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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」報告書に対する意見

2021年11月4
一般社団法人 日本経済団体連合会
消費者政策委員会消費者法部会

今般取りまとめられた「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」報告書で示されている消費者裁判手続特例法(以下「本法」)改正案の中には、企業活動に多大な影響を与えるものも含まれており、報告書に対して意見を述べる機会に感謝する。

企業には、社会に有用な価値の提供とともに、商品・サービスの品質と安全性を確保する責任が求められ、その活動は、消費者からの信頼なくして成り立ちえない。経団連としても、「企業行動憲章」(2017年11月改定)#1に掲げる通り、商品・サービスに関する適切な情報提供と誠実なコミュニケーションを通じて消費者の満足と信頼を獲得すべく、企業の自主的かつ積極的な取り組みを推進してきたところである。

本法が定める訴訟制度は、消費者被害の集団的な回復を実現するとともに、いわゆる悪質事業者の排除にも寄与し得るものである。2016年10月に施行されて以来、5事業者に対して共通義務確認訴訟が提起されたほか、本法を背景に訴訟外における事業者の自主的な対応が促されるなど、一定の機能を果たしてきた。

今般、本法に期待される役割を十分に発揮させるべく、法改正が提案されており、経団連としても、いわゆる悪質事業者に対する責任追及の実効性を高め、より多くの消費者被害の回復を目指すことには賛成する。しかし、本法の対象には、いわゆる悪質事業者の事案だけでなく、真っ当な事業者による過失の事案も含まれることから、企業の実務に与える萎縮効果を十分に考慮したうえで、目的を実現するために必要かつ相当な手段を慎重に検討することが欠かせない。

したがって、今後、報告書に基づいて具体的な法令改正、「消費者裁判手続特例法Q&A」(以下「Q&A」)改訂等を行う過程においては、経済界の意見を十分に聴き、適切に反映させることを強く求める。

  1. 「企業行動憲章」(2017年11月第5回改定)第1章(持続可能な経済成長と社会的課題の解決)1-2「商品・サービスの品質と安全性を確保する」、第5章(消費者・顧客との信頼関係)5-1「商品・サービスに関する適切な情報を提供し、消費者の自律的な選択や判断を支援する」、5-2「消費者・顧客からの問い合わせなどには誠実に対応し、その声を商品・サービスの改良や開発などに反映する」

1.(1)請求・損害の範囲の見直し

意見1

慰謝料を本法の対象にすることには基本的に反対する。仮に対象にするとしても、対象範囲については極めて慎重に検討されたい。

《理由》

以下の理由から、慰謝料請求は本法で定めるような画一的な集団訴訟になじまないため、仮に本法の対象にするとしても、その範囲は極力限定することが求められる。

  1. ① 慰謝料は客観的な方法により算定ができず、裁判所が裁量により算定するものであるため、被告となる事業者にとって予測可能性が低い。とりわけ本法を利用した訴訟の場合、慰謝料の総額の予想が立てづらく、訴訟追行のみならず財務面での負担も大きい。
  2. ② 実際には精神的損害を受けていない消費者も特定適格消費者団体に授権して便益を享受できることになってしまう。
  3. ③ 個々の消費者が参加しない共通義務確認訴訟において、消費者が被った精神的損害を推し量るのは困難である。
意見2

仮に慰謝料を本法の対象にする場合、「ア 画一的に算定される慰謝料について」または「イ 上記以外の考え方を提示する意見」のいずれの考え方を採るとしても、対象は「画一的に算定される慰謝料」に限定されることは当然である。

その上で、支配性及び係争利益の把握可能性の観点から「画一的に算定される」の要件を満たすものは相当程度限定されるはずであり、「画一的に算定される」の意義については、報告書の議論を踏まえつつ、一義的に判断できる具体的かつ明確な規定となるよう検討されたい。特に、支配性の要件とは独立した概念であることを明確に規定することが望ましい。

また、「共通の算定基準」および「慰謝料額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通する場合」については、Q&A等において、とりわけ認められない場合を中心に具体例も挙げながら明確化すべきである。特に、検討会では、本来は個別性があるものについて最大公約数的に共通部分を一律に請求する慰謝料については、本法の対象とするのは適切ではないとの指摘があったため、その趣旨を明確化することが求められる。

《理由》

報告書に記載の通り、支配性および係争利益の把握可能性の観点から、「画一的に算定される慰謝料」に限り本法の対象とすることが適切である。ただし、報告書中の記載だけでは、具体的にどのような慰謝料が本法の対象になるかが明確ではなく、事業者側にとって予測可能性が低い。

意見3

仮に慰謝料を本法の対象にする場合であっても、過失の個人情報漏えい事案における慰謝料は対象から除外し、かつ、悪質性の高いものに限定すべきである。それが困難である場合には、「イ 上記以外の考え方を提示する意見」に記載の通り、現行法上対象となる財産的損害と併せて請求される慰謝料に限り本法の対象とすべきである。

《理由》

個人情報漏えい事案の慰謝料に関しては、対象者の数が極めて大きくなる可能性があり、一人当たりが少額であっても合計額は膨大になり得る。不当な事業で利益を上げているわけでないにもかかわらず、多額の損害賠償を本法で請求されるとなると、事業者にとってはあまりにも負担が大きい。

