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Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DEI 大規模災害に負けない持続可能な社会の構築 ―国土強靱化基本計画改定に向けて―

2023年4月11
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

近年、地震、台風、局所的豪雨などの災害が頻発化・激甚化する傾向にあり、多くの地域で被害が出ている。また、南海トラフ地震、首都直下型地震、中部圏・近畿圏直下地震や富士山の噴火等、広域に及ぶ桁違いの大災害がいつ起きてもおかしくない。こうしたなか、国民の生活を維持し、企業の事業を継続するため、災害への備えは喫緊の課題となっている。

対応すべき課題は広範にわたるが、それらすべてに等しく対応することは現実的でない。政府が進めている国土強靱化基本計画の改定においては、災害発生時の被害を最小限にとどめ、社会経済活動を維持するため、以下のような優先的に取り組むべき課題に重点を置くべきである。

Ⅰ.防災DXの推進

頻発化・激甚化する災害や過去に類を見ない規模の災害に対処するため、デジタル技術等の技術革新が進んでいる。人口減少下において、これら先進技術を積極的に活用し、防災分野でのDXを推進することは必要不可欠である。次期国土強靱化基本計画案の「第1章 国土強靱化の基本的考え方」の「3 基本的な進め方」に、「(5) デジタル技術等の活用」が新設されたことを歓迎する#1

ここでは、内閣府の防災基本計画に記載の「災害予測・予防」「災害応急対策」「災害復旧・復興」という災害対策の時間的順序に沿い、産業界の持つデジタル技術も活用し、どのように国土強靱化を図るべきかについて記す。

(1) 「災害予測・予防」

従来、トンネルなどのインフラを点検する作業は、専門技術者の目視確認や打音検査により行われ、膨大な時間がかかるとともに、転落等の作業中の危険が伴うものであった。昨今では、ロボット・ドローン・センサー・AI・三次元情報といったデジタル技術を活用し、インフラのメンテナンスを行うことが可能となっており、人の安全を確保したうえで、より広範に効率的な作業を進めることができる。また将来的に専門技術者などの人材不足が生じても確実な対応ができるように、国を挙げてこれらデジタル技術をはじめとした先進技術の採用や普及を推進し、さらに技術開発を進める環境を整えるべきである。

また、デジタルツイン#2を用いることにより、収集した各種実測・実世界のデータをデジタル空間で再現し、シミュレーションで得られた結果を現実世界にフィードフォワード#3するほか、センシング(または実測)とAIによる予兆分析を行うことで、生じうる災害の影響を具体的に予測し、それを最小限にとどめるよう対策を講じたり、安全な避難誘導の手法を検討したりするなど、対策を整えておくことができる。デジタルツインを用いることを前提に、府省庁や地方自治体、指定公共機関の保有する防災・減災に必要な情報を連携できるようデータ基盤の共通化もしくは連結が必要である。併せて、IoT等の技術を活用したソリューションであるデジタルツインやAIによる予兆分析等を理解できる人材を産官学が連携して育成するとともに、これらソリューションの実現に資する、大量のデータをリアルタイムに活用可能とする次世代通信網の社会実装を推進すべきである。

(2) 「災害応急対策」

情報収集にあたっては、衛星・航空機・ヘリコプター・ドローンなどによる俯瞰的で正確な情報収集体制の整備が有効である。また、例えば災害直後の医療支援において、DMAT(災害派遣医療チーム)が参集拠点に到着しても、医療機関の被災状況や患者受け入れの可否、到達ルートといった情報が入手できなければ十分な支援活動を行うことはできない。災害時には様々な情報が、多数の組織から、異なる形式で発信されるため、開発の進んでいるSIP4D#4を活用し情報連携を一層推進することが重要である。

また、災害発生後の一刻を争う状況下での迅速な救助・支援につなげるため、「防災チャットボット」#5をより多くの住民に認知・普及させ、被災者と救助・支援側の双方向のコミュニケーションを図るべきである。併せて、水防インフラや道路の管理者の意思決定サポートに資するリアルタイム予測機能と、それに資するIoT・広域をカバーするIoT間通信等のデジタル技術基盤の整備を推進すべきである。

