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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 規制改革の今後の進め方に関する意見 ~日本再興に向けた改革の基本的方向性と推進体制のあり方~

2015年10月20日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

わが国は、デフレ脱却、経済再生に向けた正念場にある。人口減少・超高齢化社会の到来、財政赤字の継続と長期債務残高の拡大をはじめとする構造的課題が山積する中、成長戦略を通じて、わが国経済を本格的な成長軌道に乗せ、豊かな国民生活を実現することが不可欠である。

経団連は本年1月に、2030年のあるべき日本の姿を見据えた将来ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」を策定し、日本再興に向けて政府、企業、国民が取り組むべき課題を提示した。中でも規制改革は、民間の創意工夫の発揮によるイノベーションの創出、自由かつ円滑な事業活動の基盤整備、簡素で効率的な行政の実現の推進力であり、日本再興に向けた成長戦略の中核を成す。

2014年1月に安倍総理は、今後2年間で、残された岩盤規制をすべて打ち抜くことを宣言した#1。そして、規制改革を成長戦略の一丁目一番地と位置づけ、「世界一ビジネスがしやすい国」の実現に向け、精力的に改革に取り組んでいる。程なく2年を迎え、また、政府の規制改革会議の設置期限まで1年を切る中、最近の政府の取組み状況を踏まえ、規制改革の今後の進め方について提言するものである。

2.最近の規制改革に対する評価

前述のとおり、安倍政権は規制改革を成長戦略の最重要施策の一つに位置づけており、3回にわたり「規制改革実施計画」を閣議決定し、国家戦略特区#2等の新たな仕組みを活用しつつ、健康・医療、農業、雇用等の岩盤規制改革に積極的に切り込んでいる。経団連としても、毎年度、100項目を超える「経団連規制改革要望」をとりまとめ、政府・与党はじめ関係方面にその実現を働きかけてきた。その結果、これまで重ねて要望してきたにも係らず実現していなかったものを含め、多数の項目に進展が見られている。

最近の成果としては、例えば、健康・医療について、一般薬のインターネット販売の解禁、患者申出療養制度の新設、健康食品の機能性表示、医薬分業等が挙げられる。農業では、農業委員会、農業生産法人、農業協同組合の一体改革が行われ、雇用においても、労働者派遣制度が見直されたほか、高度プロフェショナル労働制の導入に向けて進展があったところである。さらに、環境・エネルギーや、地域活性化等、政権の重要課題においても、一定の成果が見られる。

他方、改革の意図が最後まで徹底されない事例や、検討主体が複数となり議論が錯綜するケースがあるほか、改革の途上にあるものも少なくない。また、改革の結論が得られたにも係らず、いまだ措置されていないものもある#3

国家戦略特区や企業実証特例制度#4、グレーゾーン解消制度#5といった地域単位、企業単位での改革を推進する枠組みも導入された。とりわけ、国家戦略特区については、国家戦略特区諮問会議と各区域会議を中心に精力的な取組みが進められており、具体的な改革が動き出した。今後、地方創生、イノベーション創出に向けて一層の改革が期待される。他方、規制改革会議においては、規制当局の自律的な取組みを促すべく、規制改革レビューを開始したが、まだ緒に就いたばかりである。さらに、自治体レベルでの規制がビジネス上の障害となるケースに、国として十分な手が打たれていない状況も続いている。

このように、現政権の規制改革に対する姿勢は高く評価されるところであり、一定の成果も出始めているものの、日本の再興の実現に向けては、改革はまだ途半ばと言わざるを得ない。規制改革のモメンタムを失うことなく、改めて改革の基本的方向性を確認するとともに、規制改革の推進体制を一層強化していく必要がある。

3.規制改革の基本的方向性と重点領域

規制改革は、経済活動や国民生活に対する官の関与のあり方を根本的に見直すものである。経済社会環境の変化に伴い規制の意義も変わってきており#6、健康・医療や農業、労働等の岩盤規制はその典型的な例である。わが国において様々な構造的課題が顕在化し、また、技術革新により産業や社会のあり方が大きく変わる可能性が出てきた中、わが国のあるべき姿を見据え、新しい時代にふさわしい規制・制度を再構築する必要性が高まっていると言える。

