一般社団法人 日本経済団体連合会
【為替相場の動向】
〔足もとの円安水準が物価や企業活動にもたらす影響に加え、財政・金融政策に対する注文について問われ、〕足もとの外国為替を巡る動きの背景としては、短期的な投機筋の存在が大きいと理解している。急激な為替の変動は、企業活動や国民生活に大きく影響する。このため、為替の変動に左右されにくい経済構造の構築が基本となる。換言すれば、強固なファンダメンタルズの構築のため、「投資牽引型経済」を定着させ、潜在成長率を引き上げていくことが最も重要である。
なお、円安基調の下で、物価を少しずつ押し上げるトレンドが形成されている事実は否めない。企業活動の面では、収益にプラスに働く場合もあるが、長期的な国力全体を考えると、適度に円高方向に進んでいくことが重要であろう。日銀の金融政策について、政策対応が後手に回る、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」ではないかとの懸念が一部にあることは承知しているが、日銀は物価、賃金引上げの動き、さらに国際情勢を冷静に見極めて適切に判断されていると思う。
今後は、金利・為替も含め、市場の信認を引き続き確保できるかが重要なポイントである。例えば、令和8年度補正予算の編成に際した高市総理の発信をみると、市場の信認確保を相当意識していると認識している。ただし、今後、消費税減税や防衛費の拡充等、財政の出動要請が高まることが想定される中、市場の信認確保に向けた発信が継続的かつ粘り強く行われることが不可欠である。
〔さらに、足もとの為替水準が続いた場合、国民生活へのマイナスの影響が大きくなるリスクがあるかと問われ、〕中東情勢を受けた原油価格の動向や消費税減税を実施した場合の影響等、様々な要因が複雑に絡み合ってくる。為替という独立した要因だけをみれば、物価の基調を少し押し上げる方向に作用すると認識している。
〔為替相場の動きに物価が左右されにくい経済構造の確立には、積極的な国内投資による供給力の増大と潜在成長率の引上げが必要かと問われ、〕円安基調が定着すると、輸入物価が高止まりすることで、価格転嫁が進み、国内物価水準も高止まりしやすくなると認識している。こうした経済構造の原因として、これまで国内投資が十分行われず供給力が不足していることも挙げられる。
【日本成長戦略】
〔日本成長戦略への期待や懸念、そして2040年度までに官民投資規模を370兆円超とする目標が示されるという報道への所感を問われ、〕現時点で、日本成長戦略の具体的な内容について承知していないので、詳細なコメントはできない。しかし、官民連携の下で、国内投資を推進するという大きな方向性は官民双方で共有できていると思う。
今後提示される「官民投資ロードマップ」の下で、民間投資を力強く推進していくことが基軸である。政府が、民間投資を後押しするための環境整備に取り組むことが重要である。同ロードマップの策定によって、民間投資の予見可能性が高まり、各企業が中長期的な投資判断を行えるようになることを期待している。経団連としても、投資の主体は企業と認識しており、「投資牽引型経済」を粘り強く呼びかけ、国内投資拡大に取り組む決意である。
〔さらに、日本成長戦略の下での官民投資目標額との比較において、2040年度に200兆円という従来の国内投資目標をどのように認識しているかと問われ、〕現在報道されている官民投資目標額についてコメントは差し控えるが、従来の国内投資目標に関して、今後「官民投資ロードマップ」の内容が明らかとなる中で、官民の意思疎通を図りながら、官民投資実施に向けた連携のあり方が検討されていくと思う。一連の検討を通じて、従来の国内投資目標を上回る結果につながることを期待するとともに、そのようなマインドで国内投資の拡大に取り組むべきである。
【日中関係】
〔日商等の経済団体で訪中の動きがみられる中、経団連としての対応を問われ、〕他団体で、少人数での訪中が実施されていることは承知している。経団連も、6月23日~25日に中国・大連でサマーダボスが開催されるのを機に、久保田副会長が大連と北京を訪問予定である。以前から申しあげている通り、様々なルートから日中関係の改善に向けた糸口を模索するという思いで引き続き取り組んでいく。
【裁量労働制】
〔裁量労働制を適用する日立製作所において、月の時間外相当が一定時間を超えると裁量労働制の適用から外れるという社内ルールのもとで労働者による労働時間の過少申告があったと指摘する一部報道を踏まえ、経団連としての見解を問われ、〕(同社が法律以上に労働者保護に厚い社内ルールを設けていることに着目し)経団連が裁量労働制の実施企業の好事例として同社を推薦してきたことは事実である。報道された事案については、個社の事案に関わることであるため、回答は差し控える。一般論として申しあげると、労働時間を把握することは、労働時間規制を遵守する観点から極めて重要であり、使用者は適切に取り組まなければならない。
