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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 2021年度規制改革要望 ―DXと規制改革の循環を確立する―

2021年9月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

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Ⅰ.基本的考え方

新型コロナウイルス感染症は、経済活動のみならず、人々の生活様式も一変させた。わが国がコロナの影響を乗り越え、持続可能な成長を実現していくためには、感染の早期収束と経済活動の両立に全力で取り組むとともに、Society 5.0を見据えてデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、社会的課題を解決していくことが不可欠である。

DXを推進するためには、社会に網の目のように張り巡らされている規制体系をデジタル化時代にふさわしい形に抜本的に見直していくことが欠かせない。すなわち、デジタル技術の普及を阻害する時代遅れの規制の撤廃と、新たな技術を導入するための制度の構築を推進し、次の技術革新を呼び起こす環境を作る必要がある。これによってDXが進展すれば、デジタル技術を活用した更なる規制改革が可能となる。このようにDXと規制改革は相互補完的な関係にあり、我々はこの好循環を決して止めてはならない。

そこで経団連は、会員企業・団体からの提案を踏まえ、今必要な規制改革要望75項目を取りまとめた。その柱は、with/postコロナにおいて残された課題と、DX等による社会課題の解決である。規制改革推進会議はもとより、9月1日に発足したばかりのデジタル庁を含む政府には、DXと規制改革の好循環を経済成長につなげていくため、規制改革に全力で取り組むよう強く求める。

1.with/postコロナにおける規制改革の積み残し

昨年来、政府はコロナ対応を契機として、非対面・非接触型の新たな生活様式を見据えた規制・制度改革を推進してきた。わが国のデジタル化の遅れを認識し、Society 5.0時代の規制・制度に向けて一歩踏み出したことの意義は大きい。

しかし、積み残された課題も未だ存在する。書面・対面規制の見直しについては、薬剤師・電気主任技術者はじめ対応不十分の分野が残されている。株主総会資料のWeb開示等、コロナ禍における特例措置は、恒久化あるいは今後起こり得る様々な緊急事態に柔軟に対応できるよう制度化を検討すべきである。

また、新しい生活様式のもとテレワークが加速的に普及した一方で、この動きに見合った労働法制の見直しは十分ではない。裁量労働制や有給休暇取得制度を含め、旧来の発想を超えた検討が急がれる。

2.DX等による社会課題の解決に向けた規制・制度改革

コロナ禍における規制改革は感染防止のための非対面・非接触を可能にしたが、次なるDXと規制改革の循環では、一人ひとりにデジタル技術の恩恵を届け、社会課題を解決していくことが要となる。

まずは、DXを支えるAI、5G、IoT等デジタル技術の実装を全力で進めることが何よりも重要であり、足許でこれらを阻害・遅延させる要因となっている規制を徹底的に見直すべきである。このためにも行政手続等の電子化を聖域なく、可能な限り前倒しで進めることが欠かせない。政府は2025年までに行政手続の98%を電子化するという目標を掲げているが、不要な行政手続自体の撤廃、マイナンバーによるデータ連携の促進と公的サービスへの効果的活用なくしてこの目標は達成できない。加えて、地方公共団体における電子化は依然残された課題となったままである。国は、技術的助言や予算措置も含めて、地方公共団体のデジタル化とこれを阻害する規制・慣習の見直しを支援すべきである。

また、DXに加え、グリーン・トランスフォーメーションの推進も重要な課題である。政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現する不退転の決意のもと、経済と環境の好循環を生み出す脱炭素化を推進するグリーン成長戦略を掲げている。太陽光はじめ再生可能エネルギーの普及、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた廃棄物処理等の分野において、前例なき規制・制度改革に果敢に切り込むことが求められる。

ヘルステックの推進もSociety 5.0の実現に大きな役割を果たす。コロナ禍を経て、デジタルにより緊急時にも柔軟に対応しうる医療提供体制の必要性が再認識された。初診からのオンライン診療・服薬指導の普及に向けて、制度の改善・利便性向上は急務である。緒に就いたばかりの医療機器プログラムやヘルスケアデータの活用促進、また手付かずだった臨床試験・調剤分野のデジタル化に向けた規制・制度改革は、医療分野のDXと新産業の創出に道を拓く。

Society 5.0は、女性や高齢者、若者、外国人、障がい者等、多様な人材が多様な地域で活躍できる社会を念頭においている。政府は骨太の方針において、人材への投資と制度改革を大胆に行う「ヒューマン・ニューディール」を掲げた。これを実現するうえでも、新しい働き方、暮らし方、学び方を実現する規制・制度改革が不可欠である。

Ⅱ.2020年度規制改革要望【更新・再提出】
―with/postコロナにおいて特に求められる規制・制度改革―

1.非対面・非接触型の技術・サービスの導入

No. 1. マイナンバーの徹底活用に向けた特定個人情報の見直し
<要望内容・要望理由>

マイナンバー(個人番号)を含む個人情報は「特定個人情報」に該当し、一般の個人情報と比較して利用範囲・利用目的、収集・保管、第三者提供、委託、罰則等の面で規制が強化されている。とりわけ個人情報保護法が本人同意を根拠とする個人情報の第三者提供を認める一方、特定個人情報の場合は、本人の同意があっても番号法19条各号が特に認める場合を除き、第三者提供が禁止されている。

特定個人情報に関する過度な制限や罰則は、特定個人情報を取り扱う事業者に負担を生じさせているほか、国民のマイナンバーに対する不安や誤解を招いている。仮にマイナンバーが流出したとしても、個人情報は各行政機関等で分散管理されており、情報提供ネットワークシステムでは機関別の符号を利用して情報を照会・提供するため、情報が芋づる式に漏洩する可能性は低い。また、安全管理措置に関しては、法律上、個人情報と特定個人情報に求められている基本的な要素は共通しており、民間事業者が遵守すべきガイドラインが求める個々の安全管理措置についても基本的な差異はない。

そこで、マイナンバー制度を徹底的に活用するため、特定個人情報を撤廃し、個人情報と同等の位置付けとすべきである。要望の早期実現が困難な場合、デジタル改革関連法案の成立で実現した第三者提供禁止の例外をさらに進め、異動前の勤務先から異動後の勤務先に対する提供のみならず、グループ企業間等における顧客・役員・従業員のマイナンバーの共有を早期に容認すべきである。

これにより、官民、さらには民間企業間における効率的な情報の連携・活用が可能となり、デジタル社会の実現に資する。

<根拠法令等>
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)第2条、第19条
  • マイナンバーガイドライン(事業者)第4-3-(2)
No. 2. 電気主任技術者の配置要件の緩和
<要望内容・要望理由>

太陽光を含む発電設備においては、設備ごとに電気主任技術者を選任することが義務付けられている。同技術者は原則として1設備1名の選任が求められ、他事業場・設備と兼任する場合には、管理対象施設の電圧が7,000V以下であること、兼務する施設から2時間以内の移動距離に住所あるいは事務所があること等の制約が設けられている。

政府においては、スマート保安実現による保安力の維持・向上と生産性向上との両立を掲げ、審議会等においても各種電気保安規制の合理化に向けた制度見直しを検討している。企業においても設備の状態を遠隔で把握・監視するSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition、産業監視制御システム)等の遠隔監視システムを導入しつつある。有事の際には同システムが異常を検知して電気主任技術者に知らせることで、現場責任者への適切な指示と安全性の担保が可能である。また、電気主任技術者が必要となる電流・電圧の点検や故障部品の交換・修繕等の電気業務の発生は、概ね年間30日以下にとどまり、この点においても電気主任技術者が常駐する必要性は低い。

こうした状況にもかかわらず、電気主任技術者の選任義務があることで、企業にとっては遠隔監視システム導入と二重のコストを支払う必要が生じている。加えて電気主任技術者の高齢化・人材不足による人件費高騰も相まって、発電設備の運営コストを押し上げ、カーボンニュートラルの実現に向けた太陽光発電設備の普及促進も阻害する恐れが生じている。

そこで、適正な保安体制を確保・維持していることを前提として、太陽光発電設備における電気主任技術者の兼任要件を撤廃すべきである。また、その先の課題として、変電所・需要設備等についても、要件緩和を検討すべきである。

なお、適正な保安体制の例として、以下が考えられる。

  1. ① 遠隔監視システムやWebカメラ等により、発電設備における発電量データや運転状況を一元的に把握・管理出来る体制を有していること
  2. ② 一元管理を行う責任者として、第一種もしくは第二種電気主任技術者を配置していること
  3. ③ 2時間以内に管理対象設備に到着できる適切な知識・経験を有した人員(第三種電気主任技術者、電気工事士等)を配置していること
  4. ④ 管理対象設備において、電気事業法に則った適切なメンテナンス行為が可能であること
  5. ⑤ その他、電気設備の技術基準の解釈(20130215商局第4号)第47条に準ずること
<根拠法令等>
  • 電気事業法43条
  • 電気事業法施行規則52条
  • 主任技術者制度の解釈及び運用(内規)
No. 3. 産業廃棄物処理業者の実地確認の緩和
<要望内容・要望理由>

廃棄物の処理および清掃に関する法律では、中間処理事業者を含む事業者は、その産業廃棄物の処分等を委託した場合、受託者である産業廃棄物処理事業者に対して、産業廃棄物の処理状況を確認することが求められる。このうち、一部都道府県や政令市の条例や要綱では、目視によって実地で確認することを求めている。

2020年度行政改革・規制改革ホットラインにおける環境省回答では、「聴取したところ、新型コロナウイルスの感染拡大下でなお実地確認を求めている事例は確認されませんでした」との回答があったものの、自治体によっては遠隔での確認は認められず実地での確認を求められた事例が存在した。このため、テレワークを推進し出張を控える企業においても、実地確認のために都道府県を跨いだ移動を余儀なくされている。

そこで、政府が主導してガイドライン等を策定し、①書類や設備等、オンライン会議システムを活用した確認が可能な項目については、実地確認に加えて遠隔での確認も可能とする、②同一施設を利用しているグループ会社については、一括した遠隔検査を明示的に認め、運用を各地方公共団体で進めるべきである。

これにより、実地確認のための移動や対面での点検が抑制され、コロナの感染リスクが低下する。また、平時においても現場確認にかかる時間の短縮が期待できる。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律第3条第1項、第12条第7項
No. 4. 管理員業務のIT化に向けた管理員の設置義務の緩和
<要望内容・要望理由>

マンション管理業務において、対面接触機会の削減および利用者の利便性向上、人手不足への対応といった観点から、管理員が駐在するのではなく、IT技術を活用し、居住者が必要とする時間に必要なサービスが受けられるようにするニーズが高まっている。具体的には、スマートフォンのアプリケーション等により、現在管理員が対面形式で行う居住者からの問い合わせや各種申請等への対応をIT化するとともに、オートロック解除や点検等の場合にも管理員が立ち合う必要のない環境を整えることが考えられる。

しかし、一部の自治体では、分譲マンション建設にあたり事業者(建築主)が遵守すべき事項として、管理員の設置義務とともに、その駐在時間等を詳細に(例えば「常駐または週〇回以上かつ1日〇時間以上」等)条例・指導要綱等(以下、条例等)で定めている。その場合、窓口対応等の業務をIT化して管理員の駐在時間を削減しようとすると条例等の違反となる可能性がある。また、自治体によっては、管理員の設置について「確実な管理業務が行われる場合」や「管理員による管理と同等の管理が行われる場合」に管理員業務のIT技術による代替を認めているものの、その場合も基準が不明瞭であることが多い。

他方、本年3月に閣議決定された「住生活基本計画」では、2021年度以降、「住宅の設計から建築、維持・管理に至る全段階におけるDXを推進」する方針が示された。これを実現するうえで、自治事務であってもDXの阻害要因となっている規制については、国が助言等を通じて望ましい政策の方向性を示すことが不可欠である。

そこで、現行の条例等において定められる管理員の駐在時間について、管理員業務をIT技術により代替した場合、確実な管理業務が行われる(管理員による管理と同等の管理が行われる)ことを条件に、事業者が管理員の駐在時間を柔軟に設定できるよう、国から地方自治体に対して通知を発出すべきである。また、管理員業務の代替手法がどのような要件を満たせば「確実な管理業務が行われる」あるいは「管理員による管理と同等の管理が行われる」と認められるかについて、現行の建築許可基準の範囲内で国によるガイドラインの策定およびその定期的な見直しをすべきである。

<根拠法令等>
  • 建築基準法第40条
  • 住生活基本計画(令和3年3月19日閣議決定) 目標1 「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現

2.テレワーク時代の労働・生活環境の整備

No. 5. 給与支払明細書、給与所得の源泉徴収票の電子化に向けた本人承諾の見直し
<要望内容・要望理由>

所得税法では、給与支払明細書や給与所得の源泉徴収票を電子的に交付するためには、あらかじめ受給者(交付を受ける者)に対し、その用いる電磁的方法の種類および内容を示し、電磁的方法または書面による承諾を得なければならないとされている。

書面から電子的交付に移行する際、承認しない受給者が一定数存在することはやむを得ないが、意思表明しない従業員も「非承諾」と見做さざるを得ない。そのため、大半の受給者が電子的交付を望んでいる実態がありながら、意向確認に長期間を要し、企業単位での取り組みが進展しない。

そこで、書面から電子的交付への移行を、受給者が明示的に承認しない場合(未回答者の場合)は、電子的交付を行うことができることとしていただきたい。この際、一旦電子的交付に移行した後に、受給者から書面での交付を望む意思表示があれば支払者(交付者)は従うとすることにより、受給者の選択は担保可能である。

<根拠法令等>
  • 所得税法第226条第4項、第231条第2項
  • 所得税法施行令第353条、第356条
  • 所得税法施行規則第95条の2、第100条第4項
No. 6. 株主総会資料のWebでのみなし提供の拡充の継続
<要望内容・要望理由>

コロナの影響で各社における計算書類等の作成・監査等に遅れが生じる可能性があることから、2021年1月の法務省令改正では、同年9月までの間、株主総会資料としての単体計算書類等に関してWeb開示によるみなし提供を行うことを認める措置が講じられた。当該措置は時限的なものとされているが、コロナの影響が完全に沈静化することは見通せず、また、来年以降も株主総会プロセスの電子化を促進する必要がある。

そこで、本年の時限的措置として認められたWeb開示によるみなし提供の拡充を2021年10月以降も継続すべきである。特に、総会のボリュームゾーン(3月総会、6月総会)についての対応の必要性が高い。さらには恒久化も検討すべきである。

これにより、コロナ禍のような有事の際に柔軟な対応が可能となるほか、平時においても株主総会関係業務の効率化や紙の削減による環境負荷低減が可能となる。

<根拠法令等>
  • 会社法施行規則第133条の2
  • 会社計算規則第133条の2
  • 会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和3年法務省令第1号)附則第2条
No. 7. 企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大
<要望内容・要望理由>

労働基準法は、企画業務型裁量労働制の対象を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。

しかしながら、経済のグローバル化や産業構造の変化が急速に進み、企業における業務が高度化・複合化する今日において、業務実態と乖離しており、円滑な制度の導入、運用を困難なものとしている。

そこで、「働き方改革関連法案」の審議段階で削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を早期に対象に追加すべきである。

昨年度も同様の要望を提出し、厚生労働省から「検討を予定」として、「制度改正については、まずは調査結果を踏まえて、しっかりと制度の在り方について労働政策審議会で議論いただきたいと考えております」との回答を得た。

本年6月25日に「裁量労働制実態調査」の結果が公表されたことから、調査結果も踏まえた議論を行い、対象業務を早期に拡大すべきである。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第38条の4
No. 8. 時間単位の年次有給休暇の取得制限の撤廃
<要望内容・要望理由>

コロナをめぐる問題を契機として、在宅勤務が急速に普及するとともに、休暇を取りながらテレワークを行う「ワーケーション」を推進する動きもみられる。こうした新しい働き方では、仕事と家庭、仕事と余暇が組み合わさり、業務を一時中断する機会が多く発生するため、時間単位年次有給休暇の活用が有効である。しかしながら、取得日数の上限が年5日と定められているため、導入効果が限定的であり、制度化しにくいとの指摘がある。

そこで、多様で柔軟な働き方を推進する観点から、時間単位年休の取得制限を撤廃すべきである。併せて、年5日の年休付与義務の履行にあたり、時間単位年休の取得を対象に含めることを認めるべきである。

昨年度も同様の要望を提出し、厚生労働省から「検討を予定」として、「現在、現状把握を行っているところであり、今後、把握の結果を踏まえ、有効な活用の在り方について検討してまいります」との回答を得た。この内容に従って早期に現状把握を完了し、必要な見直しを行うべきである。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第39条第4項
No. 9. 年次有給休暇の取得義務の緩和
<要望内容・要望理由>

2019年4月より、一定の労働者を対象に時季を指定して年5日の年次有給休暇を取得させることが使用者に義務付けられた。年次有給休暇は雇入日を起算日として付与日数が算出され、原則として業務上の傷病や産前産後、育児・介護休業中にも付与する必要がある。このため、休業中の労働者が事業年度の後半に復帰してさらに5日間の年休を取得することは、実質的な労働日に占める休暇日の割合が過大となるばかりか、働き手の心身のリフレッシュを図るという年休の目的にもそぐわない。