(3) 「災害復旧・復興」

現在、5G技術等を活用して建設機械を遠隔操作する無人化施工の試験的な導入が進んでいる。こうした技術は、作業員の作業環境改善と作業の効率化を行う点で優れており、早期実装が求められる。現状では、無人の現場は労働安全衛生法等で想定されておらず、安全基準が整備されていない#6。技術開発を促すため、一刻も早い基準の整備が必要である。また、GISやドローン等を活用し被災状況を迅速に把握し、企業と自治体の情報共有によって被災者の行政手続のサポート等#7を行い、被災地の早期復旧につなげることが重要である。

さらに、被災者に対して給付金等を迅速に支給できるよう、政府は公金受取口座のさらなる登録数増加に取り組むべきである。

Ⅱ.事前復興

首都直下地震が発生した場合、最も被害の大きい「都心南部直下地震」だと、東京都だけで建物被害は194,431棟、死者は6,148人と想定されている#8。何ら対策を講じないまま大規模災害が発生した場合、直接的な被害に加え、建物の倒壊に伴い緊急車両やインフラ復旧の車両が通行できなくなる、仮設住宅の不足により多くの人々が住まいを見つけられなくなるなど、被害が波及的に拡大し、経済活動への影響、復旧・復興にかかるコストは非常に大きなものとなる。そこで、被災後の早期復興に向けた対策の検討(準備しておく事前復興)と、将来の災害に備えた防災まちづくり(実践しておく事前復興)を一体的に進める「事前復興」を推進することが重要となる。

(1) 準備しておく事前復興

大規模災害が発生すると、交通機関や医療機関等が十分に機能しなくなるなど、社会経済が大混乱に陥ることが想定される。したがって、災害の発生時に関係者が迅速に対応できるよう、国・地方自治体による復興マニュアル・復興指針等の策定、復興まちづくり訓練の実施や住民の参加などが必要である。

また、災害が発生した際に困難な状況に陥りやすい傷病者、高齢者、障害者や乳幼児等の要配慮者(災害弱者)、外国人や性的マイノリティといった人々に対する配慮についても検討しておくべきである#9。災害情報を発信する際は外国人や障害者にも配慮し、メジャー言語以外での言語や平易な日本語、ピクトグラムを活用した発信や、スマホに音声情報と文字情報両方を配信するといった視点も忘れてはならない。

(2) 実践しておく事前復興

気候変動の影響を受けて自然災害が激甚化するなか、その被害を最小限に抑えるには、安全な地域で居住し事業活動を行うなど、気候変動に適応する社会へと移行することが求められる。近年、ハザードマップの作成義務付け対象として近くに住宅がある中小河川が加わり、不動産取引の重要事項説明において水害リスク情報に関する説明の義務付けが追加されるなど、災害リスクを鑑みた立地適正化に関し、様々な取組みがなされていることは高く評価する。

その一方で、災害リスクの高いエリアに多くの住居が所在している現実がある。地元に愛着を持つ地域住民には十分配慮しつつ、リスクに応じた居住誘導区域の設定#10、リスクの高い地域における立地規制や建築規制による災害リスクの回避、ハザードマップ等を活用した丁寧な説明による地元住民の安全な土地への居住誘導といった対策を講じることにより、人口減少社会を見据え、社会包摂的な観点から、災害リスクが低い地域でコンパクト・シティを形成し、活力ある地域を多極的に構築することが重要である。

① 地方自治体の公共施設集約による魅力的なまちづくりの推進

人が集まる魅力的な街を作るため、学校や図書館等の公共施設を拠点に集約することによって住民が集まり、それがきっかけとなってさらに人が集まるという好循環を生み出すことが可能となる#11。移転を希望しない住民には移転を強要せず、移動図書館や訪問診療のようなデリバリー、遠隔教育のようなバーチャル化により公共サービスを維持すれば、行政コストの上昇を抑えつつ、相対的に少ないインフラで豊かなサービスを提供することが可能であり、多くの地方自治体で検討すべきである。

