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Policy(提言・報告書) 国際協力 戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて -2022年度版-

2023年3月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

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Ⅰ.インフラ投資を取り巻く情勢

今日、感染症の蔓延、気候変動問題や環境汚染の深刻化、格差の拡大など、多様化・複雑化する地球規模課題および各国・地域が直面する社会課題を解決し、サステイナブルな社会を実現することが求められている。このような状況の下、人々の生活や経済活動の基盤となるインフラ投資にあたって、生態系や生物多様性、気候・気象、資源利用等に対する環境面の配慮が不可欠である。同時に、インフラ投資を通じた経済、環境、社会および開発面における効能を最大化するとともに、あらゆる人々の経済参加や社会包摂を可能にする必要がある。即ち、真に質の高いインフラ投資が求められている#1

現在、インフラ投資を取り巻く環境は、大きな変化の只中にある。新興国の台頭等を背景に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて様々な協力強化の動きが見られる。また、新型コロナウイルス感染症は世界に深い爪痕を残し、将来発生し得る新たなパンデミックに備えることの重要性を訴えている。さらに、2021年のミャンマーにおける国軍クーデターや2022年のロシアによるウクライナ侵略等はインフラ投資を取り巻く情勢をますます複雑化、不安定化させている。

これらは複合的に作用して、サプライチェーンの混乱と分断、資源エネルギー・食料の供給不安や価格高騰を惹起し、特に、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国など、脆弱性の高い国・地域の経済社会に深刻な影響を及ぼしている。そこに襲った世界的なインフレーションは、それらの国・地域の人々の生活や企業の活動にさらなる打撃を与えるのみならず、いくつかの国においては債務不履行のリスクさえ高まっている#2

日本は、これまで質の高いインフラシステムを海外展開することを通じて、各国・地域経済の発展と安定、サステイナブルな社会の実現に貢献してきた。こうした取組みは、日本企業の有する技術や品質への信頼の獲得につながるばかりでなく、国際社会におけるわが国の地位の向上(外交力の向上)にも資するものである。加えて、わが国における人口の減少や低い潜在成長力を踏まえれば、インフラシステムの海外展開を通じて各国・地域の成長を取り込み、わが国自身の経済の成長につなげていくこと(経済力の向上)が重要である。

Ⅱ.わが国によるインフラシステムの海外展開の現状

わが国が追求してきた質の高いインフラシステムの海外展開が今こそ求められている#3ものの、現実は厳しい状況にあると言わざるを得ない。近年、新興国の台頭等により、日本企業は、インフラ投資において価格・技術両面において激しい競争にさらされ、苦戦を強いられている。かかる状況下、「質の高いインフラについては、従来のインフラプロジェクトにおけるライフサイクル全体を考慮した経済性の観点からのみでは、海外展開の継続は容易ではない」#4という指摘がなされている。加えて、欧米諸国等による金利の引き上げ等に起因する円安の急速な進展、原材料・資材価格の高騰、一部の国・地域における政変や政情不安等によって、プロジェクトの停止や進捗の遅延といった事態も生じている。

現状を打開し、質の高いインフラシステムの海外展開を一層強力に推進するためには、その中長期的なメリットを引き続き説明・発信していくと同時に、ホスト国・地域に対して客観的に訴求する仕組みを確立する必要がある。また、それらのメリットを可能な限り速やかに現出させるため、ホスト国・地域において、ガバナンスの構築やインフラの維持管理等のための人材の育成などのソフトインフラの整備を支援することが重要である。以上にあたっては、インフラ単体の質もさることながら、関連したサービス等を含め、ホスト国・地域の社会課題を解決するシステムとして展開するとともに、費用対効果と付加価値をともに向上させる視点が重要となる。具体的には、案件の計画・形成・実施等の各段階において、①ホスト国・地域の戦略・ニーズに見合うわが国企業の有する技術・製品・サービスの提供#5・運営管理、②旺盛な資金需要と高まるリスクへの対応、③市場の創出・形成に向けた法制度やルールの整備等の働きかけ#6、④甚大なリスクの顕在化への備え、などが求められる。

