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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 令和4年度税制改正に関する提言

2021年9月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

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Ⅰ.はじめに

わが国経済は、新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)の影響を受け、医療提供体制の逼迫を回避するための感染拡大防止策が継続される中で、下押し圧力にさらされている。本年4-6月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率で+1.3%と2四半期ぶりにプラス成長に転じたものの、緩やかな回復に留まっている。

こうした経済情勢の下、企業の業況感に目を転じると、製造業では輸出や生産の回復に伴い、大きく改善している。他方で、非製造業では全体として小幅な改善に留まっており、特に対面型のサービス業は、感染症の影響を受けて、引き続き大幅なマイナス圏で推移している。業況感の業種間での大きな格差は依然として解消されていない。

今後のわが国経済は、感染症の動向に引き続き懸念が残るものの、米欧中を中心に経済活動の再開が先行して進展する中で、国内でのワクチン接種率の高まりと医療提供体制の確保によって、経済活動が正常化し、景気回復のペースが加速することが期待される。

およそ2年間にも渡るコロナ禍の下での厳しい経済状況を脱し、ポスト・コロナ時代を見据えつつ、わが国経済の中長期的な成長力の維持・強化に向けて、官民双方であらゆる努力を果敢に実行すべき時である。

政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定、以下「骨太方針2021」)においては、「グリーン化」、「デジタル化」等への投資を原動力として、「民間の大胆な投資とイノベーションを促し、経済社会構造の転換を実現する」ことが明記された。

わが国企業・経済界としても、感染症に伴う企業活動の落ち込みから反転して、ポスト・コロナ時代に適応したビジネスモデルの変革と収益力向上に向けて、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)、グリーントランスフォーメンション(以下、GX)に資する企業活動、投資活動を一層活発化することが必要不可欠である。DX、GXは、経済社会の変革であり、企業のみならず国民の行動変容の観点からも、税制の役割は重要である。

かかる認識の下、令和4年度税制改正を通じて、企業活動及び個人消費の下支え、再活性化を行うとともに、ポスト・コロナ時代を見据えたイノベーションの喚起に向けた税制措置を果断に講じていくことが極めて重要である。

更に、令和4年度以降を見据えれば、経団連が「。新成長戦略」(令和2年11月)で主張している通り、2030年にかけて、DX、GXを含む重要5分野のアクションを通じたサステイナブルな資本主義・経済社会を確立することが必要であり、新しい経済社会構造と整合する税制措置のあり方を中期的視野に立って検討していくことが求められる。

上記「。新成長戦略」では、「国際経済秩序の再構築」を重要分野の1つとして掲げており、グローバルな課題を解決するための連帯の形成の一環として、国際課税の枠組みを位置付けていくことも極めて重要である。国際課税について、「第1の柱」(利益配分ルール)と「第2の柱」(ミニマム課税)から成る経済の電子化に伴う課税のあり方については、本年7月に「大枠合意」に達したところである。本年10月に「最終合意」が確実になされるように、残された各種技術的論点について、納税者たる企業の税負担と事務負担に留意した上で議論を継続することが重要である。併せて、「骨太方針2021」に、「国際的議論等も踏まえ、我が国企業の競争力強化、経済活性化に資する公正な課税の在り方を検討する」と明記されたことを踏まえ、例えば、既存の外国子会社合算税制(以下、CFC税制)について、真に租税回避と言えるものに一層特化する等、抜本的な簡素化等に向けた検討を前進させることが必要である。

なお、財政運営については、「骨太方針2021」で掲げた「経済あっての財政」との考え方の下、持続可能な経済成長の実現に向けた民間投資を活発化するため、財政規律を確保しつつ、必要な分野への継続的な財政支出をコミットすべきである。

Ⅱ.ポスト・コロナ時代のわが国企業の価値創造力・競争力の維持・強化に向けて

本章では、令和4年度税制改正を含む時間軸において、わが国企業・経済界として重視する、「法人税関係」「住宅・土地・都市税制」「地方税」「期限切れ租税特別措置の延長等」の4分野について提言を行う。

1.法人税関係

(1)基本的な考え方

今次感染症の収束までのウィズ・コロナの期間において、企業活動の下支えを十分に行った上で、DX、GXを税制上強力に後押しし、ポスト・コロナ時代における潜在成長力の向上につなげることが必要不可欠である。

その際、次の3点から税制措置を講じていくことが重要である。

1点目は、DX、GXに資するイノベーション創出の場を更に拡大することである。すなわち、革新的技術や、その萌芽となるアイディアを有するスタートアップ企業を支援し、大手企業の有する資金や顧客基盤等を有効に活用できる仕組みを構築することが一層重要となる。

2点目は、事業活動の変革や、新たな展開の円滑化を更に推進することである。日進月歩で進展する技術変革や、顧客の需要の量的・質的な変化を先取りしつつ、わが国企業が国際的な競争を勝ち抜くためには、事業活動を不断に見直していくことが不可欠となる。

3点目は、DX、GXの基盤となる革新的技術に係る研究開発を一層後押しし、その成果の社会実装に資する投資を喚起することである。その際、革新的技術に係る長期的な時間軸に配慮し、現行の研究開発税制(一般型、オープンイノベーション型等)の本則恒久化を図りつつ、改善・拡充についても引き続き検討すべきである。

なお、法人税の根幹を成す、法人税率について、例えば英国・米国において税率の引き上げに向けた方針が打ち出されたが、わが国の法人実効税率は、主要先進国の中でも依然として高水準にあるという事実は不変である点を改めて強調しておく。昨今の法人税収の動向から明らかな通り、税収の中長期的な安定には、企業業績の持続的な拡大が欠かせない。ポスト・コロナ時代にかけて、わが国企業の国際競争力を維持し、より高めていく観点から、わが国の法人実効税率については、実質的な税負担の軽減を伴う形で、引き続きOECD主要国及びアジア近隣諸国の平均水準を目指すべきである。

(2)DX、GXの加速に向けた税制措置
① イノベーション創出の場の拡大に向けた税制措置

DXとGXの推進には、これまでの延長線にない技術開発と社会実装に向けて、産学官をあげて国全体で推進することが重要であり、多様な技術・アイディアの無数の掛け合わせと試行錯誤の中から未来を拓くイノベーションを生み出していかなければならない。

その観点から、令和2年度改正で創設されたオープンイノベーション促進税制は、自社にない技術等を有する大手企業とスタートアップ企業の協働を通じた事業革新を促す上で、わが国の法人税制上、極めて大胆な措置である。わが国企業・経済界としては、イノベーションの創出策の1つとして、いわゆる「自前主義」からの発想の転換を図るとともに、資金と資源を「解放」する、スタートアップ企業とのオープンイノベーションは、引き続き重要な取り組みと認識している。

このため、まずはオープンイノベーション促進税制の適用期限を企業の経営判断に配慮した相応の年数により延長し、わが国としてオープンイノベーションを後押しする姿勢を引き続き示すことが重要である。その上で、出資の受け手となるスタートアップ企業のニーズを踏まえつつ、適用要件となる出資金額の下限額の緩和や、資金の出し手となる企業側のオープンイノベーションの評価時期に照らした株式保有期間の短縮、深いオープンイノベーションが期待され、リスクの高い取り組みであるスタートアップ企業に対するM&A促進のため出資要件に発行済株式の取得をはじめとして、資本金額の増加を伴う株式の取得以外の一定の取得の対象の追加等を講じるべきである。これに加えて、対象法人への合同会社の追加、控除上限を所得とする制度を改めた上でグループ通算制度における損益通算の対象とすること等についても検討を行うべきである。

