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Policy(提言・報告書) 国際協力 戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて -2018年度版-

2019年3月19日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.インフラシステム海外展開に係るわが国政府の取組と官民連携

わが国政府は、インフラシステムの海外展開を成長戦略・国際展開戦略の柱と位置づけ、「インフラシステム輸出戦略」(2013年5月)を決定し、2020年に約30兆円#1のインフラシステム受注を成果目標として設定している。

同「戦略」では、施策の柱として「官民一体となった競争力強化」を掲げ、首脳会談や国際会議等の機会を捉えた強力なトップセールスや戦略的対外広報、各国政府・機関との関係構築、各種支援ツールの充実等の具体的施策を推進するとともに、その進捗状況を踏まえ、「インフラシステム輸出戦略」を毎年度改訂し、各種施策の拡充を図っている。

昨年度以降、円借款の更なる迅速化等公的金融の改善、海外社会資本事業への関連独立行政法人等の知見の活用、他国との連携による第三国等でのインフラ協力推進、産業分野別のインフラ輸出戦略の策定等を実施している。経団連は、これらの政府の積極的な取組みを高く評価するとともに、政府との連携強化を通じて、支援策の充実と有効活用、受注実績の拡大等を図ってきた。

引き続き、官民一体となり、世界のインフラ需要を戦略的に取り込み、わが国の経済再生の確実な実現につなげるとともに、各国の経済・社会基盤強化や地域の安定と繁栄の確保、更には国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)達成のため、各国・地域におけるハード・ソフト両面での質の高いインフラ整備に積極的に貢献していくことが重要である。

とりわけ、インフラ整備をめぐる各国企業との競争が激化する中、約30兆円の成果目標を確実に実現すべく、わが国政府には、「経協インフラ戦略会議」の下、インフラ輸出戦略を改訂しつつ、省庁・関係機関の連携・協力と官民連携の一層の推進を通じて、戦略的かつ効率的に関連施策を拡充・実施し、重要な案件受注等の具体的成果につなげることを強く期待する。

Ⅱ.インフラシステム受注拡大に向けた要望

1.日本政府・関係機関への要望

(1)日本政府・各省庁等
  1. 予算措置の充実と制度改善の推進
    インフラシステムの海外展開の更なる推進には、「経協インフラ戦略会議」を司令塔として、政府開発援助(ODA)や公的機関による支援等の経済協力ツールを充実・総動員するとともに、これらの相互連携による総合力発揮が重要である。そのため、外務省予算はじめFS事業費、招聘・人材育成費等の各省予算、関係機関への出資金、運営交付金、分担金・拠出金等のODA事業費の十分な確保と戦略的な活用が引き続き不可欠である。

    同時に、インフラ輸出に係る各種施策の活用状況や課題等を定期的に検証し、引き続き、ニーズに応じて必要な制度改善を講じ活用拡大を図るべきであり、関係省庁・機関が推進する支援制度・プログラム等についても、ニーズに応じた改善・拡充が求められる。

  2. 国際競争力の強化
    各国企業との受注競争が激化する中、インフラシステムの海外展開を一層推進していくためには、多彩で強力なトップセールスや戦略的かつ的確な情報発信・対外広報等とともに、ホスト国の実状やニーズを踏まえた様々な課題を総合的に解決できるトータルソリューションの提供等による競争力強化が重要である。

    かかる観点から、既に、電力、鉄道、情報通信、宇宙、農業・食品、環境、リサイクル、医療、港湾、空港、都市開発・不動産開発、水、防災、道路の分野において、注力すべき重点分野や技術領域を整理し、今後の官民一体となったインフラ輸出展開の方向性等を示した海外展開戦略が官民連携で策定されたことを評価している。また、鉄道、空港、港湾、都市、住宅、下水道等の分野における関連独立行政法人等の有する中立性、ホスト国政府との交渉力、専門的な技術・ノウハウ等を活用すべく、「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律(海外インフラ展開法)」が成立したこと(2018年5月)、さらに、日本のユーティリティ企業等多様な主体の参入促進のため、JBIC・NEXIのファイナンス先に出資している日本企業の出資持分の譲渡が一定条件下で容認されたこと(2018年6月)を評価したい。

    これらを基盤として、引き続き、ホスト国政府との政策対話の充実等を通じてホスト国の総合開発計画・マスタープランの策定等の最上流段階から積極的に関与し、川中・川下に至るまでの包括的支援・協力をパッケージとして提供していくべきである。特に、案件形成・調査や設計・調達・建設(EPC)に加え、経営参画や施設の運営・メンテナンス(O&M)等への円借款の積極的供与とそのためのルール整備・明確化や公的資金・保険等による支援強化は、現地法人を含めたわが国企業の技術・ノウハウの活用によるホスト国へのトータルソリューションの提供につながるものであり、官民連携を一層緊密に行い、案件形成の早期からホスト国側へ積極的な提案を行うなど、内外での理解・活用促進の取組みを求めたい。

    併せて、エネルギーインフラについては、各国のニーズに応じ、省エネルギー製造設備、LNGインフラ、再生可能エネルギー、高効率火力発電、原子力発電(含む関連部品の供給)等の多様な脱炭素化・低炭素化の選択肢を提供すべきである。世界の発電容量見通しにおける今後の拡大が顕著である再生可能エネルギーについては、わが国企業の積極的な海外展開の推進に向けた支援を強化していくべきである。併せて、新技術開発及び当該技術を具体化するプロジェクトへの公的支援の強化が必要である。エネルギー転換・脱炭素化が実現するまでの過渡期において、内外で一定の役割を果たすと見込まれている石炭火力発電については、引き続き、OECDルールの下、新興国等への国際展開に取り組むことも重要である#2

    また、デジタル化の進展により、新興国においてもビッグデータやIoTなど最新技術への関心が高まる中、データ利活用型のインフラシステムの海外展開を推進することが重要である。Society 5.0の実現に向け、高度なICTを利活用したインフラシステムのサービス向上と維持管理の効率化・高度化を図るべく#3、案件組成の上流段階からのICT組み込みの推進とともに、既設インフラへのこうした技術の搭載を進めていくことも期待される。

  3. 国際的な枠組を通じたルール整備・標準化
    「質の高いインフラ」が評価され、ホスト国での導入を促進するためには、わが国政府が、質の高いインフラ整備の推進に向けた国際的なルール整備・標準化にイニシアティブを発揮することが重要である。

    既に、わが国は2016年にG7議長国として「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を取りまとめており、また、2018年11月のAPEC貿易・投資委員会において、わが国政府の主導により、「APECインフラ開発・投資の質に関するガイドブック」が、インフラの質を確保するための5要素#4を明記した形で改訂されたことを評価する#5

    本年6月のG20においても、わが国は議長国として質の高いインフラ整備の推進に向けた国際的なルール整備の議論を主導し、これら5要素を含む国際ルールにつき首脳間でも合意すべきである。また、本年8月の第7回アフリカ開発会議(TICAD7)など国際イベント等の機会を活用した5要素の周知やホスト国関係者の理解促進#6等を通じた普及加速への取組みを要望する。

    輸出信用ルールについては、OECD諸国に加えて中国等も参加する「輸出信用に関する国際作業部会(IWG)」において、非OECD諸国を含めたルールの策定議論が行われており、閣僚会議での共有やターゲットイヤーの設定等により、議論の加速と実効性の強化が求められる。

    これらを通じて、開放性、透明性、財政健全性、強靭性、ライフサイクルコスト(LCC)等の経済性等、先進国、新興国、被援助国の全てのパートナーが裨益する「質の高いインフラ」の国際スタンダードの策定・普及を推進すべきである。

  4. 第三国市場協力
    コスト競争力の強化やビジネス機会の拡大、政治・治安リスクの低減等を図る上で、わが国企業と関係国・企業が、第三国市場において双方の有する強みを活かして相互補完的に連携・協力することも重要であり、既に米国、中国、インド、フランス、韓国、トルコ、アラブ首長国連邦、シンガポール等と第三国での具体的な協力案件が検討・実施されている。

    その一層の推進に向け、2017年11月の日米首脳会談において、「日米戦略エネルギーパートナーシップ」の推進や関連機関の連携#7につき一致し、「日米第三国インフラ協力官民ラウンドテーブル」等が開催されている。また、2018年5月の日中首脳会談において、「日中民間ビジネスの第三国展開推進に関する委員会」、「日中第三国市場協力フォーラム」の設置が合意され、それぞれの第1回会合が2018年9月及び10月に開催されている。加えて、2018年10月の日印首脳会談等でも第三国協力の推進が合意されるなど、わが国政府による強力な取組みを歓迎する。