経団連が本年1月に発表したビジョンでは、2030年までに目指すべき4つの国家像を提示した#7。それらを踏まえ、今後の規制改革の重点領域として、(1)イノベーションによる新たな成長機会・基幹産業の創出、(2)活力と魅力ある都市・地域の形成、(3)誰もが活き活きと働ける環境の整備、(4)将来にわたり安心して暮らせる社会の実現,(5)簡素で効率的な行政の実現、(6)経済のグローバル化への対応の6つを提案する。

なお、改革に際しては、国民目線での議論が不可欠である。消費者・利用者の選択肢の拡大や利便性の向上といった国民生活の豊かさへの貢献、市場競争の促進等を通じた社会全体としての効率性・便益の向上を本旨としつつ、適切なセーフティネットを設けたり、代替的な手段を活用すること等を通じて、当該規制の本来の目的にも適うものとする必要がある。

(1) イノベーションによる新たな成長機会・基幹産業の創出

IoT、人工知能、ロボット等、近年の技術革新のスピードは目まぐるしく、わが国の産業や社会の構造を大きく変える可能性がある。しかしながら、現行の規制は、必ずしもこうした技術革新を想定しておらず、イノベーションを阻害したり、わが国企業の国際競争力にも影響を与える要因となっている。

民間の創意工夫の発揮、イノベーションの不断の創出に資する自由で円滑な事業基盤の整備が必要であることは論を俟たないが、同時に、イノベーションにより実現し得る新たなビジネスモデルや産業、国民生活の姿を描き、必要とされる規制の改廃や新たなルールの制定等を先取りして実施することで、早期の実用化を後押しするとともに、国際標準の策定をリードしていくべきである。次世代自動車やITS、自動飛行、サービス・ロボット、遠隔医療等、すでに実証・実用化の段階にあるものも多く、必要に応じて国家戦略特区等を活用して実証を行いつつ、合理的な根拠に基づき、消費者・利用者の利便性と安全性・プライバシーといったトレードオフに配慮した規制・ルールを整備することが重要である#8

(2) 活力と魅力ある都市・地域の形成

国内GDPの約7割を占める地方経済の活性化は、人口減少・超高齢化に直面するわが国の持続的な成長に欠かせない。地方における魅力的な仕事・産業の再生・創出を通じて新たな人の流れ・交流が生まれることで、魅力ある利便性の高い都市の形成が促進されるという好循環の形成が求められる。中でも、仕事・産業の再生・創出はその起点となるものであり、農業や観光等、地域経済の基幹となる産業の競争力を強化することが重要である。その際、農業については、農地集積・集約化、企業の農業参入#9を促進するとともに、観光についても、訪日観光客2,000万人を超えたさらなる高みを目指し、引き続き、査証発給要件の緩和やCIQ体制の充実などを着実に推進していかなければならない。

併せて、都市・地域において国民が医療・介護・教育等の多様なサービスを享受し、誰もが快適に安全に暮らせるよう都市機能を維持・強化していく必要がある。かかる観点から、コンパクトシティ化等を推進するため、国家戦略特区に盛り込まれた規制改革事項の早期の全国展開も含め、都市再開発や建築物の建替え・改修・用途変更に係る規制緩和や手続きの簡素化・迅速化、容積率の緩和を推進すべきである。

なお、地方が自らの選択と責任をもって成長戦略に取り組めるよう、国・地方の行政システムについても抜本的な見直しが不可欠である。道州制実現を視野に入れた上で、地方支分部局への許認可権限の移譲、ビジネス展開に必要な行政手続きの地方での完結・ワンストップ化等の地方分権改革の徹底が急がれる。

(3) 誰もが活き活きと働ける環境の整備

意欲ある若者や女性、高齢者を含む国民誰もが、活き活きと働くことができる環境を整備することは、喫緊の課題である。高度プロフェッショナル制度の創設や裁量労働制、フレックスタイム、短時間勤務、地域・職種限定正社員、テレワーク、在宅勤務等、多様な働き方を可能とするための柔軟な雇用・労働基盤を確立すべきである。先の通常国会に提出された労働基準法の改正案を早期に成立させるとともに、労働者派遣法についても、労働政策審議会の建議のとおり、労働契約申込みみなし制度やグループ企業内派遣規制など、2012年改正の内容について見直す必要がある#10

