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Policy(提言・報告書) 都市住宅、地域活性化、観光 活力溢れる地方経済の実現 ~活性化に向けた経済界のアクション~

2015年2月10日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.地方経済の活性化に対する基本スタンス

現在、多くの地方では、少子化の進行と若年人口の都市部への流出という人口減少に加え、工場の海外移転等による地場産業の弱体化、中小企業の後継者・担い手不足などがあいまって、極めて厳しい状況に直面している。人口減少に伴って、地方経済の規模の縮小、産業基盤の脆弱化がもたらされる一方、生活面に関しても自治体財源の減少と行政基盤の低下を招き、活力ある生活圏の維持を困難なものとしている。このままでは、現時点で余力のある地方ですら、人口流出・減少に拍車がかかり、さらなる経済規模の縮小を呼ぶという負のスパイラルに陥ってしまい、地方経済の再生はおぼつかないものとなる。国内GDPの約7割を占める地方経済の活性化なくして、わが国経済の再生はない。長期停滞にピリオドを打ち、日本全国にアベノミクスの成果を届けるためにも、改革を加速していく必要がある。

こうしたなか、政府は「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を取りまとめ、2060年に1億人程度の人口を確保する中長期展望を提示するとともに、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中で、地方経済の活性化に向けた政策パッケージとして、数値目標も含めた具体的なアクションプランを示した。その基本的な方向は、経団連が先般公表した長期ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」での認識と軌を一にするものであり、高く評価できる。この戦略の着実な実行を通じて、将来にわたって豊かさを享受できる社会へと結実させていかなければならない。すなわち、地方における「しごと」(産業)の再生・創出を通じて新たな「ひと」の流れ・交流を生み出し、この「しごと」の創出・「ひと」の流れが利便性の高い「まち」(都市)の構築を促すという好循環の持続的形成へとつながるよう、国と地方、首都圏と地方都市の連携により、成長戦略などの各種施策等とも有機的に結び付けながら、官民総力を挙げた取り組みが不可欠である。

とくに重要なのは、政府からの適切な人的支援の下で、地方の実情を最もよく知る住民・地方自治体・地元の経済界をはじめ、大学・研究部門・NPOなど各地方経済圏の担い手自身が自立し、主体的に改革に取り組むことである。今後、地方版総合戦略を策定する際には、社会・産業構造の変化、マーケットの需要動向はもちろん、産業の集積状況や自然環境・文化といった地域に顕在・潜在する資源・特性などを十分に踏まえる必要がある。

国としても、全国一律ではなく、関係省庁連携による情報・財政・人的支援を駆使し、実効性の高い戦略に挑戦する意欲的な地方をより先行して支援するとともに、各地方の取り組みを後押しし、創意工夫を凝らした施策を迅速かつ柔軟に実施できるよう、地方分権を一層推進すべきである。同時に、戦略の実行・成果の管理にあたって数値目標を定めるなど、チェック体制を構築することも重要である。

経済界は、設備投資や研究開発投資の活発化、積極経営を通じたイノベーションの推進、地方での雇用機会の拡大に最大限貢献するのはもちろん、総合戦略を実効あるものとするため、下記2.で示すアクションを実行に移し、国・地方の取り組みを促進していく。併せて、各地方での自主・自立的な戦略の策定を促していく観点から、下記3.のとおり、「しごと」の創造、「ひと」の交流、「まち」づくりに関して重点的に取り組むべき施策に焦点を当てて提言する。

2.経済界のアクション

今般の総合戦略策定を踏まえ、まずは以下の項目を中心に、各企業の取り組みを一層促し、経済の好循環を生み出すとともに、活性化に資する具体策についてさらに検討を深める。

(1)経済団体間の連携・交流強化

わが国経済全体の成長につながる施策を展開していくためにも、全国(首都圏)で展開する経済団体と地方・地域に密着した経済団体同士が幅広い分野で連携・交流し、現状と抱える課題への相互理解を深めていくことが不可欠である。

