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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 Society 5.0時代の海洋政策 -次期海洋基本計画に対する意見-

2022年9月13
一般社団法人 日本経済団体連合会

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Ⅰ.はじめに

わが国は、国土の四方を海に囲まれ、多くの島嶼により構成される海洋国家である。領海・排他的経済水域の面積は約447万平方キロメートルに及び、国土面積の約12倍、世界第6位の規模である。貿易量の99.6%#1を海上輸送に依存するわが国の日々の生活や産業活動は、海事・海洋産業の競争力維持・強化や海洋安全保障の確保なしには存立しえない。また、気候変動を取り巻く状況が厳しさを増すなか、海洋分野においても、グリーントランスフォーメーションの推進が不可欠である。

このように、海洋に係る施策は幅広い分野に及び、省庁横断で連携・調整しつつ、対応するべき課題がますます増加している。政府は、海洋基本法(2007年4月公布)に基づき、内閣総理大臣を本部長とする「総合海洋政策本部」を設置して、海洋に関する施策の基本的な方針や政府が講ずるべき施策等を規定した「海洋基本計画」を5年ごとに決定し、海洋政策を総合的に推進している。

現在、2023~2027年度を対象とする「第4期海洋基本計画」の策定に向けて検討が進められている。次期計画は、現行の第3期計画の柱である「総合的な海洋の安全保障#2」を堅持しつつ、デジタルトランスフォーメーションやカーボンニュートラルの推進、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成、経済安全保障の確保、地域活性化等の重要性が増した今日の経済社会情勢を踏まえて、より強固な計画とするべきである。

とりわけ、SDGsに「海の豊かさを守ろう」が盛り込まれたことを受け、国連総会の採択により、2020年代は「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年#3」とされている。海洋国家であるわが国が持続可能な海洋の利活用を進めていくためには、この機会に海洋が社会に広く恩恵をもたらすことを積極的に発信し、海洋の重要性への国民の理解や意識の向上を図っていくことが欠かせない。

そこで、本提言では、Society 5.0時代に向けて、次期計画に盛り込み、取り組んでいくべき施策について、以下の通り要望する。

Ⅱ.産業競争力の強化

1.海事産業の競争力強化

わが国は、海上輸送により食料やエネルギーの多くを輸入し、また多くの貨物を輸出している。2020年の世界全体の海上荷動きは約115億トンであり、わが国はそのうち7%にあたる約8.2億トンを占める。安定的な海上輸送によってわが国の日々の生活や産業活動を支えている海運、造船、舶用機器等の海事産業の基盤の維持・発展は、経済安全保障の観点から、その重要性が一層高まっている。また、海事産業は地域の経済・雇用を支えているほか、後述する海洋資源の開発や洋上風力発電施設の建設、防衛省や海上保安庁の船舶の建造・修繕など海洋安全保障の確保においても重要な役割を果たしている。

他方、海事産業は、常に外国企業との厳しい国際競争にさらされている。商船建造量では、2021年に世界第1位の中国と第2位の韓国をあわせると世界全体の約77%を占めており、第3位のわが国は約18%である。海洋の重要性が急速に高まるなか、官民一体となり、次世代船舶の開発や生産基盤の整備等による海事産業の競争力強化に取り組む必要がある。

(1)次世代船舶の開発
① 無人運航船・自動運航船

船員の担い手不足や離島航路の維持等の社会課題の解決策のひとつとして、AIやIoT、画像解析技術等を活用した船舶の無人化・自動化への関心が内外で高まっている。無人化・自動化に関連する技術は多岐にわたり、また、全体システムとしての実証が必要であり、現在、わが国では民間のコンソーシアム等による実証実験が進められている。実証実験により見つかった技術的課題に対する業種横断的な協働による解決を通じて、安全かつ競争力を有した無人運航船・自動運航船の早期の社会実装が期待される。

政府は、無人運航船・自動運航船の実用化に向けて、引き続き、「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律(海事産業強化法)」(2021年5月公布)に基づき技術開発や規格化・標準化を促進するとともに、官民で連携しつつ、内航に係る国内の制度整備や無人運航船・自動運航船の離着桟に対応した港湾施設の整備を進め、また、外航については、実証実験等で得られた知見やデータも踏まえつつ、国際海事機関(IMO)等における国際的なルール作りの議論を主導し、海事産業の競争力の維持・強化を推進するべきである。

