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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 「第五次環境基本計画 中間取りまとめ」に対する意見 -パブリック・コメント募集に対する意見-

2017年9月7日
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境エネルギー本部

本年8月に公表された「第5次環境基本計画 中間取りまとめ」に対し、下記のとおり、意見を提出いたします。環境基本計画は、閣議決定文書として、関係各省等の今後の取組みの指針となる重要な計画であると認識しております。環境政策は、広く経済活動や国民生活に係わるものであり、答申の取りまとめにあたっては、下記意見はもとより、多様な立場・意見への配慮をお願いいたします。

1.極端な気象現象(3ページ 1つ目の○)

冒頭、十分な科学的説明がないまま、極端な気象現象と地球温暖化との関連性を類推させ、温暖化による環境への不可逆的な影響への懸念を示す記述がある。第1章は、事実関係について、客観的に記述する箇所と承知しており、当該記述が適切とは言い難い。今後、答申の策定に際しては、事実関係に係る記述や引用、総合政策部会としての見解を丁寧に書き分けていただきたい。

とりわけ、気候変動については、種々の不確実性が介在し、さらなる科学的知見の蓄積が求められているところ、事実関係を記述するにあたり、細心の注意を払っていただきたい。

2.プラネタリー・バウンダリー(3ページ 4つ目の○)

「プラネタリー・バウンダリー」との考え方を参照し、人間が安全に活動できる範囲を超えるレベルに達しているとの分析を紹介した後、当該記述を根拠に一定の方向性が示された。著名な研究であるという理由だけで、一研究をIPCCやUNEPといった国際機関の報告書と同列に扱い、かつ、例示にすぎない当該研究から、一定の方向性を導きだすことは適切ではない。答申では、「プラネタリー・バウンダリー」の引用を控えるべきである。

とりわけ、この考え方を基づき、具体的な数値目標を掲げ、現在に向けてバックキャストして硬直的に進捗管理することがないようにしていただきたい。

3.主要国の動向(4ページ 4つ目の○)

中間取りまとめにおいて、G7やG20等の最新の首脳会合の結果を記載することなく、2016年のG7伊勢志摩首脳宣言や2017年のG7環境大臣会合のコミュニケを記載することに疑問無しとしない。答申において、米国の政権交代後の動向を紹介するのであれば、G20首脳会合に差し替え、G20としての合意内容、米国とそれ以外の国のコミットにつき記述することが適当である。

また、米国のパリ協定離脱に関連して、「今後の環境政策の展開の基本的考え方」に対応する章等に、米国の気候変動・エネルギー政策が地球温暖化対策にかかる国際協調に与える影響等を総合的に分析し、戦略的に対応していく必要がある旨を、明記すべきである。

4.エネルギー関係(5ページ 5・6つ目の○、6ページ 3つ目の○)

わが国のCO2排出量の約9割は、エネルギー起源であり、地球温暖化対策とエネルギー政策は表裏一体の関係にある。中間取りまとめでは、エネルギーに関する記述は環境側面に特化した簡略的な記述にとどまるが、答申では、エネルギー政策の要諦であるS+3Eに言及し、約束草案のベースとなっている2030年のエネルギーミックスの概要を紹介した上で、原子力をはじめとした各エネルギー電源について、3Eのバランスをとってしっかりと記載すべきである。

例えば、石炭火力のみを切り出した記載は誤解を招く可能性がある。電力由来のCO2排出削減は、石炭火力といった特定電源の対策だけで進めるのではなく、原子力をはじめとした非化石電源の活用や、発電設備の高効率化などの対策を3Eの観点を踏まえて行っていくものであり、石炭火力のみを特記することは国の計画として相応しくないため、見直すべきである。関連して、「電力由来CO2排出量に占める石炭火力発電の割合が引き続き増加傾向にある」との説明は、関係業界の認識と異なるため、事実関係を確認し、正確に記載されたい。

