1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 経済連携、貿易投資
  4. 日EU規制協力に関する提言

Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 日EU規制協力に関する提言 -経済連携協定(EPA)締結後の将来を見据えて-

2015年3月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.今、なぜ規制協力か

1.経済のグローバル化

企業のバリューチェーンがグローバルに広がる中、事業活動のコストアップ要因として、非関税分野、とりわけ各国の国内規制の相違が占める比重が増加している。他方、ヒト、モノ、カネ、情報が容易に国境を越えてグローバルに移動する中、環境、安全、健康、個人情報の保護等のために各国が採用する国内規制の実効性を確保する上で他国の国内規制との整合性を十分に考慮することが必要になっている。これら正当な理由をもってする規制の目的を損なうことなく、貿易投資に及ぼすマイナスの影響を最小限に止めるためには、規制・制度の整合性・透明性の確保や規格・基準の調和・相互承認等の規制協力を進める必要がある。

本来、このような協力は、貿易に係るルールの策定・実行監視・紛争処理を担うWTOを通じて行うことが望ましい。しかしながら、2001年に始まったドーハラウンドは、交渉分野が限定的な上、先進国・新興国間の溝が埋まらず難航しており、現時点でWTOにこの役割を期待することは難しい状況にある。

2.メガFTA/EPA交渉の進展

国内規制が貿易投資に与えるマイナスの影響を緩和する試みとして、例えば日EU間では、規制・制度の改革について、長年、政府間対話が行われてきた#1。しかしながら、その成果は必ずしも十分とは言えないことから、経済界からは、より良い成果を目指して、対話から拘束力のあるコミットメントに基づくFTA/EPA交渉の開始を求める声があがっていた#2。そのような背景もあって、2013年4月に開始された日EU EPA交渉では、非関税措置の削減・撤廃が主要な交渉事項の一つとなっている。

EU米国間でも、2013年7月の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉開始以前から、20年近くにわたり、規制協力について議論が行われてきた#3。それらを踏まえたTTIP交渉では、規制協力が、市場アクセス、ルールと並んで三本柱の一つに位置づけられている#4

わが国としても、規制・制度、規格・基準は与えられるものではなく、他国と協力しながら主体的に形成していくものとの意識を持って、EU、米国に後れることなく規制協力を主導し、成長につなげていくべきである。その際、同じ先進地域として共通の価値観をベースにEPA交渉を進めるEUとの協力は不可欠と考えられる。

Ⅱ.EUとの規制協力の意義:なぜEUと協力するのか

1.基本的価値観を共有するパートナー

わが国にとって、EUは、自由、民主主義、法の支配、市場経済、人権尊重といった基本的価値観を共有するパートナーである。こうしたEUと規制の策定、執行にあたって協力し、第三国・地域に対しても当該規制の普遍的な価値を主張していくことは十分可能であり、また、以下に示す理由から大いに意義があると考えられる。

2.高い規制策定力等を有する主体

EUは、規制を策定する能力に優れ、また、他国に対して影響を及ぼし、自らと同様の規制を伝播していく能力に長けている。即ち、EUは世界最大の単一市場であり、一国一票制を採用する国際機関を通じた規制の策定・改変においては、EUの持つ28か国という基礎票が力を発揮する。また、加盟国間の規制協力の集積とも言える市場統合を通じて育まれた、複数国間の利害・主張を調整する能力や複数国間にまたがる規制・制度の策定・実施・監督の経験などは対外的に高い結束力をもたらしている。さらに、自らが解決すべきと考える問題とその解決方法を諸外国・地域も受け容れ易い普遍的な価値とともに掲げることによって、国際的な課題として認知させるアジェンダ設定能力にも秀でている#5

EUにおいて2007年6月に施行されたREACH規制と同等の規制が中国、ロシア、韓国、トルコ等に広がりつつあるのは、こうしたEUの規制伝播力を示す証左である。現在、EUで審議中の個人データ保護規則、紛争鉱物規則などもわが国を含めた各国の規制に大きな影響を及ぼす可能性がある。また、国際標準化機構(ISO)/国際電気標準会議(IEC)の幹事引受数は、EUが488と、米国の144、日本の98を大きく上回っているのが現状である。

