Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  デジタル課税 第1の柱 利益B 公開諮問文書への意見

2023年1月25
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部

はじめに

意見提出の機会に感謝する。本意見は「経団連21世紀政策研究所国際租税研究会」#1におけるこれまでの検討を基礎に経団連経済基盤本部として提出するものである。

1 日本企業の税務担当者、アカデミア、実務家等によって構成される研究会。

1.総論

利益Bの詳細に関する今回の公開諮問文書の提示を歓迎する。利益Bの目的は移転価格のルールを簡素化し、紛争の予防・解決に資するものとするところにあり、この目的をビジネスも支持している。

もっとも、今回の公開諮問文書で示された内容のなかには、必ずしも簡素化に資さない内容も含まれており、また、取引の実態から離れた課税がなされるのではないかという懸念が残る内容も見られる。加えて、税の安定性を確保するという観点からも、十分な方策が示されたとは評価できない。利益Bを導入することで、従来の移転価格を主張する国と、利益Bを主張する国との間でかえって紛争が増加することを懸念する。各国の合意形成を十分に図る必要がある。低キャパシティ国の実情を踏まえた簡素化・合理化という目的には賛成できるが、利益Bの実施の際には、他の国の当局や納税者にもメリットが感じられる制度にしなければ、安定性な制度とならないおそれがある。

これらの観点を踏まえ、以下に詳述するとおり、利益Bの適用はセーフハーバーとして企業の選択に委ねるべきと考える。簡素化の観点から、追加的な文書化の負担を課すべきではない。二重課税を排除し、制度の信頼性を高めるという観点から、利益Bの適用が選択された場合には、税の安定性に係る方策がすべての法域で確実に保証されるべきである。価格算定方法については、安定的に運用され、取引の実態を正確に反映するには、時間が要するように思われる。まず、利益Bの適用をセーフハーバーとすることおよび税の安定性を確保することを通じ、制度の根幹を固めることが重要になると考える。

なお、利益Bを導入する場合、製造会社-販売会社間での取引価格の改定など、十分な準備期間が必要となる。適用にあたって、利益Bの最終合意を踏まえた各国での法制化などの際、最低でも1年間は準備期間を確保すべきである。

利益Bが適用対象となりうる企業は幅広く、多くの企業が関心を持っている。再度パブリックコンサルテーションを行うことも検討に値する。ビジネスとは引き続き意見交換を行っていただきたい。

これらの観点を踏まえ、以下のとおり、意見を述べる。

2.スコーピング基準

スコーピング基準に関し、利益Bの適用の位置づけをまず明確にする必要がある。スコーピング基準に該当する場合に、利益Bが強制適用されるのか、選択可能なオプションであるのかが明瞭にされていない。利益Bが取引の実態に合致しているかは、企業により差異があるため、利益Bの適用を納税者が選択できるセーフハーバーとして位置付けるべきである。すなわち、納税者が利益Bの適用を選択した場合、それを当局が否認することができない仕組みにすべきである。セーフハーバーと位置付けることで、利益Bを通じた簡素化および安定性の確保を期待している企業にとっては、制度設計によっては、より広い対象で利益Bを適用することも可能となり、低キャパシティの当局の負担も軽減されるものと考える。その観点から、現状のスコーピング基準の要件(パラ18)に当てはまらない場合でも、一義的に利益Bの対象外とすべきではなく、複数機能を有する場合や、売上高に占める販管費の下限値を下回る場合でもあっても、利益Bの対象とすることを選択できるようにすべきである。

他方、課税当局から利益Bの適用を求められた場合であっても、公開諮問文書に記載のとおり、利益Bは反論可能な前提であり、納税者側が最適手法を示した場合は、その最適手法に基づき、当局との交渉が認められるべきである。利益Bの手法がまだ途上であることを踏まえれば、仮に、(1)および(2)の要件が満たされる場合でも、納税者側の最適手法による反論は可能であることも明確化すべきである。

なお、以下の対象取引およびスコーピング基準各論については、あくまでも、仮に、セーフハーバーという取り扱いが確保されず、強制的に適用される、もしくは当局から適用を求められる場合を念頭に限定的な方向でconditionalに記載したものである。また、各国における適用の差異を無くすため、定義の明確化は不可欠である。