また、事業の切り出しの促進に向けて、いわゆるスピンオフ税制が平成29年度改正で措置された。今後更なる機動的な事業再編を通じたイノベーションを生み出す観点から、スピンオフを行う企業に持ち分を一部残す場合や、100%未満の子会社のスピンオフ等の類型にも譲渡損益の繰延を可能とする等、所要の拡充を行うべきである。

これらに加えて、わが国においても、未開拓の分野に果敢に挑戦し、成長の牽引役となるスタートアップ企業を創出し、その成長を支える環境を税制面でも一層整備する必要がある。より中期的な時間軸において、ストックオプション税制における税制適格ストックオプションの行使期間の延長や、権利行使価額の年間合計額の引き上げ等を含めて、スタートアップ企業による優秀な人材の獲得に資する税制措置等についても、スタートアップ企業等の需要を踏まえつつ、議論していくべきである。

② 事業活動の円滑化に向けた税制措置

まず、令和4年度から適用が開始されるグループ通算制度は、現行の連結納税制度からの簡素化を図りつつ、グループ一体経営を進める上での重要な枠組みである。他方で、投資簿価修正については、子会社をプレミアム付きで取得した場合に、グループ通算制度非適用の企業と異なり、そのプレミアム相当額を子会社株式譲渡時の譲渡原価に算入することが出来ない。加えて、子会社買収時における完全子会社化の回避や、買収子会社の譲渡の妨げになりかねない等、円滑かつ機動的な事業再編に向けた企業の経営判断の足かせとなる恐れもある。これは同時に、グループ通算制度の導入促進の妨げにもなりかねない。一方、含み益資産を利用した租税回避の防止や、組織再編税制との整合性が取れた制度とするという当初の改正趣旨も認識している。そこで、課税の公平性の確保及びグループ通算制度導入促進の観点を踏まえつつ、子会社をプレミアム付きで取得した際の買収プレミアム相当額について、子会社株式譲渡時の譲渡原価に算入できる措置を講じるべきである。その際、企業の事務負担に留意し、一定の簡便的処理を許容するなどの所要の措置を講じることも重要である。

これに加えて、同制度における離脱時時価評価について、離脱子会社におけるみなし事業年度の損失を損益通算の対象とすることや、研究開発税制に関して、グループ調整計算の見直しとして、増額修更正に対応した控除額の拡大を可能とすることを検討すべきである。

次に、組織再編税制についても、不断の検証を通じて、必要な見直しを講じるべきである。前述の通り、スピンオフ税制の対象となる類型を拡大することに加えて、適格現物出資対象資産の外国子会社株式に係る持株割合基準(現行25%)についても、外国子会社配当益金不算入制度やCFC税制における類似基準の見直し(後述)に合わせ、それと整合する見直しを行うことが適当である。この他、組織・人材を成長産業に移していく大胆な事業再編を促進すべく、Society 5.0を加速する事業の組み換えを行った場合における譲渡益に対する課税の繰り延べ措置を創設することを検討すべきである。

更に、わが国企業の戦略的・抜本的な組織再編・事業再編を強力に推進し、生産性の向上と競争力強化を実現する観点から、産業競争力強化法に基づいた、事業再編等に係る登録免許税の軽減措置を延長すべきである。

これらに加えて、事業再編をさらに促進すべく、LLP(Limited Liability Partnership、有限事業責任組合)に対する現物出資時の簿価譲渡を可能とする制度を創設するべきである。

③ DX、GXに資する設備及び研究開発投資の拡大に向けた税制措置

まず、経済社会のDXを一気呵成に推進するための基盤となるのは、大量のデータ通信であり、その送受信に必要な超高速、超低遅延、多数同時接続を可能とする5Gを全国に広く浸透させることが不可欠である。その成果は、例えば自動運転、スマートシティ、遠隔診療、農業の変革、教育の高度化、防災・減災等の幅広い分野に貢献することが期待される。

こうした観点から、令和2年度税制改正で創設された5G投資促進税制について、首都圏以外への更なる5G環境の普及に向けた設備投資を継続していくことを踏まえて、延長を図るべきである。その上で、全国キャリアが対象事業者の場合の対象設備を5G環境構築のためのアンテナ全般に広げることも重要である。併せて、都心部を中心として用地不足が見られる中で、相応の基地局数を効率的に確保する観点から、通信事業者と通信免許人以外の事業者が共用するアンテナ等を整備した場合も、当該税制の対象とすることを検討すべきである。

次に、GXの実現に向けては、従来の延長線上にない革新的技術の創出を通じたCO2削減が必要不可欠であり、革新的技術開発に対する企業の長期的な投資に資する研究開発税制の拡充を検討すべきである。併せて、省エネルギー・再生可能エネルギーを含めて、カーボンニュートラル(以下、CN)に資する設備投資については、固定資産税の減免措置を広く講じていくことが極めて重要である。その一環として、例えば、再生可能エネルギー発電設備に係る固定資産税の課税標準軽減の特例措置について、延長を図るべきである。加えて、令和3年度税制改正で創設されたCN投資促進税制の対象設備について、各種素材関係設備や、電気自動車に係る充電設備やその他構成機器等、CNへの貢献度合いを検証しつつ、拡充を検討すべきである。

なお、償却資産に係る固定資産税については過去提言を重ねてきた通り、本来的には廃止すべきである。少なくとも、上述のCNに資する設備投資で取得した償却資産に係る固定資産税の減免や、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)で措置された中小企業向けの償却資産に関する固定資産税の特例を、大企業にも適用拡大する等、抜本的な見直しを行うべきである。

(3)税務手続きのデジタル化・簡素化

行政においては、今後、政府のDX関連業務を一元的に担うデジタル庁の下、個人・法人のニーズに合わせた行政サービスの提供が行われることになる。また、「骨太方針2021」では、記帳等の経理事務のデジタル化及び記帳水準の向上を図るなど民間部門の経理・行政事務のDXを推進することが掲げられた。マイナンバー制度等これまで構築した基盤を活用しながら、官民一体の取り組みが加速していくことを期待する。

この流れを着実に推進するために、申告や納付から調査まで一貫して税務手続きの残された課題を洗い出し、バックオフィスの更なる生産性の向上や、テレワーク等の柔軟な働き方の実現に向けて、優先度が高い以下の事項に取り組むべきである。なお、税務関係手続きについては、電子化のみならず、真に必要なものに絞り込む等の手続き自体の合理化、簡素化の観点も不可欠である。

① 電子申告の義務化関連

大法人では法人税や消費税等について令和2年度から電子申告が義務化され、納税に関する業務がe-Tax及びeLTAXによって、一元的に実行、管理できることとなった。引き続き、データ送信時の容量の拡充、データ形式の柔軟化、機能・操作性の改善等、ユーザビリティの向上を求める。また、納税者、税務当局、金融機関等が負っている、現金納付に伴う社会的なコストを削減するためにも、中小企業を含む今後の電子申告および電子納税の利用率向上に資する取り組みの検討を期待する。

<データ送信時の容量の拡充>

電子申告においては添付資料が多い一方で、送信可能な容量に制約があるために分割して送信する必要がある。受領側でも、不必要にデータが分割されていることによる非効率が生じていると推察するため、送信可能なデータ容量を拡大すべきである。電子的な送信ではなく光ディスクでの提出となると、従来の書面での提出と大差のない手間が生じることからも対応が必要と考える。