② 国の施策による事前復興

国土交通省が進める「防災集団移転促進事業(防集)」#12では、これまで被災地における約3万9千戸の住居の移転を支援してきたが、災害リスクのあるエリアに住んでいる人は約8,603万人と、人口の7割近くにのぼっており#13、さらなる取組みが必要である。防集が進まない理由として、住民、自治体ともに移転に伴う経済的負担が大きいことや、高齢者にとっては、災害リスクを回避することを目的とした住宅移転事業では移転を検討する動機づけが十分に働いていない、といったことが挙げられる#14。危機意識の向上や事業の周知と並行し、現在の対象要件である「5戸以上」を1戸単位で移転できるようにする、準備が整った住民から段階的に移転できるようする、1戸あたりの支援の限度額を引き上げるなど、「がけ地近接等危険住宅移転事業」との事業の統合を視野に入れた、さらなる制度の拡充・緩和が必要である#15

災害発生時において迅速な復旧・復興を図るために、地籍調査によって土地の境界等を明確化することが重要であるが、2021年度末時点における地籍調査の進捗率は52%であり、早急な調査の推進が必要である#16。このうち、山村部における地籍調査では、土地所有者の高齢化や地形条件等により、現地立ち会いでの境界確認が大きな負担となっているほか、滑落等の事故も懸念されており、進捗率が伸び悩む要因となっている。航空レーザー測量により取得したリモートセンシングデータを用いれば、現場立合いの省略化、調査期間の短縮化、経費の削減が期待できるため、国を挙げて普及促進すべきである。

Ⅲ.社会機能の強靱化

災害発生後の迅速な回復のために社会機能を強化しておくことが欠かせない。道路や鉄道などの動脈、空港や港湾などの国内外との窓口を含むネットワークが被災時の機能停止・機能低下による影響を最小限に抑えられるような取組みの推進、企業のBCPのあり方とその実行のために不可欠な要素、さらには国や自治体がそれぞれの役割を明確にして住民とのコミュニケーションを図ることが必要である。

(1) ネットワーク機能の強化

災害発生時の被災地への物資輸送や救助ルートを確保するうえで、道路や鉄道ネットワークの複線化は非常に重要である。そのため、人口減少・過疎化の影響も加味した費用対効果に配慮しつつ、大都市圏環状道路の整備や拡張を含め、幹線道路のミッシングリンクの早期解消やダブルネットワーク化を推進すべきである。交通の拠点である港湾・空港についても、被災時の機能停止・機能低下による影響を最小限に抑えられるよう、直近の災害を踏まえた取組みを推進することが重要である。例えば、2018年9月には台風21号による高潮で関西国際空港の滑走路等が浸水し、機能不全に陥ったことを踏まえ、他の海沿いの空港も含め、護岸・防潮壁の嵩上げなど浸水対策に取組むべきである。併せて、ある港湾・空港が被災して一定期間使用が困難となった場合に他の港湾・空港での代替が速やかに行えるよう、広域港湾BCPの強化や各空港で定める航空業務継続計画(A2-BCP)を広域で連携するための仕組みづくりが欠かせない。また、物流施設が災害時に機能不全に陥って物流の停滞を招くことを未然に防止するため、国際港湾・空港周辺の物流施設を中心に、政府は建築物の強化・強靭化への支援を引き続き行っていくべきである。

企業は一般に生産管理や在庫管理をシステムによって行っており、その基盤は電力と通信インフラである。被災地住民の安全な避難と生活、被災地の官公庁の機能、また被災地をサポートし、非常時においても日本経済を支える企業の事業活動の継続にあたっては、電力・通信ネットワークの確保が大前提である。最新の想定に基づく災害にも耐えうる非常用電源や蓄電池を整備し、多くの用途に適用できるようにすることはもちろんであるが、それだけでは事業活動が制限され、かつ一時的にしか電力を賄うことができない。災害時に備えた供給網の一層の強靱化とマイクログリッド等による分散型電力インフラの構築などに取り組む必要がある。また、次世代通信基盤の社会実装を進めるとともに、通信ネットワークの一部設備が被災しても全体に影響を及ぼさないようにするため、中継伝送路の多ルート化や、分散データ処理によるネットワーク負荷軽減、被害を受けた地上の通信インフラを代替することが可能な衛星通信の整備を強化していくことが重要である。