② 環境船舶

2050年カーボンニュートラルに向けて、海事産業においても脱炭素への対応は重要な課題であり、温室効果ガス削減等に対応した環境船舶への期待が世界的に高まっている。IMOでは、国際海運を2050年までにゼロエミッションにする提案が日本主導でなされ、議論が行われている#4。こうしたなか、わが国は、内外の社会環境の変化を先取りし、ゼロエミッション船へのブリッジソリューションとなるLNG燃料船を含めて、世界に先駆けて環境船舶の技術開発を加速させ、早期に市場投入・普及を推し進め、この分野において世界をリードすることで海事産業の競争力の維持・強化を図っていくべきである。

そのためには、コストや環境負荷に係るシミュレーション等によるデータに基づく議論を通じて、環境船舶の機関・燃料技術、燃料サプライチェーン、関連する規制のあり方等について官民が一体となって検討を重ねていくべきである。その上で、アンモニアや水素など新燃料船や電池推進船、風力推進船、船上CO2回収技術をはじめ環境船舶に係る技術開発や設備投資への支援を引き続き推進するとともに、バンカリング船や港湾設備を含む新燃料のサプライチェーン構築への補助金の拡充や関連する制度整備を省庁連携で進めるべきである。

③ シミュレーション共通基盤

船舶の開発・設計、建造、運用のデータによるシミュレーション等に基づく検証を踏まえた開発・設計を可能とする「シミュレーション共通基盤#5」は、無人運航船・自動運航船や環境船舶などの次世代船舶の開発・設計を効率かつ迅速に行い、海事産業の競争力を強化するために不可欠なものである。こうした取り組みは、海事産業の技術水準を引き上げ、デジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーション、ひいては、Society 5.0の実現に資するものである。海事産業内の横断的な連携の強化に加えて、官民で普及に向けた協力を進めていくべきである。また、シミュレーション技術を持つ人材の確保も不可欠であり、産学官連携による育成が必要である。

(2)国際競争条件の均衡化

厳しい国際競争下にある海事産業にとって、各国の税制度の差異や競争条件を歪める造船業への公的な助成措置は、事業競争力に大きな影響を及ぼしている。政府は、海事産業の国際競争条件の均衡化に向けて、諸外国の実情・動向を考慮した海運関連税制#6の不断の見直しや、諸外国の施策が競争を阻害する場合の是正に向けた協議や国際場裡での働きかけを引き続き推進するべきである。

2.国内海洋資源の開発

わが国は、日々の生活や産業活動に必要な資源・エネルギーの多くを輸入に依存している。昨今の国際情勢の急激な変化を受けて、エネルギーの安定供給の重要性が再認識された。こうしたなか、わが国の広大な領海・排他的経済水域内に存在する様々な海洋エネルギー・海洋鉱物資源を商業ベースで採掘することができれば、地政学リスクに左右されない国産資源・エネルギーの確保、エネルギー自給率の向上、ひいては経済安全保障の強化につながる。

政府は、海洋基本計画の見直しとあわせて、各海洋エネルギー・海洋鉱物資源ごとの達成目標や必要な技術開発等を示した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を概ね5年ごとに改定している。2023年に予定する次期海洋基本計画の決定後、すみやかに、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を改定し、民間との連携を強化しつつ、その開発・推進に主体的かつ継続的に取り組み、民間企業が主導する商業化に早期に結び付けるべきである。

また、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期の「革新的深海資源調査技術プログラム」では、レアアース泥を含む海洋鉱物資源の資源量の調査・分析や、自律型無人探査機(AUV)の複数機運用等の深海資源調査技術の開発で成果を上げている。こうした官民の取り組みも継続して推進するべきである。

なお、AUVはじめ水中ロボット技術は、海底資源調査など海洋データの取得のみならず、洋上風力発電施設のメンテナンス、海底ケーブルや海底パイプラインの敷設等においても重要な役割を果たすものである。技術・性能や運用等の向上に引き続き官民で取り組むべきである。

(1)海洋エネルギーの開発
① メタンハイドレート

政府は、2023~2027年度の間に民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトの開始を目指して、海洋調査や生産技術の開発等を進めている。

主に太平洋側で濃集帯が推定される砂層型メタンハイドレートは、2022年度後半に予定する採掘調査等を経て、試掘地点を決定する見通しであり、試掘地点の決定とその後の試掘に着実に取り組むべきである。また、米国アラスカ州において、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等が参加して2022年秋頃から予定する日米共同の長期生産試験等を通じて、長期かつ安定的な生産に向けた技術的課題の抽出やその解決を加速するべきである。

