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Policy(提言・報告書) 欧州 英国のEU離脱問題に関する意見 -経済の持続的かつ健全な発展に資する交渉を望む-

2017年3月14日
一般社団法人 日本経済団体連合会

  1. 1.EU離脱を選択した昨年6月の英国国民投票から間もない8月10日、経団連は、とりあえずの意見を取りまとめ公表した#1。そこでは、(1)金融・為替市場の安定に努めること、(2)離脱プロセスの予見可能性をできる限り高めること、(3)英国とEUとの間の市場の一体性をできる限り確保すること、などを求めるとともに、離脱および新たな枠組みに関する交渉において、在欧日系企業の活動に大きな支障が生じることのないよう十分配意すべき事項として10項目を掲げたところである#2。さらに、9月12日には、G7参加国・地域の経済団体(B7)とともに、「英国とEUとの関係について、新しくバランスのとれた枠組みが見出されるよう期待しつつ注視していく」との共同声明を発信した#3

  2. 2.金融・為替市場の混乱は、幸い国民投票直後の短期間にとどまり、現在は落ち着いている。しかしながら、在欧日系企業においては、不安定な為替変動が経営上の最大の課題の一つに挙げられており#4、市場の動向を引き続き注視していく必要がある。離脱プロセスについては、昨年10月2日の保守党大会におけるメイ首相の演説#5において本年3月末までに英国として離脱通知を行う方針が明らかとなり、現在、それに向けた英国内の手続きが進行中である。離脱通知後の交渉について、メイ首相は、本年1月17日のランカスター・ハウスにおける演説#6において、離脱交渉期間の2年間でEUとの新たなパートナーシップにも合意し、合意内容を段階的に導入するとしたが、全てはEUとの交渉次第であり、予断を許さない。そのEUは、統合の理念と原則を重視するとともに、ローマ条約調印から60周年を迎える今年、27か国による統合の将来像を描こうとしている。

  3. 3.メイ首相は、上記演説において、英国にとって正しい結果を得る決意を繰り返し強調し、それが叶わない場合には交渉決裂も辞さないとしたが、そのような結末は是が非でも回避すべきである。今後、英国としてのWTO譲許表の確定手続きを速やかに完了させることが求められるとともに、交渉にあたっては、英国、EUいずれのためでもなく、両者の新たなパートナーシップを通じて経済の持続的かつ健全な発展をこそ目指すべきである。そして、その担い手である在欧日系企業を含めた企業の事業活動に大きな支障が生じることのないよう、英・EU間の市場の一体性および事業の予見可能性をできる限り確保するよう努めるべきである。下記に掲げるのは、そのための優先事項である。

  4. 4.なお、現在交渉の最終段階にある日EU EPAは、英・EU間の緊密なパートナーシップのかすがいの役割を果たすと同時に、世界各地で勢いを増しつつある反グローバル化や保護主義的な傾向に歯止めをかけるためにも、一日も早い実現が求められる。

