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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 公開市中協議「第2の柱 実施フレームワーク」に対する意見

2022年4月11
一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

意見提出の機会に感謝する。昨年10月のOECD/G20包摂的枠組み(IF)による政治合意を踏まえ、「第2の柱」の各種の技術的論点に係る検討が進められていることに敬意を表する。

昨年12月公表のモデルルールに対するコメンタリ及び説明用事例集は、2023年実施という目標の達成に一定の基礎を提供するものである。他方で、税務当局による適正な執行と納税者側が負うべきコンプライアンスコストの適切な調和を見出す上で、依然として検討されるべき事項も存在すると認識している。

かかる観点から、コメンタリ第8章に関連して実施フレームワークで明らかにされるべき事項を中心として、日本経済界の意見を提出する。本意見書全体を通じて、制度設計を簡素なものとすること、そして納税者の実務の予見可能性が損なわれないよう執行に関する一貫性を確保すべきことを強調したい。併せて、適格IIRと適格国内ミニマムトップアップ課税に係る適格要件が適時に公開されること期待する。

本意見書が「第2の柱」の実施フレームワークの構築に向けて考慮されることを望むものである。

1. 申告義務(Filing Obligation)(第8章)

1.1 GloBE情報申告書の提出主体等

GloBE情報申告書の提出について、原則は各構成事業体がその所在法域の当局に提出することとされている(パラ5)。しかしながら、GloBE情報申告書には法域ごとの実効税率(ETR)計算に必要な情報等も含まれる(パラ17~20)。これら情報の把握・計算は、各構成事業体ではなく、最終親事業体が行うことが適当である。また、トップ・ダウン・アプローチに基づけば、質問検査権もまずは最終親事業体所在地国が優先的に有すると解することが適当である。さらには、各構成事業体による提出が行われる場合、実務上のリスクとして、申告の遅延や、申告内容の不一致等も想定される。このため、GloBE情報申告書に記載すべき情報を多国籍企業グループ全体で整合的なものとし、かつ申告の遅延、執行の混乱等を避ける観点から、最終親事業体又は指定申告事業体による当該事業体所在法域当局への提出に統一すべきである。その際、最終親事業体又は指定申告事業体所在法域の当局から各構成事業体所在法域の当局への情報提供の機密保護を徹底する観点から、GloBEルールを実施する全ての法域間で適格当局間協定の締結を義務化すべきである。当然のことながら、GloBE情報申告書は多国籍企業グループの構成事業体が所在する法域にのみ提供され、かつ、その記載情報はGloBEルールの実施以外の目的で使用されるべきではない。

また、最終親事業体又は指定申告事業体によるGloBE情報申告書の提出に統一される場合、各国税務当局からの問い合わせ先も当該事業体所在法域経由で当該提出事業体に一元化すべきである。併せて、問い合わせを行う税務当局は、適格IIRの下でトップアップ課税権を持つ当局に限定されるべきである。

これに加えて、GloBE情報申告書を提出する最終親事業体に係る必要情報は、各構成事業体がその所在法域の税務当局に通知するのではなく(パラ12)、最終親事業体が適格当局間協定に基づき最終親事業体所在法域の当局を経由して、各構成事業体の所在法域の当局に対して通知することが望ましい。

1.2 GloBE情報申告書に含めるべき情報

GloBE情報申告書については、税の安定性を確保する観点から、標準的なテンプレートの開発時(パラ13)に、提供すべき情報を標準化することが必要である。その際、Article 3.2に基づき適用される調整の類型及び調整額の詳細(パラ17)を全て示すと膨大な情報量となる恐れがあることから、最低限の情報とすべきである。この他、各構成事業体に係る定量的な情報について、会計監査スケジュール等も踏まえつつ、どの時点のものが記載されるべきなのかについて明確化が必要である。

また、多国籍企業グループの企業構造に関する図及び(又は)リストの提供が検討されているが(パラ15)、グループによっては数百~千社にのぼる構成事業体を有する。これらの間の資本関係を図で表示することは、実務上の負荷があまりにも大きい。多国籍企業グループの規模にかかわらず、リストの提供のみとすべきある。

更に、現地の税務当局が国内法に従って補足情報を要求することも可能とされているが(パラ13)、これは移転価格文書化に係るマスターファイルでも見られるように、実務の混乱を招くため、各国の当局は厳に慎むべきである。また、OECDが各国当局の執行の動向をモニターすべきである。

この他、除外事業体が多国籍企業グループの一部を構成する場合における、当該事業体の特定(パラ23)について、ある報告事業年度に必要情報が提出されたならば、実務の煩雑性を避ける観点から、翌事業年度以降の提出は不要とすべきである。

なお、GloBE情報申告書への記載情報に係る書類の保存年数について、最終親会社所在法域の法令に準拠すべきである。

1.3 GloBE情報申告書の提出期限

適用開始初年度を除き、報告事業年度の最終日後から15か月以内の提出が想定されている(パラ25)。しかしながら、国別報告書(CbCR)の提出期限(最終親会社会計年度の終了の日の翌日から1年以内)とCbCRを用いたセーフハーバーの適用を踏まえると、CbCRの提出後に必要な情報の収集範囲が定まることとなる。また、GloBE情報申告書の提出期限に先立つ数か月間において、各国決算及び税務申告が同時期に集中することもありうる。法域によっては、プッシュダウンすべきCFC税額の集計に時間がかかるという事情もある。これらを背景とすると、限られた期間で必要な情報の収集及び精査を行った上で、GloBE情報申告書に必要な情報を取り込むことが困難となる恐れもある。このため、GloBE情報申告書の提出期限については、適用開始初年度以降も実務の安定性が確認するまで、15か月を上回る月数(例えば18か月以上)が確保されるべきである。

