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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 地球規模の低炭素社会の実現に向けて ~地球温暖化政策に関する提言~

2010年9月14日
(社)日本経済団体連合会

地球規模の低炭素社会の実現に向けて
~地球温暖化政策に関する提言~
概要    本文

日本経団連は昨年12月、2050年の世界の温室効果ガス排出半減目標の達成に向け、日本の産業界が技術で中核的役割を果たすことをビジョンとして掲げた「低炭素社会実行計画」の基本方針を公表した。これに応え、既に多くの業種が実行計画を公表あるいは策定中である。経団連としては、実行計画の参加業種の裾野がさらに広がるよう、引き続き働きかけていく所存である。

こうした中、政府は本年6月、総合的なエネルギー安全保障や地球温暖化対策の強化などを基本的視点に据えた「エネルギー基本計画」、ならびに、グリーン・イノベーションを戦略分野の一つに掲げた「新成長戦略」を閣議決定した。われわれは、低炭素社会実行計画の着実な推進により、政府の施策をより実効あるものとすることができると確信している。

その一方で、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、再生可能エネルギーの全量買取制度といった、経済や雇用に深刻な影響を及ぼしかねない施策が、政府において、相互に関連づけられることなく、別個に議論されていることは強く懸念される。

こうした観点を踏まえ、わが国の今後の温暖化政策のあり方について、下記の通り提言する。

1.温暖化対策における技術の重要性

  1. (1) 地球温暖化対策と成長戦略の両立の鍵を握るのは技術である。経済活動の水準を維持・向上させながらCO2排出を抑制するためには、省エネルギーやエネルギーの低炭素化が不可欠である。また、低炭素技術・製品の国内外市場への普及により、新たな成長を達成することが可能となる。そこで、低炭素社会実行計画は、(1)企業活動における最先端の低炭素技術の最大限の導入、(2)消費者に対する世界最高水準の製品・サービスの開発・実用化、(3)海外への技術・ノウハウの移転、(4)革新的技術の開発、の4本柱で構成されている。これは、エネルギー基本計画の方向性とも軌を一にするものである。
    現在の環境自主行動計画」と同様、本実行計画をポスト京都における政府の温暖化対策に明確に位置付けることによって、低炭素社会の実現に大きな役割を果たすことができるものと確信している #1。経団連としては政府の協力も適宜得ながら、実行計画のPDCAサイクルを推進していきたい。

  2. (2) 産業界は、生産段階はもちろん、商品・サービスについても、世界最高水準の低炭素化を実現し続けていく決意である。そのためには、世界最高水準を達成している産業界や企業がペナルティを課せられることなく、さらなる技術開発とその普及に注力できる環境が求められる。革新的技術を開発・普及させ、得られた利益を新たな技術開発につなげていくという「技術創造サイクル」が確立されなければならない。

2.国際的なイコールフッティングの確保

  1. (1) 日本企業が得意とする世界最先端の技術で製品・サービスを生産し、国内外に提供することは、世界の低炭素化に貢献すると同時に、わが国の成長にも寄与する。こうした産業が国内から撤退を余儀なくされることのないよう、ものづくり国家としての日本の立地競争力を高め、海外からの投資をも呼び込み、日本を世界の低炭素型産業の集積地とするような戦略が求められる。
    しかし、高い法人税負担等に象徴されるように、わが国は国際的に見て高コスト構造となっている。加えて、誤った地球温暖化対策により、さらに競争条件を歪められれば、日本の強みを活かした国際貢献ができないばかりか、経済や雇用にも悪影響を及ぼす。

  2. (2) 2020年の温室効果ガスの中期削減目標については、90年比25%削減ありきではなく、エネルギー基本計画との整合性を確保しつつ、国際的公平性、実現可能性、国民負担の妥当性の観点から、透明で国民に開かれた議論を改めて行う必要がある。
    特に、国際的公平性については、まず、米中を含むすべての主要排出国が参加する公平かつ実効性のある単一の国際枠組を構築することが不可欠である。その上で、中期削減目標に関しては、過去の削減努力を反映するとともに、いわゆる「炭素リーケージ」を防止する観点から、少なくとも先進国間においては限界削減費用が同等となることが重要である #2
    また、実現可能性については、新技術の開発から普及まで長期間を要することから、低炭素社会実行計画のように、最先端技術(BAT:Best Available Technologies)の最大限の導入を目指したボトムアップ型の目標設定が必要である。

