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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー COP26に向けた提言

2021年10月21
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会

今月末より、約2年ぶりとなるCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)が、英国・グラスゴーにおいて開催される。気候変動はグローバルな課題であり、ひとつの国・地域で対応できるものではない。COP26では各国・地域が一丸となり、気候変動問題の緊急性と必要なアクションについて認識を共有し、適切な対策を打ち出すことが求められる。

わが国は、昨年10月に2050年カーボンニュートラルを宣言し、本年4月には2030年度における温室効果ガスを2013年度に比べ46%削減するという極めて野心的な目標を掲げた。こうした取組みを梃子に、日本政府には、COP26での交渉において外交力を発揮し、世界全体でのカーボンニュートラル実現に向けた最大限の成果を求めたい。

経済界としても、環境は事業活動の大前提であり、気候変動への対応は最優先の経営課題との認識の下、「カーボンニュートラル行動計画」「チャレンジ・ゼロ」を中核とした主体的取組みを引き続き強力に推進し、国内はもとより海外での削減にも積極的に取り組むことで、世界全体のカーボンニュートラル実現に貢献していく所存である。

この機会に、以下事項に関する具体的な進展・実現を要望する。

1.途上国・新興国におけるより積極的な取組み

気候変動問題の解決には、全ての国の真摯な取組みが不可欠となる。とりわけ、排出量シェアを拡大させている途上国・新興国によるより積極的な取組みがなければ、先進国のみが高い目標を掲げて対策を進めても、地球規模での排出削減は進まない。

COP26のアロク・シャーマ議長は、主要排出国に対して、野心的な目標設定を呼びかけており、日本、米国、EUといった国・地域は、既に2050年カーボンニュートラルを宣言するとともに、2030年目標の最大限の引き上げを行っている。

こうした中、日本としては、欧米等の先進国と緊密な連携を図りつつ、先進国と途上国・新興国との橋渡しをするなど、積極的な気候変動外交を展開することが求められる。これにより、途上国・新興国におけるより積極的な排出削減目標の設定およびそれぞれの能力や経済・エネルギー・地理的条件等の事情に応じた手段による最大限の削減努力を促すとともに、こうした各国の取組みを、他の先進国とも連携して支援していくべきである。

他国、とりわけ新興国が応分の削減に取り組むことは、わが国産業の国際競争におけるレベル・プレイイング・フィールドの実現の観点からも極めて重要な課題である。

2.海外での削減における日本の貢献

(1)パリ協定第6条に関する詳細ルール交渉の妥結

世界の温室効果ガス排出量の約3%を占める日本として、国内で最大限の削減努力を進めることは当然の責務である。同時に、気候変動はグローバルな課題であることから、日本は、海外での排出削減にも積極的な貢献を果たしていく必要がある。今後、各国が国内での削減に加えて、世界全体の削減貢献量の多寡を競うゲームチェンジを図ることも肝要と考える。

その際、日本企業が、海外における排出削減プロジェクトに取り組むインセンティブとして、「市場メカニズム」の果たす役割が重要となる。これを適切に機能させていく観点から、一昨年のCOP25で積み残しとなった、パリ協定における市場メカニズムに関する詳細ルール(第6条)について、COP26での合意を追求すべきである。

(2)JCMの活用拡大

パリ協定第6条のルール交渉と併せて、日本企業による国際貢献とわが国の温室効果ガス削減目標の実現を同時に追求すべく、政府は、市場メカニズムの一類型(協力的アプローチ)であるJCM(二国間クレジット制度)について、一層の活用拡大に向けた環境整備を図るべきである。

JCMの対象国は2017年以降拡大しておらず17か国にとどまっている。また、クレジット発行量も企業のインセンティブとして十分とは言えない。さらに、予算規模や案件形成のスピード感といった点でも課題が指摘されている。

政府には、こうした課題を克服すべく、JCM対象国の戦略的拡大、関連する予算の増加、排出削減が見込めるプロジェクトの大規模化、制度運用面の改善等を求めたい。

(3)アジアの脱炭素への移行支援

気候変動分野における国際貢献として、日本の優れた省エネ・低炭素・脱炭素型の技術、製品、サービス、インフラを積極的に海外に展開するとともに、わが国企業のビジネス・チャンスの拡大につなげていく視点も重要である。

特に、今後、エネルギー需要の著しい拡大が見込まれるアジア諸国の果たす役割は極めて大きい。そこで、日本政府が主導するAETI(Asia Energy Transition Initiative)を通じて、アジアの国々の産業構造、エネルギー供給構造、社会構造、地理的条件等の違いにも配慮した、実効ある脱炭素への移行(エネルギー・トランジション)を支援していくべきである。

その際、日本政府には、CEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)といった枠組みも活用しつつ、官民連携の下、アジアにおける低炭素・脱炭素技術の普及に向けて、相手国における現実的かつ実効ある政策・制度の構築等のビジネス環境整備に、現地の政府・経済界とともに取り組む必要がある。これにより、日本の優れた技術や製品等の普及を促し、わが国のグリーン成長を実現するとともに、アジア全体での温室効果ガス削減にも貢献していくことが求められる。

さらに、こうした活動を通じた削減貢献を定量化し、世界に広くアピールすることで、わが国の気候変動外交におけるソフトパワーの強化にもつなげていくべきである。

3.関連するグローバルな課題への取組み

(1)トランジション・ファイナンスの普及

今後、世界では、気候変動分野への莫大な資金需要が生じる見込みである。そのため、サステナブル・ファイナンスを推進し、グローバルな資金動員を図っていくことが求められる。とりわけ、カーボンニュートラルは一足飛びに実現できるものではないことから、その移行期におけるトランジション・ファイナンスの果たす役割が極めて重要となる。国・地域によって産業構造やエネルギー構造が異なる中、日本として、トランジション・ファイナンスに関する基本的考え方を国際的に発信し、各国の信頼・共感を獲得することで、グローバルな普及を目指していくべきである。

(2)炭素国境調整措置への対応

現在、EUなどで検討が進む炭素国境調整措置(CBAM)は、日本政府の「炭素国境調整措置に関する基本的な考え方」#1にも掲げられた通り、WTO整合性が大前提であり、貿易上の悪影響を回避しつつ、途上国・新興国を含む各国が実効ある気候変動対策に取り組む誘因となることが求められる。また、カーボンリーケージの防止という本来の目的から考えれば、輸入相手国・地域における炭素税や排出量取引制度といった明示的なカーボンプライシングのみならず、それ以外の排出削減努力についても客観的に評価することが重要である。日本としては、公平な競争条件確保の観点から、立場を同じくする国々と連携して対応していくべきである。

以上

  1. 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月)p.17-18
    https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-3.pdf

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