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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 アジア・大洋州 第14回アジア・ビジネス・サミット共同声明

(仮訳/正文英語
2025年7月4

今日、世界はますます分断を深め、それにより、国際的な緊張が高まっている。最近の貿易制限措置はこれに拍車をかけている。これらは国際協力の気運を著しく殺ぎ、アジア経済の先行きにも影を落としている。国際通貨基金(IMF)の参照予測によると、2025年のアジアの経済成長率を0.6%下押し#1している。

こうした背景の下、本日、フィリピン・マニラにおいて第14回アジア・ビジネス・サミットが開催された。サミットに集結した、われわれ12の経済団体は、今こそ、アジア各国・地域が一国主義や保護主義に立ち向かうとともに、域内の貿易・投資の一層の拡大、グリーンをはじめとする各分野における投資とイノベーションの推進、さらには価値創造を担う人材の育成・交流の推進によって、持続的な成長を実現すべく協力しなければならないとの認識で一致した。

具体的には、以下の4つの課題に取り組んでいく。

1. トランプ政権の政策が織り込まれていない1月17日の見通し5.1%から4月4日時点までの関税措置を前提とした4月22日の見通し(参照予測)では4.5%に下方修正。

1.ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化

アジア域内の貿易・投資を一層拡大する上で、複数国間および二国間の経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)を拡大・深化することが重要である。こうした協定はビジネスの予見可能性や経済の強靭性を高める上で重要な役割を果たす。本サミットを構成する12のエコノミーは、2024年時点で世界貿易額の30%を占めており、当該地域におけるEPA・FTAの拡大・深化は、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に資するものである。

「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」については、着実かつ透明性が高く、質の高い履行が徹底されなければならない。関税削減については、対象の拡大とスケジュールの前倒しが求められる。ルールに関しては、貿易歪曲措置の防止や投資家対国家の紛争解決(ISDS)などに関する規定を盛り込むべきである。

「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」については、三原則#2に基づいて、協定に定められた高水準の市場アクセスとルールを履行することが可能と看做されるエコノミーの加入を促進・支援すべきである。同時に、ルールの一層の拡充に取り組むべきである。

日中韓FTAについては、貿易・投資の自由化ならびにルールの両面でRCEP協定を相当程度上回る高いレベルの規律を目指すべきである。

これらと並行して、本年設立30周年を迎えた世界貿易機関(WTO)は、自由貿易を地球規模で促進するための改革が不可欠である。われわれは、ビジネスの予見可能性や持続可能な経済成長を実現する上で、WTOを核とする多角的貿易システムを維持・強化することの重要性を認識している。それに向けて、WTOには、現在および将来の貿易上の課題に今以上に素早く対応することが求められる。具体的には、紛争解決メカニズムの機能を回復するのみならず、コンセンサス方式を見直さなければならない。また、「開発のための投資円滑化協定」および「電子商取引協定」を早期にWTO協定に組み込むことが求められる。

2. 加入に関する意思決定は、①加入要請エコノミーがCPTPPのハイスタンダードを満たすことを前提に、②貿易や投資等に関する実績、約束の遵守状況を考慮し、③参加国のコンセンサスにより行われる(オークランド三原則)。

2.多様な道筋によるグリーン・トランスフォーメーションの推進

デジタル・トランスフォーメーション(DX)およびAIの発展に伴いエネルギー需要が一層拡大することで、二酸化炭素の排出の増大が見込まれる。カーボンニュートラルを実現しながら、安価で安定的なエネルギー供給を確保するという困難な課題に取り組んでいかなければならない。

アジアは、化石燃料への依存度が高く、地理的・地政学的な制約により、再生可能エネルギーに即時に移行することは困難である。そのため、各国・地域の実情を考慮した多様な道筋に基づく取り組みを推進する必要がある。具体的には、アンモニアや水素の混焼による既存の火力発電の効率化、LNG・バイオ燃料の活用や二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の普及等がある。これらについて、各エコノミーのグリーン・トランスフォーメーション(GX)に関する基本計画に明確に位置付けるべきである。

また、アジアにおける脱炭素社会の実現に向けた協力枠組みであるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の下、個別プロジェクトのみならず、政策・制度の協調も推進すべきである。排出量データの連携プラットフォームの構築は、これらの取り組みに貢献するものである。

加えて、アジアでは、洪水や土砂災害をはじめとする自然災害が激甚化・頻発化する中、気候変動問題への適応策として、防災に関する知見や技術の共有を推進することが重要である。

3.AIとスタートアップによるイノベーションの創出

イノベーションは、少子高齢化による人口減少等の社会課題解決、そして持続的な経済成長を実現していく上で大きな役割を果たす。イノベーティブなアジアを目指して連携・協力を推進する必要がある。

今日、生成AIの活用は生産性の向上やイノベーションの創出に貢献しており、幅広い分野でAIを活用できる社会を構築していく必要がある。その際、「人間中心のAI」の原則のもと、人間の生命や人権、社会のあり方等に影響を及ぼすAIの利用については適切な規律を求めつつ、過度な制約を課すべきではない。イノベーションの実現に際しては、リスクの軽減とのバランスが重要である。

AIの発展においては、膨大なデータを蓄積・分析することが欠かせない。DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)を推進するためには、国際的に相互運用可能なルールの整備、電子的送信に対する関税不賦課モラトリアムの恒久化が求められる。また、サイバー攻撃の脅威が増す中、安全・安心なサイバー空間の構築に取り組む必要がある。

イノベーションの創出にとって、スタートアップは、益々重要な役割を果たしている。各エコノミーの政府は、投資規制の緩和、行政手続の簡素化、税制上の優遇措置などのビジネス環境の整備を通じて、アジア域内でのスタートアップ・エコシステムの構築を推進すべきである。

4.人材育成を通じたアジアの地域力の強化

地域としての競争力を高めるためには、地域の自立に貢献できる人材の育成が不可欠である。女性やマイノリティを含め、多様な人材が交流、競争、共創し、イノベーティブな人材となる環境をアジア全体で整備していく必要がある。

それに向けて、各政府は、アジアにおける世界トップクラスの大学との連携による人材交流プログラムの策定、技能水準の向上につながる教育モデルの開発、およびスキルを有する人材が居住地における文化・生活様式に適応するための機会の提供を進めるべきである。さらに、スキルを有する人材とその家族の居住要件の緩和、ライセンスや資格の相互承認の推進および社会保障協定の締結に努めるべきである。

われわれアジアの経済界として、連携と協力を深めるとともに、経済分野のグローバルなリーダーとして、力強く成長するアジアに向けて上記を実現するよう、各政府に対して協調のとれた努力を求めていく。

以上

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