退職者についても、本人の退職通知から退職日までの間に5日間の年休を取得すると、実質的な労働日に占める休暇日の割合が過大となり、残務の対応や業務の引継ぎなどを行う時間を十分に確保できず、事業運営に影響が生じることがある。加えて、基準日から1年間の途中において休業を開始する労働者については、休業発生時期を事前に予期することができず、休業開始前に5日間の年休を取得させることが困難である場合がある。計画的付与制度を活用する企業においては、一斉付与時期に取得できないこれらの労働者における年休の取得に苦慮するケースもみられる。

そこで、上記のような休業から復帰する労働者については、復帰日から年度末など、勤務可能日数に応じて按分した日数での年次有給休暇の取得で足りることとすべきである。また、基準日から1年間の途中において突然休業を開始する労働者や退職する労働者については、5日間の年休を取得させられない場合も法違反とならないことを明確化すべきである。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第39条第1~3項、第7項
No. 10. フレックスタイム制の柔軟化
<要望内容・要望理由>

労働基準法は、労働時間の弾力的な運用を可能とする観点から「変形労働時間制度」を設けている。同制度には「1箇月単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」「1年単位の変形労働時間制」等が存在し、各企業は事業内容や就労実態に応じて各制度を使い分けている。

しかしながら、複数の変形労働時間制を同一労働者に同時に適用することは認められていない。例えば、現場業務で1箇月単位の変形労働時間制、後方業務でフレックスタイム制(清算期間1箇月)を併用している企業において、フレックスタイム制の適用労働者が1箇月のうち数日程度現場業務に従事する場合、当該月は全て変形労働時間制が適用されることになる。このため、現場業務と後方業務の双方で活躍したい人材のニーズに応えられないばかりか、オフピーク通勤やテレワーク等の柔軟な働き方をより多くの従業員に適用するにあたり課題となっている。

そこで、フレックスタイム制の趣旨を損なわない範囲で、フレックスタイム制と1箇月単位の変形労働時間制とを併用できるようにすべきである。一例として、前月までに当月の各日の適用労働時間制度を確定していること、月の労働日の過半でフレックスタイム制を適用することを条件として両制度の併用を可能とし、1箇月単位の変形労働時間制度が適用される日においては、始業・終業時刻を使用者が指定することを認める。時間外労働の清算にあたっては、各労働時間制における月間の労働時間を適用日数により按分することが考えられる。

昨年度も同様の要望を提出し、厚生労働省から「その他」として、「フレックスタイム制によらずとも、就業規則等において原則的な始業・終業時刻を定めた上で、日々の始業・終業時刻を日ごとに労使の合意によって決定・変更することや、労働者からの申し出のとおりに始業・終業時刻が決定されるようにすることが可能です」との回答を得た。

しかしながら、回答で示された方法を用いれば、当該労働者は日々管理者の承認を得る必要がある。この場合、同じ職場でフレックスタイム制度を適用する社員と比較して、当該労働者の働き方の柔軟度が低くなるばかりか、使用者の労務管理が煩雑になるため、柔軟な働き方により生産性を向上させる時代の流れに反する状態を招くと考える。

以上より、厚生労働省には本要望の再検討を求める。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第32条の2、第32条の3
No. 11. 労働分野の行政手続における電子申請の利便性向上
<要望内容・要望理由>

労働基準法をはじめとする労働関係法令は、場所的観念等に基づく事業場を単位として適用されるため、行政機関への申請や届出は事業場毎に行うことが原則となっている。

他方、「働き方改革関連法」の施行も追い風に、各企業は積極的に働き方改革や業務改革に取り組んでおり、本社主導でテレワークを含む人事制度の検討・環境整備を進めるケースもみられる。このような企業では、就業規則や36協定等について、各事業場からの意見を聞きつつ本社主導で管理しており、事業場単位で行政手続を遂行することは非効率となる。

厚生労働省では、企業における届出事務の簡素化を図るため、一定の要件のもと、本社所轄の労働基準監督署に事業場の分をまとめて届け出る「本社一括届出」を可能としている。しかしながら、対象手続が限定されているため、多数の事業場を抱える企業の手続負担の抜本的な軽減には至っていない。

また、本社一括届出を含め、労働分野の行政手続においては、「e-Gov(電子政府の総合窓口)」によりインターネットを通じた電子申請が可能となっている。しかしながら、労働基準法や最低賃金法等に基づく手続を除くと、申請・届出に際して電子署名・電子証明書の添付が必要なため、企業に管理コストや手数料負担が発生している。

そこで、電子申請の利便性を抜本的に高める観点から、本社一括届出制度を拡充して以下の手続を対象に含めるとともに、電子申請に際しての電子署名・電子証明書の添付が不要な手続を拡大(例:心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告)すべきである。

  • 1ヵ月単位の変形労働時間制に関する協定届
  • 1年単位の変形労働時間制に関する協定届
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届
  • 事業外労働に関する協定届
  • 休憩自由利用除外許可申請
  • 監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外申請
  • 断続的な宿直または日直勤務許可申請書
<根拠法令等>
  • 労働基準法第32条の2、4~5、第34条、第41条
  • 労働基準法施行規則第23条
  • 労働安全衛生規則第52条の21 等
No. 12. 労働契約承継手続の電子化
<要望内容・要望理由>

労働契約承継法では、分割会社から労働者への承継通知(2条通知)および労働者からの異議申出を書面で行うよう規定している。このため、事業者においては、コロナ禍における「3密」回避のために複数回に分けて書面を配付したり、従業員の自宅に郵送したりするなどの措置を講じている。労働者も書面を受け取るためだけに出勤する事例があるなど、労使双方で書面形式が負担となっている。

厚生労働省は、書面形式の必要性について「個別の労働者に対して確実に送達する方法で提供するとともに、事後にトラブルが生じて労働者の地位が不安定になることを防止するため」としている。こうした趣旨は理解するが、ICTの急速な発展を踏まえれば、個人認証やセキュリティ確保、バックアップ等の措置を講じることで、電子的な方法を用いても労働者保護を十分に図ることが可能と考える。

そこで、労働契約承継手続の電子化を可能とすべきである。

昨年度も同様の要望を提出し、厚生労働省から「検討を予定」として、「電子化を可能とすることに向けた検討を行い、必要な措置を講じます。令和3年度に検討を開始し、結論を得次第速やかに措置します」との回答を得た。ウィズコロナ・ポストコロナの社会に向け、デジタル化の推進がわが国の重要課題となる中、早期に結論を得て電子化を可能とする措置を講じるべきである。

<根拠法令等>
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第2条、第4条、第5条

Ⅲ. 2021年度規制改革要望【新規】
―DX等による社会課題の解決に向けた規制・制度改革―

1.DXを支えるデジタル技術の実装

No. 13. ローカル5G基地局設置申請の迅速化
<要望内容・要望理由>

ローカル5Gに関する無線局免許申請には、申請書のみならず、無線局開設目的、設置場所、無線機の工事設計等を記載した書類に加え、性能試験の結果を各地方総合通信局に提出する必要がある。総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」では、免許申請の標準的な処理期間は「約1ヶ月半」とされているが、総務省と各総合通信局の解釈の相違や、書類の差し戻し等により、実際には概ね半年以上の時間を要するケースもあり、ローカル5G設備の迅速な導入の障壁となっている。

そこで、ローカル5G基地局設置申請について、総務省と各総合通信局との見解の統一および総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」の更なる充実を図り、申請処理を迅速化すべきである。

これにより、ローカル5Gの導入スピードが高まり、スムーズなサービス展開につながる。

<根拠法令等>
  • 電波法第6条
  • 総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」
No. 14. ローカル5G用IMSIの適用範囲拡大
<要望内容・要望理由>

企業では、ローカル5Gで使用するSIMのために、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)を申請し配賦されている。しかし、配賦された親会社の子会社が同一のIMSIを利用して、親会社と異なる業務を行う場合は、親会社が他社にサービスを提供する際と同じ取扱いとなることから、親会社は電気通信事業者としての登録および別途のIMSIを取得する必要が生じ、グループ間での柔軟なサービス提供が難しい状況にある。

そこで、親会社と異なる業務を子会社が行う場合においても、親会社に電気通信事業者としての登録および別途IMSIの取得を求めることなく、子会社でのローカル5G用IMSI(999-002)の使用を認めるべきである。

これにより、親会社から子会社工場等へのローカル5G展開が容易になり、グループ全体でローカル5Gを活用したサービスの提供が促進される。

<根拠法令等>
  • 電気通信事業法第9条、第16条1項、第50条の2
  • 電気通信番号規則第3条
  • 総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」
No. 15. システム移行投資等の円滑化に向けた保管・運送規制の緩和
<要望内容・要望理由>

ITベンダーが顧客資産であるICTハードウェア機器を輸送・保管するためには、貨物利用運送事業の許可・登録および倉庫業の登録が必要となる。そのため、多くのITベンダーは物流事業者に輸送・保管業務を委託してきた。

しかし、システム投資規模の拡大と加速に伴い、以下のケースにおいて課題が生じている。

① 技術革新のスピードが年々加速し、企業は次々に新たなシステム投資を行う必要に迫られている。この投資コストを抑えるうえで、既存システムを一定期間有効活用し、段階的に次世代システムを導入する移行投資が有効である。具体的には、ITソリューションベンダーが顧客企業の既存設備、例えばサーバ、エッジ端末(データの発生源付近に設置する情報処理端末)、金融端末、ならびにこれらに付随する周辺機器等を活かした形で新規のシステム設計を提案し、顧客企業より一定期間旧設備を預かって、新設備と一体的な運用・保守を行う。これにより、顧客企業においては、既存設備を活かしつつ、空いたスペース等に新規設備を順次導入することが可能となり、こうした動きは今後も拡大することが見込まれる。

② 自社で部材在庫を抱えることが難しい過疎地域のITベンダーにおいては、顧客設備の保守・運用に必要な部材について、他のベンダーとの相互融通や共同保管に取り組み始めている。

しかし、いずれのケースにおいても、ICTハードウェア機器の輸送・保管について、物流事業者・ITベンダー・顧客、さらには部材提供元のITベンダー等も含めた複雑な契約協議・締結に多大な時間・コストがかかっており、特に物流の逼迫度合いが高い地域を中心に、スピーディーなシステム投資・運用の阻害要因となっている。DX戦略に基づくシステムの導入競争が激化するなか、システム開発・導入・保守に関わるスピードの確保は喫緊の課題である。

そこで、ITベンダーが顧客企業との契約のもと、顧客資産である稼働中のICTハードウェア機器について輸送・保管・運用を行う場合には、貨物利用運送事業法および倉庫業法の適用除外とすべきである。

これにより、システム移行投資や保守運用のワンストップサービス提供が実現すれば、各社既存システムの有効活用、新規投資におけるコスト・工数削減、利便性の向上につながり、DXの加速が期待できる。

<根拠法令等>
  • 貨物利用運送事業法第3条、第20条
  • 倉庫業法第3条
No. 16. 米国・EUの無線認証試験レポートの参照による無線機器の電波法認可の緩和
<要望内容・要望理由>

民間事業者による無線機器の開発において、各国法規への個別対応には、費用を含む多大なリソースを要する。そのため、とりわけ中小企業においては、機器の開発を諦めざるを得ない事も多い。Society 5.0時代に向けてわが国企業の無線機器開発を促進するうえで、企業の開発負荷を軽減する仕組みが必要である。

そこで、わが国の電波法や電気通信事業法で定める無線機器の技術基準適合認定において、必ずしもすべての試験を一から行うのではなく、米国、EUで取得した試験レポートを参照したうえで、わが国の認定と同等の要件を満たしている項目については試験免除とし、その他わが国独自の項目についてのみ差分試験を行うこととすべきである。

これにより、技術基準適合認定の審査の質を維持しつつ、審査プロセスを簡素化することができ、ベンチャー企業から個人事業主に至るまで、多くの主体が無線機器市場に参入しやすくなることが期待される。

<根拠法令等>
  • 電波法第37条、第38条
  • 電気通信事業法第52条、第53条
No. 17. デジタル庁における民間人材の円滑な活用に向けた制度整備
<要望内容・要望理由>

今年創設されたデジタル庁は、行政システムのDXを一気に進めるため、民間デジタル人材を多く登用することとしている。実際、デジタル庁の事務内容には、「情報通信技術を用いた本人確認に関する総合的かつ基本的な政策の企画および立案並びに推進に関すること」(デジタル設置法第4条2の5)や「官民データに係るデータの標準化に係る総合的かつ基本的な政策の企画および立案並びに推進に関すること」(同第4条2の10)等、民間の高度情報技術者の協力が不可欠な業務が多く含まれている。こうした高度な情報力を持つデジタル人材はシステム開発・導入に不可欠であり、民間においても人材不足が顕著である。

しかし、デジタル庁に関わる政府調達への参加ルールは不明瞭であり、現行制度下では、民間企業からの出向者あるいは退職者が調達仕様書の作成に直接関与していた場合、当該調達への応札ができない状況にある。具体的には、「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」において、「各工程の調達仕様書の作成に直接関与した事業者は、透明性および公正性の確保の観点から、当該調達案件の入札に参加させないものとする」との記載のうち、「直接関与」の定義に出向者・退職者等が含まれるとの解釈・運用がなされている。

企業内で育成した人材がデジタル庁に出向した後、企業として特定のシステム調達案件に応札できない場合、大きな事業損失となる。また、デジタル人材本人にとっても、民間やデジタル庁で得た豊富な知識や経験を元の職場や次の転職先で直接活かすことが困難となる。

公正な政策は重要であるが、そのためにデジタル人材の育成や利活用が阻害され、行政システムのDXが遅れてはならない。そこで、秘密保持契約の締結等により透明性を確保することを前提として、デジタル庁の調達にあたっては、「直接関与」の定義から出向者・退職者等を除外すべきである。

これにより、官民連携のもと、「リボルビングドア(回転扉)」形式で広く民間デジタル人材を採用し、官民人材が行き来しやすい仕組みを構築することが可能となる。その結果、政府においてはシステムを活用した質の高い行政サービスの提供、民間においては人材活用による新たな事業創出や技術革新が期待できる。

<根拠法令等>
  • デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン(2021年3月30日最終改定、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)第6章
No. 18. マイナンバーカードの電子証明書の利便性向上
<要望内容・要望理由>

マイナンバーカードの電子証明書に格納されたシリアル番号は、署名検証者が取得・保存し、別の取引での本人確認に使用することが認められている。

ただし、当該シリアル番号を他企業に提供し、当該他企業で本人確認に使用可能かどうかについては、公的個人認証法において明確に示されておらず、署名検証者が他企業にシリアル番号を提供できないことがある。このため、例えば同じグループ内の企業がそれぞれ個人向けサービスを提供しているような場合に、シリアル番号を入手した企業だけが住所等の利用者情報の変更を検知でき、その他の企業は同じ変更を検知できないなど、顧客管理が非効率な状態になる。また、各社サービスごとに何度もカードをかざす操作が必要になるなど、利用者にとっても不便である。

また、署名検証者がJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)に電子証明書の有効性照会を行った際、住所変更等で証明書が更新済であった場合、J-LISから署名検証者に対して最新の住所等を通知するように改める検討が政府で行われているが、通知される情報には更新後のシリアル番号が含まれていない。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/dejigaba/dai14/siryou2.pdf

そこで、署名検証者がマイナンバーカードの電子証明書より取得したシリアル番号について、本人同意の取得、厳格な保管ルール、安全なログ管理等を条件に、同じグループ内の他企業に提供し、当該他企業で使用することを可能とすべきである。具体的には、公的個人認証法の解釈を示し、署名検証者がシリアル番号を他企業に提供できることを明確化するよう求める。

あわせて、J-LISへの電子証明書の有効性照会の際に、住所変更等で証明書が更新された住民について、最新の住所等とあわせて、更新後の電子証明書のシリアル番号も取得可能とすべきである。

これにより、民間事業者が公的個人認証を利用するメリットをより得られ、マイナンバーカード普及促進等に寄与する。

<根拠法令等>
  • 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(公的個人認証法)第18条、第56条、第57条
No. 19. マイナポータルにおけるAPI認証時の包括同意の容認
<要望内容・要望理由>

顧客へのサービス提供にあたり顧客の個人情報を必要とする事業者は、マイナポータルの自己情報取得APIにより、行政機関等が保有する特定個人情報を取得することができるが、取得の都度、本人の同意を得る必要がある。本人同意の手間が煩瑣と感じられる場合には本人からの協力が得られない可能性があり、事業者が自己情報取得API等を利用する恩恵を得られなくなるとともに、本人も適切なサービスを得る機会が失われる恐れがある。

そこで、自己情報取得APIの利用にあたり、事前に本人の同意を得た利用目的、開示範囲、開示先について、本人が同意した一定の期間内に限り、事業者が任意の機会に本人の特定個人情報を行政機関等から取得することを可能とすべきである。なお、情報の取得後は直ちに本人に通知するとともに、同意の撤回も柔軟に許容することで、利用者の選択は担保可能である。

また、自己情報取得APIに限らず、将来的に自己情報取得APIに準ずるAPIによって本人同意を前提に行政機関等から第三者提供される他の個人情報についても、同様の同意に基づく情報の取得を可能とすべきである。

