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Policy(提言・報告書) 国際協力 二国間クレジット制度(JCM)の一層の活用に向けてパートナー国・地域の拡大と公的支援の改善・拡充を求める

二国間クレジット制度(JCM)の一層の活用に向けて
パートナー国・地域の拡大と公的支援の改善・拡充を求める
概要

2023年11月6
一般社団法人 日本経済団体連合会
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昨今、世界では異常気象や大規模災害等による被害が相次いでおり、地球規模の課題である気候変動への対応は一刻の猶予も許されない。わが国としては、カーボンニュートラルの2050年までの実現及び温室効果ガス(GHG)排出量の2030年度46%削減(2013年度比)の目標達成に向け、実効ある対策を早急に講じることが求められている。同時に、わが国の優れた技術、製品、サービス等を国外にも展開することによって、地球規模でのカーボンニュートラルに貢献するとともに、海外の旺盛なグリーン需要を取り込み、わが国の経済成長につなげ、経済と環境の好循環を創出していかなければならない。

わが国は、国際的なGHG排出削減に向けた貢献の一環として、新興国・途上国等との間で、二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)を設けている。JCMは、パートナー国へ優れた脱炭素技術・製品・サービス・システム・インフラ等を普及させ、当該国において対策を実施することを通じて、GHGを排出削減・吸収し、その結果を定量的に評価するとともに、わが国のNDC(Nationally Determined Contribution:国が決める貢献)の達成に活用するものである#1

わが国は、現在までに28カ国とJCMを署名するとともに、日本企業によるJCMプロジェクトの推進のため、関係省庁・機関による設備補助、実現可能性調査(FS)、実証事業等の200件を超える公的支援を実施している。こうした取組みは、カーボンニュートラル達成に向けた日本企業の国際的な貢献を後押しするものとして高く評価できる。

他方、地球規模での脱炭素社会実現の緊急性に鑑みれば、国際連携の一層の推進の切り札となり得るJCMのさらなる活用を通じた具体的な案件の形成・実施が急務である。にもかかわらず、パートナー国にはインド、マレーシア、ブラジル、南アフリカといったJCM活用の潜在性が高い国が含まれておらず、早急な拡大が必要である。また、案件の形成・実施途上のものが非常に多く見られる中にあって、政府一体的な推進体制を整備するとともに、公的支援をより使い勝手の良いものに改善・拡充し、JCMプロジェクト・サイクルの実施を円滑化すること、民間JCMの促進に向けた環境を整備することが強く求められる。具体的には、下記に掲げるとおりである。

なお、国土や気象などの条件がわが国と異なる国・地域において、多様なニーズに応えてJCM案件を形成、実施することは、わが国の政府・関係機関及び企業の知見と経験の蓄積につながることが期待される。また、そのような知見・経験の蓄積は、将来の日本企業による脱炭素技術・製品・サービス・インフラのさらなる改善や高度化、国内外における普及・展開に大きく貢献し、ひいてはわが国産業の競争力強化につながるものである。

1.パートナー国・地域の拡大

日本政府は、JCMのパートナー国を、2025年を目途に、30カ国程度に拡大することを目指しており、上述のとおり、現在28カ国にまで拡大してきている。

一方、日本企業からは、現在のパートナー国以外の国・地域においても、水素、アンモニア、バイオマス、コージェネレーション、廃棄物焼却発電、ボイラー、ガスタービン、燃料転換、蓄電、海水淡水化、製造プロセスの省エネ・省資源化、CCS・CCUS、太陽光発電、水力発電、森林保全、農業をはじめ、幅広いJCMプロジェクトを形成・実施したいとのニーズが寄せられている。

今後、30カ国の目標達成に満足することなく、新興国・途上国に留まらないパートナー国・地域の大幅な拡大が求められる。とりわけ、日本企業のビジネスニーズの高い、次に掲げる国・地域との間で早急にJCMを締結すべきである。

(1)インド、(2)マレーシア、(3)ブラジル、(4)トルコ、(5)豪州、
(6)台湾、(7)エジプト、(8)南アフリカ

その他、米国、中国、シンガポール、ブルネイ、パキスタン、カタール、クウェート、オマーン、ヨルダン、トルクメニスタン、タンザニア、ガーナ、モザンビーク、ペルー等との早期締結が望まれる。

また、署名済国を含め、各国・地域におけるJCMへの理解醸成、候補案件形成のため、各種政府間会合、政府関係者等の往来等の機会を積極的に活用し、JCMの広報・啓発活動を一層強化することを期待する。

