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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 経済の電子化に伴う課税上の課題に対する第1の柱における統合的アプローチに関する公開諮問文書に対する意見

2019年11月12日

OECD租税政策税務行政センター
租税政策・統計課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

経済の電子化に伴う課税上の課題に対する第1の柱における
統合的アプローチに関する公開諮問文書に対する意見

1.はじめに

経団連は包摂的枠組における経済の電子化に係る課税上の課題に対するOECDの迅速な検討により統合アプローチが提示されたことを歓迎する。経済の電子化に対する税務上の対応として欧州諸国等を中心にオンライン広告等について引き続き独自の課税を行う動きが見られるが、このような各国の一国主義的な売上への課税は二重課税を生じさせるおそれがあり、許容できない。各国は、長期的解決策に合意するまでは一国主義的な課税を控えるとともに、合意した場合には、それらの措置を撤廃することが求められる。また、今般の国際課税原則の見直しは各国協調の下、各国が同様の制度を導入することで実効性が期待できるものであり、一部の国のみが制度を導入・適用することになると、納税者からすると二重課税のリスクが高まることとなる。OECD・G20としても各国に一国主義的な課税を控えること及び撤回することを強く働きかけるとともに、各国が新しい制度を導入するよう環境整備を行うべきである。

今回の第1の柱に基づく課税は、経済の電子化に対処するために、市場国で物理的拠点がない場合に加え、物理的な拠点がある場合も含め従来の国際課税原則に変更を加えるものとなっている。企業にとっては税の安定性を確保することが極めて重要であり、今回の提案でも一定の配慮がなされているが、依然として対象が過度に広範となり、市場国への利益配分も過分となるおそれがある。また、二重課税や事務負担の増加も懸念される。

新制度では、比例原則の観点から、適用対象の適正な絞り込みを行うとともに、多くの国の参加を得て包括的な制度とする観点から、市場国への利益配分は控えめな水準とすべきである。すなわち、現行制度下での利益配分の結果を大幅に変えるようなものとすべきではない。また、申告・納付の負担が少ない簡素な制度とすることが必須である。制度の実効性・適正性を担保する観点から、各国が結果に服するかたちでの強力な紛争予防・解決の手段を確保し、二重課税を防止・排除することも不可欠である。

これらの観点を踏まえ、以下、各質問項目についてコメントする。

2.質問項目への回答

(1) 消費者(ユーザーを含む)向けビジネスを対象とすることについて

Amount A では消費者向けビジネスが対象となるところ、公開諮問文書では、顧客への関与や相互作用、データの収集と活用、マーケティングとブランディングが重要などのいくつかの要素は示されているものの、消費者向けビジネスについて明確な定義はなされていない。消費者向けビジネスに対象を限定することが前提であれば、明確かつ具体的な線引きが極めて重要である。

  1. 消費者/ユーザーとの関係
    基本的に、消費者との相互作用が認められないビジネスは対象とすべきではない。消費者向けビジネスの定義は明確かつ各国間で恣意的な解釈を行う余地が生じないものにすべきである。また、納税者及び税務当局双方の安定性の担保という観点から、特定の適用除外を明確に設けるべきである(詳細は e を参照されたい)。

  2. 多国籍企業グループの定義
    連結財務諸表を基礎に配分対象利益を特定するのであれば、多国籍企業グループの範囲についても、連結財務諸表と同様とすることが自然であり、基本的には50%超の資本関係があるかどうかをベースに判断すべきである。具体的な設計に際しては、国別報告事項(CbCR)やOECDモデル租税条約など、既存制度との接続も踏まえる必要がある。

  3. 異なるビジネスモデル(含むマルチサイド・ビジネスモデル)及び仲介業者への販売も対象とすること
    仲介者に対する販売についても、消費者向けビジネスに該当しうるかもしれないが、後述するとおり、売上高の算定に際しては一定の配慮が必要となる。

