会長コメント/スピーチ 記者会見における会長発言  定例記者会見における中西会長発言要旨

2019年1月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

【春季労使交渉】

本日の会長・副会長会議において、2019年版経営労働政策特別委員会報告(以下、経労委報告)を取りまとめた。主要なテーマは働きがい向上とイノベーション創出である。賃金引上げに関して、政府からの賃上げ要請にどう対応するかといったことばかり注目されるが、収益を拡大した企業は賃金引上げをしっかりと行うべきとかねてより明確に主張してきた。従来どおり、各社の事情に応じて、賃金引上げに前向きに取り組むよう呼びかけていく。とりわけ、働き方改革を促し、従業員のモチベーション向上につなげていくことが重要であり、賃金引上げは働き方改革の重要なテーマの一つである。

賃金は従業員への重要なメッセージであり、ただ金額が大きければ良いということではなく、働くことに対する市場での価値という意識を持つべきである。こうした点で、終身雇用をベースにした年功序列の賃金は今の働き方と合わなくなっている。人口が減少する中、生産性を向上しなければ、企業は非常に厳しい事態に直面する。そうした危機感をベースに経労委報告を取りまとめている。また、デジタル・トランスフォーメーションの時代には、企業活動の付加価値を不断に高めていかなければならない。デジタル化に伴い仕事内容も変わる。この変化に積極的に対応できるような処遇を用意することが重要である。これはSociety 5.0の推進にもつながることであり、今年の経労委報告の大きな特徴である。

春季労使交渉は、労使ともに転換点を迎えている。業界ごとの統一交渉の方が交渉上有利というのが労働組合側にはあるのかもしれないが、業界ごとに賃上げ水準を決め、横並びで交渉するという考え方は成り立たなくなりつつある。デジタル化が進む中、従来の業界区分は変わっていき、支払い能力も企業により異なるからだ。

なお、「官製春闘」とよく言われるが、そうは思っていない。もっとも政府としては、経済成長に向けて、GDPの6割を占める個人消費を盛り上げるべく様々な手立てを講じる必要がある。政府が経済界に賃上げを求めること自体は否定しないし、理解できる。

【エネルギー問題】

エネルギー問題については、2030年のエネルギー基本計画の実現、パリ協定に基づく削減目標の達成など課題が山積している。先のCOP24では、先進国と途上国の溝を埋めるという難しい課題はあったものの、会期延長の末、「パリ協定作業計画」が取りまとめられ、パリ協定を具体化するステップへと進むことができた。経団連も、現地に代表団を送り、グローバル・バリューチェーンを通じて温室効果ガス削減に取り組むことを、COP24の場で積極的に訴えた。

エネルギー問題については、資源エネルギー庁、経済産業省だけでなく、外務省、環境省、財務省なども関係する横断的な課題だという問題意識を持っている。政、官、産、学で真剣に議論していく必要がある。

近年の猛暑や自然災害の激甚化は地球温暖化が一因ともいわれている。温室効果ガスの削減は地球規模の課題である。翻って日本の現状を見ると、エネルギーの9割近くが化石燃料由来である。東日本大震災直後ならいざしらず、8年経過した段階で、国際社会はこの現実をよしとしてくれない。

原発の再稼働が進まないことも直近の課題であり、積極的に推進するべきである。安全性の議論が尽くされていても、地元の理解が得られない状況に立ち至っている。その説得は電力会社だけでできるものではなく、広く議論することが必要になっている。それにもかかわらず、原子力について真正面からの議論が足りていない。

仮に原子力をベースロード電源として使わない場合、長期的に見て、何が人類のエネルギー源になるのか、冷静に考えてみるべきだ。再生可能エネルギーだけで賄うことは到底不可能である。原子力技術を人類のために有効に使うべきである。

【サイバーセキュリティ】

サイバー攻撃は、いくら防御策を講じても、攻撃側は次々と新たな手段で攻めてくる。日本全体として、サイバーセキュリティ対策を進めることが必要である。経団連は、サイバーセキュリティ経営宣言を出し、政策提言を重ねてきた。政府もこれに呼応して取り組みを進めているが、攻撃側も進化している。これまで以上に声を大きくして、対策を呼びかけていく。

【会社法】

社外取締役の義務付け、役員報酬の開示などを軸に会社法の改正案が審議されている。反対はしないが法律で決める必要があるのか疑問である。会社は株主に対して責任を持つ。法律で縛るのではなく、株主が判断することではないか。ESG投資にはガバナンスが要件として入っている。ガバナンスがしっかりしていなければ投資の集まらない時代である。

以上