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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 金融庁パブリックコメント 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)へのコメント

2025年12月26日現在
(一社)日本経済団体連合会
経済基盤本部

金融庁御中

「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(案)等(以下、公開草案)に対するパブリックコメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。

【 1:サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備 】

<1:サステナビリティ開示基準の適用>

  • 資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上等を目的として、財務情報の開示についてIFRSを適用している企業は多い。サステナビリティ情報の開示についても同様の趣旨から、SSBJ基準に加えて、ISSB基準も選択的に適用可能とすることを検討すべきである。財務情報とサステナビリティ情報をIFRS基準で統一して開示することは、特に海外投資家にとっても有用と考える。
  • 二段階開示に加えて、「有価証券報告書の提出期限延長」というオプションを用意すべきである。企業側としては現行の期限内提出を当然目指すところではあるものの、一方で、サステナビリティ情報開示・保証にかかる実務の全体像が見えない現況下において、保証人のリソースを含めた対応状況や慣れない手続きへの対応など、有価証券報告書提出直前で起こりえる事態に備える必要がある。制度上のバックストップとして、延長オプションは必要である。
  • 二段階目に開示すべき書類については、訂正報告書ではなく別の名称の書類を設定すべきである。二段階目の開示は実務的工期の観点から生じるものであり、訂正ではない。日本語において「訂正」とは誤りを正すことを意味し、訂正という用語は利害関係者にネガティブな印象を与える。企業組織が誤りを訂正する公式文書を発することが如何に重大な意思決定を要するかをご理解いただきたい。
  • 時価総額の判定に関して、実務上で混乱が生じないよう、例えば次のような項目等について明確化すべきである。
    • 上場後5事業年度が経過していない会社については、少なくとも3事業年度が経過した後にのみ有報での開示が強制されること。
    • 時価総額は、期末時価×株式数にて算定すると想定するが、当該株式数に自己株式を含めないこと。
    • 統合等の場合の取扱いについて、論理的な整合性の確保の観点から、上場連結子会社・持分法適用関連会社を統合した場合、加算すべき時価総額はその総額ではなく少数株主持分相当のみとすること。

<3:Scope3温室効果ガス排出量の虚偽記載等に係るセーフハーバールールの整備>

  • SSBJ基準において既に合理的な方法による見積りが認められているため、原則見積もりと確定値の差異については虚偽記載ではなく、この点について行政責任や民事責任に当たらない点を明確化する方向性は望ましい。しかし、財務諸表(あるいは、財務諸表監査)において、最善の見積による会計処理や開示(注記の記載)は虚偽記載ではないのと同様、十分に合理的な方法による見積りであっても、事後的に判明した乖離が広い意味での虚偽記載にあたるかのような誤認を与えないような表現や説明が非常に重要である。そのため、規制当局による十分な説明や周知を期待する。また、改めて、企業が萎縮せずに開示できる環境を整えるという大きな趣旨を阻害しないよう、制度設計において十分な配慮をお願いしたい。

  • セーフハーバールールの適用条件については、過度に詳細な情報や監査同等の負担を求めることは避けるべきである。具体的には、算定手法、使用したデータリソースの概要程度の開示にとどめるべきである。

  • 現行及び改正案におけるセーフハーバールールの対象となる「将来情報」について、市場関係者の誤解が生じやすい用語であり、金融審議会における会合資料に記載された定義を明記すべきである。

    • 有価証券報告書の作成時点からみて将来に関する情報であって、作成時点において金額、数量、事象の発生の有無等が確定していないもの
    • 統制の及ばない第三者から入手した情報
    • 見積り情報(過去情報であっても、見積り情報である限り対象。なおオンバランス情報は対象外)

【2:人的資本開示に関する制度見直し 】

  • 「人的資本開示に関する制度見直し」にかかる今回の提案ついては、デュー・プロセスを経ず、事前に関係者間の十分な議論がなされないまま2025年8月26日に開催された第1回金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)」にて、「報告事項」として突然紹介された。DWG当日にも、SSBJのデュー・プロセスを経て検討すべき内容である旨、公の場において関係者間で議論を行った上で、有価証券報告書の記載事項として定めるべきか否かを慎重に検討・判断すべき旨を経済界として主張したにも関わらず、その後一度も議論されることなく、今回のパブリックコメントで提案される形となった。当該プロセスおよび提案内容について、拙速感が否めず大変遺憾である。

  • 人的資本開示拡充が重要であることについては、経済界としても十分に認識しており、真に有用な情報であれば一定のコストをかけてでも開示すべきと考えるが、今回の公開草案の提案の開示内容に期待できる有用性には強い疑問を持っている。公開草案の提案で開示すること自体の目的や有用性にかかる説得的な説明は十分に行われておらず、今後の丁寧な対応に期待する。

  • 企業は人的資本について、既に任意の開示媒体で積極的に情報を公開しており、有価証券報告書という規範性の高い開示媒体において改めて開示を求めることは企業の負担を増やすことになるため、合理的な説明は必要不可欠である。追加指標開示を決定する前に、人的資本の開示に関する現状課題認識および有価証券報告書での開示を求める意義を明確にすべきである。

  • 各種サステナビリティ関連の開示情報の中でも、人的資本に関する情報は従業員構成や事業形態等、各社の状況によって指標の有用性が異なる。そのため、十分な議論なく同一指標の開示を上場企業全社に適用することは、有価証券報告書利用者への便益は限定的な一方、徒に企業の負担ばかりを増加させる。各社のビジネスモデルや事業戦略等を踏まえた取り組み実態や進捗の把握に資する開示を行うことが、企業及び利用者にとって重要であり、基準に則った前提で各社に開示内容の判断を委ねるSSBJ基準を人的資本開示の基礎とすることが、有用な人的資本開示の実現に資すると考える。

