1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. IOSCO市中協議 「Consultation on Goodwill」へのコメント

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 IOSCO市中協議
「Consultation on Goodwill」へのコメント

2023年9月20
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部

証券監督者国際機構(IOSCO)御中

「Consultation on Goodwill」(以下、市中協議)へのパブリックコメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。

【全般】

質問1:

  • のれんの減損認識が「too little, too late」である問題(以下、「too little, too late」問題という)を、減損テストおよび関連する開示の改善のみで、解決を図ることは実効性・効率性に乏しく合理的ではない。そもそも、減損テストで用いるモニタリング指標等の情報の一部は非財務情報であり、本来財務諸表の枠外で開示すべきものである。本質的な解決には、「のれんの事後の会計処理」の抜本的な改善が必要不可欠であり、償却処理の再導入(すなわち、償却+減損アプローチ)が最善の解決策である。
  • 今回のIOSCO市中協議では、「のれんの事後の会計処理」に関して現行の「減損のみアプローチ」を所与とし、減損テストおよび関連する開示の改善のみで、「too little, too late」問題の解決策を模索している。本質的な問題解決のために必要不可欠な「のれんの事後の会計処理」の抜本的な見直しの必要性についても、あらためて言及すべきである。

【発行者向けの質問】

質問16:

  • 減損テストの改善で「too little, too late」問題を解決するには限界がある。以下の理由により、「too little, too late」問題を解決する唯一合理的な方法は、「償却+減損アプローチ」である。のれん償却の再導入を強く求めたい。
    (理由)
    1. ① 現行の減損のみのモデルでは、のれんの減損がタイムリーに行われない。IASBディスカッションペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」(2020年12月)の際にもかつて検討されたとおり、ヘッドルームのシールド効果によって、本来減損すべき部分が表れにくくなるのが主因である。償却を再導入することで、適時・適切な額ののれんの費用化が可能となる。【too little, too lateへの対応】
    2. ② のれんは投資原価の一部であり、技術力、ノウハウ、顧客基盤、人的資源等が主なものであるので、その価値は、技術革新、市場の変化、転退職等により減価する。もし永続するものがあれば、通常は、耐用年数を確定できない無形資産として計上すべきものである。【のれんの減耗性】
    3. ③ のれんは事業を取得するために生じたコストであることから、取得の便益(収益、コスト削減など)を認識する期間に配分すべきである。のれんを償却することで、取得後の企業の純利益をより適切に表示することができ、投資の成果の適切な把握につながる。【投資の成果の適切な把握】
    4. ④ 「償却+減損アプローチ」の方が、投資の回収を念頭に、収益・費用・将来の減損リスクを総合的に考慮したマネジメントを行うことができ、経営に一定の規律を与え、企業の持続的成長に貢献する。【企業経営の規律の確保】
    5. ⑤ 「償却+減損アプローチ」では、のれんの経年の減価を反映したのれんの簿価と回収可能価額とを比較して減損の必要性を検討するので、より適切な減損額を適切なタイミングで認識できる。【減損のタイミングの適時性】
    6. ⑥ 償却を行えば減損のリスクや確率が減少する。「償却+減損アプローチ」は、コスト・ベネフィットに優れたアプローチである。【コスト・ベネフィットの観点】
    7. ⑦ また「償却については、のれんの耐用年数及びのれんの減少するパターンを見積もることが困難」との意見もあるが、その分析や根拠は十分に示されていない。のれんの耐用年数及びのれんが減少するパターンを認識することは可能であり、その困難度は、有形固定資産の減価償却の場合と大きく変わるものではない。【償却年数・パターンの見積り】
  • のれん定額償却について、経団連は一貫して償却処理の再導入の必要性を発信してきた。なお、ASBJは2016年及び2020年にのれんの定量的調査を行っており、減損のみアプローチが国際基準で適用されるようになって以降、のれんの残高が増加傾向にあることが確認されている。こうした趨勢からも、「too little, too late」問題を解決することは喫緊の課題であり、のれんの適時・適切な額の費用化を行うべく、償却処理を再導入する必要性が一段と高まっていると認識している。
  • 定額償却処理を再導入すれば、のれんに係る減損損失を企業が適時に認識していないという懸念の大部分が解決される。特に減損のみのモデルで、ヘッドルームによるシールド効果によってのれんの減損がタイムリーに行われない問題が、大幅に解消される。

質問17:

  • 「too little, too late」問題を、開示の改善によって本質的に解決するのは極めて困難と考える。追加的な開示を要求する事が、多くの企業に、形式的な業務負荷を追加でかけることを懸念する。仮に追加的な開示要求事項を設置する場合は、開示要求事項の要求により改善が図られる効果と、作成者側を中心とした実務負荷との費用対効果を十分に分析・検討すべき。
  • のれんに関する情報の大半が商業上の機密情報であり、開示する情報によっては、競合他社への参考情報となることで競争上の不利益が生じ、それが期待された取得の効果の発現を妨げ企業価値の毀損につながることを強く懸念している。結果として、企業価値を棄損することなく開示できる情報は極めて限定的であるため投資家への有用な情報開示とはならず、また企業価値を棄損する開示要求事項を定めることは投資家にとっても望ましくない。したがって、IOSCO市中協議文書にある「IOSCO members think that commercial sensitivity should not prevent companies from disclosing information about management's objectives for an acquisition.(2.3.2。3項目目)」の見解には賛同できない。
  • さらに、統合された事業のシナジーの項目や金額は、それが企業結合によるものなのか企業結合に関わらず成し遂げられたものなのかを正確に把握することを含めて、事後的に実証的に識別・検証することは不可能である。そもそもシナジーについては、客観的で明確な定義づけが難しく、各社の定義づけにより提供される情報も異なるため、企業間比較可能性を備えた情報開示が極めて困難である。金額の妥当性について監査を行うことも困難であると考えられることから、財務諸表の注記としては不適切である。また、外部専門家の利用により改善が期待できる項目は極めて限定的であり、本質的な解決には繋がらない。

質問18:

  • 現行のIAS第36号で定められる開示要求事項も、作成者側が開示できる範囲内で、既に相当な水準であるため、開示の拡充で「too little, too late」問題を改善できる余地はほとんどない。作成者側の実務負荷と、開示拡充に期待できる効果の、バランスの観点からも、開示拡充により問題解決を図ることは効率的ではない。
  • 外部専門家に関する開示については不要と考える。減損テストに関して、監査人は恣意性排除の観点から、外部専門家の利用を経営者に一律に求める傾向がある。外部専門家の利用については、実質的に監査手続を支援する要素が強い事を鑑みると、監査人がKAMで開示するのが妥当である。また、作成者側の実務負荷軽減の観点からは、外部専門家の利用を難度の高い減損テストに絞るなどの工夫も必要である。

質問19:

  • 減損テストを実施する際は、今後の事業戦略に基づく各種仮定やモニタリング指標などの商業上の機密情報が多くインプット情報として取り扱われる。質問17にも記載のとおり、企業価値を棄損することなく開示できる情報は極めて限定的であり、減損テストの開示拡充によって、関連する課題の解決を図るアプローチは効率的ではない。
以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら