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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 「成長戦略実現に向けた課題と経団連の取り組み」 ~北海道政経懇話会における米倉会長講演~

日時 2011年10月6日(木)12:30〜13:15
場所 札幌グランドホテル 本館2階 金枝の間

1.はじめに

経団連の米倉でございます。本日は、北海道政経懇話会にお招きを頂き、誠にありがとうございます。

さて、東日本大震災の発生から、はや7ヶ月が経過しようとしております。現在、わが国は、長引く低成長とデフレ、行き過ぎた円高、巨額の政府債務、綻びを見せ始めた社会保障制度、経済連携協定推進の遅れ、といった、従来からの問題に加え、震災からの復興という非常に大きな課題に直面しており、戦後最大の危機を迎えているといっても過言ではありません。
しかし、こうした国難ともいうべき現下の状況にあっても、決して臆することなく、新しい日本を創り上げていく、という強い気概を持って、国民が一致団結し、知恵を絞り、汗を流し、目の前の課題に果敢に挑戦していくことによって、わが国は必ずやこの難局を乗り越えることができると私は確信しております。
今後日本はどのように再生を進めていくべきなのか、震災後、経団連といたしましても改めて議論を重ねてまいりました。そして先月、民間活力による日本経済の復活と成長の加速の実現に向けた、わが国の新しい成長戦略をとりまとめ、公表したところでございます。

本日は、この新しい成長戦略を中心に、わが国経済の現状を踏まえつつ、日本の再生の進め方につきましての経団連の考え方をご紹介してまいりたいと存じます。

2.わが国経済の現状

震災発生後のわが国の経済の状況を振り返りますと、地震と津波によってサプライチェーンが寸断され、生産活動が停滞したことから、2011年4月から6月の3ヶ月の実質成長率は年率換算で前期比マイナス2.1%となり、3四半期連続のマイナス成長となりました。
しかし、被災地の企業や自治体、住民の方々を中心とする皆様の懸命な取り組みによって復旧作業は着実に進んでおり、現在、企業の生産活動につきましては、地震や津波で直接の被害を受けた拠点のうち、およそ9割が復旧し、8割が震災前と同等もしくは震災前を超える水準にまで生産を回復させてきております。
一方で、本格的な復興に向けた対策は、期待通りには進展しておりません。今なお、多くの被災者の方々が日々大変なご苦労をされ、被災地企業の経営環境や雇用情勢につきましても改善の見通しが立たない状況にございます。
経団連では、震災直後から、復旧・復興の早期実現のために、「復興庁」の創設と国を挙げての被災地への支援、そしてそのために必要な補正予算の編成を急ぐよう、再三、政府に働きかけてまいりました。しかしながら、本格的な復興に向けた議論はなかなか進まず、政府の対応の遅れや、透明性を欠く意志決定プロセスに基づく突然の方針転換などもあり、国民の間に政治に対する不信感が広がる結果となりました。
ここにきて、世界経済の先行きは不透明感を増し、欧米の金融市場に不安感が広がる中、円高は歴史的な水準に達してわが国企業の収益を圧迫しており、国内の産業空洞化が一層加速するのではないかとの懸念が急速に高まっております。雇用情勢は、依然として厳しく、消費も力強さを欠く状況が続いております。昨日、北海道経済連合会の皆様と意見交換をさせていただきましたが、北海道の状況も同様であり、公共事業が大幅に削減される中で雇用情勢は引き続き厳しく、震災による直接的・間接的な影響もあり、今後、景気がさらに悪化するのではないかと懸念している、とのお話でございました。

