通じて連結性を強化し、後背地であるカンボジア、ラオス、ミャンマーの開発と製造業等のサプライチェーンへの組入れを促進することで、域内の均衡ある発展を実現することが期待される。それにより、地域の中間所得者層を拡大できれば、中国やインドに伍する広域経済圏として、わが国を含むアジア全域の成長力強化に大きく貢献することとなろう。

その実現のため、わが国は、これまで以上に、国際協力機構(JICA)による政府開発援助(ODA)と、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)による制度金融等を活用し、メコン地域に対する官民一体となった協力を一層強化し、同地域の発展に貢献していくことが不可欠となっている。その際、域内のみならず中国やインド等の近隣諸国との連結性を高めるとともに、メコン地域各国の発展段階に応じた協力を進めながら広域経済圏の建設を進める必要がある。かかる観点から、わが国経済界として、今後の日メコン地域協力のあり方につき、広域的な課題を中心に、以下のとおり提言するものである。

1.ハード・インフラの整備

(1) 輸送インフラを通じた連結性の強化

陸のASEANと称されるメコン地域においては、輸送インフラ網の整備を通じて域内ならびに他地域との連結性を向上させることが不可欠である。具体的には、東西経済回廊(ミャンマー・モーラミャイン~ベトナム・ダナン間)、南部経済回廊(ミャンマー・ダウェイ~ベトナム・ホーチミン間)の補修管理を含む道路状況の早急な改善やカンボジアのネアックルン橋等の主要な架橋の整備が求められる。とりわけ、ダウェイ開発については、南部経済回廊のミッシングリンク解消に繋げることで、メコン地域の物流効率の向上が期待されるとともに、同地域に進出するわが国企業のサプライチェーン構築にも資することから、わが国政府としても積極的に関与していくべきである。また、ミャンマーのティラワ経済特区の港湾、ベトナムのカイメップ・チーバイ港、ラックフェン港、ブンアン港、カンボジアのプノンペン新港の充実とこれら地区へのアクセスの改善も急務である。さらに今後は、前述のプロジェクトに加え、各国主要都市を結ぶ高速鉄道や航空による輸送網を整備することが求められ、各国の鉄道の相互連携を強化するとともに、ベトナム等において新幹線や国産航空機等の本邦技術が採用されるよう、技術支援、首脳レベルでのセールス外交等を一層強化していくべきである。

(2) 電力等の基本インフラの強化

CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国は、産業および生活の基本インフラである電力、上下水道、情報通信の整備が不十分である。これら基本インフラの整備は、国民生活の向上や進出企業の安定的なビジネス基盤として不可欠であるのみならず、サプライヤーとしてのわが国企業にも裨益するものである。

そこで、カンボジア、ラオス、ミャンマーにおける水力をはじめとする発電所の増強・改修とメコン域内における電力の安定供給に向けた域内送電線網の整備等への協力を重点的に進めるべきである。また、機動性の高い無償資金協力を活用して、電力や情報通信、水処理等にかかる本邦技術やシステムの実証事業を推進すべきである。

(3) 制度金融による支援の充実

前述した輸送インフラや基本インフラは大規模かつ広域にわたることから、資金調達が長期かつ巨額となるほか、カントリー・リスクも存在する。そのため、JICAによる円借款、無償資金協力、技術協力さらには本格再開が予定される海外投融資、NEXIの保証機能、JBICの融資等のベストミックスを通じて、民間金融機関のリスクテイクの補完が求められる。

その一環として、わが国政府は、本年4月の日メコン首脳会議に際し、メコン地域における主要インフラ案件リストを提案するとともに、メコン地域諸国に対し、2013年度以降3年間で約6,000億円のODAによる支援を実施することを表明した。わが国経済界としてこれを歓迎するとともに、わが国企業の進出が期待される地域等、優先度の高いものから早急に具体化していくことを求める。さらに、顔の見える援助を推進する観点からは、ベトナムに適用される本邦技術活用条件(STEP)を一層活用するとともに、同条件が適用されないCLM諸国等を対象とした円借款スキームを検討すべきである。無償援助については、案件の継続性を確保する観点から3年程度の供与プログラムを明示するとともに、1件あたりの規模を増額していく必要がある。また、歴史的な円高水準に鑑み、2012年度末まで期限が延長された円高対応緊急ファシリティの2013年度以降の再延長に加え、円借款の外貨建てや超低金利による供与を実施し、わが国企業の資金調達ならびに借入国政府の負担軽減を図ることが必要である。さらに、現地で事業を行う電力、上下水道といった公益事業への現地通貨建資金の調達を円滑化するため、東京市場とのルールの共通化や決済システムのネットワーク化を進め、最終的にはアジア債券市場の拡充を目指すべきである。