経団連では、地方経済の実態を把握し、地域の実情にあった政策を政府等に働きかけていく観点から、地方経済団体(北海道経済連合会、東北経済連合会、中部経済連合会、北陸経済連合会、関西経済連合会、中国経済連合会、四国経済連合会、九州経済連合会)と会合を定期的に開催し、各地の政策課題や政府に対する要望等をめぐって率直に意見交換するとともに、地方の中核企業、研究所、大学などの視察、知事等との懇談も併せて実施している。

また、観光委員会や道州制推進委員会などにおいて、各地方経済団体や観光推進機構、地方自治体の協力の下、シンポジウムの開催などを通じて交流を深めるとともに、魅力ある観光地域づくりに向けた広域連携のあり方、地方分権改革の一層の推進方策などについて議論してきている。

こうした活動を継続する一方、将来的には、地方経済の活性化に資する具体的な取り組み・協働につなげていくため、まずは、商工会議所などとの懇談の機会を設け、地方の中堅・中小企業が抱える課題等の共有に努める。

(2)異業種間連携の推進

地方の特色や独自性を発揮しやすい産業として、農業や観光への期待が高まっており、その一層の活性化が必要である。とくに相互に親和性・関連性の高い分野間で連携・融合を促進して高付加価値化を図るなど、相乗効果を生み出していく視点が欠かせない。

経団連では、かねてよりその重要性を認識し、2013年には「農林漁業等の活性化に向けた取り組みに関する事例集」を取りまとめ、企業の取り組みを広く周知し、積極的な連携を呼びかける一方、観光関連産業や観光地域づくりに取り組む関係者に対して、「観光関連産業の成長産業化と競争力ある観光地域づくりに関する報告書」を公表し、新たな挑戦を後押ししてきた。

今後は、例えば、農業体験や農家での宿泊等を実施することに加えて、農業研修、栽培・育成方法に関する講習の実施等を「商品」(サービス)として提供するなど、サービス分野と組み合わせていくことや、介護施設において農作業をリハビリなどに活用していくことも一案である。経済界としても、企業からの技術やノウハウなどの提供により、多様で厚みのある事業・サービスの創出に努める。

また、観光地域づくりに協力する。具体的には、地域の担い手の意見を十分踏まえながら地域間連携を促すとともに、各地域の特徴・資源を活かした魅力ある観光商品の開発に取り組む。

さらに、地方経済の活性化に資する斬新な取り組みを周知するとともに、その成果を地方経済団体や商工会議所との連携等を通じて、広く経済界・地方へと波及させていく。

(3)経団連と農業界との連携プロジェクトの創出

上記(2)で示したように、消費者ニーズに沿った付加価値の高い農産物・加工品の生産のためには一農業者にとどまることなく、経済界をはじめ連携を促進していくことが重要となる。これまでも経済界と農業界との連携は行われてきたものの、一部の農業者・企業レベルにとどまってきたのが実態である。

こうしたなか、JAグループと経団連は、双方の立場・価値観の相違を踏まえつつも、生産性向上、付加価値増大といった共通の利益目標を達成するため、「経済界と農業界の連携強化ワーキンググループ」を立ち上げ、現在、「生産」、「物流・加工」、「国産農畜産物需要拡大(販売・消費・輸出)」の3分野において、具体的な連携プロジェクトの創出に向けた取り組みを加速している。これまでの一部の事業者・農業者間による「点」での取り組みから、業界横断的な「面」レベルの取り組みへと深化させることで、より広範な地域に活力が浸透していくものと期待される。

今後、早期に各連携プロジェクトを創出する一方、規制改革を働きかけるなどプロジェクトが推進しやすい環境づくりに取り組む。加えて、事業化に到った好事例の全国展開も検討する。

