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Policy(提言・報告書) 総合政策 成長と分配の好循環を実現する -2023年度事業方針-

2023年5月31
一般社団法人 日本経済団体連合会

3年余りに亘るコロナ禍への対応が落ち着きを取り戻し、ポストコロナの時代が幕を開けた。新たな節目を迎え、今こそ深刻さを増す気候変動問題等の地球規模課題の解決や格差の是正に真正面から取り組み、成長と分配の好循環を実現していくことで、日本経済にダイナミズムを取り戻し、世界における日本の存在感を高めていく決意である。

成長に向けては、不断のイノベーションによる新たな価値の創造や需要の創出を目指し、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スタートアップ等の重点分野に対して、官民連携による国内投資を促進し、わが国企業の付加価値創出力の向上、ひいては産業競争力の更なる強化を図る。また、円滑な労働移動を促すための労働市場改革に果敢に取り組み、産業の新陳代謝、生産性の向上を図る。

加えて、構造的な賃金引上げ等の人への投資に努め、成長の果実を適正に分配することで、「分厚い中間層」を形成する。多くの人が経済的豊かさを実感し、多様なWell-beingやそれぞれの希望が叶えられる社会を実現する。

世界に目を転じれば、ロシアによるウクライナ侵略の長期化等、厳しさを増す国際情勢の下、世界経済は分断の危機に直面している。そうした中にあって、企業が引き続き、積極的にグローバルな事業を展開できるよう、G7議長国の経済団体として、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化を訴えていく。

経団連は、下記を本年度の重点的な取り組みと位置付け、引き続き、社会性の視座に立脚したサステイナブルな資本主義の実践を通じ、Society 5.0 for SDGs#1の実現を目指す。

1. 科学技術・イノベーションを通じた成長の実現

(1) グリーントランスフォーメーション(GX)

  • 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、官民の投資を最大限引き出し、産業競争力の維持・強化および持続的な経済成長につながる形でGXを着実に推進する。
  • 政府による中長期の財政支出へのコミットメントの実行やトランジション・ファイナンスの拡充を通じ、革新的技術の開発・社会実装を推進する。併せて、政府の「成長志向型カーボンプライシング構想」#2について、適切な制度設計が行われるよう、GXリーグ#3のさらなる発展をめぐる議論等に積極的に参画していく。また、アジア諸国と連携・協力しながら同地域におけるトランジションに取り組み、地球規模での気候変動対策を進める。海外のグリーン需要の喚起やサプライチェーンの強化を図る。
  • エネルギー安全保障の強化を図りつつ、GXを通じ、エネルギーの安価・安定供給を支えるシステムの構築を推進する。特に、再生可能エネルギーの主力電源化、安全性が確認された原子力発電所の最大限の活用やバックエンドの環境整備、革新炉の開発・建設の具体化と必要な事業・投資環境整備、核融合の実用化に向けた国家戦略の推進等を働きかける。
  • サステイナブルな経済社会の実現に向け、GXとともに、サーキュラー・エコノミー(循環経済)、ネイチャー・ポジティブ(生物多様性・自然保護)を一体的に推進し、産業競争力の強化、経済成長にもつなげていく。

(2) デジタルトランスフォーメーション(DX)

  • 政府のデジタル5原則#4に沿った真のデジタル完結の実現のため、デジタル臨時行政調査会によるデジタル改革・規制改革の実現を働きかける。
  • マイナンバーカードの普及促進と利便性の向上、行政手続きのワンストップ、ワンスオンリーの実現を働きかける。
  • Society 5.0 for SDGsを実現する観点から、企業のデータ連携のための課題を抽出し、解決を図る。
  • web3#5ならびに関連分野について、活用事例の創出・展開を促進する。
  • ヘルスケア、教育等の分野におけるDXを進めるため、法制度整備等を政府に働きかけるとともに、産業界自らデータ利活用を推進し、生活者価値の協創を実現する。
  • 緊密な官民連携の下、中小企業を含めたサプライチェーン全体を俯瞰した防災・災害情報の共有やサイバーセキュリティの強化を図る。

(3) スタートアップ振興

  • 経団連提言「スタートアップ躍進ビジョン」#6で掲げた「5年後までにスタートアップの裾野、起業の数を10倍に、成功するスタートアップのレベルも10倍にする」という目標の実現およびスタートアップエコシステムの拡大に向け、大企業の行動変容の促進や課題の解決に取り組む。
  • 地方や海外を含めたスタートアップと大企業とのオープンイノベーションの促進に努める。