2020年12月に経協インフラ戦略会議が決定し、以降毎年追補等がなされてきた「インフラシステム海外展開戦略2025」については、PDCAの着実な実施とともに、インフラシステムの海外展開を担う企業ニーズをも踏まえた不断の見直しが必要である。2021年には、「カーボンニュートラルへの貢献」「デジタル変革等への対応」「展開地域の経済的繁栄・連結性向上」「コロナへの対応の集中的推進」が具体的施策として追補されるとともに、分野別アクションプランの策定等が行われた。また、2022年には、「ポストコロナを見据えたより良い回復の着実な実現」「脱炭素社会に向けたトランジションの加速」「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を踏まえたパートナーシップの促進」が重点戦略として明確化された。2023年も上述のような情勢変化を踏まえて、「インフラシステム海外展開戦略2025の推進に関する懇談会」における議論を経て追補が行われる見込みである。本提言は、それに向けて、経団連開発協力推進委員会委員に対して実施したアンケート結果に基づいて取りまとめたものである。

折しも2022年秋以降、わが国のODA政策の根幹をなす「開発協力大綱」の改定に向けた議論が約7年ぶりに行われており、2023年前半には成案を得る見込みである。今後、ホスト国・地域における社会課題および多岐にわたる地球規模課題に適時適切に対応していくために、莫大な資金が必要とされ、インフラ整備における民間資金の重要性が高まる中#7、政府によるODAは、民間企業の海外事業展開を呼び込む触媒として重要である。同大綱の改定が、ODA予算の拡充につながり、それを梃子に民間によるインフラシステムの積極的な海外展開が見られるようになることを期待する#8

Ⅲ.「インフラシステム海外展開戦略2025」の追補に向けた提言

(1)質の高いインフラシステムの海外展開に必要な10の施策

前述したとおり、質の高いインフラシステムのメリットを引き続き訴えていくとともに、それらの速やかな現出に必要な環境を整備すべく、以下の諸点を2023年追補にあたって、十分考慮すべきである。

<質の高いインフラシステムのメリットを説明・発信、客観的に訴求する>
① 総理・閣僚によるトップセールス等

質の高いインフラシステムを海外展開するためには、日本政府によるホスト国・地域政府との関係の強化が極めて重要である。「インフラシステム海外展開戦略2025」(令和4年6月追補版、以下「戦略2025」)では、「質高インフラに向けた官民連携の推進」のなかで、「トップセールスと発信力・提案力・交渉力の強化」を謳っている。今後もトップセールスの展開や在外公館による日本企業に対する変わらぬ積極的な支援を期待する。その際、わが国とホスト国との連携・協力はもとより、それを起点として、共通の課題を抱える周辺国・地域への各種インフラの展開も視野に入れて、例えば、地域共同体単位で働きかけていくこと#9、FOIP等のビジョンの下で質の高いインフラや人材育成等による連結性を強化してくこと#10が重要である。

② 官民フォーラムの開催

わが国が、これまでに蓄積した知見と経験を有効活用するためには、案件計画・形成の上流段階、即ちホスト国・地域のインフラに係る各種戦略とそれに基づくマスタープランや政策策定に積極的に関与していく必要がある。同時に、わが国企業が有する技術・製品・サービスがホスト国・地域の社会課題の解決にとって真に有益であり、競争力を備えていることを訴求し続けることが重要になっている。

その一環として、追補にあたっては、ホスト国・地域において、わが国を含む官民が一堂に会するフォーラム#11を開催し、わが国が有する技術・製品・サービス等をホスト国・地域に紹介・提案するなどの取組みを推進することが求められる。

③ 質の高いインフラシステムの国際認証制度の活用

現在、OECDで検討が進められている国際認証制度「ブルードットネットワーク(BDN)」は、質の高いインフラシステムのメリットを客観的に訴求する上で重要なツールとなり得るものである。検討は既にパイロット・プロジェクトのフェーズに入っており、欧州を中心に多くの企業が積極的に参加している。質の高いインフラシステムの海外展開を標榜する日本政府・企業として、制度の設計段階から積極的に関与するとともに、制度が導入された暁には、欧州はじめ他国に先んじてBDNを有効に活用することが重要である。そのため、日本政府においては、例えば、(ア)JBICの審査を経て融資可能とされた案件については、自動的にBDNの認証が受けられるようにすること、(イ)BDNとして認証された案件については、金融機関の低利融資を受けられるようにすることなど、日本企業にとって使いやすく柔軟性を備えた制度設計が求められる。

