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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 再改訂コーポレートガバナンス・コードの実効性の向上

2022年5月16
一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
資本市場部会
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経団連はこれまで、コーポレートガバナンス・コード(以下ガバナンス・コード)の策定と二度の改訂の過程において、実効あるコーポレートガバナンスの構築に向けて、意見を述べてきた。企業は、リスクを的確に捉えつつ、挑戦をし続ける経営を行うことを通じて、SDGsをはじめとする社会課題の解決に貢献し、競争力を強化し、中長期的な企業価値の向上を達成することができる。このようなコーポレートガバナンスが、ひいてはわが国経済の持続的な成長をもたらすのである。

ガバナンス・コードの再改訂に際する意見#1においては、企業のサステナビリティへの取組みや人材の多様性の確保等を通じて社会の発展と企業価値向上を目指す再改訂案は、経団連が掲げる「サステイナブルな資本主義」の考え方にも合致すると評価した。

同時に、コーポレートガバナンスとは本来、それぞれの企業が自ら、企業の目的に即して主体的に構築すべきものであるとの考えに立ち、コーポレートガバナンスの在り方や投資家と企業との対話がより一層「形式」から「実質」を伴うものとすることが肝要であると指摘した。

そのうえで、①ガバナンス・コードにおけるプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレインの徹底、②ガバナンス・コードの改革が企業価値向上に与える影響についての検証、③ガバナンス・コードの実施・運用局面における丁寧なフォローアップを要望した。

今般、政府の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)において、ガバナンス改革の効果の検証が行われるのに際し、これまでのガバナンス・コード改訂を受けた企業の対応と運用上の課題、それを踏まえた今後の政府・企業・投資家その他市場関係者の取組み等に関して、以下の通り意見を述べる。

Ⅰ 企業におけるガバナンス・コード運用上の課題

(1)ガバナンス改革の意義

ガバナンス改革の目的は、企業にとっては経営体制の再構築を通じて自社の持続的な成長を確保するものであり、内外の投資家やステークホルダーにとっては投資や継続的な取引等の実効性を高めるものである。わが国企業は、ガバナンス・コードの策定・改訂の以前から、自らの経営の工夫に取り組んできた。例えば、取締役会の人数削減・外部役員登用・執行役員制導入などは、企業のグローバル競争が激しくなった2000年代初頭には、多くの企業で取り組まれていた#2

改革推進の背景・動機は様々であり、企業の経営理念の浸透や経営戦略の実現に必要な組織・体制の整備、不祥事への対応、あるいは、危機的な経営環境の打開が目的であることもある。

改革の過程では、改革の実効性を確保するため、真摯な努力や細やかな工夫もなされてきた。例えば、社外取締役に対する自社の戦略・事業に関する詳細な資料の提供や丁寧な説明などは、取締役会の議論を活性化させているが、このような努力や工夫は投資家等、会社の外からは見えにくく、理解されにくい。

また、企業トップによる意識的な推進の継続が社内の意識改革につながり、実効的な運用の確保に寄与している。

(2)ガバナンス・コードの意義

企業が自ら経営の実効性を高めてきたなかで、わが国においてガバナンス・コードが策定されたことは、持続的な企業価値向上に向けた企業の取組みを後押しするものとなった。具体的には、自社のガバナンス改革における新たな取組みの契機、あるいは、既存の取組みを一層後押しするものとなっている。また、自社の取組みの内容に対する点検・改善の指針ともなっている。

さらに、投資家等の期待・要求に関する社内の認識向上、理解促進にも寄与している。

(3)ガバナンス・コードの課題

① 持続的成長に寄与できているか

わが国のガバナンス・コードは、企業の中長期的な収益性・生産性向上を図る観点から、攻めの経営判断、アニマルスピリッツあるいはアントレプレナーシップの発揮を後押しする仕組みを構築すべく、策定されたものである#3。しかしながら、企業からは、特に近年の経済環境下で「ガバナンス・コードが成果をもたらしたとの実感が得にくい」ことが指摘されている#4

業績・株価は一義的には経営努力の結果である。ガバナンス・コードの規定に応じた取組みを、中長期的な企業価値の向上や成長につなげていくために、さらなる工夫が必要である。

