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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ Society 5.0 -ともに創造する未来- ~共同通信きさらぎ会における中西会長講演~

2019年1月16日(水)
於:ホテルニューオータニ ザ・メイン宴会場階 鶴西の間
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はじめに

経団連は、2018年11月に「Society 5.0 -ともに創造する未来-」という提言をまとめた。これは2018年7月に「未来社会協創会議」「未来社会協創タスクフォース」を設置して以来、集中的に議論してきたものである。本日はその提言をもとにプレゼンテーションする。

2019年の国内外の政治・経済情勢

本題に入る前に、2019年の国内外の政治・経済情勢に触れたい。

国内では、統一地方選、参議院議員選挙が政治日程の中心であり、経済面では、10月に消費税率の引き上げが予定されている。皇位継承もある。日本経済のファンダメンタルズは引き続き堅調であり、緩やかながらも安定した成長が続くと見込まれる。

海外では、米中間の覇権争いが長期化するだろう。この動向から片時も目が離せない。欧州では、BREXITの行方が予断を許さない。世界各地で、反グローバリズム、ポピュリズムが台頭している。

内外ともに課題が山積する中、グローバリゼーションとデジタライゼーションが進展している。不確実、不透明な時代ではあるが、未来は明るい。ビジネスにおいては、変化は危機でもあり、チャンスでもある。

主役は人間であり、創造力と想像力により、明るい未来社会「Society 5.0」が築かれていく。日本は率先してこれに取り組み、このコンセプトを世界に示していきたい。わが国が初めて主催するG20はその絶好の機会である。経団連としても3月に主催するB20を通じて、Society 5.0の推進を訴えていく。

「Society 5.0 for SDGs」は経団連の最重要課題である。デジタル化により未来社会を創造することができる。ここからは、このSociety 5.0について、具体的にお話しさせていただく。

提言 全体構成

提言は2章から構成されている。第1章は、技術を人間の日常生活をよくするために活用することを提案する「Society 5.0」という夢のあるコンセプトをまとめたものである。

一方、Society 5.0の実現を主導する上で、日本が大きく変わらなければならない点も多く、第2章ではそのアクションプランをまとめている。本日のお話は第2章が中心となる。

世界に迫る大きな変化の波

いま世界には大きな変化の波がいくつも起きている。

まずは、「技術的な変化」である。AIやIoTなどのデジタル技術やバイオテクノロジーなどにおいて、大きな社会変革につながる技術が次々に生まれている。これにより、データを安価で大量に分析できるようになり、シェアド・エコノミーが拡大したことが、特に大きな変化である。

そして、「経済・地政学的変化」である。中国やインドの急成長によって、世界経済の中心は欧米からアジアへと大きくシフトしている。各地域において少子高齢化や人口爆発が進んでおり、こうした人口動態の激変も経済・地政学に変化を及ぼしている。

さらに、環境問題など地球規模の課題が深刻化し、若者の間でもSDGsなどに取り組む重要性が認識されるなど、「マインドセットの変化」が起きている。

日本の未来は暗くない

日本は深刻な課題が山積し、未曾有の危機にあるといわれることもあるが、一方で、世界の変化を活かせる有利な位置にあるということもできる。山積する課題を解決していけば、課題解決先進国として世界の発展に貢献できる。

インターネットの世界では人口の多い米中が覇権を握ったが、今後はIoTにより、主戦場はモノに移る。モノづくりの技術を培ってきた日本が、この強みを活かしてデジタル戦略を展開できれば、大きなチャンスをつかむことができる。「Society 5.0」という日本発のコンセプトを日本が主導して作りつつ、世界とともに実現していくことが重要である。

情報社会の次の段階へ

人類社会は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会へと発展してきた。現在は、デジタルトランスフォーメーションをきっかけにして社会が大きく変化しようとしている。まさに第5段階の新たな社会「Society 5.0」へと突入しつつある。

デジタル革新の波

デジタル革新により、IoTによりデータが様々なところに集積するようになっている。これにより人間の観察ではわからなかったことが見えてくる。さらに、データやAIが核になって駆動し、個人の生活や行政、産業構造、雇用などをはじめ、社会のあり方を根本から変えることができるようになる。

ブロックチェーンなどの分散台帳技術は、効率的な取引や追跡可能性の向上に大きな影響を与える。改ざんすることはできないため、信用や信頼という概念において、新たな形をもたらしうる。こうした技術基盤は、社会に大きなインパクトを与えるようになる。

