1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. IAASB公開草案 国際サステナビリティ保証基準 (ISSA) 5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」へのコメント

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 IAASB公開草案 国際サステナビリティ保証基準 (ISSA) 5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」へのコメント

2023年12月1
一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース

国際監査・保証基準審議会(IAASB)御中

ISSA 5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」の公開草案(以下、ED-5000)へのパブリックコメントの機会に感謝する。

各質問項目については、以下の通り回答する。

質問1:全般的な質問

<Agree, with comments below>

  • サステナビリティ開示制度は発展途上の段階であり、GHGプロトコルなど、ある程度確立された規準を拠り所にできる温室効果ガスの排出量などのサステナビリティ情報もあれば、規準が未整備の情報も多く存在する。サステナビリティ開示情報については、拠り所となる規準の有無等により、対応する保証業務の客観性・信頼性が大きく変わり得るため、保証業務のあるべきアプローチも変わってくると考える。仮に規準が未整備のサステナビリティ情報も含めて、保証の取得ありきの風潮になれば、十分なエビデンスがないままの保証や、仮定条件の注記ばかりの保証が行われるようになり、開示情報の信頼性やわかりやすさが損なわれる可能性がある。また、作成者が保証の取得を優先することで、作成者側の積極的な開示を抑制することにもなりかねない。

  • IAASBで開発する保証基準の実効性を確保するためにも、各関係者の理解を促す工夫が必要であり、たとえば、保証が有効に機能する/しないケース、それぞれのケースに対応する望ましい保証の在り方をIAASBが示すことが有用と考える。

  • ED-5000において、弊会が特に重要だと認識している項目は以下の3つである。

    1. ① 高度な内部統制システムの構築なくして保証が受けられないような制度設計にすべきではない点(質問13)、
    2. ② サステナビリティ情報は財務情報に比しより長期的な将来予測を伴う事が多く、見積情報と実績情報の乖離も相対的に大きくなる傾向がある。この点を基準等で明記すべき点(質問16)、
    3. ③ 見積情報と実績情報の乖離が相対的に大きくなる傾向があるため、誤謬と不正を区別する判断指標をより明確にすべき点(質問19)。

詳細は各質問項目の箇所で記載する。

質問4:関連する職業倫理に関する規定及び品質マネジメント基準

<No, with comments below>

  • ED-5000の保証業務の職業倫理と品質管理の規定は明確だが、監査基準・規程をベースに開発されたことで、当初から適用するには要求水準が高く、監査法人以外の対応が困難で、対応できる保証業務提供者が不足することを懸念する。また監査法人以外の業界では、IESBA倫理規則やIAASBのISQM1に匹敵するほど基準等が高いレベルで整備されていないのではないか。監査法人以外の保証業務提供者でも、実践可能な水準を模索すべきである。

質問5:サステナビリティ情報及びサステナビリティ事項の定義

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • 「サステナビリティ情報」や「サステナビリティ事項」の解釈につき、保証業務提供者によって解釈が異なることで、実務での混乱が起こらないように留意してほしい。教育文書やガイダンス等で、具体的な設例で当てはめを行いながら両者の概念を説明するなど、IAASBの今後の啓蒙活動に期待する。

質問7:限定的保証と合理的保証の差別化

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • 限定的保証と合理的保証については、財務諸表監査の考え方を多く取り入れている事から、ED-5000に記載される各種手続が、サステナビリティ保証の実務でも、財務諸表監査と同様に有効に機能するか懸念する。特にサステナビリティ情報は財務情報に比し、取扱う情報の幅や関与する部署が広範囲にわたり、保証業務提供者も監査法人等に限定されない。今まで財務諸表監査に馴染みのなかった関係者にとっても受け入れられる制度設計にするためにも、ISSA 5000の重要な概念である限定的保証と合理的保証にかかるIAASBの啓蒙活動は極めて重要となる。まずは当初の限定的保証について、企業に過度な実務負荷を強いることなく、実践可能な制度設計を目指してほしい。

質問9:業務範囲を含む、業務の状況に関する予備的知識

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • ED-5000および説明文書では、経営者の「マテリアリティ・プロセス」と保証業務提供者の「重要性」の概念の違いが解りにくい。10月には関連するFAQも公表されたが、保証業務提供者に向けて定められた「重要性」に関する規定と、作成者側が「マテリアリティ・プロセス」において従うべき規定とを混同することによる実務上の混乱は依然として発生しかねないと懸念する。さらなる説明文書やガイダンス等において、具体的な設例で当てはめを行いながら両者の概念を説明するなど、IAASBの今後のさらなる啓蒙活動に期待する。