また、多様な価値観や発想、知識・能力・経験を有する外国人材が日本で活躍することは、経済社会全体のイノベーションにつながる。政府として、わが国の中長期的な外国人の受入れのあり方について早急に議論を行う必要がある。いわゆる高度人材については一層積極的に受け入れるべきである。これまで専門的・技術的と認められてこなかった分野の人材に対しても、産業構造や人口構成の変化等により労働力不足が顕在化する分野については、生産性の向上に取り組みつつ、受入れ規模等を適切に管理した上で、門戸を一層開く必要がある。さらに、グローバル・オペレーションへの対応の観点から、外国人社員が円滑に日本で就労や研修を行える環境を整備することも重要である。

(4) 将来にわたり安心して暮らせる社会の実現

健康・医療や環境・エネルギー、防災・減災等の分野は、将来にわたり安心して暮らすための基盤となるものである。また、今後さらなる市場の拡大が見込まれ、わが国が課題解決先進国として世界に貢献し得る分野でもある。

人口減少・超高齢化社会を迎える中、健康・医療産業がわが国の経済のけん引役の一つとなるとともに、国民が真に求めるサービスを享受できるよう改革を推進する必要がある。同時に、わが国の社会保障制度改革は待ったなしの状況にあり、抜本的な給付の適正化と国民的合意の形成が求められている。レセプト等の医療情報の電子化と利活用の拡大、遠隔診療・在宅医療の推進、再生医療や革新的な医薬品・医療機器の開発・実用化の促進等に取り組むべきである。

また、エネルギーは、国民生活や事業活動の基盤であり、環境に配慮しつつ、経済性ある価格で安定的に供給されることが不可欠である#11。世界最高水準の低炭素・循環型社会を実現しているわが国は、さらなる取組みを推進し、国際社会に範を示すことが求められる。再生可能エネルギーの固定価格買取制度の見直し、温室効果ガスも対象としている環境アセスメント法の再検討を行うとともに、エネルギーシステム改革については、一層安価な価格での安定供給を実現すべきである。加えて、水素社会実現に向けた規制改革、地熱発電の促進、廃棄物・リサイクルに関する規制等の見直しを推進する必要がある。

さらにわが国は、数多くの自然災害リスクに直面している。国民が安心して生活し、また、企業が円滑な事業活動を営むことができるよう、防災・減災および国土強靭化に資する規制改革#12を推進すべきである。同時に、わが国企業は優れた防災・減災技術を有している。これら技術の海外への積極的な展開は世界の防災・減災に貢献しうるとともに、今後、わが国の経済成長の軸となりうるものである。新材料・新工法を展開できる実証実験の場の提供等の企業による技術開発・普及等を後押しする規制改革、インセンティブの付与の推進が求められる。

(5) 簡素で効率的な行政の実現

財政健全化を果たす上では、歳出削減を図りながら、国民本位の効率的で質の高い行政を実現することが不可欠である。従来からの民間開放の取組みに加え、近年は電子行政の取組みが進められている。しかしながら、行政手続の電子化、オンライン化は進んだものの、利用者視点が徹底されておらず、業務プロセスの抜本的な見直しを伴っていないことから、行政サービスの質・利便性の向上や業務の負担軽減・効率化等の点で十分な結果が出ているとは言いがたい。また、電子化を原則とすることが徹底されていないため、少なからず例外も存在している。

許認可や行政サービスに係る業務プロセスを国民の利便性向上の観点から一から見直し、ICTやマイナンバー等の制度を所与とした業務改革(BPR)を推進することが求められる。特に、国民とのインターフェースにおいては、行政側の手続きの決済状況の可視化、手数料等の電子決済、マイナンバーや政府内の情報連携に基づく手続きのワンストップ化が重要となる。関連して、民間事業者等による法定文書の電子保存も一層推進する必要がある。

(6) 経済のグローバル化への対応

ヒト・モノ・カネ・情報が容易に国境を超え、企業のバリューチェーンがグローバルに広がる中、事業活動のコストアップ要因として、各国の国内規制の相違が占める比重が増しているだけでなく、環境・安全等に係る国内規制の実効性を確保する上で他国の国内規制との整合性に十分な考慮を払う必要性が高まっている。また、独占禁止法第9条の一般集中規制のように、日本市場での現状のみに着目した一律外形的な規制の見直しも求められる。

規制の目的を損なうことなく、グローバルにシームレスな事業環境を確保するためには、国際的なイコールフッティングの観点から国内規制を絶えず見直すとともに、規制・制度の整合性・透明性の確保や規格・基準の調和・相互承認等の規制面での国際協力・標準の策定をリードしていくことが重要である#13。TPP協定や日EU経済連携協定(EPA)等のいわゆるメガFTA/EPAは、そのような規制協力の制度的基盤をも提供するものであり、早期実現が求められる。

4.今後の推進体制のあり方

規制改革は多大な労力を要し、地道で継続的な取組みが求められる。改革を国を挙げて推進するためには、国民の理解・支持の下、政治がリーダーシップを発揮し、政府・自治体が民間の改革ニーズに耳を傾けながら、自律的に取り組む体制を構築していく必要がある。かかる観点から、今後の推進体制のあり方について7点とりあげたい。

(1) 政治的リーダーシップの発揮

安定的な政権の下での政治的リーダーシップの発揮は、規制改革の強力な推進力となる。総理自らが規制改革への取組みについて継続的に内外に発信し、強い決意をもって改革を前進させる必要がある。また、岩盤規制改革も佳境を迎える中、政府・与党がこれまで以上に連携を強化し、利害関係者間の調整が困難な場合には、改革目的に照らして政治が裁定を担うべきである。

(2) 規制改革会議の後継機関の設置

2013年1月の設置以来、規制改革会議が司令塔となり、省庁の利害を超えて民間の視点から規制改革を牽引してきた。設置期限が2016年7月末まで延長されたことを受け、規制改革実施計画に盛り込まれた改革項目のフォローアップと積み残し項目の洗い出しを丹念に行い、これまでの規制改革の総仕上げを行うべきである。併せて、同会議の設置期限到来後も見据え、改革の推進体制の強化を図ることが重要である。

規制改革会議の設置期限後も、同様の推進機関は不可欠であり、後継組織の遅滞なき設置を求める。これまで同様、民間人のみの構成とし、民間の知見を最大限活用できる体制とするとともに、実施計画を閣議決定することで政府による着実な履行を担保すべきである。

(3) 改革の重点的な推進

規制改革を効果的に進めていく上では、国としての政策課題の重要性や民間の改革ニーズ等に基づき改革項目に優先順位をつけ、重点的に取り組んでいく必要がある。いわゆる岩盤規制改革など、第三者的な立場から議論することが望ましいものについては、例えば、規制改革会議において改革の方向性について議論した上で、具体的な制度設計を審議会で行う等、当該改革の検討主体と役割分担を明確化して検討することが重要である。また、特定の政策課題の実現あるいは社会システムの実装を図る上で、所管省庁が異なる複数の規制の一体的な見直しを要することもある。そのような場合には、規制改革会議が産業競争力会議等と連携しつつ、関係省庁の取組みをリードすることが求められる。

また、規制改革の原動力は民間の改革ニーズであり、国民の声を常時募集する規制改革ホットラインは極めて重要な取組みである。規制改革会議としての体制を強化し、これまで以上に幅広い層から要望を汲み取るとともに、所管省庁からの回答を踏まえたフォローアップ体制を充実すべきである。併せて、国家戦略特区や構造改革特区等に関する提案募集との連携強化、標準処理期間の見直しと徹底等、制度の改善にも取り組む必要がある。

(4) 自律的なPDCAサイクルの確立

許認可等の規制は14,000以上とも言われており#14、規制改革会議が全ての規制を扱うことは合理的ではない。規制改革実施計画に基づき、現在、規制レビューが進められつつあるが、この機に現行規制の棚卸しを行うとともに、規制政策のPDCAサイクルを見直し、規制当局が自律的に見直しを行う仕組みを構築することが求められる。

そのためにまず、規制情報が根拠法令、許認可の審査基準・標準処理期間、関連する通知・通達等を含め網羅的に一覧できるようにするとともに、サンセット条項#15の一層積極的な導入を図りつつ、規制の見直し周期を明確化する必要がある。その上で、見直しの実効性を確保すべく、見直しの実施状況・結果の公表、規制改革会議等の第三者機関による検証を実施するとともに、公務員の人事評価等を通じたインセンティブ付与について検討することが求められる。具体的な見直しにあたっては、2014年に閣議決定された規制改革実施計画で掲げた見直しの基本方針#16をベースとすることが有用であろう。

また、規制の新設に際して行われる事前評価については、残念ながら、規制政策のPDCAサイクルにおいて有効活用されているとは言いがたい。政府のマクロ部門との連携や外部委託も視野に、費用便益分析等の定量分析の充実による評価の質の向上を図り、意思決定過程での利活用を拡大していく必要がある。それに伴い、業務負担の増大も考えられることから、評価疲れを誘発しないよう、規制の重要性等に応じて評価方法を変える等、負担抑制にも取り組むことが求められる。

(5) 全国規模の改革と地域単位の改革の一体的な推進

規制改革による影響が定かでない場合等、対象を限定して規制改革を実施し、全国展開を図ることが望ましいこともある。規制を維持する積極的な根拠に乏しいものは、全国展開もしくは特区による地域単位の改革のいずれかで実施することを基本とすべきである。規制改革会議と特区の取組みの一体性を高めるため、会議体や事務局間の連携を強化し、広報や提案募集を共同で実施することや、提案を共有して案件単位で協力を推進することが重要である。また、将来的には規制改革に関する大臣、会議体、事務局の一本化についても検討することが望ましい。

なお、国家戦略特区については、前述のとおり、精力的な取組みが進められているが、途半ばである。本年度末で終了する集中取組期間を延長し、改革のモメンタムを失わないようにするとともに、特区における規制改革の結果として特段の問題が生じなかった場合には速やかに全国展開すべきである。また、総合特区については、国家戦略特区との地域的な重複も見られることから、今後のあり方についても整理する必要がある。

(6) 自治体レベルでの規制改革の推進

地方自治体の条令や許認可等がビジネスの障害となるケースが少なくないが、自治体レベルでの規制改革を促進する仕組みが不十分である。例えば、地域版の最先端テストの実施や、地方創生や財政健全化の施策とリンクさせてインセンティブを付与すること等を通じて、自治体間の競争を促し、地域の立地競争力の強化につなげる必要がある。規制改革実施計画で提案された地域版の規制改革会議の創設も一案であるが、実効性あるものとするためには、自治体の長の積極的な関与が求められる。

他方、自治体間の規制水準や運用、手続きの差異が広域でのビジネス展開の障害となることもある。全国的に整合性・統一性を図ることが望ましい規制については、国から地方への過剰な関与を排除しつつ、ガイドラインの策定等を通じて自治体間の規制調和に取り組むべきである。

(7) 広報機能の強化

岩盤規制改革には国民の理解・支持を得ることが不可欠である。また、改革の成果が国民・企業に広く認知され、実際に活用されることも重要である。過去に、規制緩和白書や、国民向けのパンフレットが発刊されていたが、様々なメディアを活用し、国民の視点に立った規制改革の意義、改革が実施された場合の経済効果・国民生活への影響、改革の具体的な成果等を、分かりやすい形で広く発信すべきである。併せて、メディアに対する正確な情報の提供を継続的に実施していくことも重要である。

5.経済界の取組み

規制改革に終わりはない。そして、規制改革の原動力は現場からの改革ニーズである。経団連では、これまでも毎年度、会員からの現場の声に基づき規制改革要望をとりまとめ、政府・与党に対してその実現を働きかけてきた。今後は、わが国の重要政策課題の解決に資するべく、経団連の各政策委員会の活動との連携を強化し、規制改革要望の実現に取り組んでいく。また、民間の知見を政府の規制改革の取組みに活かし、官民一体となって推進するため、内閣府規制改革推進室への企業関係者の派遣に協力しており、こうした人的協力についても継続していく。