これにより、利用者の利便性向上につながるとともに、本人同意に基づく行政保有個人情報の民間利用が促され、民間企業による新たなサービスの創出が期待される。

<根拠法令等>
  • 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)第8条第2項第一号
  • マイナポータル自己情報取得 API利用ガイドライン(1.2版)
  • マイナポータルAPI利用規約(1.1版)
No. 20. マイナンバーカードへの電子マネー機能共存の認可
<要望内容・要望理由>

マイナンバーカードには拡張利用領域があり、民間事業者において地方公共団体情報システム機構(J-LIS)へ申請したうえで総務大臣の確認を得られれば、マイナンバーカードに民間事業者のサービスが追加できる。しかし、現行のマイナンバーカードの技術的仕様では、電子マネーサービスを追加することができない。また、電子マネーサービスの提供時には、カード等の発行媒体に事業者の氏名・相談窓口をはじめとする情報を記載することが義務付けられているが、仮にマイナンバーカードの拡張領域を利用する場合、カードの発行後に情報を追加で記載することは困難である。

そこで、今後のマイナンバーカード更新のタイミングで、カードの仕様を変更し、電子マネーサービスを追加できる仕様とするとともに、電子マネーサービスを提供する事業者の情報について、カードに直接記載するのではなく、NFCリーダライタ(スマートフォン等)でカードを読み込み、情報を確認する手段を認めるべきである。

これにより、マイナンバーカードの普及率上昇のみならず、キャッシュレス社会の推進にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第18条
  • 資金決済に関する法律第13条第1項及び前払式支払手段に関する内閣府令第22条第2項、第3項
No. 21. GビズIDプライム取得手続の簡素化・簡略化
<要望内容・要望理由>

GビズID制度では、一社に一つのIDプライムアカウントが付与されるが、とりわけ多数の部署が存在する大企業においては、社内横断的な共有に煩雑な手続が必要となり、十分な活用が難しい。従業員に付与されるIDメンバーアカウントの取得にあたっても、アカウント取得の度にIDプライムアカウントからの確認(メンバーのSMS番号等の入力)が必要となる。

そこで、一社内で複数アカウントを部署ごとに利用できるよう、行政サービスの利用においてIDプライムと同じ権限を持つアカウント種別を、IDプライムに枝番を付す形で新たに設けるべきである。その際、IDメンバーとは異なり、アカウント申請時にIDプライムアカウントからの確認を必要とせず、独立した個々のアカウントとして申請・運用することを可能とすべきである。同時に、IDの取得手続について、代表者印付きの申請書ならびに印鑑証明書の原本郵送以外の手段として、電子署名や印鑑証明書の写し(データ)の提出でも可とする等、電子申請を前提にした事務手続を検討すべきである。

これにより、GビズIDプライムの円滑な活用が進展し、行政サービス利用における官民双方の業務の効率化に資することが期待される。

<根拠法令等>
  • なし

2.あらゆる行政手続等の電子化

【マイナンバー活用】
No. 22. 相続手続代行や住宅ローン手続における添付書類省略
<要望内容・要望理由>

民間企業の担う行政手続には、別途行政機関が発行する書面を必要とするものが多くあり、DXの阻害要因となっている。この背景には、行政手続に係るデータが、国民が本人同意のもと、オンラインで自己の情報を行政から取得し、民間企業に送信するマイナポータルの自己情報取得APIの対象になっていないことがある。

そこで、情報提供ネットワークシステムを用いた情報連携の対象に、マイナンバー法の別表第二に記載のない事務を追加し、当該事務の対象となる情報をマイナポータルの自己情報取得APIで個人が取得可能な情報の対象とすべきである。民間企業の担う行政手続においても、個人がマイナポータルで自己情報を民間企業へ提供することを可能にし、手続の完全オンライン化をはかることによって、別途行政機関が発行する添付書類を省略できるようにすべきである。

特に、住宅ローン手続時の住民票の写しや相続手続代行時の固定資産税評価証明などの事務・情報については、早期に別表第二への追記を求める。また、様々な行政手続きに必要な住民票の写しについて、現在住民票関係情報がマイナポータルの自己情報取得APIの対象となっているが、このデータ項目が世帯主との続柄コードと世帯番号のみのため、書面の住民票の写しと同一のデータ項目を対象にすることを求める。

これにより、行政機関による各種証明書の発行とそれに付随する申請手続、証明書の保管・提出等が不要となる。

<根拠法令等>
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第19条第7号、別表第二
  • マイナポータル自己情報取得API利用ガイドライン
No. 23. 雇用保険手続の添付書類省略
<要望内容・要望理由>

高年齢雇用継続基本給付金や育児休業給付金の支給申請にあたり、被保険者 (社員)は事業主(勤務先)を経由して行政機関に手続を行うこととされている。支給手続に必要となる添付書類の中には、受給資格(年齢)や育児休業の事実を確認するための公的書類の写しが求められるが、このような添付書類は既に行政機関が保有している情報である。

政府の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(2020年12月8日閣議決定)では、マイナンバーと各行政手続とシステムとの連結を適切に行うことが明記されている。事業者が既に提出した社員のマイナンバーを活用して行政機関間の情報連携を図り、添付書類の提出を不要とすべきである。

<根拠法令等>
  • 雇用保険法施行規則第101条の5、第101条の13
No. 24. 廃棄物処理法の手続における添付書類の省略
<要望内容・要望理由>

産業廃棄物処理業の許可申請等や産業廃棄物処理施設の設置申請等にあたり、事業者は役員の住民票の写しや成年被後見人および被保佐人に該当しない旨の登記事項証明書、法人の登記事項証明書等を添付しなければならない。様々な添付書類の取得・提出に要する事業者負担は極めて大きいが、これらは既に行政機関が保有している情報である。

政府の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(2020年12月8日閣議決定)では、マイナンバーと各行政手続とシステムとの連結を適切に行うことが明記されている。本手続においても、マイナンバーとの情報連携に速やかに着手し、添付書類の提出を不要とすべきである。

<根拠法令等>
  • 廃棄物処理法第14条、第14条の2、第15条、第15条の2の6
  • 廃棄物処理法施行規則第9条の2、第10条の4、第10条の10、第11条、第12条の10
【法令上の手続の電子化】
No. 25. 公正証書の電子化および作成手続のオンライン化
<要望内容・要望理由>

執行証書(民事執行法第22条第5号)を作成する場合や、事業用定期借地権(借地借家法第23条)を設定する場合等、公正証書を作成する際には、契約当事者本人または代理人が公証役場へ直接出向き、証書に署名捺印をしなければならない。このような制度が、感染症対策としての接触機会の削減や、テレワーク等多様な働き方の推進の妨げとなっている。

そこで、公正証書を電子証明書付き電磁的記録として作成できるようにしたうえで、公正証書作成手続について、定款認証等の場合と同様に、申請から審査、発行、受領までのプロセスをオンライン化すべきである。

これにより、契約当事者と公証人の双方において公正証書作成手続を省力化することができる。また、感染症対策としての接触機会の削減や、テレワーク等多様な働き方の推進にも資する。

<根拠法令等>
  • 公証人法第39条
No. 26. 就労証明書の全国統一化・事業主の押印廃止の徹底・証明内容の簡素化
<要望内容・要望理由>

保育の必要性認定の際に用いる就労証明書は、公開されている標準的様式が十分普及しておらず、市町村により書類フォーマットや証明内容が異なるため、内容に関する調整も多々発生し、企業の大きな負担となっている。

こうしたなか、昨年来、政府においては押印の省略や、就労証明書を含む保育所等の利用希望時に必要な手続のデジタル化について、工程表に基づき進めている。

そこで、今夏改定された就労証明書の標準的様式について、全国レベルでの統一を視野に、市町村に対するこれまで以上の活用働きかけ、および事業主の押印廃止の徹底に注力すべきである。

これにより、工程表が目指す「デジタルで完結する仕組み」の実現に近づくほか、企業においても、負担軽減やリモート勤務の拡大が可能になる。

また、就労証明書の記入事項には、雇用保険に関する届出(雇用に関する基本情報)や、厚生年金(産前産後休業、育児休業期間)に関する届出と重複しているものがある。

情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律で掲げられた基本原則に基づき、行政機関が相互連携・情報共有を進めることで、就労証明書の記入事項の一層の簡素化を図るべきである。

<根拠法令等>
  • 就労証明書の標準的な様式の改定について(府子本第782号 子保発0705第1号 令和3年7月5日)
  • 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第2条
No. 27. 統計法に基づく統計調査のオンライン完結
<要望内容・要望理由>

政府が統計法に基づき国民・企業に対して実施している統計調査では、調査票送付や調査協力依頼のオンライン完結が実現していない。そのため、書類の受け取り・調査概要(締切・企業別ID等)の確認のためだけに出社せざるを得ない状況が生じている。

現状、政府統計共同利用システム等を活用したオンライン回答手段が存在する場合でも、システムにログインするための企業別ID・パスワード等が郵送で届く(例:科学技術研究調査、経済構造実態調査、企業活動基本調査、日銀短観)、あるいは一部の調査(例:科学技術研究調査)において、回答が困難で無回答としたい場合でも仕様上回答を入力しない限りオンラインでの回答を完結できないといった問題がある。この場合、出社して紙媒体での回答に切り替え、郵送する必要がある等、オンラインの利点を十分に活用できていない。

「デジタル・ガバメント実行計画」(2020年12月閣議決定)では、国民生活基礎調査の電子化、統計調査事務におけるマイナンバー活用の検討等が盛り込まれているが、オンライン利用率の向上には、こうした施策とあわせてシステム自体の利便性向上、仕様の見直しを図ることが重要である。

そこで、統計法に基づいて実施される各種統計調査について、ログイン手続を含めた完全オンライン化を実現するとともに、オンライン利用率の引き上げに向けて、オンライン上での柔軟な回答が可能となるようシステムを見直すべきである。

<根拠法令等>
  • 統計法
No. 28. 原子力規制委員会への届出・報告の電子化
<要望内容・要望理由>

原子力規制委員会においては、事務局の原子力規制庁とともに、原子力に対する確かな規制を行うことを目的として、原子力関連設備、核燃料物質、放射性同位元素、国際規制物質等の管理に関する届出・報告・手続を企業に義務付けている。これら提出物については、要求事項で決められた部数を郵送することが求められ、2021年より代表者印の省略が認められたものの、電子的な提出は認められていない。

政府においては、2025年までに98%の行政手続を電子化する目標を掲げているが、上記の原子力規制委員会に係る手続については、デジタル・ガバメント実行計画を含め電子化に向けた取り組みが明らかではないのが現状である。

そこで、セキュリティの確保を前提に、原子力規制委員会が行う手続の電子化を推進するとともに、電子化の導入スケジュールを明確化すべきである。

<根拠法令等>
  • 放射性同位元素等の規制に関する法律施行規則第2条~第7条、第9条~第11条、第14条、第18条、第19条、第21条、第24条~26条、第29条、第31条、第33条、第35条~第42条
  • 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条
  • 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令第7条
No. 29. 法人に係る税務手続の電子化の更なる推進
<要望内容・要望理由>

税務手続において、書面・押印・対面原則の見直しが加速度的に進められているが、残された課題もある。デジタル化の推進による生産性の向上やテレワーク等の柔軟な働き方を実現する観点から、以下の課題に取り組むべきである。

① 法人事業税および法人住民税の還付金に係る通知書の電子化
前年度の課税所得を基にした1/2中間納付を行った年度の課税所得が前年度より大幅に減少した場合や、更正の請求等により、法人事業税および法人住民税の還付金が発生した場合(還付加算金等を含む)、当該還付金の証憑となる更正決定通知書、振込通知書が地方自治体から郵送される。しかし、書面での事務が強いられる上に、通知書の様式(サイズや用紙)が自治体ごとに異なり、統一されていないため、証憑としての通知書の貼付や保管の際に負担となっている。また、還付金の内容に係る記載方法(例えば、還付加算金や延滞金返金などの区分、その計算対象である税目および期間等)が統一されていないため、経理処理に当たり地方自治体への問い合わせが必要になる場合がある。
この問題を解消するために、通知書を電子化することにより様式を統一すべきである。また、将来的には、各自治体からの還付金入金について、窓口自治体によるワンストップ化を行うべきである。

② 電子申告(e-Tax/eLTAX)におけるIDの複数付与
企業の税務申告業務は多岐に渡り、例えば、同じ国税でも法人税と源泉税所得税を取り扱う部門が異なることがある。しかしながら、現在のe-TaxおよびeLTAXともにIDが一法人につき一つしか割り当てられない(e-Taxにおいては支店等がIDを取得することが可能であるが、国税に関する業務は本店に集約していることが多い)。そのため、企業内の部門ごとに可能な作業を分けることができず、データ送信時にID(およびそのパスワード)の管理部署の担当者による入力作業が必要となり、送信データ作成部署への往来が発生している。この結果、リモートワークや電子申告・電子納税の普及が阻害されている。
また、e-TaxおよびeLTAXでの作業とともに、税務に係るデータについても、部門間で情報を隔てることができず、相互に参照できてしまうことから、企業によっては情報統制上の課題となり得る(e-Taxにおいては、「フォルダ機能」によって、申告等データの送信時に格納先フォルダを分けて、パスワードをかけることが可能であるが、情報の管理の観点でID自体を分けられることが望ましい)。
そこで、一の法人に複数のIDを付与する等、所要の措置を講じることを要望する。

③ 固定資産税に係る各種書類の一層の電子化
2021年度税制改正で固定資産税等の賦課税目が地方税共通納税システムの対象税目とされ、今後、一括的な電子納税が可能となったが、固定資産税については書面による納付書(QRコードが付されたものを含む)の継続が前提とされている。また、固定資産税については、社内の設備管理システムへの効率的な評価額等の入力の観点から、名寄帳や課税明細書の電子化ニーズがあるが、対応は一部の自治体にとどまっている。
そこで、固定資産税に係る上記の各種書類について、完全電子化に向けたロードマップを早期に示すべきである。
なお、税務調査の電子化も進めるべきである。現在は対面での調査、FAXによる資料の授受などが主流だが、国税庁の「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」等で掲げられている事項に期待する。今後はWeb会議を活用するともに、e-mailによる連絡や資料の授受を進めるべきである。

<根拠法令等>
  • ① 地方税法第17条、第17条の2、第17条の3、第17条の4
  • ② 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第4条
  • ③ 地方税法364条等
No. 30. 公金出納事務の一元化
<要望内容・要望理由>

令和3年度税制改正において、地方税共通納税システムの対象税目が固定資産税等にも拡充される等、eLTAXを活用した納税業務の電子化が進む一方で、地方税に該当しない公金(道路占用料、行政財産使用料等)については、依然としてその多くが、紙媒体の納入告知書または納入通知書により徴収され、収納も金融機関窓口での納付が前提となっている。

そこで、道路占用料、行政財産使用料等の電磁的方法による告知・通知を可能とし、収納については、口座振替(自動引落)やオンラインバンキング、eLTAXを活用(対象範囲を地方税のみから公金へ拡大適用)できるようにすることを要望する。また、地方自治体共通の仕組みを新たに構築し、通知・収納を電子化することも期待される。

これにより、働き方の柔軟化とバックオフィスの生産性向上を実現する。

<根拠法令等>
  • 道路法第39条
  • 道路法施行令第19条の2
  • 地方自治法第238条の4第7項
  • 各市町村条例等
  • 地方税法第747条の5の2
No. 31. 年初における所得税の扶養控除等申告書提出の廃止
<要望内容・要望理由>

給与所得者(以下、従業員)は、毎年1月の給与支払日までに、扶養状況の変更有無に関わらず、扶養控除等(異動)申告書を毎年提出しなければならない。

しかしながら、企業は、従業員に対し扶養の変化があれば都度自己申告させており、扶養状況を常に把握していることから、年初に改めて従業員に確認のうえ提出する意義は乏しい。従業員に申告忘れに気付かせる機会ではあるが、そうしたケースはほんの一握りに過ぎず、別途被扶養者側の情報との整合が図られ是正されるため、忘れたままになることは考えにくい。

当該申告書については紙で展開・回収する企業もあり、かかる事務が限られた期間に集中するため人的負担も大きい。

そこで、年初における当該申告書の提出を廃止すべきである。扶養状況に異動が生じた際の届出は継続させる前提とする。

これにより、従業員、会社ともに時期を集中した事務負担の軽減が期待され、ペーパーレス化、リモート勤務の促進にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 所得税法第194条、第195条(給与所得者の扶養控除等申告書)
No. 32. 下請法における電磁的記録に関する規律の見直し
<要望内容・要望理由>

テレワーク等多様な働き方の実現や、サプライチェーン全体の生産性向上を図る観点から、商取引における各種書面のデジタル化が急務となっている。しかし、下請取引に関しては、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)に基づく電磁的記録の保存・提供に関して親事業者に過度な負担が求められている部分があり、それが各種書面のデジタル化や電子商取引の拡大を妨げている。そこで、以下の通りに関連する規則等を見直すべきである。

① 下請法第5条に基づく電磁的記録の保存に関する検索機能要件の見直し
下請代金支払遅延等防止法第5条の書類または電磁的記録の作成および保存に関する規則(以下「規則」)第2条第3項第3号ロでは、下請法第5条に基づく書面を電磁的記録として保存する場合には、製造委託等をした日について「その範囲を指定して」記録事項を検索できる機能を有することを要件としている。
しかし、当該書面をPDFファイルで保存しようとした場合、製造委託等をした日を範囲指定で検索することができず、同要件を満たすかが明らかではない。そのため、PDFを印刷して保管する、帳票原紙を授受および保管するために出社が必要となり、テレワーク推進の妨げとなっている。
そこで、規則第2条第3項第3号ロについて、月日を範囲指定で検索できる場合だけでなく、単一の月または月日を指定して検索できる場合についても、要件を満たすことを明確にすべきである。なお、2021年度税制改正では、電子帳簿保存法が改正され、電子取引等における検索要件が緩和された。一定の要件を満たす場合、範囲を指定しての検索は不要となる。こうした取り組みも参考になると思料する。

② 下請法第3条第2項に基づく電磁的記録の提供における受領確認義務の見直し
下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項(以下「留意事項」)第1の2(1)および第2の4では、親事業者が下請事業者に対して下請法第3条第2項に基づく電磁的記録の提供を行う場合、親事業者において下請事業者のファイルに記録されたか否かを確認することが必要となる旨を定めている。これにより、通常の取引とは異なるシステムや業務運用が求められることから、電子取引の活用に伴うコストや作業工数が増大し、その拡大が困難となっている。
そこで、留意事項第1の2(1)および第2の4で定める電磁的記録の受信確認義務を撤廃するか、または努力義務にすべきである。

③ 下請法第3条に関するファックスの取扱いの見直し
下請法第3条に基づく書面の交付または電磁的記録の提供について、受信側が「電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス」の場合は電磁的記録の提供に該当し、「受信と同時に書面により出力されるファックス」の場合には書面の交付に該当するとされており、前者に該当する場合には、留意事項の内容(下請事業者への受領確認等)を遵守することが求められる。
そのため、親事業者が下請事業者に下請法第3条に基づきファックスを送信する場合には、事前に受信側ファックスの種類を確認する必要があり、また、それが困難を伴うこともある。そのため、電子取引の活用に伴う作業工数が増大し、その拡大が困難となっている。
そこで、「電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法」の取扱いに関しては、親事業者が下請事業者のファックスの種類等を承知していない状況で「電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法」をもつ下請事業者にファックスを送付した場合において、送付の時点において、各種電磁的記録を提供するにあたって必要な要件を満たさないとき、ただちに下請法に整合しないという形ではなく、下請事業者が「電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法」であるという旨が下請事業者から親会社に申し出があった後、ただちに親事業者が各種下請法における電磁的取引に伴う要件を満たす努力を行い同要件を満たした場合、整合するものとすべきである。

これらの規制改革により、下請取引における各種書面のデジタル化が一層進むことで、以下の効果が期待される。

  • テレワーク等多様な働き方が拡大し、生産性向上や多様な人材の更なる活躍が実現する。
  • 書類の印刷・保存や郵送が不要となることで、企業のコスト削減や生産性向上に加え、環境負荷の低減につながるものであり、政府が掲げている二酸化炭素排出量削減の貢献効果も期待される。
  • 取引先への契約情報の迅速な提供や誤送等の防止にも寄与する。
<根拠法令等>
  • 下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成および保存に関する規則第2条第3項
  • 下請代金支払遅延等防止法第3条2項
  • 下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項
No. 33. 地域冷暖房の事故発生時における報告の電子化
<要望内容・要望理由>

地域冷暖房施設については、供給支障事故が発生した場合は、熱供給事業者法に基づき、所定の様式により所轄の経済産業省に遅延なく報告する必要がある。しかし、with/postコロナにおいては、報告書を印刷し、しかるべき承認ルートで回覧、押印して所轄の経済産業省に送付する事は、感染等のリスクを伴うのみならず、迅速な決済・報告に支障をきたす恐れがある。

そこで、供給支障事故発生時の報告は、電子的に行うことを認めるべきである。

これにより、報告の迅速化・円滑化ひいてはDXに資するのみならず、用紙削減等による環境保護効果も期待できる。

<根拠法令等>
  • 熱供給事業法施行規則第27条第2項
No. 34. 高圧ガス設備・冷凍設備の保安検査・定期自主検査等における基準類・帳票類の電子化
<要望内容・要望理由>

高圧ガス保安法に基づく高圧ガス設備・冷凍設備の日常点検記録、定期自主検査記録等の帳票・記録簿(10種類存在)は、法律上、最低1年、中には設備が存在する限り永年保管しなければならず、複数高圧ガス設備を保有している企業にあっては、その保管数が膨大になっている。

記録簿等のデジタル化は、経済産業省・環境省告示第二号「電磁的方法による保存等をする場合に確保するよう努めなければならない基準」別表第1を満たす事で可能とされている。しかし、保安検査機関にその旨を相談すると、別表第1に記載されている事項を満たしていても、例えばデータの消失や第三者による点検内容の改ざん等を念頭に、消失の恐れや筆跡等で改ざんのない紙媒体での記録を推奨されるなど、デジタル化を断念せざるを得ない事案が発生している。

そこで、高圧ガス設備・冷凍設備の保安検査等における帳票・記録簿のデジタル化にあたり、同基準別表第1に掲げられている事項を実施していれば、支障がない旨、保安検査機関に周知徹底すべきである。

これにより、ペーパーレス化や業務の効率化が図られ、DXに資するのみならず、CO2削減や資源の効率的な利用といった環境保護効果も期待できる。

<根拠法令等>
  • 高圧ガス保安法一般則第83条の2、同冷凍則第44条の2
  • 電磁的方法による保存等をする場合に確保するよう努めなければならない基準(平成十七年三月二十九日経済産業省・環境省告示第二号)
No. 35. 電線共同溝の占用許可申請の電子化・標準化
<要望内容・要望理由>

電線共同溝の整備等に関する特別措置法に基づき、道路管理者は、電線を地下に埋設し、その地上における電線や電柱の撤去または設置の制限が特に必要であると認められる道路について、区間を定めて、電線共同溝を整備すべき道路として指定することができる。その指定があった際、①建設完了後に当該電線共同溝の占用を希望する者、または、②占用予定者ではなかったが、建設完了後に当該電線共同溝の収容能力に余裕があったために占用を希望する者は、道路管理者に対して当該電線共同溝の占用許可を申請することができる。

しかし、同法施行規則に基づき、申請にあたっては、申請書に書面の資料を添付して道路管理者に提出することとされているため、オンライン化が実現しておらず、コロナ禍におけるテレワークの阻害要因となっている。また、申請時の記載事項は同法施行規則に定められているものの、特定行政庁毎に申請書の様式が異なるため、申請者は特定行政庁毎の様式にあわせて対応する必要があり、負担となっている。

そこで、同法施行規則を改正し、電線共同溝の占用許可申請を電磁的方法も可能にするとともに、同規則等において、オンライン申請の様式の標準を示すべきである。

これにより、申請のオンライン化や特定行政庁における申請の標準化が進めば、企業における関連業務の生産性の向上やコストの削減につながり、政府が掲げる無電柱化の推進にも資するものと期待される。

<根拠法令等>
  • 電線共同溝の整備等に関する特別措置法第4条、第11条
  • 電線共同溝の整備等に関する特別措置法施行規則第1条、第2条
No. 36. 電波法に基づき交付される届出・申請の許可状・免許状の電子保管の容認
<要望内容・要望理由>

電波法では、届出や許可申請は電子化されている一方で、取得した許可状・免許状および申請・変更届出時の添付書類については、常時該当する無線局等に書面で備え付けることが義務付けられている。そのため、印刷・備え付けの作業を要し、オンラインによる手続が完結していない。

そこで、交付される許可状および免許状を電子化するとともに、該当設備における電子的な保管を容認すべきである。

<根拠法令等>
  • 電波法施行規則第38条、第45条の3
No. 37. 建設業の電子取引拡大に向けた技術的要件の緩和
<要望内容・要望理由>

ニューノーマルの働き方実現による生産性向上・多様な人材の活躍推進という観点から、各社においては、法人税法・電子帳簿保存法・下請法・建設業法などの関連法に則って、調達・契約などにおいて取引のデジタル化を推進している。そのうち、建設業法対象案件については、「建設業法施行規則第13条の4第2項」(令和2年10月1日改正前は第13条の2第2項)で原本性の確保が求められており、同規則に基づく「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する『技術的基準』に係るガイドライン」(平成13年3月30日)では、(1)公開鍵暗号方式による電子署名および (2)電子的な証明書の添付が要件として定められている。これは契約書類等が後日改ざんされることを防ぐことを目的とした規制だが、現在普及している電子メール・クラウドサービス・EDIでも、原本性を確保できるようになっている上に、電子帳簿保存法等の別の規制によっても改ざんを防ぐための異なる要件が定められている。このように必要以上に厳しい規制が課せられている結果、事業者の取引コストを高める結果となっているほか、要件を満たせないためにデジタル取引ができず、書面準備で出勤せざるを得ないケースもありテレワークを阻害する要因になっている。

そこで、「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する『技術的基準』に係るガイドライン」に規定される要件(同ガイドライン3 (1)公開鍵暗号方式による電子署名、同ガイドライン3 (2)電子的な証明書の添付)を見直し、同ガイドライン制定時(平成13年)以降の技術進歩も踏まえ、電子メール・クラウドサービス・EDIシステム等を活用した一般取引と同様の運用を可能とすべきである。

これにより取引のデジタル化が進み、テレワークの促進、取引コストの削減、取引データの蓄積を通じた生産性の向上、信用情報の可視化など、経済の高付加価値化を進めることができるようになる。とりわけ、システム投資にコストをかけることが難しい中小企業にとっては恩恵が大きく、2021年6月18日閣議決定の「成長戦略実行計画」(第10章 足腰の強い中小企業の構築)の実現にも資する。

<根拠法令等>
  • 建設業法施行規則第13条の4第2項
  • 建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン
No. 38. 公共工事における提出資料の電子データ提出への一元化
<要望内容・要望理由>

「経済財政運営と改革の基本方針2020(2020年7月17日閣議決定)」および「規制改革実施計画(2020年7月17日閣議決定)」は、国民や事業者等に対して書面の作成・提出等を求める行政慣行を廃止し、全ての行政について電磁的手続で一貫できる体制を整えることとしている。公共工事については、機器等を納品する際、資料提出の方法として、紙のほか電子データによる納品が認められており、公共建築改修工事標準仕様書平成31年版において書面の書式として「電子メール等の情報通信の技術を利用する方法を用いて行うことができる」との記載がある。

しかしながら、現状では、紙と電子データが混在していることにより、実態としては、地方公共団体等多くの官公庁の発注元からは紙での資料提出(納入仕様書、完成図書、取説、一括保証書、試験成績書、出荷証明書等)を求められるほか、紙とデータの両方での資料提出を求められるケースもある。コロナ禍でテレワークが中心となる中、紙の資料作成のために出社を余儀なくされるなど、資料作成に負担が生じている。

そこで、少なくとも国の公共工事における提出資料については、紙形式での提出を廃止し、電子的データ提出へ一元化すべきである。また、地方公共団体についても、電子的データの提出に一元化するよう技術的助言を行うべきである。

これにより、公共工事に係る業務のデジタル化が進み、資料作成のための出社が不要となり、テレワーク拡大によるコロナ感染拡大の抑止に寄与できる。また、紙ベースでの資料作成に要していた、紙・ファイル・印刷費等の経費削減や、作業時間の削減等、働き方改革の推進による生産性向上が期待される。

<根拠法令等>
  • 公共建築工事標準仕様書 平成31年度版
No. 39. 建築基準法に基づく定期調査報告書・定期検査報告書の標準化
<要望内容・要望理由>

ビルメンテナンス業界では、少子高齢化等による担い手不足が顕在化している。保守品質の低下を防ぐため、各社は現場での点検業務のみならず事務作業を含む、業務プロセス全体の効率化に努めている。例えば、建築基準法に基づく定期調査報告書や定期検査報告書の作成の効率化に向けて、点検結果を入力すると自動で報告書を作成するシステムの構築に取り組んでいる。

しかし、同法施行規則では、報告書の様式を示しているものの、特定行政庁が規則により別途様式を定めることができるとしているため、特定行政庁毎に報告書の様式が異なっている。そのため、上記の自動化システムを構築しても、特定行政庁毎の異なる様式に都度対応する必要があり、システム導入・運用におけるコスト増加の大きな要因となっている。

そこで、同法施行規則を改正し、特定行政庁が別途様式を定めることができるとしている点を削除すべきである。

これにより、建築基準法に基づく報告書の全国での標準化が実現すれば、ビルメンテナンス業界の業務効率化やコストの削減につながり、保守品質の保持に資するものと期待される。また、標準化した状態で点検に関するデータが集積することにより、データの解析が容易になり、地域性・建物特性等に応じた故障予測、保全計画の自動作成等、新たなサービスの開発につながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 建築基準法第12条
  • 建築基準法施行規則第5条、第6条
No. 40. 地方公共団体の行政手続における請求書への押印原則の緩和
<要望内容・要望理由>

地方公共団体の行政手続における押印撤廃について、内閣府は「地方公共団体における押印見直しマニュアル」を策定して推進を呼びかけている。しかし、地方公共団体毎にその対応は大きく異なっており、進捗が見られない自治体も少なくない。

とりわけ一部地方公共団体に提出する請求書においては、現在もなお「競争入札参加資格申請時に登録した印の押印」が求められており、コロナ禍においても請求書の印刷および押印のため出社を余儀なくされ、テレワークが阻害されている。

一方で、個別に交渉することで、システムによる押印(印刷印影)が認められるケースも出てきているが、ごく一部の自治体に限られており、多くの自治体では慣習等により印刷印影は認めていない。

そこで、自治体向けの請求書への押印について、一時的に押印を不要とする、あるいはシステム押印(印刷印影)を認めるよう、国から通知を発出すべきである。

上記措置が実現すれば、テレワークの普及促進に資するのみならず、多くの事業者にとって請求書作成・提出にかかる業務工数の削減につながり、業務効率化・生産性向上が可能となる。

なお、将来的に電子インボイス請求が実現すれば、本対応は不要となるが、全国的にすぐの対応は困難であるため、コロナ禍を乗り切るためにも、経過措置として本対応の早期実施を望む。

<根拠法令等>
  • 各自治体の会計規則
No. 41. 地方公共団体の入札に関する一連の手続のデジタル化
<要望内容・要望理由>

国の土木工事の入札手続はCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)により電子化されているが、一部を除く地方公共団体においては書面・押印前提の手続となっており、民間企業のDXを阻害している。また、入札参加資格申請の手続については、地方公共団体毎に様式が異なっており、応札企業は情報収集、書類作成に多くの手間を要している。

そこで、地方公共団体の公共事業調達において、入札参加資格申請から入札ならびに契約までの一連の手続をすべて統一・デジタル化すべきである。

これにより、地方公共団体・応札企業双方において業務の多大な効率化が見込まれる。

<根拠法令等>
  • 地方自治法施行令第167条の5
  • 各自治体の条例・規則
No. 42. 地方公共団体の調達業務のオンライン化
<要望内容・要望理由>

地方公共団体における物品の調達においては、クレジットカード等を利用したオンライン決済が認められていない。また、少額消耗品、備品の購買について、見積額と請求額が完全に一致することが法的に求められるため、見積取得時よりも価格が低下する可能性のあるマーケットプレイス型の電子商取引(EC)の利用が困難となっている。

地方自治法第232条の5では、「普通地方公共団体の支出は、債権者のためでなければ、これをすることができない」とあり、地方公共団体の支出にあたっては、支払いの相手方が正当な債権者であることが原則とされている。地方自治法第232条の5第2項、同法施行令第161条ないし第164条の3では、上記原則に対する特例として「資金前渡」、「概算払」、「前金払」、「繰替払」、「隔地払」、「口座振替」および「私人への支出事務の委託」の支払方法が認められているが、クレジットカード決済は法で認められる支払方法として明記されていない。

また、地方自治法第232条の3では、「普通地方公共団体の支出は支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない」とあり、見積額と請求額の完全一致を求められるため、(概算)見積額よりも低下した価格での請求・納品が認められない。

そこで、支払方法としてクレジットカード決済が可能である旨を明確にするとともに、概算見積額と請求額が一致しない場合でも、一定の要件のもとで調達(購入)を可能とすべきである。

これにより、地方公共団体における調達業務のオンライン化・効率化が期待されるとともに、サプライヤーとの取引の選択肢が増え、より合理的な調達に寄与することが見込まれる。

<根拠法令等>
  • 地方自治法第232条の3、5
  • 地方自治法施行令第161条、第164条の3
No. 43. 水害・防災ハザードマップ提示の電子化および情報集約義務化
<要望内容・要望理由>

宅地・建物取引時に行う重要事項説明では、水害ハザードマップにおける売買・交換・貸借対象物件の位置付けを消費者に説明することが義務づけられている。この水害ハザードマップの提示は、法令上、紙媒体でしか認められていない。

対象物件が位置する地方自治体のホームページ等を確認し、入手可能な最新の水害ハザードマップを使用することになっているが、ホームページ情報等の印刷後、消費者に提示するまでにタイムラグがあるために、消費者に説明を行う当日までに、地方自治体がホームページ上の防災ハザードマップを更新していた場合は再度重要事項説明を行うことになる等、宅地・建物取引に支障が発生している。

そこで、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方を改正し、当該地方自治体が当該ハザードマップを自らのホームページ等に掲載している場合は、当該ハザードマップ(主にPDF資料)の電磁的方法による提示も認めるべきである。

