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Policy(提言・報告書) 国際協力 新たな理念の下での国際協力の推進を求める 政府開発援助(ODA)大綱改定に対する経済界の考え方

2014年5月13日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I.はじめに

政府開発援助(ODA)大綱が2003年に改定されて11年が経過した。この間、以下に述べるように、わが国の国際協力に対する考え方や途上国のニーズが大きく変わり、わが国のODAや国際協力に関する理念の見直しが求められている。

まず、わが国では、途上国の持続的成長に貢献することで、自らの経済活性化に繋げるという考え方が定着し、そのための取組が推進されている。例えば、途上国のビジネス環境を整備することは、現地の経済活動を円滑化すると共に、わが国企業が進出する環境を整えることにもなり、こうしたことを目的に、官民による共同イニシアティブが行われている。また、「日本再興戦略」(2013年6月)には、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むために、2020年を目処に30兆円のインフラ・システムの受注を達成することが明記され、「経協インフラ戦略会議」や安倍総理大臣の地球儀外交を通じてインフラ海外展開を着実に進めている。

また、先進国から途上国への民間資金フローが2012年にODAの2.5倍を占めるに至ったことが示すように、国際協力における民間資金の重要性が高まっている。インフラ整備をはじめとする国際協力の分野において、JICA海外投融資、国際協力銀行(JBIC)金融・保証、NEXI保険を動員して、民間資金の呼び水とすることが求められている。

さらに、環境に優しいインフラの普及、持続可能なエネルギー開発、防災、ICT等、わが国の技術・知見の活用を通じて、世界規模の省エネや温室効果ガスの排出削減等の国際益に貢献できる分野が広がっている。

国際安全保障戦略におけるわが国の協力の重要性も増大している。治安維持への協力、テロ対策、シーレーン防衛、サイバーセキュリティ等、「安全」という国際公共財を提供することで国際社会に貢献すると共に、日本国民や企業が安心して国際的に活動するための基盤づくりを行う上で、ODAやその他の公的資金を活用することが求められている。

途上国や新興国のニーズも変化している。例えば、中間所得層が台頭しているアジア諸国、一部のアフリカ諸国では、関心が貧困撲滅から成長基盤の構築にシフトしている。また、国民所得統計上では「ODA卒業国」に分類される国であっても、基幹インフラや人材の不足をはじめとする成長のボトルネックを抱え、引き続きわが国の協力を必要としているケースが少なくない。従来の定義に縛られることなく、「ODA卒業国」が抱える問題を含め、積極的に対応していくことを求める。

今般、社会の変化に即してODA大綱の見直しが行われることを歓迎すると共に、以上の認識を踏まえ、次の通り提言する。

II.新大綱に盛り込むべき理念と方針

1.成長への貢献

  1. (1)成長戦略の視点
    上述の通り、途上国、新興国の持続的成長に貢献することを通じて、わが国の経済成長に繋げるという考え方を新大綱の理念に取り込み、これを実現する基幹インフラ整備、開発マスタープラン作り、人材育成、法制度整備、相手国の制度・業務を支えるICTインフラ整備等を最優先事項とすべきである。

  2. (2)官民連携
    現行の大綱は、ODA以外の資金の流れとの連携強化、民間の活力や資金の活用に言及しており、この点をより明確にする観点から、「官民連携」の項目を新設すべきである。その際、中堅・中小企業の海外展開を支援する視点が求められる。その上で、JICA海外投融資の活用促進、外貨建・現地通貨建円借款の導入・活用、JBIC金融・保証やNEXIとの連携、ジェトロ支援体制の強化・活用、無償資金を活用したVGFの制度化の検討等について具体的に言及すべきである。特に、JICA海外投融資事業では、民間資金との連携を推進するために、JICAにおける適切な人材の確保と実施体制の強化が求められる点に留意する必要がある。
    また、民間資金が複数国にまたがるプロジェクトに活用されている現状を踏まえ、ODA、OOFについても国境横断的に活用できるよう、必要な制度改善を図ることも明記すべきである。

2.わが国のプレゼンスの拡大

  1. (1)顔の見える援助
    卒業国や中所得以上の国であっても、環境技術の導入、行政人材の育成、若年者雇用支援等に係るわが国への期待は大きい。これらの分野では、専門家派遣による技術指導や研修生受入等を通じて、わが国と相手国が一緒になって進める「顔の見える援助」が成果を挙げており、引き続き官民連携により推進すべきである。とりわけ、環境、防災、ICT等、わが国の知見を活かすことが相手国の利益ならびに国際益に直結する案件について、STEPの活用を推進する旨新大綱に明記すべきである。また、「顔の見える援助」の代表格である無償資金協力事業の活性化や、為替リスクやインフレ・リスク等の適正な分担を含め、制度の抜本的な見直しを推進することを求める。