3.新政権への期待

わが国が文字通りひとつになって、こうした情勢を打破し、震災からの早期復興をはじめとする重要課題を克服していくためには、まず何よりも政治の強いリーダーシップが必要であります。
先月2日、野田新政権が発足いたしました。野田総理は、就任後ただちに党内融和に配慮した党役員ならびに閣僚人事を行うとともに、党の政策調査会の機能を強化し、与野党間の政策協議を積極的に進めながら、重要政策を着実に遂行していく姿勢を示されました。また、組閣後の初めての会見では、福島第一原子力発電所の事故の収束と震災からの復興を最優先の課題と位置付けられました。これを機に、被災地の方々が将来に対して新たな希望を持てるような復興対策が、迅速に、力強く推進されるよう、期待いたしているところでございます。
政府・与野党には、党利党略を捨て去り、国民の声に真摯に耳を傾け、本当の意味で国民の利益にかなう政策の実現に全身全霊をかけて取り組んでいただきたいと存じます。今こそ、わが国は、政官民が一体となったオールジャパンの体制で、震災からの復興と、新しい日本の国づくりに邁進していかなければなりません。
野田総理は、やや乱立気味の観もあった既存の会議を集約し、日本再生の具体的な戦略も含め、国家の重要な政策を統括する司令塔としての役割を担う、新たな会議体を設置する方針を示しておられます。経団連といたしましても、こうした取組みをはじめとする野田新政権の政策が迅速に実行に移され、大きな成果を生み出すよう、引き続き会員企業・会員団体と一丸となって最大限の協力をしてまいりたいと考えております。

4.成長戦略の実現に向けて

9月2日に閣議決定された「基本方針」の中で掲げられた政策や、経済成長と財政健全化を車の両輪として同時に進めていくことを強調された所信表明演説など、野田新政権が打ち出された方向性は、私ども経団連の基本的な考え方と、軌を同じくするものでございます。
私は、かねてから、企業が元気を出して日本経済が成長してはじめて、雇用の創出、財政の健全化、持続可能な社会保障制度の確立といったわが国の重要課題への対応が可能になる、と申し上げてまいりました。そして、日本経済の復活・再生を実現するためには、経済界自らが知恵を絞り、行動を起こしていかなければならない、との思いから、昨年の12月、民間主導の競争力強化のためのアクションプランとして「サンライズ・レポート」を策定し、様々なプロジェクトを実行に移してまいりました。わが国が、国難ともいうべき東日本大震災から一早く立ち直り、山積する喫緊の重要課題を克服していくためには、なによりも、経済成長の推進力である民間企業を活性化し、国際競争力を強化していくことによって、力強い持続的な経済成長を生み出していくことが重要であります。
経団連では、9月に公表いたしました新しい成長戦略の中で、わが国の経済成長を阻害する要因を取り除き、国内の事業環境を改善して産業の空洞化を回避するとともに、復興の取組みを加速させ、企業ならびに国民一人ひとりが持てる力を存分に発揮することで、今後10年間を展望して実質で年率2%、名目で年率3%を上回る経済成長を実現することを目標に据えました。
次に、この新しい成長戦略につきまして、具体的にお話してまいりたいと存じます。

5.国際的な「立地競争力」の強化に向けて

経済のグローバル化が進む中、わが国企業が活力をもって事業を展開し、国際競争力を勝ち抜いていくためには、まず日本国内の事業環境を改善し、他国との比較における事業拠点としての日本の魅力、すなわち「立地競争力」を高めていく必要がございます。
経団連では、「立地競争力」の強化に向け、5つの取組みを提案しております。

第1の取組みは、「エネルギーならびに環境政策の抜本的見直し」でございます。申し上げるまでもなく、適正な価格での良質なエネルギーの安定供給は、企業の事業活動や国民一人ひとりの生活を支える土台となるものでございます。しかし、先の震災では、この土台が大きく揺らぐ事態となりました。
経団連では、震災以降、機会ある毎に、短期の課題と中長期的な課題を切り分けて、エネルギー政策の抜本的な見直しを進めていくことが重要である、と訴えてまいりました。
短期的には、国民生活や企業の事業活動に悪影響を与えないよう、電力需給の安定を図ることが最優先の課題であります。経団連では、震災発生直後から、各企業が、自らの事業への影響に配慮しながら自家発電の活用やピークカットなどの電力需給の安定に取り組む「電力自主行動計画」を会員企業の協力を得てとりまとめ、具体的な対策を推進してまいりました。また、政府や自治体に対しては、自主行動計画の実行に必要な規制緩和を要望し、その多くが、政府や自治体の施策に採り入れられることとなりました。
こうした取組みを通じまして、経済界として、電力需給の安定化に一定の貢献を果たすことができた、と考えておりますが、結果的に各企業や従業員の皆さんに少なからぬ負担を強いることになったことも事実であります。わが国が国際競争力を維持し、持続的な成長を実現していくためには、今後、この夏のような事態が再び起こることのないよう、早期に対策を講じる必要がございます。そこで経団連は、政府に対し、企業が事業活動や投資を計画的に進めていくことができるよう、少なくとも今後5年間を見通した、電力の安定供給確保のための工程表を迅速に策定し、公表するよう求めております。
一方、原子力発電につきましては、福島第一原子力発電所の事故の収束が最優先の課題であり、引き続き国を挙げて取り組んでいかなければなりません。同時に、徹底的な事故分析に基づく実効性のある安全対策を速やかに実施し、停止状態にある原子力発電所については、再稼働に向けて安全性を再確認するとともに、政府自らが、周辺の地方自治体や住民の皆様をはじめ、国民に対して十分に状況を説明し理解を得た上で、一貫した方針を貫くことが重要であると考えております。仮に、国内のすべての原発を停止し、その分を火力発電で賄うと仮定いたしますと、燃料調達のために年間約3兆2千億円の追加コストが発生することとなり、この増加コストを電力価格に転嫁しますと、約2割の価格上昇につながる、と政府は試算しております。政府におかれましては、こうした点も含め、総合的な観点から、エネルギー政策を考えていただきたいと存じます。
他方、中長期的には、エネルギーの最適な組み合わせ、いわゆるベスト・ミックスについて、現実的かつ多面的な視点からの検討が不可欠であります。自然エネルギーにつきましては、バイオマス、風力をはじめ、国内外で導入拡大の気運が高まっておりますが、各エネルギーの特徴を踏まえて、効率性の向上やコストの低減などの課題に本格的に取り組み、着実に普及していくことが重要でございます。同時に、有事に適切に対応するためのバックアップの仕組みやコスト負担のあり方などもしっかり議論し、国民的なコンセンサスを得ていく必要があります。
環境政策につきましても、こうした状況を踏まえ、抜本的な見直しを求めてまいりたいと存じます。とりわけ、温室効果ガスの中期目標や個々の温暖化対策につきまして、国際的な公平性は確保されるのか、実現可能な対策なのか、国民の負担は妥当なレベルなのか、といった諸々の観点から、改めてゼロベースで見直すことが必要であると考えております。
日本で排出される温室効果ガスの9割はエネルギー起源の二酸化炭素でありますので、温暖化政策はエネルギー政策と一体で検討されなければなりません。現状では、内閣官房、経産省が、エネルギー政策の見直しを検討する一方、環境省が、2013年以降の温暖化対策の検討を行っております。各省がばらばらに議論していくのではなく、政治のリーダーシップのもと、わが国の将来と国民の利益をしっかりと踏まえた検討と議論を進めていくべきであると考えております。
温暖化対策に関する国際交渉につきましては、京都議定書のもとで、2012年までの約束期間が設定されておりますが、削減義務を負っている国の排出量は、世界全体のわずか27%に過ぎず、温暖化防止対策として実効性がないのが実情でございます。わが国政府は、全ての主要排出国が参加する、単一で公平な国際枠組を構築すべきであり、京都議定書の第二約束期間の設定には断固反対である、と主張しており、経団連も、全面的にこの考えを支持しております。政府には、こうした姿勢を最後まで貫き通すよう、引き続き働きかけを行なってまいります。

「立地競争力」の強化に向けた第2の取組みは、「デフレ脱却と為替の安定化」であります。デフレと円高は、企業の経営や雇用の維持に深刻な悪影響を及ぼしております。これまでのドル円レートは、企業の想定を上回る水準で円高が続いており、ユーロやウォンに対しても、同様の動きとなっております。わが国企業は、国際競争力を維持すべく、原料や資材の海外調達の拡大や徹底的なコスト削減を懸命に推し進めてまいりましたが、ここにきて円高が一段と進行し、史上最高値を更新するなど、もはや企業努力で克服できる水準を超えているとの声が強まっております。
例えば、わが国の自動車企業8社だけでも、円高が1円進むことによって、約800億の損失が生じ、ここ3年間だけで3兆円の収益が円高によって失われたとの試算が出されております。円高の影響は、個々の企業のレベルにとどまらず、産業レベルに及び、日本経済全体の活力を奪っており、特に自動車産業やエレクトロニクス産業といった、わが国の主要な輸出産業が大きなダメージを受けております。このままでは、企業の海外移転が一層進み、国内の産業は空洞化してしまうのではないか、という懸念を経済界では強めております。
経団連といたしましては、今後とも、政府、日銀に対しまして、為替介入や追加的な金融緩和といった、断固たる措置の実行を求めていきたいと考えております。
一方、デフレにつきましては、その根本的な原因は、需給ギャップの存在にあることを改めてしっかりと認識した上で、規制緩和等による内需の活性化や、経済連携協定の締結等による海外需要の取り込みに全力をあげて取り組んでいくよう、引き続き政府に働きかけてまいりたいと考えております。

