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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 アジア諸国における税制および執行に関する要望 ~円滑な事業活動を経済成長につなげる~

2014年6月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I.はじめに

海外におけるわが国企業の事業活動は、2012年度における製造業の現地法人の海外生産比率(20.8%)、海外設備投資比率(25.8%)ともに過去最高水準を記録する#1など、活発化している。海外での事業活動の成果をわが国経済の活性化につなげるためには、わが国企業の海外展開の円滑化と海外で獲得した収益の国内への還流促進が重要である。

透明かつ予見可能性の高い税制とその執行は、安定的かつ円滑な事業活動に不可欠な要素のひとつである。しかしながら、経済成長著しいアジア地域の各国では、近年、移転価格税制の導入や適用方針の見直し、外資優遇税制措置の突発的な変更など、外資に対する徴税強化の動きが見られ、税務リスクへの対応が現地で事業展開する外資企業の課題となっている。その背景としては、主に下記のような複数の要素が絡み合って、課税当局の行動の変化につながっていると考えられる。第一に、2015年のASEAN経済統合に伴う域内の関税撤廃により(対象品目によっては2018年までに全面撤廃)、関税収入の減少が予想され、これを補う代替財源の確保が必要となることが挙げられる。第二に、近年のアジア地域における経済成長とそれを支える旺盛な社会資本整備のニーズを満たすための主要財源となる税収が必要となりながらも、十分な税収が確保できていない状況にある国もある。第三に、担当官のキャパシティ・ビルディングが十分ではなく投資の活性化とビジネス活動の多様化に徴税実務の進歩が追いついていないという要素が挙げられる。

そこで、経団連が3月に行ったアンケート調査#2を基に、わが国企業がアジア地域で税務上抱えている問題を整理した。

中国、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなど、日本企業の進出が活発な地域ほど、税務を巡る問題が多く生じているとの傾向が顕著である。一方で、ミャンマーやモンゴルなど成長の潜在力が高い国においては、国内法の不備や未整備、わが国との租税条約の未締結などが企業活動の阻害要因となっている。

分野としては、移転価格税制や租税条約に関連する問題が多くみられる。アジア地域では、わが国と韓国以外はOECDに加盟しておらず、OECDの移転価格ガイドラインやモデル租税条約に沿った規定の整備が行われている国が少ない。加えて、一貫性に欠ける税務執行が現地での納税実務を一層煩雑にし、企業に多大な負担が生じている。

現在、OECDでは、中国、インド、インドネシアといったOECD非加盟のG20メンバーも含めたBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトが進行しており、来年末までに順次、モデル租税条約・移転価格ガイドラインの改定、各国国内法制の改正勧告などの成果物が公表される見込みである。この機会に、国際課税に係わる世界共通の枠組み作りが進展することが期待されている。

同様に、二重課税を排除するため、租税条約および国内法における事前確認(APA)、相互協議および仲裁に係わる規定の整備ならびに、その確実な実施、一層の迅速化と効率化が求められている。

そこで、わが国政府に対しては、官民連携の上、BEPSプロジェクトにおいて主導的、建設的な役割を果たすとともに、アジア諸国にプライオリティを置いた租税条約ネットワークの拡大と既存の租税条約の改定を求める。加えて、効率的かつ安定的な徴税実務を各国で確立するため、わが国の持つ知見を活用し、人材育成やシステムの普及といったソフトインフラでのより積極的な協力を期待する。

また、アジア各国・地域に対しては、アンケート結果に基づき、下記に問題点をまとめた。

II.アンケート調査から抽出された当面の税務上の問題

1.中国

<移転価格税制>

執行面における問題が多い。例えば、事業内容にかかわらず実態よりも高い利益率に基づき課税される、調査のはじめから課税額ありきで対応されるなど、事業実態の調査が不十分なまま課税される場合がある。マーケットプレミアム#3やロケーションセービング#4の名目での課税に加え、現地会社の赤字を「市場サポート補助」との名目で日本の親会社が赤字分を補填すべきと指摘されたり、企業に自主修正申告を求められたりする場合もある。また、担当者や地域によって執行が一貫していない。
APAについては、制度として存在するものの、国家税務総局と地方当局の統一見解が出るまでに時間がかかることや、過去に取得したAPAが尊重されない場合がある。また、相互協議については、実質的に機能しておらず、結果として企業の二重課税が放置されるという実態がある。

<租税条約>

わが国と中国との間では、1984年に租税条約が発効しているが、PE認定をめぐり、建設作業やコンサルティング業務をはじめ、認定対象の定義が明確でないという問題がある。そのため、事業活動にそぐわないPE認定を受けるリスクが高く、情報収集等の補助的、準備的活動を行う駐在員事務所や日本からの出向者の業務についても営業税や企業所得税が課される場合がある。また、日本からの出張者がPE認定され、営業税や企業所得税に加え、出張者個人に対する所得税まで課されている実態がある。

