Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  「第9次水質総量削減の在り方について(総量削減専門委員会報告案)」に対する意見 ―パブリックコメント募集に対する意見―

2021年2月22
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境管理ワーキング・グループ

8次にわたる総量削減に対応し、徹底した排水対策を講じてきた結果、指定項目の産業系の汚濁負荷は着実に削減されている。他方で、閉鎖性海域の水環境には水域ごとに異なる課題が残るとともに、依然として、陸域からの負荷削減と指定項目の環境基準の因果関係が明確でない。政策立案に必要な科学的知見の充実と分析・評価を進め、湾ごと一律の指定項目の「総量削減」という40年来の現行制度の見直しを速やかに実現し、実効ある対策を早急に講じていく必要がある。

以上の観点から、総量削減専門委員会報告案について、以下の通り、意見を述べる。

〇意見1(総量削減基本方針・総量削減基本計画における本報告の内容の徹底)

本報告案では、産業系の負荷削減対策について、全ての指定水域に関し、「最新の処理技術動向も考慮しつつ、現行の処理水準を維持していくことが適当」とされている。加えて、東京湾・伊勢湾に関しては、「産業系汚濁負荷に対する対策は、現状の各種施策の維持」とされている。また、総合的な水環境改善を効果的に進めるためには、全ての指定水域に関する事項に記載の通り、「第9次水質総量削減における削減目標量の設定にあたって、これまでにとられた対策の内容と難易度、効率性、費用対効果・・・も勘案し、各発生源に係る対策を検討すべき」との指摘がなされている。

これらの内容につき、専門委員会会合のヒアリングにおける産業界の説明およびシミュレーション結果等を適切に反映した内容と評価する。シミュレーション結果からは、指定項目の濃度の低減といった水質改善効果が限定的であり、栄養塩類不足の可能性も示されている。また、産業界からのヒアリングでも説明された通り、追加の負荷削減にあたって、費用を継続的に要することや、更なるエネルギー使用に伴うCO2排出等の環境負荷が伴う。

今後策定される総量削減基本方針や総量削減計画において、上述の下線の記述の内容をどのように徹底するか、関係都府県の削減目標量やC値の範囲の設定に関する考え方を含めて、明らかにされたい。

また、総量削減基本方針における「汚濁負荷量の総量の削減及び水環境の改善に関する必要な事項」および基本計画で示される「汚濁負荷量の削減の方途」では、本報告に従って実効的な対策が示されることが必要であり、対策項目の羅列にとどまらず、対策の優先順位付けやそれぞれの削減効果を記述することを検討すべきと考える。

【該当箇所】
31、32頁 4-1(1)各指定水域に関する事項
33頁 4-1(2)全ての指定水域に関する事項 ア(イ)
【理由】

総量削減の在り方に関する本報告案に記載された内容を、事業所等に対する規制に反映するうえでは、目標量の設定やC値の範囲などが、環境大臣が策定する総量削減基本方針および関係都府県が策定する総量削減基本計画に委ねられる。追加的な環境負荷を最小限にとどめつつ、効果的、効率的な対策を進める観点から、本報告書案の内容を実効あるものとするよう担保することが、総合的な環境改善の視点として重要である。

〇意見2(令和6年までの検討スケジュールの明示)

報告案では、対策の在り方として、「現行の指定水域全体の水質を対象とした汚濁負荷の総量規制から、よりきめ細かな水域の状況に応じた水環境管理への移行が必要」との指摘がなされている。また「今後の課題」には、「よりきめ細かに水域の状況に応じた取り組みを可能とすべき」「将来的な指定水域及び指定地域の見直しや、・・・総量削減制度の枠組みの見直しも視野に入れ、考え方の整理・検討を早急に進める必要」と記述されている。約40年前の制度設立時からの環境変化や取り組みの成果、科学的知見を踏まえ、今般、このような記述に踏み込んだことを評価する。

整理・検討の結果を、第9次総量削減の目標年度である令和6年度以降の水環境対策に確実に反映し実行に移していくため、令和6年度までの検討スケジュールを本報告案の別添あるいは適切な形で明確に示すべきである。