(2) サプライチェーン全体での事業継続力の強化

被災直後において企業が事業を継続できることは、災害からの復旧・復興において重要である。経団連が2021年2月公表の提言で「オールハザード型BCP」#17の実現を提言していることも参考に、既に従来型のBCPを策定している企業においても「オールハザード型」の考え方で見直しを行い、さらに見直しによって得られる事業継続上の課題に対処し、事業継続力を高めることが求められる。また、サプライチェーン全体の強靱化に向け、サプライチェーンの「多元化」「可視化」「一体化」#18を行うことが重要である。

消費者の期待、ESG投資の拡大など投資家の視線を受け、「非常時に頼りになる」ことは事業競争力の要素の1つであるという認識が広がってきている。企業は、災害発生時に事業を継続するため資材準備等を進めるだけではなく、地域社会への貢献の観点から、自治体と災害時応援協定を締結し、災害発生時の情報共有や物資提供、避難所の提供といった協力関係を築くことで、人々を支える役割を果たすことも検討すべきである。

(3) 国・自治体の連携推進とリスクコミュニケーションの強化

被災者支援や復旧を円滑・効率的に進めるためには、国と地方自治体の連携が不可欠である。また、自治体によって防災力にばらつきがあるほか、住民に対する情報公開が不十分な自治体もある。平時から民間を含め、災害応急対策、復旧・復興時の役割と権限を明確化させることで、自治体による事前の減災努力を促す必要がある。さらに、台風等の自然災害の接近を見越して営業時間の短縮や休業を実施する事業者の情報を周知するなど、情報の「見える化」を図り、住民の自助努力を促すことも有効である。政府・自治体や企業の情報を集約・整理し、住民とのリスクコミュニケーションを推進するため広報専門官の設置について検討すべきである。

自宅周辺の予想被災状況や最寄りの避難場所を事前に知るうえで、ハザードマップは重要な役割を果たす。災害の種類によっては策定率が100%に近いもの(津波、土砂災害、火山)がある一方で、高潮や豪雨による内水についての策定率は40%程度と低く#19、策定を急ぐべきである。また、作成後の更新がなされず、現況を反映していないハザードマップもある。避難場所などの図・記号の標準化や一元化を進めるとともに、常に最新情報を示すことが求められる。

Ⅳ.官民連携

官民の枠にとらわれず、災害への対策に資する情報の共有体制の構築は一層重要になる。また、高度成長期の集中投資で建設されたインフラが耐用年数を迎えようとしているが、厳しい国家財政のなか、そのすべてを更新するための予算を確保することは極めて困難である。老朽化したインフラの放置は道路の陥没や橋の崩落等の続発につながりかねないことから、政策転換による解決を模索する必要がある。

(1) 情報の集約、連携の強化

気象情報・データは全国を面的かつ網羅的にカバーし、過去から将来予測に至る内容を含むビッグデータの特性を有しており、DX社会におけるデジタル技術を活用したサービス提供において基盤的なデータセットとして有効である。今後は気象情報・データを他分野データと組み合わせたシステム処理による自動意思決定や判断を行うサービスが一層発展していくと考えられる。そのため、災害対策に資する衛星データ共有システムを構築し、安全保障に係る機微情報以外のデータを誰もが使いやすい形で提供されることが望ましい。衛星データのリアルタイム性や質の向上に加え、衛星ごとのデータ規格の統一や使用権の整備等を行い、社会実装をより一層推進していくべきである。

行政情報や医療情報等、重要度が高く、一旦喪失すると深刻な影響を及ぼすデータの管理にあたり、バックアップデータをオフサイト・オフラインで管理することや、クラウドストレージを利用することで、データの損失を最小限に抑える体制構築が必要である。医療情報については全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテ情報の標準化及び電子処方箋の普及について遅滞なく着実に進めるべきである。

(2) インフラ老朽化への対策(PPP/PFI)