もちろん、事業者による個人データの利活用は、個人の安心・安全の確保が大前提となる。経団連としても「個人データ適正利用経営宣言」(2019年10月)に基づき、個人データの適正利用に向けた取り組みを進めており、個社においても十分なコストをかけ適正な情報管理を徹底している。こうしたなか、個人データの取り扱いに関して訴訟リスクが過度に高まり、個人データの管理コストが大幅に増大するならば、データ利活用によって新たな製品・サービスを創出しようとする事業者の意欲を削ぐことになる。これは、我が国全体で推進しているデータ利活用の妨げになり、却って消費者の利益にならない恐れがある。

別の考え方として、消費者に共通の財産的損害が発生している場合に限って慰謝料の請求を認めるのであれば、意見1③の点については、財産的損害に起因して消費者に共通の精神的損害が発生したと推測することができる。

意見4

仮に「個人情報の意図的な目的外利用のような事案」における慰謝料を本法の対象とする場合、具体的にどのような事案を念頭に置いているかをQ&A等において明確化すべきである。特に以下の事案については、本法の対象に含まれるのは適切でなく、対象にならないことを明確化すべきである。

  1. ① 個人情報の利用目的について本人の同意を得ていると事業者が誤認していた場合(とりわけ同意の範囲について誤認があった場合)など、過失の事案
  2. ② 企業の従業員が無断で個人情報を持ち出した場合など、事業者として「意図的」ではない事案
《理由》

「個人情報の意図的な目的外利用のような事案」については、予測不能な事態への萎縮効果は想定し得ないことから本法の対象とすることとされているが、上述①・②の事案にはそれが当てはまらない。

意見5

現行法上対象となる財産的損害と併せて請求される場合に限って慰謝料を本法の対象とするとしても、個々の共通義務確認訴訟において、財産的損害の請求が認められない場合には、慰謝料の請求も当然に認められないこととすべきである。

《理由》

消費者に共通の財産的損害が発生していて本法に基づく訴訟の対象となる状態であれば、画一的に算定が可能な慰謝料が併せて請求される限りにおいて、応訴負担の拡大は限定的である。

また、消費者に共通の財産的被害が発生している場合は、それに起因して消費者に共通の精神的損害が発生したかどうかの認定が困難であるとまでは言い難いが、消費者に共通の財産的損害が発生していないならば、共通の精神的損害の発生を認定するかどうかにあたっての訴訟活動は相当に長期にわたる可能性がある。

また、慰謝料と併せて請求される財産的損害がいかなるものでもよいのであれば、請求が認められ得る慰謝料の範囲があまりにも広くなってしまい、被告の応訴負担に鑑みて財産的損害と併せて請求される場合に限って慰謝料を本法の対象とする趣旨が没却される。

1.(2)被告の範囲の見直し

意見6

法令改正およびQ&A改訂等の際には、健全な事業者の役員の合理的なリスクテイクに対して萎縮効果が生じないよう十分慎重に検討すべきである。

《理由》

被告が故意または重過失で共同不法行為責任を負うかどうかは裁判で判断されるまで分からないため、健全な事業者の役員であっても、監督責任を怠ったことに重過失があったなどとされ、容易に被告に加えられてしまうことが懸念される。

1.(4)支配性の要件の考え方

意見7

支配性の要件は、本法の骨格部分であり、従前の取り扱いの明確化を越えて、過度に柔軟に解釈をするのは適当ではない。また、報告書における支配性の要件の考え方をQ&A等によって明確化を図るのであれば、裁判所や経済界の意見も十分に踏まえて記載を検討されたい。

《理由》

簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断できるか否かは、裁判所はもとより事業者にとっても重要である。

3.(2)役割分担と費用負担の見直し

意見8

事業者に対して、対象消費者への個別連絡義務および公告に要する一定額の支払い義務を負わせるのは適切ではなく、十分慎重に検討すべきである。

《理由》

本来、被害を受けた消費者と個別にコミュニケーションを行うべき主体は特定適格消費者団体自身であり、対象消費者に対する連絡についても団体自身が行うのが原則である。また、これまで、通知・公告費用は訴訟のための準備費用であり、法律上も訴訟費用ではなく、訴訟の準備を行う各当事者が負担するものとされてきた。

意見9

特定適格消費者団体及び事業者の役割分担及び費用負担の在り方については、経済界の意見も十分に踏まえて、事業者が一定の場合に負担する額の算定基準を含め、公告に要する一定額の支払義務に関する明確な規律を検討すべきである。

仮に、そのような規律によったとしても、双方当事者間の間で合意に至らない場合には、裁判所が双方当事者の意見を聞いた上で、その規律に基づき判断することも有力な手段として考えられる。

《理由》

一定額の支払義務に関する規律は、双方当事者が合意に至るか否かに多大な影響を及ぼしうる。特に、事業者負担額の算定基準については、報告書中の記載だけでは、法的根拠を含め不明瞭な点が多く、どのような事案でどの程度の額になるかを想定することが困難であり、事業者の負担が際限なく増えることを危惧する。そのため、明確な規律を設けることが望ましい。

役割分担および費用負担の在り方については、設けられた明確な規律を踏まえた上で、基本的に双方当事者の対応に委ねることが望ましいものの、当事者間で合意に至らなかった場合には、中立・公平な第三者である裁判所が判断することが考えられる。

以上

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