2.ソフト・インフラの充実

(1) 貿易の円滑化

ハード・インフラの整備とならび、法制度整備や人材育成を含めたソフト・インフラの充実は、メコン広域経済圏の実現に向けた車の両輪である。

わが国政府が提案したアジア・カーゴハイウェイ構想を実現する観点から、貿易の円滑化のための措置・支援を確実に実行すべきである。そのためには、まず、税関手続きの改善が必要である。そこで、ベトナムで導入が決定しているわが国の輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)の域内での早期導入、認定事業者(AEO)制度の早期導入、事前教示制の徹底、国境での税関開庁時間の調和等、税関手続きの簡素化・迅速化・透明化を域内で一体的に進めるべきである。また、輸送インフラの整備に合わせて、越境交通協定(CBTA)の適用範囲を拡大し着実に実施することが求められる。

(2) 法制度・規格の整備

メコン諸国においては、予見可能性をもって安定的にビジネスを推進するための法制度が必要である。具体的には、民事基本法や独占禁止法、金融商品取引法、労働法、知的財産権法等、わが国法制との整合性に留意しつつ、JICAによる法制度整備支援等を活用し、民間もこれに協力していくことが重要である。特に、制度整備に併せて、当該専門分野に精通した人材の育成も重要となる。また、わが国と整合性のある規格、基準・認証の導入を支援するとともに、相互認証を推進すべきである。

同時に、旺盛なインフラ需要に民間が貢献できるよう、インフラ整備の官民パートナーシップ(PPP)による推進に向け、わが国法制を基礎とするPPP法制の定着とその着実な運用に向けて尽力すべきである。その際、わが国の災害等に強く高品質で環境負荷の少ない技術が採用されるよう、総合的な観点から評価を行う入札制度とともに、プロジェクトの提案者が優先的に事業権を得られる制度の整備が各国に求められる。また、相手国政府においても、応分のリスク分担が求められる。

(3) 経済連携協定等の活用

メコン地域が名実ともに広域経済圏として機能するためには、経済連携協定(EPA)の推進が欠かせない。2015年のASEAN経済統合を見据え、本年11月の東アジア・サミットにおいて、東アジア包括的経済連携協定(RCEP)の年内交渉開始について合意することが不可欠である。その際、物品、サービス、投資、人の移動、知財等を交渉対象とするとともに、認定輸出者による自己証明制度の導入も含め、原産地規則の調和と手続きの円滑化を目指すことが重要である。

二国間協定では、再協議を迎える日タイEPAにおいて、全面的な見直しを行い、より包括的で質の高いEPAとすべきである。また、現在交渉が行われている日ミャンマー投資協定については、投資保護のみならず、外資導入の自由化等についても規程するレベルの高い協定として、早期締結することを求める。中長期的には、既存のEPA、投資協定と、RCEPとの統合・整理について検討を進めることも必要であり、早い段階で戦略的アプローチを策定しておかなければならない。

なお、ラオスについては、WTO早期加盟に向け、わが国として必要な情報提供や研修等を通じて支援すべきである。加盟交渉を通じた貿易投資の自由化、国際通商制度に関する理解の促進は、メコン地域における経済活性化にも資するものである。

3.産業政策での協力

(1) 成長戦略の策定とビジネス環境の整備

CLM諸国の工業化と海外からの直接投資を促進するためには、総合的な成長戦略の策定とビジネス環境の整備が有用である。例えば、ベトナムの工業化戦略策定における日本政府の協力や官民合同による日越共同イニシアティブの事例を参考にし、わが国として、メコン広域経済圏の形成を見据えつつ、ミャンマーとの共同イニシアティブの設置に向けた取組みに加え、カンボジア、ラオスにおいても同様の官民政策対話の枠組みを通じて協力していくべきである。

