一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会競争法部会
現在、公正取引委員会が「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」改定案について、意見募集(パブリックコメント)を実施している#1。
当該改定案は、イノベーション、供給安定性、環境性能、長期的視点からの効率性を競争促進効果として明示しており、企業結合を通じた生産性向上と社会的課題の解決を両立させる枠組みであると評価する。
そのうえで、イノベーションや供給安定性の改善などについては、定量化が難しく、不確定性が高いものであるため、合理的な予測に基づいて判断することを明確にすべきである。また、市場の画定については、国内需要者の動向だけでなく、グローバルな需給構造を踏まえた複雑な分析が求められる点は従来にも増して重要となっている。さらに、審査手続においては、事業者と公正取引委員会のコミュニケーションを通じて、審査の透明性および予測可能性を高めることで、競争力向上に向けた事業者の組織再編行為を推進する運用が期待される。
そこで、今般の改正が審査の実務に確実に反映され、事業者にとっての予測可能性を高める観点から、下記のとおり意見を提出する。
はじめに
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供給の安定性の改善や環境性能の向上等を企業の成長戦略の一環として重要であるとする趣旨を明記したことは適切である。加えて、安定供給の確保や供給途絶リスクの低減は、企業にとって重要であるとともに、消費者を含む需要者にとっての利益につながることを明記すべきである。
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企業結合に係る一定の取引分野における競争の実態や、複雑化かつ専門化する産業実態等を正確に把握しつつ、迅速かつ的確に企業結合審査を行う観点から、事業者をはじめ幅広いステークホルダーからの情報収集を行うことは、有益であると評価する。一方、公正取引委員会が、個々のステークホルダーから情報収集を行うことによって、企業結合審査が長期化するおそれがあることに加え、企業結合計画に関する非公表の機微な情報が当事会社の競争者や需要者に伝わることで、当事会社に多大な経済的損失が生じるおそれもある。そこで、公正取引委員会が、個々のステークホルダーから情報収集を行うに際しては、当事会社の意見を十分に聞いたうえで、迅速かつ的確に企業結合審査を行うために必要な範囲で実施することを明記すべきである。
第1 企業結合審査の対象
企業結合が行われなかった場合に実現するであろう競争状況との比較において、企業結合が行われた場合に実現するであろう競争状況を評価することを明確化したことは適切である。加えて、企業結合前の競争状況とは異なる競争状況が将来時点で実現すると見込まれる場合の「将来時点」について、どの程度先の将来まで考慮し得るのかを明確にすべきである。
第2 一定の取引分野
3 地理的範囲
(2) 国境を越えて地理的範囲が画定される場合についての考え方
国内市場の規模が世界市場に比べて極めて小さく、供給者が生産量の大半を海外向け販売に充てている場合、国内市場のみを一定の取引分野として画定すると、競争の実態を適切に把握できないおそれがある。したがって、国内需要者の動向だけでなく、世界市場の需要構造を踏まえて検討することが適切な場合があることを明記すべきである。
第3 競争を実質的に制限することとなる場合
1「競争を実質的に制限することとなる」の解釈
(3) 「競争を実質的に制限することとなる」の考え方
「その他各般の条件」の例示について、評価対象が価格以外の要素に及ぶことを明記したことは適切である。一方、例示された評価対象が広範であり、評価基準が不明確であるため、事業者にとっての予測可能性を確保しにくいおそれがある。したがって、具体的にこれらの条件がどのような場合に競争を実質的に制限するものと判断するのか、判断要素および評価の基準を示すべきである。
また、競争上の評価対象については、企業結合規制と既存の法制度の役割を整理したうえで、評価の範囲を明確にすべきである。例えば、個人情報の保護について、日本では既に個人情報保護法に基づく包括的な枠組みが存在し、事業者によるデータの取扱いに関する厳格な基準が整備されている。そのため、企業結合審査において個人情報の保護に関する事項をどの範囲で評価対象とするのかを明確にすべきである。
第4 水平型企業結合による競争の実質的制限