これにより、当該ハザードマップが入手可能な最新のものであることが担保されるほか、資料の拡大・縮小、電子メール等での送付も可能となるなど、消費者・事業者の双方の利便性の向上につながる。

なお、国土交通省は、地方自治体が公表する情報を一元化したハザードマップポータルサイトを作成している(https://disaportal.gsi.go.jp/)。地方自治体が自らのホームページ等に防災ハザードマップを掲載している場合、同省「わがまちハザードマップ」上にそのホームページ等へのリンクを掲載し国土交通省へ報告すること、さらにハザードマップを更新するなどして資料の掲載リンクを変更した場合は速やかに国土交通省へ報告し、ポータルサイトに反映することを義務化することにより、宅地・建物取引の重要事項説明への活用・根拠資料となりうる。また、地方自治体が作成する防災ハザードマップを電磁的資料に変換して国土交通省へ報告することを義務化し、同省「重ねるハザードマップ」が一層整備されれば、これを宅地・建物取引の重要事項説明の根拠資料とすることも可能になる。

これらにより、デジタル情報をワンストップ化することで、情報を取得する手間が省け、タイムラグにより誤情報を消費者に提供する可能性が減少するほか、消費者が自由に各種ハザードマップや防災地理情報を入手・閲覧することが可能となり、住民の防災意識の向上や災害発生時の迅速な避難行動の実現にも資する。

<根拠法令等>
  • 宅地建物取引業法第35条第1項第14号
  • 宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3第3号の2、同法の解釈・運用の考え方
  • 水防法第15条第3項
  • 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律第8条第3項
  • 地震防災対策特別措置法第14条第2項
  • 活動火山対策特別措置法第2条(基本方針)
No. 44. 健康保険に関わる手続の事業主経由の省略
<要望内容・要望理由>

法令上、健康保険に関して被保険者が行う手続のうち一部(被扶養者の届出等)は、事業主を経由して健康保険組合に提出することとなっている(被保険者が事業主に提出し、事業者が健康保険組合に提出する手続も含む)。しかしながら、被保険者に関する情報(氏名や住所の変更、扶養者の増加等)が、別途、被保険者である従業員から事業主に伝わり、何らかの手段(独自システムの共同利用等)で事業主と健康保険組合の間で情報が共有・確認される場合、上記健康保険手続に関する届出そのものについて事業主を経由させる必要性は乏しい。

例えば、ある企業では、個人情報の共同利用に関する覚書の締結等を行った上で、事業主の人事システムと健康保険組合の基幹システムの情報連携を図っている。この仕組みを活用することにより、被保険者から健康保険組合に直接申請を行ったとしても、その申請情報を事業主と健康保険組合がシステム的に共有・確認することが可能である。こうした直接申請ができれば、被保険者の申請手続の電子化(ペーパーレス含む)・ワンストップ化が可能となり、被保険者の利便性向上と手続完了までのリードタイム短縮、更には、誤入力のシステムチェック機能により事業所・健康保険組合担当者の事務負担軽減やリモートワークの推進を図ることができると見込まれる。

そこで、上記のとおり、必要な情報が事業主と健康保険組合で共有される手段を有し、かつ事業主と健康保険組合が同意する場合は、届出そのものを被保険者から健康保険組合に直接提出したとしても、法令上の「事業主経由での提出」あるいは「被保険者が事業主に提出し、事業者が健康保険組合に提出」が行われたものとみなすべきである。

これにより、健康保険に関する手続の事務負担の軽減が期待できる。

<根拠法令等>
  • 健康保険法施行規則第28条、第36条、第38条、第49条
  • 介護保険法及び介護保険法施行法の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令、介護保険法等の施行に伴う厚生省関係省令の整備等に関する省令の施行に伴う事務取扱について(平成一二年三月二一日)(庁保険発第一二号)
No. 45. 健康保険組合における会計帳簿の電子化
<要望内容・要望理由>

厚生省(当時)通知により、健康保険組合においては、法定帳簿である「歳入簿」「歳出簿」「現金出納帳」を紙で保存する必要がある。紙での帳簿保存は保管場所を確保する必要があるとともに、編綴にも時間を要することから、事務処理にかかる負担が大きくなっている。

また、電子帳簿保存法および、e-文書法の制定・施行・定着に伴い、電子取引・承認が徐々に拡大しており、請求書や領収書を紙で発行しない会社・団体も見受けられる。こうした中、厚生労働省(地方厚生局)の指導により、請求書や領収書が紙で発行されない場合、健康保険組合は、別途、紙での関係書類の作成を発行元に特別に依頼するよう求められるケースがあり、事務手続が煩雑となっている。

そこで、現在、健康保険組合における紙媒体で保管している会計帳簿(法定帳簿や請求書・領収書)について、電子化によるデータ保管を認めるべきである。

これにより、業務効率化に伴う事務負担の軽減や、労働時間の削減による働き方改革の実現に繋がることが期待できる。

<根拠法令等>
  • 健康保険法施行規則第12条
  • 厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令第3条
  • 「健康保険組合における経理事務を電子計算機を利用して処理する場合の取扱いについて」(昭和61年11月28日 保険発第104号厚生省保険局保険課長通知)
No. 46. 雇用保険各種通知書(被保険者通知用)の電子化
<要望内容・要望理由>

雇用保険手続において、被保険者用に発行される書類(雇用保険被保険者証・高年齢雇用継続基本給付金の決定通知・介護休業給付の決定通知・育児休業給付の決定通知等)は公共職業安定所から事業主に電子または郵送(申請時と同様の方法)で通知・配布されることとなっており、そこから事業主はメール(郵送)等で被保険者に送付している。例えば、育児休業給付の決定通知は、休業している従業員へ毎月(または隔月)メール等を送る業務が発生しており、送付対象者が多ければ多いほど、その業務負担が過度となり、人事担当者の生産性向上の妨げになっている。

そこで、①雇用保険について、現在、マイナポータル「あなたの情報」にて雇用保険資格取得日と事業所名称は閲覧可能な状態にあること、②昨年度、経団連から提出した「離職票の電子化」の要望に対して厚生労働省からマイナポータル「お知らせ機能」の活用を今後検討と回答があったことを踏まえ、マイナポータルにおける更なる機能充実(掲載情報の追加)を図るべきである。具体的には、雇用保険手続において、ハローワークが被保険者用に発行する書類(雇用保険被保険者証・高年齢雇用継続基本給付金の決定通知・介護休業給付の決定通知・育児休業給付の決定通知等)を、事業主を通じなくても被保険者本人がマイナポータルで直接確認できるようすべきである。

これにより、事業主にとって、ハローワークから被保険者用に発行される書類について被保険者へ送付(メール・郵送)する事務を廃止することが可能となり、郵送等コストの削減、誤発送・誤送付・遅延リスクの削減、人事担当者の生産性向上に繋がる。被保険者にとっては、書面を紛失するリスクがなくなるとともに、いつでも自身の情報を確認することができ利便性が向上する。マイナンバーカードのサービス向上ならびに普及促進に繋がり、社会全体にとってもメリットがある。

<根拠法令等>
  • 雇用保険法施行規則第10条(被保険者証の交付)、第101条の5第4項(高年齢雇用継続基本給付金の支給通知)、第101条の19第3項(介護休業給付金の支給通知)、第101条の30第3項(育児休業給付金の支給通知)

3.グリーン成長の実現

No. 47. 電気主任技術者の外部委託承認制度に係るスマート保安の検討加速
<要望内容・要望理由>

コンビニをはじめ、従来は低圧受電をしていた設備の高圧受電化や太陽光発電設備の増加等により、足元では、必要な電気主任技術者の数が増加している。しかし、少子化・高齢化に伴う退職者増・入職者減と相まって、電気主任技術者の不足が一層深刻化することが懸念されている。電気主任技術者の不足は、安定的な電気保安業務に支障をきたすのみならず、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの導入加速の阻害要因ともなり得る。

また、Society 5.0への移行を目指す折、技術革新やデジタル化といった環境変化に対応した合理的な保安体制を実現することも重要である。

そこで、将来の電気保安業務のあるべき姿を念頭におきつつ、スマート保安促進の一環として、デジタル技術等の活用による遠隔監視の推進、電気主任技術者の選任要件緩和等とともに、電気主任技術者の外部委託承認制度に係る①点数計算における設備ごとの換算係数・圧縮係数の見直し、②月次点検および停電を伴う年次点検の期間延伸について、検討を加速し早期に結論を出すべきである。

これにより、電気主任技術者の人材不足の解消、人的資源の有効活用が図られるとともに、2050年カーボンニュートラル達成に向けた再エネの普及拡大にも資すると期待される。また、政府のスマート保安政策の目的である、産業保安力の維持・向上や生産性向上に貢献すると考えられる。

<根拠法令等>
  • 電気事業法施行規則52条、52条の2、52条の4
  • 平成15年経済産業省告示第249号(電気事業法施行規則第52条の2 第1号ロの要件に関する告示)
  • 平成15年経済産業省告示第249号第4条(点検頻度)七
  • 主任技術者制度の解釈及び運用(内規)(令和3年3月1日付け20210208保局第2号)6. (1) ④イ、4. (7) ③イ
No. 48. 平面駐車場へのソーラーカーポート設置時における建ぺい率・容積率の計算対象除外
<要望内容・要望理由>

カーボンニュートラルの実現が求められる中、商業施設の脱炭素化を進めるには、建物の屋根・平面駐車場を太陽光発電に最大限有効活用することが期待される。このうち、建物の屋根は、建物の構造面・施工性の観点からの制約により、太陽光発電の架台を事後的に設置することが困難な状況にある。そのため平面駐車場の活用が必要となるが、平面駐車場に設置するソーラーカーポートは、現行法令上建ぺい率・容積率の計算対象となり、大規模な太陽光発電設備を設置する妨げとなっている。

そこで、ソーラーカーポートを商業施設の平面駐車場へ設置する場合においては、交通上・防火上等の課題がないことを前提に、建ぺい率・容積率の計算の対象外とすべきである。また、本措置に留まらず、ソーラーカーポートの導入促進に向けた一層の規制緩和につき、検討を加速するべきである。

これにより、足元で、発電の適地が需要地から離れており送電線への接続が太陽光発電導入のボトルネックとなっている中、需要地そのものである商業施設への電源立地の加速が期待される。

<根拠法令等>
  • 建築基準法第52条(容積率)、第53条(建蔽率)
No. 49. バイオマスボイラーの遠隔制御監視基準の緩和
<要望内容・要望理由>

現行「ボイラーの遠隔制御基準等について」(基発第0331001号)において、ガスだきおよび油だきのボイラーは、ボイラー設置場所または遠隔監視室以外の場所において監視装置による監視が認められている。他方、バイオマスボイラーはガスだきおよび油だきボイラーには該当しないため、バイオマスボイラーをボイラー設置場所以外で遠隔監視するためには、遠隔監視室の設置が必要となる。

今後、わが国が目指す2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーである木質系バイオマスを燃料とするバイオマスボイラーの普及拡大が期待されるところ、監視装置による監視が認められていないことが、ガスだき・油だきボイラーからの置き換えを含め、バイオマスボイラーの普及・拡大の支障となっている。

そこで、ガスだき・油だきボイラー同様にバイオマスボイラーにも適切な保安環境を確保する事を前提に、監視装置による遠隔監視を可能とするべきである。

これにより、現在、監視装置を使って運用されているボイラーからバイオマスボイラーへの置換が促進される等、温室効果ガスの排出量の削減に繋がることが期待される。

<根拠法令等>
  • 厚生労働省労働基準局長通達(基発第0331001号)ボイラーの遠隔制御監視基準等について
  • 別添2 ボイラーの監視装置による監視についての基準
No. 50. リチウムイオン蓄電池の消防法等における取扱いの見直し
<要望内容・要望理由>

一般的に消防法の規制体系として、指定数量1.0倍以上の設備は「危険物」として消防法の規制に服し、0.2倍以上~1.0倍未満の設備は、国が指針として示している「火災予防条例(例)」に基づき自治体が策定する火災予防条例の規制に服するとされている。こうしたなか、リチウムイオン蓄電池といった蓄電設備については例外的に、指定数量0.2倍より相当程度低い数値にあたる4800Ah以上の設備が火災予防条例の規制に服することとなっている。

リチウムイオン蓄電池については、「消防危第303号(平成23年12月27日)」により、指定数量以下となる設備に関して、求められる設備構造等の規制を一部緩和する方針が示されているものの、自治体により運用がまちまちである。また、追って示すとされている指定数量1.0以上となる場合の蓄電設備の取扱いも、現状、規定されていない。

こうした状況は、リチウムイオン蓄電池が広く普及するなか、商流上、大きなコスト増加につながっており、更なる導入の障害となっている。

そこで、リチウムイオン蓄電池に関して、安全性の確保を前提に、上記の火災予防条例の規制を受ける下限の基準を指定数量0.2倍に引き上げることを検討するべきである。併せて、指定数量0.2倍~1.0倍のリチウムイオン蓄電池については、消防危第303号の緩和対象であることを改めて周知・徹底すべきである。また、消防危第303号に記載の通り、「指定数量以上となる場合の蓄電池設備の取扱い」について、蓄電池種毎の特性を加味し、発火・類焼などの危険度とその対策に応じた設置条件について検討を加速するべきである。

これにより、蓄電池の普及拡大による再生可能エネルギーの出力変動緩和、脱炭素社会実現に貢献できる。

<根拠法令等>
  • 消防法別表第1備考第14
  • リチウムイオン蓄電池の貯蔵及び取扱いに係る運用について(消防危303号)
  • 火災予防条例
No. 51. 業務用ヒートポンプ給湯機の性能評価基準の見直し
<要望内容・要望理由>

近年、気候変動対策への関心の高まりや省エネ政策等の推進により、給湯の効率化・省エネ化へのニーズが高まっている。建築物省エネ法に基づく適合性判断のための業務用ヒートポンプ給湯機の省エネ性評価は、現行、「エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)Ver.3.0」により、冬期に高温で貯湯することを想定し、65℃以上かつ当該製品が可能な最も高い温度での出湯で行われている(JRA4060で規定される「冬期高温貯湯条件」での実施)。

しかし、実際には、給湯機は適温帯(40℃付近)を使用されることが多いため、同プログラムにより評価された省エネ性能は、実際の使用における省エネ性能と乖離している。また、出湯可能温度は65℃から90℃程度と製品によりばらつきがあることから、出湯可能温度が高い給湯器ほど、高い温度で性能評価が行われることとなる。その結果、評価時における消費電力が多くならざるを得ず、出湯可能温度が低い給湯器と比べ省エネ性能が低く評価され、適合性判断において不利になり、公平性が保たれない状況にある。

そこで、建築物省エネ法に基づく省エネ性能評価方法を、現行の冬期高温貯湯条件によるものから、例えば、年間加熱効率(通年で一定量の湯を使用し運転した場合の、消費電力量1kWhあたりの加熱量。年間加熱量を年間消費電力量で除したもの)によるものに変更すべきである。

これにより、実際の使用に近い状態で省エネ性能を評価できるようになるとともに、出湯可能温度のばらつきによる製品間の不公平を是正できる。

<根拠法令等>
  • 建築物省エネ法第1章第2条第1項第3号
  • 平成二十八年経済産業省・国土交通省令第一号 建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令第1条第1項第1号イ
  • エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)Ver.3.0
No. 52. IoT・AI化による廃棄物処理施設の変更許可規制の緩和
<要望内容・要望理由>

廃棄物処理施設は、処理能力を10%以上増大するものに変更した場合には許可が必要となり、許可を得られるまでに時間を要するため、機動的な事業活動が阻害されている。

当該許可を得るためには、①技術上の基準への適合、②周辺地域の生活環境の保全および周辺施設への適正な配慮等の要件を満たす必要がある。その際、②の周辺地域の生活環境等については、廃棄物処理施設に IoT・AIを導入し、周辺地域の生活環境等に与える影響を随時モニタリングすることとし、一定程度以上の悪影響が生じていることを検知した場合には、設備を即時停止する仕組みとすることで、保全を図ることが可能である。

そこで、廃棄物処理施設に、工場内設備や操業状況の異常や周辺環境への影響をリアルタイムでデータ収集可能なIoT・AI装置を導入し活用する場合には、周辺地域の生活環境の保全の観点からの設備変更許可を不要とすべきである。

当該要望の実現は、機動的なサーキュラー・エコノミーへの取り組みを可能とすると同時に、Society 5.0の実現にも資するものである。

<根拠法令等>
  • 廃棄物処理法第8条、第9条、第15条、第15条の2の6
  • 廃棄物処理法施行規則第4条、第5条の2、第12条、第12条の8
  • 廃棄物処理施設等の更新および交換に係る手続について(通知)
No. 53. 有機廃棄物からエネルギーを生成する技術の社会実装に向けた規制の緩和
<要望内容・要望理由>

ゴミを分別することなく処理し、低環境負荷なエネルギーに転換する可搬型装置が開発されている。この装置は身近で発生するプラスチックや賞味期限切れの有機廃棄物をオンサイトで分別不要かつ低廉な費用でエネルギー化することを可能とする。このような装置の社会実装が実現すれば、有機廃棄物のこれまで以上の有効利用が可能となるとともに、自立分散型エネルギーの実現にも貢献する。例えば、被災地での災害ゴミの処理や機動的なエネルギーの供給が可能になる。しかしながら、この社会実装のためには、廃棄物処理法および労働安全衛生法の規制の緩和が必要である。