わが国として、こうしたEUと協力を進めることによって、事業コストを低減するとともに、第三国・地域を含めたグローバルな規制協力において主導権を発揮することが可能と考えられる。その際、EUの規制策定力等にも分野毎に差異があることに留意しつつ、規制の構想段階からEUと協力していくことが有益である。なお、EUとの規制協力が、わが国としてEUの規制をそのまま受容することを意味しないことは当然である。

3.日本との規制協力への期待

EUも日本との規制協力の必要性を認識している。例えば、日EU定期首脳協議の共同プレス声明(2014年5月)#6では、産業政策対話の枠組みにおいて、とりわけ自動車分野をはじめとする国際基準の適切な適用を通じた適合性および調和を目指して、強制規格、任意規格および適合性評価手続における協力を強化する意思を強調している。また、EU関係者からは、アジア市場への横展開の礎石として日本との規制協力を位置づける発言も聞かれる。

経済界においても、日EUビジネス・ラウンドテーブルが、その総括提言書(2014年4月)#7において、二大先進経済圏として、日EUがグローバルな規制に関する協力に主導的な役割を果たし、日EU両経済のみならず、世界経済全体の新たな成長の機会の創出につながる、シームレスで開かれたグローバルな事業環境の整備を目指すべき旨提言している。

欧州各国の経済団体が加盟するビジネスヨーロッパは、日EU EPAに関する経団連との共同声明(2013年11月)#8において、「先進国間で規制が不必要に乖離しないよう留意するとともに、グローバルに通用するルールを策定すべきである」と日EU両政府に求めている。また、ビジネスヨーロッパが経団連と共催した第3回日EU業界対話会合(2014年3月)においては、同共同声明を再確認するとともに、「基本的な価値観・原則を共有する日EU間の協力なくして、グローバルなルールはできない。先進国間の規制の整合性確保と規制協力は、成長と雇用に必要な構造改革の推進に資するものである」との認識を共有した#9

4.日本の課題

高い規制策定力等を誇るEUとの協力と並行して、わが国自身の規制策定力、規制伝播力を高める必要がある。そのためには、(1)持続的成長を実現し、市場としての魅力を維持すること、(2)諸外国・地域とのEPAネットワークを拡大することによって市場としての一体性を高めるとともに、仲間作りを進めること、(3)高い技術力を維持するとともに、個々の技術やノウハウを活かす規制を普遍性のある理念や価値とともに提示していくこと、が求められる。経団連ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」(2015年1月)においても、「日本の優れた技術やノウハウをグローバルな課題の解決に活かすことができるよう、TTIPも含むメガFTA/EPAを活用しつつ、日米欧間において規格・基準など規制の調和を推進し、新興国等への横展開を進めることも重要である」としている。

今後、EUと規制協力を進めるにあたって、各企業においては、本社と欧州現地子会社が、また、各業界においては、欧米のカウンターパートと緊密に連携することによって、EUにおけるプレーヤーの一員として、その規制動向に一層の注意・関心を払うとともに、EUにおける規制策定の初期段階から積極的に関与していくことが肝要である。そのためには、現地に十分なリソースと明確な権限が与えられていなければならない。一方、本社においては、現地の権限を超えた判断が求められる場合に素早くかつ適切な指示が行える体制を整えておく必要がある。また、欧米の業界とスタンスを一にする案件では、欧米の業界を通じて働きかけた方が効果的な場合もあり、日頃からコミュニケーションを図っておく必要がある。さらには、政府間対話を通じて企業の要望をEU側に伝えられる機会も多く、日本政府とのコミュニケーションも重要である。なお、日本の業界の中には、在欧州日系企業を代表するJBCE(Japan Business Council in Europe)へ人を派遣することによってJBCEを通じてREACHやRoHSといった欧州環境規制の立案段階から欧州政策当局に対する働きかけを長年続けてきている例もある。

5.日EU EPAと規制協力

経団連では、日EU EPAの主要な交渉事項の一つとなっている非関税措置について、日EU双方にメリットのある解決策を見出すべく、業界同士の対話を促進してきた。今後も双方の市場における非関税措置に起因する障壁の削減・撤廃に努力する一方、規格・基準の調和や相互承認等を通じたシームレスな事業環境の整備に日EUが協力して取り組む方向へとギアチェンジしていく必要がある。日EU間の相違点を殊更に強調するのではなく、共通点を積極的に創り出す努力こそが求められている。