一方で、厚生労働省の裁量労働制の実態調査によると、裁量労働制適用労働者については約8割が満足と回答しており、適用労働者の約9割が業務の遂行方法・時間配分等について「裁量がある」と回答している。こうした調査結果を踏まえても、多くの企業では裁量労働制は適正に運用されていると理解している。もちろん、ご指摘の報道に加え、労働側から制度濫用について懸念の声が上がっていることも重々承知している。
今後厚生労働省で実態調査を実施予定と聞いており、実態を正確に把握した上で、引き続き適切な処遇確保と長時間労働防止等の濫用防止措置を組み込んだ見直しを検討することが、裁量労働制を拡充していく上で不可欠と考えている。
〔さらに、裁量労働制の下では、業務量の調整が機能せず過重業務になり得る、労働組合が十分に機能していない可能性があるとの指摘について見解を問われ、〕先に言及した厚生労働省の実態調査を踏まえれば、多くの企業では裁量労働制は適正に運用されていると認識している。こうした中、今後の厚労省の調査結果を待ちたいと思う。その結果を正確に把握した上で濫用防止措置をしっかり組み込みながら、裁量労働制を拡充することが不可欠と改めて申しあげたい。
日本が直面している労働供給制約の克服、さらには柔軟で自律的な働き方を促進していく上で、裁量労働制の拡充が極めて重要と認識している。濫用防止措置に対する関係各方面の意見を十分に踏まえながら、今後も裁量労働制の拡充を主張していきたい。
【日産自動車の株主総会】
〔日産自動車の株主総会で会社提案による社外取締役の再任議案が否決されたことへの受け止めを問われ、〕個別企業の経営判断や株主総会の結果について、コメントする立場にはない。ただ、株主が企業のガバナンスや取締役会の構成等について従来以上の強い関心・コミットメントを示してきていることのひとつの表れと受け止めている。
会社提案が否決されることは近年増加しており、議案に対する反対比率も上昇傾向にあると認識している。いずれにしても、企業は株主や投資家と丁寧に対話することが大切である。経団連も既に提言している通り、形式的ではない、実効性のあるコーポレートガバナンスに向けた建設的な対話の促進が重要である。建設的な対話に際しては、これまで配当に偏重した企業経営であったことも省みるべきと考えている。「投資牽引型経済」を定着させるためには、利益や資源の配分を配当として還元するだけでなく、労働分配率の向上や設備投資・研究開発投資等の拡大を含めて、中長期の企業価値向上を実現する観点から、対話を促進することが一層必要となろう。
【「生保レディ」の呼称変更】
〔生命保険協会が「生保レディ」の呼称を「生保ナビゲーター ソナエルジュ」に改めると発表したことに関連し、「生保レディ」の働き方には日本の旧来のジェンダー規範が反映され、性別に基づく役割の固定化が見られるとの指摘があることへの所見を問われ、〕生命保険業界において、「生保レディ」という呼称の下で、これまで女性の社会進出が進み、営業職員の多大な貢献により、国民に安心が提供されてきたことは紛れもない事実と認識している。一方で、価値観や働き方が多様化する中で、「生保レディ」という呼称は、性別を前提にしたものであることは否定できず、性別を前提としない呼称への移行を前向きに受け止めている。なお、かつては男性管理職の下で多くの女性営業職員が働くというマネジメントが行われていたが、昨今は女性営業職員の中から管理職に登用される者も増加しているというのが実態である。
〔さらに、「生保レディ」は、歩合給中心で身分が不安定であることに加え、教育訓練に係る費用や採用コストが抑制されてきたという見解があることへの所感を問われ、〕戦後の高度経済成長期を通じて、女性営業職員に歩合給を中心とする処遇を行ったことは、生命保険を広く国民に普及させ、安心を提供する上で1つの大きな原動力になったと認識している。時にはマイナスの側面が発現し、不祥事につながったこともあるが、その都度是正を図りながら、今日に至るまで取り組んできた。なお、教育訓練に係る費用を抑制してきたという指摘については、全く逆と認識している。すなわち、生命保険会社の人件費の多くを営業職員の育成経費に割いており、相当程度投資を行ってきたというのが事実である。また、営業職員の採用について、新聞・テレビ等で大規模な広告を展開するよりも、紹介によって広告費という意味での採用コストの抑制自体は実現してきたかもしれない。しかし、採用後の育成コストを多大にかけてきたというのが実態と認識している。