主に日本海側で調査が行われている表層型メタンハイドレートについても、引き続き、海洋産出試験実施地点の特定に向けた海洋調査を行うとともに、生産技術の開発・検討を進めるべきである。

② 石油・天然ガス

JOGMEC所有の三次元物理探査船による、政府主導での基礎物理探査や、これを踏まえた有望地点での掘削調査を継続的に実施するべきである。調査結果を踏まえて、商業ベースの採掘が検討される場合には、JOGMECによる出資支援等が求められる。

(2)海洋鉱物資源の開発
① 海底熱水鉱床

政府は、国際情勢を踏まえつつ、2023~2027年以降に民間企業が参画する商業化を目指したプロジェクトの開始を目標として、資源量の把握に向けた既知鉱床の資源量評価や新鉱床の探査のほか、必要な生産技術の開発等を進めている。着実にこれらの取り組みを進め、早急な商業化に結び付けるべきである。

② コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥

これらの海洋鉱物資源が含有するレアメタルは、例えば、電気自動車のバッテリーに利用されるニッケルなど、重要な資源である一方で、資源の偏在性が高く、輸入先が特定の地域に偏るケースも多い。これらの海洋鉱物資源についても、政府は、資源量の把握や生産技術の開発等を推進して、早急な商業化に結び付けるべきである。

3.海洋データの利活用

わが国の海洋状況把握(MDA)の一環として、多様な海洋情報を集約・共有した「海洋状況表示システム(海しる)」が整備されたことを歓迎する。政府は、先端的な観測技術の活用や諸外国のMDA機関との連携強化等を通じて、データのさらなる充実を図り、より的確な政策判断に結び付けるべきである。なお、民間に公開可能なデータについては、API連携など、活用しやすい形での公開を引き続き進め、産業活動へのデータの利活用を促進するべきである。

また、海洋データは自然災害への備えにも資するものである。政府は、海底観測、潮位観測、海洋レーダー観測等によるデータに基づくシミュレーションにより、地震や津波等の予測可能性を可能な限り高めるべきである。あわせて、沿岸に位置する自治体や事業者の防災・減災対策における観測データの活用拡大も求められる。

4.海洋人材の育成

(1)海洋への国民の理解促進

わが国では、若者の海離れが進んでいると言われ、コロナ感染防止策として海開きが中止になるなど、その傾向の加速が懸念される#7

こうしたなか、新たな学習指導要領に基づき、小・中・高等学校において、海洋に関する内容の充実を図った授業が開始されたことを歓迎する。海洋国家であるわが国が持続可能な海洋の利活用を進めていくためには、これを機に海洋の重要性への国民の理解を官民連携で促進し、海洋に関心を持つ人材の裾野を広げていくことが不可欠である。

(2)海洋人材の育成

海洋に関心を持つ人材の裾野の広がりを、海洋人材を志す若者の増加に結びつけていくためには、学校や地域と企業との連携を深め、海洋に係る仕事について大学生や若手技術者に適切に発信していくことが求められる。また、産業界として中長期を見据えて魅力ある職場作りを進めていく必要がある。さらに、先端的な技術を生み出す研究者の養成も重要であり、戦略的な育成が求められる。

なお、海洋人材の育成にあたっては、産学官が連携して、デジタル分野など、時代や経済社会のニーズに合った形で進めることが重要である。例えば、上述の無人運航船・自動運航船、環境船舶等が社会実装した場合、船舶の設計や建造、運航に必要となる技術や能力に従来と変化が生じ、人材育成の方法もそれに沿った形となると想像される。その際、学び直しを通じてスキルや専門性を更新していくリカレント教育も重要になる。

また、海技者の育成・確保のためには、多科配乗#8の緩和・改善による乗船実習の効率化や海事教育機関の教育資源等の充実も必要である。

なお、海事産業の発展のためには、増加が見込まれる洋上風力発電関連はじめ技能労働者の確保も必要であり、その際、外国人材の受け入れも選択肢である。これに関連して、特定技能制度における造船・舶用工業分野の従事する業務区分について、ニーズを踏まえて適宜見直しを行うべきである。なお、外国人技能実習制度については、適正化を図った上で、優良な受入企業については手続の円滑化をはじめとした優遇措置を検討していくことが求められる。

5.北極政策の推進

北極域は地球上で最も温暖化の影響を受けやすく、海氷の減少が懸念される一方、北極海航路や北極海周辺での新たな有用物資の利活用の可能性を高めるなど内外の関心は高まっている。