1.4 GloBE情報申告書の提出後の対応

GloBE情報申告書の修正に関するルールは、各国国内法に委ねられているものの(パラ27)、統一的な取り扱いが不明瞭なままでは、納税者である多国籍企業グループの実務に係る予見可能性が損なわれ、税の安定性が懸念される。このため、GloBE情報申告書の修正に関するガイドラインが各国の国内法制化に先立ち提示されるべきである。

また、GloBE情報申告書に係る罰則等の適用について、実務が安定するまでの相応の期間において、延滞税、利子税、加算税等は課されるべきではない。

2. セーフハーバー(第8章)

2.1 導入されるべき簡素化措置

「第2の柱」の実務負担を大きく軽減させる観点から、複数の簡素化措置を確実に導入することが極めて重要である。

最も簡素化に資するのは、税務行政ガイダンス、とりわけホワイトリストと認識している。例えば、法定実効税率が明らかに15%を大幅に超える法域や、適格国内ミニマムトップアップ税額を採用する法域については、そもそも国・地域別のETR計算を不要とすべきである。

また、CbCR上の租税負担割合を用いたセーフハーバーについても、調整項目を最小限とした上で、事後的な紛争リスクの低い簡素な仕組みとすべきである。

更に、上記簡素化措置の導入によるETR計算を行う法域の絞り込みを前提として、複数年度のETR平均を計算し、ある閾値を上回る場合には、その後数年間のETR計算を免除することも考えられる。

2.2 税務当局によるセーフハーバー適用に対する異議申し立て

セーフハーバーの適用が認められず、法域ごとのETR計算が求められるならば、納税者の実務の予見可能性が著しく損なわれ、事務負担が過剰となる。税務当局による異議申し立てに関わる一連のプロセス(パラ35~39)は、納税者の実務に十分に配慮した形で設計されることが必要不可欠である。

まず、税務当局による異議申し立てが頻発することを避ける観点から、その理由を明示することを義務化するとともに異議申し立てを行うことが可能な税務当局は適格IIRの下でトップアップ課税権を有する当局に限定されるべきである(パラ35)。

次に、税務当局によるセーフハーバー適用構成事業体への異議申し立ての可能期間について、その起算時点は、税務当局によるGloBE情報申告書の受領時とすべきである(パラ36)。また、36か月以内とした場合、当該構成事業体が既に多国籍企業グループから離脱していることも想定される。このため、税務当局によるセーフハーバー適用構成事業体への異議申し立ての可能期間は、相応の月数へと短縮されるべきである。

更に、セーフハーバー適用に係る異議申し立てを受けた構成事業体が、6か月以内に証明を果たすことができなかった場合において、当該構成事業体による不服申し立てを可能とする等、解決に向けたプロセスが今後提示されるべきである(パラ38、39)。最終的にセーフハーバーの適用が認められなかった場合には、恣意的なセーフハーバーの利用の意図が確認されない限り、過事業年度に遡及しての再計算を不要とすべきである。

3. 第8章以外の主要事項

3.1 課税規定(第2章)

同一のUTPR導入国の構成事業体間でのUTPRトップアップ税額の配分方法は当該国内法によるとされているが(パラ51)、配分方法が法域別に異なることとなれば、多国籍企業グループ側のコンプライアンスコストの増大につながりうる。このため、各国国内法に先立ち、UTPRトップアップ税額の配分方法に係る共通のガイドラインの策定を検討すべきである。

3.2 GloBE所得又は損失の計算(第3章)

まず、各国の対象税額(パラ26)については、多国籍企業グループによるGloBE情報申告書の作成に係る実務に配慮して、今後OECD/IFで一覧化を図るべきである。

次に、会計原則の変更に基づく調整方法(パラ82)についても、実務の予見可能性の観点から、具体的な調整内容に係る図解を含めて、より詳細なガイダンスを準備するべきである。

更に、多国籍企業グループが認識又は納得していないにもかかわらず、ある法域の当局からみなしPE認定を受ける等、PEの有無自体に争いがある場合や、PEが免税を受けている場合には、PEに係る財務会計レポートを作成すること自体が困難であり、救済策が講じられるべきである(パラ190)。例えば、PE帰属所得に対するみなし利益等について個別に財務諸表を作成するのではなく、本社等の財務諸表にどのように反映するのかについてガイダンスが提供されるべきである。

3.3 調整対象税額の計算(第4章、パラ58)

親会社が欠損の状態でCFC所得の合算があった場合、CFC税額が発生したものとみなして子会社法域にプッシュダウンされることが許容されるべきである。今後、説明用事例集等において、具体例が明確化されるべきである。

また、各国CFC税制との関係において、CFC税額が子会社法域のどの事業年度にプッシュダウンされるかを明確化すべきである。法域によっては、CFC税額をそのCFC所得の発生事業年度にプッシュダウンすると、当該事業年度のGloBE情報申告書の提出に実務が間に合わない可能性があることが考慮されるべきである。

以上

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