<その他>

中国子会社の持分の間接譲渡については、執行が不透明であり、税務を踏まえた意思決定が行いづらく、グループ戦略の阻害要因となっている。他の組織再編についても同様である。
法解釈の突然の変更や部署間(企業誘致、課税実務)の方針の違いにより、優遇税制が受けられないリスクにも直面している。

2.インド

<移転価格税制>

執行面における問題が多い。例えば、現地法人の機能やリスクが異なる比較対象企業の選定や、事業実態と異なる利益率の適用などが見られる。
また、期間検証が法律上明確に定められていないため、実務では単年度で確実な利益を確保するよう求められた事例がある。
APAについては、2012年にAPAガイドラインが公表されている。しかし、制度上遡及適用が認められていないため、過年度に関する移転価格問題を同時解決することができない。

<租税条約>

日印租税条約では、「技術役務の提供対価」に対して源泉課税できると規定しており、第三国で行われた技術役務の提供に対する日本からの支払いにも源泉課税される。また、無差別条項をはじめとする租税条約を考慮しないで課税執行される場合がある(非居住者宛の売買代金支払時の源泉徴収違反を理由とする仕入コスト否認等)。
条約に基づく使用料の制限税率を適用するためには、非居住者である法人としての確定申告及び当該法人と当該法人の代表者個人の納税者番号(PAN番号)等を必要とするなど、手続きが煩雑である。
さらに、インドの非居住者(個人)が租税条約の適用申請をするために必要となる自国の居住者証明書について、日本の税務署発行の居住者証明書に有効期限の記載がないことを理由に、租税条約の適用を受けられないことがある。
PEについては、市場調査を行う駐在員事務所がPE認定され、過年度に遡って所得税が追徴されたり、インド内国法人である日本企業の現地法人に対してPE課税が行われたりした例がある。また、長期出張者の183日ルールの適用方法(日数の計算等)や親会社が義務として行う監督指導がPE認定されるかが不明確なことがある。さらに、PEの帰属所得の範囲が実際にはPEが関与しない取引にまで広げられるという問題も発生しているなど、PE認定の条件が曖昧かつ恣意的で、国際課税の基本的なルールに反する場合もあり、運用に支障が生じている。

<その他>

課税ルールが複雑かつ細分化されており、税務対応が難しくなっている。特に間接税については、税制も州ごとに異なっており、その仕入れ税額控除ができるかどうかを個別に判断しなければならない。また、州を越える取引について課税される中央販売税もあり、インド全域で業務を行う場合は課税される機会が増加することとなる。

3.インドネシア

<移転価格税制>

曖昧な根拠の下、地域・案件により一貫性のない執行が多く見られる。例えば、事業実態に関する調査を行わないまま、取引単位営業利益法を用いた一方的な課税や、管轄税務署レベルにて税収確保ありきの不合理な課税執行が行われる場合がある。企業側の合理的な説明を配慮せず、強引な税務調査が行われているとの指摘もある。
相互協議やAPAについては、当局の対応が消極的であるため、実質的に機能していない事態となっている。

<租税条約>

国内法によりPEに帰属しない所得に対する課税が行われている事例がある。また、駐在員事務所の実態調査や、納税者の主張に対する文書・口頭での論理的な回答がないまま、当局によるPE認定が行われているなど、適切な執行が行われていない。

<その他>

法人税、付加価値税、源泉所得税の納付方法や還付手続きが複雑なため、多大な事務コストが発生している。また、付加価値税の還付額の承認・非承認の基準が曖昧であることに加え、還付までに時間がかかる場合が多い。
不服申立の裁判を行うには、否認額及び罰則金の追加徴収額の予納が前提とされるなど、納税者に不利な制度となっている。加えて、裁判所からの通知が来てから回答までの期限が短く、準備する時間が十分に取れないことが多い。
また、頻繁に通達等が改正される。なかには即日執行のものや遡及適用されるものもあり、実務の混乱を招いている。

4.タイ

<移転価格税制>

一貫性のない執行、不明確な制度によって混乱が生じている。例えば、都心部と地方、また、担当官ごとに移転価格の執行が異なる場合がある。
APAについては、当局の対応が遅く、十分に機能していない。

<その他>

法人税や源泉税の還付手続きを行うと、例外なく税務調査が実施され、手続き上の負担が企業に課せられたり、場合によっては、税務署から請求額と同等かそれを上回る追納を命ぜられたり、事実上還付されていない場合がある。
付加価値税についても同様であり、還付請求に時間がかかり、還付の目途が立たないことから、企業経営戦略に支障が生じている。
また、タイの法人税率が20%に引き下げられたことから、わが国のタックスへイブン対策税制の適用の有無の判定が必要となり、適用除外基準に該当する場合であっても申告別表の作成等、企業に実務的な負担が発生する。

5.ベトナム

<移転価格税制>

2013年にAPAが導入されたが、執行体制が不十分であり、実際に機能していないとの指摘がある。

<租税条約>

租税条約において、個人所得税の二重課税は回避されることになっているにもかかわらず、実際には、短期出張者の労働が課税対象とされる場合があり、事業活動への負担となっている。
また、法人源泉所得税の還付請求を行った場合、税務署から請求額と同等かそれを上回る額の追納を命ぜられ、事実上還付されていない事態が発生している。