(4) 新たな成長分野の競争力の強化

  • ソフトパワーの発揮に向けて、エンターテインメント・コンテンツ産業はじめクリエイティブ産業の振興に取り組む。世界における日本発コンテンツのプレゼンスの持続的な拡大に向けて、人材育成、海外展開、拠点整備等の具体的施策の早期実施を働きかける。
  • 世界最先端のバイオエコノミーの確立に向けて、経団連提言「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略」#7で掲げた5つの戦略を、政府、大学、関係業界、有識者等とも連携しながら進める。また、わが国のバイオの取り組みを国内外に向けて積極的に発信する。
  • モビリティが直面する課題や未来の姿について業界横断的に議論し、モビリティ産業の国際競争力の強化に向けた方策を働きかける。
  • 産官学連携を一層強化し、イノベーションエコシステムを構築するとともに、グローバル展開を目指し、国際標準化を含めた知財戦略を強化する。
  • 半導体、AI、量子、バイオ等、わが国国際競争力の観点から重要度の高い技術の研究開発、実装を推進する。とりわけ、開発に長期間を要するディープテック#8については、継続的な財政支援のモメンタムの維持を働きかける。
  • インパクト投資#9や応援消費#10等、社会的課題解決に向けた事業への資金を呼び込む環境を整備する。

2. 分厚い中間層の形成

(1) 構造的な賃金引上げに向けた環境整備

  • 働き手との価値協創によって実現した成長の果実を「人への投資」として分配することで賃金引上げのモメンタムの維持・強化を図り、構造的な賃金引上げの実現につなげていく。
  • わが国全体の生産性向上に不可欠な成長産業・分野等への円滑な労働移動の実現に向けて、雇用のマッチング機能強化と「労働移動推進型」セーフティーネットへの移行、副業・兼業がしやすい労働時間法制の実現を政府に働きかけるとともに、働き手の主体的なキャリア形成や能力開発・スキルアップを支援するための諸施策の導入・拡充を促す。
  • 企業における制度整備として、通年採用等、採用方法の多様化やジョブ型雇用の導入・活用の検討を含めた「自社型雇用システム」の確立を推進する。
  • 中堅・中小企業等を含めたわが国全体の賃金引上げの機運醸成に向けて、「パートナーシップ構築宣言」#11の参加企業の拡大と実効性の向上に取り組み、サプライチェーン全体での適正な価格転嫁を実現する。

(2) DE&I、多様な働き方と教育改革の促進

  • 働き手一人ひとりの個性や強みを最大限発揮できるよう、人権の尊重はもとより公正性・公平性の観点を踏まえながら、「DE&I(多様性、公平性、包摂性)」を担保する取り組みを加速し、女性や外国人、若年者、高齢者、障がい者、有期雇用等労働者等、多様な人材の活躍を推進し、イノベーションにつなげる。
  • エンゲージメントと労働生産性の向上に資する柔軟な働き方を促進するとともに、労働時間制度の更なる見直しを働きかける。有期雇用等社員の処遇改善に向けて、同一労働同一賃金への適切な対応と、意欲と能力のある有期雇用等社員の正社員化の促進を呼びかける。
  • 「仕事と学びの好循環」の確立を目指し、大学等とも連携したリカレント教育・リスキリングや、学生時代からのキャリア形成支援、博士人材や女性理工系人材の活躍に資する教育改革等を一層推進する。あわせて、多様性を育む教育を実現すべく、初等・中等教育改革を政府等に働きかける。

(3) 全世代型社会保障の構築とこども・子育て政策への対応

  • 分厚い中間層の形成を下支えする全世代型社会保障の構築に向け、現役世代の保険料負担増の抑制、効率的な医療・介護提供体制はじめ国民の安心・安全、持続可能性を高める制度改革の実現に取り組む。さらに、社会保険料と税のあり方も含め構造的な課題の検討を深める。
  • 政府のこども・子育て政策の強化の議論に対応し、人口減少への危機意識の共有、施策の重点化等、経団連の基本的な考え方について意見を発信するとともに、男性の家事・育児促進に向け、経営トップのメッセージ発信や両立支援等の企業の取り組みを加速する。給付拡充に必要な財源については、分厚い中間層の形成や賃金引き上げのモメンタムを阻害せず、様々な財源を組み合わせ、社会全体で負担できる形の実現を働きかける。

3. 魅力ある地域経済社会の実現

(1) 持続可能な地域経済の確立

  • 経団連「地域協創アクションプログラム」#12を通じて政府・自治体・大学・スポーツ団体・文化団体等との連携を進め、多様な協創を通じた魅力ある地域づくりを、政府の「デジタル田園都市国家構想」と連携しつつ推進する。
  • 政府の「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興の基本方針」#13の進捗を注視しつつ、引き続き、東北の再生・創生に向けた活動に取り組む。
  • インバウンドの再開を見据え、需要の本格回復に対応した観光地・観光産業の人材確保も含めた持続可能な成長、食料安全保障にも資する農業の成長産業化・輸出産業化の実現に向けた施策を検討し、実現に取り組む。各地経済団体と懇談会を共催し、地域経済の活性化に向けてテーマを決めて議論するとともに、地域の実情やニーズを把握し、経団連活動に反映させる。