    今後とも、官民の連携により、開放性、透明性、経済性、財政健全性等の国際スタンダードを前提に、第三国を含めた三者がwin-win-winとなる案件の具体的な形成を期待するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」等の下、質の高いインフラ整備等を通じた連結性強化により、第三国の経済・社会基盤整備や地域の安定と繁栄に貢献すべきである。

    第三国市場協力を一層推進するため、わが国政府・関係機関には、関係国との安定した政治・外交関係の維持・強化や、貿易・投資交流の自由化・円滑化を含む自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化、国際開発金融機関(MDBs)や各国輸出信用機関(ECA)、市中銀行等との協調融資等を含めたわが国公的ファイナンスによるサポート、関係国・第三国に関する情報のわが国企業への提供や交渉・調整支援、官民協議の開催やマッチング機会の提供、更には、第三国連携推進をリードする人材の育成等を引き続き要望する。

    なお、パートナーとなる関係国・企業においては、別案件では競合相手となる場合もあることから、高度技術や情報の流出等には注意するとともに、具体的案件の推進には、安全保障上の観点#8も含め総合的な判断が不可欠である。

  5. 一層の官民連携の推進
    わが国官民による日頃からの綿密な連携、情報・意見交換が重要であり、案件形成等の上流段階から官民関係者間の意思疎通や連携を推進し、戦略的な案件選定、精度向上のためのFS・設計業務の拡充、適正な工期や予算の設定等を図るとともに、案件によっては、とりわけ入札段階において、わが国企業と政府・関係機関が一体となり、ホスト国側に一層積極的に直接働きかけることも有効である。

    また、ホスト国官民との連携も重要であり、既に設置されている様々な対話の枠組は、ホスト国政府・関係機関・企業との情報・意見交換、交流・マッチング、案件形成につなげる場として有効であり、その機能や実効性等について検証しつつ、今後も定期的またはニーズに応じた開催を求めたい。

    とりわけ、わが国企業とホスト国政府・発注機関等とのトラブル(税金問題、現地政府負担事項の不履行、工事代金支払遅延等)の解決においては、わが国政府・関係機関によるホスト国側への申し入れなど継続的な支援が不可欠である。税金問題については、円借款・無償資金協力ともに交換公文等で免税条項が挿入されている場合でも、現地の税務当局が認識していない事例や還付手続に時間を要する事例、また、現地政府負担事項(用地買収、住民移転、労働ビザ・滞在許可証の発行、通関、自己負担工事等)の不履行によるプロジェクトの大幅な遅延等の事例が往々にして発生している。このため、わが国政府・関係機関から、免税項目・免税措置の明確化や工事契約前のホスト国側関係機関(財政・税務当局、発注者)への周知徹底を求めるとともに、現地政府負担事項の詳細化や必要な予算の確保、履行スケジュール等の明確化や履行状況のモニタリング等を通じて、履行徹底を働きかけるなどの取組み強化を強く要望したい。なお、免税措置の履行を働きかけたものの十分に履行されない国については、民間のリスク軽減の観点から、抜本的な対策強化の検討が求められる。

    また、インフラ工事に係る保険に関し、現地保険会社への付保がホスト国側の関連法等により定められている場合があり、その際、現地保険会社からの保険証券の発行遅延による工事開始の遅れ、保険金が支払われない等の問題に直面する事例がある。保険問題についても、わが国政府・関係機関からホスト国政府側に改善を働きかけるべきであり、解決が図れない場合には、円借款案件等については現地保険会社への付保義務の対象外とするべく、政府間で交渉することも検討が求められる。

(2)ODA(円借款、無償資金協力、技術協力)