② 企業・投資家を形式主義に陥らせていないか

ガバナンス・コードの再改訂では、細則化する項目への対応の負担感に加え、必要性に関して必ずしも納得が得られていない項目もあると指摘されている。企業が適切と考える経営体制と、ガバナンス・コードで求められる内容に合致しない部分がある場合、企業の戦略実施を阻害しているとの受け止めもある。

原則主義を採用するガバナンス・コードは、趣旨・原則に照らして自社が適切に判断した結果を実施することが求められているものであり、本来、コンプライとエクスプレインのどちらが望ましいということはない。ところが企業にも投資家にも、コンプライが是との認識が多くみられる#5。コンプライでない場合に、投資家から形式的、機械的に否定的な評価を受けるとの指摘もある。

日本企業は、コンプライが是との認識の下に、意義のある形でコードの規定を実施すべく、検討を丁寧に行い、実現まで時間がかかる傾向がある。この点で、形式的判断を行う投資家等から評価されにくい結果にもつながっている。

企業と投資家の対話の実質化にも、多くの課題が顕在化している。総じて対話の意義は積極的に捉えられている一方、企業からは、投資家側における対話の機会・時間の確保が不十分といった声が多々きかれる。議決権行使助言機関のアドバイスに形式的に投資家が従う例が多い中で、企業と議決権行使助言機関とのエンゲージメントの実現が極めて困難な状況にあるとの指摘もある。

投資家の中には、依然としてガバナンス・コードの規定への対応がコンプライであるかによる形式的判断(議決権行使基準等を含む)になっていることや、投資家との対話における関心も短期あるいは業績中心の傾向がみられ、対話に臨む企業の公開情報への理解不足の例もある#6

③ 組織形態の選択に対して中立か

本来、ガバナンス・コードは、会社法上の組織形態の選択(監査役会設置会社か監査等委員会設置会社か指名委員会等設置会社か)によって、ガバナンスの優劣を判断することを求めるものではない#7

多くの会社は、監査の権限・機能と社外役員の外部の視点を併せ持つ仕組みが、引き続き有益と捉え、積極的に監査役会設置会社を選択している。また、監査等委員会設置会社を選択する会社は、少人数の委員会での議論ではなく、メンバーの多様性が十分に確保された取締役会全体での議論を重視していることをその理由としてあげている例もある。執行と監督の分離を重視し、それぞれの委員会に権限を分化させることを重視する会社は、指名委員会等設置会社を選択している。いずれも、会社法の法定の組織形態に加えて、自社の事業や取締役会の構成等を踏まえて運用の工夫をし、各種の任意の委員会等も設けるなどしながら、自社に適した組織形態で実効性を持たせるよう努力している。

Ⅱ ガバナンス・コードの運用の改善に向けた取組み

以上の現状と課題に照らし、ガバナンス・コードの運用改善に向けた取組み、フォローアップ会議において取り組むべき点として、以下の3点を指摘する。

(1)ガバナンス・コード運用における企業へのフォローアップ・検証の継続

ガバナンス・コードは原則主義であることから、各社が一定の裁量を持ちつつ自らの状況に応じて柔軟に運用することが前提である。一方で、ガバナンス・コード再改訂後の運用は緒についた段階であり、取組みが効果を発揮するのはこれからとなる。コードの各項目の意義・効果・課題について、具体的に検証・確認作業を継続することを求める。

(2)スチュワードシップ・コードの実効的な運用の確保

ガバナンス・コードの細則化を背景に、株主・投資家が投資先の企業を評価する際に、コードにコンプライしているかどうか(チェック・ザ・ボックス、形式を整えること)のみに依拠するとなれば弊害が大きい。企業と投資家とが建設的な対話を通じて、社会課題の解決や企業価値の向上に結び付けることが望ましい。

企業と投資家との対話の充実に向けて、成長の促進に寄与する運用を確保する観点から、フォローアップ会議において、スチュワードシップ・コードの実効性の向上のための検討と提案を行うことを期待する。

同時に、議決権行使助言機関、ESG評価機関、データ提供機関も、投資家の企業に対する評価における役割と影響力が拡大している。このような状況を踏まえれば、スチュワードシップ・コードの実効性の向上の議論において、これらの機関によるサービスの質の確保や、評価の透明性の向上、そのために必要な体制の構築なども重要な視点といえる。