  2. (2)要請主義にとらわれない協力
    「要請主義」に基づくことなく、わが国官民の提案によるプロジェクトを相手国政府と一体となって積極的に推進していく旨、新大綱に記載すべきである。

  3. (3)技術協力を通じたわが国の経験と知見の活用
    現行の大綱には、わが国の経済社会発展や経済協力の経験を途上国の開発に役立てると共に、わが国が有する優れた技術、知見、人材および制度を活用することが記載されている。これを評価し、新大綱においても引き続き維持することを求める。
    わが国は、長期戦略に基づく人材育成(例えば、タイ・モンクット王工科大学におけるICT技術者育成)、相手国政府の経済政策立案での協働(例えば、日越共同イニシアティブ、日ミャンマー共同イニシアティブ、インドネシアMPAマスタープラン作成)、第三国研修(例えば、タイにおけるミャンマー人材の育成)等の官民連携によるソフト支援を行い、成果を挙げてきた。このような実績を積み上げていくことが重要である。
    また、わが国の技術をインフラ事業に活かせるよう、価格のみならず、品質、技術力、耐久性やライフサイクル・コスト等を総合的に評価する入札制度やPPP関連法制の導入を相手国に促す旨、明記すべきである。
    さらに、わが国の優れた技術が海外で受け入れられるよう、わが国主導の国際規格を確立する点についても新大綱に盛り込むべきである。

3.貿易投資の活性化とビジネス環境整備

途上国においてインフラ整備を推進する際、資材に対する高関税、建設機器の通関手続の遅れ、過度なローカルコンテンツ要求、現場責任者へのビザ発給の制限、政府調達制度の不透明性等、貿易投資上の障害に直面することが少なくない。また、現地において、煩雑な行政手続、過度な税負担、合理性に欠ける国内法の変更等により、プロジェクトの遂行に悪影響が生じることもある。そこで、新たな項目として「貿易投資の活性化とビジネス環境整備」を設け、ODA供与や官民連携によるインフラ整備と並行し、経済連携協定や二国間投資協定の締結・再協議を通じて、貿易投資ならびにビジネス環境の整備を推進することを明記すべきである。

4.環境・エネルギー

  1. (1)環境と開発の両立
    温室効果ガスの排出削減をはじめとする国際益の確保ならびに途上国の持続可能な成長にわが国が積極的に貢献していく観点から、現行の大綱の実施原則に掲げられている「環境と開発の両立」を新大綱でも踏襲すべきである。
    併せて、高効率火力発電、省エネ住宅、軽量軌道交通(LRT)、スマートコミュニティ等、わが国企業が有する最先端の環境技術を通じた貢献ができるよう、二国間オフセット・メカニズム協定の締結促進等について盛り込むべきである。
    また、海外産業人材育成協会(HIDA)やジェトロによる「低炭素技術輸出促進人材育成支援事業」、「インフラシステム獲得支援事業」のように、環境・エネルギー関連インフラの運営、生産プロセスの省エネ化に向けた人材育成を推進することも重要である。

  2. (2)資源・エネルギー安全保障
    「国家安全保障戦略」(2013年12月)に記載されている通り、エネルギーを含む資源の安定供給は活力あるわが国の経済にとって不可欠な国家安全保障上の課題であり、この点について、新大綱にも盛り込むべきである。
    日本の資源・エネルギーの安全保障強化の一環として、資源保有国に対して、共同開発、産品の高付加価値化等での協力を推進することが重要である。また、資源・エネルギー開発に係わるインフラ整備を支援すると共に、周辺地域の社会開発に協力することで当該地域との良好な関係を構築することが不可欠である。

5.安全

  1. (1)安全対策の徹底
    「国家安全保障戦略」は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場からODAの戦略的活用による安全保障関連分野でのシームレスな支援を行うこと、また、テロ対処能力が不十分な開発途上国に対する支援に取組み、国家安全保障の観点から国際社会と協働することを求めている。国際益と国益を両立させる視点から、新大綱にこの点を盛り込むことが不可欠である。また、四面環海のわが国にとって、貿易物資の99.7%(重量ベース)を担う外航海運は、経済、国民生活を支える上で重要な役割を担っている。国際海上輸送を支える港湾施設やシーレーンの安全確保のために沿岸諸国と協力関係を構築することについても新大綱の目標とすべきである。