規制協力は、EPA締結後の将来も続く息の長い取組みであるものの、EPAなくしてその推進は困難である。Ⅲ、Ⅳで後述する措置等のうち、EPA交渉において、合意できるものは合意し、協定に盛り込むべきである。他方、協定締結後も引き続き議論が必要な問題については、規制当局も含めた両政府間で協力して解決するべく、継続的に協議可能な仕組みを規定すべきである。規制協力の制度的基盤としても、EPAの一刻も早い締結が求められる。

EPAのほか、経済協力開発機構(OECD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、国連欧州経済委員会(UNECE)などの国際組織、二国・地域間の相互承認協定(MRA)、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)や日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)など特定分野の規制当局者の間で緩やかに組織された国際的な枠組み、ISO規格など国際基準の採用、OECDなどの各種指針・原則等を通じて規制協力を推進すべきである。

Ⅲ.EUとの規制協力の内容:分野横断的事項

以下を主な内容とする業界横断的、分野横断的な規制協力を政治のリーダーシップの下で政府一体となって、適切な人的資源・時間を投入して推進すべきである。EU においては、加盟国によって状況が異なることのないよう特に留意する必要がある。

1.規制・制度の整合性・透明性の確保

  • 日EUは、規制の策定にあたり、他方の規制手法、関連する国際基準ならびに対外的な影響等を考慮する。
  • 日EUは、新たな規制を導入する場合あるいは既存の規制を改変する場合、他方に対してそれを科学的・技術的データとともに通報・協議し、早期に意見照会を実施する。

2.規格・基準の調和・相互承認等

  • 日EU間で規格・基準の調和ならびに相互承認を推進する。即ち、日EUで規格・基準を統一する、あるいは相互の規格・基準を調和させる。適切な国際規格・基準が存在する場合、それを軸に調和を推進する。日EU間で統一・調和された規格・基準がない場合でも、「ある産品が一方において適法に生産され、取引されている限り、他方においても輸入・流通を認められるべき」 との考え方#10に基づき、相互承認を推進する。現行の日・EC相互承認協定(MRA)の活用度が必ずしも高くないのは、相互承認の対象が相手国・地域が行う適合性評価の結果にとどまっていることがその理由の一つと考えられる。そこで、機能的同等性(規格・基準が異なっても同じ目的を達成できること)があると評価できる場合に相手の規格・基準を自国のそれと同等であると看做し、相互承認を実施する。
  • 規格・基準の調和、相互承認によらない場合であっても、少なくとも事前の十分早い段階での通報、規格・基準等の公表等によって情報を共有、透明性を確保する。

3.継続的な規制協力のための仕組み

  • 従来のEPAに見られるビジネス環境整備委員会の機能に加えて、EPAにおいて、日EU双方の規制当局を含む官と民が参加する規制協力推進のための仕組みを規定する。規格・基準の基となる技術の動向を知るのは企業であるのに対し、規格・基準からの逸脱を防ぐ規制を行うのは行政であり、官民双方の関与が不可欠である。
  • 上記仕組みに対して、規制協力に関する約束の実行監視機能および約束の改訂に関する事項を含む提言機能を付与する。

Ⅳ.EUとの規制協力の内容:個別分野の取組みの方向性

1.個別分野(業界別)の取組みの方向性

以下に経団連が促進してきた日EU業界対話のこれまでの進捗状況と規制協力に関する取組みの方向性を業界別に示す。

(1) 自動車

日本自動車工業会(JAMA)は、1990年以降、欧州自動車工業会(ACEA)と定期的に会合し、環境、安全等について対話を行っている。JAMAとACEAは、経団連とビジネスヨーロッパが共催する過去3回#11の日EU業界対話会合にいずれも参加している。

  1. 日EU EPAに関する取組み
    JAMAは、ACEAとの対話の一環として、日EU EPAのスコーピング作業の段階でEU側から指摘された日本の非関税措置についても取りあげ、その解決を政府に働きかけてきている。例えば、技術基準については、国連自動車国際基準調和フォーラム(UN WP29)で採択されたUNECE規則を採用し国内基準をEUと調和させることによって開発・生産コストの削減に努めており、現在、乗用車に係る47項目の統一基準中37項目が採用されている。残りの10項目についても、2016年までに採用されることになっている。また、自動車整備工場のゾーニング規制については、地方公共団体に対する技術的指針が2012年に発出され、それ以降、認可される整備工場等は毎年度増加している。さらに、高圧ガス容器に係る基準・認証手続についても、UNECE規則の将来的な採用が目標となっており、日EU産業政策対話でもそれに向けた作業が進められている。2014年末にACEAより新たに示された基準調和に関する非関税措置についても、JAMAとしてACEAと協力して解決を目指すこととしている。