<データ形式の柔軟化>

膨大な入力が必要な別表・付表については、XML形式のファイルでの提出は実務的に困難であるため、CSV形式での入力を認めるべきである。

(別表・付表の例)

  • 組合事業等に関する別表9(2)、外国子会社合算税制に係る別表17(3の7)付表1及び2、別表17(3の8)、特別償却の付表(18)、会社事業概況書 等
<機能・操作性の改善>

例えば以下の課題に対応すべく、e-Taxの機能・操作性を改善すべきである。

  • e-Taxの勘定科目内訳明細書に文字数制限が存在する。
  • e-TaxでCSVファイルを作成して提出するものについて、入力方法(半角、スペース等)が非常に細かく定められている。
  • e-Taxにおける移転価格税制に関する別表17(4)の売上等の欄に桁数制限がある(韓国ウォン、ベトナムドンが記入できない場合がある)。
  • e-Taxデータ提出時のエラーチェック機能において、文字エラーの具体的な抽出ができない。

また、e-Tax/eLTAXにおいて、納税者利便に配慮したかたちで一法人に対するIDの複数付与を認めるべきである。

② 税務手続き電子化の残された課題

以下の書類、税務手続きについて、e-Tax/eLTAXを活用する等、電子的に完結できる環境を整備すべきである。

<法人税関係>
  • 法人税・消費税の更正通知書
    (ただしこれら通知書は受領をもって納期限が定まるため、納税者の実務慣行に配慮したうえで電子化する必要がある)
  • 法人税・消費税の中間申告の納付書
  • 法人事業税及び法人住民税の還付金に係る通知書
  • 法人事業税・法人住民税の「自治体からの申告手続きのお知らせ」
  • 納税証明書
<固定資産税その他>

令和3年度税制改正で固定資産税等の一部の賦課税目が地方税共通納税システムの対象税目とされ、今後、一括的な電子納税が可能となったが、当該税目の納付書は書面(QRコードが付されたものを含む)で送付されることが前提とされている。また、固定資産税については、社内の設備管理システムへの効率的な評価額等の入力の観点から、名寄帳や課税明細書の電子化ニーズがあるが、対応は一部の自治体にとどまっている。そのため、固定資産税に係る上記の各種書類について、完全電子化に向けたロードマップを早期に示すべきである。

なお、地方税に該当しない公金(道路占用料、行政財産使用料等)についてもeLTAXの対象とするなどの所要の措置を検討すべきである。

<所得税関係>
  • 給与支払明細書、給与所得の源泉徴収票の電子化に向けた本人承諾の見直し
  • 非居住者の支払調書、合計表の提出
  • 源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税証明願の申請・発行
  • 所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続きにおける「更正の請求書」提出

なお、年初における所得税の扶養控除等申告書については、事務効率化の観点から提出を廃止すべきである。

③ 税務調査のICT対応

申告等の税務の電子化が進むところ、税務調査については対面での調査、郵送やFAXによる資料の授受などが主流となっている。今後はWEB会議による照会や、e-mail、クラウドの活用による資料の授受といったオンライン化を強力に進めるべきである。国税庁の「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」等で掲げられている事項の実現に期待する。

なお、印紙税について、電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、その合理性は失われている。また、消費税と実質的に二重課税となっている類型も存在する。本来的には廃止すべきである。少なくとも、印紙税に係る税率の特例は延長すべきである。

また、適格請求書等保存方式(インボイス制度)については、消費税額の端数処理は、インボイス単位で税率ごとに1回行われることとされているが、業務プロセス等の見直しも伴うこととなるため、事業者の実態を踏まえた所要の措置の検討が必要である。

2.住宅・土地・都市税制

(1)直面する課題に対応し良質な国民生活の基盤を形成する住宅税制の充実

住宅投資は、これまでも内需の柱として、地域経済や他産業への高い波及効果、雇用創出効果を有してきた。今次感染症に伴う経済の下押し圧力が残存する下でも、住宅取得をしやすい環境を維持していくことが極めて重要である。これに加えて、「2050年カーボンニュートラル」目標が掲げられる中、その達成に更に貢献することを目指す必要がある。その際、住宅・建築物ともに「省エネ性能が高く、脱炭素に繋がる新規良質ストック」の供給とともに「省エネ性能の劣る数多くの既存ストック」の両面に焦点を当てて、税制上の対応を講じていくことが必要不可欠となる。

こうした観点から、令和3年度に適用期限を迎える住宅税制について、現行制度に見合う規模感以上の施策の推進継続を前提としつつ、現行制度の枠組みを充実させることが重要である。

その際、新築住宅に対する住宅ローン減税について、現行の住宅ローン減税制度(一般及び認定住宅)の控除限度額及び控除期間を延長することが極めて重要である。

更に、「2050年カーボンニュートラル」目標の達成に向けて、先進的な高い環境性能を有する住宅の初期負担軽減等、取得促進のための支援措置を講じるべきである。併せて、認定住宅(認定低炭素住宅及び長期優良住宅)の促進に向け所要の措置を講じるべきである。

(2)土地に係る固定資産税の負担調整措置の拡充等

令和3年度の評価替えに伴い税額が上昇する全ての土地について、令和2年度の水準に税額に据え置かれている土地に係る固定資産税の来年度の取り扱いについて、コロナ禍の影響等による事業者の経営環境、経済情勢、地価動向等を踏まえつつ、総合的に検討することが必要である。

とりわけ、企業業績にかかわらず、急激な負担増が生ずる地域が、相当数見られる見込みであること等、来年度の固定資産税の負担増の発生状況が納税者に与える影響にも十分留意した上、負担調整措置の拡充等、負担軽減のための所要の対応を講じるべきである。なお、都市計画税についても同様の取り扱いとすべきである。

(3)関係税制の延長・創設等

住宅・都市に関係する税制上の特例措置等について、それぞれ次の通り、延長等を行うべきである。

① 未来志向の豊かな住生活を実現するための税制措置の延長等
  • 新築住宅に係る固定資産税の軽減特例の延長
  • 居住用財産の買換え・売却に伴う譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の延長
  • 住宅取得等資金の贈与税非課税措置の延長
  • 住宅の登録免許税の特例の延長
  • 認定住宅に係る特例の延長
  • リフォーム促進税制の延長
  • 住宅の買取再販に係る特例の延長
  • 住宅及び住宅用土地に対する不動産取得税の特例の延長
  • 老朽化マンションの建替え等の促進に係る特例の延長
  • 住宅取得支援税制における床面積要件の緩和措置の延長 等
② 日本の未来を拓く都市再生推進のための税制措置の延長等
  • 国家戦略特区に係る特例の延長・拡充(貸付供用等)
  • CNやDXの技術進展も踏まえたまちづくりに対する支援措置の創設
  • ウォーカブル推進税制の延長等
  • 都市のスポンジ化対策のための特例の延長
  • 都市の防災性能向上や物流効率化の実現に向けた支援措置の創設
  • 不動産売買契約書の印紙税の特例の延長 等

この他、不動産市場の活性化に向けた税制措置を講じていくべきである。例えば、大規模商業施設等におけるテナント・所有者一体となった休業・休館等の率先した取り組み等も踏まえた税制上の支援措置や、所有者不明土地・建物問題の解決を加速化させる税制上の措置の拡充・創設等を実施すべきである。