政府は、国際情勢を見極めつつ、中長期を見据えて、北極評議会等の国際枠組やルール形成に関与していくべきである。そのためにも、海洋研究開発機構(JAMSTEC)における砕氷機能を有する北極域研究船を確実に建造するなど、北極に係る調査・研究を北米・欧州沿岸を含めて着実に推進し、科学的知見の蓄積に努めるべきである。

Ⅲ.海洋のグリーントランスフォーメーション

1.カーボンニュートラルへの貢献

気候変動を取り巻く状況は年々厳しさを増している。異常気象や自然災害の多発・甚大化は世界各地で報告され、経済的・社会的に大きな被害が生じている。海洋に関しても、海水温上昇による生態系への影響や高潮等の災害リスクの高まりが懸念される。地球温暖化への対応は、もはや待ったなしの課題であり、早急な取り組みが必要である。

わが国は、2050年カーボンニュートラルと、温室効果ガスの2030年度46%削減(2013年度比)に国際的にコミットしている。これらの目標を実現するためには、国を挙げて、経済と環境の好循環を構築しながら、経済社会全体を変革するグリーントランスフォーメーションを推進することが必要である。

(1)海洋再生可能エネルギーの導入促進

2050年カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーの主力電源化を進めることは不可欠である。

洋上風力発電については、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」(2018年12月公布)の施行を歓迎する。日本の洋上風力市場の発展に資する適切な事業環境整備に向けては、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針」(2019年5月)に照らし、事業の安定性や予見可能性の向上、事業コスト低減に資する形での制度運用が肝要である。

政府は、官民が「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(2020年12月)にて取りまとめた洋上風力発電の導入目標#9の早期の実現に向けて、継続的な促進区域の指定や公正性・透明性ある形での事業者の選定、船舶運用を含む国内サプライチェーンの形成やコスト低減に資する技術開発の支援等を着実に進めるべきである。

あわせて、関連する規制・規格の点検#10や日本版セントラル方式#11の導入を早期に進めるべきである。また、陸上風力に用いる「風力発電設備支持物構造設計指針・同解説(土木学会編集)」のような、設計者が実務で参照する設計指針の洋上風力版の策定を民間の意見を取り入れつつ政府主導により早期に行い、審査の効率化を図るべきである。基地港湾については、配置や面積・地耐力、クレーンなどの仕様等を適切に検討した上で、港湾管理者とともに整備を進めるべきである。また、わが国では、再生可能エネルギーの適地が、国土の南北に偏重するなか、再生可能エネルギーのさらなる導入に資する送電網の再構築#12が不可欠である。これら事業環境整備の検討にあっては、内外の先行事例等から改善点を学びつつ、関係する幅広い業界と政府が引き続き連携して進めていくべきである。

さらに、遠浅の海域の少ない日本では、カーボンニュートラル実現のため、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力発電の大規模な導入が必要となる。政府は、浮体式洋上風力発電など、現時点では商用段階にない技術による再生可能エネルギーの導入量増加の可能性を追求するため、技術の開発・普及とともに、再エネ海域利用法の対象海域を領海外の排他的経済水域まで拡大#13する場合の国際法上の課題の検討を進めるなど事業環境の整備に足元から取り組んでいくことが求められる。波力発電、潮汐力発電、潮流発電、海洋温度差発電についても、研究開発や実証実験を進めるべきである。

表:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」で示した導入目標の達成に必要となる
基地港湾数の試算(50万kW規模の建設に対応した基地港湾を前提)
現在4港(能代港、秋田港、鹿島港、北九州港)を指定済
現在~2030年追加で新たに3~5港程度を供用開始
2030~2040年追加で新たに6~10港程度を供用開始
(経済産業省「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に
関する検討会とりまとめ資料」(2022年2月)を基に経団連事務局作成)
(2)海底へのCO2貯留の調査研究・制度整備の促進

2050年カーボンニュートラルに向けて、CO2を回収・貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)も重要である。

その実用化のためには、大気中からのCO2回収コストの高さや液化CO2輸送船の整備、CO2貯留地の確保等が課題であり、海域も有力な候補となる。政府は、さらなるコストダウンのための投資の重点化や、社会的な合意形成、貯留適地の特定等を進めるべきである。企業が海底の貯留適地を活用するための権利の設定をはじめ、関連するルール整備#14を図っていくことも求められる。