2 単独行動による競争の実質的制限についての判断要素
(1) 当事会社グループおよび競争者の地位等並びに市場における競争状況等
ア 市場シェア及びその順位
世界的な市況の低迷や市場規模の縮小等を背景として、企業結合後の当事会社グループが国内で1社となることが合理的な場合もあり得る。こうした企業結合についても、ただちに競争を実質的に制限するものと判断されるのではなく、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが大きい場合と同様に、他の判断要素を考慮して、競争を実質的に制限することとはならないと判断される可能性があることを明記すべきである。
イ 当事会社間の従来の競争状況等
注9について、事業者に対して、企業結合審査の結果を予測するために経済分析の実施が実質的に義務付けられることとなれば、事業者への負担が増加することが懸念される。専門家やコンサルタントへの委託が必須とならないよう、事業者がUPPやGUPPIを簡易に算出できる計算ツールや算定手法等を提供すべきである。加えて、企業結合審査で経済分析が必要となる場合を明確に示すべきである。
(2) 輸入
現行運用指針における「おおむね2年以内」の目安を見直し、「一定の期間」について産業の特性等により異なることを明確化したこと、現在の輸入実績だけでなく、海外事業者の供給余力を明記したことは適切である。
また、事業者にとっての予測可能性を高めるため、産業特性等を評価期間にどのように反映するのか、将来の変化に関する蓋然性やその根拠資料について、Q&Aまたは事例集等で示すべきである。
さらに、輸入圧力については、海外事業者の供給能力だけでなく、日本市場への供給の実行可能性を判断するに当たっての判断要素や資料を明確化すべきである。
(4) 隣接市場からの競争圧力
(5) 需要者からの競争圧力
隣接市場および需要者からの競争圧力に関する具体例を追加したことは適切である。加えて、国際入札が行われる市場では、過去の市場シェアに加え、入札実績、供給能力、需要者による調達先の変更や自社生産の可能性等を考慮することを明記するとともに、輸入圧力や需要者からの圧力が認められた事例だけでなく、認められなかった事例も示すべきである。
(7) 効率性
効率性に関する判断要素として、供給安定性の改善やイノベーション促進による競争促進効果が明記されたことは、地政学リスクや国際競争力の強化の重要性が増す現在の経済環境において適切である。
一方、イノベーション促進については、相乗効果や間接的効果についても考慮する場合があることを明確にすべきである。イノベーション促進等の効率性の向上は、事前に評価や判断をすることが難しく、コスト削減等による効率性の向上と同水準の正確な評価や判断を求めにくいためである。
また、効率性の評価に当たっては、短期的な影響だけでなく、長期的な視点から評価すべきである。企業結合に伴うシェア上昇などの影響は短期間で現れる一方、サプライチェーンの再構築やシステム統合等による効率性向上の効果が現れるには長期間を要する場合がある。
その際、効率性の立証が過度に困難にならないよう、事業者に対して過度に精緻なデータや内部情報の提出を求めるのではなく、事業者からの合理的な説明に基づき、長期的な効率性の実現可能性を判断すべきである。あわせて、当事会社が立証すべき事実、社内および社外の資料について、ガイドライン、Q&A、事例集などで具体的に示すべきである。
さらに、高シェア事業者同士の企業結合において、効率性の向上を競争促進効果として説明することが難しい場合においても、企業結合による国際競争力の維持・強化や国内での安定供給の確保が、競争促進効果の評価要素となり得ることを明記すべきである。
「企業結合後において、資金の調達手段の改善や研究開発体制の効率化等、当事会社グループの効率性が向上することによって、当事会社グループによる投資の拡大やイノベーションの促進が実現し、当事会社グループの商品の生産量の増加、品質の向上、新商品の創出といった競争促進効果をもたらすことが見込まれる場合」について、生産量の増加、品質の向上、新商品の創出などを必須の条件とせずに、これらが例示であることを明確化すべきである。人口減少等に伴い国内需要の縮減が進む産業では、企業結合後に商品の生産量が減少しても、当事会社グループの効率性を向上させ、コストの削減、品質の向上、新商品の創出、付加価値の高い商品へのシフトなどの競争促進効果をもたらすことが見込まれる場合があるためである。