  2. (2)安全で豊かな個人生活の実現
    犯罪、テロは貧困・失業問題と表裏一体である。個人の能力向上による雇用促進、生活水準の向上を通じて犯罪を減らすことで、国内外からの投資が増え、これが更なる経済活性化に繋がるという好循環を創出することが必要である。人間の基本的諸要件(Basic Human Needs)の充足、人材育成、防災、セキュリティ等について、無償資金協力、技術協力を通じた対応が不可欠である。
    また、「2015年より先の目標」(いわゆるポストMDGs)策定に向けた国際的な議論が本格化する中、女性の地位向上、経済成長を通じた極度の貧困の撲滅、初等教育の充実による就業機会の拡大、感染症対策等の課題に関し、開発ロジックの吟味や国際機関の効率化などの枠組作りをリードすることで、わが国のプレゼンスを高めることが必要である。特に、経済界は経済発展が多くの困難を治癒するとの考えから、経済成長への貢献を通じて貧困などの課題に取り組んでいく。
    現行の大綱にも、個々の人間に着目した「人間の安全保障」の視点に立ち、尊厳ある人生を可能ならしめるよう、個人の保護と能力強化のための協力を行うことが記載されており、新大綱においてもこれを踏襲すべきである。ただし、「人間の安全保障」は抽象的な概念であり、一般には定着しているとはいえない。「安全で豊かな個人生活の実現」等の表現を検討すべきである。

6.予算の拡充と戦略的配分

ODAは、途上国のみならず、わが国の国益に大きく貢献してきている。この点を新大綱に明記すべきである。1997年をピークにODA予算が減少の一途を辿っているが、これに歯止めをかけることが不可欠である。
また、相手国のニーズに応え、わが国もその利益を享有する観点から、「ODA卒業国」に対しても技術協力、無償資金協力を柔軟に実施すると共に、ODA枠外の予算措置を講じることについても新大綱に盛り込むよう求める。
さらに、途上国の経済成長に資するODAに重点をシフトする中、開発マスタープランの作成、人材育成等への予算配分を厚くするなど、メリハリのある配分を行う必要性についても言及すべきである。

III.重点地域

1.アジア

現行の大綱は、アジア諸国の経済社会状況の多様性、援助需要の変化に十分留意しつつ、戦略的に分野や対象の重点化を図るとしており、新大綱においてもこれを踏襲すべきである。
例えば、ミャンマーのように、これから発展が期待される国については、無償資金協力や低利で長期のLDC(Least Developed Country:後発開発途上国)向け借款の活用による基幹インフラ整備ならびに技術協力(投資関連法整備、産業人材育成)等が必要である。他方、インドネシアのように比較的発展段階の高い国については、STEPの活用等によりわが国の技術を普及させ、インフラの高度化を図ることが有効である。各国のニーズに応じて、きめ細かな支援を展開していく旨、新大綱に明記すべきである。また、アジアにおいては、近年自然災害が多発しており、環境・防災という面から日本の技術を使った貢献をすべきである。

2.中東

中東諸国では、脱石油依存に向け、再生可能エネルギー(太陽光、太陽熱、風力等)や原子力の導入を進めているほか、都市インフラ(水、住宅、都市交通等)に対する需要も大きい。JICA海外投融資、JBIC金融、民間資金の連携を図り、これらのインフラ整備に積極的に関る旨新大綱に記載すべきである。また、製造業の育成に併せた若年雇用促進のための職業訓練の充実や、公務員の養成等、人材育成に対するニーズが高く、コストシェア技術協力の改善やODA枠外の協力(例えばエネルギー特別会計による技術支援等)の活用を促進することについても盛り込むべきである。上記のニーズに応えていくことは、わが国が引き続き石油・天然ガスを安定的に確保していく観点からも重要である。
なお、中東和平問題、イラク情勢等の不安定要因は依然として存在しており、現行の大綱と同様に、引き続き、社会の安定と平和の定着に向けた治安対策等の支援を行う旨記載すべきである。

3.アフリカ

サブサハラ・アフリカは、名目GDPが過去10年で約3倍に拡大しており、資源の供給基地のみならず、潜在性のある消費市場として有望である。他方、現行の大綱が指摘する通り、紛争や深刻な開発課題を抱える国々が多い状況は続いており、それぞれのニーズに応じたきめ細かな対応が求められる。
中間所得層が台頭し、貧困撲滅から持続的成長の基盤構築にニーズがシフトしている国については、現在JICAが策定している戦略的マスタープランに基づく基幹インフラ整備、第三国協力、投資協定の締結によるビジネス環境整備等を推進する旨、新大綱に盛り込むべきである。
併せて、医療・衛生、食糧増産と物流改善を通じた適切な分配、BOPビジネスの普及等、貧困撲滅に向けた取組の継続も不可欠であることは言を俟たない。