質問10:規準(criteria)の適合性と利用可能性

<Yes, with comments below>

  • サステナビリティ分野には、個々の環境に応じて様々な考え方・価値観が存在する点に留意が必要である。考え方・価値観が異なれば、同一のサステナビリティ事項について採用する規準が、事業体によって異なることも当然に想定される。

  • 保証を取得するにあたって、法令で利用が義務付けられる場合を除いて、事業者が画一的な規準選択を迫られることがないよう、不適切ではない限りにおいては事業者が多様な規準を選択できる旨を明確化すべき。

質問12:重要性

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • サステナビリティ情報の開示基準が発展途上の段階であり、今後も多種多様なサステナビリティ情報が開示されていく想定の中で、定量的なサステナビリティ情報すべてについて、業務実施者が実務上「重要性を決定」できるか疑問である。仮にED-5000 91項で定める「定量的な開示情報の重要性を決定」が、会計監査と同様に、業務実施者に定量的な「重要性の基準値」の決定を求めるということであれば、「定量的な開示情報の重要性を決定」することが必ずしも適切ではない定量的なサステナビリティ情報もあるのではないか。ED-5000 91項について定量情報についても、「決定」ではなく、定性情報と同様に「考慮」すると定めることが適切ではないか。

質問13:事業体の内部統制システムの理解

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • 限定的保証でも「内部統制の構成要素」を一定程度理解することが求められているが、財務情報に比べ、サステナビリティ情報を取扱う部門は広範囲にわたり、その内容も多岐にわたることから、これが実務的に機能するのか疑問がある。

  • 102L項や102R項では、業務実施者に「事業体の内部統制システムの構成要素を理解」することを求めているが、内部統制システムに関しては、高度に構築していないと保証が受けられないような制度設計にするべきではなく、また、企業グループとして情報収集が出来るのであれば、企業に高度な内部統制システムの整備を求めるべきでもない。ED-5000では、A155-2項、A313項など関連する適用指針が提案されているが現状の記載だけだと、あたかも企業側に一定水準以上の内部統制システム(ITを含む)の整備を求めているかのような誤解を与えかねない。「企業に高度な内部統制システムの整備を求める趣旨がない」旨を、ガイダンス等で明確に記載すべきである。

  • サステナビリティ情報の開示を巡っては、各国の開示規制や様々な開示イニシアティブが錯綜しており、企業側としては、現時点で将来を見越した包括的な内部統制システムを作り上げることは難しい。開示プラクティスが発展途上にあり、開示情報の定義変更や追加が事後的に発生する可能性も踏まえて、マニュアル処理も含めて柔軟に対応している企業も多いのが現実である。

  • 保証を取得する時点で、高度な内部統制システムを構築していることが望ましいものの、法令改正などにより近い将来に変更が予想されるのであれば、段階的に内部統制システムを構築していくことが長期的には合理的であることがあり得る。開示情報の正確性及び網羅性を確保できることが大前提であるが、内部統制システムの整備については、外部環境に依存する面があることも踏まえて、業務実施者が長い時間軸で事業体の取り組みを評価するよう、業務の受嘱段階における理解の規定である70項(a)やA162項、あるいは102L項や102R項に追記するのが望ましい。

質問14:業務実施者の利用する専門家又は他の業務実施者の作業の利用

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • サステナビリティ開示における見積りや将来予測情報は財務情報に比し、不確実性がより高い長期的な将来予測を伴う事が多く、現状実務で開示される将来予測情報は目標数値であることも多い。あまりに厳格な保証を求めるとサステナビリティに関する将来予測情報を開示するインセンティブが失われる懸念がある。

  • 今後サステナビリティ開示制度の整備を進める過程において、開示基準や保証基準の設定主体が、客観的な将来予測情報と、企業の目標数値情報の区分を意識して基準開発を進める必要がある。開示基準で求められる情報が、客観的な将来予測情報か、企業の目標数値情報かによって開示結果は異なり、情報利用者の投資意思決定判断に影響を及ぼす。また、適切な保証基準の在り方も変わってくる。