  2. 規制協力の方向性
    今後は、EUの政府・メーカーと協力して、政府による型式認定を基礎とする「国連の車両・装置等の統一基準と型式認定相互承認協定(1958年協定)」へのアジア諸国の加盟を働きかけていく#12
    また、特に新興国市場への先進技術の普及に伴い、当該国における環境・安全技術に関する法規要件が増加しており、それら要件への適合確認や認証取得にかかる費用・時間が嵩んでいる。そこで、1958年協定に基づく認証の相互承認を装置単位から車両単位へと発展させる国際的な車両認証制度(IWVTA)を導入することによって効率化を図るべく、UN WP29で検討中である。そのような認証の基準調和は、消費者にとっても最新技術の製品をいち早く安心して購入でき、また、新興国の政府にとっても先進安全・環境技術の早期導入や自国産業の健全な発展等のメリットがあることから、日EUが協力して取り組んでいく。その際、世界の35の業界団体で構成されている国際自動車工業会(OICA)を通じて事前にすり合わせを行うなど、JAMAとACEAが協力することによってUN WP29における基準調和の作業の円滑化に努める。

(2) 化学

日本化学工業協会(JCIA)は、欧州化学工業連盟(Cefic)と国際化学工業協会協議会(ICCA)を通じて緊密な関係を築いている。JCIAとCeficは、過去3回の日EU業界対話会合にいずれも参加している。

  1. 日EU EPAに関する取組み
    JCIAは、CEFICと2回(2012年6月、2013年11月)にわたって共同声明を公表するなど日EU EPAの早期締結に協力して取り組んできている。

  2. 規制協力の方向性
    規制協力の必要性についても、両団体で一致しており、上記共同声明においても検討すべき項目の一つに挙げられている。現在、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)におけるEU米国間の規制協力に関する交渉の動向も睨みながら、具体化を検討中である。規制協力については、日EU間のほか、アジア太平洋経済協力(APEC)の化学対話においてワーキンググループが設置され、政府を含めた情報交換等が行われている。また、ICCAにおいてもタスクフォースが設置されており、基本原則を取りまとめ中であり、今後、関係法令制定過程における透明性の確保、化学品管理の優先順位付け等について検討し、提言を取りまとめる予定としている。規制協力を進めるにあたっては、EU米国間が日EU間に先行する結果、EU米国中心に標準化が進められることのないよう、TTIP交渉の動向に十分に目配りするとともに、日EU EPA交渉も有効に活用する必要がある。また、OECD等の国際機関における化学品管理に関する動向をも十分に把握した上で、産業界の意見を適時適切に反映させていく。これらの過程でJCIAはCeficと密接に連携していく。
    上述のとおり、REACHのような規制が標準として世界に広がりつつある中、化学物質の管理に関する規制・制度の国際的な調和を進めていくためには、REACH規制等の国際的な化学品管理の流れを考慮し、日本においても、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の合理化を進める必要がある。具体的には、化学物質のリスク管理のためのハザード評価に関する協力、ポリマーに関する届出制度の調和などを提起していくことが考えられる。

(3) ICT

電子情報技術産業協会(JEITA)は、業界が直面する様々な課題について欧州情報通信民生電子技術産業協会(DIGITALEUROPE)と連携して取り組んでいる。
JEITAとDIGITALEUROPEは、過去3回の日EU業界対話会合にいずれも参加している。

  1. 日EU EPAに関する取組み
    JEITAは、DIGITALEUROPEと2回(2012年11月、2013年4月)にわたって共同声明を公表するなど日EU間の関税および非関税措置の撤廃を求めてきた。また、JEITAは、英国Intellect(2012年7月)、イタリアANITEC(2012年6月)ともそれぞれ共同声明を公表し、日EU EPAの推進を働きかけてきた。