また、再生可能エネルギーについて、その最大限の導入をわが国として目標に掲げているとの記述には、国民負担を最大限抑制するという主旨を加筆し、エネルギー政策との整合を図る必要がある。加えて、再生可能エネルギーの導入拡大に固定価格買取制度が果たした役割を記載する場合は、同制度は同時に、電気料金の引き上げをもたらし、事業活動や家計に大きな影響を与えていることは、わが国にとって重要な課題であるため、明記しなければならない。

5.地球温暖化対策に関する中期目標と長期目標(6ページ 3つ目の○)

中期目標と長期目標の位置づけの違いを、簡略化されてはいるが、明確にした点を評価する。2050年長期目標の3条件・3原則#1は、地球温暖化対策に取り組むにあたり極めて重要なポイントであるため、答申には省略せずに明記すべきである。また、政府として、地球温暖化対策計画に沿って、まずは中期目標の達成に尽力する旨を強調するとともに、中期目標が2030年のエネルギーミックスが前提となっており、わが国として最大限とり得る対策を積み上げたものである点を追記すべきである。

#1 我が国は、パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していくこととする。

6.世界の経済社会の状況、我が国の経済社会の状況(7~8ページ)

国内外の経済社会の動向を環境側面から記述しているが、答申での記述に際しては、関係省庁と認識について丁寧に調整いただきたい。事実関係はもとより、「既存のガバナンスでは対処が困難な課題も増えつつある」「新たな社会価値軸が創出される可能性」「経済社会システム全体の再設計等の次なる行動が始まっている」「従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会構造が根底から転換しつつある」等の認識について、記載の妥当性を確認するとともに、記載が妥当な場合は、国民に分かりやすく説明いただきたい。

また、日本全体の社会経済にとって、人口減少が大きな社会課題となっており、少子化や地方からの人口流出に対して、国全体で対策を講じることが求められている状況下において、人口減少が環境を改善すると捉えられる表現は、誤解を招く可能性がある。答申では、人口減少に限らず、環境、経済、社会の統合的向上を目指すことを謳っているにも係わらず、環境の改善のために日本が抱える重要課題を容認していると誤解されることがないよう、表現を工夫されたい。

7.目指すべき持続可能な社会の姿の定義(8~9ページ)

目指すべき持続可能な社会の姿を「環境・経済・社会の統合的向上」であると定義づけた点は、本基本計画の重要なポイントであり、評価する。答申では、全体を通して3者のバランスに配慮した記述となるよう、丁寧に記述すべきである。

例えば、9ページのはじめの文中では、「持続可能な社会」を、「環境・経済・社会の統合的向上を目指し」としながらも、「低炭素も達成する『循環共生型社会』」や「環境・生命文明社会」と改めて説明するなど、論理構成が複雑で、環境の側面を強調していると誤解されかねない。答申では、「持続可能な社会」は、「低炭素・循環・自然共生の調和を図りながら、環境・経済・社会のそれぞれの価値の統合的向上を目指す社会」とするなど、経済の側面にも配慮して持続可能な社会を定義づけたことが国民に広く理解されるよう、分かりやすく記述する必要がある。

また、9ページの3つ目の○に、「環境面から対策を講ずることにより、経済・社会の課題解決にも貢献することが可能となる」との記述がある。環境政策の理想ではあるが、答申では、環境面からの対策が、経済・社会に悪影響を与えることが無いよう留意すべきである点も併記されたい。

8.汚染者負担の原則(10ページ 2つ目の○)

「汚染者負担の原則も考慮し排出者に負担を課すことによる外部性の内部化」という記述について、答申に明示的カーボンプライシング(排出量取引や炭素税)を盛り込むとの意図であれば、経団連は一貫して反対の立場であることを付言したい。排出量取引制度や炭素税をはじめとする規制的手法は、企業に直接の経済的負担を課し、経済活力に負の影響を与えるのみならず、企業の研究開発の原資や、社会の低炭素化に向けた投資意欲を奪い、イノベーションを阻害するものである。

そもそも、「汚染者負担の原則」が地球温暖化問題、あるいはCO2を対象に含むかどうかについて、「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書」(2017年4月 経済産業省長期地球温暖化対策プラットフォーム)では、対象とならないとの意見の紹介があるなど、統一的な政府見解は示されていないと思われる。