<ホスト国・地域のソフトインフラ整備を支援する>
④ ガバナンス構築、人材育成等

質の高いインフラシステムがホスト国・地域において適切に評価されるためには、ホスト国・地域において適切なガバナンスが構築されていることがまずもって重要である。加えて、企業がホスト国・地域に投資するにあたり、必要かつ適切な法制度が整備されていることが前提となる。さらに、導入されたインフラが安定的に運用され、持続的な成長につなげていくことを目的に、ホスト国・地域における人材育成が求められる。これら法整備や人材育成は、自由、民主主義、法の支配、基本的人権などといった普遍的価値を実現し、他国によるインフラシステムの海外展開と差別化を図る上でも重要である。特に人材育成については、わが国企業はこれまでASEANやアフリカにおいて各種の取組みを積極的に行い、実績を上げており、これまでの知見と経験を活かせる余地は大きい。

戦略2025においては、「案件形成の上流からの関与の強化等により、社会的仕組みの整備と一体的に、質の高い環境インフラの導入を推進」すること、「ODAの戦略的活用による法整備支援」などが盛り込まれており、追補にあたっても、これらの取組みの一層の強化が求められる。

<ホスト国・地域の戦略・ニーズに見合う技術・製品・サービスを提供・運営管理する>
⑤ 社会課題の解決に向けた戦略・ニーズの的確な把握

経協インフラ戦略会議が司令塔となり、戦略2025のPDCAを着実に実施する一環として、ホスト国・地域における戦略やニーズの的確な把握に努めるとともに、それらに見合う技術・製品・サービスを積極的に提案すべきである#12。例えば、②で述べたような官民フォーラム等に加えて、ホスト国・地域の戦略・マスタープラン・政策策定の動向をわが国政府がいち早く把握し、わが国企業と情報を共有することによって案件の計画・形成に早期に着手することが求められる。ホスト国・地域の戦略に基づくPPPなどのスキームを活用することで企業は案件に参画しやすくなる。その際、国際的な信頼性の確保や幅広い国・地域への展開を視野に、国際機関や国際開発金融機関(MDBs)との連携も考慮する必要がある#13。さらに、案件によっては、完了するまで複数年度にわたるものもあり、そうした案件についてはわが国政府として、中長期的な観点から関与することが求められる。そして、その案件がホスト国のニーズに見合ったものであったのか検証し、その後の取組みにいかすことが重要である。

また、スマートシティのように、複数のインフラを面的に整備し、様々な技術・製品・サービスを組み合わせたシステムを展開する上では、省庁が連携してホスト国・地域の社会課題やニーズを把握することが肝要である。その上で複数の企業を結び付け、政府・関係機関が提供する各種施策や支援メニューを総動員し、案件の獲得に尽力することが重要である。この点は、経団連の「開発協力大綱の改定に関する意見」(2022年12月13日)において、「台頭する新興国との差別化を図る意味でも、ホスト国・地域に根ざした、真に必要とされる品質・性能を有するインフラをホスト国・地域にとって支払い可能な価格で提供することが求められる」と指摘したところである。

なお、わが国の経済安全保障の確保が課題となる中、機微技術や海外パートナーに関する、政府・関係機関間の情報共有および意思疎通を密にするとともに、民間への情報提供が求められる。

⑥ O&Mに対する支援

ホスト国・地域において、導入したインフラシステムが適時適切に運営・維持管理(O&M)されることが、ライフサイクルコストを含めたメリットを実感させる上で重要である。特にデジタル分野においては、技術革新が急であり、かつ機器の更新やソフトウエアのライセンス更新・アップグレードが頻繁に発生するため、O&Mへのファイナンスを含めた支援が欠かせない。O&Mは、わが国の中長期的な収益の確保に繋がるとともに、他国との差別化を図る上でも重要である。

戦略2025においては、「日本に強みのあるO&Mをセットにしたパッケージ展開の推進」が盛り込まれており、追補にあたっても、ODAを含むファイナンス面において、O&Mへの支援が求められる。

<旺盛な資金需要と高まるリスクに対応する>
⑦ ファイナンス支援とリスク軽減措置の拡充

インフラシステムの海外展開は、多額の資金を必要とすることが多く、また、プロジェクトが長期に亘る場合には、その完了まで、国際情勢の変化や突然の政変、物価の高騰、ホスト国の財政状況の悪化など予見困難な事象が発生する可能性がある。こうした中、民間企業がインフラシステムの海外展開に果敢に挑戦するためには、ファイナンス面での支援や民間のみでは負うことのできない各種リスクの緩和・低減等が必要である。

この点、戦略2025においては、各種F/S支援やODAの戦略的活用、公的金融機関および官民ファンドの支援対象の充実、支援の迅速化および組織体制の強化等を通じた民間資金の一層の動員が盛り込まれている。