  2. 規制協力の方向性
    JEITAとDIGITALEUROPEは、上記共同声明(2013年4月)において、「EUと日本の間で制度や基準を調和し、デジタルテクノロジー製品の流通を簡素化し、国際ルールの形成を図ることにより、保護主義的政策、即ち、新興国の動きや近年増加傾向にある自国産業を優遇する制度や基準を策定する動きに対抗することが可能」、「我々の共通の目標である規制協力の促進を図るべく、産業界対話を進めていきたい」とし、規制協力についても、日EUで連携を進めていく考えである。以下はそのような取組みの例であり、まずは米国を含めた先進国間で整合性のある制度を構築することが第三国における保護主義的な措置の拡大を防ぐことにつながるとの考え方に立って取り組んでいる。

    〔現地化を強制する措置への対応〕
    自国の技術力・研究開発力・生産力を強化する目的で各種の現地化を強制する措置(FLMs: Forced Localization Measures)#13が新興国を中心に広がりを見せており、情報サービスのグローバル化を阻害、ひいては全ての産業にマイナスの影響を及ぼしかねない状況にある。JEITAは、DIGITALEUROPE、そして米国情報技術工業協議会(ITI)と連携して、その拡大を防ぐべく活動を展開している。とりわけ、データの現地保管の義務づけについては、世界経済の成長にもたらす深刻な影響について三団体連名で警鐘を鳴らしている。
    このような取組みのほか、データの自由な流通に関しては、日EU間、日米間の政策対話など既存の枠組みに加えて、日EU EPAや国際電気通信連合(ITU)、OECD、APEC 等も活用しながら、各国・地域の制度の国際的な整合性の確保に努めていく。

  3. EUに対する要望
    EU指令に基づき20か国が相異なる私的複製課徴金制度を導入している。対象製品は多岐にわたっており、課徴金額も総じて高い。厳しい競争の中で製品価格への転嫁ばかりか、対象製品および対象となる恐れのある製品の製造・販売自体を阻害しかねない。同制度の縮小・廃止を含めた見直しが必要であり、創作者への対価の還元は私的複製補償金制度ではない別の方法によるべきである。

(4) 医療機器

日本画像医療システム工業会(JIRA)は、DITTA(Diagnostic imaging, radiation therapy, healthcare IT, electromedical and radiopharmaceutical manufactures)を通じて欧州放射線医用電子機器産業連合会(COCIR)と緊密な関係を築いている。JIRAとCOCIRは過去3回の日EU業界対話会合にいずれも参加している#14

  1. 日EU EPAに関する取組み
    日EU EPAのスコーピング作業の段階でEU側から指摘された日本の非関税措置について、JIRA・COCIRが連携して働きかけた結果、2013年11月に薬事法が改正され、2014年11月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法、薬機法)が施行された。これに伴い、第三者認証の範囲の拡大、品質マネジメント監査の合理化、医療用ソフトウェアの医療機器としての容認、添付文書の条件付き一部廃止等が実現した。

  2. 規制協力の方向性
    日本、欧州、米国、カナダ、豪州の規制当局と産業界代表が参加したGlobal Harmonization Task Force(GHTF)における、医療機器のクラス分類、基本安全要件など各国の規制のベースとなる文書の発行等の成果を基に医療機器規制の国際的整合性の確保を目指して、2011年に国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)が設立された。同フォーラムに対して産業界の意見を効果的に発信するため、日米欧の産業界が中心となって上述のDITTAが組織されており、DITTAを通じて、IMDRFに参加しているブラジルおよび中国ならびにその他の新興国とも規制の整合性を確保すべく取り組んでいく。

  3. EUに対する要望
    EUでは、医療機器指令を医療機器規則へ改訂すべく、現在審議中である。新規則において、(ア)市販後監視の報告対象の拡大、(イ)EUによる独自の安全基準の設定、(ウ)市販後監視データ、臨床試験データの医療従事者や一般への開放、が行われることがないようにする必要がある。

(5) 医薬品

日本製薬工業協会(JPMA)は、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH: International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)および国際製薬団体連合会(IFPMA)をはじめとする製薬業界団体会合を通じて欧州製薬団体連合会(EFPIA)と緊密な関係を築いている。JPMAとEFPIAは最近2回の日EU業界対話会合に参加している。

  1. 日EU EPAに関する取組み
    日EU EPAのスコーピング作業の段階でEU側から指摘された日本の非関税措置について、JPMAとEFPIAが連携して働きかけた結果、医薬品の臨床試験実施基準(GCP省令)の改定(2012年12月)およびワクチンの生物学的製剤基準の改定(2013年6月)によって、国際的基準との整合性が確保されるなどの進展があった。