(2) 産業集積の促進

現在、カンボジアのシハヌークビル、ミャンマーのティラワ等においてわが国の協力による経済特区の開発が進められている。これらはわが国の中小企業にとっても海外展開の拠点となることが期待されるほか、当該国の裾野産業の育成にも貢献することから、わが国としても積極的に産業集積化を支援していくべきである。その観点から、関連インフラの整備を進めると同時に、必要な規制緩和や税制優遇措置等に関する助言を行うことが重要である。加えて、日本貿易振興機構(JETRO)等による視察団の派遣や投資フォーラムの開催、中小企業金融に関するわが国の知見の提供、BOPビジネスを対象としたFS調査を推進していくことが期待される。

(3) 人材育成

メコン諸国においては、産業政策等に精通した行政官や産業人材の充実が急務となっている。政策立案や国家的プロジェクトの推進等を担う行政人材については、わが国産業政策の経験を共有する観点からも、現地大使館員を拡充しつつ、政府間の交流を活発化させるとともに、わが国から専門家を多数派遣すべきである。また、産業人材の育成は、雇用拡大に直結させるため、即戦力として現地法人で受け入れることを目指し、受入れ企業のニーズに沿って、JICAや海外産業人材育成協会(HIDA)のプログラムを拡充することが求められる。なお、将来の行政官や企業人を育成する観点からは、国内の主要大学において、メコン地域はじめアジア諸国の学生受入れの環境整備とカリキュラムの一層の充実が期待される。

4.環境・災害・農業等の分野での協力

わが国経済界では、環境・エネルギー分野において、これまで具体的かつ積極的に省エネルギー化や排出削減に取り組んできており、多くの成果をあげてきた。こうした経験や技術を活用して、メコン諸国の持続可能な発展を支援するため、知的財産権の保護に留意しつつ、技術移転を適切に行うための仕組みを構築するとともに、現在、メコン諸国等との間で政府間協議を進めている二国間オフセットメカニズム(仮称)の実現を推進していくことが重要である。

大規模な災害は一国のみならず複数国に影響と被害が及ぶことも少なくない。そこで、わが国は、自国の経験も活かし、災害に強いインフラ構築の支援、災害管理システムの構築等で積極的な役割を果たしていくべきである。

メコン地域は食糧生産地として有望な地域である。例えば、ラオスはじめ後発国の主要産業である農業セクターの振興は、貧困削減のみならず、同国の経済の安定的な成長にも資する。そのため、生産性向上や商品性作物栽培、加工食品産業の競争力強化等に係る技術支援を行うべきである。

さらに、メコン地域は、豊富な鉱物資源の埋蔵が指摘されているものの、詳細な資源探査や周辺インフラ整備が行われておらず、資源開発に向けた取組みが不十分である。わが国企業による開発促進のためにも、わが国政府による協力支援を進めていく必要がある。

5.関係機関の連携強化

メコン地域の開発は、関係国政府のみならず、ASEAN、アジア開発銀行(ADB)、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)等の国際機関をはじめ、多様な機関が関係する。すでに日メコン首脳会議をはじめ、数多くの政策対話の枠組みがあるが、関係者間でメコン地域開発に係るロードマップを定期的に共有し、各機関の役割分担と実施期限等を明確化し、開発戦略の一貫性を確保していく必要がある。

当面、広域インフラの整備が大きな柱となることから、複数国にまたがる案件の円滑な推進が重要となる。ADB等への日本政府拠出金(いわゆるジャパン・ファンド)については、FS調査を含め、わが国企業が持つ優れた技術や人材の活用に優先的に利用すべきである。また、わが国制度金融についても、複数国にまたがる案件や、円借款や無償資金協力等の組合せによる案件に利用できるスキームの創設を検討すべきである。

わが国経済界としても、メコン地域の政府首脳や政策担当者、現地経済界等との政策対話を強化するとともに、メコン地域関係各国との官民連携による成長戦略の策定、ビジネス環境の整備等に従来以上に積極的に協力していく。

以上

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