第3は、「法人税を含む企業の公的負担の軽減」でございます。わが国の法人実効税率は現在約40%であり、韓国をはじめとする周辺のアジア諸国と比べてかなり高い水準で、その差は約15%に達しております。社会保障大国であるスウェーデンでさえ、国際的な水準に照らし、法人税率を26.3%まで引き下げております。
震災からの復興という緊急事態にある現在、復興財源の一つとして時限的な対策も取られてしかるべきと考えておりますが、わが国企業の活力を高め、国際競争力を強化するためには、法人実効税率の引き下げは不可避であり、最終的には、平成23年度税制改正法案に盛り込まれた法人実効税率の5%引下げを先行して実現し、その後もアジア近隣諸国と均衡する水準である25%程度まで、速やかに引き下げるべきであると考えております。
また、社会保障制度につきましても、早急に改革を進める必要があります。高齢化の進行に伴って増大する社会保障給付費の財源を現役世代の保険料負担に求めることになりますと、経済の活力を削ぎ、雇用の創出も阻害することになりかねません。保険料に依存した現在の社会保障制度を見直し、消費税の引き上げを含めた税負担割合の拡充による歳入改革を通じた財源確保により、現役だけでなく国民全体で制度を支える形へと改革していくことが必要ではないかと経団連では考えております。

第4は、「高いレベルの経済連携の促進」でございます。先程も申し述べましたが、震災後、わが国の事業環境は一段と厳しさを増しております。自動車産業やエレクトロニクス産業で激しい競争関係にある韓国をはじめ、その他の諸外国に対し、EPAの推進においてこれ以上後れをとることになれば、本来、日本国内に残るべき生産活動や研究開発の基盤までもが国外に流出し、産業の空洞化が起こり、雇用にも大きな影響が及びかねません。
経団連では、2020年までに、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を構築することを目標とし、その実現に向けてTPP(環太平洋経済連携協定)に早期に参加することを提案しております。合わせて、日中韓FTAの推進、ならびにASEANの10カ国に日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国を加えたASEANプラス6による経済連携協定の実現を求めております。
さらに、こうしたアジア太平洋地域での取組みに加え、先般、本交渉に向けた事前の協議が開始されましたEUとのEIA(経済統合協定)につきましても、早急に本交渉を開始することを求めております。
とりわけ、TPPは、21世紀型の新しいルール作りを目指すものであり、アジア太平洋を越え、グローバルな経済連携のルールに発展していく可能性がある大変重要な枠組みでございます。また、FTAAPの構築につながる経済連携協定のうち、TPPは唯一、既に具体的な交渉が始まっているものでもあります。
TPPの交渉参加国は、来月ハワイで開催されるAPEC首脳会議までの大枠合意を目指しております。交渉参加が遅れるほど、わが国の事情や主張を反映することが難しくなり、ルールが出来上がってからの参加となれば、合意された内容をそのまま受け入れざるを得なくなる恐れもあります。むしろ、できる限り早期に交渉に参加し、例えば、品目によって段階的な関税の削減や撤廃を認めるしくみなど、わが国にとって必要な条件を盛り込むよう、直接働きかけていくことが、望ましい戦略である、と私どもは考えております。政府におかれましては、TPPの推進に関し、正確な情報に基づく国民的理解を醸成していくとともに、この枠組から外れた場合のわが国経済や雇用に対する影響についても広く国民と認識を共有しながら、機を逸することなく、早期に交渉への参加を決断いただきたいと考えております。
また、EUとの経済連携に関しましては、今年の7月に韓国とEUのFTAが発効し、これにより、7月のEU向けの韓国の輸出額は、変動の激しい船舶を除けば、自動車を中心に前年同月比で15%増加しております。こうした状況を鑑みますと、EUとのEIAの本交渉開始はわが国にとりましてまさに待ったなしの重要課題であります。わが国経済界といたしましては、EU側が特に強い関心を持っている非関税措置の問題に関し、相互理解を深め、具体的な解決策を模索していくため、業界毎に民間同士の対話を推進するなど、本交渉開始の実現に向けた取組みを進めてまいりたいと考えております。