また、「③効率性の向上により需要者の厚生が増大するものであること」における「需要者」の範囲が明確でないため、企業結合審査上は商品やサービスの直接の取引先に限られず、成果を直接または間接に享受する主体も含まれることを明記すべきである。
(8) 当事会社グループの経営状況
ア 業績不振等
将来の業績悪化を見込んで企業結合を行う場合もあるため、当事会社グループの経営状況に関する「業績不振」については、現に業績不振に陥っている場合に限らず、市場の縮小等により将来的に業績不振に陥ることが合理的に予見される場合も「業績不振」に含まれることを明記すべきである。
また、国際競争力の低下により国内の製造能力が喪失する事態を防ぎ、経済安全保障の観点から国内の供給基盤を維持することが重要である。したがって、外的ショック等により業績不振に陥った産業が、経済安全保障推進法における重要物資に関連する産業である場合には、その点も企業結合審査において考慮することを明記すべきである。
(9) 一定の取引分野の規模
「企業結合とは無関係に企業結合前とは異なる競争状況が将来実現すると見込まれる場合には、当該競争状況を比較対象とする」考え方を明記したことは適切である。加えて、事業者にとっての予測可能性を高めるため、生産能力の縮小、研究開発の中止、事業売却または市場退出等を考慮することを明記すべきである。また、将来の競争状況を比較対象とするか否かの判断に当たって考慮する主な指標および重視する資料について、可能な範囲で示すべきである。
第6 混合型企業結合による競争の実質的制限
2 単独行動による競争の実質的制限
(3) 競争圧力等の考慮
「データの集積等や需要者の囲い込み等により、当事会社グループの総合的な事業能力が増大し競争力が著しく高まることによって、競争者が競争的な行動をとることが困難となる場合に、競争に及ぼす影響について検討を行う」ことを明記したことは適切である。
一方、「総合的な事業能力が増大し競争力が著しく高まる」という要件は広範かつ抽象的であり、企業結合による競争力の向上が効率性の向上につながり、消費者の利益に資する場合もあるため、本規定の適用範囲を明確化し、競争のプロセス自体が損なわれる場合に限定して適用することを明記すべきである。
また、データの集積等や需要者の囲い込み等による競争の実質的制限の判断については、具体的な適用場面や判断要素を明確化し、抽象的な可能性に基づいて競争の実質的制限と評価しないことを明記すべきである。
さらに、異なる市場の企業が保有するデータや技術などを組み合わせることで、各企業が単独では実現できないイノベーションを可能にする場合があるため、本規定の適用に当たっては、イノベーション促進との整合性について考慮すべきである。
第7 競争の実質的制限を解消する措置
1 基本的な考え方
市場構造の変動が激しい市場において、需要の減少により事業の譲受先を見出すことが困難な場合や、将来的に市場構造が競争的に変化することが見込まれる場合など、構造的措置たる事業譲渡に代えて行動的措置が適切となり得ることを明記したことは適切である。
一方、「当事会社グループや問題解消措置の相手方等から独立した第三者が当事会社グループによる問題解消措置の履行状況を監視することが原則となる」規定が新設された点については懸念がある。まず、当事会社グループから独立した第三者の選任・維持や情報提供には多額の費用を要する。また、独立した第三者への機密情報の広範な開示は営業秘密の漏洩リスクを高め、迅速な経営判断を阻害し、企業結合後のイノベーション投資が阻害されるおそれがある。そもそも、当事会社グループは問題解消措置の対象事業に関する最も正確な情報を保有している。したがって、当事会社グループによる定期的な履行報告を原則とし、独立した第三者による監視は、措置の性質が複雑で自主報告のみでは履行の確認が困難な場合や、過去の法令違反歴等により確実な履行に具体的な疑義がある場合等に限定すべきである。
また、当事会社からの申出に基づく問題解消措置の変更または終了について、需要動向や国際情勢等の市場環境の急速な変化を踏まえ、迅速かつ柔軟に認める手続を整備すべきである。
さらに、適正な価格での販売や差別的取扱いの禁止等の行動的措置は、継続的な事業活動に対する事前規制ではなく、取引において特定された具体的な弊害に対する限定的な事後規制として位置づけるべきである。したがって、競争上の懸念が解消された後も義務が継続しないよう、期間を制限すべきである。
2 問題解消措置の類型
(4) 垂直型・混合型企業結合における差別的取扱い等の禁止
「当事会社グループが競争者に対して供給拒否等の差別的取扱いを行わないことを担保することにより」について、「担保する」と判断される行動について、具体例を明記すべきである。