一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
サステナビリティ情報開示タスクフォース
欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)御中
公開草案「会計指令第40a条に従った特定のEU域外企業向け欧州サステナビリティ報告基準(以下、ESRS-40a)」へのパブリック・コメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。
【基準の内容及び基準設定のアプローチ】
改正ESRSをESRS-40aの基礎とする大きな方向性については賛同する。ただし、第三国企業が今後も安心して欧州で事業活動を展開できるよう、過度な実務負担を強いることのない実務上の実行可能性を十分配慮することは必要不可欠である。
CSRDの開示を巡っては、オムニバス法を含む規制の簡素化の議論において、EU企業向けに当初設定されていた厳格な開示項目・対象範囲及び適用時期が、後になって大きく変更されることとなり、企業の準備作業が徒労に終わったケースも生じている。直近の教訓を踏まえれば、当初から過度に厳格な要求をせず、柔軟な対応を認めることで、どのようなプラクティスが有効であるかを見極めることが現実的なアプローチと考える。
【グローバル・アプローチと混合アプローチ】
混合アプローチの選択肢を残す本提案の大きな方向性には賛同する。事業特性や技術的な制約等によりグローバル・アプローチが適する企業がある一方で、EU関連インパクトを効率的に切り分けることが可能な企業もあると考えられる。このため、混合アプローチとグローバル・アプローチの選択については、各企業の事業実態に応じた柔軟な運用を認めることが適切である。
ただし、現状の提案ではEU関連インパクトに関する情報収集及び評価が煩雑であるため、多くの企業にとっては混合アプローチの適用が難しく、適用した場合も期待されるほどの負担軽減効果が得られないため、改善が必要と考える。
例えば、非EU諸国を含む欧州全体、または中東・アフリカを含めたEMEAなどを一つの単位として事業管理を行っている場合や、EU域内の統括会社がEU域外においても事業活動を行っている場合には、EUに関連する情報のみを切り分けて識別することが実務上極めて困難となることが想定される。
こうした企業の事業管理の実態を踏まえ、EU関連インパクトの識別については、より簡便な報告モデルの導入が求められる。例えば、以下のようなモデルが挙げられる。
EU域内拠点と、EU及び非EUの双方に製品・サービスを提供するEU域外拠点に関するインパクトを、EU関連インパクトとみなし報告対象とする。この際、EUに製品・サービスを提供しないEU域外拠点に加え、EUに製品・サービスを提供しているものの、全体に占める割合が小さいEU域外拠点についても、重要性の観点から報告対象外とする。
対象範囲、判断基準及びその合理性を説明することを条件として、欧州全体やEMEA等、各企業の管理単位を報告対象とする。
なお、EU域外の企業活動における人権へのインパクトは、混合アプローチの対象から除外するべきではないと考える。これは、EU域外で発生し、当該企業によるEU域内への製品・サービスの提供とも関連しない人権のインパクトについては、ESRS-40aが対象とするEU関連インパクトとの結びつきが必ずしも明確ではない一方で、温室効果ガス排出は排出地域を問わず、グローバルな温暖化を通じてEUにもインパクトを与え得るなど、気候分野とは性質が異なるためである。
また、適切で充実した開示実務の促進のためには、好事例集の提供も有用である。今後のEFRAGの対応に期待する。
【参照による組込み及び相互運用可能性】
ISSB基準及びそれに基づく各国基準(以下、ISSB基準等)との相互運用性を確保するとした本提案の大きな方向性には賛同する。他の法定開示文書からの参照による組込みを認めることは、重複した開示文書の作成及び保証取得を回避でき、実務負担の軽減につながると考える。加えて、利用者に対する情報の一貫性も確保できる。
現在、日本を含む多くの法域が、国際的なベースラインであるISSB基準等に基づいた整備を進めている。一方で、EU企業はESRSに基づいた報告を行っており、ISSB基準による報告は求められていないため、ISSB基準等とESRSの双方に基づいた報告が求められる第三国企業との間で公平な競争条件(Level Playing Field)が損なわれるおそれがある。
このような状況を踏まえ、グローバルに事業を展開する第三国企業の実務負担軽減の観点から、ISSB基準等による開示内容に調整を加えることなく直接活用できることを明確にした上で、ESRS-40a上で追加的に報告が求められる事項のみを報告すればよいこととし、また当該部分についてガイダンス等により関係者に分かりやすい形で明示すべきである。
また、ESRS-40aへの組込のみを理由として、EU公用語への翻訳及び追加的な保証手続を求めるべきではない。所在国の言語に基づいて報告及び保証手続を行う第三国企業にとって、ESRS-40aへの組込みのみを理由として翻訳文書の作成及び追加的な保証手続を行うことは、過大な実務負担と対応コストを発生させるほか、ISSB基準等との相互運用性を低下させることとなる。さらに、第三国企業は既に所在国の言語に基づいた開示文書においてステークホルダー等への開示責任を果たしていることを踏まえると、言語の違いによる追加負担を求めることは、EU域内企業との公平な競争条件を損なうこととなる。
【EU法令への参照及びその実行可能性】
提案に強く反対する。所在国の法令や枠組みの下で事業活動を行う第三国企業にとって、EU固有の法令に基づく用語・概念を自社のグローバルな活動に適用することは、過大な実務負担と対応コストを発生させるため、現実的ではない。実務への十分な配慮を欠いた制度設計は、第三国企業が今後の欧州における事業展開を検討するにあたり、大きな不確実性をもたらし、欧州における安定的かつ継続的な事業活動の阻害要因となり得る。
また、参照先であるEU法令が改正された場合には、ESRS-40aに基づく開示内容にも影響することが想定される。第三国企業が継続的かつ安定的に報告体制を維持するためには、基準としての予見可能性及び運用上の安定性が重要であり、EU法令への参照はこれを損なうおそれがある。
そのため、第三国企業の報告に関しては、所在国の法令やこれに基づく概念の活用に加え、合理的な指標や推計の使用を認めるなど、企業の実務上の実行可能性に十分配慮した柔軟な報告方法を採用する必要がある。
【その他のコメント】
各企業が責任を持って適切な情報開示を行うためには、実務上、十分な準備期間を確保することが不可欠であるが、本提案における基準の確定から適用までの期間はあまりにも短い。企業側のみならず、関係するすべてのステークホルダーが十分な準備期間を確保できるよう、例えば適用時期を1年後ろ倒しすることも含め、スケジュールについて改めて検討すべきである。