① 排出者が自ら廃棄物を処理する場合には一般廃棄物処理施設許可を不要にするべきである。
現行の廃棄物処理法では、同法15条1項および施行令7条で定める廃棄物処理施設に該当しない場合、1日の処理能力に関わらず、産業廃棄物処理施設許可が不要である。しかしながら、排出事業者は事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないとされるなか、排出する有機廃棄物が事業系一般廃棄物に分類された場合には、排出者が自ら処理する場合であっても、1日の処理能力が5t超の場合には、一般廃棄物処理施設許可が必要になる。
そこで、排出事業者が、排出事業者責任に則り、自ら排出する有機廃棄物を処理する場合には、産業廃棄物に準ずる取扱いを可能とし、一般廃棄物処理施設許可を不要とすべきである。
廃棄物処理業者の所有する処理施設は規模も大きく処理能力が高いことが想定されるため、一定の規制を設ける必要性はあると考えるが、排出事業者が自ら処理する目的であれば施設規模も小さく、処理能力は一定水準に止まると考えられる。

② 移動式圧力容器について、移動式ボイラーと同様の規制にするべきである。
当該技術には、第一種圧力容器とボイラーが必要であるところ、「移動式ボイラー」は、ボイラーおよび圧力容器安全規則11条で「報告」のみで移動先での運転が可能であり、移動先ですぐに利用できる。しかしながら、「移動式圧力容器」(第一種圧力容器を移動させて使う場合)は、利用開始30日前までに、移動先の労働基準監督署長に届出をしなくてはならないため機動的運用を阻害している。
また、「第一種圧力容器」と「移動式ボイラー」を組み合わせた場合には、「第一種圧力容器」は「移動式ボイラー」の付帯物とみなされるために、「移動式ボイラー」の規制に準じ、「報告」のみでの運転が可能とされている。しかし、「第一種圧力容器」単体の場合では利用開始30日前までの届出が必要であることは合理性に乏しい。
そこで、圧力容器に関してもボイラー同様に、移動式である場合は「報告」のみでの運転を可能とすべきである。
これにより、「移動式圧力容器」が機動的に活用できれば、災害ゴミ等、臨時で発生し、かつ急な処理を要する有機廃棄物をオンサイトで処理できるようになる。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律第15条1項、第8条1項
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第7条、第5条1項
  • 労働安全衛生法第88条1項
  • ボイラー及び圧力容器安全規則第11条、56条
No. 54. 電子マニフェスト(産業廃棄物管理票)使用の原則化
<要望内容・要望理由>

紙の産業廃棄物管理票(マニフェスト)は、DX・テレワーク実施の阻害要因となっている。現状、電子マニフェストの使用義務を負うのは年間50t以上の特別管理産業廃棄物多量排出事業者のみであり、少量排出事業者には義務化されておらず、完全なる普及には至っていない。

電子マニフェストは、排出事業者、収集運搬業者および処分業者の三者全てが使用することで初めて有効に機能するシステムであるが、少量排出事業者が依然として紙マニフェストを使用しているため、収集運搬業者および処分業者においても紙マニフェストに対応せざるをえず、業務の非効率化の要因となっている。特に、コロナ禍においてもそのためだけに出社をしなければいけない状況となっており、感染リスクにも影響を及ぼしている。

そこで、DXの推進、およびコロナ感染リスク低減の観点から、更なる電子化を進め、電子マニフェストの使用を原則化すべきである。

電子マニフェストは、情報管理の合理化につながるのみならず、廃棄物処理システムの透明化、都道府県等自治体の監視業務の合理化、不適正処理の原因究明の迅速化を図ることができるなど、関係者へのメリットが非常に大きい。また、(公財)日本産業廃棄物処理振興センターの調査によると、電子マニフェストは紙マニフェストと比較し、作業時間・コストとも半減できるとの試算もある。さらに、当該要望の実現は、ポストコロナにおけるSociety 5.0の実現にも資するものである。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律第12条の3、第12条の5第1項
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則第8 条の31の2、3

4.ヘルステックの推進

No. 55. 処方箋医薬品関連業務のニューノーマルへの対応
<要望内容・要望理由>

厚生労働省が打ち出した「患者のための薬局ビジョン」は、「健康サポート機能」「高度薬学管理機能」「服薬情報の一元的・継続的把握」「24時間対応・在宅対応」「医療機関等との連携」の5つの項目から成っており、こうした「対物」から「対人」業務を推し進める方向で、医薬品医療機器法も改正されたところである。また、人々の多様な暮らしや働き方が浸透しつつあるなか、従来の薬局内・病院内での調剤、服薬指導、薬の受け渡しに限らない、患者や薬剤師の様々なニーズに柔軟に対応できる多様な選択肢が求められている。

調剤、服薬指導、薬の受け渡し、新たな薬局の形態といった処方箋医薬品関連業務について、医療分野のDXを推進し、ニューノーマルに対応するためには、以下の課題を解消することが不可欠である。

① 調剤業務の外部委託化・薬剤師配置基準の緩和
服薬指導、販売および調剤業務は同一薬局に従事する薬剤師が行うという現在の規制下では、薬剤師は対物業務(処方箋受取・保安、調剤、報酬算定、薬剤監査・交付、在庫管理・廃棄処理等)に追われ、人材不足や長時間労働の課題を抱えており、薬剤師の専門性を活かした患者本位のサービス提供が難しい状況となっている。対人業務の充実を図るためには、ICTツールの活用により対物業務の負担を削減することが求められており、実際に、規模の大きな薬局では機械化が進み、業務効率化が図られている。一方、全国の約8割を占める中小薬局では個別に機械化やICT化への設備投資が難しいのが実態である。
このような中小薬局における一包化等の調剤業務を、高度に機械化の進んだ薬局へ外部委託し、対人業務と対物業務を分担できれば、かかりつけ薬剤師は対人業務(重複投薬や飲み合わせ等の処方箋内容チェック、医師への処方箋内容の照会、より丁寧な服薬指導、在宅訪問での薬学管理、副作用や服薬状況のフィードバック、処方提案や残薬の解消等)に集中することが可能となる。受託者である薬局においては、集約化・機械化/ICT化等による更なる業務効率化、調剤業務の正確化および迅速化、医薬品流通の適正化および効率化に資する。
特に、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年以降は、在宅医療のニーズの増加が確実であり、薬剤師の在宅業務への関わりを増大させる必要がある。在宅患者の大半は、薬局において内服薬を一包化されており、一包化業務は在宅業務の大きなウェイトを占めている。一包化業務を含む調剤業務を外部委託できれば、対物業務の負担が減り、居宅療養管理指導に取り組む薬局数の増加に寄与すると考えられる。在宅医療に薬剤師が関与すれば、患者の薬剤管理状況が改善され、在宅医療における飲み忘れ等の年間薬剤費500億円のうち400億円が解消されるとの粗推計もある。
また、現行制度上、薬局における薬剤師の配置基準について、1日の平均取扱処方箋数40枚あたり1人以上の薬剤師を配置することが求められているが、先述のような機械化による効率化が進んだ薬局においては、当該規制によって処方箋の取扱いが過剰に抑制され、また、過剰な薬剤師に係る人件費の確保を強いられる結果、効率的な薬局経営が妨げられる可能性がある。加えて、当該規制については、その上限の妥当性や、そもそもの上限の必要性について一部の有識者から疑問が呈されているところである。
そこで、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)施行規則」第11条の11および第15条の12を改正し、処方箋を受け取った薬局が、調剤を外部の薬局に委託できるようにすべきである。さらに、「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」第1条第1項第二号を改正し、平均取扱処方箋数40枚あたり1人以上の薬剤師配置基準を撤廃も含めてより柔軟な基準へと見直すべきである。

② 薬局外からのオンライン服薬指導の実現
2020年9月1日に施行された改正薬機法によりオンライン服薬指導が恒久化されたものの、薬剤師が服薬指導を行うことができるのは、その調剤を行った薬局内の場所とすることが義務付けられている。
当該規制の理由について、2020年度規制改革・行政改革ホットラインにおける厚生労働省回答では、
 a. 調剤・交付と服薬に関する情報提供・指導が一体であること
 b. 患者のプライバシーへの配慮が必要であること
が示されている。しかし、a. については、薬剤服用歴のデータ一元化、調剤外注等、調剤分野におけるDXの進展を踏まえることが重要であり、b. については、薬剤師側の指導環境が適切であることを患者に提示することで対応可能である。現行制度下では、薬局で服薬指導を受けるために、他の患者に情報が聞こえているなど、却ってプライバシーを損ねていることも配慮すべきである。
加えて、全国の届出薬剤師31万人のうち6割が女性である一方で、出産・育児期の女性が薬剤師勤務との両立が困難なため退職している現状がある。これは、薬剤師本人はもとより、患者にとっても「かかりつけ薬剤師」による継続的な指導機会の損失であり、テレワークの促進をはじめとする薬剤師の労務環境の見直しは喫緊の課題である。
薬局外からオンライン服薬指導ができるようになれば、かかりつけ薬剤師が当該薬局に滞在していないテレワーク中や、薬局が閉まっている夜間・休日等においても、患者が指導を希望する適切なタイミングでオンライン服薬指導を行うことができる。これにより、患者にとっても薬剤師との相談・意見交換等が容易となることで、利便性や服薬アドヒアランス(患者による治療方針への積極的参加)の向上につながるとともに、薬剤師の労務環境の改善、女性の活躍促進に資する。
そこで、薬機法施行規則第15条の13第1項を改正し、通信環境およびセキュリティ、患者のプライバシーが確保されていることを前提として、当該薬局の薬剤師が、自宅等の当該薬局外においても薬剤師が服薬履歴や処方箋内容、服薬状況等を閲覧・管理し、オンラインで服薬指導を行うことができるよう、服薬指導場所の条件を緩和すべきである。

③ 宅配ロッカーでの処方箋薬の受け取り
コロナの拡大に伴い、薬局に行かず(対面なし)に薬を受け取りたいというニーズが高まっている。
改正薬機法および「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」では処方箋薬の配送は認められているものの、宅配ロッカーでの受け取りについては明記されていないため、自治体の判断を仰ぐこととなる。現状では、薬剤師を含む薬局スタッフに限りロッカーへの納品を認める自治体と、全く認めていない自治体に分かれている。ロッカーでの受取を不認可とする判断の根拠が自治体によってまちまちで、抵触の恐れや可能性があるのではないかといった曖昧な判断基準となっている。また、許可が得られた地区に関しても、宅配業者による宅配ロッカーへの納品は認められていない。そのため、一部地域の薬局店頭のロッカーでしか処方箋薬の受け渡しができない状況にある。現状の処方箋配送サービスでも、宅配業者が玄関前等患者の指定の場所に荷物を置く非対面での受け取りを行っている実態もあることから、宅配業者による宅配ロッカーへの配送も十分実現可能だと考える。
宅配ロッカーへの処方箋薬の配送を宅配業者が担うことができれば、患者は好きな時に何処の宅配ロッカーからでも処方箋薬を受け取ることができ、利便性が向上する。さらに、処方箋薬の非対面での受け取りが進むことで、感染リスクの低下に寄与する。
そこで、薬機法第9条の3を改正し、オンライン服薬指導の特例措置を恒久化すべきである。現在で行われている処方箋薬配送サービスは、時限措置が前提となっていることから、オンライン服薬指導や配送の要件が現状よりも厳しくなることがないように求める。菅総理大臣の「オンライン診療・オンライン服薬指導については、現在の特例的な拡大措置を続け、将来的にも、今できることを引き続きできるよう、その基準よりも下げるべきではないということで実行したいと思います」(第48回国家戦略特別区域諮問会議 規制改革推進会議 第2回議長・座長会合)という発言もあることから、時限措置の恒久化に向け検討を行っているところであると考えられるが、改めて強く要望する。
さらに、薬生発0331第36号「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」第2 (4) ④の内容を更新し、宅配業者による宅配ロッカーへの処方箋薬の配送も可能であることを明記すべきである。

④ オンライン服薬指導と調剤等の機能に特化した、対面機能を持たない薬局の設置・活用
現在オンライン服薬指導は、対面服薬指導を行う場合と同様、調剤を行った薬局内に定められており(薬生発0331第36号)、薬局の構造設備基準においては、患者が「容易に出入りできる構造であり、薬局であることがその外観から明らか」であること等が求められている(薬局等構造設備規則)。このために、対面機能を持たない薬局は認められておらず、新たな形態の薬局事業展開の妨げとなっている。オンライン服薬指導の活用への期待が一層高まっており、現状でも患者に対する情報提供や患者からの相談についてはインターネット等を介して十分に対応することが可能となっている。
オンライン服薬指導と調剤等の機能に特化した、対面機能を持たない薬局の開設が認められれば、事業の負担軽減・効率化、参入障壁の引下げ、新たな形態の事業展開が促進されるほか、例えば薬剤師が置かれている医薬品卸売販売業の営業所を薬局として有効活用するといった可能性も拡大する。また、オンライン服薬指導の普及に繋がることで、感染症拡大防止、顧客の利便性向上にも資する。
そこで、③で要望した「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」の恒久化により、初診からのオンライン服薬指導が可能となることを前提として、薬局等構造設備規則第1条第1項を改正し、対面機能を持たない構造の薬局を許容すべきである。

次回の調剤報酬の改定が2022年であることから、これらの要望について今年度中に結論を得ることをあわせて求める。

<根拠法令等>
  • ① 【調剤の外部委託関連】
     医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第11条の8、第11条の11、第15条の12
      【処方箋40枚関連】
     薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令第1条第1項第2号
  • ② 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第15条の13第1項、第2項
     医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)(薬生発0331第36号第2 (4) ⑥、2020年3月31日)
     新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて(2020年4月10日)
  • ③ 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第9条の3第1項
  • ④ 薬局等構造設備規則第1条第1項
No. 56. ICTの発達を前提とした医療行為範疇の明確化
<要望内容・要望理由>

バイタルセンシングに代表されるIoT技術の発達、AIによる判定技術の発達が著しい。これらを受けて様々な健康管理ソリューションの開発が行われているが、システムのアウトプットが医療行為(診断)に入るかどうか判断ができないことがある。ICTの発達を前提とした医療行為(診断)の線引きを明確にすることで開発に弾みがつくと考えられる。コロナ禍により医療関係者の不足が明らかになっており、ICT、IoTを利用した健康管理ソリューションの活用により、少しでもこの状態を補完することができれば社会課題の解決につながると考えられる。

例えば、腕や胸部に取り付けるウェアラブルのバイタルセンサーが実用化されている。平常時には血圧、心拍、血中酸素飽和度などのリアルタイム計測の他、ストレスの蓄積なども判定が可能となってきており、日常的な健康管理が可能と考えられる。さらにデータが蓄積され技術も進めば、例えば、心筋梗塞などの突発的な疾病に関してリアルタイムに前兆が捉えられれば救える命もふえるものと考えられる。しかし、作業現場等(製造業、建設業その他)においてICTを使って就業者等のリアルタイムの健康管理を行う際、どこまでのアウトプットが医療行為(診断)であるかは明確になっていない。

そこで、本人の生命にかかわるリスクを回避するため、就業者等のリアルタイムの健康管理を行う際に、医療行為に入らないアウトプットの範囲をガイドライン等によって明確化することを求める。

これにより、就業者等のリアルタイムの健康管理環境が実現し、結果的に医療費の削減につながる。

<根拠法令等>
  • 医師法第17条
  • 歯科医師法第17条
  • 保健師助産師看護師法第31条
No. 57. 来院に依存しない臨床試験手法(DCT)の導入・普及
<要望内容・要望理由>

わが国の医薬品の臨床試験では、被験者が実施医療機関へ来院する形が主流であり、来院に依存しない臨床試験手法(分散化臨床試験、Decentralized Clinical Trial、以下DCT)の普及は進んでいない。一方、海外を中心にウェアラブルデバイス等のIoT機器やオンライン診療等を活用した新たな臨床試験手法が導入・普及しつつある。わが国におけるDCTの導入・普及には以下の課題が存在する。

① 米国では、FDAから許可を得た上で、治験依頼者の治験薬保管庫または治験依頼者が委託する治験薬保管庫(以下、治験依頼者の治験薬保管庫等)から被験者の自宅へ治験薬を直接配送することが認められている。わが国においては、コロナ禍の特例措置として、実施医療機関から被験者の自宅等に配送することは認められているものの、治験依頼者の治験薬保管庫等から被験者の自宅等に治験薬を直接配送することが認められていない。
そこで、被験者の自宅等に治験薬を直接配送できる措置を恒久化すると共に、実施医療機関からだけでなく、実施医療機関の治験薬管理責任を充足しながら治験依頼者の治験薬保管庫等からも直接配送できるように、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスやQ&A等を変更することを求める。なお、配送に際しては被験者の住所等の個人情報を適切に管理し、治験薬配送ベンダー等と連携する。また、治験薬の配送中の温度逸脱や事故、温度ロガーの停止等への適切な対処方法・手順も備えておく。