6.ミャンマー

<租税条約>

わが国との租税条約が未締結であり、現地社員の所得に対して日本とミャンマーの両国から二重に課税されるなど、企業に負担が生じている。

<その他>

国内法に基づいて源泉徴収税を前払いしているが、法人税申告額との相殺、あるいは還付の手続きが複雑であるため、年度末での還付申請ができず、実務上混乱が生じている。

7.フィリピン

<租税条約>

申請手続きが煩雑であるとの指摘が多い。例えば、フィリピンから日本への支払いについて、租税条約を適用するためには、専門家の関与が必要な詳細なレポートをはじめ、提出書類が多く、申請から承認までに数ヶ月単位の時間を要する。この煩雑さを理由に申請を行わない企業が少なからずあり、結果的に二重課税が生じている。

<その他>

付加価値税の還付手続きに多額のコストと時間がかかり、還付も迅速になされないため、現地法人の負担が増大するとともに、経営においてキャッシュフローに困難が生じている。

8.その他の国・地域

  1. 租税条約が整備されていない。(台湾、モンゴル)
  2. 使用料にかかる二重課税のリスクが高い。(シンガポール、パキスタン)

III.関税に係る問題

1.中国

法令にしたがった対応がなされていない場合もあり、通関手続きに長時間を要する場合がある。

2.インドネシア

輸入関税について本来よりも高い税率を課されており(例:日本から輸入される一部完成車)、両国の閣僚レベルで協議を実施するも、進展が見られていない。
通関に要する期間が新規設立会社の場合は1ヶ月を超える場合がある。また、貨物検査についても長期間を要する場合があり、会社のオペレーションに支障が生じている。

3.タイ

日タイEPAに基づく特恵関税制度があるものの、タイ政府はEPA特恵関税の適用を狭める執行を行ったり、EPA特恵関税に必要なライセンス更新が遅延し、関税を仮払いしたりするなど、事業活動に影響が生じる場合がある。
また、EPA特恵関税を適用するために必要となる原産地証明を取得する手間が膨大であり、結果的に企業が特恵関税の恩恵を受けられないという事態も生じている。

4.ベトナム

ベトナム国内の調達材に関し、通関書類を提出するよう指摘を受けるといった事例がある。また、各地方の税関によって取り扱いが異なる場合もある。

5.ミャンマー

ミャンマー投資委員会(MIC)への申請後、減免措置認可を得られれば、関税の免除が受けられる規定となっているが、申請から認可まで長い期間を要する場合がある。また、インボイスよりも不当に高額な課税評価額を税関に示される場合があり、その都度交渉が必要となるため、実務が煩雑となっている。

6.フィリピン

EPA特恵関税を適用するために必要となる原産地証明を取得する手間が膨大なため、結果的に完全なメリットを受けられない場合がある。

7.ラオス・カンボジア

車輌等にかかる輸入関税が周辺国と比較して高く、中国や韓国からの輸入品と異なる扱いが行われている。

IV.わが国への要望

1.アジア各国・地域に対する働きかけ

国際的に調和した明確な制度の確立や透明性のある適切な税務執行を実施するよう各国に働きかけるべきである。その際、例えば、BEPSプロジェクトや条約交渉、日尼EPAや日比EPAに基づくビジネス環境整備小委員会を活用するなど、さまざまなチャネルを活用した解決を期待する。

2.租税条約の締結・改定

税制の明確化や二重課税発生時の相互協議を実施するため、未締結の各国・地域(ミャンマー、台湾、モンゴル等)においては、早期に租税条約を締結すべきであり、既存の租税条約についても対応的調整ができるようにするなど、実務上で支障が生じることがないよう、適宜見直し、改定が行われることを期待する。

3.相互協議の促進

二重課税の排除に向けて、各国との相互協議に積極的に取り組むよう期待する。

4.タックスヘイブン対策税制の見直し

日本企業の海外における正常な事業展開に影響を及ぼさないように、また、租税負担割合の判定等にかかる事務負担を軽減する観点から、トリガー税率の引き下げや適用除外基準の再整理を含め、タックスヘイブン対策税制の見直しを行うべきである。

5.ソフトインフラの整備

効率的で透明性のある徴税を安定的に行うためには、実務を担う人材の育成が重要であり、従来からの技術協力等を一層強化する必要がある。また、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)の普及等、わが国の知見を活用してソフトインフラの整備を促進すべきである。

以上

  1. 経済産業省 第43回 海外事業活動基本調査(2013年7月調査)
  2. 「アジア地域における税務問題」に関するアンケート調査。調査期間:2014年3月~4月。全481社・団体を対象に調査し、86社から回答があった(回答率18%)。
  3. サービス・製品の販売・需要に影響を与える地域特性により得られた利益
  4. 多国籍企業グループが活動の一部を当初より人件費等のコスト(人件費、不動産費等)の低い場所に再配置することにより場合に得ることができる利益

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