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Policy(提言・報告書) 国際協力 ODA予算の拡充と国際標準化戦略の推進を求める

2013年6月11日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

新政権は、発足当初から経済外交に精力的に取り組み、経済界とともにロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、ミャンマーを訪問、6月初頭にはアフリカ各国から50を超す元首・代表を招き、TICAD V(第五回アフリカ開発会議)を成功裏に終了した。この間、相手国の成長に貢献し、わが国も成長するというわが国官民のメッセージは各国に歓迎され、わが国に対する期待感が一層高まる結果となった。わが国の官民は、力を合わせて国際協力の一段の強化を通じて、こうした世界の期待に応えていくことが求められている。

他方、国際協力の根幹であるわが国の政府開発援助(ODA)の一般会計の当初予算額は、残念ながら先進諸国及び新興国とのドルベース比較でみると長期間にわたり低迷しており#1、国際社会に対する日本の発言力・存在感の低下を懸念する声も聞かれる。また、民間企業による国際協力の重要な形態であるインフラシステム輸出は、政府が主導する成長戦略の重要な柱とのひとつであり、民間企業は、優れた技術力やノウハウを十分に活用して国際協力の質を高め、国際競争力を強化していかねばならない。これにより、国際市場において他国企業との競争に打ち勝ち、わが国の優れたインフラ提供による相手国の経済成長への貢献を通じて、貧困や経済格差といった社会経済問題を克服していくことが求められる。その結果として、わが国の経済成長に繋げていくことが可能となる。

このような認識に立って、経団連では、4月に提言「わが国インフラシステムの機動的かつ戦略的な海外展開を求める」を取りまとめたところであり、政府は、これも参考にして「円借款の戦略的活用のための改善策」(2013年4月15日)、「インフラシステム輸出戦略」(同5月17日)を公表し、経団連提言の多くが盛り込まれた政策の実行を約束している。経団連はこうした政府の対応を評価するとともに、その確実な実行を図るために、改めて、政府一般会計予算の概算要求を前に、必要とされる財源確保と大胆な民間支援スキームの確立を求めることとした。特に、円安局面においては、大胆なODA予算の確保が必要であると考える。

そこで、財源については、質の高い国際協力を迅速に行い、なおかつ明確な開発効果を上げるために、円安動向を考慮し、ODA予算の拡充と抜本的な配分の見直しを求めたい。

具体的には、国際標準化戦略の観点から、技術協力予算の一層の拡充、強化を図るとともに、国際金融機関への拠出を見直し、その余資をもって二国間協力の拡充を図ることを検討すべきである。また、円借款の返済利息を活用して借款の譲許性を一層高め、タイド供与(使用資材のタイドを含む)を推進することが大切である。

一方、国際協力機構(JICA)の海外投融資については、政府の意思として活用促進を宣言するとともに、円滑な執行を可能とするために現在のスキームと制度を変更することが必要である。なお、予算編成にあたっては、昨今の円安進行による影響を配慮し、わが国のODAがドルベースによる国際比較で過去の援助額に後退したり、他国より劣後したりすることのないよう、シーリング対応の対象から外し、少なくとも10%以上の予算増を行うべきである。

次に、わが国企業の一層の競争力強化を図り、海外での事業権を円滑に取得し、更なるプレゼンスを獲得していくためには、各国のインフラ調達が国際規格に基づいて行われている実態を認識し、技術協力に携わる人材を動員し、わが国主導の技術や技術基準、法制度の普及を全面に打ち出した国際標準化戦略を官民で展開することが急務である。

以上のインフラ輸出や技術協力の実施をサポートする上でのJICA現地事務所や現地大使館の役割が拡大していることは明白である。特に、ODA卒業国への新規借款が認められ、また、コストシェア技術協力に重点が置かれることになったことから、JICAの現地体制を強化することは不可欠である。なお、新設を含む大使館機能の強化にあたっては、インフラシステム輸出のニーズを踏まえ、各国からの要望に応えられる専門家の配置と重点国を見直すことが併せて必要である。

そこで、本提言では、以上の認識にたって、4月提言の着実な実現を図る前提となる予算の拡大と、日本企業の国際競争力強化を図る上で極めて重要な国際標準化を含む技術協力の重点化を再度求めるものである。

2.資金協力の拡充

一般会計のODA予算は、ドルベースで減額することのないよう円安動向に配慮して、増額をすべきである。

また、顔の見える国際協力を行うためにも、一般会計予算の増額と円借款の返済利息の活用を通じて二国間協力の充実を優先し、国際金融機関に対する拠出を抜本的に見直すことが不可欠である。なお、現行の世界銀行やアジア開発銀行等への日本政府拠出金(含ジャパン・ファンド)は、日本理事室を通じ、わが国が重点を置く地域における広域インフラ案件のマスタープラン作成や本邦企業が得意とする分野での活用が重要である。