  4. 公平性・執行・コンプライアンスコストも踏まえた(対象とすべき)多国籍企業グループの規模
    企業の納税実務に係る負担が膨大となるおそれもあることから、制度の対象を限定すべきである。その際、国別報告書の750百万ユーロという基準は1つの参考値とはなるが、必ずしも前提とする必要はない。CbCRの作成義務を負う多国籍企業グループは総収入金額ベースで世界の90%をカバーするとされるが、比例原則の観点からすれば、電子経済の議論においては、これほどの捕捉率は求められず、さらに対象を限定するという考え方もあるのではないか。

  5. 除外(カーブアウト)するビジネス及びその基準(例:コモディティ)
    除外すべき対象については、各国で見解が異なることがないよう明確な基準を示すことが必要である。少なくとも、消費者向けでないことが明確である事業や消費者との直接の接点はない事業は対象に含めるべきではない。具体的には、そのもの自体が最終製品のマーケティングに用いられるようなブランド化した中間財(その定義は恣意性の介在する余地なく確定する必要がある)を除き、素材や機械部品などさらに製造・加工が予定される中間財の製造・販売、産業用機器、OEM製品等は対象から除外されることを明確化すべきである。また、公開諮問文書で例示されている採掘産業、コモディティ、銀行・保険・証券などの金融業についても、除外すべきである。なお、コモディティについて、どのような商品・事業が当てはまるのか、明確化すべきである。
    医療用医薬品も対象から除外すべきである。医療用医薬品の大部分は、医療サービス事業者に提供され、消費者への提供のあり方や広告宣伝も厳しく規制されている。
    また、サービスの実際の提供が消費者への接点となる事業に係る製品の提供者(旅客用船舶・鉄道車両・航空機、医療機器等の製造及び販売)や、市場国の政府・自治体が製品・サービスの提供先となる場合(インフラビジネス、建設プロジェクト等)、製品・サービスの公共性が高く、市場国の法令等により規制され、市場国の子会社から直接サービスの提供が求められている場合(電気通信事業)、モデル租税条約に規定のある不動産や海運、航空運輸サービス等の場合も対象から除外することが適当である。
    多国籍企業グループ全体が消費者向けか否かを判定する際には、上記、適用除外を踏まえた上で、グループ全体に占める消費者向けビジネスの占める割合又は金額で判断することが考えられる。公開諮問文書がマーケティングやブランディングに着目していることや、第1の柱がそもそも国家間の利益配分の修正を意図していることを踏まえるならば、一定割合又は規模の広告宣伝費支出のあるグループや海外売上比率が一定以上の企業グループに対象を限定することなども追加的な考慮要素になるかもしれない。

(2) 新しいネクサス(New Nexus)

新たなネクサスは物理的存在の有無に関わらず、主に売上高に応じて認定するとされているが、売上高の定義等については一定の配慮が必要である。

なお、今回の新たなネクサスルールは、純粋に法人税の枠組みで市場国に利益を配分するために用いられるものであり、付加価値税などの間接税及び税務以外の法規制において新たな規制を生じさせるものではないことに留意すべきである。

  1. 各国における売上高の定義や適用について
    各国における売上高を製品またはサービスの最終消費者の所在地で判定するのは現実的ではない。販売子会社の所在地国と消費者の所在地国は必ずしも一致せず、また、複数の仲介者を介して最終消費者のいる市場国に製品が提供される場合もある中で、その取引過程をすべて把握することは不可能又は極めて困難である。
    少なくとも、販売子会社が所在せず非関連者を通じて市場国向けに販売活動を行っている場合には、事務負担軽減の観点からは、当該非関連者向けの売上高をもって当該市場国向けの売上高とせざるをえないのではないか。また、仲介者が存在する場合、仲介者に対する売上と、仲介者の消費者等に対する売上が二重で課税されることがないよう課税の対象を明確化すべきである。売上高の定義について、明確で十分に順守可能なルールの策定が必要である。
    売上高の計算に関し、業種の特性を踏まえた検討が必要である。物流取引などでネット計上されている場合、これに対応するグロス取引高の数字を確認・把握することは実務上困難である。
    広告事業については、ユーザーの情報を正確に追跡することは困難であるため、売上地は広告主(納税者にとっての顧客)が所在する国とすることが望ましい。

