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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 IASB「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」へのコメント

2023年3月10
一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
企業会計部会

国際会計基準審議会(IASB)御中

「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」(以下、公開草案)へのパブリックコメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。

<総論>

  • 公開草案の提案は、「一時的な例外(質問1、質問3(a))」、「追加的な開示要求(質問2、質問3(b))」の2つに大きく区分されると解する。このうち、「一時的な例外」の最終化は2023年3月末までに実施するのが望ましい。この目的達成のため、公開草案を「一時的な例外」と「追加的な開示要求」に区分して最終化作業を行うべきである。

    • 「一時的な例外」の緊急性は非常に高く(詳細は各論参照)、提案に対する強い反対意見もないと認識している。我々も「一時的な例外」で提案される事項に賛同している。
    • 一方で、「追加的な開示要求」については、提案事項に懸念を持っている(詳細は各論参照)。関係者間の慎重な議論を重ねていく必要があり、どうしても一定の時間を要すると考える。また、第98M項(b)にて「2023年1月1日以降開始する事業年度に適用」、と提案されているように適用はまだ先であり、「一時的な例外」と比較して緊急性は圧倒的に低い。
  • 緊急性、提案に対する懸念の重大性が大きく異なる「一時的な例外」と「追加的な開示要求」をワンパッケージで検討すべきではない。「一時的な例外」を可及的速やかに最終化した後に、「追加的な開示要求」は慎重な議論を重ねつつ検討して行くべきと考える。仮に2023年3月末までに最終化できない場合は、遅くとも4月11日のIASB Boardで審議を決了させ、結論を発信すべきである。

<各論>

【一時的な例外】(質問1、質問3(a))

  • 提案に賛同する。我々が「一時的な例外」について、可及的速やかな最終化を強く望む理由は以下のとおりである。

    • 日本は3月決算の企業が多く、通常、5月上旬までに会社法に基づく決算書類を作成するが、その前提として4月中旬には決算数値は確定しているのが一般的である。
    • 仮に「一時的な例外」の最終化が、2023年3月決算に間に合わなかった場合、現行IAS第12号がそのまま適用となり、第2の柱に係る税法が成立又は実質的に成立(substantively enact)されていると判断されれば#1、3月決算の各企業は現行IAS第12号に基づき2023年3月末時点の繰延税金を算定する必要があると考える。
    • しかし、現行IAS第12号に基づく第2の柱の法制に関する繰延税金の算定は、2023年3月期では実務的に不可能と考える。そもそも企業側の準備期間自体が圧倒的に不十分である。また、現時点では会計処理方法も未整備であり、見積計算の際に加味すべき要素が極めて多くの不確定要素を含む中で、企業側がどれだけリソースを割いたとしても、一定程度の正確性を持った見積計算は相当困難で、情報の有用性の観点からも懸念がある。
    • 「一時的な例外」の趣旨は、第2の柱の法制が制定又は実質的に制定された後、IASBが適切で一貫した会計処理方法を策定するまでの猶予期間を確保し、第2の柱の法制が会計実務に与える当面の混乱を回避することと理解している。2023年3月決算に最終化が間に合わなければこの目的を達成できず、決算実務に多大なる混乱が発生してしまう。
    • 最優先すべきは、企業の実務面に配慮する公開草案本来の趣旨だと考える。短期間内に複数の会計基準の修正を公表することで、世界各国の会計基準設定主体によるエンドースメントや翻訳等の制度に関する事務的な手続が二度手間になったとしても、公開草案から「一時的な例外」を切り出し、可及的速やかに最終化すべきと考える。
    • 最終親会社が日本以外にあり中間親会社が日本にある場合にも、つまり日本以外の法域に対しても、上記の問題が影響を及ぼす可能性があると考える。
  • 「一時的な例外」が提案する項目(第4A項、第88A項)、適用日及び経過措置(第98M項(a))については、概ね賛同する。

    • ただし、第88A項は全社に一律で例外規定の強制適用が義務付けられるため、敢えて開示する必要性が無いとも考えられる。

1 事実、日本では第2の柱の導入を含む法人税法の改正法案が現在、国会で審議中であり、2023年3月末までに成立する可能性が極めて高い。

【追加的な開示要求事項】(質問1、質問3(b))

