Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  コーポレートガバナンス・コード改訂案及び投資家と企業の対話ガイドライン案への意見

2018年4月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会
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Ⅰ.はじめに

持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、株主、顧客、従業員、地域社会などのステークホルダーの利益のみならずSDGsの達成をはじめとするグローバルな社会的課題解決を視野に入れた望ましいコーポレート・ガバナンスの確立に向けて企業は不断の取り組みを行う必要がある。

経団連では、こうした観点から、昨年11月に改定した企業行動憲章の中で、会員企業に対し、Society 5.0の実現を通じたSDGsの達成やESG(環境・社会・ガバナンス)の視点からの経営を呼びかけるとともに、トップの主導に基づく実効あるコーポレート・ガバナンス体制の確立と、株主をはじめとする幅広いステークホルダーとの建設的対話の推進、非財務情報を含む企業情報の適切な提供を求めた。

企業においては、上場企業に対し2015年6月にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始されたことも踏まえ、SDGsの達成やESGの視点から、自社の事業戦略を見直したり、投資家との対話や開示を工夫したりするなど積極的な取り組みが着実に進められている。

この度、政府の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は、コーポレートガバナンス・コードの改訂案と投資家と企業の対話のためのガイドライン案を公表した。企業と投資家との実効ある対話の促進と、コーポレートガバナンス・コードのあり方の不断の検討は、わが国経済の持続的な成長の観点から極めて重要であり、同会議の姿勢を評価する。

コード改訂とガイドライン策定にあたっては、投資家と企業との対話やコーポレート・ガバナンスのあり方を、より一層「形式」から「実質」に方向付けることが何より肝要である。

そのためには、現コードの導入により、わが国企業の中長期的な企業価値向上にどのような成果をもたらされたのか、逆に、どのような成果が得られていないのか、その要因はコーポレート・ガバナンスの問題なのかなどについて、客観的・包括的な検証を着実に行う必要がある。その際、コードを踏まえ取組みを進めている各社の実情に応じた創意工夫の実態にも十分に焦点をあてることが重要である。コードとガイドラインを成案化するにあたっては、こうした検証を是非行うべきである。

Ⅱ.各論

1.政策保有株式

  1. (1) 方針の開示(コード原則1-4、ガイドライン(案)4-2)
    企業価値向上の観点から、政策保有株式の合理性を常に検証し、投資家との対話の中における保有の目的・合理性の説明も踏まえ、保有意義のなくなったものは処分していくことは当然である。
    他方、政策保有株式は、取引先との長期的・安定的関係の構築・強化、業務提携や共同事業の円滑化・強化などを目的として、中長期的な企業価値向上の観点から必要なものも存在する。
    そこで、例えば、「政策保有株式の縮減・保有に関する方針・考え方」などとすることが適切である。

  2. (2) 個別の政策保有株式についての保有目的等の精査、保有の適否の検証(コード原則1-4)
    取締役会は、経営の意思決定機関として、極めて重要である。他方、取締役会に諮るべき重要事項は、各社により多様であり、また、政策保有株式についても保有の意義、保有の規模は銘柄ごとにさまざまである。
    こうした中、今回の提案は、すべての銘柄について取締役会自らが検証作業を行うことを意味するわけではないことを確認したい。

  3. (3) 検証内容の開示(コード原則1-4、ガイドライン(案)4-1)
    政策保有株式の保有の適否を検証することは重要であり、また、検証の過程の透明性を確保することも重要である。
    もっとも、個別の保有銘柄の検証の内容について開示すれば、開示内容は極めて膨大となり、発行体にとって負担となることが懸念される。また、検証の内容は、個別の取引内容や企業戦略にも関わるため、企業秘密の観点から開示ができない保有銘柄が多数出てくることが想定される。
    そこで、フォローアップ会議における座長発言の通り、保有の適否の検証の内容の開示は、個別銘柄ごとの検証内容の開示ではないことを確認したい。

  4. (4) 売却等の意向が示された場合の対応(コード補充原則1-4①、ガイドライン(案)4-3)
    政策保有株式の中には、相互に株式を持ち合うことにより提携深化や取引拡大を図ることを相互に意図し、企業価値の向上を目指すもの(いわゆる「資本提携」)もある。こうした政策保有株式の中には、当事者間の合意や契約により、その売却が提携や取引関係の縮減につながることが前提となっている場合もある。
    そこで、こうした企業間の関係のあり方が阻害されないよう、補充原則1-4①、ガイドライン案4-3の文言について、削除も含め見直すことが適切である。

2.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮(コード原則2-6)

スチュワードシップ活動は、企業のコーポレート・ガバナンスを実効あるものとする観点から極めて重要である。他方、企業年金にはさまざまな規模のものがある中で、全ての企業年金がスチュワードシップ・コードを受け入れ、原則に規定されている体制整備を行うことは実質的には困難な場合が想定される。

そこで、まずは、今回のコード改訂に本項目は盛り込まず、先般改訂されたスチュワードシップ・コードの定着状況を見極め、運用機関によるスチュワードシップ活動をしっかりフォローし、市場全体として、スチュワードシップ活動を促進していくことが重要である。

年金受給者のために運用上の独立性が求められる中で、本項目を盛り込めば、企業年金に対する人事面や運営面での母体企業の関与が大きくなり、企業年金の運用上の独立性が損なわれることが懸念される。

3.経営陣の具体的な報酬額の決定(コード補充原則4-2①)