インフラ老朽化に伴う障害や事故は、地震や津波などの自然災害と違い、メンテナンスや更新をしなければ確実に起こるという意味で、「緩やかな災害」と呼ぶことができる。厳しい国家財政を鑑みると、現存するすべてのインフラを維持・更新することは不可能であり、最新技術により長寿命化を図ることを含め、「かける金額を減らす」方向で問題を解決することが最も現実的である。

公民館やプールのような建築系の公共施設については、施設自体に公共性はなく、別の施設でも代替可能なため「機能・公共サービスを維持しつつ施設を減らす方法#20」を模索すべきである。その一方、道路や橋などの土木系の生活・産業インフラについては、設備の整備・修繕を減らすと機能・公共サービスを維持できなくなるため、「設備を維持しつつ費用を削減する方法#21」が妥当である。

「設備を維持しつつ費用を削減する方法」であるPPP/PFIは主に公共施設の新設・運営に用いられてきたが、その有用性をさらに幅広く活用するため、実績の少ない生活・産業インフラにおける活用促進や、複数案件の統合による収益性の高い案件の創出が必要である。また、地域によっては人口減少に伴って公共サービスの維持や技術者の確保が難しくなっている自治体もあり、それを補う形で水道などの公共事業を民間企業が受託し、低コストで運営する事例も出てきている。今後は、民間のノウハウや工夫を活用し、質の高い公共サービスの維持する工夫も必要である。

Ⅴ.意識向上・人材育成

わが国は、多様な災害リスクを抱えていることから、災害に対する知見や経験を多く有している。こうした知見をもとに、企業、行政、地域、国民一人ひとりが災害への意識を高く持ち、社会全体として災害への対応力を高めていくことは極めて重要である。

(1) 防災教育

市民が自ら危険を正しく認識し、防災に対する意識を醸成することが欠かせない。自分の身は自分で守ること、そのうえで互いを助け合うことができれば自ずと被害は最小限にとどめられる。個人としては、非常食や防災グッズの準備や住居選びの際にハザードマップや耐震性能等を重要な考慮要素とするなど、身近なところから始めるようにしたい。自治体は避難計画や地域のリスクマップを策定するとともに、その説明会を行ったり、防災訓練を定期的に実施したりすることで、住民の防災意識を醸成するとともに、住民が災害時に適切な行動をとることを促すべきである#22。また、国が中心となって災害支援関係者の能力向上を図るとともに、ダイバーシティの視点#23を持つよう促す必要がある。

(2) 担い手の確保・育成

インフラを整備し、災害発生直後に現場復旧活動の第一線として活動するのは地域の事業者であり、わが国の国土保全上、その担い手確保は必要不可欠である。人口減少や高齢化が進むなかにおいても人材を確保・育成していくことが重要であり、政府は、インフラ整備、更新、メンテナンス等を計画的かつ予見可能性の高い形で発注すること等により、技能保有者が途切れることのないよう、引き続き配意すべきである。

おわりに

自然災害のリスク・脅威にさらされるわが国において、国土強靱化は経済活動・国民生活を両立するために取り組むべき重要な政策課題である。現状、国土強靱化に関する取組みは、当初予算に補正予算を積み増す形で措置されているが、各事業の事業費と事業期間を国土強靭化基本計画等に明示し、当初予算において事業費を措置すべきである。企業としてはそれを前提に自らの取組みを検討する。

安心・安全な社会基盤は、非常時における事業活動の継続・経済回復のみならず、平時においても経済成長の基盤となり、わが国の競争力強化に貢献する。社会基盤強化に向けた取組みが、防災・減災のみならず、DXやGXの推進、地方創生の推進、行政・企業における生産性の向上等に波及することを期待したい。

