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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 IASB公開草案「持分法会計」へのコメント

2025年1月20日現在
(一社)日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
企業会計部会

国際会計基準審議会(IASB)御中

「持分法会計-IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(以下、公開草案)へのパブリック・コメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。

<総論>

  • 公開草案の当初の趣旨は、「持分法の根本的な見直しを行わずIAS第28号の適用における実務上の課題の解決を図る」ものであったと理解している。

  • しかしながら、実際に公表された本公開草案には、例えば、重要な影響力の獲得時を子会社の支配の獲得時と同様に取扱う提案(質問1)や、関連会社との取引における未実現損益を消去しない提案(質問4)など、明らかに持分法の根本的な見直しに踏み込んだ提案が含まれている。

  • 実質的な提案内容が、持分法の根本的な見直しに踏み込んでいる以上、ディスカッション・ペーパーを経由した、丁寧なプロセスを経て今回の公開草案は公表されるべきであった。本公開草案の公表においてIASBが採用したアプローチは適切とは言えず、根本的な見直しを実質的には行っているにも拘らず簡略的なプロセスで基準改正を行う事に繋がるため、こうした事態を強く憂慮している。

<各論>

【質問1-関連会社の原価の測定】

([案]IAS第28号(202x年改訂)の付録A並びに第13項、第22項、第26項及び第29項)

  • 提案に反対する。支配獲得時を重大な状況変化と捉えて公正価値測定としている連結子会社化の処理と、持分法における重要な影響力獲得時の処理を同じものとしている。この点、「持分法の根本的な見直し」に踏み込んだ提案となっており、「適用上の疑問点への回答」に沿った提案になっているかについても疑問がある。簡便的なプロセスによりこのような提案がなされた事を憂慮する。

【質問2-重要な影響力を保持している間の投資者の所有持分の変動】

([案]IAS第28号(202x年改訂)の第30項から第34項)

  • 提案に反対する。理由については、質問1に対する回答と同様。

【質問3-損失に対する投資者の持分の認識】

([案]IAS第28号(202x年改訂)の第49項から第52項)

(a)

  • 「キャッチアップ」をしないとする本提案に賛成する。追加投資は将来の収益力による回収を見込んで実行されることを踏まえると、過去の事象に起因する未実現損失を投資時に一時に負担させることは、投資の実態と整合しない。また、仮に「キャッチアップ」するとした場合、将来が有望な会社であったとしても債務超過という理由だけで投資対象から除外される事になりかねず、有望なスタートアップ企業等に対する投資意欲が削がれる事を懸念する。

  • ただし、特定の場合には「キャッチアップ」修正を認めることを提案する。例えば債務超過会社に損失補填を目的に追加出資するケースでは、「キャッチアップ」修正することが経済的実態をより良く財務諸表に示す場合もあるため、「キャッチアップ」修正を一律に禁止するのではなく、特定の場合には認めることを提案する。

(b)

  • 提案に反対する。

  • 既存のIAS第28号38項および公開草案45項(b)では、純投資をゼロまで減額した後について、追加の損失は認識しないと規定している。そのため、純投資をゼロまで減額しているという事実がある場合には、追加の損失は認識されない、すなわち追加の純損失は認識されない、という理解が利害関係者(作成者および利用者)において一般的に受け入れられているものと理解する。

  • これに対し、公開草案52項で提案されている、その他の包括利益の範囲内において純損失の認識を求めることは、上記理解に大きな混乱を生じかねない。

  • また、その他の包括利益に属する項目については、市場価格などの企業にとってコントロール不可能な要素により増減するため、純損益がいたずらに変動することになることを懸念する。

【質問4-関連会社との取引】

([案]IAS第28号(202x年改訂)の第53項)

  • 提案に強く反対する。

  • そもそも、関連会社との取引に関する会計処理は、持分法投資の性質(一行連結か測定技法か)の議論に密接に関連すると考えられるため、当該議論を棚上げにして基準を抜本的に改定することはアプローチ的にも適切ではない。具体的には、関連会社との取引に係る損益は、一行連結の考えでは部分的認識、測定技法の考えでは全額認識となることが整合的と考えられることから、部分的認識から全額認識に抜本的に改正することは、実質的に持分法投資の性質が測定技法であることを示唆する恐れもあり強く懸念する。

  • 日本企業では持分法損益を事業損益の一部と捉えているケースが多い。例えば、海外にジョイントベンチャーで事業展開を行う場合、会計処理自体は結果的に持分法となるケースが多いが、企業としては人的資源を投入し事業そのものとして行っていることから、経済実態との整合性の観点より、持分法損益を事業損益の一部と捉えるべきとの意識が根強くある。持分法を事業として行っている多くの企業にとって、公開草案の提案内容は、会計処理と経済実態との間の乖離を拡げる結果をもたらすため、到底受け入れられない。