(1) 対象取引(パラ14およびBox3.1)

Sales AgentおよびCommissionaire取引はスコープの対象外とするべきである。これらの取引は、Buy-sell取引との間で、機能・リスクに差異がある。収益もコストをベースにした手数料が計上されるのみであり、財務諸表や会計データからグロス売上を算出することは困難である。このため、スコーピング基準である総売上高や利益指標であるReturn on sales(ROS)を算出することも困難である。また、形式上はBuy-sell取引となる場合でも、機能リスクがSales agent及びCommissionaire arrangementsと同等の取引は、上記と同様の理由により、利益Bのスコープ外とすべきである。

仮にそれが困難である場合には、上記1.のとおり、利益Bの適用を納税者が選択できるセーフハーバーとして位置付けることを前提に、Sales AgentおよびCommissionaire取引を利益Bの対象とすることも考えられる。但し、仮にこれらの取引が対象となる場合には、下記3(3)で記載のとおり、ベリー比などの異なる利益水準指標の設定が必要となる。

加えて、一つの検証対象会社(tested party)の中で仕入または販売に関して関連者と非関連者が混在するケースが存在し、かつ全体の取引に占める利益Bの対象取引の金額・割合が小さい場合、文書化等の追加的な事務負荷を考慮して、利益Bの対象外とすべきである。また、基礎的マーケティング・販売活動を異なる国に所在する関連者間で分担のうえで取引を行っているケースについても、これらの活動を1社で行う場合よりも、機能・リスクは相当程度、限定されるため、baselineとしての機能を果たしておらず、利益Bの適用対象外とすることを検討すべきである。

スタートアップで事業が本格稼働する前の企業や、正当な理由により連年赤字が出ている法人など、個別事情がある現地販社については、何らかの除外基準を設けることが適当かもしれない。また、グループ全体の利益率が、利益Bの利益率を下回る場合、インカムクリエーションとなるため適用対象外とすべきである。

また、小売業は利益Bの対象となっていないが、上記のとおり、利益Bの適用を納税者が選択できるセーフハーバーとして位置付けることを前提に、適用を希望する企業は適用できるかたちとすることが望ましい。小売業は、利益水準が競合関係や景気変動等の影響を受けやすいため、適用を強制するかたちは望ましくないかもしれない。

(2) スコーピング基準各論(パラ18)

執行上の簡素化を徹底するため、複数の機能を有する検証対象企業がある場合には、紛争を防止し、安定性を確保する観点から利益Bの適用を課税当局から求められるべきではない。もっとも、利益Bを通じた簡素化を達成するため、セーフハーバーとの考え方のもと、複数の機能を有する検証対象企業がある場合においても、取引単位での検証に基づき、利益Bの適用を企業が選択できるようにすべきである。また、販売会社が独自の判断でリベートなどのインセンティブを個別の小売事業者に提供している場合、機能・リスクは限定的ではないため、強制的に利益Bの適用対象とされるべきではない。

加えて、パラ18の以下の項目について、定義・詳細を明確化する方向で、以下のとおり検討すべきである。

(c)(ii) Research and development activities。対象となる研究開発活動の範囲を明確化する観点から、公開諮問文書に記載のとおり、研究開発費を計上しているかどうかで判断すべきである。

(c)(iii)(iv) Procurement activitiesやFinancing activities。例えば、Financing activitiesには貸付債権の保有、トレードファイナンス、在庫保有ファイナンスは含まれるのか、明確化すべきである。グループ内cash poolingに参加して、余剰資金をグループ内で効果的に活用しているケースにおいて、cash poolingへのdepositがloanとみなされることは適当ではない。

(h) 付随的活動・取引の閾値の【X%】。この【X%】の判定は、実務の簡素化の観点から、過年度のデータで判定することを明記すべきである。

(i) 販社の年間の営業費用/総売上高の割合が今後決定される一定のレンジ(【X】%~【X】%)内にあるとの要件。対象取引の議論とも関わるが、このX%の下限値について、[10%]未満の場合は、課税当局から利益Bの適用が求められるべきではない。販管費率が低い取引は収益率が低い取引であり、利益Bが想定する“Baseline”としての機能を果たしていない可能性があり、取引の実態から乖離した利益をつけることになる可能性がある。もっとも、利益Bの適用をセーフハーバーとする関係から、例えば、5%など、10%未満の場合であっても、納税者が利益Bの適用を選択する場合は、簡素化に資する観点からこれを認めるべきである。また、販社の営業経費率(【X%】)が25%を超えるような場合は基礎的販売・マーケティング活動を上回る機能を担うケースがほとんどであるため、上限を25%とすることも一案かもしれない。

