一般社団法人 日本経済団体連合会
【主要政策分野に係る当面の経団連の取組み】
現在、自民党総裁選挙が行われているが、経団連としては、安定した政治態勢を実現いただき、新政権と連携を図りながら、重要政策の実現に着実に取り組んでいきたいと考えている。
そこで、改めて、経団連としての主要政策分野に係る当面の取組みをご紹介したい。
第1は、イノベーションである。新設した「科学技術立国戦略特別委員会」において、今後の進め方をしっかりご議論いただいており、来年5月を目途に、わが国が目指すべき科学技術立国の姿と、そこに至る道筋を取りまとめる。
第2は、税・財政・社会保障の一体改革である。給付と負担のあり方を含めた一体的な改革は、わが国の社会保障制度を持続可能なものとするために不可欠である。国を挙げた議論を早期に開始する必要があり、国民会議的組織の設置を強く働きかけていく。また、経団連でも、税・財政・社会保障一体改革に向けた議論を本格化させ、本年度末を目途に、提言を公表する。
第3は、地域経済の活性化である。この鍵は、「新たな道州圏域構想」を視野に、広域連携を推進していくことである。政府においては、「地方創生2.0」に関し、経済団体等をはじめとした地域の多様な主体が、複数のプロジェクトに連携して取り組む広域リージョン連携を提唱している。今月の初めには、この推進に向け、地域の取組みを政策的に支援する具体的な枠組みも発出された。これはまさに経団連の考え方と軌を一にするものであり、政府においては、引き続き、着実な推進をお願いしたい。引き続き、経団連は、地方経済団体のご知見もいただきながら、政府と連携しつつ、「新たな道州圏域構想」の実現に向けて取り組んでいく。
第4は、労働改革である。成長産業・分野や地域経済の主な担い手である中小企業等への労働移動が、持続的な成長の実現には欠かせない。そこで、労働移動の推進策を、本年秋を目途に取りまとめ、「2026年版経労委報告」に反映させる。併せて、来年以降も、賃金引上げの力強いモメンタムを継続し、さらなる「定着」を図ることが不可欠との認識の下、「2026年版経労委報告」で、そうしたメッセージを打ち出していきたい。
第5は、民間経済外交である。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため、CPTPPの深化やメンバー国拡大、日メルコスールEPAの実現などのEPA/FTA戦略、そしてWTO改革・再構築を積極的に推進していく。この一環として、10月に通商政策に関する提言をとりまとめ、その提言を携えて、同月下旬にWTOを訪問する。また、成長著しいグローバルサウス諸国との連携強化にも取り組んでいく。既に、先月のTICAD9では、経団連として官民対話セッションに登壇し、10ヵ国1国際機関の首脳との面談も行った。また、インドのモディ首相来日の際、開催した日印ビジネス・リーダーズ・フォーラムでは、両国経済関係のさらなる強化に向けた共同声明を採択し、私から日印両首脳に報告した。今後、年内を目途に、「グローバルサウス委員会」において、夏季フォーラムでの議論等を踏まえ、グローバルサウスとの連携強化にあたって重視すべき優先事項について検討し、取りまとめていく。
これらの主要政策分野における取組みを支える基盤として、安価で安定的なエネルギー供給の確保が不可欠である。先日は女川原子力発電所を視察したが、脱炭素電源の活用をはじめ「第7次エネルギー基本計画」の具体化と着実な実現に向け、フォローアップを継続していく。
以上が当面の活動のロードマップである。「入れ子構造」を成している課題解決に向けて、全体最適の視点から総合的に取り組んでいく。併せて、「中長期の視点」と「日本全体の視点」を大切にし、「将来世代への責任を果たす経団連」として、積極的に活動を展開していく。新政権が誕生した際には、上述の主要政策の実現を精力的に働きかけていく所存である。
【自由民主党総裁選】
〔自民党総裁選候補者が打ち出す経済政策の中で、経団連が具体的に期待する政策とその理由について問われ、〕いずれか1つの政策ではなく、税・財政・社会保障の一体改革、イノベーション推進、自由で開かれた国際秩序の維持・強化のための民間経済外交等、待ったなしの重要政策課題が山積している。足もとでは、国民が一番関心を有すると考えられる物価高対策や、製造業を中心に影響の出始めている関税措置対応といった政策に加えて、「成長と分配の好循環」、ひいては持続的な経済成長の実現に資する諸政策に関して、中長期的な観点からの骨太の議論も期待したい。また、山積する政策をスピーディーに実行するため、新総裁には、まず党内の一致結束を図り、野党とも連携して安定した政治態勢を確立いただくことを期待したい。
〔安定した政治態勢の確立という観点から、野党との連立拡大の可能性に対する見解について問われ、〕内外に重要課題が山積している状況下で、政策をスピーディーに実行していくことが重要であり、強力なリーダーシップが求められている。自民党・公明党を中心に安定した政治態勢が確立されていくことを期待する。各種政策の迅速な実行・実現の観点から、連立の拡大は必要と考えており、いずれそうした方向に進んでいくのではないか。なお、連立の拡大に際し、各党の政策のスタンスをよく見極めた上で、長期的な連立となり、安定した政治態勢が確立されることが重要である。
【選択的夫婦別姓制度】
