1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 経済連携、貿易投資
  4. 質の高い日中韓FTAならびに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期実現を求める

Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 質の高い日中韓FTAならびに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期実現を求める

2013年5月7日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I はじめに

世界経済の牽引役であるアジア経済の成長を持続させるためには、2020年を目処にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築することを念頭に、域内の経済連携をさらに推進し、人、モノ、サービスが自由に往来するシームレスなビジネス環境を構築する必要がある#1。今般、わが国は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決定した。今こそ、これを梃子として、日中韓FTAならびにASEAN+6を母体とする東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期実現に向け交渉を加速すべきである。

東アジアの経済統合を実現するためには、まず、ASEAN+6のGDPの約7割を占める日中韓の間で良好な経済関係を築くと共に、これを深化させることが前提となる。日中、日韓の二国間EPAがいまだに実現しない中、日中韓FTAの実現は三国間の経済関係を発展させていく上で喫緊の課題である。とりわけ対中国市場アクセスの改善はわが国にとって重要である。日本の中国からの輸入1890億ドル#2の7割が無税であるのに対し、中国への輸出1448億ドル#3の約7割に関税が賦課されている。また、サービス・投資分野でも中国国内に外資規制や参入制限等が少なからず存在するため、日中韓FTAの実現による貿易投資の自由化が求められる。加えて、経済界の期待の大きい知的財産権保護、環境問題への対応、資源・エネルギーの輸出制限の緩和、ビジネス環境整備等も日中韓FTAの重要課題である。

また、ASEAN共同体の完成(2015年)にあわせて、アジア全体の貿易投資活性化、インフラ整備、成長著しい中間所得層のニーズを踏まえた商品提供、環境問題への協力等を推進できるよう、早期にRCEPを実現する必要がある。諸国完全統合を控えたASEAN、ASEAN+6のGDPの約7割を占める日中韓、成長著しいインド、食糧、鉱物資源の供給基地である豪州、サービスの自由化に積極的なニュージーランドが参加する自由経済圏を構成することは、FTAAP構築の道筋における重要な要素である。現在、わが国は日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)を締結しているほか、多くのASEAN諸国、インドと二国間EPAを締結している。また、ASEAN諸国もASEAN+1の形でFTA/EPA網を構築している。しかし、地域の連結性を高め、サプライチェーンの連続性を確保する観点からは、EPA間の制度の違いに伴う弊害を克服する必要があり、ASEAN+6共通のルールを提供するRCEPがブレークスルーとなる。RCEP交渉にあたっては、TPPに見劣りすることのないよう、実質的すべての貿易における関税の撤廃(含段階的撤廃)・引下げ、投資・サービス貿易の自由化、知的財産権の保護、ビジネス環境の整備および各種標準の統一をはじめとする広範囲をカバーする質の高いものを目指すことが求められる。

経団連では、本年4月の「通商戦略の再構築に関する提言―グローバルルールづくりを主導する攻めの通商戦略へ―」#4において、官邸の司令塔機能を強化する観点から、内閣総理大臣を本部長とする「通商戦略本部」(仮称)の設置を提言している#5。また、多角的ルールへの発展を視野に入れてFTA/EPA交渉において実現すべき「統一軸」として(1)わが国が強みを持つ物品の自由化、(2)貿易手続の円滑化・活性化、(3)資源・食糧の輸出制限に関する規律、(4)情報通信技術(ICT)サービス、(5)知的財産権、(6)投資の保護・自由化、(7)ロイヤリティ送金規制の是正、(8)競争、(9)環境・生物多様性保護と貿易措置を挙げている#6。日中韓FTAならびにRCEPについても、こうした点を踏まえた対応が不可欠である。特に、日中韓FTAについては、経団連が産官学共同研究に参加し、その結果として経済界の立場が反映された「日中韓FTA産官学共同研究報告書」が2011年12月に採択されている。既に開始されている交渉を通じて、同報告書の内容に即した質の高いFTAを実現するよう求める。

なお、本提言は、わが国が追求すべき通商政策のうち、アジアが舞台となる日中韓FTAならびにRCEPに焦点を当てたものである。TPPを含むわが国のFTA/EPA戦略の全体像、WTOにおける多国間交渉のほか、社会保障協定、租税条約等、二国間で対応すべき事項に関する考えについては、上記「通商戦略の再構築に関する提言」を参照されたい。

II 日中韓FTAに盛り込むべき事項

1.物品貿易

日中韓FTAをWTOに整合的な協定とするためには、「実質的すべての貿易の自由化」(GATT第24条8項)を実現する必要があり、これを満たす関税の撤廃が求められる。三国間の市場アクセスを広く歪みのない形で改善し、同地域の生産ネットワークとサプライチェーンを拡大することは、消費者利益の拡大はもとより、域内全体の国際競争力強化と生産・輸出拠点としての魅力向上に直結する。特に、経団連は、提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」(2010年11月)において、鉄鋼製品、自動車、自動車部品、電気・電子機器、石油化学製品、化学繊維、ガラス製品、医療機器、繊維、紙類、医薬品等、広汎な分野での関税撤廃を求めており#7、これを受けて、「日中韓FTA産官学共同研究報告書」でも、日本の主な輸出関心品目を列記している#8。これをベースに交渉を推進し、広汎な分野で関税撤廃を実現することが求められる。

2.原産地規則

原産地規則のうち、関税番号変更基準については、部品点数が多い機械類等の場合、原産性の証明作業に時間を要する。他方、付加価値基準については、部品の価格や為替変動の影響を受け易く管理が煩雑であり、また、価格自体を開示できない場合、原産性を証明できない。双方の基準の弱点を補完するために、「日中韓FTA産官学共同研究報告書」で指摘されている通り、原産地規則を利用者である企業にとって使い勝手の良いものとすべく、原産性を判定する基準について、関税番号変更基準と付加価値基準の輸出者選択制とすべきである。また、原産地証明発給手続を簡素化、円滑化する観点から、第三者証明に加えて、認定輸出者による自己証明制度の導入も検討すべきである#9。なお、原産地規則の策定にあたっては、RCEPにおける規則(後述)との整合性確保が不可欠である。

3.税関手続

中韓両国の税関手続に関し、(1)法令・規則の文書による公示ならびに実施までのリードタイムの確保、(2)担当者による手続や関税分類に関する裁量の排除、(3)課税評価・査定基準の明瞭化、(4)中古品の輸出入手続の簡素化・合理化、(5)輸出品に対する増値税の還付の徹底等を図るべきである#10

これらに対処すべく、「日中韓FTA産官学共同研究報告書」は、税関関連法令の公表#11、関税分類や原産地が明らかでない場合の事前教示申請の受付#12、照会先設置#13に言及しており、その実現を図るべきである。また、税関手続に関する規程の実施ならびに運用について、企業の要望を踏まえて見直しを行い、改善を図るための委員会の設置を求める。

また、並行して、日中韓の三国間で手続の調和・簡素化と一貫した運用、認定事業者(AEO)相互認証の導入などを検討すべきである。

4.貿易救済措置

アンチダンピング、セーフガードは、濫用された場合、通商制限的に機能する恐れがあるため、締約国が保護主義的にルールを運用しないよう、規律強化が必要である。

アンチダンピングについては、調査開始前の事前協議制度、ゼロイングの禁止#14、レッサー・デューティー・ルール#15の導入を図るべきである。

セーフガードによる通商制限的効果を回避すべく、原則として締結国は発動の対象外とすべきである#16。他方、関税撤廃の結果、締結国からの輸入が急増し、国内産業に重大な損害を与えるおそれがある合理的なケースについては、セーフガードの発動は妨げない。但し、セーフガードの発動は、あくまでもFTAによる自由化に伴う負の影響を一時的に回避するための措置と位置づけ、協定発効後の一定期間(例えば10年)に限って認めるべきである。