(j) 販社は限定的なレベルを超える経済的に重要なリスクを引き受けないとの要件。保険やファクタリング等の手段を通じて与信リスクや外的要因に基づく事業中断リスクを排除し、そのヘッジコストを負担している販社は利益Bの対象に含められることを検討すべきである。

(k) 販売無形資産。何をもって販売無形資産を保有しているとみなすかについて、定量的な基準で明確化することも含め、さらなる具体化が必要である。主観により、販売無形資産であるとして利益Bの適用範囲外とされ、市場国が高い利益率を主張する状況は望ましくなく、例えば、売上と販売宣伝費をもとに定量的な基準を設定することが妥当かもしれない。

(3) APAによる適用除外(パラ19-21)

バイのAPAがある場合は、利益Bを適用除外とする内容を支持する。

APAは税の安定性の観点からも尊重されるべきものである。その観点から、ユニラテラルのAPAについても、適用除外や何らかの保障を認めることも有用かもしれない。

また、APAの期間満了時に、当局にとって利益Bよりも不利な条件となる場合には、APAの更新申請が認められないことを危惧する。このような場合について、納税者側が税の安定性を確保できるようにすべきである。将来のAPAの交渉において利益Bは前例・適用上参照すべき事例としないことも一案である。

(4) 市場国でコンパラがある場合の適用除外(Box3.2 パラ10以下)

市場国であるコンパラがある場合の適用除外について、納税者が利益Bに基づいて申告する場合、市場国におけるコンパラによる適用除外を課税当局から求められるべきではなく、納税者が選択できるかたちとすべきである。ローカルコンパラブルは比較対象企業が限定される場合が多く、結果として詳細な財務諸表の情報等が求められるコンパラ調整が必要となる場合が多いが、そのような調整を求められることは、利益Bの目的である簡素化に反することになる。もっとも、課税当局が利益Bの適用を求めてきた場合は、納税者側は他に最適手法があることの主張が認められている関係上、市場国であるコンパラがある場合の適用除外を認めることが適当である。

なお、市場国でコンパラがある場合の適用除外については、ローカルコンパラブルの定義を明確にしなければ、各国において恣意的な運用がなされるおそれがある。また、納税者の側にとっては不意打ちとなるため、当該ローカルコンパラブルに、シークレットコンパラブルは含められるべきではない。

(5) 製品ベースの除外項目(Box 3.2 パラ17以下)

非有形資産(ソフトウェア、デジタル財)について、製品に組み込まれたソフトウェアの取り扱いの明確化が必要である。仮に、ソフトウェアを利益Bの対象に含めるとなった場合、どのような場合は製品組み込みソフトウェア(有形資産)となり、どのような場合は別個のソフトウェア(非有形資産)として扱われるのか、明確化が求められる。

また、サービス(役務提供)についても、利益Bの適用が強制されるべきではない。もっとも、上記1.の通り、利益Bの適用を納税者が選択できるセーフハーバーとして位置付けることを前提に、例えば、デジタル財について利益Bの適用を希望する企業は適用できるかたちとすることが望ましい。

3.価格算定方法

価格算定方法についても、利益Bの目的である簡素性と安定性を確保するかたちで設計することが重要である。加えて、実態と乖離することがないよう、取引の機能に基づいて、価格を算定すべきである。例えば、契約としてはBuy-sell取引であっても、リスクを極力排除することによって実質的にはSales AgentやCommissionaire取引に近い形態の取引が存在することに十分に配慮すべきである。

(1) 利益Bの価格算定に係る主な設計上の特徴

移転価格の結果の公表および定期的なアップデート(パラ47)について、利益Bで使用される利益率は、対象年度がスタートする前に合意・公表され、年度を通じて固定されることを基本とすべきである。もっとも、Covid19のような疫病の世界的流行、地政学リスクの高まり、大規模な自然災害などの予期せぬ環境の変化が起きた場合には、ALPの水準の変化を速やかに反映させるためにアップデートされるべきである。また、定期的なアップデートと関連し、データベースの対象年度、公表タイミング、適用開始年度につき、明確にすべきである。データベースと実際の適用とのタイムラグやインフレ局面等を想定して、複数年度の加重平均アプローチも適用可能とすることが適当かもしれない。