〔自民党総裁選の各候補者が選択的夫婦別姓制度に慎重姿勢を示している状況に対する経団連の受け止めについて問われ、〕いずれの候補者も党内の一致結束を重視している中で、当該テーマについても、指摘されているような状況になっているのではないかと推測している。総裁選の議論では、党内状況を踏まえ、バランスを取った論戦がなされているとの印象だが、経団連としては、選択的夫婦別姓制度に対するスタンスは全く変わらず、次の国会でしっかりと審議していただきたい。
【科研費】
〔第7期「科学技術・イノベーション基本計画」の論点(案)には、科研費(科学研究費補助金)について、経団連が求める早期倍増の方針は盛り込まれず、「拡充」という記述に留まったことへの受け止めと、来年5月目途に取りまとめ予定の提言との関連性を問われ、〕第7期「科学技術・イノベーション基本計画」の計画期間が2026年度から5年間にわたる中、来年5月目途に取りまとめ予定の提言を公表するまでの間にも、日頃の様々なパイプを通じて、経団連としての問題意識や、これまでの各種提言を打ち込んでいきたいと考えている。現在の論点(案)に科研費に係る数値目標が盛り込まれなかったこと自体は残念だが、「拡充」という表現が記載されたことは一歩前進と受け止めている。提言活動を通じて、科研費の「拡充」を実効性あるものとし、倍増という目標に向かっていくことが重要であり、まだ十分可能性は残されていると認識している。
【WTO改革】
〔米国が国内志向を強める現状にあって、日本の推進するWTO改革の実現可能性について問われ、〕これまでの成り行きをみると、難題と認識している。しかし、日本が、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を掲げて、リーダーシップを発揮し、WTO改革を求める意義は依然として大きいと考えている。日本のWTO改革に対する行動が、世界各国の賛同を呼び、歩調を合わせていくような流れにつながるのではないかとの希望を抱いている。
【日本生命出向者による不適切な手段での情報取得事案】
〔日本生命の社員が出向先の内部情報を無断で持ち出していた事案に関して、出向社員が「会社のミッション」と自覚して行ったケースにおける社内処分のあり方について問われ、〕不適切な手段で情報を取得した事案であり、お客様、報道関係の皆様、そして広く社会にご迷惑とご心配をおかけしていることに深くお詫び申しあげる。当該事案を非常に重く受け止めており、再発防止策に全社を挙げて取り組み、信頼回復に努めてまいりたい。出向社員が「会社のミッション」と自覚していた可能性もあると思うが、正しい捉え方ではなかったと考えており、そうした社員への処分は情勢が判明した都度行っていく。同時に、組織としての対応に課題があったことも重く受け止めている。本部・役員を含めた責任も当然あるため、社内規定等に基づき、適切に対応を進めていく。
〔筒井会長が日本生命の代表取締役会長を務めていた期間に当該事案がみられることに対する受け止めを問われ、〕約6年前に遡って当該事案がみられるという意味で、私が代表取締役会長を務めていた期間と重なっている。私自身は指示をしていないが、足もとにかけて、最低6年間にわたって、当該事案を看過して、是正できなかったことは、私自身として重く受け止めなければならないと考えている。
〔日本生命に加えて第一生命でも同様の事例が判明したことに対し、生命保険業界全体における出向先の情報持ち出しの慣習の広がりに関する認識について問われ、〕業界全体において、ご指摘のような事案の有無について、コメントはできず、かつ何ら情報を持ち合わせていない。今回の事案はあくまで日本生命の社内のことであり、再発防止に向けて取り組んでいく。
〔日本生命の社長就任時に掲げた「最大・最優の保険会社を目指す」という目標の現時点での達成状況について問われ、〕現時点で「最大・最優」となっているかというと、様々な面から総合すれば、そこには到達していないと認識している。「最大」の観点からは、規模が大きいことは事実ではあるが、様々な指標・側面からみて最大でないものもある。また、「最優」の観点は、会社のクオリティと密接に関連するが、現在問題となっているコンプライアンスがその基盤を成しており、「最優」とはなっていないと認識している。
【副業・兼業】
〔情報漏洩や競業行為のリスクに注目が集まる中で、経団連としての副業・兼業に関する考え方を改める意向があるかを問われ、〕副業・兼業の有する経済・社会的な意味合いや、日本経済の置かれた環境を踏まえると、やはり副業・兼業の促進は引き続き必要である。一方で、日本生命の事案は副業・兼業ではなく、出向であるが、こうした情報漏洩等の問題が副業・兼業においても発生する可能性があることは事実である。不適切な事案が発生しないよう予防のあり方について、今後よく勉強して考えていきたい。
【日本生命のフジテレビへのCM出稿】
〔日本生命が近日中にフジテレビへのCM出稿を再開する方針であることについて問われ、〕フジ・メディア・ホールディングス、フジテレビとも個別にコミュニケーションを取りながら、再発防止への取組み状況を確認していた。同グループ内の人権の問題、サステナビリティ、リスク管理といった観点で、状況改善への進捗・実施が一定程度図られてきていると認識したため、CM出稿再開の決定に到った。
【伊藤隆敏氏逝去】
〔伊藤隆敏・米国コロンビア大学教授の訃報に対する受け止めを問われ、〕伊藤教授は、国際金融、財政・金融政策といった分野で傑出した業績を残された。日本の経済政策に対して、様々な提言を行い貢献され、関連する要職も歴任されたと認識している。長年の経済学、日本経済の発展に対するご尽力に心から敬意を表するとともに、哀悼の意を表したい。