Society 5.0は「創造社会」

日本はもともと自動化、データ解析等で蓄積がある。デジタル革新により、都市の仕組みや社会の仕組みを、人々の生活や幸せの向上につなげていくことができると思う。

AIが定型的業務を代替する中で、社会に散らばる多様なニーズや課題を汲み取り、そのデータを共有していけば、新しい価値の創造につなげることができる。Society 5.0とは、創造社会であり、「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」である。

Society 4.0から5.0への変化

では、われわれは何を狙っていくべきか。ここでは「課題解決・価値創造」「多様性」「分散」「強靭」「持続可能性・自然共生」がキーワードとなる。

高度経済成長期、日本は高品質のモノを売ることで成功を収めてきたが、最近では、多様な顧客それぞれに対し、価値を生み出すことが求められるように変わってきた。

Society 5.0では、さまざまな制約から解放され、誰もが、いつでも、どこでも、安心して、自然と共生しながら、価値を生み出す持続可能な社会を目指していく。

制約からの解放を実現していく

Society 5.0では、様々な制約からの解放を実現することができる。

その1つ目は「効率重視からの解放」である。これまでは大量生産・大量消費による規模拡大や効率性を求めてきたが、これからは、ひとつひとつのニーズや課題に対応し、価値を創造することが求められる。

2つ目は「個性の抑圧からの解放」である。これまでは標準化されたプロセスに同化した平均的な生き方で良かったが、これからは多様な人々が多様な才能を発揮し、多様な価値を追及するようになる。

3つ目は「格差からの解放」である。デジタル化は放っておけば富や情報が一部に集中し、格差が拡大する。Society 5.0では、格差を放置せず、富や情報が社会で循環・分散される。

4つ目は「不安からの解放」である。多様化や分散化を進めることにより、社会の強靭性を高め、安心して暮らし、挑戦できる社会を目指す。

5つ目は「資源・環境制約からの解放」である。これまでは、資源を大量に消費するモデルに依存してきたが、これからは多様な地域で自然と共生しながら暮らせるようになる。

Society 5.0 for SDGs

社会課題の解決や自然との共生を目指すSociety 5.0は、国連が採択したSDGsの達成にも貢献できる。提言では、その「Society 5.0 for SDGs」の具体像として、次の9つの分野の姿を例示した。

Society 5.0時代の都市・地方

まず、Society 5.0時代の都市・地方については、多様なデータを共有することでスマートな都市が実現するとともに、人と自然が共生する自律した豊かな地方が実現する。その中で、多様なライフスタイルが尊重されるようになる。

Society 5.0時代のエネルギー

エネルギー分野では、既存のエネルギー網に依存しないオフグリッドも、エネルギー利用の選択肢に加わる。これにより、あらゆる場所において持続可能で多様な生活が可能になる。

Society 5.0時代の防災・減災

防災・減災では、組織の枠を越えて情報を共有することにより迅速な対応ができるようになる。これにより、災害時においても、持続可能なシステムを構築することが可能になる。

Society 5.0時代のヘルスケア

ヘルスケアでは、病気になってから治療することから、病気になる前のケア・予防へと移行する。また、個人が主体的に自分の健康を管理するようになる。

Society 5.0時代の農業・食品

農業・食品は、だれもが挑戦し、創造性を発揮しうる魅力ある自律的なものへと変わる。多様な経営体が参入し、これらは持続可能な分散型コミュニティの核となる。

Society 5.0時代の物流

物流面では、サプライチェーン全体の情報の共有や最適化が図られる。多様な顧客ニーズの発掘が進み、既存の物流事業の枠を越えて製品の補修・維持、組立・カスタマイズなど新たな価値を創造する物流が実現する。

Society 5.0時代のものづくり・サービス

ものづくりやサービスについては、自分の好みに合った多様なものが提供されるようになる。とりわけ、もの起点ではなく、サービスを起点としたものづくりが進む。

Society 5.0時代の金融

金融面では、一人ひとりに合った多様なサービスが提供される。また、社会全体に資金が配分され、経済的な自立や所得格差が解消される。

Society 5.0時代の行政

行政は、多様な主体に迅速にデータを共有し、適時・適切なサービスを提供するようになる。また、誰もがいつでも挑戦することを支援するため、セーフティネットが確保される。