5.投資・サービス貿易

投資・サービス貿易に関しては、金融、建設、不動産、流通、広告、通信等の主要サービス分野や自動車、鉄鋼、造船、食品等の主要製造業の分野において日本企業が直面する外資制限を撤廃ないしは緩和すべきである#17

また、(1)会社の設立、増資、合併などに関する規制、(2)清算・撤退・減資に対する規制、(3)パフォーマンス要求(技術移転、技術情報の開示、国産化比率、納税額等の義務化)、(4)ロイヤリティ等に係る送金規制や料率の指導等を撤廃すべきである#18

「日中韓FTA産官学共同研究報告書」において、日本と韓国は、「高いレベルの自由化と保護を確保する観点から、投資財産設立前及び後の段階での内国民待遇及び最恵国待遇、広い適用範囲をもつ投資家対国家の紛争解決、TRIMs(貿易に関連する投資措置に関する協定)の水準を上回る特定措置の履行要求の禁止、サービス章と統一のネガティブ・リスト方式#19およびその他の円滑化要素を将来の日中韓FTAに含めるべきである#20」としている。これを実現すべく、日韓両国が連携して交渉をリードすることを求める。他方、中国は、サービス章について、三国間の経済構造・発展段階の違いを考慮し、ポジティブ・リスト方式#21が望ましいとしている#22が、国内雇用の拡大、新たなビジネス・モデル、技術、経営ノウハウ等の導入や生産、流通、販売、アフターケアという一連のサプライチェーンの形成を考慮して、投資とサービスを不可分一体に扱うべきである。また、日中韓投資協定において投資保護に関する規程が整備されたことを受け、日中韓FTAではこれを超える内容を追求する必要がある。交渉において、中国に対してこれらの点を説明し、ハイレベルな投資章を実現すべきである。

6.国内規制

投資・サービス貿易に係る規制の撤廃・緩和と共に、法令、規則ならびにその運用の透明化を推進することが不可欠である#23

その一環として、「日中韓FTA産官学共同研究報告書」が貿易投資に関する法令や政策の透明性を高めるための全方向的な協力の事例として挙げている、(1)行政手続等の公表、(2)日中韓FTAの対象となる措置の適用により生じ得る問題を解決するための照会所の設置、(3)法令・行政上の決定に対する質問に対する合理的期間内の回答、(4)パブリック・コメントの受付、(5)地方政府の措置の透明性確保、(6)行政上の行動に対する迅速な審査ならびに必要に応じた是正手続の確保、(7)法令・行政手続の公表と実施との間のリードタイムの設定、(8)申請手続の規則化と透明性確保#24を実現すべきである。

また、同報告書が提案する、「産業協力の円滑化とビジネス環境の改善に関する議論を行うための、政府と産業界の代表で構成される特定のメカニズム#25」を設置し、現地で活動を展開する企業が直面する国内法上の問題に対応することが求められる。具体的には、日中、日韓、中韓の二国間で政府、経済界の代表で構成される小委員会をそれぞれ立ち上げ、ビジネス上の障害が生じる度に、いずれかの代表の提案で開催され、改善に向けた施策を講じ、実施する方式が望まれる。また、小委員会で決定された事項については三国に均霑されるものとする。

7.エネルギー・鉱物資源

三国間におけるエネルギー・鉱物資源の融通を可能にし、地域のエネルギー安全保障体制を確立するために、日中韓FTAにおいて輸出規制ならびに輸出関税の撤廃、資源開発分野への投資自由化について取極めるべきである。

「日中韓FTA産官学共同研究報告書」において中国が言及している通り、エネルギー・鉱物資源の開発に際しては、環境の悪化の防止と持続可能な利用確保のための配慮#26が求められる。しかし、WTOの場においても、数量制限は原則として禁止され、有限天然資源の保護を理由とする例外が認められるケースも極めて限定的であると判断されている#27。環境等を理由とした輸出制限をはじめとする保護主義的な措置については、WTOの考えに立って、始めから正当化すべきではない。