【英・EU共通】

  • 限りなく関税同盟に近い「関税協定」の実現:無関税貿易の存続、簡素な通関手続き、利便性の高い原産地規則(付加価値比率の引下げ、関税分類番号変更基準との選択制の採用、FTA締結国への拡大累積規定の導入)
    メイ首相は、関税同盟に完全に留まることは不可能とし、新たな包括的で大胆かつ野心的なFTAを通じてEU単一市場への最大限のアクセスを追求するとする一方、EUとの無関税貿易、摩擦のない貿易を行うため、関税同盟への準参加・部分参加や新たな「関税協定」を望むとした。関税同盟から離脱し、FTAを締結する場合、無関税貿易を存続させるとともに、通関手続きおよび原産地規則をクリアする必要がある。この点、通関手続きはできる限り簡素にすべきであり、原産地規則については、上記のような方策によって利便性の高いものとすべきである。累積規定については、現在および将来においてEUが締結するFTAの相手国にも対象を拡大すべきである。
  • 広範な分野における規制・基準の整合性確保
    英国がEUから離脱し、EUとは異なる規制・基準を導入した場合、企業は二重の、あるいは追加的な対応を迫られることになる。また、投資誘致にあたって英国とEUが競合した場合、企業が思わぬ不利益を被ることも懸念される。したがって、現在、EUで統一的に適用されている規制・基準を維持、あるいはそれらと同等の効果を有する規制・基準を確保すべきである。規制・基準の統一等が困難な場合には相互承認を行うべきである。企業からは特に以下の必要性が指摘されている。
    • 自動車における国際標準(UN/ECE)の適用継続
    • 単一パスポート制度が英国に適用継続されない場合(その場合であっても既にパスポートを保有している企業には継続的に適用されることが望ましい)、金融サービスにおける規制の同等性確保を通じた支店設置・国境を越えるサービス提供の容認
    • (欧州医薬品庁が英国から移転する場合であっても、)欧州医薬品規制ネットワークへの英国の参加継続
    • 化学物質に関するREACH規則等の環境規制の適用継続
    • 単一ユーロ決済圏への英国の加盟継続
    • 知的財産の統一的な保護の確保
  • 英・EU域内グループ会社間のサービス移転、資金移動、クロスボーダー組織再編の自由の維持
    グループ会社間のサービス(経理・人事等のシェアードサービス)の移転の自由、資金(配当・利子・ロイヤルティ支払い)に関する源泉税の免除、クロスボーダー組織再編にかかる非課税措置を維持すべきである。
  • 在英のEU国籍就労者および在EUの英国籍就労者が享受している権利の保障(交渉の対象とせずに速やかに実現)
    メイ首相は、英国に居住するEU国籍者(約280万人、ポーランド国籍が90万人超と圧倒的多数)とEU域内に居住する英国民(約100万人、30万人超が居住するスペインが最多)の権利(少なくとも5年間当該国に継続的かつ合法的に居住する者は自動的に永住権を有するなど)について、できる限り早期に保障したいとし、既に他のEU加盟国のリーダーにその意向を伝えたと説明したが、必ずしも全員の同意が得られている訳ではないことを示唆した。本件については、英国政府が離脱白書で述べているとおり、交渉の対象とせず、速やかに実現すべきである。
  • 英・EU間の自由なデータフローの確保、日英EU三者間の自由なデータフローの実現
    EUから離脱した英国とEUとの間の自由なデータフローが阻害されないようにすべきである。日EU間および日英間の自由なデータフローを併せて確保することによって、日英EU三者間の自由なデータフローを実現すべきである。
  • 離脱協定と新たな枠組み協定(英EU FTA)の同時合意が実現しない場合の十分かつ切れ目のない移行期間の設定
    メイ首相は、現在のEUとの関係から新たなパートナーシップに移行するにあたって、企業にとって「崖からの転落」となるような事態は避けるべきとして、離脱交渉期間である2年間のうちに新たなパートナーシップについても合意したいとの意向を示した。また、新たなパートナーシップの段階的導入(phase-in)を行うことが英・EU双方の利益に適い、企業にも十分な準備期間を与えることになるとした。このような「円滑で秩序立った離脱」は望ましいものの、相当な困難が伴うと想定される。したがって、離脱協定と新たな枠組み協定の同時合意が実現しない場合は、離脱日から新たな枠組みが効力を有するまでの間、現行の枠組みの下での企業の事業活動に大きな変更を強いられることがないよう、十分かつ切れ目のない移行期間を設定する必要がある。
  • 円滑かつ速やかな法人設立手続き(免許等の取得を含む)の確保
    英国のEU離脱に伴う欧州事業戦略の見直しの結果、企業が法人を英国あるいはEUに新たに設立する場合、免許等の取得を含めて円滑かつ速やかに手続きが完了することが重要となることから、英国およびEU加盟各国においては、それが可能となるような態勢を整えるべきである。さもなければ、十分な移行期間を設けたとしても、その効果は大きく減殺しかねない。

【対英国】

  • 移民流入の管理と労働力(高度技能を有しない労働力を含む)へのアクセスの確保との間の適切なバランスの確保
    メイ首相は、EUからの移民数を管理する意向を表明する一方、特に高度技能を有する移民は必要との姿勢を示したが、高度技能を有しない労働者に支えられている業種もある。したがって、新たな移民制度の下では、移民流入の管理と高度技能を有しないものを含めた労働力へのアクセスの確保との間の適切なバランスを確保すべきである。
  • 現在、英国がEU加盟国として自由貿易を享受しているEU域外の第三国・地域との、現行に準ずる高いレベルでの特恵アクセスの確保
    EUがFTA等を締結している国・地域のうち、日本企業の生産拠点等が置かれている国・地域(例えばトルコ、南ア、メキシコ等)と英国との間の自由な貿易関係の継続は、日本企業にとって不可欠である。英国のEU離脱後直ちに、そうした国・地域との間に特恵アクセスを確保するため、所要の措置を講ずるべきである。
以上

  1. 経団連「英国のEU離脱問題に関するとりあえずの意見」(2016年8月10日)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/074.html
  2. (1)無関税貿易の存続、簡素な税関手続き(利便性の高い原産地規則を含む)の確保、(2)規制環境の整合性の確保、(3)英・EU域内グループ会社間の資金(配当・利子・ロイヤルティ支払)の移動にかかる課税免除等の継続、(4)英・EU域内グループ会社間のサービス(経理・人事等のシェアードサービス)の移動の自由の継続、(5)英・EU域内グループ会社間のクロスボーダー組織再編にかかる非課税措置の継続、(6)英・EU域内におけるEU単一パスポート制度の適用継続、(7)英・EU間における自由なデータフローの確保、(8)英・EU間における就労等のビザ不要の継続、(9)英国内にあるEU機関(特に欧州医薬品庁)の立地の継続、(10)英国において進行中のプロジェクトに対するEUからの支援の継続
  3. 「B7共同声明」(2016年9月12日)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/073.html
  4. ジェトロ「2016年欧州進出日系企業実態調査」
    https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/ee4a80e2b846406e/20160098.pdf
  5. http://press.conservatives.com/post/151239411635/prime-minister-britain-after-brexit-a-vision-of
  6. https://www.gov.uk/government/speeches/the-governments-negotiating-objectives-for-exiting-the-eu-pm-speech

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