2.海洋環境の保全

海洋プラスチック問題への取り組みは、「海の豊かさを守ろう」などSDGsの複数のゴールの達成に貢献するものであり、関心が高まっている。

プラスチック素材は、その特性や様々な技術開発等を通じて、社会課題の解決に貢献している。わが国のみならず世界各国が、廃棄されたプラスチックを海洋に流出させず、適正に処理していくことが重要である。

こうしたなかで、政府が、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」(2019年6月)や「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」を主導して、賛同国を着実に増やしていることを歓迎する。政府は、海洋プラスチック問題の解決に向けて、国際協力の促進や、データに基づく議論に資する海洋プラスチックごみの実態把握手法の開発等を主導していくべきである。

Ⅳ.海洋安全保障の確保・地域活性化

1.領海・排他的経済水域の管理強化

近年、わが国周辺海域における外国船舶の活動が常態化しており、わが国領海への侵入や漁船への接近、排他的経済水域内でのわが国の同意のない海洋調査活動等が頻繁に確認されている。これらは、わが国の領海・排他的経済水域における安全ならびに海洋権益への脅威であり、領海・排他的経済水域の管理強化が喫緊の課題である。

政府は、「防衛計画の大綱」(2018年12月)や「海上保安体制強化に関する方針」(2016年12月)等に基づき、自衛隊や海上保安庁の体制整備を進めている。政府には、関連産業の基盤の維持・強化に向けて、設備投資への支援等が求められる。

また、領海・排他的経済水域を適切に管理するため、リアルタイムデータの収集・活用や警戒監視に係る先端技術への開発支援等も必要である。政府には、先端技術の開発・活用を進めるよう求める。

2.離島の活性化

約6,800の島嶼により構成されるわが国は、広大な領海・排他的経済水域を根拠付ける基線#15の多くが離島に存在しており、離島を的確に保全・管理することが欠かせない。

政府は、基線となる離島の低潮線の保全を行うとともに、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(2021年6月公布)により、国境離島の指定区域内の土地の利用状況調査や利用者への勧告を可能とするなど、管理を強化している。また、「特定有人国境離島地域社会維持推進交付金#16」等の事業により、離島の産業振興や地域社会の維持を支援している。

これらの措置をはじめ、政府には、離島の的確な保全・管理のため、引き続き、法制面や予算面での十分な手当が求められる。なお、離島支援にあっては、雇用機会の拡充や観光振興、関係人口の拡大、高度情報通信基盤の整備、地産型エネルギー源の導入等を通じて、地域の持続的な活性化につなげる視点が重要である。また、地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こす「デジタル田園都市国家構想」の実現は、遠隔教育、遠隔医療、ドローン物流等により、離島の活性化にも資するものである。手続が簡素・迅速で大胆な規制改革を進められる離島ならではの特別区域制度の創設についても検討を進めるとともに、離島活性化の成功事例の横展開を推進するべきである。

図:離島及び全国の人口推移比較(いずれも1955年を100とする)

(出所:国土交通省「離島振興計画フォローアップ」(2021年6月))

3.海洋秩序の維持・強化

近年、南シナ海における一方的な現状変更の試みなど、国際的な海洋秩序を動揺させかねない動きが起きている。世界の海が平和で開かれ安全であることが企業の事業活動にとって重要であり、これらは、わが国の輸出入に不可欠なシーレーンの安全確保や安定的な利用に対する脅威である。

海洋秩序の維持・強化による、シーレーンの安全確保や安定的な利用は、わが国のサプライチェーンの強靭化に不可欠であり、経済安全保障の確保や国際競争力を支える観点から重要である。

政府は、「自由で開かれたインド太平洋」で掲げる、法の支配や航行の自由の普及・定着等に向けて、関係国と連携した国際場裡での発信の強化や、わが国シーレーンの要衝を占める東南アジア諸国の海上法執行能力の構築に向けた機材供与や人材育成等に取り組んでいる。こうした取り組みを引き続き戦略的に進めていくべきである#17。あわせて、有効な海賊対策活動も継続していく必要がある。

また、わが国の物流の要衝であるマラッカ・シンガポール海峡における安全な海上交通の確保のため、海峡周辺国との関係強化や海上輸送インフラの支援等に継続して取り組むべきである。