  • サステナビリティ情報は、財務情報とは元々の性質が異なるため、財務情報と同水準の開示や保証を求めるには一定の限界がある。サステナビリティ情報は財務情報に比し、より長期的な将来予測を伴う事が多く、見積情報と実績情報の乖離も相対的に大きくなる傾向がある。当該特性の違いについて、A390項やA391項などで言及し、国際監査基準(ISA 540)との差異を明確にすべきである。

質問16:見積り及び将来予測情報

<Agree, with comments below>

  • サステナビリティ開示における見積りや将来予測情報は財務情報に比し、不確実性がより高い長期的な将来予測を伴う事が多く、現状実務で開示される将来予測情報は目標数値であることも多い。あまりに厳格な保証を求めるとサステナビリティに関する将来予測情報を開示するインセンティブが失われる懸念がある。

  • 今後サステナビリティ開示制度の整備を進める過程において、開示基準や保証基準の設定主体が、客観的な将来予測情報と、企業の目標数値情報の区分を意識して基準開発を進める必要がある。開示基準で求められる情報が、客観的な将来予測情報か、企業の目標数値情報かによって開示結果は異なり、情報利用者の投資意思決定判断に影響を及ぼす。また、適切な保証基準の在り方も変わってくる。

  • サステナビリティ情報は、財務情報とは元々の性質が異なるため、財務情報と同水準の開示や保証を求めるには一定の限界がある。サステナビリティ情報は財務情報に比し、より長期的な将来予測を伴う事が多く、見積情報と実績情報の乖離も相対的に大きくなる傾向がある。当該特性の違いについて、A390項やA391項などで言及し、国際監査基準(ISA 540)との差異を明確にすべきである。

質問18:グループ及び「連結」サステナビリティ情報

<Neither agree/disagree, but see comments below>

  • サステナビリティ情報開示におけるあるべき連結範囲については、必ずしも財務諸表監査における連結範囲と一致するわけではなく、実務に今までなかった判断を要する状況も今後増えると認識している。実務指針やガイダンスを整備するなど、実務で混乱が起きないよう配慮してほしい。

質問19:不正

<Agree, with comments below>

  • 開示されるサステナビリティ情報は、その特性上、財務情報に比し、見積りや将来予測情報をより多く含み、開示情報と実績情報の差異が生じる可能性が相対的に高い。このため、重要な虚偽表示の発生原因の解釈に関しては、誤謬と不正を区別する判断指標をより明確 にすることが肝要である。不正か誤謬かの判断は、経営者の偏向、すなわち経営者の悪意か善意かの評価とも関連すると考えられその判断基準を慎重に検討する必要がある。サステナビリティ開示における「経営者の偏向」に対する保証業務実施者の判断次第で、本来誤謬として取り扱われるべきものが不正として取り扱われてしまうリスクが一定程度あるならば、企業側がサステナビリティ開示に対して保守的にならざるを得ず、結果として、積極的な開示のインセンティブが阻害される恐れがある。

  • 包括的な保証基準であるISSA 5000の本文で不正の一形態に過ぎないグリーンウォッシュについて、個別具体的に言及するのは適切ではない。

質問22:報告に関する要求事項及び保証報告書

<Agree, with comments below>

  • 強く同意する。サステナビリティ情報開示の議論は発展途上の段階であり、当初から監査におけるKAMに相当する概念(Key Sustainability Assurance Matter)を要求することは適切ではない。

質問25:その他の事項

<Yes, as further explained below>

  • サステナビリティ領域は、既にプロセスが確立された財務諸表と異なり、企業内の組織・関係者も広範で、情報の定義や重要性・粒度含めて、実務慣行 が確立されておらず、また、監査法人以外の保証も許容されるなど新たな保 証の在り方の慎重な検討が必要である。更に各国の規制動向も不透明な中、詳細なサステナビリティ保証基準策定が 過度に先行することは望ましくなく、混乱を招くだけである。まずは、最低限のサステナビリティ保証の基本的な考え方や原則について整理してコンセンサスを得ることを優先させ、段階的に導入を図っていくべき 。

  • 「その他の記載内容」について、対象範囲が広いこと、財務情報とサステナビリティ情報の特性の違いによる難しさ等により、保証対象となる開示情報との整合性確認作業が、実務的に機能するか懸念がある。対象範囲をより限定した上で明確にする、保証における作業に関するガイダンスの作成等の施策が必要である。

以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら