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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 TPP協定を成長戦略につなげるために
~政府としての取り組みと経済界への期待~
-経団連シンポジウム 「TPPを活かす」 基調講演

鶴岡 公二 内閣官房 TPP政府対策本部首席交渉官

なぜ今TPPか

戦後、多角的自由貿易協定GATTのもと、約10年に1度、ラウンドによる関税削減交渉を通じ、世界の貿易障壁が削減されてきた。しかし、WTO(世界貿易機関)の発足から20年以上が経過し、貿易・経済実態が大きく変容したにも関わらず、ドーハ・ラウンドで世界共通のルールが実現する見通しは立っていない。その間、FTA(経済連携協定)を推進した韓国に比べ、わが国のFTA比率は劣後し、個人・企業の努力と無関係に国家の政策により、各国のビジネス環境に差が生じている。志ある12カ国がTPPで市場統合を目指したのは、こうした歴史的な流れの中での必然である。

また長く停滞する日本経済には、TPPの有無が将来大きな影響を与える。人口と内需が減少する日本が、世界のGDPの4割をカバーするTPPにより、域内8億人の市場が得られることは、わが国の経済活性化にまたとない機会である。

TPPの本質

TPPは、「新世界」が旧世界の価値観を打破し、「自由」「公平」「個人の尊重」という基本的理念・価値観のもと、「民主主義」、「法の支配」、「市場経済」の原則を実践すべく、ルールを確立し予見可能性を高めることにより、人々が努力すれば報われる経済秩序・制度を国家の責任で構築する試みである。

世界経済の原動力であり、内需を支える中産階級が育つアジア太平洋地域で、これらの価値観を徹底させ、日本の力が正当に評価されるよう、今取り組まなければならない。

TPPにおいては、国有企業、労働・環境などでWTOや既存のFTAを上回る新たな規律が実現した。投資については、日本の主張により、投資許可要件としての輸出義務やロイヤリティ料率の上限規制などが明確に禁止された。様々なビジネスの手段でもある電子商取引への関税不賦課や、自国領域内へのサーバー設置要求の禁止、急送便の6時間以内の税関通過義務など、新たなビジネスに対応する規律も整備された。これらは政府が負う義務であり、違反には制裁が伴う。各国による確実な履行を確信し期待する。

今後の見通し

TPPが国民各層から歓迎されることが大事である。かつては、内容の広範さや複雑さ、米国の主導への警戒感などの背景から、懸念や誤解も多くあった。

例えば日本の農業が崩壊するとの懸念があるが、そのような協定にはそもそも日本政府は合意しない。国会決議を遵守し、わが国の農業が再生・持続可能となる内容・結果を実現しており、「総合的なTPP関連政策大綱」も昨年末に閣議決定した。

そのほか、ISDS(投資家対国家の仲裁制度)については、「国の主権を放棄した」との誤解もあるが、安心して海外に投資できるよう、むしろわが国が主張し、既存の多くのFTAに規定されているものである。「国民皆保険の崩壊」など、多くの懸念が誤解に基づいている。

わが国政府は現在、今通常国会において承認を得るべく準備を進めている。TPPは、参加12カ国が署名後2年内に国内手続きを完了しない場合、6カ国かつ域内GDPの85%を構成する国が承認することによりその60日後に発効する。後者の要件を満たすには日米両国の承認が不可欠である。TPPの7割強の市場を占める米国なくしてTPPの価値はないが、日本も2割弱を占める。TPPでは、多国間協定で初めて日本の批准が発効条件とされた。これは米国を含めTPP参加国が日本の参加によりTPPの価値が高まったと認識していることの表れである。また、国内に米国主導への強い懸念・反対があるアジアのTPP諸国にとっては、日本が交渉し妥当な内容にした上で合意したと国内で説明ができることは、大きな説得力をもつ。このように、日本の経済的価値に加え、交渉や文化という日本の価値を評価する素地があり、交渉妥結につながった。

米国の国内手続きに関し、個人的な見方を述べれば、米国にとり客観的にみてTPPに利益があることは疑いなく、米国議会はいずれは承認するだろう。ただし、その時期は誰にも分からない。大統領選が本格化する中、TPPを議論することは難しい。民主党では、その支持基盤である労組が反対するTPPに賛成すれば、候補指名を得られない恐れがある。他方、TPPは米国の価値観を基礎に、公平・公正な市場実現のために米国自身が推進した協定であり、その利益を放棄することは考えられない。

TPP協定への新規参加に関しては、韓国と台湾が非公式に強く希望し、タイ、フィリピン、インドネシア、APEC以外にもコロンビアが関心を示している。協定の発効時点で正式参加の手続きを開始できるよう交渉を呼びかけたい。

経済界への期待

TPPはわが国の貿易・対外進出に重要な役割を果たすものであり、是非活用してほしい。現在、中小企業のFTA利用率は4割に満たない。FTA税率適用申請の煩雑さや適用地域が二国間と限定されることから、関税率の低下の恩恵を感じられていない。しかし、TPPは「完全累積制度」により12カ国いずれの国で追加された付加価値であっても域内の国境におけるTPP原産性の判定に算入できるため、利用価値が非常に高い。

また、TPPで約束した投資環境が域内の国で実現されていない場合、ISDSにおいて解決するまでもなく、政府間でも相手国と協議し解決する用意がある。

最後に、交渉の現場、各国交渉官との交流を通じ、日本への尊敬、高い評価を実感した。わが国がTPP創設国の一員であることに自信をもってほしい。TPPによって強力な外交・経済面の道具を手にしたことをよく認識し、活用に注力する必要がある。

以上

経団連シンポジウム 「TPPを活かす」 開催概要

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