(3)政府・企業・投資家その他市場関係者による認識の共有

ガバナンス・コードが細則化され、形式にのみ依拠することは望ましくない。企業の取組みの実効性は、その企業に適した運用が行えるか次第である。投資家との対話不足や投資家側の理解にも課題があり、これらの点はスチュワードシップ・コードの実施における適切な運用の確保が重要となる。

これらを踏まえれば、ガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの運用の過程において、政府・企業・投資家その他市場関係者が、以下の点につき、認識を共有することが必要である。

  • ガバナンス・コードが成長戦略の一環として位置づけられていることがわが国の特徴であり、コードを踏まえた企業の取組みの効果は、コードの規定を形式的に実施したかどうかではなく、企業の中長期的価値の向上に資するか否かによって判断されるべきであること

  • ガバナンス・コードは原則主義を採用しており、コンプライと、企業の戦略に基づき丁寧に行われるエクスプレインは、同じ程度に価値を持つこと。特に日本企業においては、コードの原則を是として、コンプライを目指そうとする傾向がみられるため、形式的にコンプライを促すものではない点について、改めて認識を共有するとともに、エクスプレインの優良事例の共有をはじめ、企業の発信の改善や投資家の理解の促進に向けて取り組む必要があること

おわりに

経団連の掲げる「サステイナブルな資本主義」のカギとなるのは、イノベーションを通じて社会的課題の解決を経済発展につなげていくコンセプト「Society 5.0 for SDGs」の実現である。イノベーションに果敢に挑戦する企業を後押しすることは、低成長が続くわが国の状況に鑑みても喫緊の課題である。その挑戦を促すためにも、成長の促進というガバナンス・コードの目的の実効性をいかに確保するかが重要である。

再改訂を経たガバナンス・コードの実効性を確保し、持続的成長につなげていくためには、今後、政府・企業・投資家その他市場関係者それぞれが、運用の改善と対話の充実に資する取組みを継続していくことが重要である。

以上

  1. 「コーポレートガバナンス・コード改訂案への意見」(2021年5月7日)
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/043.html
  2. 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関するアンケート調査結果 第3回」(2003年1月27日)によれば、東京証券取引所に上場する内国会社(2,103社)のうち、回答企業(1,363社)の「取締役会機能強化のための具体的施策の実施状況(複数回答)によれば、「取締役の人数の削減(36.2%)」「執行役員制度の導入(34.2%)」「社外取締役の選任(28.5%)」となっている。2000年代初頭から、様々な取組みが行われてきた。
  3. 「日本再興戦略」改訂2014(2014年6月24日閣議決定)抜粋
    日本の「稼ぐ力」を取り戻すため、中長期的な収益性・生産性向上に必要なこととして、「まずは、コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROEの達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要」「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方を諸原則の形で取りまとめることは、持続的な企業価値向上のための自律的な対応を促すことを通じ、企業、投資家、ひいては経済全体にも寄与する」との観点から、「上場企業のコーポレートガバナンス上の諸原則を記載した「コーポレートガバナンス・コード」を策定する」
  4. 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「第7回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」(2022年5月12日)によれば、コーポレート・ガバナンス報告書の機関投資家による活用状況について、「活用されていないように感じる(4.2%)」と「活用に変化は見られない(66.3%)」との回答の合計が約7割超と高い。
  5. 経済産業省が公表した、東証1部・2部上場企業(2,569社)を対象とする「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」によれば、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」について「可能な限り、エクスプレイン(実施しない理由を説明)ではなく、コンプライ(実施)する方向で検討しているとの回答が50%と最も多かった。
  6. 一般社団法人 生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート集計結果(2021年度版)」によれば、「企業が対話において投資家に対して感じる課題」への回答として「短期的な視点・テーマのみに基づく対話の実施(49.6%)」が最も多い。
    また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「第6回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」(2021年5月12日)では、ファンド等との対話を実施した上場企業のうち、対話に値しないと考えるファンドがある場合、その理由として、「企業への提案内容がファンド自身の利益・短期的な利益のみ追求している」との回答が69.2%と最も多い。また、機関投資家全般に期待することとして、短期的な内容に終始せず、中長期の目的を持った対話や四半期ごとに同じ質問を繰り返さないことを求めるコメントが複数ある。
  7. 再改訂コーポレートガバナンス・コード【基本原則4】の「考え方」においても、「上場会社は、通常、会社法が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。(中略)上記の3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。」と記述されている。

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