今次追補にあたっては、特にグリーン分野におけるF/S支援やJBICによる支援強化、ODA卒業国、特に戦略的に重要な国・地域向けの支援メニューの創設、ODAプロセスの簡素化・迅速化など民間企業が活用しやすい柔軟な制度設計・運用が求められる。加えて、JICAの海外投融資の一層の拡充が期待される。また、日本貿易保険(NEXI)については、昨年、貿易保険法が改正され、填補事由の拡大などの措置が取られており、今後は、付保条件・事業不能要件等の緩和などによる保険機能の強化がなされることを期待する。

<市場の創出・形成に向け法制度やルールの整備等を働きかける>
⑧ 法制度やルールの整備

例えば、後述するインフラシステムにデジタル技術を組合せ、適時適切にメンテナンスを行う場合、国境を越える自由なデータ流通を確保することが不可欠である。戦略2025においては、データの自由な流通に係る国際ルール・規範の策定等が盛り込まれているが、それに加えて、信頼ある自由なデータ流通(DFFT)を確保するための環境整備の一環として、プライバシー保護のための法制度の整備をホスト国に対し提案することなどが考えられる。

また、グリーンインフラを展開する観点から、例えば、環境に配慮した技術・製品の利用によって抑制できた社会全体の温室効果ガス排出量を「削減貢献量」(Avoided Emissions)として評価する新たな価値軸の構築を、国際的に働きかけていくことも重要である。

⑨ 国際標準化の推進

わが国の技術・製品・サービスに関する規格・基準が国際標準を獲得すれば、日本企業の競争力向上や技術の普及、特許・知的財産による収入という大きなメリットが期待できることに加え、質の高いインフラシステムのコスト低減にもつながる。そのため、日本国内の規格・基準の体系的な整備を行いながら、国際標準化を主導できるよう、具体的な戦略を策定・推進することが重要である。また、データの利活用による価値創造を通じたSociety 5.0の実現に向けて、業種を超えたデータの連携や、製品・サービスとデータの連携構造(アーキテクチャ)の標準化を行うにあたっては、企業間連携や、国家間の仲間づくりが鍵を握る。

戦略2025においては、「国際標準への対応と策定過程への積極関与」が盛り込まれ、標準化の先を見据えたパートナー国との連携や日本式のコールドチェーン物流サービス規格等の国際標準化の推進などが謳われている。今後は、それら具体の取組みを踏まえ、他分野にも応用可能な施策の展開や、キャリアパスも念頭に置いた、必要な専門人材の育成が期待される。

<甚大なリスクの顕在化に備える>
⑩ 有事への迅速かつ柔軟な対応を可能とする体制整備

インフラシステムの海外展開において、甚大なリスクが顕在化した際には、関係機関における柔軟な対応が求められるとともに、日本政府、在外公館が、ホスト国政府との交渉において、日本企業をきめ細かく支援するなどバックアップ体制の整備が求められる。

(2)今後、取組みを強化すべき分野・地域

国際情勢の変化や技術革新を踏まえ、インフラシステムの海外展開において、分野と地域の選択と集中を図りながら、ホスト国・地域におけるサステイナブルな社会の実現に向けた取組みが求められる。

本提言の取りまとめにあたり、経団連開発協力推進委員会が実施したアンケートにおいて、各社が今後、長期的に取組みを強化する分野として、大きく、グリーン、デジタル、グローバルヘルス(健康・医療)、交通・物流インフラが挙げられている。

また、重点地域については、地理的に近接し、エネルギートランジションに向けた旺盛な需要と多彩なニーズ等を踏まえ、東南アジアや南アジアを挙げる意見のほか、アフリカや中南米における取組みを強化するとの声もあった。

① グリーンインフラの展開

気候変動への対応は地球規模課題であり、一国で解決できるものではない。世界全体でのカーボンニュートラルの実現に向けた取組みは、各国・地域と連携・協力して行わなければならない。とりわけ、経済活動や人々の生活に必要不可欠となるエネルギー関連のインフラシステムの展開にあたっては、ホスト国・地域の産業構造やエネルギー需給構造を踏まえた円滑なエネルギー転換につなげることにより、中長期にわたる持続可能な脱炭素化を進めていくべきである。その際、わが国の技術・製品・サービスを積極的に展開していく必要がある。また、わが国自身のカーボンニュートラルの実現にあたっては、水素やアンモニアの製造・輸送・貯蔵・流通・消費に関連するサプライチェーンの構築が求められる。