(4)経団連観光インターンシップの地方大学での開講

観光立国を目指す上では、担い手となる高度な観光人材、とくに地域に密着して地域の資源を見出し、その振興を図ることができる人材の育成が必須である。

経団連では人材開発に具体的に協力するため、2011年から立教大学観光学部、2014年からは首都大学東京と連携して、単位取得可能な正規の授業として観光分野に関するインターンシップ・プログラムを実施してきている。同プログラムは、運輸・宿泊・旅行業といった狭義の観光関連企業にとどまらず、幅広い企業の参加の下、実習先企業全社から事前の講義を行う、学生が企業・大学関係者が集まる場で実習の成果を発表する機会を設けるなど、現場での実習を有意義なものとするための工夫を凝らしており、すでに受講生は100名近くにのぼっている。

今後は内容の一層の充実を図るとともに、地域の固有の資源を活かした観光地域づくりや観光ビジネスの革新を担う人材を各地で育成するため、各地方経済団体に対し、地域の大学との同プログラムを踏まえた人材育成に取り組むよう働きかける。

(5)地方における起業の促進

地域経済の自立的・持続的な発展のためには、地域の中核企業の競争力強化と特色ある新たな産業の創出が重要となる。

経団連としても、国・地方・地方経済団体をはじめ、起業促進に取り組む組織との連携を強化する。具体的には、大企業と地方のベンチャー企業との交流による企業間のマッチングを推進するとともに、経済産業省が設立した「ベンチャー創造協議会」、自治体による「スタートアップ都市推進協議会」等の活動を後押しし、起業家教育の充実を図る。

(6)大企業OBの地方への派遣

地方の中小企業では、人材の確保・定着・育成に加え、事業承継が深刻な課題となっている。

こうした課題に対応していく上でも、大企業のOBが有する技術・ノウハウや実務経験を地域の製造業の技術開発・向上、中小企業の経営サポート、地域資源を活用した特産品の開発や販路開拓、さらには地方大学における産業人材の育成に役立てていく視点が重要である。

経団連としては、会社人生の早期からセカンドキャリアについて考える研修を実施していくことの重要性を周知・啓発し、企業OBが地方の中小企業やNPOなどを含めて様々な機会で活躍する社会的な機運を高めていく。また、公益財団法人産業雇用安定センターの更なる機能強化を政府に求めるとともに、その活用を呼びかけていくことで、企業OBと地方の中小企業の円滑なマッチングを図る。

(7)企業の地方拠点強化

企業の地方拠点の強化は、地方に新たな人の流れを創出する上での重要課題である。すでに外資系企業を含め各企業においては、下表のように、創業地への本社機能等の移転、生産拠点・研究開発拠点との一体化などの理由から、自発的に地方拠点を拡充してきている。今般の総合戦略、また与党の2015年度税制改正大綱においても、地方拠点強化税制の創設など、税制面で後押しする方針も示されている。こうした流れをより力強いものとし、企業の拠点のあり方を見直す機会を拡大していけるよう、経団連としても当面、地方支分部局への許認可権限の全面移譲などの環境整備に取り組む。

さらに、企業の拠点強化や移転誘致に積極的な地方自治体と連携を取りながら、内外への周知を図るとともに、地方へのスムーズな進出・拡大および定着がなされるよう、必要に応じて国・地方自治体に対して、規制改革を働きかける。

企業名内容規模



2011コマツ東京都から創業地の石川県に総合研修施設を移管、教育研修機能を一元化約150名
2012エム・エス・ケー
農業機械
東京都の本社を北海道に移転
2014ケンコーコム東京都の本社を物流拠点である福岡県に移転約100名
2014アクサ生命東京都の本社の重要機能を北海道に移転、札幌本社を設立(予定)約400名
2014YKKグループ東京都の本社管理部門を生産拠点である富山県(黒部市)に一部移転予定約230名
2015東洋ゴム大阪府の本社を技術センターのある兵庫県に移転(予定)。経営機能を集約約350名
2012NECトーキン東京都の本社を主要4事業の集まる宮城県に移転・集約
2012東邦アセチレン東京都の本社を生産拠点のある宮城県に移転。営業・技術本部も集約約100名