ODAはインフラ海外展開における主要な支援措置として積極的に活用#9されており、更なる活用拡大の観点から民間のニーズを踏まえた制度の新設・拡充が求められる。

その一環として、わが国の優れた技術・ノウハウを活用した「顔が見える援助」の重要なツールである円借款・本邦技術活用条件(STEP)の更なる効果的な活用に向け、2018年12月に「原産地ルール#10」と「主契約者条件#11」が改訂されたことを評価する。その着実な実施と今回対象とならなかったコンサルタント契約の主契約者条件についても改訂を要望するとともに、今後の実施状況や関連業界の考えを総合的に踏まえた更なる改善策を必要に応じ検討されたい。また、魅力的なSTEP案件形成に向け、各段階において、わが国企業との意思疎通を密に行うとともに、特に入札段階ではわが国の技術・資機材が採用されるよう、引き続き官民一体となり、STEPや日本製品・サービスの優位性についてホスト国の理解促進に努め、各国のニーズを踏まえつつ活用拡大につなげるべきである。

また、債務増加・資料作成等の負担等から円借款の利用をためらう国に対しては、円借款の魅力をより高めるべく、無償資金協力や技術協力等と有機的に連携した総合的なソリューション支援パッケージ(プラン策定へのFS支援、周辺基盤インフラの整備への無償資金協力、インフラ整備後の運営やメンテナンス(O&M)事業へのわが国企業の参画支援、人材育成・招聘等への技術協力活用等)の提供が引き続き必要である。

無償資金協力については、新たに作成された設計変更に関する執務参考資料(2018年12月)の確実な実施とそれに伴う追加的なコンサルティング費用の予算措置、事業・運営権対応型無償資金協力の積極的活用等とともに、複数通貨契約制度導入を引き続き要望する。

技術協力については、事業予算逼迫の再発防止のための予算執行管理の徹底を求めるとともに、ホスト国側関連機関の自立性を高めるような事業マネジメント改善への支援が期待される。また、ホスト国の各種制度等#12の整備支援においては、その運営を支えるわが国企業の有する関連ITシステムとの一体的な展開、運営・保守・人材育成への支援を要望する。IT分野の技術移転により、ホスト国におけるIT面での自立やITの活用促進による各種産業の振興・発展も期待できる。

加えて、各国企業との受注競争が激化する中、ビジネスのスピード感に対応した迅速な資金供与が不可欠であり、引き続き、政府・関係機関の手続等の迅速化への取組みを要望する。

(3)JICA海外投融資

JICA海外投融資は、PPPインフラ事業など民間企業等が実施する開発プロジェクトへの支援策として極めて有益であり、2017年度の承諾実績#13が、本格再開後、件数・金額とも最大となったことを評価するとともに、PPP案件組成に向けた海外投融資の更なる積極的供与が求められる。また、本年度行われた民間企業提案型事業制度の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」への整理・改善(2018年9月)や、PPP/FSのコミットメント要求の緩和(2018年4月)を評価するとともに、コミットメント要求については、アジア開発銀行(ADB)の事例も参考に、今後も活用状況等を踏まえた適切な改善を期待する。市中銀行との協調融資の更なる拡大に向けた、協調融資でのJICA拠出上限の引き上げ#14も検討すべきである。

また、ADBとの連携による海外投融資は、わが国企業出資案件で支援実績#15を上げており、引き続き、ニーズに基づく支援を要望するとともに、その他MDBs等とも積極的に連携し、わが国企業の受注拡大につなげることを求めたい。

さらに、円借款、海外投融資、民間資金の活用によるインフラ海外展開の推進に向け、JICAの円借款担当部門と海外投融資担当部門の引き続きの連携強化を要望する。海外投融資担当部門の十分な人員確保も必要である。

JBIC投融資とJICA海外投融資の活用にあたっては、リスクに応じた円滑かつ迅速な対応が重要であり、両機関間での早期の情報共有や協議の実施等、引き続き所管省庁を含めた両者の緊密な意思疎通が望まれる。

加えて、海外投融資についても、ビジネスのスピード感に対応した迅速な資金供与が不可欠であり、引き続き、企業の申請から原則1ヶ月以内の審査開始の運用徹底を要望する。

(4)JBIC投融資

JBIC投融資は、民間企業等によるインフラ整備に対する重要な支援手段となっており、「質高インフラ環境成長ファシリティ」の創設(2018年7月)を評価する。同ファシリティは、優遇条件#16を適用した投資金融及び事業開発等金融により、地球環境保全に資するインフラ整備の推進やわが国関連技術の活用機会の増加に資するものであり、対象案件への融資組成実績を評価するとともに、更なる活用拡大を期待する。また、わが国企業がLNG供給に関与する案件への資源金融の適用柔軟化#17は、わが国のエネルギー安全保障強化に資するものであり、これを評価するとともに、引き続き、わが国の経済・産業競争力向上に重要な分野への柔軟な支援の強化を期待する。