  2. 規制協力の方向性
    1990年より、日本、EU、米国の規制当局と産業界代表(日本はJPMA、EUはEFPIA)で構成された前述のICHにおいて、各試験の不必要な繰り返しを防いで医薬品開発・承認申請の非効率を減らし、結果としてより良い医薬品をより早く患者のもとへ届けるべく、新薬の承認審査に必要な各種試験の実施方法、提出書類フォーマット等に関する規制の調和に取り組んでいる。ICHは、2016年からは日米欧の三極に加え、他の多くの規制当局・産業界代表も参加するグローバルな枠組みとなる。この中で日EUとしては、米国とも協力して、新興国に対して規制調和を働きかけていく。また、ICHでは取りあげない規制についても、ICHとは別に、日EU米国が協力して新興国にアプローチしていく。

  3. EUに対する要望
    新薬に関する特許の存在を考慮せずにジェネリック薬の承認が行われているEUにおいては、医薬品事業の法的安定性を確保するために、先発品特許有効期間中のジェネリック薬の申請・許可に関する係争の負担を減らす「早期解決メカニズム」を導入する必要がある。

(6) 繊維

日本繊維産業連盟(JTF)は、欧州繊維産業連盟(EURATEX)と年1回トップレベルの対話を継続して行っている。JTFとEURATEXは第1回日EU業界対話会合に参加した#15

  1. 日EU EPAに関する取組み
    JTFは、EURATEXとともに、上記トップレベルの対話を踏まえ、2013年11月に取りまとめた日EU EPA交渉の促進を求める共同声明において、EPAの成果を享受するためには、すべての繊維製品について、関税の即時撤廃が相互に例外なく適用されると同時に、日EU双方の規制の調和と国際基準の遵守が必要であると強調した。同声明の以前より対話を継続し、その対話内容を基に働きかけを行った結果、繊維ラベリングのうち、家庭洗濯等取扱い方法の表示(ケアラベル)に関する日本工業規格(JIS)を国際標準化機構(ISO)規格に適合させ、欧州を含めた海外市場にも適応する表示方法に変更されることになっている。

  2. 規制協力の方向性
    JTFは、次の三点を中心にEURATEXと対話を継続させながら、合意の可能性を探っていきたいと考えている。第一は、消費者保護の水準を維持しつつ、ラベル表示に関する要件を最小限に抑えることである。具体的には、(ア)製品に添付して表示を義務付ける要件の数を最小限に抑えること、(イ)ISO規格に基づいて繊維に使用する名称を近づけるか整合化させること、(ウ)ISO規格に基づいて取扱説明の記号を調和させるまたは相互承認すること、について日EU間の合意を追求する。第二は、日本とEUでは、規制や取組みが異なるため、不必要なコストがかかっていることから、製品の安全性と消費者保護を保証する技術的な規制や取組みを調和させることである。具体的には、(ア)繊維製品への使用を禁じる有害化学物質を統一すること、(イ)規制基準値やその測定に関する試験方法や表示方法を調和させること、(ウ)高機能・高性能繊維など特殊な繊維に関する特性測定方法の標準化を目指すこと、について日EU間の合意を追求する。以上二点は、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)において欧米産業界が要望している事項とも一致しており、日EU米国間の規制協力の強化にも資するものと考えられる。第三は、ライフサイクルの短いテキスタイルや衣料品に適した、デザインの模倣を防ぐための方策等を含めた双方にメリットのある知的財産権に関する問題を検討し、両政府に働きかけることである。

(7) その他

日EU業界対話会合には、日本の鉄道事業者および欧州鉄道産業連合(UNIFE)も過去2回参加している。他の分野と異なり、対話の対象は非関税措置や規制協力ではなく、日本の鉄道事業者による調達が中心である。日本の特定の鉄道事業者は、UNIFE等からの指摘をも踏まえて、調達ウェブサイトのリニューアル(資材調達に関する行動基準の策定・掲載、主要な調達品に関する年度の調達見込みリストの掲載、標準的な調達フローと審査等で考慮する要素の掲載)を実施した。さらに、車両の公募による調達の試行や、EUのサプライヤーとの相互理解を促進するための技術関係交流会の開催といった積極的な取組みを行っている事業者もある。なお、日EU両政府の主催により、日EU鉄道産業間対話が過去2回開催されている。昨年12月の第2回では、日EU EPA交渉の進展状況のほか、市場アクセスの向上および技術規制と安全基準も議題に上った。