3.地方税

(1)電気供給業・ガス供給業に係る法人事業税収入割の見直し

当該両業種における法人事業税の課税標準について、地域独占と総括原価主義を根拠として収入割が適用されてきたが、平成28年度(電気)、平成29年度(ガス)の小売全面自由化によって地域独占・総括原価主義は撤廃された。これに伴い、一般の事業とは異なる収入割を適用する根拠は消失した。

こうした中、ガス供給業については、平成30年度改正において、中小規模の事業者を対象に「その他の事業」と同様の課税方式に移行し、電気供給業については、令和2年度改正において、発電・小売事業の一部に外形標準課税等の組み入れが行われた。しかしながら、電気供給業・ガス供給業ともに、法人事業税収入割の見直しは道半ばという状況である。

これらの点を踏まえ、「令和3年度与党税制改正大綱」(令和3年12月10日)に則り検討を進め、令和4年度に導管部門が法的分離されるガス供給業はもちろんのこと電気供給業も含めて、法人事業税の課税方式を早期に一般の事業と同様のものに統一すべきである。

(2)法人事業税における外形標準課税の簡素化及び負担軽減

外形標準課税付加価値割について、計算等が複雑になっており、企業実務にとって負担となっていることから、簡素化すべきである。

また、付加価値割の課税標準には、賃金(報酬給与額)が含まれていることから、負担軽減に向けた検討を行い、感染症に伴う影響が継続する下での企業の雇用維持に向けた努力を後押しすることが必要である。

(3)地方法人所得課税のあり方

地方法人所得課税は、地域間の偏在性が大きく、税収も不安定という課題を抱えている。また、税目の多さは、納税者の申告作業を複雑化させ、労働生産性の向上の妨げとなっている。

このため、地方の法人所得に対する課税部分、とりわけ地方法人税及び特別法人事業税は国税の法人税に統合し、地方交付税により各自治体に配分する仕組みへと一本化すべきである。

また、地方法人所得課税の現実的な課題として、法人の負担水準のあり方について最終的に廃止の方向で段階的な引き下げを検討すべきである。

(4)事業所税の整理・統合・簡素化

事業所税の従業者割は、法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃金・雇用への課税となっており、実質的な二重課税である。今次感染症や、度重なる自然災害等から企業は雇用の維持に努めている中で、従業者割は足かせとなっている。更に、資産割は、固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらに加えて、「みなし共同事業」の免税点判定に要する実務負荷は大きい。

これらの点を踏まえ、事業所税は、他の税目と整理・統合・簡素化すべきである。

4.期限切れ租税特別措置の延長等

(1)自然災害に対し強靭な経済社会を構築するための税制措置

頻発化・激甚化する自然災害に対して、企業のレジリエンスを確保することは、喫緊の課題であり、事業者の自主的な対策を税制上側面支援することが重要となる。その観点から、次の措置を講じるべきである。

① 火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実

火災保険事業の持続可能性を守り、頻発する巨大自然災害に対する保険金支払いに万全を期すため、火災保険等に係る異常危険準備金制度について、積立率を現行の6%(本則2%+令和3年度末までの経過措置4%)から10%へと引き上げるとともに、準備金の積立残高の上限となる洗替保証率を現行の30%から40%へと引き上げるべきである。また、本則積立率が適用となる残高率も同様に引き上げるべきである。

② 首都直下地震・南海トラフ地震に備えた耐震対策により取得した鉄道施設に係る固定資産税の課税標準の特例措置の延長及び対象資産の拡充

来るべき首都直下地震等に備えて、耐震補強工事を早期かつ着実に実行する観点から、鉄道施設に係る課税標準の特例措置の適用期限の延長を図るべきである。その上で、対象資産の範囲拡大についても検討を行うべきである。

③ 被災代替資産の特別償却対象資産への鉄道用車両の追加

水害等の発生後の都市間輸送の正常化等を期して、被災代替資産の特別償却の対象資産に鉄道用車両を追加すべきである。

④ 災害に強く、物流の生産性向上に資する物流施設に係る特別措置の延長

災害に強く輸送の効率化に資する倉庫の整備を引き続き支援するため、倉庫用建物等の割増償却の延長を行うとともに倉庫等に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例の延長を行うべきである。

(2)減耗控除制度の延長・拡充

わが国企業による資源・エネルギーの確保と安定供給の観点から、減耗控除制度の適用期限を延長するとともに、「国内鉱業者に準ずるもの」及び「海外自主開発法人」の判定要件の緩和、準備金積立期間延長等により拡充すべきである。

(3)海外投資等損失準備金制度の延長・拡充

資源メジャーによる市場の寡占化、新興国の参入等を背景に国際的な資源獲得競争が激化している。こうした中、資源・エネルギーの安定供給に向けたわが国企業による探鉱・開発の促進の観点から、海外投資等損失準備金制度の適用期限を延長するとともに、準備金積立期間の延長や、脱炭素化対策を推進する観点から積立金限度割合の引上げ等により拡充すべきである。

(4)国際船舶に係る登録免許税の特例措置の拡充・延長

諸外国に比べ割高な国際船舶(外航日本籍船)の取得・保有に係る諸税の軽減を図り、日本商船隊の国際競争力を確保すべく、国際船舶に係る登録免許税の特例を拡充・延長すべきである。

(5)安定的な航空輸送の維持・確保に資する税制措置の整備

航空機燃料税については、令和2年度改正において軽減措置が令和3年度末まで延長され、令和3年度改正においては更なる特例措置が図られたところであるものの、引き続き残存する感染症の影響下でも安定的な航空輸送を維持・確保する観点から、当該措置の延長を図るべきである。併せて、SAF(Sustainable Aviation Fuel)の利活用促進に向けて、非課税化も選択肢から排除せずに税制上の配慮を行う等、税負担や環境負荷軽減の観点も踏まえつつ、所要の拡充を検討すべきである。

また、世界的に航空機に固定資産税を課している国が稀な中で、国内における地方航空ネットワークの維持及びわが国の航空会社のポスト・コロナ時代にかけた国際競争力を維持する観点から、国内線就航機に係る固定資産税の課税標準の特例措置の延長を図るべきである。その上で、国内線就航機に係る課税標準の軽減率の拡大を含めて、拡充についても検討すべきである。

(6)公共の危害防止のために設置された施設又は設備に係る課税標準の特例措置の延長

民間事業者における環境負荷低減対策を引き続き促進するため、本特例措置を延長すべきである。

(7)投資法人に係る税制措置の整備

感染症の長期化する影響を踏まえ、投資法人等がテナントに対して賃料の支払いを猶予した場合において、導管性要件の緩和等を行う等、所要の措置を講じるべきである。

また、投資法人に関し、税会不一致による二重課税の解消手段を行使する際の任意積立金等の取り扱いについて、所要の措置を講じるべきである。

(8)役員報酬(業績連動給与)の算定基礎となる指標の拡充

サステナビリティ経営の浸透に伴い、ESGやSDGsに関する非財務指標をインセンティブ報酬のKPIとして設定する企業が今後も増加することを見据えて、損金算入が認められる業績連動給与の算定基礎となる業績連動指標の範囲をESGやSDGsに関する非財務指標に拡充すべきである。

(9)ソフトウェアに係る所要の見直し

クラウドコンピューティングサービス及び製品開発のために用いられるツール等をはじめとした自社利用ソフトウェアに係る研究開発費は、税務上無形固定資産として計上される。このうち、クラウドを通じてユーザーにサービスを提供する目的を有するソフトウェアは、いわば販売目的ソフトウェアと同等もしくは準ずると考えられる。このため、DXの進展の下で、クラウド環境を介したビジネスモデルが普及・定着しつつあることを踏まえて、当該ソフトウェアに係る研究開発費について、発生時損金算入を認めることを引き続き検討を行うべきである。