② DCTでは、対面での血圧・脈拍・体温等の測定や採血・検体採取等を訪問看護で行うことが選択肢のひとつとなる。現在、病院・診療所または訪問看護ステーションが訪問看護の提供を行うことができ、DCTでもこれらに雇用されている看護師等による訪問看護を活用することになる。一方、被験者の希望や状態に応じて訪問看護を活用したり、治験毎に特定の期間で実施されるDCTに対して、治験実施計画書のスケジュールに従って必要な看護師を都度確保したりすることは、実施医療機関等にとって負担となる。DCTの実施に必要な訪問看護の担い手を確実に確保するためには、労働派遣制度の活用が一つの手段となるが、現在は派遣禁止業務とされている。
そこで、治験実施計画書に基づき、担当医師の指示下での採血・検体採取とその処理、および服薬管理や経過観察等、臨機応変な対応が必要とされるチーム医療に支障が生ずるおそれのない治験に関わる業務について、労働者派遣の対象業務とすることを求める。
これにより、周辺に実施医療機関がない患者や、疾患や身体障害により定期的な来院が困難な患者等、より多くの患者が治験に参加することができ、新薬をより早く患者のもとに届けることにもつながる。また、実施医療機関においては、治験薬の直接的な管理業務(治験薬の保管、出納管理、記録の作成等)が軽減されるとともに、治験薬の保管庫が不要になり、治験薬の発注から被験者に届くまでのタイムラグも削減できる。

<根拠法令等>
  • ① 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚労省令第二十八号)第17条(治験薬の交付)、第39条(治験薬の管理)
    「『医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令』のガイダンスについて」の改正について(薬生薬審発0831第15号 令和2年8月31日)
    新型コロナウイルス感染症の影響下での医薬品、医療機器及び再生医療等製品の治験実施に係るQ&A(令和2年5月26日更新)
  • ② 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第4条第1項第3号
    労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令第2条第1項第4号、第4条第1項第19号
    労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則第1条2項
No. 58. 治験届の紙媒体および電子媒体提出の廃止
<要望内容・要望理由>

企業等が独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出する治験届は、1社あたり年間100件ほどに及ぶこともあるほど高頻度である。これまでは、押印した紙媒体およびCD-RまたはDVD-R(以下、電子媒体と記載)の提出が必要となっていたものの、コロナ禍の2020年5月には臨時的・特例的の対応としてe-mailでの届出が認められるとともに、2020年12月に治験届への押印は不要となった。

しかし、正式な文書としては、従来通り、後日、紙媒体および電子媒体で提出することが求められている。これにより出社が必須となり、テレワーク推進の妨げになっている。また、医薬品開発業務受託機関(CRO)に治験の届出作成を委託している試験が多いものの、CRO側の出勤状況も従来とは異なるため、タイムリーに届出資料の授受ができず、届出資料が揃うまでに時間を要する。更に、e-mailとの二重提出の適切性(一致性の担保)、二重提出による管理上の煩雑さ、紙媒体および電子媒体の提出とのタイムラグの発生なども問題である。

そこで、デジタル化の推進、ならびにコロナ対策として、紙媒体および電子媒体の提出を廃止し、全ての書類をe-mailのみで提出できるようにすべきである。また、このようなe-mailによる提出を臨時的なものではなく、恒久的な措置とすべきである。

紙媒体および電子媒体等での提出の廃止により、電子化が進み、治験依頼者およびPMDA双方が、リモートで治験届への対応ができる。物理的やり取りの減少により、テレワークの推進などコロナ対策にも寄与する。加えて、治験依頼者側(CRO含む)での治験届に関する印刷および郵送等に掛かる工数や費用削減を見込むことができる。

<根拠法令等>
  • 平成25年5月31日厚生労働省通知「治験の依頼をしようとする者による薬物に係る治験の計画の届出等に関する取扱いについて(薬食審査発0531第8号)」
  • (参考)令和2年8月31日厚生労働省通知「治験の依頼をしようとする者による薬物に係る治験の計画の届出等に関する取扱いについて(薬生薬審発0831第10号、現在留保期間中)」
  • 令和2年5月8日厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症への対応における薬事関係法令に係る行政手続の押印省略等の扱いについて」
  • 令和2年12月25日独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)依頼「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応において押印省略した治験届等の差替えの取扱いの変更について(依頼)」
No. 59. 製薬企業から国民への治験に係る適切な情報提供の実現
<要望内容・要望理由>

近年、医薬品開発においては、「患者を常に中心に据え、患者に焦点をあてた対応を行い、最終的に患者本人の判断を最大限に尊重すること」を意味するPatient Centricity(患者中心)の重要性が提唱されている。これに伴い、欧米に拠点を持つ製薬企業を中心に、自社ホームページを利用して、一般の方々にわかりやすい形で治験情報や結果を開示する活動が始まっている。

一方、日本では、製薬企業のホームページを利用した治験情報の提供は、薬機法第68条が規制する広告に該当する恐れがあることから、製薬会社は、治験情報に含まれる一般的名称(成分名)または開発コードについて、マスキングや他への置き換え等追加的な対応を行っている。

足許では、国民の治験情報へのアクセスの確保、治験の活性化に資するため、臨床試験情報登録センターへの治験に係る情報の登録が求められており、一般的名称(成分名)または開発コードが一般に公開されている。また、病院・診療所等に関する広告について規定する「医療広告ガイドライン」では、一般的名称(成分名)または開発コードについて広告しても差し支えないとされている。同様の情報にも関わらず、製薬企業のホームページを利用した情報提供だけが、一般的名称(成分名)または開発コードを掲載することを規制されている。

そこで、国民が適切な治験情報に容易にアクセスできるよう、製薬企業のホームページを利用した情報提供においても治験薬の一般的名称(成分名)または開発コードが記載可能となるよう、規制を緩和すべきである。

治験は秘かに行われているイメージが強く、製薬会社からの情報発信を期待する声や治験実施内容や施設の検索をもっと簡単にできるようにしてほしいなどの意見が寄せられている。また、今日ではWebを使った情報検索は一般的であり、要望が実現すれば、治験薬の一般的名称や開発コードは治験に関する情報を網羅的に検索するための有用なツールになることが期待される。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第68条
  • 平成11年6月30日医薬監第65号厚生省医薬安全局監視指導課長通知「治験に係る被験者募集の情報提供の取り扱いについて」
  • 平成19年7月27日厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課事務連絡「治験に係る被験者募集の情報提供の取扱いについて」
  • 令和2年8月31日薬生薬審発0831第9号 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長「治験の実施状況等の登録について」
  • 平成10年9月29日医薬監第148号都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医薬安全局監視指導課長通知
  • 平成30年5月8日医政発0508第1号「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」、別紙3 医療広告ガイドライン(14)法第6条の5第3項第14号関係、キ 広告告示第4条第9号関連
No. 60. 特定健診における郵送型血液検査の活用
<要望内容・要望理由>

現在特定健診の要件を満たすためには、静脈採血、尿検査、および医師との対面診断を行う必要がある。一方で、コロナの影響により、感染拡大を防止する観点から集団健診や医療機関受診にて行われる特定健診を含めた健康診断等の保健事業全体が充分に実施できておらず、この緊急事態というべき環境が一年以上続いた結果、医師との対面診断を避け健康診断に行かない割合が増大している。

そのような状況において、自宅で採血し郵送して診断を受ける血液検査も活用して健康状態を把握する意義は大きく、afterコロナでも医師との対面診断・オンライン診断と組み合わせることで、受診者に選択肢を提供できる。日本臨床衛生検査技師会総合制度保障政策委員会より毎年、適切実施を評価され、CDC(米国疾病対策予防センター)の承認を得ている郵送型血液検査は、特定健診の外部委託先に求められている「精度の管理」を、十分に実施しかつ満たしていると考える。

そこで、郵送型血液検査を、「保険者独自の自主的な保健事業の一環として」だけでなく、「特定健診として」活用できるよう「特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集 ②特定健診の健診項目について質問No.6」の回答を変更することを求める。

これにより、特定健診に行かない割合が増大している課題を解決でき、特定健診自体のDXに繋がる。上記の通り、特定健診として郵送型血液検査を活用することは、コロナ対策でもpostコロナでも、社会的意義は大きい。

<根拠法令等>
  • 高齢者の医療の確保に関する法律18条~20条
  • 「健診・保健指導実施者向け」『標準的な健診・保健指導プログラム』
  • 「保険者向け」『特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き』
  • 『第3期 特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集』P3「②特定健診の健診項目について|質問No.6」
No. 61. 医療機器プログラムにおける製造販売業の主たる機能を有する事務所および製造所の考え方の見直し
<要望内容・要望理由>

テレワークが進展するなか、医療機器開発においては、その製造販売・製造場所が指定されており、働き方改革の阻害要因となっている。しかし、医療機器プログラムにおいては、製造販売・製造管理はオフサイトでも実施可能であることから、当該規制をそのまま適用することは非合理的である。

なお、医療機器プログラムにおいては、設計を行う施設が「製造販売業の主たる機能を有する事務所と同一である場合については、当該施設における製造業の登録」が不要となっているが、上記のとおり、オフサイトで製造販売・製造可能であることから、同一事務所であるか否かについても重要な課題とはならない。

そこで、QMS(品質マネジメントシステム)に従うことを前提として、医療機器プログラム製造販売・製造における事務所の考え方を見直し、製造販売業・製造業ともに所にとらわれない製造販売・製造管理を可能とすべきである。

これにより、柔軟な働き方および出社率低下による従業員のコロナ感染リスク低減に資する。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第114条の7第1項第4号(製造販売業)、第114条の9第2項第5号(製造業)
No. 62. 医療機器プログラムにおける総括製造販売責任者および責任技術者の資格要件緩和
<要望内容・要望理由>

総括製造販売責任者および責任技術者の資格要件には、大学の専攻学科が指定されているが、ソフトウェア開発においては、大学での情報系等専門課程を卒業していなくてもシステムエンジニア(SE)として活躍し、社内で責任ある立場となるケースも多い。

実際、ソフトウェア開発において長期間の経験・知識を有する者が、医療機器プログラムの開発部門責任者となることがあるが、大学での専攻学科が資格要件を満たさず、本来の責任者が総括製造販売責任者や責任技術者になることができないケースが発生している。現在、医療機器の品質管理または製造販売後安全管理に関する業務(責任技術者においては医療機器の製造に関する業務)の経験を5年以上有する場合は、教育受講により総括製造販売責任者・責任技術者可となっている。しかし、安全な医療機器プログラム開発にはSE経験が有効であり、医療機器開発に携わっていない場合でも品質・安全・有効性の高い製品開発が可能である。

そこで、医療機器プログラムにおける総括製造販売責任者および責任技術者については、大学の学科や医療機器の品質管理または製造販売後安全管理に関する業務(責任技術者においては医療機器の製造に関する業務)5年以上という条件の者に加えて、例えば、SEとして5年以上従事し講習会を受講した者を該当者に加えるべきである。

これにより、知識・経験を有する本来の責任者が総括製造販売責任者・責任技術者になることが可能となり、品質・有効性・安全性の高い医療機器プログラムの供給が可能となる。特にAI技術の活用に関しては、様々な領域の知識により活用領域が生まれることもあり、大学の専門性だけに依存しない面もあるため、医療領域へのAI活用が促進されると見込まれる。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第114条の49第1項(総括製造販売責任者)、第114条の53第1項(責任技術者)
No. 63. 承認後もAI学習を継続する新たな医療機器プログラムカテゴリの創設
<要望内容・要望理由>

AI機械学習の精度は、学習させるデータ量とともに上昇することから、製品の上市後に得られたデータを学習させることは、AIの精度向上に寄与すると考えられる。しかしながら現在のプログラム医療機器の承認制度では、AIの判断根拠となる学習データを更新する場合、再申請が必要となっており、AIの精度向上のための取り組みの遅延につながる可能性がある。

そこで、プログラム医療機器のAI機械学習アルゴリズムの内容自体を審査対象とすることで、継続的に学習対象データを取り込んで学習を繰り返しAIの判断能力を向上させるプログラム医療機器のカテゴリを創設すべきである。

これにより、プログラム医療機器が判断根拠として用いる学習結果の更新に変更申請が不要となるため、学習結果のアップデートが促進される。その結果、プログラム医療機器の精度が向上し機器の有効性および安全性向上による健康寿命の延長が期待できる。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
No. 64. NDB・介護DBと死亡情報の連結解析の推進
<要望内容・要望理由>

厚生労働省が実施している人口動態調査においては、市区町村が死亡等の届出を受けて人口動態調査票を作成し、管轄区域の保健所長、都道府県知事を介して、厚生労働大臣に送付することとなっている。

人口動態調査票においては、死亡日時や発病等から死亡までの期間といった死亡の原因などの項目もある。現在厚生労働省において進められているNDB・介護DBと他のデータベースとの連結解析の対象に人口動態調査票(死亡票)が加わることで、疾患の治療実態・効果のより正確な把握が可能となり、疾患の理解や患者ニーズの高い分野の推定などに有用となることが期待される。

そこで、NDB・介護DBと人口動態調査票(死亡票)の連結解析を求める。

NDB・介護DBの分析・研究結果は、国民の健康・公共の福祉の向上のための基礎的情報源の一つである。NDB・介護DBと、保険医療分野の他の公的DB(全国がん登録DB等)との連結解析に加え、死亡情報を連結解析することで、疾患の治療実態・効果の把握が可能となり、予防・先制医療や個別化医療の実現、ひいては医療・介護費の適正化に資すると期待される。

<根拠法令等>
  • 統計法第32条、第36条
  • 統計法施行規則第35条
  • 介護保険法第118条の3
No. 65. OTC医薬品販売における登録販売者制度の管理者要件の見直し
<要望内容・要望理由>

一般用医薬品等の普及によるセルフメディケーションを推進する為、購入できる場所・時間帯を増やしていくことが重要であるが、一般用医薬品を既に販売している事業者(ドラッグストア等)以外は、新規開業の為に必要となる登録販売者の確保・育成が困難であり、これが購入場所・時間帯の拡大を阻害し、顧客利便性を損ねる結果となっている。

登録販売者が店舗管理者等になる要件として「過去5年間のうち2年以上かつ1920時間以上」の実務経験が必要とされているが、このうち「1,920時間以上」は1年程度で十分達成しうるものである(年間休日120日で1日8時間業務に従事する場合、1年で1,960時間の実務経験を積むことができる)。2年という期間に合理的な根拠・理由はなく、現状では仮に1,920時間を1年で積算した場合には、2年が経過するまでの約1年間、月1時間以上の経験を積みながら待つことになる。

そこで、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令15条を改正し、1,920時間の規定時間を満たせば、2年経過を待たず、店舗管理者としての資格適用を認めるべきである。

コロナを警戒し、医療機関の受診を避ける生活者も増えている背景から、セルフメディケーションはますます重要度を増しており、一般用医薬品の販売店の拡大・管理要件を満たした登録販売者の確保が課題となっている。上記の緩和により、時間条件が満たされていれば2年を待たずに管理者となれることは、一般用医薬品販売店拡大に大いに寄与する。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和三十六年厚生省令第一号)
  • 令和2年3月27日薬生発0327第1号 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令の施行等について 4 (1) ②
No. 66. 一般用医薬品のインターネット販売に係る制度見直し
<要望内容・要望理由>

① 一般用医薬品のインターネット販売に特化した業態の許可
一般用医薬品の販売業は、店舗販売業の許可を得る必要があり(薬機法)、当該許可を得た店舗において特定販売(以下「インターネット販売」という。)が可能とされている(薬機法施行規則)。当該許可の基準は、購入者が「容易に出入りできる構造であり、店舗であることがその外観から明らか」であり(薬局等構造設備規則)、一般用医薬品のインターネット販売のみを行う時間を除き、週「30時間以上」の開店時間が求められる(ガイドライン)等、対面販売を前提とした基準を満たす必要があり、インターネット販売のみを行う販売業態が想定されていない。
このため、インターネット販売のみを行おうとする場合であっても、対面販売を前提とした構造設備や開店時間等の基準を満たすための過大なコスト負担を強いられ、事業展開・参入の妨げとなっている。
購入者に対する情報提供や購入者からの相談については、インターネット等を介して十分に対応することが可能であり、また実態上も、形式的に実店舗を構えつつインターネット販売を主として行っている事業者の事例が存在するといった、規制の形骸化が認められる。
そこで、薬局等構造設備規則第2条第1号の改正及び薬局、医薬品販売業等監視指導ガイドライン第3の1 (2)の改定を行い、必ずしも対面販売を併せて行うことを前提とせず、インターネット販売に特化した販売業態を許容すべきである。

② 他店舗や倉庫からの発送の許容
インターネット販売を行うに当たっては、「当該(薬局)に貯蔵し、又は陳列している一般用医薬品」を販売することとされており(薬機法施行規則)、販売を行う店舗以外(他店舗や単なる倉庫)からの代理発送は不可とされている(厚生労働省の関連Q&A、一般用医薬品の販売ルール等について)。
このため、販売を行う店舗において在庫がない場合等に系列のインターネット販売を行う他店からの代理配送や、倉庫での在庫管理および配送といった形態が認められず、インターネット販売における物流網の構築が制限されている。その結果、必要な一般用医薬品を迅速に購入者へ届けるに当たり、インターネット販売における物流の非効率が生じ、インターネット販売を行う、または行おうとしている事業者にとって過大なコスト負担や事業展開・参入の妨げとなるとともに、顧客の利便性の低下にもつながり得る。
そこで、薬機法施行規則第15条の6第1号 、第147条の7第1号を改正し、一般医薬品の配送を販売を行う店舗(薬局)からに限定せず、他店舗や倉庫からの配送を許容するべきである。倉庫から発送する場合、薬剤師または登録販売者の資格を持つものを配置する等、安全性に配慮した条件を加えることも考えられる。