  • 開示項目が追加された場合、その後の削減は困難となることが多いと考えられ、上記の意義を明確化せぬまま追加することは、有価証券報告書の記載内容のスリム化のモメンタムとも逆行する。

  • グローバルでは、人的資本はサステナビリティ情報の一部と位置付けられると理解する。SSBJ基準を金融商品取引法に取り込むことで世界標準の開示を推進する中、【サステナビリティに関する考え方及び取組】以外の箇所で人的資本の開示を求める理由が不明であり、作成者・利用者双方の混乱や作成者負担の増大を招くため、開示に反対する。

  • 欧米でも求められない項目を、有価証券報告書の開示要求事項として定めてしまっては、諸外国に比しわが国の開示が突出することになり、国際的整合性の観点からも望ましくない。日本固有の課題に関連する情報の開示は、日本企業のみに追加的な実務負荷を強いることに繋がるにも拘わらず、公の場での議論もなく、開示の目的や有用性も不明瞭なまま、先行して制度化することはリスクが伴う。

  • 人的資本については、【サステナビリティに関する考え方及び取組】における記載と、今回提案された【従業員の状況等】の【人材戦略に関する基本方針】【従業員の状況】における記載があり、特に定性的な情報について、どの記載欄にどのような記載を行うべきなのか書き分けをイメージすることが難しい。記載内容が重複することは、作成者のみならず読み手側も混乱するという事態に繋がるため、いずれかの記載欄での人的資本関連の記載の削除・省略を可能とすることも含め、より具体的に整理すべき。

  • 今後サステナビリティ情報開示が拡充され、今回提案されているような情報と同じような情報の開示が求められた場合に、有価証券報告書の既存の人的資本の開示への対処をどうすべきかなど、迅速に指針を示すべき。

  • 「提出会社が子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社」は、主要な子会社についても提出会社と同一の内容を開示することとされているが、ここで示されている企業は、いわゆる純粋持株会社であることを明確化すべきである。

  • なお、子会社の従業員給与の開示を行う場合における、「最大人員会社」といった画一的な基準による開示義務化には強く反対する。多くの企業にとって最大人員会社が、必ずしもグループの収益の中核や企業価値の源泉であるとは限らない(労働集約的な製造子会社と、高付加価値な開発会社の差異等)。画一的な基準で抽出された特定の会社の給与水準が、グループ全体を代表するかのような開示は、投資家にとっても作成者の従業員にとってもミスリーディングである。また、組織再編等により対象会社が頻繁に入れ替わる場合には、経年比較の有用性も損なわれる。投資家にとって真に有用な情報を開示するため、子会社の従業員給与の開示の必要性が高いかどうか、開示する場合の対象会社の選定等については、当局としての一定の原則・考え方を示したうえで、最終的には企業の自主的判断によるべき。

  • 「従業員の平均給与の対前年増減率」を開示する提案に反対する。平均給与の増減は、ベースアップ等の処遇改善以外にも、業績連動賞与の増減といった業績による要因、事業移管、M&Aなどによる人員構成の変化、若手社員の積極採用(平均値の押し下げ)、定年退職者の増減など、構造的な要因に強く影響を受ける。単なる増減率の数値のみでは、企業の賃上げ努力や人材競争力が正当に評価されないばかりか、構造変化と処遇改善が混同され投資家に誤解を与えるリスクが高い。また、企業は既に従業員の平均給与額および従業員数を通常開示しており、平均給与額の増減率は利用者において算出可能であることから、追加で必須指標とする根拠も乏しい。

  • 連結会社の場合、複数の子会社間で、連結の代表値とは言い難い給与水準の開示が行われることで、不要な誤解を生じ、訴訟や子会社間の軋轢、不公平感を生むリスクがある。グループ全従業員への士気低下などの悪影響も懸念される。提案の開示は、有用性や目的が不明瞭なまま、現場に深刻な混乱をもたらす可能性が高く、実務上のリスクが非常に大きい。

  • 背景事情の補足説明による有価証券報告書の長大化や、開示情報の責任説明に起因する作成者の実務負荷増も懸念する。

【3:その他の改正事項 】

  • 極めて形式的な有報総会前開示の対応により、「事業年度末」と、「株主総会決議後・取締役会決議後」の情報を併記するという事務手間が発生したため、後者の情報を不要とすること自体は企業側の実務負荷軽減の観点からは良いが、効果は限定的である。さらに、これまで掲載されていたはずの総会決議後・取締役会決議後の最新情報が掲載されなくなることを踏まえると、ますます有価証券報告書の開示書類としての有用性を低下させることにつながる(最新の情報は、結局、総会後に順次開示されるコーポレートガバナンス報告書、統合報告書等の任意開示書類の更新に頼らざるを得ない)。

  • そもそも、より大幅な開示項目削減が図られない限り、有価証券報告書の総会前開示は現状の数営業日が限度で、それ以上の早期化は非現実的である。数営業日の形式的な開示の前倒しが投資家にとって本当に有用なのか疑問である。

  • 「有報の総会前開示」が目的化するのではなく、投資家が何の情報を真に必要としているのかを明らかにしたうえで、情報提供の在り方を議論すべきである。

以上

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