以上

  1. 世界経済フォーラム(2014年1月22日)における基調講演にて。
  2. 産業の競争力強化と国際的な経済活動の拠点形成を促進する観点から、地域限定で規制改革等の施策を総合的かつ集中的に推進する制度。総理大臣を議長とする諮問会議において区域や計画を認定するなど、既存の特区と異なり国が主導する点が特徴。2015年10月時点で9区域(東京圏、関西圏、新潟県、兵庫県養父市、福岡県、沖縄県、仙台市、秋田県仙北市、愛知県)が指定されている。
  3. 例えば、「規制改革実施計画」(2013年6月14日閣議決定)に記載された次世代自動車関連の複数の改革項目について、結論が得られたにも係らず措置に至っていないものもある。
  4. 企業が行おうとする新規事業が特定の規制に抵触する場合、安全性等の確保を前提として「企業単位で」規制の特例措置を認める制度。
  5. 企業が行おうとする新規事業が現行の規制の適用範囲にあたるか不明確な場合、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度。
  6. 例えば、1980年代後半から90年代初めにかけては、海外から見て閉鎖的とされてきたわが国市場の開放や、経済活動に関わる制度の透明性向上に重きが置かれ、90年代以降は、経済的規制の緩和・撤廃を通じた民間事業者の自由な経済活動の促進に取り組んできた。2000年代からは、社会保障や労働、教育など国民生活に密接に関係する規制の改革や、官が行ってきた事業や行政サービスの民間への開放が推進された。安倍政権になってからは、成長戦略の側面が強調されるようになってきた。
  7. (1)豊かで活力ある国民生活を実現する、(2)人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する、(3)成長国家としての強い基盤を確立する、(4)地球規模の課題を解決し世界の繁栄に貢献する。
  8. 例えば、自動走行システムの実用化に際しては、技術の進展や社会受容性に応じ、道路交通法等の制度のあり方に関する検討を進める必要がある。自動飛行に関しても、航空法改正の影響を注視しながら、航空法や電波法の一層の見直しが求められる。ロボットに関しては、用途により改革すべき規制が多岐にわたるが、医薬品医療機器等法、高圧ガス保安法、公共インフラの維持・保守関係法令、道路交通法、道路運送車両法等が挙げられる。
  9. 例えば、「2014年度経団連規制改革要望」では、農業生産法人において企業による議決権取得を全体の2分の1以上まで認めるとともに、参入企業への農地所有を求めている。なお、農地所有に関しては、原則として「農地中間管理事業の推進に関する法律」の5年後見直しに併せて措置するとされており、前倒しでの議論が必要となる。
  10. 第189回通常国会に提出された労働基準法改正法案では、(1)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェショナル制度)の創設、(2)企画業務型裁量労働制の対象業務への「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」の追加、(3)労使委員会決議の本社一括届け出の認可、定期報告の廃止、(4)フレックスタイム制における清算期間の上限の最長3カ月への延長や完全週休2日制の下での法定労働時間の計算方法の見直しが盛り込まれた。
  11. 東日本大震災以降、わが国の電力供給は未だ十分な水準に回復したとは言えず、コストに至っては、家庭用で約3割、産業用で約4割上昇している。
  12. 例えば、「2014年度経団連規制改革要望」では、重要施設において非常時の事業継続を可能とするため、非常用発電機に対する一般取扱所規制の除外または緩和を求めている。
  13. 経団連「日EU規制協力に関する提言」(2015年3月17日)においては、自動車、化学、ICT、医療機器、医薬品、繊維等の分野における規制協力の方向性を示している。
  14. 「許認可等の統一的把握結果」(総務省、2015年5月29日)によると、2014年4月現在での府省等ごとの許認可等の根拠条項等数は14,818となっている。
  15. ある一定の時期に自動的に法令の効力を失わせたり、見直しを要請する条項。「規制緩和推進計画の再改定について」(1997年3月28日閣議決定)では、「規制の新設に当たっては、原則として当該規制を一定期間経過後に廃止を含め見直すこととする。法律により新たな制度を創設して規制の新設を行うものについては、各省庁は、その趣旨・目的等に照らして適当としないものを除き、当該法律に一定期間経過後、当該規制の見直しを行う旨の条項(以下「見直し条項」という。)を盛り込むものとする。」とされた。
  16. (1)経済的規制は原則廃止、社会的規制は必要最小限との原則の下での規制の抜本的見直し、(2)許可制から届出制への移行等、より緩やかな規制への移行、(3)検査の民間移行等規制方法の合理化、(4)規制内容・手続について国際的整合化の推進、(5)規制内容の明確化・簡素化、許認可等の審査における審査基準の明確化、申請書類等の簡素化、(6)事前届出制から事後届出制への移行等事後手続への移行、(7)許認可等の審査・処理を始めとする規制関連手続の迅速化、(8)規制制定手続の透明化、(9)不合理な規制の是正による社会的な公正の確保。

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