9.環境・経済・社会の統合的向上に向けた取組の具体化
(11ページ 6つ目の○、14ページ 4つ目・5つ目の○)

環境・経済・社会の統合的向上に向けて、複数の異なる課題をも統合的に解決するような、相互に連関し合う横断的かつ重点的な枠組を検討することの意義は大きい。

しかしながら、分野横断的かつ相互に連関するが故に、その枠組の検討には、トレードオフをはじめ、多くの課題が伴うことが予想される。重点戦略の検討にあたっては、他省庁をはじめ、多様な主体間の連携が重要であり、国の他計画や政策目標との整合性を確保し、丁寧に議論を進める必要がある。

また、14ページの重点戦略(1)の中にある「経済における環境の主流化」や「金融のグリーン化」との説明は、環境の側面のみを重視した施策の方向性を示す表現ととれるため、答申においては、3者の統合的向上を目指すとの方向性が理解されるよう、丁寧に記述すべきである。

10.「持続可能な開発目標(SDGs)」(12ページ)

SDGsを活用する意義については認めるものの、その書きぶりについては、誤解のないように注意すべきである。

(1)(1つ目の○)

「SDGsのゴール・ターゲット間の関連性について、環境が全ての根底にあり、その基盤上に持続可能な経済活動や社会活動が依存している」との考えが示されている。これは、一研究の報告書の記載に過ぎず、SDGsの説明ではないため、答申においては引用を控えるべきである。同様に、かかる考え方が、プラネタリー・バウンダリーの考えと一致するとの説明も、SDGsと関係のない事項であるため、答申では削除することが適当である。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文において、SDGsの目標とターゲットは、統合された不可分のものであり、持続可能な開発の三側面(経済、社会、環境)を調和させるものであるとされている。「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」(2016年12月SDGs推進本部決定)においても、環境、経済、社会の統合的な向上に言及した環境基本計画や地球温暖化対策計画が2030アジェンダに沿った取組と評価しており、SDGsの考え方の活用を採用するのであれば、この点を丁寧に記載すべきである。

(2)(2つ目の○)

トレードオフへの対処は、重要な視点であり評価できる。SDGsのゴール・ターゲット間に限らず、低炭素・循環型・自然共生の環境施策間でのトレードオフや、環境・経済・社会の間でのトレードオフなど、あらゆる事象について想定される問題である。答申においては、これらのトレードオフに真摯に向き合い、丹念にバランスを図る必要がある旨を、一層丁寧に記載し、具体的な施策に反映させるべきである。

(3)(3つ目の○)

SDGsはバックキャスティングの考えに基づいているとの説明があるが、2030アジェンダに、バックキャスティングの考えに基づいているとの記載はない。付属のレファレンスガイドには、バックキャスティングに関する記載があるが、検討アプローチの一例として紹介されているに過ぎないため、答申では、当該記述を削除すべきである。

(4)(4つ目の○)

検討のアプローチについて、答申では、わかりやすく以下のとおり修正するとともに、環境あるいは経済・社会のいずれかの側面のみを強調しているとの誤解が生じないように、丁寧に説明すべきである。

(中間取りまとめにおける記載)

  • 環境配慮を経済社会システムに織り込む観点
  • 環境保全上の効果を最大化することを前提として、諸課題の関係性を踏まえて、経済・社会的課題を同時に解決することに資する効果をもたらせる観点

(修正案)

  • 経済・社会活動を通じて、環境保全を実現する観点
  • 環境保全を通じて、経済・社会活動を実現する観点

11.環境政策の原則・手法(12ページ 第3章 環境政策の原則・手法)

環境リスク対策、自然保護、温暖化対策等、問題の種別により、適用すべき原則・手法は異なるはずである。答申において、原則・手法を記載するならば、一括りにせずに、課題ごとに丁寧に記載すべきである。

また、環境、経済、社会の統合的向上を目指すうえでは、従来の環境政策の原則のみならず、経済合理性や費用対効果、エネルギー政策におけるS+3Eの重要性等、考慮すべき重要な視点がある。例えば、予防的取組みについて検討する場合にも、経済性の視点は欠かせない。こうした視点が重要である点を明記し、環境政策の立案や評価を行うべきである。

