(抄訳/正文英文)
前文
我々G7の経済界は、2019年7月4日~5日にフランスのエクス=アン=プロヴァンスで開催されたB7サミットの閉会にあたって、この声明を採択・発出した。
これは、“Society 5.0 for SDGs”を掲げて本年3月に発出された、B20東京サミット共同提言を礎としている。長年にわたり、B7とB20はより包摂的で持続可能な成長と、それを実現するためのグローバルなガバナンスの改善の必要性を一貫して強調してきた。
かつてなく経済の相互依存が深まりリスクがグローバル化する中で、我々は各国政府に対し、保護主義及びグローバル経済への誤った不信感に協調して対抗することを求める。
我々B7は、G7が包摂的で持続可能な経済成長と21世紀のガバナンスを推進するという地球規模かつ野心的な取組みを行う上で、2019年は好機であると確信している。
G7は、IMFと世界銀行による成長志向の取組みと国連の改革を支援するとともに、遅滞しているWTO改革が実質的に進められるよう早急に働きかけるべきである。併せて、新しい課題に対応すべく役割を強化しているILOと協力すべきである。
包摂性を追求することは、長期的に各国・地域・共同体の経済的・社会的潜在力を高めるための一つの戦略である。このため、B7はG7に対し、以下提言を反映した力強い声明をとりまとめるよう要望する。
開かれた公正な国際貿易・投資
1. WTO上級委員の任命失敗という膠着状態の解消
- WTO上級委員会の現在の膠着状態を早期に解消するために必要なあらゆる努力を行うとともに、WTOの紛争解決制度を現代化すること(例:手続きの簡素化、判断の対象の明確化)。
- 最後の手段として、仲裁#1の活用も含め、拘束力を有する紛争解決手段を加盟国が用いることができるよう代替的な仕組みの確立を検討すること。
#1 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定 附属書二 紛争解決に係る規則及び手続に関する了解 第25条
2. 企業の公平な競争条件の確保
- 産業補助金と国有企業に関するより良い枠組みを構築するとともに、過剰生産能力の解消に向けた努力を継続すること。
- 競争中立性を探求し、補助金通知に関するルール・透明性・効率性を早急に改善すること。
- 日米欧三極貿易大臣会合における議論を通じて、この分野における具体的な提案が速やかになされること。
- 強制的な技術移転を禁止する新たなルールの整備を主導すること。
3. デジタル貿易に適応したルールの確立
- 電子商取引という新たな貿易の実態に拘わるルールが欠缺する中、各国がまちまちな方策を取っている。そこで、電子商取引に関する有志国会合に基づき、具体的かつ時宜を得た成果をもたらす、野心的で包括的な電子商取引に関する合意に向けた交渉を行うこと。
- 自由で信頼できる越境データ流通に関する拘束力のあるルールの確立
- データ・ローカライゼーション等の制限的な政策・施策への対処
- ソースコードの移転やアクセス付与を市場参入要件とすることの禁止
- 電子的送信への関税不賦課モラトリアムの恒久化・法的拘束化
4. 貿易自由化とよりバランスの取れた市場アクセスの確保
- 世界市場の大きな割合を占めるにも拘わらず「自己宣言」によって途上国として優遇されている国が存在する現状に鑑み、WTO各加盟国が経済規模や競争力に応じた責任を果たすこと。
- 貿易自由化を推進する柔軟な多国間主義(複数国間アプローチを含む)を追求すること。
5. 安全保障と開かれた貿易・投資とのバランスの確保
- 安全保障を確保する措置を講じる際に、抜け穴を塞ぐために他国と協力するとともに、対象となる技術は安全保障上不可欠な技術のみに限定すること。
環境と調和した移行と生物多様性
1. 気候変動と生物多様性という相互に関連する課題解決に向けた野心的なグローバルの目標を設定
- パリ協定の履行を促すため、革新的技術の研究開発・社会実装を加速するとともに、外部性を適切に内部化し、世界全体で限界費用を均等化させる方法でのカーボン・プライシングに関する国際的な議論を追求すること。
- 生物多様性に関し、2020年のCOP15を見据え、企業を交えて現実的な目標を設定し、妥当な測定・検証方法の研究・設定を支援すること。
2. 持続的な経済成長に向けた資源効率化策の推進
- 資源の効率的な利用を基盤とする経済への移行を推進し、エコデザイン、3R(リデュース、リユース、リサイクル)等のコンセプトがもたらす成長の機会を維持するとともに、資源の再利用における価値の保持を奨励するために、特に以下の事項を推奨すること。
- ライフサイクルアプローチに基づき、地球規模での経済的な影響を考慮に入れて、CO2削減量に対する費用などの観点で環境に対して最も優れた方策を優先