Asset Intensity(パラ57)で用いられる“Operating Asset”は利益とより関連性のある固定資産のみを用いた指標とするかたちで、明示されることが望ましい。Buy-Sell取引に絡めてファイナンス機能を提供する取引も存在し、売掛金や在庫が相対的に増加する場合があるが、このような流動資産の増加は高い利益率に直接寄与しないため、流動資産は“Operating Asset”から除外されるべきである。

(2) 価格算定マトリックスおよび機械的価格算定ツール

価格算定方法のうち、価格算定マトリックスのアプローチについて、納税者による基準の選択に関して議論が生じる可能性が懸念される。選択にあたっての具体的な判断基準を示す、あるいは税務当局が納税者の選択を否定することができないような制度設計とすべきである。

一方、機械的価格算定ツールアプローチは、機械的に算定することにより恣意性の介入を防ぐ点で有効であるが、実体を反映しない結果となるケースが懸念される。そのため、OECDがデータベースを開発し無償で提供する前提であると理解するが、OECDは機械的価格算定ツールに関するロジックを公開すべきである。

業種により適切なPLIが異なると想定されるため、ROSだけでなく、ベリー比等の適用も含め、各PLI別の価格算定マトリクス・機械的価格算定ツールを開発すべきである。その際、Buy-sell取引及びSales agency/Commissionaire arrangementsについては、法域間で財務報告基準が異なることによる影響に留意すべきである。また、簡素性・安定性と両立させつつも、産業別・地域別の特性を反映した利益率に違いがある場合には、その点を反映した利益率を設定することを模索すべきである。例えば、バリューチェーンが長い耐久消費財の製造業においては、末端の販社の利益率は1~2%程度と極めて限定的なことも多い。

(3) 利益水準指標(PLI)

Sales Agent/Commissionaire取引または、同様のリスクしか負っていないBuy-sell取引に関しては、利益Bに含める場合、PLIはベリー比(BR)を用いるべきである。これらの取引は、売上金額ではなく、営業費用をベースに利益が割り当てられることも多く、売上高と利益が連動していない。資源等の価格の増減幅が大きい商材を扱っている取引に対して売上高を用いる指標(ROS等)を当てはめると、変動による歪みが大きく不適切な指標となるおそれがある。

加えて、PLI指標はRebuttable Presumptionとして扱われるべきである。上記のように、例えば、営業費用をベースに利益が割り当てられる場合、PLIはROSではなくBRが適切であるという点などを、納税者側から主張できることが望ましい。

なお、複数の利益指標によるPricing設定は算出方法が適切であることの証明が難しく、適用に当たり実務も複雑になるため採用すべきでない。

また、利益Bの対象外の取引について、利益Bの利益水準が下限となるような運用は避けるべきである。

(4) レンジ

利益Bを適用の際に比較されるべき価格は、固定値ではなく幅であるべきである。固定値であると、ビジネス上の様々な要因で決定した販売価格も訂正しなければならない。税制はビジネスに対して中立であるべきであり、利益Bがビジネスに与える影響を軽減するためにも幅とするべきである。特に、税の安定性の観点で、租税条約がない国の間では対応的調整ができない現状を踏まえれば、比較価格をポイントとした場合、当該ポイント以外の利益率を設定してしまうと、二重課税が発生し、かつ当該二重課税の解決手段が無いこととなり、不合理である。なお、レンジの場合も、仮にレンジの上限を超えた場合は、下方調整が求められることになるため、後述する税の安定性の確保の方策が重要となる。

産業構造によって末端販社の利益率は異なるため、通常のTNMMで販社に認められるレンジよりも広いレンジを設定することが妥当である。このため、“Very narrow range”とはせずある程度の幅をもたせるべきである。