12.ESG投資等(15ページ 2つ目の○、7ページ 6つ目の○)

投資は、財務情報・非財務情報等に基づき、投資家の判断と責任において自主的に実施されるものであり、ESG投資や環境分野にかかる市場への投資を政府として義務付ける、あるいは規制により投資を誘導するようなことは避けるべきである。「環境分野に係る市場への投資等に振り向ける」といった表現は、国が半ば強制的に特定市場への投資を誘導するととれる表現であるため、答申においては避けるべきである。また、「多くの資金」とのあいまいな表現は、国の計画の表現としてふさわしくないため、控えるべきである。

加えて、資源生産性や炭素生産性の向上を目指すことが重要であるとの説明があるが、当該指標は、マクロ経済情勢、産業・エネルギー構造、資源腑存状況、資源・エネルギー価格、対策の実施状況といった国情の影響を受けるものであり、そうした国情を考慮することなく単純に数字の多寡を評価することは適当ではないことから、KPIとしての妥当性に疑問がある。答申において、当該指標について言及する必要がある場合には、国情を踏まえる必要がある点を強調すべきである。

13.国土のストックとしての価値の向上(15ページ(2))

人口減少・少子高齢化、気候変動、エネルギー問題、グローバル競争、インフラの老朽化等様々な課題を踏まえ、国土のあり方を検討すべきとの方向性は、重要な視点であり評価したい。中間取りまとめからは、例えば、地熱発電や洋上風力等の再生可能エネルギー導入のための土地や海の利活用、事業撤退により生じたブラウンフィールドの再生や活用等の視点が、必ずしも読み取れないため、こうした視点を踏まえた議論をお願いしたい。

14.広域的な資源循環(16ページ 2つ目の○)

資源循環について検討する場合、対象となる物質の性状や地域の特性のみならず、全体の効率や経済性を考慮し、最適な循環圏を設定することが重要である。循環圏の広域化が、人口減少に伴う自治体サービスの水準維持の課題解決に資するというケースも考えられる。今後の検討においては、全体の効率や経済性の視点も十分考慮いただきたい。

15.将来を支える技術の開発・普及(17ページ (5))

研究開発は、環境・経済・社会の統合的向上を図る上で重要であり、産学官連携の重要性について、重点戦略においても言及してはどうか。特に長期を想定した研究開発であるほど、民間が担うことは難しくなり、政府や公的研究機関の役割が重要になるほか、民間の参画を促すインセンティブについても検討していく必要がある。

また、第1部においてIoT、AIやビッグデータ等の「Society 5.0」や「第4次産業革命」の共通基盤技術について触れられており、こうした技術革新を環境分野のイノベーションにつなげていく視点が重要である。答申においては、「Society 5.0」や「第4次産業革命」について言及し、具体的な施策につなげていく必要がある。

加えて、3つ目の○にある、「枯渇性資源に依存する社会から自立・分散・循環・ネットワーク型社会に移行するため」との記述は、どのような社会に移行することを説明したものかわからないため、「持続可能な社会に移行するため」との表現に見直すべきである。

16.国際貢献(17ページ 4つ目・5つ目の○)

「地球環境保全に向けた国際的なルール作りに積極的な貢献を行い、国際社会における我が国のリーダーシップを発揮する」という記述は、重要な点である。その際、実効性と国際的な公平性を確保することが重要であり、答申に追記すべきである。

わが国の温室効果ガス排出量の世界シェア、わが国技術の国際貢献余地を踏まえ、「海外での取組みを通じた温室効果ガスの削減」は、わが国ならではの貢献であると明記したうえで、国として、グローバルな視点で温室効果ガスの大幅削減を目指して取り組む重要性を、強調すべきである。また、具体例として、廃棄物発電、生活排水処理が挙げられているが、省エネ対策や環境リスク管理等、記載を充実してはどうか。

また、国際的な取組みを推進するにあたり、イコールフッティングの視点、カーボン・リーケージの留意は、重要な要素であるため、これらについて明記すべきである。

以上

意見募集ページ(環境省)
http://www.env.go.jp/press/104419.html

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