(1)無償資金協力

追加的な債務を負うことなく、民間の直接投資の誘致などで経済の立て直しや成長を図りたいアフリカやメコンのLDC諸国(Least Developed Country:後発開発途上国)#2は、いわゆるベーシック・ヒューマン・ニーズのみならず産業インフラ整備にも大きな関心を有している。そこで、LDC諸国が求める大型インフラ案件に機動的に対応していくためには、有償資金の返済利息を無償資金予算に充当し、1件あたりの供与額を100億円程度に引き上げることが求められる。また、従来の使途にとらわれずに利用できる特別無償枠を創設することで、例えば、TICAD Vで表明した支援の着実な履行やMDGsの達成、無償資金協力の卒業国も対象とする経済格差是正等への対応も可能となると考える。

なお、環境、防災、医療、衛星、情報通信、スマートコミュニティ等、わが国が競争力を有する分野で、無償資金協力の活用を積極的に検討すべきである。

(2)JICA海外投融資

事業主体に対して直接資金を供与するJICA海外投融資は、ソブリン・リスクに左右されず、機動的なインフラ整備を推進する上で極めて有効なツールである。PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)によるわが国のインフラプロジェクトに活用していくためには、長期・低金利を前提に、ドル建て融資、現地通貨建て融資、ノン・リコース融資の実現が求められる。

広域開発プロジェクトのほか、空港、港湾、鉄道、スマートコミュニティ、衛星等、一案件あたりの投資額が数百億円以上になる大型プロジェクトについては、円借款・無償資金協力との大胆な組み合わせによるファンディングも採用していく必要がある。

(3)円借款

円借款の重要性は高まっておりながら、依然、制度上の制約や手続きに時間を要するなどの問題がある。返済額が新規供与額を超える地域もあるのはこのためである。従って、円借款制度は、効率的な運営を図るために抜本的に見直す時期を迎えており、政府が本年4月15日付で公表した「円借款の戦略的活用のための改善策について」が公表されたことは大いに評価するものである。その中で提案されている、重要分野に対する譲許性を引き上げる、本邦技術活用案件(STEP)の主契約者に本邦企業在外子会社を含めると共に金利を一律に引き下げる、中進国・中進国を超える所得水準の開発途上国支援を拡充する等の着実な実現を求めたい。

加えて、円借款事業を民間投資や技術移転の促進につなげるためには、本邦企業が手掛けるPPPプロジェクトの周辺インフラへの供与を積極的に行うなど、円借款の戦略的な活用を促進し、更に制度改善を行っていくことを求める。特に、執行の迅速化が必要であり、要請主義の撤廃やスタンドバイクレジットの対象分野の拡大を行うことが不可欠である。

ミャンマーをはじめとするLDC諸国については、インフラ整備と技術移転を促進することが不可欠であり、本邦企業と現地企業とのJVを主契約者とする譲許性の高い円借款を制度化すべきである。また、相手国にとって、ドル建・現地通貨建て融資などが導入され、円借款制度の利便性が向上すればその活用の促進につながる。

また、上流から下流に至るまで、わが国企業のノウハウを活かし、質の高い案件形成を迅速に推進すべきである。マスタープラン作成、事前調査(FS)と詳細設計をコンサルタントとメーカーが一体となって一貫して行うことが可能な連携DDスキームを確立し、その際、有償資金協力勘定技術支援費のみならず、技術協力のスキームを活用することも必要である。

3.技術協力の一層の展開

(1)わが国の有する技術やノウハウの海外展開を担う人材の育成

環境、防災、医療、衛星、情報通信、スマートコミュニティ等のインフラが相手国に定着し、真の社会問題の解決につなげるためには、わが国が官民一体となり、案件形成、マスタープラン作成、保守・管理・運営という上流から下流に至る各段階を通じた技術協力をパッケージで提供するとともに、わが国の有する技術やノウハウを理解し、活用できる現地人材を育成することが重要である。

その一環として、HIDA(海外産業人材育成協会)等の機能の拡充やJICAの民間提案型技術協力プロジェクトの拡大、海外留学生の受入れ拡大を図り、わが国の優れた技術ならびに法制度への理解とその普及を図っていくべきである。その際、研修生や留学生の送り出し国が特定国に偏ることのないよう、募集方法を工夫する必要がある。

また、先般の総理訪中東ミッションの成果である「コストシェア技術協力(有償技術協力)」については、中東に限らず、今後、中南米などODA卒業国・卒業移行国を対象に展開を図り、相手国の産業振興や産業人材の育成に積極的に関与していくべきである。

わが国インフラシステムの海外展開を担う人材については、JICAの技術協力を通じて、グローバル人材育成に重点を置く国内の有力大学と連携し、カリキュラム編成ならびに実習と講義(座学)の充実を図ることが求められる。併せて、青年海外協力隊制度とその支援体制の強化を真剣に検討することが必要である。