第5は、「労働市場の多様性をふまえた雇用政策の展開」でございます。現在、政府において、労働者派遣法の改正や有期労働契約、高齢者雇用の規制強化、最低賃金の大幅な引き上げなど、労働市場に係る規制の強化に向けた議論が進行しておりますが、過度の規制強化は、国内の事業環境を悪化させ、結果的に雇用の減少を招く恐れがあります。
生産年齢人口が減少するわが国に求められているのは、労働生産性を向上させるとともに、真に労働力を必要とする分野で十分な労働力を確保するために必要な施策を速やかに実行することであります。教育水準を引き上げて人的資本の質を高めることや、女性や高齢者、若者を加えた「全員参加型社会」の実現、また、エネルギーや環境、医療、介護、観光、そして農業など、今後成長が期待できる分野に十分に労働力を提供していくことが必要であります。こうした対策を実施していくことは、雇用の維持や拡大はもとより、企業の事業活動を活性化させ、新しい成長分野をさらに生み出していくためにも有効な取り組みである、と考えております。

さて、これまで、日本の「立地競争力」を強化していくための5つの取組みについて、述べさせていただきました。
次に、日本経済の復活と成長の加速の実現に向け、経済の牽引役である民間企業が取組むべきアクションにつきまして、4つの視点からお話申し上げたいと存じます。

6.企業が取組むべき課題

第1は、「イノベーションの加速」であります。イノベーションは、わが国企業の競争力の源泉であり、日本経済の成長の大きな原動力となってまいりました。世界トップレベルの技術、そしてそれを支える優れた人材という、日本企業ならではの強みに改めて目を向けますと、わが国が持続的な経済成長を実現していく上で、今後もイノベーションが最も重要なカギを握ることは間違いない、と私どもは考えております。
現在、経団連では、環境やエネルギー、ICT、医療、交通、農業などの分野における世界最先端の技術やノウハウを持ち寄って実証実験を行い、革新的なシステムやインフラを開発していく「未来都市モデルプロジェクト」を推進しております。このプロジェクトを中核に、技術革新による企業と産業の競争力強化に取組んでいくとともに、ここで得られた成果を、都市づくりとリンクさせながら国内外に広く展開し、わが国経済の活性化につなげていくことを目指してまいります。同時に、震災の被災地にも展開していくことで、震災復興に貢献していくこともできるのではないかと考えております。

第2は、「産業クラスターの形成による競争力の強化」でございます。経団連では、大都市や地方都市において産業クラスターを形成し、それに連動する形で都市機能の効率化や高度化に向けた取組みを推進することで、産業の振興と競争力の強化、ならびに地域経済の活性化につなげていくべきであると考えております。
また、成長戦略の中では、東北の復興を中長期的な成長に結びつけるという観点から、復興特区制度を活用し、東北地方の強みを活かした産業クラスターを構築し、被災地や近隣地域の産業振興に取り組むとともに、被災地に適した技術・サービスを開発・導入して、安全で快適な住環境を実現していくといった取組みも提案しております。

第3は、「観光・農業の振興を通じた地域の活性化」でございます。わが国経済の持続的な成長を実現するために、地域経済の活性化は必要不可欠であります。とりわけ観光産業と農業は、その地域の風土や文化に深く根ざした産業であるが故に、それらの本格的な振興を図ることによって、地域の魅力が引き出され、人が集まり、地域経済の活性化につながることが期待できます。
特に観光は地域経済の活性化に即効性があり、裾野が広く、雇用を生み出す力を有する産業であります。経団連といたしましても、企業の観光振興への取り組みを支えるとともに、シンポジウムや懇談会を開催して情報発信に力を入れ、観光客の誘致を支援していく考えであります。
農業につきましては、農商工連携の推進や農作物の輸出の促進、観光分野との連携といった取組みや、特区制度などの活用を通じて、企業や若者の農業への参画を促し、世界に誇る日本の農産物の高い品質をベースに、日本の農業を競争力のある、強い産業へと再構築していく必要があると考えております。