  2. 経済規模の小さい国・地域にも利益配分できるよう基準値の調整
    グループ全体に占める取引の規模・割合が僅少な国・地域に対し、それぞれ納税申告が必要となれば、企業の事務負担は膨大となる。各国の経済規模を考慮した指標の必要性は理解できるが、事務負荷軽減の観点から、固定の金額基準(例えば、あるグループにおける一国当たりの売上高が一定額に満たない場合には、その国に対するネクサスの認定は不要とする)の採用も検討すべきである。

(3) Amount A におけるグループ利益の算定

連結財務諸表を用いて配分対象利益を算定することとされるが、具体的な計算等については以下の考慮が必要となる。

  1. グループ利益の適切な算定方法
    会計上の利益を配分対象利益として使い、事務負担が必要となる調整は最小限とすべきである。調整が必要になれば複雑性を増し、納税者と税務当局とで紛争が起こる可能性が高まる。移転価格の算定方法としてTNMM(取引単位営業利益法)が広く採用されていること、及び通常の事業活動に起因する利益を対象とする観点から、監査済みの連結財務諸表に記載された営業利益を使用することが自然である。
    なお、IFRSに基づいて営業利益を算定する場合には、通常の事業と関連する利益を対象とする観点から、利子、配当、のれんの減損等、営業外損益や特別損益を除去すべきである。また、持分法による投資損益も除外する必要がある。どの表示科目をもって営業利益とするか関係国間で見解が一致しない可能性があるため、ガイドライン等で対象を明確化し、各国で統一すべきである。
    利益率の分母には、利益との相関性が高いため、売上高を採用すべきである。その際、(2)a で述べたとおり、特に物流取引においてエージェント的機能を果たす場合の役務提供取引はネット計上となり、利益率が極端に高くなる点に対する考慮が必要である。

  2. 異なる会計基準間の調整が必要な場合、その調整方法
    整合させる会計基準はIFRS及びUSGAAPに限定すべきではない。これらと同等とみなされる会計基準も尊重すべきである。現に欧州委員会は2008年に日本、米国の会計基準はEUが採用するIFRSと同等と認めている。

  3. 各ビジネスラインにおける事業セグメントを基準としたグループ利益を算定するにはどのようにアプローチをデザインすべきか。地域別の利益率も考慮すべきか。
    グループの残余利益の一部を市場国へ配分することを目的にしていることを前提とすれば、地域別の利益率を考慮する必要性は乏しい。連結財務諸表で地域別の利益率を算定しておらず、企業にとって追加的な事務負担となるため、地域別の利益率を用いることは困難である。
    事業セグメント別の利益率については、連結財務諸表における開示が行われているものの、消費者向けビジネスと一対一の関係にあるとは限らない。企業によっては本社及び共通経費を各事業別セグメントに配賦する実務が行われておらず、かつ配賦する場合も定まった方式がない。セグメンテーションを行うべきか否かは、基本的に、各企業の方針に委ねられるべきである。
    仮にこれが避けられない場合は、連結財務諸表の開示内容に基づく企業の自発的なセグメンテーションに基づいた利益率のデータを可能な限り尊重すべきである。本社及び共通経費の各事業セグメントへの配賦方法については、それが合理的なもので毎期同一の基準によって継続適用される限りは、企業自身の判断を基礎とすべきである。開示されている事業セグメント情報はマネージメント・アプローチに基づき経営の実態を適正に表したものである。当該事業セグメンテーションの単位を否定して、異なる軸に基づくセグメンテーションまたは単位の細分化(例えば、個別の消費者向けビジネスごとのセグメンテーション)が求められると企業マネジメントと乖離しその合理性について責任を持つことができない。