(10)留保金課税の見直し

企業の自己資本の充実による投資促進の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

(11)地方拠点強化税制の延長

地方創生の観点を踏まえ、地域における企業の投資・雇用を引き続き促進するよう、本税制を延長すべきである。

(12)中小企業税制の延長等

わが国の製造業等のサプライチェーンを支える中小企業がポスト・コロナ時代に適応した投資等を行うことを後押しすべく、少額減価償却資産の損金算入の特例について、その上限を引上げた上で、延長を図るべきである。

また、交際費課税の特例について、消費の拡大、景気の下支えの観点から、延長等を検討すべきである。

Ⅲ.サステイナブルな経済社会の構築に向けて

前章では、ポスト・コロナ時代のわが国企業の成長力の維持・強化、競争環境の公平性の確保等の観点からの提言を行った。本章では、時間軸をより中長期に伸ばし、経団連が「。新成長戦略」で謳うサステイナブルな資本主義・経済社会の確立に向けて、各種重要政策課題に即した税制措置のあり方を提言する。

1.グリーントランスフォーメーションに向けた税制

(1)「2050年カーボンニュートラル」目標の達成に向けた税制に係る基本的な考え方

「2050年カーボンニュートラル」という野心的目標を達成する上で、官民の総力を挙げた取り組みが不可欠であり、経済と環境の好循環(グリーン成長)を創出していくことが重要となる。

こうした視点の下、カーボンプライシング等の経済的手法については、政府の「成長戦略実行計画」にも記載の通り、「産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについて躊躇なく取り組む。炭素税や排出量取引については、成長に資する制度設計が可能かどうか、専門的・技術的な検討を進める」ことが基本である。

その際、税制に関しては、財源を確保する手段である以上に、国民一人ひとりの経済行動の選択、企業の将来に渡る事業活動の選択、雇用をはじめとする国内経済全般等に極めて大きな影響を与えることに留意が必要である。国際的な動向、代替的なCN技術の有無、技術開発や社会実装に向けた時間軸、経済安全保障の観点等、丁寧な議論・精査の上で、最適なあり方を追求すべきである。

以下、成長に資する税制について、3点の基本的視点を指摘しておく。

第1に、企業にとってCO2削減そのものが価値であるという認識が広まる中、削減に資する主体的な取り組みへのインセンティブ措置となるようにすべきである。企業による革新的技術への研究開発投資はもちろんのこと、それら技術の社会実装に向けた設備投資の余力を削ぐことなく、一層促進しなければならない。その際、研究開発税制の拡充の他、CN等に向けた設備投資については、固定資産税の減免等を行い、社会全体の基盤の変革を促進すべきである。

第2に、わが国のエネルギーコストは、現状においても国際的に割高であることに加えて、「第6次エネルギー基本計画」(案)では非化石エネルギーの拡大を含む野心的なエネルギーミックスの追求等の下で更なる上昇につながる懸念があり、国民の理解醸成が不可欠である。これを踏まえつつ、国民生活や、産業の国際競争力にこれ以上深刻な影響を及ぼさないようにすべきである。

第3に、国際的な連携や産業競争力基盤の確保の重要性である。もとより、地球温暖化は地球規模の課題であり、日本一国の努力では解決できない。加えて、エネルギー資源を持たず、再生可能エネルギーの立地条件も劣後する日本が、CNに向けて国際的に貢献すべき分野はイノベーションであり、ここに対する強力な支援が重要である。

これらの視点を踏まえれば、炭素税については、現状では新規導入の合理性は明らかとは言えない。

今後、既存のエネルギー関係諸税全体について、CO2排出量を勘案しつつ、総合的な見直しを進めるべきである。その際、既存の地球温暖化対策税は、CO2排出量当たりの税率を設定されているという点で、一種の炭素税であるが、従前主張を重ねてきた通り、当該税の毎年度の税収及び使途の開示や、定量的な温室効果ガス削減効果の検証等は行われていない。現行の地球温暖化対策税のあり方に係る丁寧かつ定量的評価等を行った上で、廃止も含めてあらゆる選択肢を排除せずに、所要の見直しを行うべきである。また、原料用途免税の本則非課税化とともに、石油関係諸税について、消費税とTax on Taxの関係にあることの解消や、「当分の間税率」のあり方等について、負担軽減の観点から引き続き検討すべきである。

なお、国際的な制度設計に関し、EU等で検討が進められている炭素国境調整措置については、WTOルールと整合的であることが前提であり、日本からも積極的な働きかけを行うとともに、必要に応じて、諸外国とも連携して機動的に対応していくべきである。

(2)環境価値に前向きな企業等の取り組みの促進

企業にとって環境価値に積極的に取り組むことは、グローバルな国際競争を勝ち抜く上でも、不可欠な前提条件となりつつある。

こうした企業の取り組みを側面支援する観点から、まずは環境価値取引証書(非化石証書、J-クレジット、グリーン電力証書)の購入費用の税務上の取り扱いについて、所要の措置を講じることが適当である。とりわけ、今後、「再エネ価値取引市場」において需要家が非化石証書(FIT証書)を直接購入することが可能となる中で、当該証書購入費用の全額損金算入可能の取り扱いを継続すべきである。

また、新規の再エネ発電事業への参画等、自らの事業リスクを取りつつ、脱炭素化に積極的に取り組む場合において、事業戦略を支援する所要の税制措置を検討すべきである。

これらに加えて、ESG債市場の健全な発展を促進することが重要である。こうした観点から、ESG債の発行体事業者及び投資家(個人・法人)に対して、税制上の優遇措置の創設を検討すべきである。

2.自動車関係諸税

(1)自動車関係諸税の抜本的見直し

今後の自動車関係諸税について、「2050年カーボンニュートラル」目標の実現に加えて、新たなモビリティ社会に即した税体系を簡素化・負担軽減の観点から実現すべきである。

具体的には、取得・保有段階を1つの税目にすることで簡素化するとともに、課税標準のあり方等についても、カーボンニュートラル実現や、ユーザー負担の視点も踏まえて、見直す方向での検討を重ねていくべきである。

(2)CN実現に資する電動車普及加速のための所要の措置

上記の自動車関係諸税の抜本的な見直しを実現するまでの間、CN実現に向けた取り組みを強力かつ迅速に推進すべく、電動車・電動二輪車に対する減免措置を講じるべきである。

なお、電動車の普及を強力に推進するべく、その前提となる充電インフラや、水素ステーション設備に係る固定資産税を減免し、それら設備の設置拡大に結び付けることが極めて重要である。

3.ライフコースの多様化に即した税制措置

(1)所得・資産関係税制のあり方に関する基本的な考え方

所得・資産関係税制のあり方については、マクロ・ミクロ両面で、所得の再分配をはじめとする当該税制の果たすべき役割を検討することが不可欠である。

マクロの観点からは、個人消費の維持・拡大や、次世代への適切な資産移転を通じた人的資本の蓄積に寄与する役割を担うことが重要である。

その際、他の税目と同様に、単に税収確保の目的のみで所得・資産関係税制での課税強化が目指されるべきではない。

また、ミクロの観点からは、多様で複線的なキャリア形成や、人材の流動化等の状況を踏まえつつ、個人の職業の選択に対して中立的な所得税制が検討されるべきである。こうした観点から、同一企業に長期間留まるか、転職により新たな挑戦を行うかといった選択に対して、現行の退職所得控除が与えている影響について、現時点での権利に不利益が生じない範囲で検討を加えることは必要である。加えて、資産ストックに係る世代間の分布状況を踏まえつつ、個人の資産形成促進の観点からの税制の検討も有用となる。

