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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見

2023年2月13
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会 競争法部会

カーボンニュートラル(CN)実現に向けた「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」の推進のため、国内の複数企業による産業の構造転換に向けた自律的な連携や、企業・組織再編を促すための環境整備等が求められている。今般、パブリックコメントの対象とされた「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方(案)」(以下、ガイドライン案)は、競争法分野における法運用の透明性ならびに事業者の予見可能性の確保に向けた第一歩であり、事業者のGXの取り組みを推進する観点から、評価したい。

そのうえで、事業者のさらなる取り組みを推進する観点から、以下の通り意見を提出する。

1.総論

ガイドライン案は、独占禁止法の運用に関する既存の判断枠組みを維持しつつ、想定される個別事例に対する解釈の明確化を中心としたものであるが、グリーン社会の実現に向けては事業者において従来の取り組みの延長では対応が困難であり、大胆な変革とそれに伴う経済の大変動が予想される。

かかる大転換における事業者の取り組みを評価するには、公正取引委員会としても、世界最先端の経済分析等の手法・英知を結集する等の新たなアプローチも必要であり、また、例えば、他事業者・他業種との共同研究開発、新設設備の共同保有、旧来設備の共同保有・廃棄、事業者間のOEMなど、従来の競争制限効果に重きを置いた公正取引委員会の判断の枠組みのみでは対応が難しい事案についての評価軸も求められる。

このため、公正取引委員会として、競争政策の基本的枠組みの維持を前提としつつも、経済分析結果の公表による外部の知見を集める努力や固定費の削減効果の経済分析への取込み等も行い、事業者のグリーン社会実現の取り組みを後押しすることを強く期待する。少なくとも、グリーンに係る連携について、その目的や温室効果ガスの削減効果などプラス面を積極的に評価しつつ、何が「競争を実質的に制限する」行為には該当しないのか不明瞭な点がなくなるかたちで、明確化がなされることが必要である。特に、グリーン社会実現のために他に有効な方法がない不可欠な取り組みであるが、既存の判断枠組みでは独占禁止法に違反するかどうかの判断が難しいものについて、明確化が強く求められる。この点が不明確なままでは、事業者の取り組みが停滞し、独禁法の適用除外などの立法化の議論を招く可能性がある。

今回のガイドライン案では、多く想定例を記載していることを歓迎する。個々の想定例については、できる限り想定例ごとに解説をつけることが望ましい。特に、「競争制限効果と競争促進効果が認められる行為」についての想定例においては、それぞれの効果についてどのような総合考慮がなされたのかを示すことが企業のCNの取り組みを促進するうえでも有用である。また、グリーンに係る市場が現在は未成熟である一方、今後、急激な発展が見込まれることも踏まえれば、この競争制限効果と競争促進効果の判定にあたっては、将来想定される市場環境等も考慮することが適切と考えられる。

「競争促進効果」(2ページ目脚注4)の定義については、「効率性の向上とも称される」としているが、温室効果ガス削減をどのように捉えるのかが明示されていない。カーボンニュートラルが国家的な目標となっており、事業者も責務を負うことが明示されているなか、この温室効果ガス削減が競争促進効果・効率性の向上に資するものとして、明示的に位置づけることが必要である。

また、競争制限効果と競争促進効果が認められる取り組みについては目的の合理性及び手段の相当性が勘案される(2ページ14行目)ことになるが、グリーン社会の実現を目的とするものであれば、目的の合理性があると考えてよいか、明確化すべきである。

加えて、「社会公共的に望ましい目的」(3ページ1行目)や「社会公共的な目的等」(10ページ22行目)など、社会公共的な目的を考慮要素とするように見える記載が複数ある。この社会公共的な目的と、温室効果ガスの削減はどのように関連するのか明確でない。「社会公共的」という文言からすれば、温室効果ガスの削減の目的に加え、例えば、環境保全や資源、生物多様性の保全、人権、ダイバーシティー、社会福祉、教育などの社会課題の解決のための取り組みにも適用される余地があることを明確にすることが望ましい。

ガイドライン案については、「今後の市場や事業活動の変化、具体的な法執行や相談事例等を踏まえ、継続的に見直しを行っていく」こととされていることを歓迎する。例えば、少なくとも3年後に見直しを行うなどのかたちで、時期を明示するかたちで、見直しに係る条項をガイドライン自体に組み込むことも一案である。加えて、事業者の課題や活動実態、温室効果ガスの削減の取り組みの進展等を踏まえ、必要な対応については積極的かつタイムリーに検討・実施いただきたい。また、事前相談制度によらない相談も含め、企業の温室効果ガスの削減を後押しするかたちで、今回のガイドライン案が機能しているかどうか、一定期間後に何らかのかたちでモニタリングを行うことも有用である。

2.「第1 共同の取り組み」

競合との共同の取り組みは、ある程度長期にわたって様々な活動が行われることが想定される。例えば、共同研究・開発の場合、当該共同研究・開発の合意だけではなく、温室効果ガス削減等の正当な目的に向けた、その準備・検討段階における情報交換等も行われることが前提となる。また、国としての温暖化対策の目標を達成するため取り組みにもスピード感が求められる。そのような状況において、共同の取り組みについて、様々な考慮要素を総合的に判断することを都度行うのでは、単独で事業を行う場合と比して、事業スピードが著しく遅くなり、競合と共同で行うことへの委縮効果が依然として残ることを懸念する。第1回グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関するガイドライン検討会の議事要旨3頁にもあるように、「企業が直面するであろう実態に即して踏み込んだ記載にする観点では、実務的な情報交換方法の明確化やセーフハーバー基準の明確化」などについても、従来の枠組みに捉われず、今後、考慮していくことが望ましい。また、現在基礎研究の段階にある脱炭素技術・新製品について、事業者団体において自主基準等を設定することが想定される。このような自主基準等の設定についても、事業者の取り組みを後押しするよう、許容しうる運用を明示する等さらなる事例の充実や明確化を期待したい。

また、いくつかの共同の取り組みでは、市場シェア等を判断要素としている(15ページ29行目、16ページ33行目)が、判断に使用される市場シェア等は、現時点のものに限られないことや国内市場のみならず海外市場も考慮しうることを明確にすべきである。例えば、共同調達などでは、中長期の調達、例えば、5年以上先の調達を前提として、合意する場合があるが、今後、グリーンに関連する分野が急激に成長し、既存の分野に取って代わる可能性なども踏まえれば、現時点での市場シェア等に依拠することが必ずしも実態を反映しない可能性がある。

加えて、以下の共同の取り組みについてコメントする。

(1) 共同廃棄

生産設備の共同廃棄について、決定内容が類似となること自体は独禁法上問題ないという点を示した(26ページ~27ページ)ことを歓迎する。もっとも、共同廃棄の事例は、今後、グリーン連携の取り組みが進むなかで、様々な課題が生じうる中心的な論点になると考えられる。共同廃棄を通じ、温室効果ガスの削減に資する新たな効率的な設備の導入が図られ、競争促進効果が生じうる。個社では到底対応できない巨額の投資が必要となる設備投資に関し、各事業者独自の判断のみでは検討が進まないことも考えられ、また、同業種間連携・コンビナート内・外の連携など、共同の取り組みが必要となる局面も存在する。これらの観点も踏まえ、生産設備の共同廃棄に関する競争促進効果も踏まえつつ、記載の変更や今後のさらなる検討が必要である

例えば、ガイドライン案9ページ7行目以下の独占禁止法上問題となる行為の想定例に関し、GXに資する新規設備への共同投資を製造業者(X、Y及びZ)が行っている場合、その設備の新設・稼働に伴い、当該事業者としては、当然に既存設備を止めることが想定される。こうした場合、当事者間において、既存設備を「共同して」廃棄するわけではなく、それぞれの判断で廃棄することが通常と考えられる。もっとも、新規設備の運営の観点から、既存設備の廃棄について、当事者間で一切議論・情報交換できないこととなると、投資時期の明確化ができず、新規設備への共同投資の議論が進まないことも懸念される。このため、既存設備の廃棄の有無・時期について、当事者間においての約束事にしないことを前提として、一定の情報交換を行うことは、共同投資との関係で、必要不可欠な場合があり、その場合には独占禁止法上問題とならないことが多い旨、事例として加筆することも有用ではないか。

また、共同投資にあたらないケースであっても、脱炭素の目標が法律や国の方針等で明確に決まっている中で、商品Aの生産に関し、旧来の技術に基づく生産設備ではこれを達成することが不可能で、新たな技術に基づく生産設備に計画的に転換していくことが必要な一方、商品Aの製造業者各社が同時期に旧設備を廃棄すると、商品Aが品不足になって商品Aの需要者の利益が損なわれる場合に、当該目標に基づいて旧設備を廃棄して新設備に移行するスケジュールを各社それぞれで設定して公表するとともに、需要者側からそうしたスケジュールでは商品Aが不足する等の意見が出された場合に、そうした意見を踏まえて各社独自の判断で計画を変更し、これを公表していくことを申し合わせることは、独占禁止法上問題とならないことが多い旨、事例として加筆することも有用ではないか。