(5) その他

一つの会社の中でBuy-sell、Commissionaire、Sales Agentの取引が混在、かつ複数業界の商品を取り扱っている場合、切り分けて利益Bの適用可否を検証するルール設計なのか、それとも、各取引が機能・リスクの観点で同様である場合、会社一体として利益Bを適用して検証するという問題がある。移転価格の判定は通常、取引形態である一方、会社の形態や業種等により、どのようなやり方が簡素化に資するのかは異なりうる。複数機能の法人を一律に利益B対象から除外すると利益Bを通じて簡素化を求める企業にとっては、利益Bの対象が全く無くなってしまうという懸念もある。このため、利益Bの適用を納税者が選択できるセーフハーバーとして位置付けることを前提に、納税者の判断でどちらかを適用するということも一案かもしれない。

なお、切り分けて検証する場合、各取引に対してどのような調整を想定しているのか、明示すべきである。

4.文書化

文書化要件について、移転価格の簡素化・合理化という利益Bの目的に反して、追加対応が必要な対応が多い印象を受ける。少なくとも、現在のローカルファイルよりも詳細な準備を要する内容を求めることは利益Bの目的から考えて不適切である。

簡素化・合理化という利益Bの目的を踏まえれば、スコーピング基準および価格算定手法に係る必要最小限の内容のみの文書化で十分とすべきであり、他の文書については必須ではない補助的な資料とすべきである。また、取引金額による閾値を設定することも文書化の負担軽減に資するかもしれない。

ローカルファイルとの文書の重複は避けるべきであり、利益Bの文書もローカルファイルで代用できるかたちとすべきである。また、要件に見合った文書化を行っている場合には3年間のcertaintyを与え、再度の文書作成は不要とするなど、簡素化の観点から長期の安定性を与えることが望ましい。

また、以下のパラ87の各文書については、文書化の対象とすべきではない。

  1. 1) (b) (i)主要な顧客タイプ別(政府機関、政府請負業者、大口顧客など)の財務情報、(ii)製品別および所在地国内外別の関連企業および第三者の顧客に対する販売情報、(iii)最終顧客および卸売業者/小売業者への販売情報。これらの情報の文書化を、利益Bを適用する全ての販社に求めるのは過剰である。
  2. 2) (f) 利益Bの対象事業年度より前の財務情報。利益Bの対象外の年度の情報まで求めることは過剰である。
  3. 3) (k) 契約書の情報。現在の移転価格文書では契約書の形式での添付を求められていない中、契約書の形式で必要な情報を準備することは相当な事務負荷を納税者に追加的に課すこととなる。

5.税の安定性

税の安定性は、第1の柱における国家間の税収の再配分を確実に実施するために極めて重要な役割を担うものである。しかしながら、公開討議草案では、税の安定性に関し、既存のAPAやMAPを超えた十分な内容が提示されているとは評価しがたい。税務当局側は利益Bのベンチマークを利用して課税を行うことが容易になる一方、納税者側は利益Bに関して新たな税の安定性手続も用意されずこれまでどおりのAPAやMAPという手段で対抗していかなくてはならないのであれば制度としてバランスを欠く。

本来であれば、利益Bの適用に特化した追加的な安定性確保プロセス(例えば、利益Aにおける紛争解決パネルのようなプロセス)の導入を検討すべきである。さらに、租税条約が締結されていない国との取引では、紛争が生じた際の対策プロセスが不明確であるため、その解決策について明確化すべきである。少なくとも、利益Bは移転価格の問題であることを踏まえれば、利益Aと関連する税の安定性プロセスの仕組みに利益Bを組み込むことも可能だと考える。

そもそも、利益Bの主目的である簡素化と安定性の確保という観点から、本来利益Bに関して紛争が生じることを一定程度制限する仕組みを設けることが適当である。利益Bに係る各国法域での運用・解釈の標準化のため、多国間協定(MLC)の仕組みを活用すべきである。仮に紛争を許容する場合であっても、仲裁等に至る前のMAP等の段階で、救済措置が与えられることを保証すべきである。

また、紛争解決の負担を考慮すると、課税前に両当局との協議プロセスを設けることも一案ではないか。論争を避ける観点から、利益Aのような早期の事前確認制度を設けることが不可欠である。加えて、取引価格での調整が難しい場合に、価格調整金などで調整を行う場合、送金国側での損金性を認めるべきであり、また、その送金に対しVATや関税等で課税を行うことを許容すべきではない。

以上