他方、新規の脱炭素技術の中には、収益性が不透明なものや、初期投資が莫大となるもの、長期にわたる継続的な投資が必要となるものなど、高いリスクを伴うことから、民間が投資に慎重にならざるを得ない場合もある。

戦略2025では、「脱炭素社会に向けたトランジションの加速」として、(ア) アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の実現、(イ) 日本の優れた脱炭素技術等の海外展開支援、(ウ) 各種支援策の統合的活用が盛り込まれている。追補にあたっては、水素やアンモニアなどの脱炭素分野における技術の開発・実装や、当該国のみならずわが国のエネルギー安全保障上も重要なLNGの安定供給に資する各種インフラ整備を目的とする政策金融等の一層の支援が期待される。また、予見可能性を確保するためには、ホスト国における再生可能エネルギー関連制度の安定的な運用が実現するよう、粘り強い働きかけ等が求められる。

二国間クレジット制度(JCM)は、カーボンニュートラル達成への切り札の一つとして、特に高く評価する声が多く寄せられている。2022年には、パートナー国が従来の17カ国から25カ国に増加しており、今後は、国数の一層の拡大とともに、日本政府がCOP27で打ち出した「パリ協定6条実施パートナーシップ」といった枠組みを活用し、パートナー国側の理解醸成およびカーボンクレジットの売買制度設計に関するキャパシティ・ビルディングを進めていくべきである。加えて、JCM設備補助事業のさらなる予算措置や対象となる事業や設備の拡大、随時審査の実施など、民間企業が機会を逸することなく活用できる仕組みが求められる。

② インフラにおけるデジタル技術活用の推進

ICT技術とデータの利活用による各種のサービスは、経済社会に高い利便性をもたらすとともに、大きな付加価値を生み出している。インフラ分野においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進がより重要性を増しており、DXによって一層包括的かつ効率的なインフラの運用が可能となり、社会課題の解決とサステイナブルな社会の実現にもつながる。

戦略2025においても、(ア) デジタル技術を活用したインフラシステム案件の組成推進、(イ) デジタル技術の特性を踏まえたソフトインフラ整備、(ウ) 国内・海外双方向での事業展開を見据えた先進イノベーション技術への支援などが盛り込まれている。

上記(ア)については、例えば、再生可能エネルギーの利活用にあわせ、デジタルテクノロジーを基盤とする電力系統の安定化と一体となったシステムの構築、顔や虹彩などの生体認証技術を活用した安心・安全な社会の実現、データを活用し部品の交換時期を予測し顧客に部品を供給することや、ICT技術を活用したスマート農業の推進など、日本企業が強みを持つ技術を活用した案件の具体化が重要である。デジタルインフラの技術は革新の速度が極めて高く、日本政府は海外展開を迅速かつ積極的に後押しすることが求められる。

また、DXは、単一の分野に止まらず横断的に波及し、高い相乗効果が見込まれることから、エネルギー、道路・交通、健康・医療、安全・安心、農業、防災・減災といったそれぞれの分野に加えて、これらを組み合わせ、諸課題を広範かつ総合的に解決するスマートシティに関する取組みとの親和性が高い。戦略2025においても、「トップセールスと発信力・提案力・交渉力の強化」において、スマートシティについては、Society 5.0の観点から、戦略的な発信や省庁間の連携体制および官民の対話の強化、全体最適をイメージした提案を行うための仕組みの構築などが盛り込まれている。スマートシティは、個々の企業だけでは完結しないことを踏まえ、戦略2025の追補にあたっては、業種を超えた協力や官民連携による案件形成に向けて、日本政府による力強いリーダーシップの必要性を強調すべきである。

③ グローバルヘルス(健康・医療)の推進

新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、グローバルヘルスの重要性が改めて認識された。健康・医療が、あらゆる人々に等しく提供されることは、貧困等の社会課題を解決し、各国・地域の成長と安定に資する。

わが国企業は、デジタル技術を活用した母子健康手帳のサービスや、指紋認証技術を活用した子どものワクチン接種の推進など衛生・健康管理に関連するシステムを海外で展開するなど、その技術や製品、サービスにより、グローバルヘルスに貢献できる余地は大きい。

戦略2025では、医療・ヘルスケア・高齢化対応等、わが国が他国に先駆けて取り組む課題およびこれらの主流化に対応する強固で柔軟性のある社会インフラの海外展開を推進するとされている。また、昨年4月には、政府の「健康・医療戦略推進本部決定」において「グローバルヘルス戦略」が決定され、「国際機関等を通じた取組」「二国間ODAを含む多様な協力ツールの活用」「民間企業との連携」などが盛り込まれている。