  • 追加的な開示要求事項については、「第2の柱の法制が制定又は実質的に制定はされているが未発効である期間(法制化前、第88C項)」、「第2の柱の法制が発効している期間(法制化後、第88B項)」、それぞれについて、我々は以下の懸念を持っており、支持しない。

  • 緊急性が圧倒的に高い「一時的な例外」が最終化された後に、「追加的な開示要求事項」につき別途最終化を目指すべきと考える。「追加的な開示要求事項」については、情報作成者としての企業側の実務負荷だけでなく、法域毎の利益・税金費用に関する情報が機密事項を含む可能性が高い点にも留意すべきである。慎重な議論を重ねながら、“情報の有用性”、“企業の実務負荷”、両者のバランスの取れた開示項目を模索し最終化すべきである。

<法制化前>(第88C項)

  • 第2の柱の法制の施行までの間に、企業はグループの構造を見直すなど、追加的な課税の最小化に向けて合理的に取り組むと推察される。各国の法制化も、時期・内容ともに多様なものになると思われる。法制化前の情報に基づき見積計算で作成した開示情報は、実績値と大きく乖離する事が容易に想像でき、情報の有用性の観点から強い疑問を感じる。

  • 企業側としても開示要求事項に対応するために、新たに情報の収集/集計プロセスを構築する必要があり、相応の実務負荷が生じる。財務諸表利用者にとって本当に有用な情報の作成に限定して企業のリソースは割かれるべきと考える。

  • 未施行期間の開示は多くの国で2023年度のみに留まると考えられ、翌年度には第88B項に基づくトップアップ課税額が開示される見込みのため、第88C項はワンタイムの開示項目と理解する。ワンタイムであり、かつ情報の有用性に疑義のある当該開示のために企業側に過度の実務負荷を強いるのは、費用対効果の観点からも得策ではない。

  • 企業が営業を行っている法域における法制に関する開示(第88C項(a))

    • 企業の活動法域で制定/実質的に制定されている法制に関する情報の網羅的な把握と開示は財務諸表作成者に相応のコストが生じる一方、同情報は企業固有のものではなく、一般的な公開情報であることから他の情報源から入手可能であり、個別の企業の財務諸表で開示する情報として重要性に乏しいと考える。
    • 第2の柱は法域毎に法制化され、所得合算ルール(IIR)については原則として最終親会社に対して適用される。そのため、最終親会社が所在する法域に関する法制に関する情報のみで十分であり、営業を行っているすべての法域の法制の情報開示は過大な要求と考える。
  • 平均実際負担税率に関連する開示(第88C項(b)、及び(c))

    • サブ連結で連結財務諸表を作成している場合、法域別の財務数値を集計するには、サブ連結子会社に紐づく孫会社を法域ごとに分けて再度集計しなおす必要がある。既存業務ではサブ連結子会社ごとにまとめて決算情報を収集するのが一般的であり、提案された開示項目に対応するためには新たに孫会社別の個別情報を収集/集計する必要があり、追加的に相当な実務負荷が発生する事になる。
    • 仮に計算したとしても、GloBE計算に基づく実効税率(ETR)と加重平均実際負担税率が大きく乖離することが容易に想定され、開示される計算結果は情報としての有用性が乏しいだけでなく、却って財務諸表利用者をミスリードする結果となる可能性が高い。前述の施行前までの間に発生する可変的要素がある状況では尚更である。
    • 上記より当該提案事項は、情報の有用性と企業側の実務負荷を勘案した費用対効果の面からも懸念が残る。
    • トップアップ税額については、構成事業体から必要な情報を収集し、複雑な調整計算を行うことで、初めて算定できる。このため第2の柱に係る情報申告書の提出期限が会計年度終了後15か月以内(初年度は18か月以内)とされている。財務報告のタイミングでトップアップ税額の可能性を注記することは実務上困難であり、仮に何らかの方法で見積を行い開示したとしても、見積の精度によっては誤った情報を開示し、財務諸表利用者をミスリードする可能性があると考える。
    • また第88C項(c)の開示要求に関しては、企業によって準備段階の評価/分析手法にバラつきがあり、前提が統一されていない中で開示される情報は、財務諸表利用者にとって有用性が乏しく、比較可能性にも懸念が残る。

<法制化後>(第88B項)

  • トップアップ税額を法人税等の内訳として区分表記する理由が不明瞭であり、区分表記すべきと提案した理由を明確にする必要があると考える。

以上

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