2.個別分野(業界共通)の取組みの方向性

以下に業界共通の個別分野の取組みの方向性を例示する。

(1) 個人情報の保護

データの円滑な越境移動に向けて個人情報の適切な取扱いに関する各国・地域の規制・制度の国際的な調和が重要である。

日本においては、今国会で個人情報保護法改正案が審議される予定である。同案が可決・成立した暁には、日本における個人情報保護行政の一元化を担う第三者機関が設置されるとともに、グローバル化に対応するための規定が整備されるなど、規律が格段に強化されることになる。同案の成立を前提とすれば、APECプライバシー原則への適合性の認証制度など国際的なメカニズムや標準をクリアした企業等は少なくとも、日EU間におけるデータの円滑な流通が認められるべきである。一方、EUにおいては、データ保護規則案の検討が進められているが、現状、日本の個人情報保護法の改正が先行する見通しである。そこで、日EU間で制度の整合性を確保するため、日EU EPAにおいて、データ越境移転ルールに関する協議を継続する旨を規定すべきである。

併せてOECDの「プライバシー保護の個人データの国際流通についてのガイドライン」(1980年策定、2013年改訂)に盛り込まれた施策を軸に第三国を含めた国際的なルール作りを日EUで協力して推進すべきである。

(2) 欧州特許制度の統一

現在、特許出願の際に必要となるバリデーション手続において必要な明細書および図面については、各国公用語への全文翻訳が求められる。2008年5月からロンドン協定の加盟国では翻訳文の提出が不要となったが、未加盟国では依然として翻訳文の提出が必要であり、翻訳コスト等の出願費用が非常に多額に上ることが欧州において特許出願数を増やせない一因となっている。また、欧州で特許訴訟を提起する際、複数国での提起が必要な場合があるが、それには高額の訴訟費用を要する。このような中にあって、施行が期待される欧州統一特許制度にはスペイン、イタリアが、統一特許訴訟制度にはスペイン、ポーランドが参加していないのが現状であり、全EU加盟国の参加を働きかけていく必要がある。

(3) 模倣品等の取締り

模倣品・海賊版の取締りの実効性を確保するためには、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の締約国を拡大することが重要である。併せて、第三国における模倣品・海賊版対策を強化するため、日EU間において、模倣品・海賊版の摘発と防止、被害状況の把握と対応に関する税関同士および税関・警察・特許庁の間の連携を強化することが有益である。

(4) EUの紛争鉱物規則への対応

現在、EUにおいては、紛争鉱物規則案(責任ある輸入業者のためのサプライチェーン・デューデリジェンス任意認証システムの構築)#16が議論されているが、対象地域の範囲、対象者(「責任ある輸入者」)の認証基準などが、紛争地域等における武装勢力の資金源となることを防ぐという目的に照らして企業等に過度の負担をもたらすことがないよう、米国における紛争鉱物規制の運用状況も考慮しつつ、実効性の高いルールとする必要がある。それに向けて日EUの産業界が協力していく必要がある。

Ⅴ.新たな経済秩序構築の起点として

世界経済において、新興国の占める比重がますます高まっていくと想定される中、EUとの協力の成果を基に米国を含めた先進国間の規制協力を推進するとともに、新興国をはじめとする第三国市場へ横展開を図ることが重要である。そのためには、戦略的・重層的な取組みが必要であり、わが国が現在交渉中のEU以外の国・地域とのEPAのみならず、既存のEPAの見直し、EPA以外の二国間の協議メカニズムの強化、APEC・OECD等の活用も求められる。また、先進国間の規制協力だけを積み上げても最適解を得られない可能性を踏まえ、並行して途上国を含めた多国間での協議が必要な場合もあろう。

こうした規制協力によってグローバルにシームレスな事業環境が実現し、公平な競争条件が確保されれば、企業にとって市場の拡大、第三国市場を含めた産業協力の機会拡大につながるばかりでなく、より良い製品・サービスがより安価かつ迅速に提供されることになり、消費者・利用者の利益にも寄与し、経団連ビジョンが掲げる「豊かで活力ある日本」の再生に資するものと考えられる。