(4) Amount A の決定

税の安定性を担保する観点から、明確で簡素なアプローチが納税者及び課税当局の双方にとって望ましい。

【ステップ1】トータル利益の決定

(3)で述べた通り、グループの営業利益を基礎に算定する必要がある。

【ステップ2】みなしルーティン利益の除外(みなし残余利益の特定)

公開諮問文書に示唆されているとおり、比例原則及び制度の簡素化の観点から、固定的なみなし通常利益率を設定し、それを超える場合にのみ課税対象とすることには十分な合理性がある。連結財務諸表に基づいた売上高営業利益率10%を十分に上回る水準(例えば、15%や20%といった水準)とすべきである。

【ステップ3】みなし残余利益の一定部分の配分

企業活動における価値創造の実態を踏まえれば、親会社所在地国における研究開発活動が重要なウェイトを占める場合も多いため、市場国における貢献を過大に評価すべきではない。市場国に対するみなし残余利益の配分は控えめな水準に限定すべきであり、10%という水準でも過度の利益配分となりうると考える。制度の簡素化の観点からは、基本的には、統一的な指標が望ましい。

【ステップ4】みなし残余利益の一定部分の市場国への配分

売上高をベースに按分することにつき、強い違和感はない。但し売上高の定義については、(2)a で述べた課題がある。
なお、市場国への利益配分に関し、仮に、顧客数の算定が可能となる場合に、顧客に関する要素も加味した基準を採用しようとする場合、明確かつ簡素で統一的なルールによって顧客の所在地を判定できることが前提となる。全ての国で導入されているものではないものの、電子的に提供されるサービス(ESS:Electronically Supplied Services)におけるVATルールで適用されている顧客の所在地判定ルールはひとつの指標になり得る。納税者側ではこの配分計算についてシステム開発などの負担が生じ、そのための準備期間を適切に設定する必要がある。

これらステップに基づき計算する際には、グループ全体が損失である場合(又はみなし残余利益がない場合)の取り扱いもあわせて検討する必要がある。これらを考慮することなく、利益の生じる場合のみに残余利益の一部を市場国に配分するならば、親会社等の所在地国のみが税収を逸失するリスクを負担することとなり、市場国がメリットだけを享受することとなる。企業は事業のライフサイクルや初期投資等により、損失が生じることもあるため、事務負担とのバランスも考慮しつつ、適切な取扱いを検討すべきである。

また、利益の配分は、あくまでも法人税の調整であり、いかなるみなし支払取引も構成せず、付加価値税などの間接税、源泉税、その他の税、関税等には一切、関係がないことを明確化し、各国で合意すべきである。

(5) Amount A に係る二重課税の排除

Amount A に関し、二重課税を排除することが税の安定性の観点から不可欠となるが、納税義務者の特定や二重課税の排除の方法など、重要な課題について調整が必要となる。

  1. 二重課税救済が可能な納税義務者の特定
    仮に Amount A の申告・納付義務についてすべての市場国で手続きを行い、かつ、税務調査にも対応するのは実務上非常に困難である。事務の簡素化の観点から、親会社がその所在国当局に全世界の国ごとの Amount A をまとめて申告・納付し、国家間での納税資金の配分・決済も国税当局間で実施することも検討すべきである。あるいは、EUにおけるMOSS(Mini One Stop Shop)の制度を参考とすることも考えられるのではないか。なお、納税義務者については、親会社とすることを原則とした上で、残余利益を有する子会社または重要な無形資産を有する子会社がある場合には当該子会社も考慮することもありうるかもしれない。
    また、現地にすでに子会社がある場合には、企業の選択によりその子会社が手続きを代行できるようにすることも検討に値するのではないか。この場合でも、(4)で述べたとおり法人税以外の調整を遮断すべきである。