なお、副業・兼業の一層の増加を見据えつつ、源泉徴収と確定・還付申告のあり方についても、不断に検討していくことも今後の課題と考える。

(2)金融・証券・保険税制
① 金融所得課税の一体化

金融所得課税については、令和2年7月に総合取引所が発足したことも踏まえ、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後も更なる一元化を検討すべきである。

その一環として、デリバティブ取引と上場株式等との損益通算化を実現すべきである。また、上場株式等の譲渡損失の繰越控除期間を現行の3年間から延長することも検討すべきである。

なお、金融所得課税のあり方の見直しについては、経済成長を支え国民の資産形成を支援する金融資本市場の重要性を踏まえるとともに、投資者の資産選択に重大な影響を及ぼす懸念にも十分に留意しつつ、慎重に検討すべきである。

② NISA制度の拡充

令和2年度改正においては、新NISAとつみたてNISAの2つの制度に改組し、5年間延長がなされたところである。今後も、中長期的な投資による資産形成の支援、継続的な市場の活性化の観点から、制度期限及び非課税保有期間を恒久化すべきである。

また、各種NISAについて、投資者の利便性向上や、金融商品取引業者等の実務に与える影響に配慮しつつ、対象商品の拡充を含めて、所要の措置を講じるべきである。

③ 上場株式等の相続税評価の見直し

上場株式(ETF及びREITを含む)並びに公募株式投資信託について、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。

④ 生命保険料控除制度の拡充

持続可能な社会保障制度の確立と国民生活の安定に資するために、生命保険料控除制度を拡充すべきである。

⑤ 特定口座等に係る所要の措置

急速な高齢化の進展の下で、認知判断能力の低下に備える手段として、個人が信託銀行等に対して特定口座内の上場株式等を信託した場合の税制上の取り扱いが明確でないため、これを明確化すべきである。

また、上場廃止日後に効力発生日が到来するコーポレートアクションにより少数株主等に対し交付される金銭について上場株式等の譲渡として取り扱う等の所要の措置を講じるべきである。

(3)年金税制

長寿化が進み、働き方が多様化する中で、老後の所得確保を図る観点から、公的年金の上乗せとなる企業年金制度等を改善・充実し、普及・拡大を図ることが必要不可欠である。その際、公平で分かりやすい制度の構築も求められている。今後、企業労使における退職給付の位置付け、実務等も十分踏まえつつ、制度の普及・拡大に資するような見直しの検討を進めるべきである。

退職年金等の積立金に係る特別法人税は、令和4年度末まで課税凍結されているが、企業年金制度等の普及・拡大を図る方向性と逆行するものであり、国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきである。

また、中長期的な投資による資産形成を支援するとともに、日本の資本市場を活性化させる観点から、確定拠出年金制度を拡充すべきである。具体的には、拠出限度額の大幅な引き上げ、中途引き出し要件の緩和等を行うべきである。

Ⅳ.国際経済秩序の再構築に資する国際課税の枠組みに向けて

経団連「。新成長戦略」の重要政策分野の1つは、「国際経済秩序の再構築」である。グローバルな課題を解決するためには連帯を形成し、取り組みを進めることが不可欠である。

国際課税の分野においても、企業活動のグローバル化、経済社会全体のデジタル化の進展、これらに伴うビジネスモデルの変化等を背景に、一国内での制度のみでは公平性や中立性を確保することが困難となると同時に、一国主義の下で新たな課税を先行する弊害が明らかとなっている。このため、OECDをはじめとする多国間での調整、国際的な整合性の確保が極めて重要である。

こうした観点から、OECDによる130か国からなる包摂的枠組みによる本年7月の経済の電子化に係る「大枠合意」は、国際課税における歴史的な合意であり歓迎する。経団連では、これまでの議論においてもOECDに対し直接、間接に意見発信を行い、議論に貢献してきた。今後とも、官民連携して、わが国企業の国際的なレベル・プレイング・フィールド確保の観点から、積極的な意見発信を継続することが重要である。今後、最終合意に向けた国際的な議論、また、合意の後には国内法制化が進められることとなるが、以下に経済界としての基本的な意見を示す。

なお、国際課税に関しては、今後、GX等、一国では解決不可能な地球規模の課題に関する議論も予想される。このような分野における議論においても、日本として先んじて国際的な議論をリードしていくことが期待される。

1.デジタル経済における国際課税

<ポイント>

  1. 「第1の柱」(利益配分ルール)、「第2の柱」(ミニマム課税)ともに本年10月の「最終合意」に向けて、各種技術的論点の議論を前進させるべき。
  2. 「第1の柱」については、以下を行うべき。
    • 国際合意及び実施の暁には、一国主義的な税制措置は検討中のものを含めて早急かつ確実に取り下げられるべき。
    • 利益A(Amount A:市場国への新たな課税権配分ルール)のスコープ、レベニューソーシング、セグメンテーションや支払事業体の特定、MDSH(Marketing and Distribution profits Safe Harbour:市場国に残余利益が既に配分されている場合における、利益の二重計上の調整措置)、二重課税調整等の技術的論点のいずれも、企業の実務負担に照らして簡素なものとする方向で検討を行うべき。
  3. 「第2の柱」については、以下を行うべき。
    • 企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の強化を実現することが必要不可欠。
    • 最低税率を下回る法域における進出済み企業への配慮も十分に講じつつ、カーブアウト、ETR(実効税率)計算とCFC税制の関係、分割保有ルール、一時差異への対応、簡素化オプション等の技術的論点について、企業の税負担・実務負担軽減の観点で検討を進めるべき。
    • 諸外国におけるパテントボックス税制や米国税制も参考としつつ、データ等の無形資産の集積や、新たな研究開発投資への再投資を後押しする税制措置について検討を行うべき。
(1)基本スタンス

2021年7月のBEPS包摂的枠組み(IF)による、「第1の柱」(利益配分ルール)及び「第2の柱」(ミニマム課税)に係る「大枠合意」を歓迎する。OECD・G20には、依然として合意に達していない各種技術的事項について、10月の「最終合意」に向けた詰めの協議を着実に推進することを求めたい。なお、制度の実効性並びに適正性を担保する観点から、各国が結果に服する形での強力な紛争予防・解決の手段を確保し、二重課税を防止・排除することが引き続き極めて重要である。

「第1の柱」に係る国際合意及び実施の暁には、デジタルサービス税(DST:Digital Services Tax)及びインドの平衡税(Equalisation Levy)を含む一国主義的な税制措置(unilateral measures)については、検討中のものを含めて、早急にかつ確実に取り下げられるべきである。DSTに関するデメリットは、二重課税による新たな税負担増のみならず、執行段階での不確実性や、対象企業のコンプライアンスコストの増大等と認識している。既に、国ごとにスコープの異なるDSTが導入されている中、対象企業にとっては、各スコープの正確な理解は言うまでもなく、新たなシステム構築及び改修、そして取得データの貯蔵及び申告要員の確保等に膨大なコストが生じている。

