Policy(提言・報告書) 地域別・国別 アジア・大洋州  日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム2016共同報告書

(和文仮訳/英文正文
2016年11月11日

はじめに

日印のビジネス・リーダーは、日印首脳が両国関係の新時代の幕開けとして、特別戦略的グローバル・パートナーシップを深淵で広範で行動志向の関係に移行させ、インド太平洋地域と世界の繁栄と平和のために協働するとの決意を歓迎するとともに、両国が自由で開かれた貿易投資体制の下で経済関係を強化し世界経済の牽引役を果たすことを強く望む。

日印のビジネス・リーダーは、安倍総理の「アベノミクス」の下で進められている第4次産業革命(Society5.0)等の「日本再興戦略」が、新たな成長市場の構築を通じた事業機会の拡大をもたらし、両国企業の貿易投資を加速する効果があるものとして、引き続きその強力な推進に期待を表明した。

日印のビジネス・リーダーは、モディ首相の「メイク・イン・インディア」、「デジタル・インディア」等のイニシアティブを称賛するとともに、インドを最も優しいビジネス環境を伴う投資対象にするとの決意とそのための諸改革の推進を歓迎する。とりわけ、物品サービス税(GST)導入に向けた憲法改正案の可決、日印社会保障協定の発効、会社法の整備や外資規制の緩和、各種インフラの整備等を高く評価するとともに、さらなる課題解決に向けた強力なリーダーシップの発揮に強く期待する。

また、日印のビジネス・リーダーは、両国政府による数次商用査証有効期間の延長を歓迎するするとともに、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の下に設置された「ビジネス環境整備に関する小委員会」が本年7月に両国経済界の出席のもとで4年ぶりに開催されたことを評価する。本小委員会の定期開催を通じて、両国のビジネス環境が一層整備され、日印経済関係が更に拡大・深化することを強く期待する。

本フォーラムは、2007年の設置以来、日印双方のメンバーが協力し、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の実現を含め、両国間の多くの課題解決に貢献してきた。日印経済界は、引き続き、経済連携の推進とビジネス環境の整備、インフラ整備等の戦略的分野ならびに地球規模の課題における協力を通じて日印両国経済が共に発展し、世界経済の成長エンジンとしての役割を継続して果たせるよう、ビジネスの立場から両国政府に協力していく。

日印のビジネス・リーダーは、両国首脳に以下のとおり共同報告書を提出する。

1.経済連携の促進とビジネス環境整備

日印のビジネス・リーダーは、両国間の貿易投資等を通じた経済連携・協力関係強化のため、両国におけるビジネス環境上の諸問題の解決を引き続き求める。

インド側においては、物品サービス税(GST)の早期かつ円滑な導入に向けた制度整備、日印社会保障協定の着実な施行とともに、土地収用法改正案の早期成立、恒久的施設(PE)課税・移転価格税制等の税制・基準認証制度・知的財産制度の整理・合理化と国際整合性の確保、流通分野等の一層の外資規制や資金調達規制の緩和、工業団地等におけるサービス税課税の適正化等は、日系企業を含む企業の自由で円滑な事業活動に不可欠であり、引き続きインド政府の取り組み強化と、改善に向けた日本政府の協力を強く求める。

これらに加え、インド国内における行政手続きの公正・透明性・予見可能性確保のため、行政機関による処分等に関する手続並びに命令等策定手続に関する共通事項を定める「行政手続法(Administrative Procedure Act)」の制定と各種手続きの簡素化・迅速化を求める。また、国税に関しては「国税通則法(Act on General Rules for National Taxes)」を制定し、地方税に関しても各州が同様の州法を制定すべきである。

なお、日印のビジネス・リーダーは、「ジャパンプラス」の設置と内閣次官を議長とする「コアグループ」の創設、インド日本商工会とインド政府(商工省)との協議等を高く評価し、「ビジネス環境整備に関する小委員会」の定期開催ともに、官民連携によるビジネス環境整備の重要性を認識し、その一層の機能強化を強く期待する。

インド側は、「ビジネス環境整備に関する小委員会」に加え、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の下に設置されている「原産地規則に関する小委員会」、「強制規格、任意規格および適合性評価手続き(TBT)並びに衛生植物検疫措置(SPS)に関する小委員会」、「サービス貿易に関する小委員会」、「協力に関する小委員会」、「自然人の移動に関する小委員会」の定期的開催とその活用を通じた二国間問題の解決を求めた。