8.知的財産権

新たな産業の発展や技術力のある中小企業の振興を支援する観点から、模造品や商標権侵害の取締強化のため、知財制度の基盤を整備すると共に法執行の実効性を確保すべきである#28。日中韓FTAの下に三国の官民で構成される知的財産権に関する委員会を設置し、法の執行状況等を定期的にレビューすることが重要である。

また、中国においてみられるITセキュリティ製品のソースコードの開示の義務化、環境エネルギー技術に関する特許権の強制許諾等は企業活動のディスインセンティブとなることから、抑制されるべきである。同時に、知的財産権が確実に保証される環境を整備し、民間の研究開発能力を最大限に引き出すことでイノベーション、技術移転を推進するために、日中韓FTAに関連規定を設けるべきである#29

9.競争法・競争政策

グローバルな市場で展開している企業間の企業結合については、わが国当局のみならず、関係各国の当局に届出を行い、審査を受ける必要がある。関係国間で届出や審査における基準、審査に要する期間について著しい違いがある場合、クロージングに至るまでの予測可能性が損なわれ、効率的な合従連衡が妨げられる恐れがある。特に、中国においては、(1)届出基準が低く届出が必要になる範囲が広すぎること、(2)審査手続が不透明で書類が受理されないことがあること、(3)審査基準が明確にされていないために届出企業の予見可能性が低いことなどの問題があるため、届出企業の負担が大きく、円滑な企業結合の阻害要因となっている。

企業結合審査を受ける届出企業の負担を減らし、戦略的な事業再編を機動的に行うことを可能とするため、各国における企業結合規制およびその手続のハーモナイゼーションを進めるべきである。

ハーモナイゼーションを促進する観点から、日中韓FTAでは、各国当局に対して現行制度の問題点や改善案について企業が提案する枠組みを設けるべきである。

10.環境問題

環境問題、とりわけ地球温暖化問題に対処すべく、日中韓FTAに省エネのための協力に関する規定を設置すべきである#30。省エネの推進は、コストの削減、地域全体のエネルギー安全保障体制の確立にも貢献する。併せて、現在三国間で異なる省エネ・環境技術の規格、基準の標準化に向け、日中韓FTAが寄与することが期待される。

11.その他

安定したビジネス環境の構築に寄与する観点から、日中韓FTAと並行して、三国それぞれの間で租税条約や社会保障協定を締結し、その円滑な実施・運用を確保することが重要である。

III 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に盛り込むべき事項

1.物品貿易

RCEPにおいてもまた、「実質的全ての貿易の自由化」(GATT第24条8項)が前提となる。この観点から、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の基本指針及び目的#31」において、 参加国の既存の自由化レベルを基礎とし、品目数および貿易額の双方で高い割合の関税撤廃を通じて自由化を達成する#32旨が謳われていることを評価し、その実現を求める。RCEP参加国では、自動車、二輪車、自動車・二輪車部品、鉄鋼、ステンレス製品、化学品、プラスチック、工作機械、一般機械、家電、建設資材等に高関税が課されており、その撤廃・引下げに重点を置くべきである。

併せて、エネルギーならびに食糧安全保障の観点から、過度な輸出制限の禁止等について取極めることが不可欠である。

2.原産地規則

日中韓FTAと同様、関税番号変更基準と付加価値基準の選択制ならびに認定輸出者自己証明制度を導入することを求める。

また、日本製部品を使用したASEAN域内の最終製品が、中国ASEAN・FTAやインドASEAN・FTA上、ASEAN原産と認められないことがある。同様に、最終製品をASEAN域内で生産しても、原材料が域外産の場合、原産性が認められないことがある。そこで、サプライチェーンの連結性を確保する観点から、RCEPにおいては、(1)締約国の原産品であれば自国の原産品として扱う完全累積を認めるほか、(2)付加価値基準の閾値を既存のEPA/FTAよりも下げるよう求める。