併せて、特別業務勘定#18の専用相談窓口の設置(2018年5月)を歓迎しており、その積極活用による特別業務勘定の活用拡大を期待する。

また、JBIC投融資の更なる利便性向上に向け、将来的なリファイナンスを前提とするファイナンスに対応した融資、現地通貨建ファイナンス支援の強化、サブソブリン向け融資、信用リスク補完に資する支援#19など民間のニーズへの柔軟かつ積極的な対応を要望するとともに、引き続き、各種審査の一層の迅速化やニーズに応じたリスクテイクの深化、市中優先償還の柔軟な適用、各国政府・関係機関や現地金融機関等との連携・協力強化を通じた支援等を求めたい。

(5)NEXI保険等

NEXIは、民間企業が輸出や海外事業におけるリスクを軽減する上で重要な貿易保険を提供しており、2017年4月の特殊会社化以降、運営の機動化・効率化とともに、各種機能強化の実現が進んでおり、その一環として、本年度の資源エネルギー総合保険の適用対象拡大#20を評価する。

今後とも、グローバル経済の不確実性の高まりやファイナンス形態の多様化等が進む中、民間が負い切れないリスクに対応するため、ニーズに基づくきめ細かい商品拡充や制度改善、柔軟な運用が不可欠である。このため、資金調達手法の多様化による民間資金の動員を促進するためのボンドやファンドに投資する機関投資家に対応した保険スキームの導入や、将来的なリファイナンスを前提とする案件へのリファイナンス後のファイナンスへの付保コミット、海外投資保険の契約違反リスク特約の引受条件の緩和#21、金利スワップ保険特約の制度改善#22、再生可能エネルギー等の環境関連の新技術を活用したプロジェクトに対する保険の拡充、アフリカ向けの民間資金動員拡大に向けた仕組の充実等を求めたい。

併せて、引き続き、案件組成時の綿密な情報・意見交換や、NEXIと多数国間投資保証機関(MIGA)等の国際金融機関#23、各国政府・信用機関等との連携・協力強化等を通じた支援、市中銀行の融資に対する保険内諾期限の柔軟化、長期の出来高払いとなる案件における貿易一般保険(技術提供契約等)について保険活用時の対価の確認方法や損失防止軽減義務の柔軟な運用、民間でリスクを負うことが困難な大型案件への完工保証の付与等を求めたい。

海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)については、政策上特に重要な案件につき最大出資者基準の運用が緩和されており、引き続き一層の柔軟化#24を要望するとともに、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)についても、機能強化(債務保証上限の引き上げ条件の適用拡大#25等)を引き続き要望する。

2.ホスト国の課題改善に向けたわが国政府への要望

インフラシステムの海外展開にあたっては、ホスト国側での質の高いインフラへの理解促進や各種制度・運用改善が不可欠であり、わが国政府には、官民連携の下、各種支援策も活用しつつ、その実現を継続的に働きかけていくことが求められる。

(1)質の高いインフラへの理解促進等

ホスト国側での質の高いインフラへの理解促進については、首脳会談や国際会議、官民による二国間の対話枠組等を活用して働きかけるとともに、技術協力の活用等によるホスト国での質の高いインフラを総合的に評価する入札制度等の法制度整備や体制強化のための支援、質の高さへの理解促進と評価能力向上につながるホスト国関係者の招聘、日本からの専門家の派遣、ハード・ソフト両面の実務人材やわが国と各国との橋渡し役となる人材の育成・確保への支援、戦略的対外広報の強化等の取組みが必要である。なお、ホスト国関係者の招聘については、相談時期等の柔軟な取扱いを要望#26する。

また、円借款案件でも、発注者より日本と異なる技術基準・規格を要求されるケースがあることから、ホスト国政府・関係機関等へのわが国技術基準・規格に関する英文資料の提供や周知、日本からの専門家の派遣等を通じ、現地でのわが国技術基準・規格の標準化や案件形成の上流段階からの浸透を引き続き図るとともに、入札段階における働きかけを強化すべきである。