Ⅴ.おわりに

政府には、本提言も踏まえて、日々移り変わる経済社会情勢に対応した次期海洋基本計画を策定するよう求める。また、計画の決定後は、総合海洋政策本部を司令塔として、関係府省が垣根を越えて民間とも連携しながら、時代に即した実効性の高い海洋政策を強力かつ着実にスピード感をもって推進するべきである。

以上

  1. トン数ベース(2020年)
  2. 政府は「第3期海洋基本計画」(2018年5月決定、計画期間:2018~2022年度)において、海洋をめぐる安全保障上の情勢等を踏まえると、様々な分野を横断する海洋政策を幅広く捉える必要があるとして、「海洋の安全保障」に加えて、海洋の安全保障に資する側面を持つ施策を、「海洋の安全保障の強化に貢献する基層」となる施策と位置づけた。その両者を包含して「総合的な海洋の安全保障」と定義し、政府一体となって取り組みを進めるとしている。
  3. 2017年の国連総会において、2021年から2030年を「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」とすることが採択された。海洋科学の推進により、SDG14「海の豊かさを守ろう」等を達成するため、海洋の持続的な開発に必要な科学的知識や基盤の構築等を同期間に集中的に取り組むこととしている。
  4. 日本船主協会は、日本の海運業界として2050年温室効果ガスネットゼロへ挑戦することを2021年10月に表明。実現のためには、船舶に加えて、新燃料や燃料サプライチェーン等の輸送チェーン全体での多様なステークホルダーとの協働による対応が必要とした上で、船舶については、アンモニアや水素等の新燃料による環境船舶への転換が不可欠として、約2,200隻の日本商船隊について、2025年以降の25年間で、年平均約100隻、年間約1兆円規模の建造投資が必要との試算を公表。
  5. 造船において、産学の有する知見、ツール、人的資源、大量・多様なデータが結びつき、多面的な連携を生み出す共通基盤。
  6. トン数標準税制、外航船舶の特別償却制度及び買換特例(圧縮記帳)制度、国際船舶に係る登録免許税、固定資産税の特例制度。
  7. 日本財団「海と日本人に関する意識調査」(2022年7月)によると、海に親しみを感じる人は2022年に37%であり、2019年の調査時の44%と比べて7ポイント減少している。また、過去1年間に一度も海を訪れていないと回答した人は45%に上る。
  8. 複数の教育コース(多種多様な海技士免許)の乗船実習を組み合わせて行っているため、配乗期間の集中による多科多人数状態が生じていること。
  9. 2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000~4,500万kWの案件形成。
  10. 「洋上風力産業ビジョン(第1次)」にて産業界が示した関連規制について、電気事業法や港湾法による審査の合理化をはじめ進展が見られ、官民による継続的な対話が求められる。また、洋上風力発電設備に必要な部材のJIS規格化についても、官民が協力して進めていくべきである。
  11. 政府は、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」において、初期段階から政府や自治体が関与して、より迅速かつ効率的に風況等の調査や適時に系統の確保等を行う仕組み(日本版セントラル方式)の確立に向けて、実証事業を立ち上げることを示した。
  12. 提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」(2022年5月)参照。
  13. 再エネ海域利用法では、領海及び内水の海域のうち基準に適合する区域を、海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域として指定することができるとしている。
  14. 経済産業省が公表した「CCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめ」(2022年5月)では、同検討会の下に設置した「CCS事業・国内法検討WG」において、事業者がCCS事業で地下や海底下を利用する権利の設定や、事業者がCCS事業で負う責任の範囲や期間の明確化をはじめとする法制上の課題を2022年内に整理し、可能な限り早期に法整備を行うとしている。
  15. 領海や排他的経済水域の範囲を測定する際の基となる線のこと。「領海及び接続水域に関する法律」(1977年5月公布)により、海岸の低潮線、湾口もしくは湾内等に引かれる直線と規定。
  16. 「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」(2016年4月公布)に基づく施策を推進するため、2017年度から行われている特定有人国境離島地域の地域社会の維持を支援するための交付金制度。特定有人国境離島地域とは、領海基線を有し日本国民が居住する有人国境離島地域のうち、継続的な居住が可能となる環境の整備を図ることがその地域社会を維持する上で特に必要と認められる地域。
  17. 政府は、2022年6月の「アジア安全保障会議」において、今後3年間で20ヶ国以上に対して、海上法執行能力の強化に貢献する技術協力及び研修等を通じて、800人以上の海上安保分野の人材育成・人材ネットワークの強化の取り組みを推進するとともに、インド太平洋諸国に対して、今後3年間で少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラの支援を行うことを表明。

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