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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 IASB情報要請「第3次アジェンダ協議」へのコメント

2021年9月24
一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会 企業会計部会

IASB(国際会計基準審議会)御中

我々は、情報要請「第3次アジェンダ協議」(以下、情報要請)へのパブリックコメントを歓迎する。コメントは以下の通り。

【総論】

特にお伝えしたいのは、以下の3点である。具体的な回答は【各論】を参照してほしい。

  • IASBとISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とで取り扱う領域を混同することなく、明確に区分すべきである。IASBは、今後は、市場関係者のニーズが高い課題(「のれんと減損」等)に集中的に資源を投じるべきである。(質問1)

  • IASBが高品質な基準開発を行うためには、投資家のみならず、作成者・経営者の意見を十分に踏まえるべきである。また、基準開発においては、米国会計基準とのコンバージェンスにも留意すべきである。(質問2)

  • 今後最優先で取り組むべきプロジェクトは、「のれんと減損」「開示に関する取組み」「その他の包括利益(リサイクリング)」である。(質問3)

【各論】

(質問1:当審議会の活動の戦略的方向性及びバランス)

  • IASBの活動のバランスについて論じる前提として、IASBとISSBでは、各ボードが検討対象とする報告の監査可能性を含め、開発する基準の内容・性質が大きく異なっており、IASBとISSBとで取り扱う領域を混同することなく、明確に区分すべきである

  • IASBの活動のうち「新IFRS 基準書及びIFRS 基準書の大規模修正」については、多くの主要なIFRSの開発プロジェクトが既に完了していることから、市場関係者のニーズが高い項目に限定してプロジェクトを推進すべきであり、第2次アジェンダ協議の期間と同様に、会計基準の安定期間との位置づけを継続すべきである。従って、「新IFRS基準及びIFRS基準の大規模修正の開発」の割合を相対的に減少させ、その代わりに、わが国を含め、世界中でIFRS適用企業が増えている現状を踏まえ、「IFRS基準の維持管理及びその一貫した適用の支援」の割合を現状よりも増加させるべきである。IASBは、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」、IFRS第16号「リース」を含め、主要基準の適用後レビューを確実に実施し、基準の適用に不具合が無いか市場関係者の意見を十分に聴取すべきである。

  • 無論、適用後レビュー等で明らかになった課題(例:「のれんと減損」)には、集中的に資源を投じ、市場関係者のニーズを踏まえた基準開発を推進すべきである。一方で、IASBのプロジェクトには、市場関係者のニーズに合致しないにも関わらず検討を進めた結果、却って会計基準の品質が落ちてしまい、多くの関係者の労力をかけてそのプロジェクトをストップするに至ったケースも散見される。多数ある「潜在的プロジェクト」のうち、リサーチ・プロジェクトに進むものを精査して絞り込むべきである。

(質問2:当審議会の作業計画に追加される可能性のある財務報告の論点の優先順位を決定するための判断規準)

第21項の表2で提案されている7つの判断規準に関連して、3点要望したい。

  • 判断規準の「①投資家にとっての当該事項の重要度」について、会計基準及び会計基準を使って作成される財務諸表の利用者には、投資家のみならず作成者・経営者も当然含まれる。よって、①は、「投資家・作成者・経営者等の市場関係者にとっての当該事項の重要度」とすべきである。昨今のIFRSの開発においては、投資家の意見を偏重し、会計基準(認識・測定)自体の議論を疎かにして、表示や開示の拡充の議論に終始する傾向が強いと感じている。作成者・経営者の意見を十分に踏まえた基準開発を行うことで、経済的実態を踏まえた堅牢な会計基準の開発が実現するものと考える。

  • IFRSはグローバルで高品質な単一の会計基準を目指すものであり、他の主要な会計基準の開発動向を考慮して検討を進める必要がある。とりわけ「米国会計基準とのコンバージェンス」は重要な要素であると考えている。よって、第21項の表2の判断規準に「米国基準とのコンバージェンス」を追加すべきである。なお、「米国基準とのコンバージェンス」とは、IFRSと米国基準において文言まで同一の会計基準を目指すことを求めているのではなく(無論、重要な基準であればあるほど、文言レベルで同じ基準が望ましい)、少なくとも財務諸表利用者がミスリードしない程度に基本的な考え方が同様の基準の開発を行うべきとの趣旨である。