- 海洋プラスチックごみを含む製品等の違法投棄と、廃棄物の違法な移送の対策に向けた国家間の協力の強化
- 既存の資金調達の在り方を、サーキュラー・エコノミーや資源効率性向上に向けてエネルギー転換を促すものに適応
- サーキュラー・エコノミーと資源効率性に対する革新的な資金調達ツールの開発機会の検討
- 資源効率性のためのG7アライアンスを通じて、資源効率性に関する企業の優良事例を共有
- 資源効率性を向上させる優れた政策・経験を主要国で共有
3. 包摂的なアプローチを通じてインフラへの長期資金を提供
- 事業会社による気候変動対策に関する金融関係者の理解を促し、グリーン投資を促進すること。
- 公平な競争環境の下で、金融関係者や事業会社に透明性と一貫性を提供するため、各種イニシアティブの調和や自主的取組みの慣行を構築すること。
- インフラ固有の金融リスクを削減する最も妥当な方策を特定すること。
- 市場の分断を避けること。
- 以下の要素に基づく質の高いインフラを促進すること。
- 開放性、透明性、財政健全性及び開発戦略との整合性
- 安定・安全・強靭性
- 質の高い地域の発展(雇用創出、能力構築)
- 経済性と財務の健全性(ライフサイクルコストを含む費用対効果と市場活用)
- 社会的・環境的な持続可能性
4. 環境と調和した移行への労働市場の準備
- 既存・新規の職業に必要となる技能・資格を保証するとともに、経済的・社会的コストの透明性を確保するような経済・社会・労働政策を通じて、環境と調和した移行について企業を支援すること。
デジタル変革とサイバーセキュリティ
1. 脅威データの評価と共有
- 世界中のインシデント情報を収集する、サイバー・リスクに関する国際的なプラットフォームを整備すること。
2. 基準の策定
- 相互承認された国際標準に基づくセキュリティ対策のための相互運用可能な要件を確立すること。
- 産業界の強い関与の下で、国際的な標準化団体によって、5GやIoT等の製品群に関する共通のサイバーセキュリティ標準を定義すること。
- サブライチェーン全体で順守すべき最低基準を設け、実施を支援する効果的な仕組みを構築すること。
3. 予防・防御
- 重要インフラを積極的に保護し、適正な管理を行うこと。
- 重要インフラを明確に定義し、国際基準やベストプラクティスに沿ったセキュリティ対策の要件を整備すること。
- 暗号化能力を棄損、ないしは利用者データへのアクセスに脆弱性を埋め込むことを要求するような取組みに反対すること。
- 市民および企業、特に中小企業の認識を啓発し、教育を促進すること。
- デジタルに関する生涯教育への投資を増やし、スマートレギュレーションがどのようにデジタル変革への信頼を確保することが可能かについて、広範な社会対話を進めること。
4. 執行
- サイバー空間での正当防御として「私的正義」を検討するいかなるアプローチも惹起しないように、サイバー攻撃に対抗する政府部門の能力開発を進めること。
- サイバー犯罪に関するブダペスト条約に加えて、サイバー犯罪に対抗するための国際協力を進めるための公的および私的な方針、法的枠組、リソースが必要であることを認識すること。
- 経済スパイ、営業秘密の窃盗、海賊行為、プラットフォームの偽造を含め、知財、情報およびデータを違法に狙い悪用するサイバー犯罪に対する国際法の執行強化に向けた協力を進めること。
- 国連サイバー政府専門家会合(UNGGE)等を通じて、サイバー空間におけるセキュリティや安定性を促進する国際的なサイバー規範を整備すること。
新しいグローバル・ガバナンスと仕事の未来
1. 教育・訓練システムの構築
- G7各国の教育・訓練制度を早急に改革することによって能力の水準を向上させるとともに、デジタル化時代に必要な技能を提供すること。
- 将来にわたって人々が雇用され、経済活動を展開していくために、職業訓練を充実させること。
2. 平等、多様性、包摂性の確保
- 平等、多様性、包摂性を確保するための公共政策を強化すること。
- 賃金やキャリアの不平等を是正する政策を実施するとともに、企業の自主的な取組みを奨励すること。
- 金融・人材育成・その他のサービスへのジェンダーニュートラルなアクセスを確保することによって女性起業家を支援すること。
3. バランスのとれた一貫性のあるグローバル・ガバナンスによる成長の促進
- 成長志向のガバナンス改革に関し、ILO、IMF、世界銀行、WTO、OECD等の国際機関が政策協調を緊密化し、一貫性を高めること。
- グローバル・ガバナンスを改善する国際的な取組みを開始するとともに、提言に社会的な側面を包含すること。
以上