  2. 課税ベースの修正や税控除または税額控除など、既存の二重課税調整メカニズムの活用
    簡便さや二重課税の確実な排除の観点から、外国税額控除よりも課税ベースの修正(Tax base correction)の方が好ましい。課税ベースの修正を行う場合、どこの国の課税ベースに対して修正がなされるのか、課税当局間の争いが生じないようガイドライン等を明確に示し、全ての国の当局に対する拘束力を持たせる必要がある。Amount A による所得の調整は、それ以外の目的(例えばBEAT)には用いるべきではない。外税控除は複雑であるうえ、控除キャップの存在により場合によっては控除を取り切れず、納税者にとっては不利益が生じるおそれがある。
    源泉徴収方式は実務上非常に困難であり、採用すべきではない。まず誰が源泉徴収義務者になるのかの問題があり、B to C取引の場合は事実上実行不可能である。市場国に販売子会社がなく非関連独立代理店経由で販売を行う場合、その非関連独立代理店で源泉徴収義務を行えるかは未知数であり、仮に義務を課したとしても、本当に納税するのかどうか確実性が担保できない。年度によって企業グループの利益水準は異なるため、源泉徴収義務者側で適切な源泉徴収の遂行は非常に困難である。各国の法令に基づく既存の源泉徴収実務との混乱など、実務上の複雑さも懸念される。
    次に源泉徴収方式の場合には、その後で精算(還付または追加納税)事務を伴うことになり事務の簡素化につながらず、好ましくない。いくつかの国では還付が困難または時間がかかる。

  3. 既存の二重課税調整メカニズムを効率的かつ効果的に機能するよう確保する方策
    ある国の税務調査で Amount A に係る更正が行われた場合、関係する他国と見解が異なると、二重課税の排除を効率的に行うことが困難になる。従って、Amount A の更正は関係国間での協議・合意に基づくことを条件とする必要がある。税務調査のプロセスについても、各国当局が個別に実施するのではなく、親会社等の所在地国の当局が各国当局からの委託を踏まえて代表して行うといったルールの整備も必要である。

(6) Amount B

Amount B は Amount A のスコープに該当するか否かにかかわらず、市場国における販売子会社等の基礎的な活動に対して最低限の課税権として、当該市場国の売上高の一定比率分を当該国に保証するものとされるが、税の安定性との関係で制度の趣旨については理解するものの、Amount A における市場国への配分との関係や課税を及ぼす理論的根拠等を整理する必要がある。

  1. 一定の利益を配分すべき経済活動の定義
    Amount B に関しては、拙速に導入することに疑問を感じる。Amount B はリスク限定販社を含む国外関連取引において、取引単位営業利益法(TNMM)等の片側検証による移転価格算定方法が基本的には機能しており、従来のアプローチを変更する理由が乏しい。様々な産業でそれぞれに異なる事情がある企業の販売・マーケティング活動に対して、特定の割合を用いてリターンを計算することは本質的に問題がある。新しい制度を導入する必要性があるかどうかについて、まず十分に検討することが先決であり、結論を急ぐべきではない。
    仮に導入が必要となる場合でも、Amount B における「基礎的な」活動の定義は明確で各国において解釈の差異が生じないものとすべきである。基本的に基礎的な活動は、親会社の戦略や方針を踏まえて行われる取引単位営業利益法の適用が適切な販売・マーケティング活動であり、具体的には、市場調査、潜在的な顧客の開拓、顧客との販売条件の交渉、価格変動リスク・在庫リスク・与信リスクの実質的な負担といった一連の活動を指すものと考えられる。
    ベリー比を利用するなど極めて利益率の低い特定の業態については Amount B による最低保証には馴染まず、適用除外も検討すべきである。