3.LCA的視点の重視

  1. (1) 低炭素社会を実現する上で、太陽光発電、高効率照明、次世代自動車などの機器、さらにはこれを支える高機能素材などの大幅な生産増大が見込まれる #3。しかし、政府の温暖化対策は、産業部門、民生部門、運輸部門といった縦割りで構成され、部門毎の排出抑制を目指したものとなっている。
    例えば、政府の一部で検討されている国内排出量取引制度が導入された場合、政府の計画や国民のニーズに応えて低炭素製品、それに不可欠な素材・部品等を大量に供給しても、政府が割り当てた排出枠を超えてしまう企業は、排出枠の購入あるいは罰金というペナルティを余儀なくされる。

  2. (2) 温暖化対策にあたってはLCA(Life Cycle Assessment)的視点を重視し、むしろ、温室効果ガスの削減に貢献する産業を戦略的に育成・強化していく必要がある。

4.国際貢献を評価する新たな仕組みの構築

  1. (1) 新成長戦略では、日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガスの削減量を13億トン以上とすることが2020年までの目標として掲げられた。先進国の技術を途上国に普及させていく国際的なインセンティブ・メカニズムとしては、国連のCDM(クリーン開発メカニズム)が存在するが、手続きが煩雑で多くの時間とコストを要するなどの問題を抱え、今後の利用拡大には限界がある。
    こうしたことから、経団連では、提言「グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して」(2010年3月16日)において、CDMを補完する制度として、日本の技術による海外での温室効果ガス削減分を、わが国の貢献分として評価できる独自の制度を新たに構築するよう求めた。

  2. (2) その後、政府において、二国間オフセットメカニズム #4 の検討が開始されるとともに、「地球温暖化対策技術普及等推進事業」 #5 が実施されていることを高く評価しており、産業界は引き続き積極的に協力していく所存である。
    今後、二国間オフセットメカニズムの早期実現に向けて、温室効果ガスの削減量計測の方法論の確立、途上国との二国間約束に向けた政府間協議の加速化、日本の取組みに対する国際的な理解の醸成、などが求められる。

5.革新的技術開発の加速化

  1. (1) 2050年の世界の温室効果ガスの半減目標を達成するためには、ブレークスルーとなる革新的技術の開発と普及が欠かせない。このため、エネルギー基本計画では、新たなエネルギー技術革新ロードマップを策定することとされている。
    革新的技術の開発は、低炭素社会実行計画における4本柱の取組みの一つとなっており、各業種において様々な取組みが検討されている。

  2. (2) 今後、革新的技術の開発促進に向け、現在の研究開発促進税制の恒久化・拡充を図るとともに、総合特区制度等も活用し思い切った規制改革を視野に入れつつ、低炭素技術の大規模な実証実験を着実に進めていく必要がある。

6.新たな政策手法の導入について

  1. (1) 現在、政府においては、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、再生可能エネルギーの全量買取制度の導入が検討されている。省エネが進み排出量削減余地が少ないわが国において、こうした政策は、国民生活や雇用、産業競争力に多大な影響を与える一方、炭素リーケージの招来や、革新的技術の開発や普及のための原資を奪うなど、様々な問題がある。わが国企業は優れた低炭素技術を活かしたものづくりを通じ将来にわたり温暖化防止や成長に大きな貢献できる。しかし、こうした制度導入の議論そのものが、期待収益率を低下させ、国内投資の抑制要因となっている側面は否定できない。制度の安易な導入には反対である。
    とりわけ、現下の経済情勢のなかで、経済対策が喫緊の課題であるにもかかわらず、企業活動を抑制しかねないこれらの政策を検討すべきなのか、政策の優先順位を十分吟味する必要がある。
    特にキャップ・アンド・トレード型の国内排出量取引制度は、(1)企業によるLCA的視点からの取組みの障害となる、(2)企業間の公平・効率的な競争を阻害する、(3)排出枠の購入で目標が達成できることから研究開発を停滞させる、といった弊害がある。加えて、国がトップダウンで企業の排出枠を割り当てることで、官の権限の肥大化や行政コストの増大を招くため #6、わが国においては導入すべきではない。
    地球温暖化対策税については、CO2の排出抑制効果や国の地球温暖化対策に必要な所要財源などを勘案し税率を設定する、と説明されている。しかし、CO2抑制効果を持つ水準の税率とは、換言すれば国民生活や産業競争力に大きな影響を与える税率を意味する。とりわけ、日本経済の先行きが依然として不透明な中、企業の新たな負担を伴うような政策は採るべきではない。また、国の地球温暖化対策には現在でも1兆円以上の予算が充てられており #7、さらなる国民負担を課した上でなお追加的財源が真に必要なのか、明確に説明できるのか疑問である。
    再生可能エネルギーの全量買取制度については、経済の低炭素化を行う上で、必ずしも費用対効果の高くない再生可能エネルギーをどこまで支援するのか、追加的な国民負担、経済全体や電力多消費産業への影響をも踏まえた慎重な議論が望まれる。

  2. (2) 産業界がとりわけ懸念するのは、省庁縦割りの中、これら3つの施策に関する制度設計が別々に行われていることである。
    エネルギー基本計画には、「政策の遂行に当たっては、その実施に伴う受益と負担の関係を、国民に分かりやすい透明な形で明らかにし、国民や事業者の理解と信頼を確保することが重要である」と明記されている。3つの施策全体としての効果と費用・負担をまず分かりやすく明示し、透明で開かれた国民的な議論に付すべきである #8

7.おわりに

冒頭述べたとおり、経団連の呼びかけに応え、多くの業種において低炭素社会実行計画の策定が進んでいる。低炭素社会実行計画により、同一業種の企業が連携した主体的取組みを進めることで、目標やベストプラクティスの共有、LCA情報の共通化、さらには海外への技術移転など、各業界において個々の企業による取組みを越えた削減効果が生じる。

わが国が低炭素社会の実現を目指していく上で、本実行計画を軸に、官民が一体となった取組みを推進していくことが効果的である。同時に、成長戦略が目指す「強い経済」の実現にも貢献するものと確信する。このため、経団連としては、温暖化対策全般に関する政府等との対話を強化するなど、従来にも増して密接な連携を図っていく所存である。

以上

  1. 政府が閣議決定した京都議定書目標達成計画において、「日本経団連環境自主行動計画は産業界における対策の中心的役割を果たしている。自主的手法には各主体がその創意工夫により優れた対策を選択できる、高い目標へ取り組む誘因があり得る、政府と実施主体双方にとって手続コストがかからないといったメリットがある」とされている。
  2. コペンハーゲン合意を受けて各国が国連に提出した目標値を限界削減費用で比較した場合、日本の476ドルに対し、米国は60ドル、EUは48~135ドルとなっている(地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算)。
  3. エネルギー基本計画では、2030年までに2007年比で、家庭部門の排出削減を53%、業務部門の排出削減を57%、運輸部門の排出削減を37%とする試算を行っている。また、2030年段階でBAU比5.8億t-CO2の削減が見込まれているが、このうち47%に当たる2.7億t-CO2が、低炭素製品等の使用段階での削減によるものとされている。
  4. 日本が得意とする低炭素技術・製品の海外での普及を通じた排出削減量を、二国間約束等を通じて日本の削減量として独自に認定する仕組み。EU等においても、同様の取組みが進められている。
  5. 技術を通じた海外貢献に関する新たな仕組みづくりに資するべく、途上国における具体的な排出削減プロジェクトの発掘と形成の促進を行うF/S調査事業。
  6. 実際に制度が導入されているEUでは、排出権価格が乱高下するため、研究開発投資や設備投資といった経営判断の有効な指標となっていない。
  7. エネルギー関連税制全体の国民負担額は4.6兆円に及ぶ。
  8. 本年7月、政府より4,600億~6,300億円規模の負担を伴う再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠が公表されたほか、8月末には地球温暖化対策税の導入に向けた提案がなされた。また、こうした提案とは別に、排出量取引の制度設計に関する議論が一部の審議会で行われている。

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