2013東芝横浜の半導体研究開発機能を主力生産拠点である三重県(四日市)に集約約300名
2014日本ゼオン川崎の光学フィルム・医療器材の研究開発機能を富山県(高岡)に集約約70名
2014NTTソフトウェア横浜・横須賀の4事業所を横浜に集約。コスト削減とアイデア創出を目指す
2014ダイキン工業国内の技術開発拠点(堺、滋賀、淀川)を大阪府(摂津市)に集約約1,000名
出典:各社ホームページ、プレスリリース等に基づき作成。
規模は情報があったもののみ掲載。

(8)地方採用の拡大(勤務地等限定正社員制度の普及)

一般的に、大企業の多くは、地域の事業所や工場等で勤務する従業員・作業員を現地で採用している。厚生労働省の調査でも、5割以上の企業が勤務地等を限定したいわゆる「多様な正社員」の雇用区分を設けており、地方における雇用機会の創出にも寄与している。

こうした限定正社員制度は、優秀な人材の確保や従業員の定着等に効果的であり、今後は、地方における採用を拡大する観点からも同制度の普及に向けた取り組みを促進していく。

(9)働き方の見直しによる地方とのつながり強化

都市部の居住者が地方へ移住する際、移住先として「仕事で赴任した地域」、「配偶者の出身地」、「実家の近く」、「旅行で訪れた場所」など、過去に何らかのつながりがある地を選択する場合が多い。観光や転勤など現地を訪問・経験する機会を創出していくことが、将来的な二地域居住や移住への動きに結びつくと考えられる。

経団連としても、働き方の見直し、休暇を取得しやすい職場環境の整備などを進めることでワークライフバランスを実現し、地元への帰省や観光等を通じて、地方とのつながりを深められる機会を創り出していく。

3.国・地方一体となった政策の推進 ~地方版総合戦略の策定に向けて

以下では、「しごと」「ひと」「まち」に関し、経済界として、より重点的な取り組みを求める施策の具体例を示す。各地方は地方版総合戦略の策定にあたり十分に考慮するとともに、国も各地方の実情に応じて、政策パッケージで示した支援策の効果的な活用とさらなる規制改革の推進を徹底されたい。

(1)「しごと」の創造

地域に魅力的な「しごと」がなければ、中長期的に地域に人を根づかせるのはもちろん、活力の維持すらおぼつかなくなる。人口減少と高齢化がより一層進展するなかでも持続的な発展を目指すのであれば、地域外からの経済資源を導入することに頼るのではなく、地方・地域の中核を担う中堅・中小企業の競争力強化、農業や観光など地域資源の有効活用に資する施策に注力していかなければならない。特に、医療・介護を含めたサービス産業の振興・拡充は、若年者や女性の雇用創出にもつながっていく。

さらに、地方における起業の促進、Wi-Fiなど高速通信インフラの整備、地域ブランドの発信やプロモーション強化に向けた取り組みなども重要である。

  1. 地方の中核企業の競争力強化
    地方の中核となる企業が地方経済の再生、自主的な発展の原動力となるよう、まずは地域経済の担い手が目指すべき方向を共有した上で、地域の産業集積・状況を踏まえながら、企業間連携や産業クラスター間連携を進め、より強みのある分野に磨きをかけていく。その際、行政による関係者間の合意形成の促進、コーディネーター(企業・人)によるリーダーシップの発揮など、こうした取り組みが地域でうまく稼働するための仕組みを構築する。さらに、地域に精通した地域金融機関同士の広域的なネットワーク機能を強化し、ビジネスマッチングや企業の資金需要に応えていく必要がある。