(2)PPP活用環境の整備等

ホスト国におけるPPP関連制度の整備や運用の適正化ならびにそのための人材育成・確保への協力も重要である。

とりわけ、PPP案件において、ホスト国政府が民間に過度のリスク負担を求め案件が成立しないケースが散見されることから、アベイラビリティ・ペイメント方式の導入など、当事者意識を持った官民リスク分担の適正化に向け、ホスト国政府との意見交換等を通じた働きかけが求められる。

また、事業収入が現地通貨建となり、為替・兌換リスクが発生する案件が多いことから、ホスト国政府による適切な保証負担等を通じた官民リスク分担の適正化や、通貨スワップ等金融派生商品マーケットの構築への働きかけや現地通貨建資金支援制度の拡充等による通貨ミスマッチの解消が必要である。なお、現地通貨建コンセッション契約が一般的な国に対しては、ドル建契約の拡充の働きかけも検討すべきである。

一方、PPPの成立が難しい場合、政府保証・ECAファイナンスをベースとする案件の推進をホスト国に推奨することも選択肢である。

(3)貿易投資障壁の解消、ビジネス環境整備等

海外でのインフラ事業に関連して直面する諸課題(資材・機材への高関税の賦課、煩雑で時間を要する通関手続、投資・サービスの外資規制・差別的取扱、過度のローカルコンテンツ要求、担当官により異なる法の運用、技術員の派遣の制約、不十分な知財保護、送金規制、投資家対国家の紛争解決手段としての国際仲裁の非容認等)の解決に向けて、わが国政府・関係機関による働きかけの継続に加えて、二国間経済連携協定(EPA)や投資協定の拡充、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の参加国拡大、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉等の早期妥結等が必要である。

また、二国間EPA等に基づく「ビジネス環境整備に関する小委員会」や官民による二国間の枠組等を通じて、各種制度#27の安定性、透明性、予見可能性の確保、法令順守、土地収用や査証取得はじめ関連手続・許認可の簡素・迅速化、各種規制の緩和、国際標準約款に準拠した契約ガイドラインの整備#28、交通事情の改善、医療環境の整備はじめホスト国におけるビジネス環境の改善等を中央・地方政府、国営企業等に働きかけることが不可欠である。併せて、各国の政治・経済情勢等により進行中の案件が影響を受けないようホスト国側に働きかけることも重要であり、加えて、社会保障協定等の早期締結も引き続き推進する必要がある。

Ⅲ.安全の確保

安全の確保は海外事業活動を推進する上で大前提であり、喫緊の課題である。わが国政府には、各国の治安当局等との緊密な関係構築による治安情勢に関する高度な情報収集・分析と民間企業への情報提供に加えて、現地当局の治安能力構築支援や、技術協力・無償資金協力案件とともに円借款案件での安全対策費計上等を含むホスト国政府の安全対策強化等、安全の確保に向けた更なる対策の強化を要望する。また、あらゆる場面でITとの融合が進む中で、サイバー空間の秩序や安全の確保のためのサイバーセキュリティも重要になっている。

これら治安・セキュリティ分野は、生体認証(顔認証、指紋認証、静脈認証等)、行動検知、街中監視システム、サイバーセキュリティ技術等、わが国企業が優れた技術・ノウハウを有しており、円借款や技術協力・無償資金協力を通じたこれらの活用推進により、各国における安全の確保への貢献が期待できる。