  • 判断規準「⑥その潜在的プロジェクト及び解決策の複雑性及び実行可能性」「⑦その潜在的プロジェクトを適時に進捗させるための当審議会及び利害関係者の対応能力」について、これらを理由に、市場関係者のニーズがある一方で、合意形成が困難なプロジェクトを諦めることがあっては、高品質な会計基準開発を目指すIASBの評価を貶めることになりかねない。IASBは、市場関係者の意見をバランスよく聴いて品質の高い会計基準の開発に貢献できる有能なスタッフの確保・育成を行い、重要なプロジェクトに集中的に配置することで、困難な課題にも対処すべきである

(質問3:当審議会の作業計画に追加される可能性のある財務報告上の論点)

  • 「最優先プロジェクト」は以下の3つと考えている。

① のれんと減損

  • IFRS第3号の適用後レビューにおいて、のれんの減損がタイムリーに行われていない課題(以下、「too little, too late問題」)が明らかになり、のれんの償却の再導入が優先度の高いテーマであることが明らかになった。FASBでも、のれんの償却の再導入に向けた検討を進めており、IASBにおいても、のれんの償却の再導入に向けて、本プロジェクトを、リサーチ・プロジェクトから基準設定プロジェクトに変更して、会計基準(認識・測定)自体の議論に対し、集中的に資源を投じるべきである

  • なお、ディスカッションペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」において提案された開示の拡充については、「too little, too late問題」とは本来は関係がなく、提案内容自体の問題が大きいことから、検討の優先順位は低いと考える。

② 開示に関する取組み

  • 現在公表されているIASBの公開草案「IFRS基準における開示要求-試験的アプローチ」では、開示の改善(特に開示の効率化)が限定的になってしまう懸念を持っている(具体的には、公開草案「IFRS基準における開示要求-試験的アプローチ」において回答する)。開示の効率化に向けた抜本的な取組みを行うべきである

  • なお、「開示に関する取組み」から派生した「基本財務諸表」プロジェクトでは、損益計算書表示の抜本的な見直しが志向されている。我々は、IASBが公開草案「全般的な表示及び開示」において提案した画一的な損益計算書の段階表示の提案などの提案内容全般にわたって強い懸念を持っている。「基本財務諸表」プロジェクトについては、最終基準化の前に再公開草案を出すなど、今一度市場関係者の意見を聴くプロセスを設けるべきである

③ その他の包括利益(リサイクリング)

  • IFRSのリサイクリングの取扱いは、基準毎に区々であり、一貫性がない。改訂された概念フレームワークでは原則としてOCIの純利益へのリサイクリングが求められたことから、概念フレームワークの考え方に沿って、フルリサイクリングを前提として関連する基準を改めるべきである

  • その他のIASBのプロジェクトに関して3点要望する。

① 持分法

  • 持分法会計については、連結手続なのか測定技法なのかについての概念的な整理が十分に行われておらず、実務の混乱や不整合を生む原因となっている側面があることから、考え方を整理すべきである。なお、我々は、IAS第28号「関連会社及び共同支配企業への投資」を、IFRS第10~12号のような原則主義的な会計基準に抜本的に変更することを望んでいるのではなく、実務の混乱や不整合を是正するための考え方の整理に留めるべきと考えている。

② 無形資産

  • 無形資産についての包括的な検討を行う場合でも、現在認識されている無形資産の会計処理だけを対象とすべきであり、自己創設のれん(及び自己創設無形資産)を貸借対照表に認識することを含め、認識する無形資産を拡大すること(及び開示の対象を拡大すること)には反対である。自己創設のれん(及び自己創設無形資産)を認識しないことは、会計基準の大前提であり、この大前提を堅持すべきである。

③ 経営者による説明

  • IFRS実務記述書第1号「経営者による説明」の改訂案(公開草案)では、その対象について、「企業の無形の資源及び関係(企業の財務諸表において資産として認識していない資源を含む)並びに環境的及び社会的事項に関連する事項が含まれる可能性がある」(IN16)とされ、財務報告を補完する情報のみならずサステナビリティ情報に関連する「経営者による説明」に関しても提案がなされている。よって、本プロジェクトは、IASB単独のプロジェクトとしては取りやめ、ISSBが設立された後に、両ボードでその扱いを検討すべきである。これに伴い、上記の公開草案については、提出期限(2021年11月23日)を延期すべきである。

以上

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