輸出国、輸入国とは異なる第三国にある本社や地域統括会社、物流会社などが生産者からの輸出インボイスを受領し、輸入者向けのインボイスを発行するビジネス形態でも円滑なFTAの活用が可能となるようにすべきである。同時に原産地証明書上への価格記載要件を撤廃すべきである。

3.税関手続

日中韓FTA同様、(1)法令・規則の文書による公示ならびに実施までのリードタイムの確保、(2)担当者による手続や関税分類に関する裁量の排除、(3)課税評価・査定基準の明瞭化、(4)中古品の輸出入手続の簡素化・合理化、(5)輸出品に対する付加価値税の還付の徹底等を図るべきとの要望が企業より多数寄せられている。税関手続については、既存の二国間EPAに基づき、各国の税関当局に改善を促していくことがまず重要であるが、RCEPにおいても、規程を設け、輸出入業務上実際に生じている問題点に対処する枠組みを構築すべきである。また、提出書類の共通化、通関データの共有など、物流の円滑化に向けた措置を講じることが求められる。

4.貿易救済措置

アンチダンピング、セーフガード措置は、締約国が保護主義的にルールを運用しないよう、規律強化を図ることが不可欠である。日中韓FTA同様、アンチダンピングについては、調査開始前の事前協議制度、ゼロイングの禁止、レッサー・デューティー・ルールを導入すべきである。また、セーフガードについても、協定発効後一定期間の合理的な理由に基づく発動を除き、締結国は発動の対象から除外すべきである。なお、ルール策定にあたっては、日中韓FTAにおける規定との整合性を確保する必要がある。

5.投資・サービス貿易

「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の基本指針及び目的」は、既存のASEAN+1FTAよりも相当程度改善した自由化に向け、投資交渉に関し、促進、保護、円滑化、自由化の4つの柱を包含すること#33、また、サービス貿易に関し、WTOサービス貿易に関する一般協定(GATS)及びASEAN+1FTAにおけるRCEP参加国の約束を基礎として自由化約束の達成を目指すこと#34を明記している。これを実現するため、RCEPでは、日中韓FTA同様、投資とサービス貿易が一体となったネガティブ・リスト方式の導入を求める。具体的には、現在各国で行われている(1)金融(銀行、保険)、小売・卸売、建設、不動産をはじめとするサービス業、各種製造業における外資制限、(2)製造・サービス提供に係る拠点設置に際しての現地人雇用義務をはじめとするパフォーマンス要求、(3)営業ライセンス、貿易権・製品輸入権等の発行に関する制限や土地所有規制等、外国企業のみを対象とした各種制限、(4)ロイヤリティ送金規制や料率の指導、(5)経済重要性テスト(ENT)の撤廃を求める。

6.知的財産権

知的財産権の保護は、企業の間の公正な競争の確保、新たな産業の発展や中小企業振興の観点から不可欠である。しかし、RCEP参加国に進出している日本企業からは、(1)特許申請手続が煩雑であり、拒絶理由等の開示も不十分、(2)意匠権の保護が不十分、(3)知的財産権を侵害する製品の取締や水際対策が不十分、(4)特許の強制実施権が付与されることがある等の指摘があり、RCEP交渉を通じて抜本的な対策を求める。

知的財産権については、わが国がRCEP参加国と締結している二国間EPAにおいても、(1)意匠の十分かつ効果的な保護を確保する締約国の義務、(2)故意による知的財産権侵害に対する刑事罰の策定、(3)知的財産に関する小委員会の設置等、関連規程が設けられている#35。RCEPにおける知的財産権に関する条項が、これらを補完し、知的財産権の利用、保護、執行における協力を推進する#36上で実効的な内容となることを求める。

なお、RCEP参加国の中には知的財産権に関する国内法が未整備な国も存在することから、官民連携の下、法制度整備支援を推進することが重要である。

7.その他の事項

「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の基本指針及び目的」は、交渉の中で特定され、合意される他の事項を含めることを検討する#37としており、RCEP参加国のニーズを踏まえ、交渉のアジェンダを追加していくことが重要である。