またインド側は、日本の国内法または日印租税条約を改定し、配当金、特許権使用料、技術サービス料に関する10%の源泉徴収税を廃止することを求めた。

さらにインド側は、ITおよびITが創造するサービス分野への市場アクセスを可能とするための専門家資格の相互認証制度の導入、ならびに製薬分野において他国における適合性確認結果を相互に受け入れる相互承認協定の締結を求めた。

2.インフラ整備の重要性と入札制度改革

日印のビジネス・リーダーは、日本政府のODA(政府開発援助)の供与がインドの貧困削減や社会資本整備に果たしてきた役割を高く評価するとともに、日印首脳が、インドの「アクトイースト」政策と日本の「質の高いインフラパートナーシップ」との間のシナジーを目指し、インド国内等において強靭なインフラ整備を一層進展させる旨合意したことを歓迎する。

とりわけ、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)とチェンナイ・バンガロール産業回廊(CBIC)などの回廊計画とその関連プロジェクトは日印協力の象徴であり、引き続き道路、鉄道、港湾、空港、電力・スマートグリッド、水処理、工業団地等のインフラ整備を推進することを求める。

日印のビジネス・リーダーは、官民連携による質の高いインフラ整備を促進する観点からも、インドのインフラ・プロジェクトの入札手続きにおいて、ライフサイクル・コストの低減と技術を適切に評価する総合評価落札制度の導入・拡充、PPP(官民パートナーシップ)における政府保証の付与等の官民のリスク・役割分担の合理化・適正化、一社入札の是認、プロジェクト全体を通じた一括入札の実施などをインド政府に強く求める。

3.戦略的分野ならびに地球規模の課題における協力

日印のビジネス・リーダーは、日印首脳会談において、先端輸送システム、民生用原子力エネルギー、太陽光発電、宇宙、バイオ技術、レアアース及び先端材料含め、インフラ、製造業及びハイテク分野における両国の協力を新たなレベルに引き上げることを合意したことを歓迎するとともに、これらの戦略的分野において、先進技術の導入や両国間の技術交流が重要であるとの認識を共有している。また双方は、本年7月に日印共同調査が終了したムンバイ・アーメダバード間高速鉄道整備計画に、日本の新幹線規格が採用され、研究が進んでいることを歓迎する。

産業活動及び国民生活の基盤である電力の安定供給と環境保護との調和の確保に関しては、高効率かつクリーンな石炭・ガス火力発電、再生可能エネルギーの導入拡大に加えて原子力発電に関する日印協力が戦略的に重要である。こうした観点から、日印のビジネス・リーダーは、日印民生用原子力協定の合意を歓迎するとともに、両国政府による早期締結を期待する。また、防衛ならびに安全保障分野についても、合意に基づき両国間におけるハイテク分野の協力強化が求められる。

これらの協力を推進する上で、それを支える優秀な人材の育成・確保が不可欠であるとの認識の下、日印のビジネス・リーダーは、技能訓練、大学生・大学院生の交換留学、企業内におけるインターンシップ、語学研修等の充実の重要性を改めて指摘する。

日印間の特別な戦略的グローバル・パートナーシップに基づく協力強化は、自由で開放的な貿易投資体制の下、日印両国のみならずアジア太平洋地域の経済を発展させ世界経済の持続的成長に貢献する。このため、日印のビジネス・リーダーは、現在交渉中の東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)は、物品貿易、サービス貿易、投資の自由化に加え、原産地規則の統一と累積制度の導入を通じて地域における生産ネットワークの拡大やサプライチェーンの強化に貢献し、モディ首相が推進する「メイク・イン・インディア」政策の充実にも資するとの認識で一致し、包括的で高水準なものとして早期に妥結するよう引き続き共同でイニシアティブを発揮することで合意した。

今後を見据えて

本フォーラムの両国における事務局を務めているインド工業連盟と経団連は、本共同報告書の内容を実行に移すための共同作業部会を設置し、本年7月に第1回事務レベル会合をデリーで開催した。同部会では、今後とも本共同報告書の提言を速やかに実施に移すべく各種フォローアップを実施していく。

総括

日本とインドは、相互の尊敬と協力の精神に基づき、歴史的に強い結びつきを構築してきた。加えて、両国には、相互補完的な関係および地政学的重要性に基づいて戦略的経済連携を発展させうる大きな潜在性がある。

日印のビジネス・リーダーは、アジアの主要な二つの民主主義国家の共同の取り組みが、日印両国のみならずアジア太平洋地域、更には世界全体の安定と繁栄に寄与することを確信する。

最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍総理とインドのモディ首相より我々に寄せられた信頼に対し、深い謝意を表するものである。

印日ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長 ババ カリヤニ
日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長 榊原 定征
以上