    <具体的な施策>
    (ア) 「地域における産業振興ビジョン」の作成
    地域の中核企業の参加の下、国が行う企業間取引データの分析に基づき地域が目指すべき方向性を共有した上で、地域産業の活性化策を策定。
    (イ) 産業集積の再構築・ネットワーク化の促進
    企業、大学や公設試験研究機関、金融機関などのネットワークを強化し、産業クラスター内の連携体制を再構築。
    (ウ) 企業間連携をより推進する手法の開発、技術提案型商談会等の実施
    (エ) 産学双方の積極的な情報開示による連携強化
    研究機関間の共同研究等を通じた情報交流の促進。
    (オ) 金融機関の融資の柔軟化
    次代を担う地域産業育成に向けた長期融資の拡大。
    (カ) 創業支援に取り組む地方自治体への支援
    スタートアップ都市推進協議会等の活動の促進。
  2. 医療・介護サービスの充実
    地方においても豊かな生活を維持するとともに雇用を確保していく上で、地方の経済・社会を支えるサービス産業の育成が重要である。とくに高齢化が先行して進展する地方では、医療・介護に関連するサービス需要の拡大が見込まれており、公的保険サービス以外にも高齢者見守りサービスや家事・外出などの生活支援、健康管理、疾病予防のための指導など、民間による新しいサービスの創出・提供が重要である。そのためには、地域の実情に合った地域包括ケアシステムを推進するとともに、ICTやロボット技術など最先端技術の活用による生産性向上、遠隔医療・在宅介護に向けた規制緩和など、官民挙げて体制づくりに取り組む必要がある。

  3. 地域資源の有効活用
    農業・観光分野は、総合戦略でも「6次産業市場10兆円」「訪日外国人旅行消費額3兆円」など高い目標が設定されているように、経済の牽引役として今後大きな成長が見込まれている。その潜在力がいかんなく発揮されるよう、各地方での自主・自立的な戦略の下、農業に関しては、経営感覚あふれる担い手の確保、農地集積による経営規模の拡大と農地の有効利用の促進、6次産業化・輸出の促進、観光については、地方への訪日外国人旅行者の誘致強化、地域資源を活用した観光地域づくりなど、抜本的な改革を断行していく必要がある。

    <具体的な施策>
    【農業分野】
    (ア) 企業による農業参入の促進
    農業生産法人の構成要件について、企業を含め農業関係者以外でも2分の1を超えて出資できるよう、規制緩和の実施等。
    (イ) 新規就農の促進
    新規就農希望者と地方農家のマッチング強化、農業未経験者への研修制度の整備、就農支援に向けた融資制度の拡充等。
    (ウ) 農地中間管理機構を通じた農地集積の推進
    (エ) 6次産業化・高付加価値化の推進
    (オ) 農林漁業成長化ファンド(A-FIVE)の有効活用
    出資を受ける6次産業化事業体の資本構成要件の撤廃等。
    (カ) 農産物・食品の輸出拡大
    輸出促進に向けた制度・体制整備、官民連携の輸出戦略の策定。
    【観光分野】
    (キ) 魅力ある観光地域づくりの一層の強化
    地域ブランド強化や独自ビジネスモデルの地域展開に向け、自治体が知財等の専門家をアドバイザーとして招聘する際の補助等。
    (ク) 文化財の保護と利活用
    維持管理費の不足から十分に活用されていない自然景観や伝統文化等の保全・利活用に向けた取り組みの推進(ナショナルトラスト活動等)。古民家等の宿泊施設や商業店舗への転用に向けた建築基準法や旅館業法等の見直し等。
    (ケ) 地方空港の活用とCIQ体制(*)の充実
    (コ) 地方における外国語対応の強化
    通訳案内士制度の見直し、ボランティアガイドの登録と研修の充実、無料Wi-Fiサービス提供エリアの拡充等。
    (サ)免税手続店舗導入の促進

    (*) CIQ:Customs、Immigration and Quarantine(税関・出入国管理・検疫)

(2)「ひと」の交流促進

「しごと」の創出と併せて、地方から都市部への若年人口流出に歯止めをかけ、地域内で人材が定着・循環する仕組みを構築する必要がある。

まずは人口流出の主たる要因とされる大学進学時および就職時において、若年者が地元に残るように、例えば地元大学・地元企業への進学者・就職者の授業料等を免除・返還するなど、大胆かつ的確な対応を図る。

また、都市部から新たに人を呼び込む施策も同時に実施すべきである。具体的には、企業の地方拠点拡大に向けて地方分権を推進する、中央省庁等から企画力のある人材を派遣する、さらに移住に向けた情報提供等を拡充することが重要である。