  • また、関連会社投資は投資先に重要な影響力を保持するものであり、関連会社間の取引について利得/損失を全額認識することは、関連会社間の取引価格の不当な調整による利益調整の余地を生み出し、健全な投資活動や公正な経済活動を害する恐れもある。

  • IFRS第10号とIAS第28号の要求は、現行のIAS第28号を根本から否定する必要がある程に、完全に矛盾してはいない。すなわち、IFRS第10号は、子会社から関連会社化する取引については損益を全額認識することを定めたものであり、その他の関連会社との取引についてIAS第28号の部分認識の考えを必ずしも否定しているものではない。むしろ、IFRS第10号の規定を根拠に、全ての関連会社との取引について、IAS第28号の規定を根本から否定することの妥当性は甚だ疑問である。例えば、関連会社との取引の基本原則はIAS第28号に従うこととしつつ、子会社からの関連会社化を伴う取引についてはIFRS第10号を優先する等すれば、両者の矛盾は解消できる。

  • IASBが本質的な改正を避ける一方で、開示を増やすことで対応しようとする足元の動きに加え、本提案のように、適用上の疑問点への回答という形で安易に本質的な改正を対処療法的に行おうとする動きは大問題である。

【質問5-減損の兆候(公正価値の下落)】

([案]IAS第28号(202x年改訂)の第57項)

(b)

  • 提案に強く反対する。

  • 「著しいか又は長期にわたる」を削除した場合、期末時点の公正価値の水準にかかわらず、期中の一時点でも公正価値が帳簿価額を下回った場合、減損の兆候と判断され、減損テストを実施する必要が生じる。公正価値(株価)は会社の業績や将来性だけでなく様々な要素により影響を受けるものであるため、一時的な下落を減損の兆候とすることは、減損テストにかかるコストをいたずらに増加させることに繋がる。実務への影響が甚大である割に、削除する理由に納得感がない。

  • 仮に、「著しいか又は長期にわたる」の文言を削除する場合は、但し書きとして「一時的なもしくは重要ではない下落は除く」等の文言を追記すること等を検討頂きたい。

(c)

  • 現行のIAS第28号では、関連会社投資の公正価値測定の会計処理単位を明確にしていないため、市場株価にプレミアムを上乗せした価額で投資実行され場合における減損の客観的証拠の有無の判断に課題が生じていると考える。即ち、公正価値測定する対象を、個別の株式と捉えるか、もしくは投資全体(事業持分)と捉えるかにより、公正価値測定においてプレミアムを市場株価に上乗せすべきかが異なりうるため、減損の客観的証拠の有無の判断に影響すると考えられる。本公開草案は、この点について特に触れられていないため、公開草案の処理を適用した場合でも上述のようなケースの関連会社投資の公正価値測定は不明確であり、IAS第28号の適用上の課題は解消されない。従って、当該取り扱いについて明確化して頂きたい。

  • この点、関連会社投資は事業投資の性質をもつことが一般的であり、またIAS第28号がプレミアム部分(のれん相当額)の資産計上を規定していることを鑑みると、公正価値測定の単位はプレミアムを含む投資全体(事業持分)とすべきであると考える。仮に、当該測定単位を個別の株式とした場合、市場株価が公正価値となるため、外部環境や会社の状況に何ら変化が無くとも、プレミアムを上乗せした関連会社投資は取得直後に、減損の客観的証拠が生じることとなる。これは、IAS第28号41A項が、減損の客観的証拠は投資の当初認識後に発生した事象を対象としていることとも整合せず、適切でないと思われる。

  • 従って、関連会社投資の公正価値測定は、プレミアムを含む投資全体で実施することが適切である旨を、基準に明記する等をご検討頂きたい。

【質問7-開示要求】

(IFRS第12号の第20項(c)、第21項(d)から第21項(e)及び第23A項から第23B項並びにIAS第27号の第17A項)

(b)

  • 提案に反対する。「質問4 関連会社との取引」の回答に記載の通り、会計処理の改正自体に反対するため、本会計処理の改定を背景とした当該開示要求には反対する。

(d)

  • 提案に反対する。

  • 既にIFRS第12号において、共同支配企業又は関連会社別に区分した帳簿価額や継続事業からの純損益、その他の包括利益等の開示が要求されており、新たに調整表の開示を要求することによる財務諸表利用者の便益に対して、作成者側のコストが見合わない。

【質問8-要件を満たす子会社についての開示要求】

(IFRS第19号の第88項(c)、第91A項及び第240A項)

(b)

  • 提案に反対する。反対理由は質問7(b)に対する回答と同様。

以上

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