以上

  1. 「基本計画の骨子(素案)について」(2023年3月29日 内閣官房国土強靭化推進室)
  2. 現実にある建築物や街、自然の地形などをデジタル空間上で“ツイン(双子)”のように再現する技術。
  3. 過去を振り返り改善するフィードバックに対し、未来を予測し、先手を打つ考え方。
  4. 国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)と株式会社日立製作所が、「戦略的イノベーション創造プログラム:SIP」の一環として、2014年より研究開発を進めてきた基盤的防災情報流通ネットワーク。災害対応に必要とされる情報を多様な情報源から収集(府省庁の気象情報、自治体の道路上情報や避難所情報、研究機関の建物や津波被害推定情報等)し、すぐ利用できる形式に加工・変換して迅速に配信する機能を備えている。
  5. AIがSNSを介して自律的に被災者とコミュニケーションをとり、その対話の中から「安確認」「物資不足」といった災害関連情報を自動で抽出・集約するシステム。
  6. 国土交通省では「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を設置し、現場状況を踏まえた適切な安全対策や関連基準の整備等についての検討を進めている。
  7. 損害保険会社が収集している損害調査情報を自治体に提供し、迅速かつ効率的な罹災証明の発行を可能にするための協力体制を作る動きがある。
  8. 東京都防災会議(2022)「首都直下地震等による東京の被害想定」
  9. 具体的には、避難所のバリアフリー化やおむつ・生理用品等の準備、マイナー言語を含む多言語対応の翻訳ソフト、アレルギー食やハラールミール等の整備が求められる。
  10. 居住誘導区域内にハザードエリアを含んだ地域は少なくなく、2019年の調査では浸水想定区域を居住誘導区域に含んでいる都市は9割近くにのぼる(JICEREPORT第39号「立地適正化計画における防災指針を活用した事前防災型まちづくりの提案」より)。
  11. 岩手県紫波町オガールは、公民連携の手法を用いて、町役場や図書館、子育て応援センターなど公共施設整備と医療機関や飲食店など民間施設等立地による地域開発を進めている。
  12. 災害が発生した地域又は災害危険区域のうち、住民の居住に適当でないと認められる区域内にある住居の集団的移転を促進するため、当該地方公共団体に対し、国が事業費の一部補助を行い、防災のための集団移転促進事業の円滑な推進を図るもの。
  13. 国土交通白書2021「リスクエリア面積と居住する人口の推移」より。
  14. 森田紘圭・大西暁生(2017)「津波災害廃棄物軽減を目指した住宅移転に対する住民意向の分析―南海トラフ沖地震における津波浸水区域を対象として―」より。
  15. 斉藤鉄夫国土交通大臣は2023年3月7日の会見で、令和5年度の予算案において防災集団移転促進事業の支援の限度額を大幅に増額すると発言。
  16. 国土交通省(2021)「全国の地籍調査の実施状況」より。
  17. 非常事態の原因が何であれ、例えば大規模地震と大型台風の同時発生といった複合災害時であっても、「結果として生じる事象」に備えていれば、企業は事業を継続できるという発想に基づく事業継続計画。(経団連(2021)「非常事態に対してレジリエントな経済社会の構築に向けて―新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえて」より)
  18. 「多元化」により特定のサプライチェーンが機能不全になっても事業継続を可能にし、「可視化」により何をどこに供給すべきか、在庫をいかに確保すべきかを把握し、非常時にも迅速な判断を可能とし、「一体化」により、サプライチェーン全体を貫くBCPの策定などにより、事業活動のレジリエンスを強化することが求められる。
  19. 既往最大降雨等に対応した内水ハザードマップを公表しているのは対象1,073市町村中428(40%)、想定最大降雨等に対応したものは75(7%)しかない(国土交通白書(2022)「ハザードマップの整備状況」)。
  20. 具体的には、他の自治体と共同で設置する「広域化」、民営化や民間施設を利用する「ソフト化」、統廃合を行う「集約化」、学校や地域で共用する「共用化」、複合的な機能を持たせる「多機能化」が挙げられる。
  21. 具体的には予防保全や重要度に応じて管理水準を変える、既存の自然環境や生態系を活用する(Eco-DRR:Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)等が挙げられる。
  22. 学校や職場に所属する人は、その組織での防災教育によってある程度防災意識を高められるが、そうしたコミュニティに所属せず、防災意識を高める機会に恵まれない人々にどうアプローチするかも、地方自治体の重要な取組みである。
  23. 例えば、防災士や消防団など、防災や災害時対応の担い手として、幅広い年代層に参加してもらうこと、女性や外国人を対策づくりの協議メンバーとすることなどは有効である。

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