(2) 人口減少、少子高齢化を踏まえた地域経済・行政の将来像の検討

  • 少子高齢化を前提とした国と地方のあり方について検討する。
  • わが国全体の持続可能性と強靭性を高める観点から、国と地方の行政システムや社会機能の分散のあり方について検討する。

4. 力強い経済成長を支える財政・税制の改革

  • 持続的な経済成長の実現と中長期のスパンでの財政均衡を目指す、官民連携による「ダイナミックな経済財政運営」の方向性を踏まえた財政健全化の実現に取り組む。
  • 防衛力強化に係る財源としての法人付加税の具体化の動向を注視しつつ、 企業活動の活性化に資する国内税制改正の実現を働きかける。また、デジタル経済活動の進展に即した各国間の合意に基づく国際課税ルールの見直し及び国内法制化に向けた対応を行う。

5. 「自由で開かれた国際経済秩序」の再構築

(1) ルールに基づく国際経済秩序の維持・強化に向けた働きかけ

  • 世界経済の分断を回避すべく、G7広島サミットに向けてB7として提唱した「自由で公正な貿易投資クラブ」の立上げ、経済連携協定等の深化と拡大、ODAの拡充ならびにルールの策定・監視・執行の各般に亘るWTO改革を通じて、「自由で開かれた国際経済秩序」を再構築する。一方、安全保障を確保する観点から貿易・投資を制限する場合であっても、対象を真に必要な最小限度に絞るよう、各国政府に働きかける。
  • 経済安全保障推進法に基づく政省令等に関係企業の意見や事業の実態等を十分に反映させるとともに、関係企業の負担の軽減が図られるよう不断の見直しを働きかける。
  • 経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度の法整備等に関する議論に積極的に関与し、諸外国から信頼されるに足る、実効性のある情報保全制度をわが国として確立することによって、サイバーセキュリティの強化、諸外国との共同研究開発の促進等を図る。
  • 人権デュー・ディリジェンスへの取り組みをはじめ、人権を尊重した経営を推進する。また、その結果、特定の取引を停止した場合においても企業に不利益が及ばないよう、政府の対応を求めていく。

(2) 民間経済外交の積極的な展開

  • B20サミットへの参画等を通じてG20インドサミットをフォローし、「B7東京サミット」#14で取りまとめた共同提言に対する理解を促していく。
  • ミッションの派遣、経済合同会議の開催等を通じた民間経済外交を積極的に展開することによって、欧米のみならず世界各国との関係を強化し、地球規模課題の解決に貢献するとともに、各国が抱える社会課題の解決や成長戦略の推進に寄与する。

6. 2025年大阪・関西万博等の成功

  • 2025年大阪・関西万博は、Society 5.0 for SDGsの実現やわが国の経済・社会の持続的な成長につながるものであるとの認識の下、2025年日本国際博覧会協会、政府、地元自治体・経済界等との連携を深めながら、万博の成功に向けた開催準備に全面的に協力する。
  • 2027年に神奈川県横浜市で開催されるGREEN×EXPO 2027(国際園芸博覧会)の開催に向けて、政府、地元自治体、経済界等との連携を深め、その取り組みに協力する。
以上

  1. Society 5.0は、デジタル革新に人間の英知をかけ合わせて、経済成長だけでなく、社会課題の解決や自然との共生を目指すもの。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献できることから、経団連提言「Society 5.0 -ともに創造する未来」(2018年11月)において目指すべき具体的な社会像を「Society 5.0 for SDGs」の社会と位置付けた。
  2. GX経済移行債を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ(排出量取引制度の本格稼働、炭素に対する賦課金の導入)等。
  3. 野心的な炭素削減目標を掲げる企業群が、排出量削減に向けた投資を行いつつ、目標の達成に向けた自主的な排出量の取引を行う政府の枠組み。
  4. ①デジタル完結・自動化原則、②アジャイルガバナンス原則、③官民連携原則、④相互運用性確保原則、⑤共通基盤利用原則。
  5. ブロックチェーン技術を活用したインターネットのあり方。「Web 3.0」等と呼称されることも。
  6. 2022年3月15日公表 https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024.html
  7. 2023年3月14日公表 https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/015.html
  8. 科学的な発見や革新的な技術に基づいて、大学や研究機関等で長期間にわたり多額の費用をかけて開発され、世の中の生活スタイルを大きく変えたり社会課題の解決に繋がる技術(例えばAI、量子、バイオ等)。
  9. 経済的利益の獲得のみでなく社会的課題の解決を目指した投資。
  10. 被災地支援等を含め、社会によい影響を与える活動を展開する生産者や企業を応援する消費行動。
  11. 企業規模の大小に関わらず、企業が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取組。企業は代表者の名前で、サプライチェーン全体の共存共栄および取引適正化等に取り組むことを宣言。経団連会員企業全体では約550社が宣言済み(2023年3月末時点)。
  12. 2021年11月16日公表 https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/105.html
  13. 2021年3月9日閣議決定
  14. 2023年4月19-20日、東京・経団連会館にて開催。

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