これらにより、コロナの流行に伴いインターネット販売の需要が高まる中、非対面・非接触を可能とするコロナ時代に即した新たなビジネス展開に向けたインターネット販売の活用が期待できる。さらに、事業の負担軽減・効率化、参入障壁の引下げ、新たな事業形態の促進、迅速な配送による顧客利便の向上、非対面・非接触による感染拡大の防止、インターネット販売の普及による購買履歴データの蓄積・活用等の効果が期待される。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第25条
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第15条の6第1号、第147条の7第1号
  • 薬局等構造設備規則第2条第1号
  • 薬局、医薬品販売業等監視指導ガイドライン第3の1 (2)
  • 医薬品の販売業等に関するQ&Aについて問3、問22

5.多様な人材が多様な地域で活躍する環境づくり

No. 67. コロナにより解雇・帰国困難となった技能実習生等の製造業3分野での就業
<要望内容・要望理由>

コロナの影響で、実習が継続困難となって解雇されたり、帰国困難となった技能実習生等については、技能実習時と同一の職種もしくは、特定産業分野(特定技能制度14分野)において、在留資格「特定活動」の許可を得て、就業することが可能である。ただし、特定技能制度14分野のうち、製造業3分野(素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業)については、製造業各分野で対象となっている業務区分(職種)で勤務・実習中に解雇されたものに限られており、他分野から製造業に再就職することは認められていない。同分野を所管する経済産業省によれば、安全上の理由から認めないとされている。

しかし、他業種から製造業への就労希望者が相当数いるほか、製造業の需要回復もあり、受入機関の採用ニーズも高い。また、国土交通省が所管する建設業、造船・船用業については、すでに他業種からの再就職が可能であることから、安全性は製造3分野について再就職を認めない根拠として十分と言えない。

そこで、製造業3分野においても他業種同様に異業種からの就業(在留資格「特定活動」の許可)を認めるべきである。

解雇や帰国困難となった技能実習生等は、それまで日本に在留していたために日本語や生活面での不安が少ない上に、他業種での技能習得を通じて、特定技能への移行を希望する人材がいる。就業環境の安全性を担保した上で、これら技能実習生等が技能習得できる分野を増やすことができれば、実習生・受入機関双方にとって有益である。

なお、2021年4月の製造工程の有効求人倍率は1.39と(他業種からの技能実習生等の再就職が進む)農林漁業の1.24を超える水準となっており、人手不足が生じている。それにも関わらず、特定技能制度における製造業3分野の受入実績は、制度開始から2年が経過した2021年3月末時点で、当初の受入れ見込数の15%にも届いていない。今後もコロナにより外国人の新規入国が制限されていることから、当初の政策目的を果たすことは難しい状況が続くと予想される。こうした中、国内で引き続き就業を希望する技能実習生等が、人手不足が深刻な特定技能分野に移行できる体制をさらに整えることは、課題となっている特定技能制度の活用にも資する。

<根拠法令等>
  • 出入国在留管理庁「新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援について」(2021年3月26日一部変更)
No. 68. 上場企業単独型における技能実習計画認定申請手続書類の簡素化
<要望内容・要望理由>

外国人の技能実習を行うためには、出入国在留管理庁長官と厚生労働大臣から実習計画の認定を受ける必要がある。現在、同計画の認定事務は、外国人技能実習機構が担っているが、企業単独型では申請手続で最大35種類の書類を「書面で」提出することが求められており、コロナ下の在宅勤務を阻害する要因になっている。

技能実習においては適正化が重要な課題となっているが、上場企業単独型の技能実習では、不適切事例は極めて少なく、海外工場への技能移転の仕組みとして技能実習制度本来の趣旨に基づく取り組みが行われている。しかし、手続きの煩雑さにより上場企業の受入負担が重く、手続きの簡素化を進めることが必要である。なお、出入国在留管理庁への在留資格認定証明書申請では、上場企業は、公表資料により、その実態が明らかなため、すでに提出書類が簡素化されている。

そこで、外国人技能実習機構もこれにならい、上場企業からの申請書類を削減するよう主務官庁である出入国在留管理庁と厚生労働省が機構に指示するべきである。具体的には、省令様式第1号と内容が重複している、または一般に公表されている会社情報を記載する以下の書類を削減すべきである。

  • 同 第1-2号  申請者の誓約書
  • 同 第1-16号 技能実習生の報酬・宿泊施設、徴収費用についての説明書
  • 同 第1-22号 技能実習を行わせる理由書
    ⇒ 理由:省令様式第1号と内容が重複
  • 参考様式 第1-1号 申請者の概要書、外国の事業所が登記・登録されていることを証する公的な書類、登記事項証明書、直近2事業年度の貸借対照表の写し、直近2事業年度の損益計算書または収支計算書の写し
    ⇒ 理由:上場企業であれば、公表資料で確認が可能
  • 同 第1-36号 申請者の役員に関する誓約書
  • 役員の住民票の写し
    ⇒ 理由:上場企業であれば、公表資料で役員の本人確認が可能

これにより、企業単独型の技能実習制度の活用により、日本が目指す技能移転による国際貢献の円滑な実施が期待される。さらに、書面作成手続きの負担が軽減され、コロナ禍における在宅勤務の推進につながる。

(参考:ある上場企業の事例)
  上場企業における1か月の申請実績
  申請人数:2019/1~12   349名(毎月申請あり)
   (実績)2020/1~2021/1 433名(毎月申請あり)
  申請書類の種類:最多で35種類(企業単独型技能実習1号イでの申請)
  技能実習の目的:海外工場の技能工の育成、技能移転

<根拠法令等>
  • 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律、同施行規則
No. 69. 旅行業務取扱管理者の選任要件の緩和
<要望内容・要望理由>

旅行業務における契約は、旅行業務取扱管理者が行うこととなっている。現行規程では、旅行業務取扱管理者は自身が所属する特定の営業所において、旅行業務に関する契約を締結することとされており、顧客が別店舗での契約を希望する場合など、引き継ぎに手間と時間がかかり、誤認なども発生している。また、コロナ禍における店舗の休業により、他営業所への応援のための人員配置やオンラインでの予約などの柔軟な対応ができない。

そこで、旅行業法第11条の2に記載されている旅行業務取扱管理者の選任に関しては、営業所ごとではなく、企業単位で行えるものとすべきである。

デジタル技術を活用することで、店舗に所属することと遜色なく顧客への予約対応や変更対応が可能となり、無用なトラブルも防止できる。また、企業としても柔軟な対応が可能になることで、業務効率性が改善され、働き方改革に繋がることが期待できる。

<根拠法令等>
  • 旅行業法第11条の2
No. 70. 在宅勤務手当の「割増賃金の基礎となる賃金」除外項目への追加
<要望内容・要望理由>

コロナ対策として在宅勤務が普及する中、在宅勤務に必要な備品の購入費や通信費、光熱費等を手当として補助する会社が増えている。現行の労働基準法において「割増賃金の基礎となる賃金」から除外できるものは、家族手当や通勤手当等の7項目に限定されており、割増賃金を計算する際に、在宅勤務手当は「割増賃金の基礎となる賃金」に算入しなければならない。

在宅勤務手当は、家族手当や通勤手当等と同様に、労働とは直接関係のない個人的事情に基づいて支払われるものと考えられる。例えば、在宅勤務により発生する光熱費は労働とは直接関係がない。

また、在宅勤務手当が「割増賃金の基礎となる賃金」に算入されることで、社員間に不公平が生じる可能性があると考えられる。例えば、社内に在宅勤務が可能な社員と可能でない社員がいる場合、そのほかの条件をすべて同一と仮定すると、在宅勤務が可能な社員の方が「割増賃金の基礎となる賃金」が高くなり、両者間の公平性が保たれない。

そこで、一定の要件の下で在宅勤務手当を「割増賃金の基礎となる賃金」から除外できるよう、行政解釈で明記すべきである。具体的には、以下の①ないし②の支給方法によるものを除外対象とすることが適当と考える。

① 実費精算
② 在宅勤務日数に応じた支給
 a. 1日当たりの在宅勤務手当を決め、実際に在宅勤務を実施した日数分を支給。
 b. 在宅勤務日数を段階的に区分し(20日以上、10日以上等)、区分ごとの在宅勤務手当を決めて支給。

②-aについては、例えば家族手当では、扶養家族の人数に応じた支給方法が認められており、在宅勤務日数に応じた支給はこれと同様であると言える。また、②-bについては、例えば住宅手当では、ローンや家賃の金額を段階的に区分し、区分に応じた手当を支給する方法があり、在宅勤務手当についても同様の支給方法が認められると考えられる。

<根拠法令等>
  •  労働基準法第37条5項  労働基準法施行規則第21条
No. 71. 屋外空間の活用に向けた床面積算定の見直し
<要望内容・要望理由>

近年、街の魅力を高めるために、屋外にテラス席等を設ける取り組みが進んでいる。2020年には街のにぎわいを創出するため、「歩行者利便増進道路」(通称:ほこみち)制度が創設された。こうした中、コロナ対策の観点からも、軒下部分にテラス席を設ける事業者が増えている。しかし、既存建築物の庇・オーニング等の軒下部分のテラス席は、屋内的用途とみなされる場合、容積率の算定基礎となる床面積の対象となる可能性があるため、屋外空間を積極的に活用したいと考えている事業者が躊躇する要因となっている。

そもそも、軒下部分のテラス席は気象条件(例:台風や気温)によって活用できないことも多く、屋内的用途として全く同じように利用していると考えるべきではなく、「都市施設の供給能力ないしは処理能力とのバランスを保つ」という容積率制限の目的に抵触するとは一概に言えない。実際、「歩行者利便増進道路」等を利用して、建物軒下隣接の道路上に雨除けの覆いがあるテラス席を設けることは認められている。

そこで、軒下部分のテラス席については屋内的用途とみなさず、容積率算定の規準である床面積から除外する旨を通知等で明示すべきである。あるいは、公共施設への負荷を考慮したうえで、屋内的用途とみなさない一定基準を明示することで、容積率に抵触するかもしれないという懸念を払拭すべきである。

屋外空間の活用は、感染症対策として有効であると同時に、コロナで影響を受ける飲食業界の支援にもつながる。また、政府が推進するにぎわいのある街づくりに大きく寄与する。

<根拠法令等>
  • 建築基準法第52条
  • 昭和61年4月30日 建設省住指発第115号「床面積の算定について」
No. 72. ICT活用による遠隔での建築基準法に基づく中間・完了検査の実現
<要望内容・要望理由>

住宅の建築において、一人の主任技術者が複数の工事現場を非専任で管理することは一般的であるが、建築基準法等に基づく申請や検査のための業務負担が大きく、その解消が課題となっている。

特に、建築基準法による建築物等の中間検査・完了検査は、平成19年6月20日国土交通省告示第835号「確認審査等に関する指針」において、目視等の方法によることとされているため、検査時に工事現場での立会いの要請を受ける主任技術者の負担が大きく、また、ICT(ビデオ会議システム等)活用による遠隔検査の試行が進まない原因となっている。

そこで、同告示を改正し、目視と同水準であると技術的に担保するための基準を設定の上、ICTを活用した方法も認めるべきである。

これにより、ICT活用による遠隔での建築基準法に基づく検査が実現すれば、主任技術者が立会いのために移動する時間・負担を減らすことができ、コストの削減につながるのみならず、労働力不足の影響を受ける建築業界の働き方改革の推進にも資することが期待される。

<根拠法令等>
  • 建築基準法第18条の3
  • 平成19年6月20日 国土交通省告示第835号「確認審査等に関する指針」第3の3、第4の3
No. 73. 貨客混載輸送の全面解禁
<要望内容・要望理由>

コロナの影響でEコマースの利用が急増するなか、宅配事業者の人手不足や長時間労働、運送車両の増加に伴うCO2排出量増加等の問題が懸念されている。他方、交通機関においては、人口減少や外出抑制等による利用者減少によって経営が悪化し、住民のニーズに応じたサービス提供の維持が困難となっているケースがある。

これらを解決する方法として、旅客運送事業者、貨物運送事業者が従来の縦割りを超えて協業し、旅客と貨物の掛け合わせによってより効率的な輸送を実現する「貨客混載輸送」が期待されている。しかし、現在は過疎地域等の限定的な区域でのみ解禁されており、原則は禁止となっている。2020年度にタクシーによる食料・飲料の運送が容認されたものの、「旅客及び貨物の同時運送(混載)を行わないこと」が求められている。

物流の逼迫や交通機関が抱える課題は過疎地域に限った話ではなく、国土交通省の指定自治体以外の地域や都市部においても貨客混載輸送による解決は有効である。特に高齢化に伴い、買い物等でのスムーズな移動に支障のある住民が増加すると、宅配サービス・交通機関双方の充実はますます重要な課題となる。

そこで、貨客混載輸送を全国的に解禁すべきである。これにより、物流面ではラストワンマイル輸送における多様かつ柔軟な手段の利用、交通面では新たな事業展開による経営の維持・拡大を期待できる。

<根拠法令等>
  • 旅客自動車運送事業者が旅客自動車運送事業の用に供する事業用自動車を用いて貨物自動車運送事業を行う場合及び貨物自動車運送事業者が貨物自動車運送事業の用に供する事業用自動車を用いて旅客自動車運送事業を行う場合における許可の取扱い及び運行管理者の選任について(平成29年8月7日 自動車局長通知)
  • タクシー事業者による食料・飲料に係る貨物自動車運送事業の許可の取扱い等について(令和2年9月10日 自動車局長通知)
No. 74. 道路占用システムの拡充
<要望内容・要望理由>

歩行者利便増進道路制度や「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱いについて(2020年6月5日付け国道利第5号国土交通省道路局長通知)」に基づき、指定区間内の国道を占用して路上に飲食施設等を設置しようとする場合、オンライン上で公開された道路占用許可基準および道路使用許可基準の確認事項を満たしていれば、申請者は道路管理者および都道府県警察へ事前相談を行うことなく、道路占用許可および道路使用許可を「道路占用システム」を活用して、オンラインで一括申請することできる。

しかし、現時点では「道路占用システム」の対象道路は指定区間内の国道のみであり、指定区間内の国道を除く道路(指定区間外の国道、都道府県道、市町村道)は対象とされていないほか、屋外客席の設置等に係る保健所への手続は別途行う必要がある。また、国家戦略特別区域法や都市再生特別措置法に基づく道路占用許可手続にあっては、申請書に書面の資料を添付して道路管理者に提出することとされているため、オンライン化が実現していない。

そこで、国土交通省の主導により、「道路占用システム」を拡充し、対象道路を指定区間内の国道以外の道路に拡大するとともに、屋外客席の設置等に係る保健所への手続も包含するなど、ワンストップサービスを実現すべきである。その際、確認事項のオンライン上での公開により事前相談を省略可能とすることも期待される。また、国家戦略特別区域法や都市再生特別措置法を改正し、両法に基づく道路占用許可手続を電磁的方法も可能とすることにより、「道路占用システム」上で扱えるようにするべきである。

これらにより、道路占用に係る手続の利便性が向上すれば、コロナ禍での「新しい生活様式」の定着に対応して、飲食店等が屋外客席を設置することが容易になり、売上・客足の減少等の影響を軽減する効果が期待されるとともに、オープンスペースの活用が促進され、にぎわいのある魅力的な街づくりに貢献することが期待される。

<根拠法令等>
  • 道路法第32条
  • 道路交通法第77条、第78条
  • 食品衛生法第54条
  • 国家戦略特別区域法第17条
  • 都市再生特別措置法第62条
No. 75. 交通関連データの集積に向けた共通フォーマットの活用
<要望内容・要望理由>

モビリティ分野においては、MaaS(Mobility as a Service)をはじめとして、交通データを駆使した新たなサービスの登場が期待されており、その実現に向けた交通関連データの集積・共有が喫緊の課題となっている。

これに関連して、国土交通省では、2016年に「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」を導入し、バス運行各社が有する路線図や時刻表、運賃、運行情報等の共通フォーマットでの公開を推進してきた。しかし、これらバス運行各社はじめ一般旅客自動車運送事業者が国土交通省に対して許可申請や事業計画の変更申請を行う際には、このGTFS-JPは活用されておらず、申請手続は現在も書面で行われている。また、「デジタル・ガバメント実行計画」(2020年12月25日閣議決定)では、変更申請のみ汎用受付システム上でのオンライン化対象とされているが(手続ID 35941)、同受付システムはGTFS-JPに対応していない。

そこで、交通関連データの集積に向けて、一般旅客自動車運送事業者の許可申請および事業計画の変更申請について、GTFS-JPによるデータ添付が可能な形での電子申請を早期に実現すべきである。

GTFS-JPの普及が進むことで、国土交通省におけるGTFS-JPデータの集積が可能となり、将来的に交通データプラットフォームの基盤になることが期待できる。

<根拠法令等>
  • 道路運送法第5条、第15条
  • デジタル・ガバメント実行計画(2020年12月25日閣議決定)
以上

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