これらを実行するために、経済産業省技術協力関連の予算、JICA予算の拡充も検討すべきである。関連して、独立行政法人に適用される運営交付金の一律の削減義務の対象からJICAを外すべきと考える。

なお、技術協力の推進にあたっては、国際競争力を有するわが国中小企業の振興と海外展開を目的に、その発掘と海外展開のためのニーズ調査、案件化調査、実証事業などを拡充させ、具体的案件につなげるべきである。

(2)相手国の行政、制度、法律、各種規制の整備への協力

海外にわが国インフラシステムを円滑に展開していくためには、相手国の法制度や規制をわが国のものと整合させる必要がある。かかる観点から、特にアジア債券市場整備のために、各国の民事基本法の整備に努めるべきである。また、今般、わが国政府が発表した「インフラシステム輸出戦略」に盛り込まれた基本法・特別法・事業関連法の立法支援、法制度の運用に従事する専門家の人材育成支援、汚職防止等のガバナンスの強化、経済活動の基礎となる司法インフラの整備支援、知的財産制度の構築支援等法制度整備支援等について、十分な予算を確保し、着実に実施することを求める。

さらに、過度なローカル・コンテンツ要求の改善や、価格の要素のみならず高品質な技術等を適正に評価する入札制度の導入など、相手国のPPP関連法制の整備ならびに政府調達制度の改善は、わが国企業のインフラ輸出にとって重要であり、国内でのPFI事業の知見を活用した技術協力や政策対話を通じた働きかけを行っていくべきである。併せて、インフラ整備に必要な土地収用や、新興国から求められている大型プロジェクトのオペレーションリスク等については、技術協力を通じて相手国の制度整備を支援するとともに、わが国政府が直接相手国に適切な対応を求める働きかけを行うべきである。

また、相手国においてインフラ案件の手続を円滑に進めるために、わが国の技術協力により、相手国におけるインフラ関連行政を担う人材を育成していくことも重要である。

4.国際標準化戦略の推進

WTO政府調達協定では、「国際規格が存在するときは当該国際規格、国際規格が存在しないときは国内強制規格、認められた国内任意規格または建築規準」に基づいた技術仕様での入札を義務付けられている(第6条2項b)。今後、同協定の加入国が増えることを想定すれば、技術協力、有償資金協力、無償資金協力を活かし、わが国のインフラや技術を海外展開し、その上で国際標準化戦略に取り組むことが不可欠である。

インフラ案件は、現状では、欧州発の国際規格に基づく調達が行われることが多い(例えば、鉄道分野における、EN規格をベースとするIEC規格)。わが国企業のインフラ関連技術は、これまで国際的に高い評価を得てきているが、今後ともこれを維持し、海外で受け入れられるようにするためには、日本の技術が正当に評価される規格化の取り組みが必要である。その一つに、未だ国際規格が確立されていない分野において、わが国主導の国際規格を確立すると共にその普及を図ることが求められる。わが国主導の国際規格の確立と普及、また、わが国における認証機能の強化を図ることにより、認証獲得のための審査を国内で完結させることがより容易になれば、経費の削減、技術情報の流出の防止にも貢献する。

今日、単独の技術のみならず、運営、サービス提供、環境対応、社会政策等を含む全体プランを作成し、そのために必要となる様々な国際規格の確立を目指す動きが欧州で顕著である。わが国としても、民間が主導となり、このようなプラン全体を見越した国際規格の確立に取り組み、関係省庁連携の下、政府で人材育成や資金の面でサポートする体制を構築することが急務である。

国際規格の確立に際しては、実証データが重視されることから、実証事業を推進し、これに参加する企業に対して費用の税額控除を認めるなどのインセンティブを供与することを検討すべきである。なお、実証事業が確実に国際規格の確立とその普及につながるよう、PDCAサイクルを回しながら、取り組みの見直しと改善を行っていくことが不可欠である。

インフラ海外展開に係る国際規格の確立に際しては、政府の「経協インフラ戦略会議」が司令塔となり、知的財産戦略本部をはじめとする関係省庁との連携を図りつつ、必要な予算の獲得や専門家の育成等に取り組むべきである。また、環境等、わが国技術が強みをもつ分野の規制の国際標準化に向け、経済産業省が実施している貿易投資円滑化支援事業、経済連携協定の枠組、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)などを活用することが重要である。

以上

  1. DAC諸国においてわが国ODAの対国民総所得(GNI)比は0.18%で、DAC平均0.31%を下回り、23か国中21位、国民1人当たりの負担額では86.5ドルで18位となっている。
  2. 国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国々。以下3つの基準を満たした国がLDCと認定される。ただし、当該国の同意が前提となる。(1)一人あたりGNI(2008-2010年平均):992米ドル以下、(2)HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すためにCDPが設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの、(3)EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。

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