  2. 配分する利益の算定(例:固定比率、産業/地域別の固定比率、他の手法等)
    価値創造における販社の果たす限定的な機能を踏まえれば、Amount B として市場国に配分する利益の総額に一定の上限(例えば、グループ全体の営業利益の固定比率とする)を設けるべきである。少なくとも、通常の経営状況において、この固定比率が50%を超えることは想定できない。
    地域統括販売子会社を経由して市場国に販売している場合など、販売・マーケティング機能を担う会社が複数存在する場合、Amount B が重層的に適用されることを避けるべきである。
    Amount A との関係も踏まえれば、市場国における Amount B の水準について、例えば2%は高すぎるように感じる。多くとも1%程度のより低い利益率が妥当ではないか。利益率は必ずしも業種統一とする必要はなく、既存の移転価格税制上の利益水準指標との整合性を踏まえつつ検討すべきである。グループ全体で損失が生じる場合には、損失についても Amount B に分配するか、多くとも Amount B への配分はゼロとすべきである。仮に Amount B への配分が過大となり、親会社等で欠損が発生する場合、欠損金を親会社等で確実に繰越せる措置が必要ではないか。また、価格調整の実務負荷がかからないよう、利益水準に幅をもたせ、かつ、複数年の利益水準がその幅の範囲内であれば許容する等の柔軟な対応も検討すべきである。
    あわせて、Amount B においても二重課税の排除を徹底するために強制的な紛争解決手段に服すべきである。

(7) Amount C 及び紛争防止・解決策

Amount C は、市場国における基礎的な活動を超えた機能に対し移転価格を適用しようとするものであるが、みなし通常利益を超えたみなし残余利益に課税する Amount A と課税対象が重なるおそれがある。Amount C の対象となる追加的機能については、販売及びマーケティング「以外」の機能が対象となる場合に限られるべきであり各国が恣意的な課税を行わないよう詳細なガイドラインが必要である。なお、マーケットプレミアム等の地理的特殊性は比較対象取引の選定の際に反映されるものであり、Amount C の加算要素とはならないことを確認したい。

Amount A~C の導入にあたっては、企業の二重課税を確実に防止・排除する観点から、各国が仲裁を含む強制的な紛争防止・解決策に服することが不可欠である。二重課税の確実な防止・排除は今回の経済の電子化に伴う新しい課税制度の導入の大前提であり、これを実現することなしに制度を導入すれば、企業は著しく不安定な課税関係のなかに置かれることになる。追加的な配分を受ける市場国が強制的な二重課税の防止・排除措置に服さず、税収増というメリットのみを享受することは、制度の良いとこ取りであり、課税を受ける企業からすれば決して許容できる姿勢ではない。

多国間の紛争に適切に対処するという観点から、紛争解決に係る独立した中央機関を新たに設けることも一案である。また、OECDとして、各国における紛争防止・解決の実施状況について、継続的にモニタリングを行い、取り組みが不十分な国に対しては、改善を促していくことが不可欠である。

  1. (一国または多国間での)移転価格税制に関する事前確認制度(APA)
    Bilateral APAは紛争防止及び解決策として一定の有効性があるものの、取引関係を有するすべての国外関連取引についてAPAを申請・締結することは事務負担及びそのためのキャパシティー等から不可能である。マルチのAPAの発展に期待するが、現状のAPAでも合意までに数年を要し、納税者が費やす労力も相当大きい一方、合意が義務付けられていないために両国が独自の主張を継続して歩み寄らないケースがある。調整がつかない場合においては強制力の伴う仲裁による紛争解決を必須とすべきである。

  2. 国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)
    ICAPの役割とさらなる発展に期待する。紛争の予防に向けて、より包摂的な枠組みとして非OECD加盟国も含め市場国が網羅的に参加し、利害調整を行うことを推奨すべきである。

  3. 義務的相互協議(MAP)による仲裁
    Amount A~C による税収の配分に際しては、強制力の伴う仲裁による解決を導入することが不可欠である。仲裁では、各国当局が他国からの協議・説明依頼に誠意をもって応じ、仲裁の結論が出た場合には遅滞なく税収を配分することが求められる。また、常設の監査機関、紛争解決処理機関の創設も検討する必要があるのではないか。

以上

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