Society 5.0の実現に向けて

以上が「Society 5.0 for SDGs」の9つの具体像である。Society 5.0は、1つの企業や国のみで成し遂げられるものではない。世界中のあらゆる主体とのパートナーシップにより、これを創りあげていきたい。

日本が目指すべき姿

ここまでSociety 5.0の姿について述べてきたが、その実現のためには課題も多い。Society 5.0を実現するためには、デジタル革新と多様性を融合することが重要である。しかし、日本はまだまだそのどちらも進んでいない。

日本が目指すべきは、デジタル革新と多様性の双方が実現しているプラットフォームである。デジタル革新のキーワードは「AI-Ready化」である。「AI-Ready化」にあたっては、AIとデータの力を最大限に利用し、創造性を発揮できるよう、人や組織が体制を整えることが重要である。多様な背景を持つ人々が日本で成功のきっかけをつかめるようにすべきである。

強みを活かし、課題を機会に変える

少子化、高齢化、地方衰退、財政悪化、エネルギー問題など課題は多くあるが、まずは日本の強みを発揮しつつ、課題解決を主導することが重要である。加えて、「Society 5.0 for SDGs」の国際標準化とプラットフォーム形成を進めるべきである。

変革のアクションプラン(1)

日本はSociety 5.0を実現する力を秘めているが、これまで社会で構築してきたものが障害になっていることも多い。これを2020年代中に、目に見える形で大きく変える必要がある。これを、「企業が変わる」「人が変わる」「行政・国土が変わる」「データと技術で変わる」の4つに分けて考える。

まずは「企業が変わる」である。高付加価値化ならびに産業の新陳代謝・構造改革を促進するとともに、働き方改革や日本型雇用慣行の見直しも進めなければならない。

変革のアクションプラン(2)

次は「人が変わる」である。文系・理系の分断からの脱却、リーダー人材の育成などが求められる。

変革のアクションプラン(3)(4)

デジタル・ガバメントの構築や、国土の分散化・多様性の推進などにより、「行政・国土が変わる」ことが求められる。

これは「データと技術で変わる」ということである。多種多様なデータを共有し、研究開発にリソースを投入することにより、この変革を加速すべきである。

日本のエネルギー問題 課題を乗り越えSociety 5.0へ

最後に、先ほど将来像をご紹介したエネルギー分野について、少々、具体的な現状と課題をお話したい。

エネルギー問題をめぐっては、2011年の東日本大震災を踏まえた政策の再構築とシステム改革が進められているが、引き続き課題は山積している。

2015年12月のパリ協定の採択を契機に、世界は脱炭素化へと舵を切った。それにもかかわらず、日本の化石燃料への依存は続いている。一次エネルギーの供給に占める化石燃料の比率は88%に達している。震災から8年が経ち、もはや世界に同情はない。エネルギーを転換するための具体的な取り組みが必要である。

一方で、原子力の再稼働がなかなか進んでいない。CO2を排出しないベースロード電源である原子力は、今後も活用していくことが不可欠である。安全性が確認された原子力発電所を、国民の理解を得て、迅速に再稼働していかなければならない。

再生可能エネルギーについては、FIT制度により、高コストで不安定な太陽光発電ばかりが拡大している。しかし、太陽光発電は、経済的に自立した主力電源とする方向性が求められる。太陽光発電の適地は偏在しており、需要地への配電網を確保することとともに、ネットワークの次世代化も課題である。

また、安価で安定した電力する供給ため、再生可能エネルギー以外の発電所も、高効率化を進めつつ、引き続き確保していく必要である。したがって、発電ならびに送配電の両分野で投資が必要であるが、足元で進む制度設計によって投資に対する十分なインセンティブが働くとは考えにくい。

これら課題を克服し、Society 5.0時代のエネルギーシステムを築いていくため、経済界は、積極的に問題提起を行い、エネルギー政策の議論に参画していきたい。経団連としては、本年4月を目途に提言を取りまとめ、発信する。

課題は国内外に山積しており、その解決に向けて、経団連は組織をあげて取り組んでいく。経団連のミッションはPolicy & Actionである。積極的に政策提言を行い、その実現に向けて主体的に行動していく。経団連は、「Society 5.0 for SDGs」を最重要課題に掲げ、経済社会の変革と明るい未来社会の創造をリードしていく。メディアの皆さまのご理解・お力添えをお願いしたい。

以上

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