<具体的な施策>

(ア) 人口の流出抑制・定着に向けた施策

  • 地方国公立大学の入学金・授業料の免除・減額等
    高校生が地元の国公立大学に進学した際には、入学金、授業料を減免する、あるいは地元企業等に就職した時点での免除等。
  • 国立大学の機能分化と特色ある教育の実践
    各大学単位で「研究重点型」「教育重点型」「地域貢献重点型」等への機能分化を進め、「地域貢献重点型」大学においては、地域の中核企業の現状・規模も加味しながら、地域の産業界が求めるニーズに合致した人材を育成。
  • 地元企業でのインターンシップの実施
  • 地元大学におけるキャリアセンターの有効活用
    地元の有力・中堅企業を学生に紹介するとともに就職を促す。

(イ) 人的交流の拡大

  • 企業の地方拠点強化に向けた環境整備
    一層の税制優遇措置と地方への権限・財源・人員の移譲を図る地方分権改革の推進。
  • 中央省庁等からの企画力のある人材の派遣
    地方創生人材支援制度の推進。
  • 産業雇用安定センターの更なる機能強化
    助成金の拡充や同センターへの出向職員の増員等による斡旋機能の強化。
  • 移住の支援
    求人や住居・生活に関する情報などの一括提供。移住する上で必要となる手続き等をワンストップで可能とする体制の整備。

(3)人口減少を前提とした「まち」づくり

人口減少下においても、人々が雇用の場を得て、豊かな生活を送る上で必要なサービスを享受するためには、生活の基盤となる「まち」(都市)の再活性化が不可欠である。

大都市においては、世界的な都市間競争を勝ち抜き、グローバル化に対応しうるビジネス環境を整備することで、日本経済全体を牽引していく一方、地方で一定規模の経済圏を有し中核となる都市においては、高度で多様なサービス提供を維持するため、住宅、商業施設、病院などの公共施設を中心部に集約したコンパクトシティ化を推進すべきである。生活の利便性を高め持続的な成長を可能にするにしても、各地域の中核をなす産業の実情なども踏まえた「まち」の将来像を明確に描いた上で、高速交通ネットワーク、鉄道、バス、LRTなど真に必要なインフラを厳選して整備すべきである。この場合、例えば公共交通サービスの維持が難しい地域で、オンデマンドバスの運行といったソーシャルビジネスに取り組むNPO法人等を積極的に活用することも一案である。

また、人が住まない地域の拡大に伴い、今後、空き家や廃校になった学校をはじめ本来の用途で使用されなくなった公共施設が一層増加すると見込まれる。既存住宅の流通市場を整備することと併せて、地域内でのコミュニティを確保する観点から、これら空き家等の宿泊・福祉施設等への転用を含めた積極的な活用を検討すべきである。

なお、上記の中核となる地方都市を中心として、都道府県といった従来の行政単位の枠組みを超えて、周辺自治体との間で連携し、活力ある地域経済の基盤を確立していくことも重要である。

(4)地方分権改革の推進

国、地方の行政システムは国民・企業をはじめ、あらゆる主体にとって、その活動の土台となるものである。地方が自らの選択と責任と主体性をもって、独自の成長戦略を実践できる体制へと変えていけるよう、将来的な道州制への移行、地方支分部局の縮小・廃止も視野に入れつつ、地方への権限・財源・人員の移譲を徹底するなど、地方分権改革を重点的に推進すべきである。その際、例えば農地転用に関わる権限の移譲など、地方が自主・自立的な戦略に基づく改革を推し進めるため、新たに創設される地方創生特区等を有効に活用する視点も重要である。

企業の地方拠点の強化を促していくにしても、政府自らが率先・先行して分権改革を推進し、範を示すべきである。まずは、ビジネス展開上必要なすべての行政手続きを地方で完結できるよう、政府関係機関・機能の完全地方移転、地方支分部局への許認可権限の全面移譲を早急に実施すべきである。

以上

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