そして第4は、「成長するアジアとの一体化」でございます。わが国が持続的な成長を実現していくためには、ダイナミックな成長を続けるアジアの発展に貢献し、アジアとともに成長していくことが重要でございます。わが国企業としては、輸出に過度に依存するのではなく、アジアへの進出を積極的に進め、現地のニーズや市場の動向に即応した事業展開を進めていくことで、アジアの成長を取り込みながら、競争力の強化を進めていかなければなりません。経団連といたしましても、官民協力によるパッケージ型インフラの輸出や金融面でのサポートを政府に引き続き求めていくとともに、民間外交の担い手として、海外ミッションの派遣などを通じ、わが国とアジア各国との関係をさらに深めていきたいと考えております。

7.農業への期待と構造改革への取り組み

以上、わが国が成長を実現していくために必要な企業のアクションについて、4つの観点から簡単にご紹介いたしました。最後に、農業への期待につきましても、もう少しお話させていただきたいと思います。
農業は国民に食料を供給するとともに、地域経済を支える基幹産業としての役割を担っておりますが、農業従事者の高齢化や後継者不足などに伴って、わが国の農業は存続が危ぶまれる状況にあります。加えて、大震災により、東北地方の農業は大変大きな被害をこうむりました。思い切った改革を断行し、農業の競争力の強化と成長産業化を図っていくことが、被災地の復興を進めるためにも、また、わが国の地域経済を活性化させるためにも、急がれております。
具体的には、新規就農や企業の農業参入を促し、経営感覚あふれる多様な担い手を確保するとともに、経営の大規模化と生産性の向上を加速していくことが重要であります。北海道では、かねてより大規模な専業農家を核として、生産性向上の取り組みが進められており、わが国の食料供給基地として重要な役割を担っておられます。今後、北海道の農業がこうした強みを活かしてわが国農業の改革をリードするとともに、北海道の農業モデルが日本各地で活かされ、わが国の農業の競争力強化につながっていくことを期待しております。
また、農商工連携を推進して農産物や加工品の高付加価値化や販路の拡大などに取り組むととともに、高い品質を誇るわが国の農産物を世界に向けて輸出していくことも重要でございます。北海道では、「北海道フードコンプレックス」と称して、行政、経済界が中心となり、オール北海道で生産、加工、流通、販売まで関係者が連携を深めながら、北海道の食の国際競争力の強化に向けた先駆的な取り組みを進めておられます。農業の収益性を高め、農業の成長産業化につながる動きとして大変心強く感じている次第でございます。
8月に政府が取りまとめた「我が国の食と農林漁業の再生のための中間提言」では、農業の競争力・体質強化のための戦略として、農業の大規模化や高付加価値化など、経団連の考え方と同様の方向性が打ち出されております。今後、これらの戦略を実現するための具体的な施策を早期に実行し、日本の農業の潜在力を引き出していくことが重要であると存じます。
経団連におきましても、これまで、農業者と製造業、流通・販売業者らの連携を促進し、農業の付加価値を高めていくことを目指し、農業界との連携・協力の取り組みを進めてまいりました。農業改革の実現には様々な課題がございますが、農業界の改革努力に対して、経団連といたしましても、引き続き、できうる限りの協力をしてまいる所存でございます。
本日は、午前中に新篠津村にお邪魔し、大規模農業の現場を拝見するとともに、関係者の皆様のお話を伺いました。北海道の農業をリードしておられる皆様が、いかにして高い品質の農産品を生み出し、農産品の競争力の向上に努めておられるかを肌で感じることができました。
経団連が進めております「未来都市モデルプロジェクト」におきましても、GPSを活用した無人農機などの導入をはじめ、北海道の食のクラスターにおける「農商工連携」と同様の取り組みを進めておりますが、私どもも、それぞれの産業の知見やノウハウを融合させることによって、必ずや日本の農業を強い産業にしていくことができると考えております。

8.おわりに

政府は、年内を目途に、「新成長戦略」を拡充し、新たに「日本再生の戦略」をとりまとめることとしております。経団連といたしましては、本日ご紹介いたしました新しい成長戦略を中心とする、日本の復活・再生に向けた私どもの提言を、今後の政府・与党における議論のなかに反映させていくべく、精力的に働きかけを行ってまいる所存でございます。そして、引き続き、経済界の総力を結集して震災からの早期復興の実現に取組んでいくとともに、政府ならびに国民の皆様とともに、知恵を出し合い、汗を流して強靭な、活力あふれる、新しい日本を創り上げてまいりたいと考えております。
今後とも、皆様からのご理解とご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

以上

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