例えば、RCEP参加国において、官民連携によるインフラ整備を推進するために、政府調達に関する条項を設け、透明性を確保すると共に、各国において技術力やライフサイクルコストを正当に評価する入札制度を整備することが重要である。

また、ビザ発給手続の簡素化、企業内転勤に関する労働許可証の発給の迅速化等、人の移動に関する規程の設置についても検討すべきである。

以上

  1. 提言「アジア太平洋地域における経済統合の推進を求める」(2011年12月)
  2. 2012年(JETRO資料)
  3. 2012年(JETRO資料)
  4. http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/034_honbun.pdf
  5. 提言11頁
  6. 提言21頁~28頁
  7. 提言II 1.(1)参照
  8. 日本の輸出関心分野に自動車及び自動車部品、産業機械及び同部品、鋼鉄、化学製品、テレビ及び同部品、AV機器及び同部品、MCO(マルチ・コンポーネントIC)、電気機械及び同部品、家電器具及び同部品、バッテリー及び同部品、紙類・板紙類が含まれるとしている。報告書(日本語訳)37頁
  9. 報告書(日本語訳)54頁
  10. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 3.参照
  11. 報告書(日本語訳)58頁
  12. 報告書(日本語訳)59頁
  13. 報告書(日本語訳)59頁
  14. ダンピング調査において、輸出取引の価格を加重平均する際、調査対象製品のうち輸出取引の価格が正常の価額を上回る製品も計算の対象とすること。「日中韓FTA産官学共同研究報告書」において、日本、韓国が導入を支持(64頁)。
  15. ダンピング価格差に相当する額よりも少ない額のアンチダンピング課税賦課で国内産業に対する損害を十分防止し得る場合、その少ない額のみ課税すること。「日中韓FTA産官学共同研究報告書」において、韓国が導入を支持(64頁)。
  16. 「日中韓FTA産官学共同研究報告書」において、韓国がこの立場をとる(64頁)。なお、セーフガードについては、調査対象と発動対象が一致すること(パラレリズム)が条件であり、これに反するセーフガード発動は無差別原則(セーフガード協定第2条2項)に違反すると解釈されている(「米国溶接ラインパイプ事件」上級委員会報告)。したがって、域内国を発動の対象外とする場合、域内国からの輸入を調査の対象外とすることが求められる。
  17. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 5.(1)参照
  18. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 3.(2)(3)(4)参照
  19. 原則としてすべての分野を自由化するものとし、リストに自由化を留保する旨明示した事項についてのみ自由化の対象外とされる方式。
  20. 報告書(日本語訳)96頁
  21. 自由化を約束し、その旨リストに記載した分野についてのみ自由化の対象とされ、その他については自由化を留保できる方式。
  22. 報告書(日本語訳)82頁
  23. 提言II 3.(5)参照
  24. 報告書(日本語訳)118-119頁
  25. 報告書(日本語訳)129頁
  26. 報告書(日本語訳)141頁
  27. 例えば、「中国鉱物資源輸出制限に関するWTOパネル報告」(2011年7月)は、GATT第11条2項(a)は物資の一時的かつ危機的な不足の場合に例外的に数量制限を許容するものであり、重要物資の恒常的な不足の場合には適用されないこと、有限天然資源の保存のための例外を認めたGATT第20条(g)は、国内においても消費を抑制しているという事実がある場合のみに援用できることを指摘し、輸出制限がWTO規程に違反するとしている。
  28. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 7.(1)参照
  29. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 7.(2)参照
  30. 提言「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」II 8.参照
  31. http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/east_asia/dl/RCEP_GP_JP.pdf
  32. 基本方針 I.参照
  33. 基本方針 III.参照
  34. 基本方針 II.参照
  35. 例えば日本インドネシア経済連携協定第9章など
  36. 基本方針 V.
  37. 基本方針 VIII.参照

「経済連携、貿易投資」はこちら