戦略2025の追補にあたっては、グローバルヘルスをインフラシステムの海外展開の柱の一つに据え、個々の企業が有する先端技術を製品やサービスに落とし込み、総合的なソリューションとしてプロジェクト化するなど、日本の技術力やノウハウを生かした取組みを加速していく必要がある。その際、より多くの国・地域への展開も視野に、国際機関との連携を併せて進めていくことが求められる。

④ 交通・物流インフラの展開

道路、橋梁、トンネル、鉄道、空港、港湾といった交通・物流インフラは、持続的な経済発展の基盤となるものであり、引き続き、各国・地域において旺盛な需要と多様なニーズが見込まれる。日本企業には、これまでの経験で培った技術的優位性やノウハウの蓄積があるものの、今後はこれらを存分に活かしつつ、新しい技術・製品・サービスを導入しながら市場の獲得に取り組んでいく必要がある。追補にあたっては、従来の取組みに加えて、DXやGXなどの視点から、新しい技術・製品・サービスを組み合わせ、一層の効率化や環境負荷の低減、資材の再利用を通じたサーキュラーエコノミーへの貢献等、付加価値を高める施策が求められる。

以上

  1. 「質の高いインフラ投資に関するG20原則」、特に原則1、3、5参照。
    https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g20/annex2.pdf
  2. 国際通貨基金(IMF)によれば、低所得国の債務持続可能性について分析したところ、2012年に破綻状態にあった国は全体の2%であったのが、2022年には13%に増加。また、破綻リスクの高い国の比率も25%から43%に拡大。
  3. マルパース世界銀行総裁は、2022年9月に来日した際、「日本は、質の高いインフラや防災、債務の透明性・持続可能性、グローバルヘルスなど、数多くの分野で開発アジェンダを主導する存在である」と発言。
  4. 外務省「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会報告書」(2022年12月)
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100432142.pdf
  5. 上記報告書は、開発途上国の実情から乖離した過剰スペック・高コストな要素を削除する必要性を指摘。
  6. 経団連「開発協力大綱の改定に関する意見」(2022年12月13日)において、「わが国企業の進出が進んでいない国・地域、分野において、ハード・ソフト両面のインフラ整備を行うことで、当該国・地域におけるわが国の新たビジネスにつなげることが期待される。その際、ホスト国・地域における個々のプロジェクトへの個別アプローチにとどまらず、官民連携によるプロジェクト横断的な提案型のアプローチがより効果的である。すなわち、政府には、企業・経済界と連携して、ホスト国・地域に対して法制度やルールの整備を提案するなどの取組みが求められる」と指摘。
  7. 国連貿易開発会議(UNCTAD)は、途上国におけるSDGs達成に必要な投資額を年間3.9兆ドルとする一方、現在の投資額は1.4兆ドルに止まっており、毎年2.5兆ドルの投資ギャップが生じると試算。そのうち1.2兆ドルがインフラ関連。
  8. 政府における「開発協力大綱」の見直しの動きに対し、経団連は「開発協力大綱の改定に関する意見」(2022年12月13日)を公表。
  9. 例えば、アフリカには8つの地域経済共同体(RECs:Regional Economic Communities)が存在。
  10. 「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会報告書」(2022年12月)では、開発協力の一つの方向性として、「平和と繁栄の土台としての普遍的価値に基づく国際秩序の維持への貢献」を掲げ、その中でFOIPのビジョンが掲げる「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を更に推進するとして、具体的な方策として、質の高いインフラや人材育成等による連結性の強化に言及。
  11. わが国とホスト国の二国間のみならず、例えば日米豪印4カ国(QUAD)など複数国間で行う枠組みも考えられる。「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会報告書」(2022年12月)は、G7やQUAD等の同志国をはじめとする各国との連携に関して、戦略的に重要な国・地域の開発における連携をいかに実現するかが鍵となるとしている。
  12. この点に関し、途上国の要請を受けてから支援を行うODAの「要請主義」については、現行の開発協力大綱においても、「相手国からの要請を待つだけでなく、相手国の開発政策や開発計画、制度を十分踏まえた上で我が国から積極的に提案を行うことも含め、当該国の政府や地域機関を含む様々な主体との対話・協働を重視する」とされており、能動的かつ積極的な取組みが一層求められる。
  13. 「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会報告書」(2022年12月)は、国際機関等との連携の重要性を指摘する中で、Gaviワクチンアライアンス等の国際的な枠組みの存在感に言及。

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