(2) 共同調達

グリーン社会の実現に資する原料(CO2フリー水素、SAF(持続可能な航空燃料)、廃食油、バイオエタノール等)の調達については世界中で争奪戦の様相を呈する状況が生じているが、共同購入に関し、「購入市場・販売市場での市場シェアや製造コストに占める当該原料のコスト割合に基づき競争制限効果を検討する」という従来の見解が記載されているのみであり、グリーン社会の実現に資する観点をどのように考慮するのか明示されていない。これらの脱炭素燃料は、供給量が少ない、または、不安定であることも多く、調達困難となる可能性が高い。原料コストが製品の供給に要するコストに占める割合も高く、また、今後、国際市場においても、引き続き原料の確保が難しい可能性がある。このため、安定調達を確立する観点から、「当該原料のコスト割合に基づき競争制限効果を検討する」ことに限らず、当該原料コストを除いたコストの競争性も考慮すること、市場シェアについて国際的な市場環境も考慮に入れることも有用となる。これらの要素も踏まえつつ、グリーン社会の実現に資する観点が考慮要素となる旨を明確にすべきと考える。

(3) 共同物流

共同物流に関しても、「参加者の市場シェアや商品の供給に要するコストに占める共同物流のコストの割合に基づき競争制限効果を検討する」という従来の見解が記載されているのみであり、グリーン社会の実現に資する観点をどのように考慮するのか、明確にされていない。

運輸部門において発生する温室効果ガスの大幅な削減を実現するためには、業界全体で物流効率化を実現することが効果的であり、こうした「温室効果ガスの削減効果」は、競争促進効果に含まれるべきと考える。

3.「第4 企業結合」

ガイドライン案においては、従来の企業結合ガイドラインでの考慮要素を示すに留まっており、企業結合審査において、温室効果ガスの削減やグリーン社会の実現に向けた要素を、どのように考慮するのか、明確化されていない。

企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針においては、「効率性」が判断要素とされているため、当該効率性の考慮にあたっては、1.で記載のように、温室効果ガスの削減効果やグリーン社会実現への寄与を含めることも検討すべきである。

また、既に実施済の企業結合案件において実施中の「問題解消措置」の継続要否にあたっても、グリーン社会の実現に寄与しているかとの観点も考慮すべきであり、グリーン社会の実現への寄与に悪影響を及ぼす場合であれば、問題解消措置を求めることを再考することも検討に値する。

なお、企業結合審査における、消費者余剰と総余剰との関係や、経済分析の考え方、審査の方向性等について、引き続き事業者のグリーン社会の実現に向けた取り組みを進める観点から、必要な検討を進めるべきである。

4.「第5 公正取引委員会への相談について」

(1) 事前相談制度による相談

ガイドライン案では、グリーン連携の取り組みに係る専用の窓口を設けるなど、相談制度の充実の方向性を示していることを評価する。

他方、事前相談制度による相談については、結果が公表されることなどから、企業側にとっては、グリーン連携の共同の取り組みについて、十分に事例を検討したうえで、専門家の助言なども受けつつ、制度を利用することが前提となっている。このため、事前相談制度による相談については、温室効果ガスの削減やグリーン社会の実現の取り組みも含め、その考慮基準を明確にすることが望ましい。

具体的には、以下のような点を明確化すべきである。

  1. ① 事前相談時に、公取委が競争制限効果と競争促進効果をどのように測定するのか具体的に明確化する。
  2. ② ガイドライン案にあるような「事業者等が…競争促進効果を定性的又は定量的な根拠に基づき主張する際には、これを踏まえた判断を迅速かつ的確に実施していく」(4ページ6行目)ということのみならず、事前相談時に、公取委が主体的に競争制限効果と競争促進効果を測定することを明確化する。
  3. ③ 上記1.の記載のとおり、競争促進効果の中に「グリーン社会の実現に向けた要素」が含まれることを前提としたうえで、当該競争促進効果の算出方法を明確化する。
  4. ④ 事前相談の検討および回答に要する期間を具体的に明示する。現行の事前相談制度は30日以内に回答する旨の記載があるが、公取委による追加資料依頼により事業者の期待する期限が後ろ倒しとなりうる。下記の事前相談によらない相談の場合も含め、回答に要する期間や実際に回答に要した期間をHP等で開示することが望ましい。

(2) 事前相談制度によらない相談

上記、事前相談制度による相談は、相談結果が公表されることや、相談の対象が「事業者等が行おうとする具体的な行為」(65ページ21行目)であること、競争促進効果を定性的又は定量的な根拠に基づき主張する必要があること、詳細な資料等の準備が求められることから、事業者が共同でグリーン連携の取り組みを検討するにあたって、検討の初期・端緒の段階で活用することは困難である。今後、新しい連携の事例が独禁法上の問題を生じないかどうか確認したいというニーズがこれまで以上に多く生じることが想定されるなかで、事前相談制度によらない相談を充実させることは非常に重要である。この一般相談に係る想定されるニーズの増大をふまえれば、一般相談の充実、回答期間の短縮について、ガイドラインでもより踏み込んだ記載を行うことが必要である。少なくとも、相談を受けてから回答を受けられるまでの期間または目安を示すことが望ましい。

以上

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