【該当箇所】
30頁 4-1 指定水域における水環境の現状と改善の必要性及び対策の在り方
35頁 4-2(1)総合的な水環境改善対策の検討
【理由】

「現行の指定水域全体の水質を対象とした汚濁負荷の総量規制から、よりきめ細かな水域の状況に応じた水環境管理に移行」し「よりきめ細かに水域の状況に応じた取り組みを可能とする」とともに、総合的な水環境対策を効率的、効果的に進めるためには、水質汚濁防止法に基づく現行の総量削減の仕組みを抜本的に改めることが必要である。

総合的な水環境の改善は喫緊の課題であることに鑑みれば、「総量削減制度の枠組みの見直しも視野に入れ」た検討を行うのみならず、第9次総量削減の目標年度とする令和6年度以降に新たな取り組みを開始できなければならない。シミュレーション結果からは、現行の仕組みを前提とするいずれのケースでも、陸域からの負荷削減が令和6年時点での環境基準の達成に寄与する効果はわずかにとどまっている。そのような現行の総量での削減という枠組みを令和6年以降も継続することになれば、現状に即した効果的な対策を実施しうる機会をさらに5年もの間、逸してしまう恐れがある。

そのような事態を回避するためには、制度の廃止あるいは改正の実現と令和6年度以降の実施が可能となる準備期間を考慮したデッドラインを設定し、その時点までに検討の結論を出したうえで、必要な制度改正作業を終えなければならない。本来必要な総合的な水環境改善を着実に進めるうえで、必要なスケジュールをあらかじめ設定し実行することが、責任ある政策の立案・遂行といえる。

〇意見3(指定項目の負荷削減と環境基準の因果関係に関する分析の促進)

今後の課題における総合的な水環境対策について、報告案では「既存の環境基準に関する達成状況について、その評価方法や既存の類型指定の状況について改めて検討しつつ、底層DOと既存の環境基準を併せて活用して、的確かつ効果的に水域を評価していくことが重要である」との記述がなされている。

令和6年度以降も、CODをはじめとする環境基準に関する達成状況を評価して何等かの対策を講じていく仕組みをとるのであれば、様々な要因が、評価対象となる環境基準にどのような影響を与えるかについて分析を深める必要がある。この点を、今後の課題の中で明記すべきである。

加えて、「今後の課題」において、「取組の検討の際には、水環境とこれに影響を及ぼすと考えられる要因との関係について知見を収集・活用すること等により新たな環境基準である底層DOを含め水質予測技術の向上を図り、・・・」との記述については、水質予測技術の向上には、COD、窒素、りんという既存の指定項目に関するものを含むことが明確になるよう、追記すべきである。

さらに、P35、24行目の「既存の環境基準」との文言を次の通り置き換え、「指定項目とされているCOD、窒素、りんの環境基準に関する達成状況について、その評価方法や既存の類型指定の状況について改めて検討しつつ、底層DOと既存の環境基準を併せて活用して、的確かつ効果的に水域を評価していくことが重要である」とすべきである。

【該当箇所】
35、36頁 4-2(1)総合的な水環境対策の検討
【理由】

これまでの水質総量削減の仕組みのもとで、産業系のCOD負荷削減が着実に実現してきたにも関わらず、各水域におけるCODの環境基準達成率は横ばいを続けている。今般、シミュレーション結果において、引き続き陸域からの産業系の負荷削減を実施しても、環境基準達成率の向上につながる可能性が極めて小さいことが示された(参考資料 42頁、参考資料 141頁)。窒素、りんと異なり、近年、負荷削減がCODの水質濃度の低下につながっていない理由に関しては、「難分解性有機物の存在や、出水や外海の影響、気候変動の影響など、様々な要因が指摘されている」との記述がなされたが、明確な分析はない(報告案 25頁、26頁)。CODの負荷削減が環境基準の達成率に成果として表れていない原因については、「現時点においては因果関係が定量的に明らかにはなっていない」とされている(同 30頁)。令和6年度以降、実効ある制度に移行していくためには、様々な要因が、評価対象となる環境基準にどのような影響を与えるかについての分析を深め、対策の内容、実施主体の選定、対策の費用対効果の検討に活かすことが重要である。なお、対策の実施にあたっては、これまで以上に関係省庁との連携が重要であることを付言する。

以上

※ 「第9次水質総量削減の在り方について(総量削減専門委員会報告案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)
https://www.env.go.jp/press/109082.html