「第2の柱」における所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)の導入の下で、企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の強化を実現することも必要不可欠である。その観点から、諸外国におけるパテントボックス税制や米国税制も参考としつつ、データ等の無形資産の集積や、新たな研究開発投資への再投資を後押しする税制措置について検討を行うべきである。併せて、国内への資金還流の増大を通じて、国内投資・生産・雇用の拡大につなげることを目指して、外国子会社配当益金不算入制度の拡充(例えば持株割合の判定を内国法人ごとではなく、外国法人経由を含むグループ全体で実施等)も視野に入れて、税制上の支援措置も併せて検討すべきである。

以下では、「第1の柱」、「第2の柱」において、引き続き協議の続く技術的事項を中心に、わが国経済界として重視する事項についての意見を述べる。

(2)第1の柱関係

「大枠合意」の下では、適用対象企業の判定に際して、売上高(200億ユーロ超)及び税引前利益率(10%超)の数値基準が採用された。これ自体は、制度の簡素化の観点から一定の評価が可能であるが、売上高及び税引前利益率は、マクロ経済環境等の外部要因や、事業再編等によって、閾値近傍で推移する可能性もある。「第1の柱」の適用・不適用は、企業経営の将来に渡る予見可能性にも密接に関連することから、数値基準の判定年のあり方を引き続き検討すべきである。一案として、複数年(例えば5年)での財務数値の平均値を用いる方法も考えられる。また、当該閾値により適用対象企業となりうる企業であって、海外源泉所得が僅少である場合は、適用対象から除外することを継続して検討すべきである。加えて、閾値に満たない企業について、「第1の柱」の利益A(Amount A:市場国への新たな課税権配分ルール)に係る全ての計算手順を免除すべきである。

今後、売上高の閾値については、レビュー(合意の発効から7年後に開始され1年以内に完了)に基づき、利益Aに係る税の安定性を含む実施の成功を条件として100億ユーロまで引下げることとされている。こうした中、いわゆるB to Bの完成品や部品の販売、クラウド・コンピューティング事業、デバイス・コンポーネント事業、ソフトウェアコンテンツ提供事業のうちB to B to Cに該当する取引も「第1の柱」の適用対象となりうる。これらの部品販売を含めた類型は、レベニューソーシング、すなわち売上計上地の判定が実務上非常に困難であることや、エンドユーザーの情報取得も困難である。こうした実態を踏まえて、ある種の「割り切り」の考え方も踏まえて、実務に要する負荷を十分に勘案した制度設計を行うことが必要不可欠である。

セグメンテーションや支払事業体の判定について、共通経費の配賦方法を含めて、簡素かつ追加的な事務負担を少ないものとすべきであり、課税当局・納税者双方にとって税の安定性に資するものとすることが必要である。

また、市場国に残余利益が既に配分されている場合における、利益の二重計上の調整措置であるMDSH(Marketing and Distribution profits Safe Harbour)について、「固定リターン」の設定のあり方等を含めて、納税者である企業の実務の簡素化に資する制度設計に向けた議論を行うべきである。

更に、利益Aに係る二重課税の調整は、外国税額控除方式では限度額により控除しきれない可能性があることや、対象となる法域が多岐にわたる場合の事務負担が大きいため、必ず国外所得免除方式とすべきである。

申告納税及び調査の簡素化の観点からは、例えば、One Stop Shop制度の導入等も引き続き検討すべきである。なお、市場国への納税手続きは、税務当局間で送金を行う仕組みを構築することが効率的である。

少なくとも、利益Aの対象企業については、全ての移転価格・PE課税について、紛争解決を義務的・拘束的なものとすることが必要であることを強調する。付随して、わが国においては、二重課税の確実な排除の観点から、移転価格に係る事案が国外関連者への寄付金と見なされ課税される慣行が散見される。このため、移転価格課税と寄附金課税の適用関係の整理が明確な基準の下で行われることを求める。

(3)第2の柱関係

究極の親会社所在国で一括してIIRを計算・納税することを可能とするトップダウンアプローチを堅持(米国GILTIに対しても同様)した上で、以下の技術的論点について、企業の実務負担の軽減の観点から、更なる検討の深化を図るべきである。なお、最低税率を下回る法域における進出済みの実体及び経済合理性を具備する企業に対する経過措置を講じる等、十分な配慮を行うことが重要である。

この他、国際海運業については、「大枠合意」の通り、除外されるべきである。

① カーブアウト

「大枠合意」では、対象所得から、有形固定資産(tangible assets)の簿価と支払給与(payroll)の5%以上(移行期間である当初5年間は7.5%以上)を除外すること(カーブアウト)が明記されている。

税負担の急増を避ける観点から、最低税率の上昇を招かない程度において、十分に高い数値割合を設定する方向で議論を進めるべきである。

② CFC税制との関係

CFC税制とIIRの重複を整理する観点から、CFC合算税額は、制限なく全額を子会社法域にプッシュダウンし、実効税率(ETR)計算の分子に含めるべきである。

③ 分割保有ルール等

「大枠合意」を通じて、「分割保有ルール」として、親会社が子会社等の株式を80%未満保有する場合には、当該子会社等(部分被保有中間親会社(POIP:Partially Owned Intermediate Parent))にもIIRが適用されることが明らかとなった。POIPで支払ったIIR税額を親会社段階で控除(credit)するならば、各国で対応するための実務負担が非常に大きくなることを懸念する。今後、仮に、「分割保有ルール」が残る場合でも、控除(credit)ではなく、単に免除(exempt)する等、より簡易な方法を検討すべきである。

なお、持分法適用会社(関連会社及びJV)に対する簡素化IIRの導入について、多国籍企業グループが持分法適用会社を支配しておらず租税回避目的で使用されるリスクは極めて低いことや、子会社に比べて情報の入手が困難であること等を理由として、導入は見送るべきである。

④ 一時差異への対応

ETR計算上の課税ベース計算に際して、財務会計上の利益が参照されることとなっているが、税務と会計の一時差異に伴うETRの変動への対処として、繰越方式と税効果方式のいずれかを採用するかで検討が進められていると認識している。税効果方式を採用する場合においても、繰延税金負債が一定期間後に取り崩されない場合、一旦計上した税金費用を取り消す等の処理、すなわち、リキャプチャの対象を最小化する等、可能な限り簡易な方法が認められることが重要である。併せて、関係する企業の事務負担に配慮して、税務当局による丁寧な説明・ガイダンスが必要である。

⑤ 簡素化オプション等

税務行政ガイダンスや、国別報告書(CbCR:Country-by-Country Report)の税負担割合等を用いたセーフ・ハーバー、デミニマス利益の除外を確実に導入すべきである。その際、調整項目を過度に増加することなく対処できるようにすることが必要不可欠である。

また、法域別のETR計算については、現行のCbCRと同様に、国別会計数値の国別連結(同一国内グループ間取引消去や未実現利益排除等)を求めない方式とすることが必須である。なお、CbCRの公開は、CbCRの守秘という条件に反するものであり、引き続き支持しない。

なお、STTR(Subject To Tax Rule)については、「大枠合意」で7.5%から9%とされた最低税率を可能な限り低水準とする方向で議論を進めるべきである。併せて、課税対象となる支払について、利子(interest)、使用料(royalties)、定義されたその他の支払(a defined set of other payments)の対象を極力狭めることが必要不可欠である。加えて、支払の都度、当該支払が相手先において軽課税か否かを判定する事務負担を軽減する観点から、年間ベースでの支払とする等の実務上の工夫を講じることが極めて重要である。