以上

  1. 事業投資による収入額等を含む。
  2. 経団連「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言」(2019年3月19日)を参照。
  3. 経団連「Society 5.0 -ともに創造する未来-」(2018年11月13日)では、Society 5.0 によって目指す変革の方向性の一例として、デジタル技術を活用したインフラの維持管理による老朽化対策の効率化を通じ、減災対策を図ることを挙げている。
  4. ①開放性、透明性、財政健全性及び開発戦略との整合性、②安定・安全・強靭性、③経済性と市場活用(LCCを含む費用対効果)、④社会環境配慮、⑤質の高い地域の発展(雇用創出・能力構築及び技術・ノウハウの移転)。
  5. 個別分野では、「質の高い電力インフラガイドライン」の取りまとめに続く、「水インフラの質に関するガイドライン」の作成を歓迎するとともに、普及加速への取組みを要望する。
  6. APECピアレビュー・能力構築支援等も有効である。
  7. 2017年11月に経済産業省と米国貿易開発庁(USTDA)とのMOC、JBIC・NEXIと米国海外民間投資公社(OPIC)とのMOU、2018年9月にJICAとOPICとのMOUが締結された。
  8. 米国は外国との投資・輸出・技術取引等について、安全保障上の観点からの取組みを強化している。
  9. 2017年の円借款案件(1兆6,515億円)に占めるインフラ案件の供与額は1兆3,795億円(交換公文締結ベース)。また、同年度の円借款案件における日本企業の受注率は67.0%。
  10. 一定の条件下において、最終資機材を構成する主要な部材が日本で製造されるまたは海外に存ずる本邦企業の子会社により製造される場合、本邦調達比率に算入可能となった。
  11. 一定の条件下において、海外に存する本邦企業の関連会社も主契約者の共同事業体(JV)パートナーとしての参画が可能となった。
  12. 社会保障、健康保険、母子手帳、マイナンバー、通関、土地登記等。
  13. 個別案件ベース(2015年度にADBに設立した信託基金(LEAP)への出資分を除く)では、2017年度の承諾実績が6件・430億円であり、本格再開(2012年度)後、件数・金額とも最大となった。
  14. 市中銀行との協調融資におけるJICA拠出金額の上限は市中銀行の拠出額のうち最大額と同等額とされているが、市中銀行拠出合計額への増額等、拠出上限の引き上げについて検討が望まれる。
  15. 2016年3月にADBに設立し、JICAが海外投融資で出資した信託基金(LEAP)を通じて、本邦企業が出資等により関与する事業への支援を実施している。また、2018年3月にJICAとADBによる初の協調融資案件が承諾された。
  16. 具体的な条件は個別リスク等を踏まえ決定される。
  17. 日本企業がLNGをコントロール可能な案件であれば、日本向けに加えて、外国から第三国向けに供給する場合もJBIC資源金融及びNEXI資源エネルギー総合保険の適用対象となった(2018年10月)。
  18. 勘定全体で収支相償原則を満たすことを前提に、個別案件ごとの償還確実性は問わない勘定。
  19. 欧州投資銀行(EIB)が提供している①建設期間における当初想定コストを超える部分のファイナンス要請発生時に引出可能なファシリティ(First Loss Facility)や、②完工後の操業が不安定な時期にローン返済に支障をきたした場合に引出可能なファシリティ(Viability Gap Fund)に類する支援等。
  20. 脚注17参照。
  21. 運用上、海外事業資金貸付保険付保もある案件に引受が限定されている現状の改善。
  22. 付保条件等について、より実用的な運用の実現を求める。
  23. ソブリンプロジェクトにおいて、ホスト国政府が負担すべき頭金15%を調達できずにプロジェクトが進展しないことが多い。また、事業投資型プロジェクトにおいては、ホスト国政府の支払保証への不安から案件組成が進まないことが多い。地元政府や民間企業が、こうした問題に適切に対応できるようリスク軽減のための措置が必要である。
  24. JOIN、JICTの支援基準においては、これら機関は最大出資者になれないが、政策上特に重要な案件についてはこの基準の運用を緩和し、最大出資者となることが容認されており、更なる適用拡大を要望する。
  25. 通常、必要な資金に係る債務の50%を保証限度とするが、石油等採取資金及び可燃性天然ガス液化資金ならびに石油等に係る権利譲受け資金にあって、JOGMECが特に必要と認める場合は75%を保証限度とされており、更なる適用の拡大を要望する。
  26. ホスト国要人の招聘に対する要望を年度前に確認することが難しい場合も多く、関係省庁への相談時期や招聘対象者等については柔軟な対応が引き続き求められる。
  27. 各種法制度の改正に際しての事前告知期間や経過措置等への十分な配慮、下位規則の整備、関係省庁・地方政府の窓口への周知徹底等が重要である。
  28. 紛争裁定委員会(Dispute Board)の導入とその裁定の遵守を働きかけるべきである。

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