経団連ビジョンでは、「メガFTA/EPAネットワーク+α」戦略の下、日米欧間の規制調和を推進し、新興国等への横展開を進めることを2020年の到達目標の一つに掲げ、さらに、メガFTA/EPAやプルリ協定をWTOルールへと昇華させることによって、途上国を含む高水準の多角的自由貿易投資体制を2030年までに確立するという、新たな経済秩序構築の工程を描いている。日EU規制協力は、その起点となる重要な課題である。

本提言に沿って規制協力を推進することによって、日EU EPAを従来のEPAとは異なる、メガFTA/EPAに相応しい協定にすると同時に、本年中の大筋合意を確実なものとする必要がある。今こそ、日EU官民あげて取組みを本格化・加速化すべきである。

以上

  1. 日EU間では、日本の規制緩和推進計画策定を機に、1994年に局長級の日EU規制改革対話を開始。双方で相手方に対する規制改革提案書を提出し合い、ビジネス環境改善のための日EU双方の規制のあり方について議論。直近では2010年2月に開催。
  2. 日EU間の制度・ルールの調和をEPAの目的として明確に位置づけた経団連の提言として、「日・EU経済統合の実現を目指して-日・EU EPAに関する第二次提言」(2009年4月)、「日・EU経済統合協定交渉の開始を求める-日・EU EPAに関する第三次提言」(2009年11月)を参照。また、経団連ヨーロッパ地域委員会と欧州ビジネス協会の共同声明「日・EU 定期首脳協議: 今こそEIA 交渉を開始すべき」(2010年4月)は、「日・EU 関係の基盤を単なる話し合いから行動へと変化させること」を求めたもの。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/037/index.html
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/099.html
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/036.pdf
  3. その成果として、例えば、"Guideline on Regulatory Cooperation and Transparency"(2002)、"Regulatory Cooperation Roadmap"(2005)
  4. 2015年1月に欧州委員会が公表したTTIP交渉のEU側提案文書の読者ガイドは、この三つ(regulatory cooperation, market access, trade rules)を柱に交渉が行われていると説明。
    http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2015/january/tradoc_153034.pdf
  5. 遠藤乾「EUの規制力-危機の向こう岸のグローバル・スタンダード戦略」、鈴木一人「EUの規制力の定義と分析視角」「EUの規制力と日本へのインプリケーション」いずれも遠藤乾、鈴木一人編(2012)『EUの規制力』(日本経済評論社)所収参照
  6. 第22 回 日EU 定期首脳協議(2014年5月7日)共同プレス声明(仮訳)
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000037965.pdf
  7. 日・EU ビジネス・ラウンドテーブル(2014年4月8~9日)総括提言書(仮訳)
    http://www.eu-japan-brt.eu/ja/joint-recommendations-authorities
  8. 経団連・ビジネスヨーロッパ共同声明「日EU経済連携協定の早期締結を求める」(2013年11月15日、仮訳)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/098.html
  9. 経団連・ビジネスヨーロッパ共同リリース「日EU経済連携協定:第3回日・EU業界対話会合をブリュッセルにおいて開催」(2014年3月5日、抄訳)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/017.html
  10. 庄司克宏「メガFTA・EPAの課題(上) EUとルール『相互承認』を」『日本経済新聞』(2014年9月8日)を参考にした。
  11. 2012年3月、2013年4月、2014年3月、いずれもブリュッセルで開催
  12. 58年協定には、欧州を中心として50か国、1地域が加盟。アジアからは日本、韓国、マレーシア、タイが加盟。インドネシア、フィリピン、ベトナムが加盟検討中。
  13. 技術移転要求、現地調達要求、ソースコード等機微な設計情報の強制開示、出資比率制限、外国オンライン事業者に対する差別要求、現地雇用義務、輸入制限、データ越境移動の制限(データセンターの設置義務、データの現地保管義務等)
  14. COCIRについては、第2回は書面参加
  15. JTFは書面提出
  16. 認証取得した輸入企業には、(1)OECD モデルを参考にしたリスクの把握、(2)リスク防止のための対策の実行、(3)第三者監査保証の取得、(4)必要情報の川下企業(購入者)への伝達、(5)取引する精錬所・精製所の名称・所在地の毎年報告、などの義務が発生

「経済連携、貿易投資」はこちら