4.中南米

現行の大綱に記載されている通り、中南米には比較的開発の進んだ国がある。しかし、これらの国においては、森林破壊をはじめとする環境問題が年々深刻になっている。また、豊富な資源を有しながら、物流インフラが脆弱であるため効率的な開発が進まず、高コスト構造が定着している。新大綱では、官民連携による環境技術の移転、基幹インフラ整備の推進等について具体的に言及すべきである。
また、中南米諸国は地震等の自然災害が少なくない。ODA枠外も含め、防災に関する技術協力についても新大綱に盛り込むべきである。

IV.援助政策の立案および実施

1.政府の戦略的な取組への期待

  1. (1)経協インフラ戦略会議
    経協インフラ戦略会議が司令塔となり、省庁横断でインフラ海外展開に取組むことを新大綱に明記すべきである。また、効果的な国際協力を推進するためには、経協インフラ戦略会議に民間の有識者が参加し、直接「現場の声」を反映させること、また、経済界との定期的協議の場を設けることが不可欠であり、この点についても盛り込むべきである。さらに、経協インフラ会議の下部組織として3省庁連絡会を定期的に開催し、具体的案件におけるJBIC、JICA、NEXI、JOGMEC等公的資金の一体運用を図ることについても言及すべきである。

  2. (2)地球儀外交の展開
    各国のトップに対し、わが国の技術に対する理解を浸透させ、また、相手国のニーズに沿った協力を推進するために、総理大臣ほかによる地球儀外交を展開することを明記すべきである。

  3. (3)相手国との政策対話の強化
    マスタープランの策定・実現に係る政策対話を行うことで、相手国の開発戦略の中でわが国の協力を最大限活かすことが不可欠である。また、マスタープランで提案された案件が着実に実施されるよう、切れ目ない丁寧なフォローアップ体制の確立が求められる。さらに、また、相手国政府にアドバイザーを派遣することで、わが国の協力の方針・狙いに関する理解を浸透させることが有効である。

2.執行

  1. (1)制度運営の柔軟化
    国際協力プロジェクトの推進にあたり、民間事業者が過度なリスクを負うことが無いように、適切なリスク分担の仕組みを導入すると共に、契約の雛形を見直すことを明記すべきである。
    また、無償資金協力、技術協力、円借款のスキーム間の垣根を低くし、相乗効果を図ることや、ハードの建設のみならず、保守等にも十分な予算措置をとるなど、柔軟な制度運営を行うことについても盛り込むべきである。

  2. (2)迅速化・効率的な実施体制
    機動的に国際協力を行うために、手続の簡素化・迅速化を一層進めることについて盛り込むべきである。具体的には、政府による早期の意図表明、FSとJICA設計業務の連続性の確保、ICT分野における設計と開発の一体的調達、円借款の本体事業入札制度の改革等、各分野に応じた適切な対応が必要である。
    また、効率性向上の観点から、実施機関や現地組織の体制強化を図ると共に、これらへの権限委譲を通じて実施機能を強化する旨盛り込むべきである。

3.国際協力に携わる人材の育成・活用

現行の大綱には、海外での豊かな経験や優れた知識を有する者などの質の高い人材を活用することが記載されており、新大綱でも踏襲すべきである。例えば、青年海外協力隊のOBが途上国でBOPビジネスを展開するなどの成功事例もあり、このような知見を取り込んでいくことについて明記すべきである。

4.評価

実施したプロジェクトを客観的に評価し、問題点・課題を分析の上、新たな案件に教訓として反映させるべく、PDCAによる評価システムの構築について新大綱に明記すべきである。その際、既存の評価基準に拘らない新たな評価基準を検討すべきである。

V.むすびにかえて

以上のように、従前の狭義のODAだけでは途上国のニーズに応えつつ、わが国の国益を確保するというWin-winの関係を構築することは不可能である。そこで、機動的かつ自由な発想に基づく国際協力を推進すべく、「ODA」という文言のない大綱に名称を変更することを検討しても良いのではないか。また、今後は、ニーズの変化に即して、より短い間隔(例えば5年毎)で大綱を見直すことを提案する。

以上

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