2.国内法関係

(1)「第2の柱」の国内法制化を見据えた、わが国CFC税制の見直し

<ポイント>

  1. 「第2の柱」の国際合意を踏まえて、今後国内法制化の議論を行うに際し、諸外国における導入時期や、内外の企業間の公平な競争環境の整備を適切に考慮しつつ、わが国だけがIIRを先行して導入ことは避けるべき。
  2. 企業の国際競争力の維持・強化、二重課税の排除の観点も踏まえつつ、IIRの国内法制化を見据え、わが国CFC税制の抜本的な簡素化を早期に行うべきである。その際、以下の3つの視点を踏まえることが重要。
    1. 視点1:わが国CFC税制を真に租税回避と言えるものに一層特化すること。
    2. 視点2:ポスト・コロナ時代をにらみつつ、企業活動の変化に即して、制度を適応させること。
    3. 視点3:事務負担への適切な配慮を行うこと。

上記の3つの視点を踏まえた、各種見直し事項は以下の通りである。

視点1:わが国CFC税制を真に租税回避と言えるものに一層特化すること。
  • 30%基準を廃止し、20%基準に一本化。
  • キャッシュ・ボックスの廃止。
  • キャピタルゲイン特例の所要の見直し。
    • 買収後経営統合(PMI)による株式譲渡益の免除特例の要件緩和(譲渡期間に係る要件について所要の見直し等)
  • 部分合算における受動的所得の範囲の見直し・適正化。
    • 配当等の持株割合要件の判定をグループ全体で行うことを認めるべき。
    • 異常所得から外国子会社清算時の債務免除益を除外すべき。
    • 現地で能動的な事業を行う外国関係会社が事業活動の一環としてデリバティブ取引を行う場合に、当該取引の損益を除外すべき。
    • 部分合算の上限を外国関係会社の所得とすべき。 等
  • ペーパーカンパニーの範囲の適正化。
    • 不動産保有に係る一定の外国関係会社について、他の外国関係会社が現地ディベロッパー等の同一国に所在する他の外国法人と共同で管理支配している会社も除外すべき。
    • 清算中の会社は除外すべき。 等
  • 外国関係会社が米国所在時の場合の所要の措置。
    • 少なくとも、同国内における連結経営の実態に即して、個社の実体基準・管理支配基準の判定を行うべきであり、米国連結納税グループでの判定を許容すべき。
    • 米国現地の事業展開のための法的要件に従いLLC(Limited Liability Company:有限責任会社)を設立している場合に、ペーパーカンパニーの除外規定を該当させるようにすべき。 等
  • 租税負担割合の計算方法に関する所要の見直し。
    • 資本参加免税下で租税負担割合の分母となる所得に対して、非課税株式譲渡益を加算することが求められている一方で、株式譲渡損を減算できない取り扱いであることを見直すべき。 等
視点2:ポスト・コロナ時代をにらみつつ、企業活動の変化に即して、制度を適応させること。
  • 実務負荷や合算所得の範囲が拡大しないことを前提とした、事業基準の見直し。
    • 現地国における事業実体の有無にかかわらず、著作権提供事業が一律合算という硬直的な制度設計となっていることへの対応を講じるべき。
    • 主たる事業の判定を単年度ではなく複数年度で判定することを許容すべき。
    • 物流統括会社と被統括会社間に資本関係がない場合に非関連者扱いとならず非関連者基準に抵触するケースへの対応を講じるべき。
    • 移転価格税制における海外子会社の位置付け・機能リスクの合意(APA、MAP)内容を反映した経済活動基準の適用を行うべき。
    • 主たる事業が事業実体を有さない被管理支配会社の株式の保有であり、かつ本店所在地国が被管理支配会社の本店所在地国と同一である外国関係会社が、被管理支配会社の事業の管理、支配及び運営を行う場合には、経済活動基準における事業基準を充足するものとすべき。 等
  • 実体基準や管理支配基準の不断の見直し。
    • 資産保有会社と管理支配会社が同一国で一体となって活動している場合において、租税負担割合が20%を下回る資産保有会社については、管理支配会社による管理支配をもって管理支配基準を充足するものと判定すべき。 等
  • 二重課税排除に向けた所要の措置。
    • 海外子会社が保有する不動産を譲渡した場合の物件売却益に係る外国税額控除額への対応を講じるべき。
    • 会社合算となる海外子会社が現地法令上のCFC課税(類似課税を含む)の適用を受けて第三国の子会社(孫会社)の所得を課税所得して取り込んでいる場合の二重課税を解消すべき。
    • 英国グループリリーフにおいて、ある部分対象外国関係子会社で発生した受動的所得(キャピタルゲイン)が、経済活動基準を満たさない他の外国関係子会社に移転され、合算課税の対象となる場合に、二重課税が発生しうるため、これを解消すべき。 等
視点3:事務負担への適切な配慮を行うこと。
  • 別表・付表の数を整理・統合により減らし、簡素化すべき。
  • 各種書類について添付要件から保存要件に改めるべき(例えば、外国関係会社の財務諸表、外国税額控除に関する情報等)。
  • 「第2の柱」におけるIIRの申告フローが円滑なものとなることも見据えて、外国関係会社の所得の合算時期(現状「決算後2か月を経過する日を含む事業年度」)を見直すべき。
(2)外国子会社配当益金不算入制度の見直し

現行25%以上となる持株割合要件について、海外主要国の水準等を踏まえて緩和するとともに、判定のあり方についても外国法人経由を含むグループ全体で実施すべきである。なお、外国子会社からの受取配当に係る益金不算入割合を引き上げるべきである。

(3)子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避への対応策に関する所要の見直し

令和2年度税制改正における、法人が一定の子会社から一定の配当を受け取った場合の子会社株式の帳簿価額の引き下げの対象となる配当には、現行法令では支配後に獲得した剰余金からの配当も含まれる可能性がある。このため、本税制措置の趣旨にそぐわない類型が対象となることを避けるように所要の見直しを講じるべきである。とりわけ、子会社が期中に稼得した利益を原資に同一期中に配当を支払う場合や、子会社が租税回避を意図せず新規に孫会社を設立した場合への対応が必要である。

この他、海外金融機関や、海外投資家が、わが国の金融機関等と行うデリバティブ取引について、わが国で申告が不要となるように所要の措置を講じるべきである。

3.租税条約関係

投資交流の促進と二重課税の排除という租税条約の本来の目的を更に促進し、配当・利子・使用料に係る源泉税の一層の減免を実現すべく、以下の国・地域との交渉を推進すべきである。また、技術上の役務対価(FTS:Fees for Technical Services)条項について、既存の租税条約に盛り込まれている場合には見直しを行うとともに、新規締結時にも慎重に検討すべきである。

<改定国・地域>

アジア:
中国、インド、パキスタン、タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール、韓国、フィリピン、マレーシア、バングラデシュ、スリランカ、台湾
欧州:
アイルランド、ロシア、チェコ、イタリア、ポーランド、英国、ドイツ
中南米・北米:
ブラジル、カナダ、メキシコ
中東:
サウジアラビア
大洋州:
オーストラリア

<新規締結国・地域>

サブサハラアフリカ:
ケニア、ナイジェリア、エチオピア、ガーナ、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、モザンビーク、アンゴラ
中東・北アフリカ:
アルジェリア、チュニジア、イラン
アジア:
ミャンマー、カンボジア、ラオス、モンゴル、ネパール
中南米:
ベネズエラ、ボリビア、パナマ、グアテマラ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ホンジュラス

これらの他、外国居住の執行役への役員報酬に対する二重課税排除の観点から、当該国との租税条約や関係する国内規程の見直しを検討すべきである。

以上

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