組織全体として稼ぐ力を最大化するための取締役報酬の決定方法はさまざまであり、会社法上許される範囲で、取締役会で具体的な報酬額を決定せず、例えば、取締役会では報酬の決定方針や報酬水準の妥当性など役員報酬の決定方法を決定するにとどめ、代表取締役に対し具体的な報酬額の決定を再一任している企業もある。また、指名委員会等設置会社においては、具体的な報酬額は報酬委員会で決定することとされている。

そこで、こうした企業にも配慮し、取締役会の決定事項として、具体的な報酬額の決定まで求めないことが適切である。

4.CEOの選解任(コード補充原則4-3②、4-3③、ガイドライン(案)3-1、3-2、3-4)

企業価値の向上を図っていくうえで、CEOの選解任は極めて重要であり、そのための客観性・適時性・透明性ある手続を設けることには大きな意義がある。

もっとも、有事においては、客観性・適時性・透明性に加え、変化する社会・経営環境を踏まえて機動的に対応することが求められることから、選任に関するコード改訂案の補充原則4-3②については、例えば「客観性・適時性・透明性ある手続に従い、社会・経営環境を機動的に踏まえつつ合理的な時間と資源をかけて」などとすることが適切である。ガイドライン案3-2も同様である。

また、ガイドライン案3-1「確立された考え方はあるか」とされている点についても、機動的に状況に対応することに配慮し、「確立された」との文言を削除し「考え方はあるか」に修正することが適切である。

さらに解任に関するコード改訂案の補充原則4-3③についても、客観性・適時性・透明性ある手続を設けることは重要であるものの、予め具体的な解任事由を設けることで硬直的な運用となり、かえって企業価値向上に繋がらない場合も想定される。取締役会が、会社やCEOの業績や社会・経営環境等を踏まえ、十分な審議を尽くして解任の要否を柔軟かつ機動的に判断することができるよう、例えば、「取締役会は、会社の業績や社会・経営環境の変化等の適切な評価を踏まえ、…確立すべきである」などとすることが適切である。ガイドライン案3-4も同様である。

5.独立社外取締役の有効な活用(コード原則4-8)

原則4-8の後段では「業種…機関設計…等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は」十分な人数の独立社外取締役を選任すべきとされている。

わが国の上場会社の約7割を占める監査役設置会においては、独任制のもとに強力な権限を有する監査役が設置されており、会社法上取締役会への出席義務を負う。とりわけ社外監査役は社外取締役とともに取締役会の独立性を担保することに繋がっている。そこで監査役設置会社における「3分の1以上」のカウントにあたっては、監査役も含めて考えることを注記等で明示することが適切である。議決権行使助言会社の最大手の一つであるグラスルイスの議決権行使基準においても、独立性の判断基準として、監査役設置会社については役員(取締役+監査役)の3分の1以上が独立役員(独立社外取締役+独立社外監査役)でなければならないとの助言方針を設けている。

6.指名・報酬への独立社外取締役の関与(コード補充原則4-10①、ガイドライン(案)3-2、3-5)

CEOをはじめとする経営幹部の指名、報酬が、独立社外取締役の適切な関与・助言の下に行われることは極めて重要である。持続的な成長を実現するための独立社外取締役の関与・助言のあり方は、企業の置かれた状況によりさまざまであり、最善のあり方を一律に定めることは困難である。

そこで、「指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会」は例示にとどめ、「例えば、指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会など」とすることが適切である。ガイドライン(案) 3-2、3-5も同様である。

7.今後の進め方

  1. (1) ガイドラインの位置づけの周知徹底とフォローアップの実施
    ガイドラインでは、冒頭、「コンプライ・オア・エクスプレイン」を求めるものではないこと、個々の企業ごとの事情を踏まえた実効的な対話を行うことが重要であることが明記されている。従って、ガイドラインに基づき投資家が企業と対話をするにあたって、ガイドライン記載事項ができている・できていないというチェックボックス的な使い方をしないよう、政府を含む関係者においてガイドラインの位置づけ等について十分に周知するとともにフォローアップを行っていただきたい。

  2. (2) 改訂コードを踏まえた開示
    コード改訂後、多くの上場企業は株主総会を開催し、株主総会で選任された役員のもとで自社のコーポレート・ガバナンスの取り組みや、開示のあり方について検討することになる。そのためには十分な期間が必要であることから、コードの改訂を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出時期については十分に配慮する必要がある。

  3. (3) フォローアップ会議の構成
    フォローアップ会議の議論の進め方については、冒頭に述べたように、コードに関する客観的・包括的な検証を行うことが重要である。また、その委員のほとんどは機関投資家あるいはコンサルタント会社、学者など、上場企業の経営に携わった経験が無いと考えられる者であり、発行体企業の委員(特に、上場企業の多数を占めている監査役設置会社からの委員)は極めて少数である。投資家と企業との対話を通じ、実効的なコーポレート・ガバナンス改革を進めるためには、投資家側の意見に加え、発行体企業の声も踏まえて議論がなされることが望ましい。従って、今後の議論にあたってはフォローアップ会議のメンバーにおける発行体企業の割合を高めることを検討していただきたい。

Ⅲ.おわりに

持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、SDGsの達成をはじめとするグローバルな社会的課題解決を達成していくためには、各企業が、各々の置かれた状況に応じて、たゆまぬ創意工夫によって望ましいコーポレート・ガバナンス確立に向けた取組みを継続していく必要がある。

経団連では、引き続き会員企業に対し、さらなる努力を呼びかけていくとともに、幅広いステークホルダーとの対話を通じて、わが国経済界としてのあるべき姿の実現に向けて取組みを推進していく。

以上