2019年10月17日、アジアの12の経済団体がベトナムのハノイに集まり、第10回アジア・ビジネス・サミット(ABS)を開催した。同サミットでは、アジア各国・地域の経済界による緊密な協力体制が持続的で包摂的な発展の鍵を握るという意見で一致した。特に、急速な技術的変化が見られるデジタル時代では、テクノロジーからインフラ、人材、農業、医療、環境に至るまで、あらゆる分野での包括的協力が不可欠である。サミットでは、包摂的かつ持続的な発展と繁栄の共有との目標の達成に向けたアジア経済界の一致した取り組み強化の決意を表明する以下の共同声明を採択した。
1.デジタルアジア:革新的で持続的な発展に向けた協力
(1)成長戦略:革新的な発展の促進
世界が第4次産業革命に突入する中、デジタル化とイノベーションは様々な形で社会のあらゆるセクターに影響を及ぼす。アジア各国・地域は、開かれた政策枠組みを堅持し、デジタルイノベーションが生み出す機会を探求しなければならない。同時に、技術進歩を我々の活動のあらゆる分野に反映させていく必要がある。
とりわけ、ビジネスは経済を切り拓く原動力として、技術や経営の面において常に革新的であり、力強く持続的なビジネスモデルを有する必要がある。アジア経済界は、環境保全技術の活用、資源の効率的利用、サーキュラーエコノミーを柱に、高度な企業の社会的責任と環境、気候変動に配慮した健全な事業活動を推進する。
そのために、アジア経済界は、全ての国・地域をグローバルバリューチェーンに包含するイノベーションの促進に向けた協力体制を強化し、経済の発展段階に係らず誰もが享受できる相互利益をもたらすことで、域内の持続的成長を促進する。
アジア経済界は、サイバーセキュリティの重要性並びに地域及びグローバルなレベルでの緊密な連携の必要性を認識した。
(2)スマート社会:持続的な発展の確保
活気あふれる経済発展は、急速な都市化や気候変動をもたらす。加えて、アジアの多くの都市は、海に近接していることから、台風やサイクロン、地震などの自然災害に直面している。経済成長を強化しながら環境保全にも取り組み、持続的な発展を確かなものとするためには、スマート社会の実現へと繋がる各国・地域の一体となった取り組みが不可欠である。
今後、経済界は、政府と手を携え、気候変動問題に対処する重要な要素となる産業に係る環境基準策定に取り組み、河川の水資源を有効活用し、グリーン成長を追求する。
我々は、スマート社会の発展のため、アジアの都市が連携し、経験とベストプラクティスを共有することを支持する。
2.グローバル・アジア:包摂的発展のためのパートナーシップ
(1)自由貿易とグローバルバリューチェーン:経済包摂性の促進
保護主義とナショナリズムに起因する不確定要素が顕在化する中、アジア経済界は、アジア各国・地域全体に持続的で包摂的な成長と繁栄をもたらす最善の選択肢として、自由で開かれた貿易の実現に全力を挙げて取り組む。
我々は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の拡大および東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の早期実現の加速化が地域経済統合の達成に向けた主要目標であることを再確認するとともに、これらの協定を支持する。また、我々はEPA及びFTAは排他的であってはならず、世界中の人々に裨益するよう、WTO整合的な貿易の自由化が実現されるべきであるという認識で一致した。
また、アジアの経済団体は、零細・中小企業(MSMEs)が引き続き多くのアジア各国・地域の経済の中核であるとの認識を共有している。したがって、我々は、MSMEsの国境を越えた事業展開とグローバルバリューチェーンへの参画を支援することにより、インターネットやデジタル経済、電子商取引プラットフォームを通じたMSMEsの革新力や世界的なプレゼンスが強化されることを期待する。
アジア経済界は、WTOの果たす重要な役割及びルールに基づく多角的貿易体制がMSMEsを含めた貿易の発展に寄与すること認識し、強く支持を表明する。我々は、WTOの重要な役割である紛争処理機能の低下の迅速な解決を求める。また、今日のデジタル経済における新たなビジネスモデルに対応すべく、既存のWTOルールの見直しも重要である。
(2)インフラと人材:地域協力の強化
インフラと人材は、経済成長の推進に欠かせない。アジア各国・地域間におけるインフラ整備の差異が物品・サービスの円滑な流れを著しく遅延させ、国内・地域内の貿易を妨げている。アジア経済界は、インフラ開発における官民のパートナーシップを支援する実効性ある仕組みづくりを求める。インフラプロジェクトの資金調達を促進すべく、規制・制度の不確実性の除去と緩和、煩雑な行政手続きの簡素化も求められる。
一方、能力開発と人材も地域協力の重要な課題である。自動化や人工知能(AI)の急激な進歩を特徴とするデジタル時代には、多くの伝統的な職業が置き換えられ、新しいテクノロジーに適応できる新たな資質が求められるようになる。スタートアップなどの革新的企業やハイテク企業を育成する取り組みを推進すべきである。アジア各国・地域間で人材育成の実効性ある協力体制を構築すれば、アジア全体の競争力強化につながる。