2.公的支援の改善・拡充

今後、具体的なJCM案件の形成・実施を更に強化し、民間JCMの拡大につなげていくための呼び水として、既存の公的支援をより使い勝手の良いものに改善・拡充することが不可欠である。

まずは現状の関係省庁・機関による設備補助、実現可能性調査、実証等に係る補助事業の予算を拡充し、機動的な運用を行うとともに、基礎調査・FSから、技術協力、建設工事、運営・維持管理(O&M)、MRV(温室効果ガス排出量の測定、報告及び検証)に至るまでのプロジェクト・サイクルを間断なく一気通貫で支援すべく、省庁横断的に取り組んでいくことが極めて重要である。

具体的には、補助事業の活用を促し、国際貢献に資する成果を一層創出すべく、採択基準やクレジット配分の明確化、日本企業が国際競争力を有する分野・技術への採択事業の拡大(水素、アンモニア、e-fuel・e-methane等の合成燃料の製造・利用、製造関係の省エネ・省資源等の技術、CCS・CCUS、森林、農業、土地利用、さらには複数国案件等)、予算の大幅な増額(①個別の補助金額・補助率及び補助上限の拡大、②技術・周辺設備、導入設備の保守・点検、方法論作成等コンサル費用等への補助対象の拡大等)、要件の柔軟化(事業実施期間の制限緩和、現地法人契約への適用、他制度の方法論の柔軟な適用等#2)が必要である。また、公募・採択スケジュールの柔軟化(通年化、二次採択以降のスケジュールや予算額の事前明示等)、申請手続・採択・許認可の簡素化・迅速化#3、代表事業者のリスク軽減#4、モニタリング負荷の軽減(モニタリング期間(現状、設備の法定耐用年数に設定)の短縮等#5)、GHG排出量・排出削減効果の算出基準や測定方法の随時かつ柔軟な見直し、が求められる。さらに、JCMクレジット発行の円滑化・公正化(中間財の貢献算入を含む)、不可抗力(政変等)発生時の補助金等の柔軟な対応、JCM実施にあたってのコンサルティングサービスの提供・充実等#6を図る必要がある。

二国間クレジット制度(JCM)等を活用した低炭素技術普及促進事業(NEDO)については、予算と案件の増大、対象プロジェクトの種類・設備等の明確化等が求められる。

加えて、設備補助等既存制度以外の公的支援制度#7の創設、海外への関連投資に対する支援措置の創設、獲得したカーボンクレジットの活用事例の共有等を要望する。

3.民間JCMの促進に向けた環境整備

民間JCMについては、クレジットの創出に手間、コスト、時間がかかること、流通市場が未整備であること等から、現状の実績は少数に留まっている。民間JCMの拡大に向けては、わが国政府による相手国政府との各種制度面の対応#8、各種支援制度の創設#9、さらにJCMクレジットが適切な価格で流通するための市場や制度の整備#10等が求められる。

以上

  1. 日本政府は官民連携によりJCMで2030年度までの累積で1億トン-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指している。
  2. 現状、当該技術に対する設備補助の対象可否の判断の際、対象国における技術の普及状況が影響を与える点については、柔軟な対応が求められる。
  3. 2023年度よりPIN(Project Idea Note:事業概要)のパートナー国の確認プロセスが追加され、審査プロセスの長期化が懸念されている。また、申請ルートの一元化や電子申請システムの改善が必要である。
  4. 現地事業実施会社の代表事業者就任、日本企業の代表事業者代行就任等、運用の柔軟化が必要である。
  5. 経過年数に応じたタスクの軽減、モニタリングの自動化支援、複数のプロジェクト参加者間でリスク分散ができるようなモニタリング期間中の有事に対応できる「保険制度」の構築等が求められる。
  6. 申請前の相談窓口(日英対応)の開設、現地での連携・提携先のマッチングを含む。
  7. 例えば、①公的資金や慈善資金と民間の投資・融資を組み合わせたブレンデッド・ファイナンスの活用促進、②森林、農業、土地利用、CCUS等非エネルギー起源のGHG排出削減案件や、③合成燃料の社会実装等への支援等
  8. 例えば、環境価値(CO2削減貢献)の帰属問題を含む相当調整交渉、政府間の合意書の調整(セクトラルスコープの追加等)、個別事業の現地法規制との整合性確保等
  9. 例えば、案件形成F/SやMRV、JCM方法論の確立、JCMプロジェクト登録作業、コンサルティング等への支援
  10. 例えば、有価証券報告書における温暖化ガス排出量の開示に当たって、JCMクレジット分を控除したネット表示も可能な制度設計とする等を含む。

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